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ちょっと短めです。

 二人はベッドから抜け出し、交代でシャワーを浴びた。

その後、居間のソファーに座り、お茶を片手に談笑をしている。

「ただいま。」

 太陽が沈み始めようとする時刻、行が帰宅。

「おかえりなさい。お邪魔しています。」

「彩美、やっぱり、来ていたんだ。力を使ったみたいだけれど、大丈夫か?」

「うん。力と翼だけが先に戻ってきたの。でも、今は記憶も取り戻せた。」

「よかったな。」

「ありがとう。心配をかけて、ごめんね。」

 行もソファーに座る。

「何処に行ってきたんだ?」

 新が笑いを堪えながら、行を見つめた。

「ボーリングとビリヤードだよ。まぁ、どちらも圧勝だったけれど、な。」

 行は不思議そうに新を見ながら、話をする。

「もうダメだ。」

 新が声を出し、笑い出した。

「どうしたんだ?俺、何かヘンな事を言ったか?」

 行は瞬きを繰り返しながら、呆然と新を見つめる。それから彩美に視線を向けた。

「行は何もヘンじゃなかったわよ。新がヘンなのよ。きっと箸が転がっても面白い年頃なんでしょう。」

 彩美が呆れたように微笑んだ。少しだけ頬が赤い。

「さて、私、帰るね。」

「えっ、帰るのか?」

「そんな顔をしないで。明日、また遊びに来るわ。明日は三人で遊ぼうね。」

「大丈夫か?」

「大丈夫よ。かずちゃんは、私には優しいのよ。何も心配はいらないわ。」

「でも…。」

「いざとなったら、力を使うから大丈夫よ。そうしたら、新達が助けてくれるでしょう?」

「わかった。送っていくよ。」

「未だ明るいからいいわ。少し考え事をしながら帰りたいの。それに、洗濯物が冷えちゃうわよ。夕食の準備もしていないでしょう。」

「気を付けて。」

「じゃあ、明日。十時半頃、来るわ。起きていてね。」

 玄関で見送られ、一人で部屋を出た。

朝とは雲泥の差で気分は明るかった。景色が晴れ渡って見え、自然に足取りが軽くなる。家が見えてくると、門の所で落ち着かない様子で歩き回っている、一仁がいた。

「ただいま。」

 彩美は、一仁に笑顔を向けた。

「おかえり。」

 一仁の笑顔は少し引き攣っている。

「彩美、今朝はごめん。」

「もう気にしていないわ。でも、あんな事をしないでね。」

「わかっている。彩美、何か遭ったのか?」

「全てを思い出したの。」

「思い出したのか?」

「うん。もう、新と離れる事は出来ない。」

「そうか。」

 一仁は、噛み締めるように頷いた。

「また戦いを繰り返すようだな。」

「かずちゃん!」

「仕方がないだろう。彩美が、七海を選ぼうとするから、さ。」

「どうして?かずちゃんなら、もっと素敵な女性と恋愛が出来るはずだわ。」

「出来る事なら、しているよ。俺の気持ちもそんな簡単じゃないんだ。彩美と同じだよ。」

「……。」

 彩美は少し俯いて、下唇を噛み締めた後、顔を上げ、一仁を睨み付けた。

「おじさんやおばさんに迷惑がかかるかもしれない。もしかしたら、失ってしまうかもしれないのよ。それでもいいの?」

「脅しているつもりか?彩美と一緒にいるためなら、それも仕方と思っているよ。」

「かずちゃん…。」

 彩美が諦めたように溜息を漏らす。

「私達の間に、マザーに言い渡された結婚以外の関係があったのかしら?少しの時間だけ一緒にいただけよね?クラスだって、一緒になった事もないし、どうして、そんなに私を想ってくれるの?」

「そうだな。一緒にいた時間は、短かった。どうしてだろうな?」

 口元にだけ笑みを浮かべた。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。夕食だよ。」

 一紗が二人の間にあった、重たい空気を取り払うように現れる。

「わかった。今、行くよ。」

 一仁が一紗に笑みを浮かべる。

「行こう、彩美。」

 今までの会話が嘘のような笑顔。彩美は戸惑いながら、一仁の背中に着いていった。

夕食を済ませ、部屋に戻る。食卓で一仁は、何もなかったような笑顔を見せていた。

「どうしたら、新と一緒にいられるの?かずちゃんは、わかってくれるの?」

 机に向かい、ぼんやり呟いた。思い立つように席を立ち、一仁の部屋のドアをノックすると、すぐに返事が返ってくる。

「私、彩美。入ってもいい?」

「どうぞ。」

 一仁の部屋は、綺麗に整頓されていて、几帳面な性格が伺える。机の前の椅子を回転させ、彩美を見つめた。

「どうした?」

「お願いがあるの。」

「何だ?」

「高校を卒業するまで、戦いを待って欲しいの。猶予をください。」

「気持ちの整理をする時間だと考えれば良いか?それなら、いいよ。」

「ありがとう。」

 彩美は肩の力を抜いて、少しだけ微笑んだ。

「あと、考えたんだ。俺がどうして、彩美に拘るのか。」

「何?」

「俺の両親は、仲が悪かった。マザーに決められたのに、さ。だから、俺は結婚相手と仲良くしようと決めていた。それで彩美と出会った。この子となら、上手くやれると思ったのに、彩美は七海を選んだ。ショックだった。マザーにも裏切られた気がした。でも、彩美を追いかけているうちに、気が付いたんだ。俺は、彩美自身を好きになっていた。初めて会った時の哀しそうな笑顔に惹かれていた。それだけの理由だよ。」

「かずちゃん。…ごめんなさい。」

「悪いと感じているのなら、俺を好きになれよ。必ず、幸せにしてやる。」

「ごめんなさい。私、新と離れたら幸せになんてなれない。記憶を取り戻して、嫌と言う程感じたの。」

「彩美の事なんて、忘れられれば、ラクになれるのに、な。」

 彩美は俯いて、下唇を噛み締めた。

「彩美との約束だから、高校を卒業するまで待つよ。でも、ヘンな事を考えるなよ。」

「わかっている。ごめんね。」

 彩美は、一仁の部屋を出て、大きな溜息を漏らした。気持ちは、もう固まっていた。


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