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黄泉の雫  作者: 深海臨
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プロローグ

現実の世界とは退屈なものだ。


時に人は自分では信じられないという体験をする事がある。

ではなぜ信じられないのだろう。それは現実世界とは少しかけ離れた体験をするからだ。日常的な暮らしの連続の中で、非日常的な体験をしたと認識するからである。しかしそれは信じられない出来事でも不思議な出来事でも何事でも無い。全ての物事は超自然的に発生する。起こるべくして起こるのである。

普段はアルバイトでこのボロアパートの家賃を支払いギリギリで生計を立てている。

今日は休日なのでこの今にも崩れそうなボロいアパートの一室でごろごろ横になっていた。気付けば締め切ったカーテンの隙間から太陽の光が入っているから今はもう正午あたりだろう。私の休日はいつもこうだ。特に何をするでもなく、時折訪ねてくる友人と会話をし、夕食を食べ、寝て、朝になればアルバイトに出掛ける。何の変哲もない、変わり映えのない一定の毎日なのだ。

そろそろ例のあの事を実行に移すか。

そんな事を考えていると

「ガチャッ」

っと玄関の扉が開いた。私は瞬間たじろいだが、すぐに呆れ顔になって…

「何だ、お前か」

私が呆れ顔になった男は名を敏也と言い、3ヶ月程前にコンビニで万引きをしていた所、私が背後から店員のフリをして声を掛けたらヘラヘラ笑いながらあれやこれやと言い訳をしはじめ、挙げ句の果てに私が店員ではない事を察すると、今度は手伝えなどと言ってくるような無作法者である。そして会話をしていると、何となく意気投合して…無礼な友人が出来てしまったのである。「やあ透!君は相変わらずごろごろばかりしているね。そんなんだからこんなボロアパートにしか住めないんだぜ!」

相変わらず煩い奴だ。

こいつはいつもこの調子で家へ足を踏み入れてくる。

「言葉を返すようだが、君の家の方が危ないよ。あそこは早く脱出した方がいいね。それに人の家に上がる時は"お邪魔します"の一言は言うべきではないかね?君は相変わらずの無礼者だな。基本的な教育が欠けてるよ。否、これは常識とも言うし最低限のルールとも言うがね」

私はいつものように当たり前の事を言って…否、教えてやった。

「世間じゃそう言うのかもしれないがな、残念ながら友人との間には礼儀などいらないのさ!だからこそ気の使わない親しい間…つまり友と呼べるのじゃないか!」


「世間じゃ"親しき仲にも礼儀あり"…と言うがな」

「そうかい!親しき仲にも礼儀ありって言うんだな?じゃあこんな薄暗い陰気な部屋で茶の1つも出さないで未だにごろごろと寝転がって僕を部屋に招き入れた君こそ無礼じゃないか!?」

残念乍ら招き入れた覚えは無い。

そう言うと"はっ!"などといいながら私の代わりにカーテンを全開にした。

急にけたたましく差し込んできた光に目を細めながら辺りを見渡し、この部屋は実は明るかったんだな、などと妙に感心した。

暗い部屋に希望の光が差し込み明るく照らし出されたように、また、私の心の絶望していた部分も幾分照らされたような気がした。

それは、天から降り注ぐ暖かい光のせいでは無く、この男、敏也が運んできてくれたのではないかと思った。

敏也とは一見くだらないような馬鹿馬鹿しい話しばかりしているように見えるが、この交わす言葉に友情の受け渡しをしてるんだな、と思う時がある。しかし私の心にはまだ陰りが残っている。それが一体何故残るのか、何故消えぬのか。私には解らないし、理解しようとも思わぬ。人が人らしく生きていても、やはり皆それぞれがそれぞれに心に影を持ってるだろうし、それを気に止む人間など存在しない。だから私も少しだけ心をくゆらして、幾度も庇いながら生きてきた。

私は敏也に友と呼ばれた事に若干嬉しく思いながら尋ねた。

「ところで敏也。君はいつも特に理由も無く、馬鹿話しをするために人の家に上がり込むのかね?」 私は実際に思った事を言った。何故ならいつもは単純な変化しか表さない彼の表情に一瞬曇りりを察したからだ。

「いやー透君!君もなかなか目聡い人間だね!実は僕はね、今大変重大な悩み事を抱えているんだよ!まあ悩み事一つ無い天真爛漫な君には理解出来ないだろうがな!」

実際敏也が悩むなど珍しいものである。

「残念だが天真爛漫とは君の事だよ。それに僕にだって悩みの一つや2つはあるさ」

「はっ!君に悩みなんぞがあったとはな!そりゃ奇遇だ!僕も今悩んでいてね、君の単純な悩みよりとても重大な事さ!」

今度は悩みについて討論になっても困るのでこの馬鹿な友人の悩みを聞いてやる事にした。

「時に敏也君。人は何故悩むか解るかい?」

「解るか!何故悩むかなんてわかってたら悩みなんてこの世に存在しない!」

若干的外れな回答だと思ったがかまわず続けた。

「人が生涯何回悩むかなんで僕は知らないがね、一万回悩む人もいれば10回しか悩まない人もいるんだよ。では何故それ程までに落差が生じるかと言うと…やはり興味や好みの問題に目を向ける必要があるね。それこそ興味や好みは千差万別、十人十色でまるで違って来るんだよ。つまり1つの物事や一定の物事にしか興味を示さない人や様々な物事に興味をもっている人と分別出来る。するとやはり好奇心旺盛な人こそが悩みを多く抱えてる人と言えるね。悩みなんて結局は小さなものでも自分の中で肥大化させてしまった結果、大きな悩みに転換されるだけなんだよ。やはり一番の解決法としては初期の小さな悩みとして捉えられる第三者に相談する方法もあるという事だね」

「はっ!いつも思うがね!透、君の話しはいまいち要領を得ないなー!つまりどういう事なんだ?」「つまりだ、僕のこの広い心で悩みを聞いてやろうじゃないかという事さ」

私がそう言うと敏也は一瞬怪訝そうな顔をしたが、

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