あの人
よろしくお願いします
10.あの人
この世界に来て5日目、今だに僕は沙羅と共に行動している。今は自分のレベルを上げるため、カフトの街から少し歩いた所にある洞窟でコウモリ型のモンスター〈ラックバット〉と戦っていた。このモンスターは倒したときに経験値が通常のモンスターよりも少し多く貰える。
「やぁっ!」
ヒュッ!という空気を切るような音を出し、沙羅が細剣の初期単発スキル〈フェンシン〉を叩き込む。なぜスワンストロークを使わないかと言うと、相手はコウモリ型の飛行タイプのモンスターのため、攻撃を当てるとすぐに飛んでしまうのだ。そのため、10回攻撃し終わるまで動けないスワンストロークはこのモンスターには向かないってわけだ。
「キョッッ!」
ラックバットが攻撃を受けたため、逃げるがその先には僕がいる。
「はぁっ!」
僕の左側に飛んできたラックバットを左足を軸にして右に勢い良く回り一回転し、バックカットをヒットさせる。倒したと思ったが、あと少し削り切れていない。チッと舌打ちした瞬間、キュウゥゥッという音と白銀の光が僕の目の前を通過する。沙羅がスワンストロークを使ったのだ。
「えぇー‥‥‥」
容赦なさすぎでしょこの人。通常攻撃でも余裕で倒せたよ‥‥‥まあいいけどさ。すると沙羅が嬉しそうな声をあげる。
「やった!さっきより綺麗に白鳥座ができた!」
確かに綺麗な白鳥座ができていた。
「沙羅、いくらこのゲームにSPが無いからって称号スキル連発しすぎだよ」
「だってー、綺麗じゃん」
「そういう問題か?」
苦笑しながら答える。
そう、ゲームの時とこの世界で変わったこと。それはSPが無くなったことだ。SPはスキルポイントで、ゲームではスキルを使う時はSPを消費して発動していた。しかし、この世界ではSPは存在しなかった。スキルを使ってなくなるものがSPから自分の精神力に変わったのだ。初期スキルはゲームでも消費SPが少なかったので僕は精神的疲労は感じなかったが、最初に沙羅はスワンストロークを連発していたので精神が限界を迎えた事があった。休憩や睡眠を取れば回復はするが、勿論〈精神〉という目に見えないものは人によって限界点が違う。自分で限界を見極めてスキルを使わないといけない。
「とにかく無理はするなよ?」
「大丈夫!なんか今日は調子がいーよ!」
「そっか、でも外が暗くなってきたみたいだ。カフトへ戻ろうか」
「時間経つの早いねー、今日の夜はなに食べるー?」
沙羅がんー、と背伸びしながら言う。
「山菜ドックでいいんじゃない?」
「えぇー!もう食べ飽きたよぉ」
「あれが1番安いんだよ。‥‥‥ま、今日くらいはどこかの店で食べるか」
「ケーキが食べたい!」
沙羅が目を輝かせて言う。
「カフトにケーキ屋は無いし、それ晩御飯にならないでしょ‥‥‥」
現在僕のレベルが8、沙羅は9だ。防具も僕は簡素な赤っぽい皮のジャケットに黒のレザーレギンスだ。沙羅は白鳥のマークが背中についているトップスに、灰色のショートパンツを履いている。二人とも防御より回避に力を入れている。
カフト周辺のモンスターのレベルは大体4から6、1番強くても7だ。大体自分と一緒くらいのレベルの相手がちょうど良いとされている。安全マージンは自分のレベル引く2のレベルの相手だ。
やっとのことでカフトへ戻った僕と沙羅はレストランを探す。その時、何か人だかりができていた。その中心から怒鳴り声が聞こえる。
「いいから本当のコト言えっつってんだろぉが!」
見るからにヤンキーじみた金髪の人が怒鳴り散らしている。その目の先には女子がいる。透き通るような黒髪に無表情な顔は相変わらずだった。
「霧崎‥‥‥」
そう、そこにいたのは霧崎咲子だった。