ラーメン戦国伝
「激動のラーメン戦国時代を生き抜くために、次世代ラーメンの姿はどうあるべきなのかしら? 『特急』と『ラーメン』? いえ『フルーツ』と『ラーメン』というのはどうかしら?」
年の瀬の夜だ。聖痕十文字学園中等部二年、炎浄院エナが自宅の門前のベンチで一人。
来年のラーメンコンサルティング方針について一心不乱に思案していると、
「うわーだめだ! もうバスが無い!」
聞こえてきた悲鳴に、ふと我に返って顔を上げれば、目の前に立っていたのはクラスメートの時城コータ。
バス停の時刻表を眺めて頭を抱えている。
「コータ君、なんでこんな処に?」
家は逆方向のはずなのに。
そう言えば今日は、クラスのアホ男子どもがつるんで、聖ヶ丘公園で『忘年会』とか言ってたっけ。だが……
くんくん。エナの鼻がコータの体を嗅ぐ。
「お酒くさい! あなたたち、お酒を飲んでたわね!」
風紀委員のエナの怒号に、
「やばい!」
コータの顔が蒼ざめる。
そういえばこのバス停は『炎浄院前』。四角四面な風紀委員と鉢合わせになる事も十分予想できたのに……
「エナ様! この事はどうか、学校には内密に!」
そう土下座して彼女に頼みこむコータに、
「うーん、見逃さないでもないけど……」
エナが、何か『いい事』を思いついた、といった顔でニタリと笑った。
「もうバス、ないんでしょ。今日はウチに泊っていきなよ。明日、朝から『試食』してもらいたいメニューがあるの……」
そう言って、ぺたりとコータの手をとるエナに、
「うぐぐぐぐぅ……!」
彼の顔が恐怖に歪んだ。
この女が『JCラーメンコンサルタント』なる謎の肩書を名乗って級友にふるまう、凶悪に不味い実験ラーメンの恐ろしさは、コータもよく知っていたのだ。
「嫌なんて言わないわよねぇ? さ、ハナマサまで買い出しに付き合って! 色々と『アイデア』が湧いてきた!」
張り切ってベンチから飛び跳ねるエナ。
オレンジラーメン、パインラーメン、イチゴラーメン、スイカラーメン……
エナの脳裏には、明日コータにふるまう、素晴らしい次世代ラーメンアイデアの数々が飛来していた。




