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前へならえ  作者: 捨石
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佐々木京子の場合 1

高校生活におけるワンシーンを切り出して書いています。


「それじゃあ昨日言ってた小テスト配るぞー」

 数学教師の竹内の一言で教室にいるみんながうんざりといった声を漏らす。

竹内は静かにしろー、と言いながらきびきびと前に座っている生徒にプリントを配っていく。

 私の席は窓際の一番後ろ。窓に背を向けるようにして教室を眺めれば全体がなんとなく分かる。

予習をしていたのか自信ありげな顔をしている人、やべーやべーと言いながら周りの席と騒いでいる人、そして。

「なぁ佐々木、お前勉強してきた?」

 よく通る、はきはきとした声の主、住田尚人は上半身をひねって私に声をかけてきた。

 スポーツ刈りをした頭にすっきりとした目鼻立ちをした好青年で、爽やかというイメージがぴったりだ。

「ぜんぜん、さっぱり」

 私は大げさにまいったのポーズをしてから住田の持っているプリントを受け取った。

「お前数学できないんだから少しは対策しとけよ」

「本当にピンチになったらアンタが教えてくれるでしょ」

「その代わりお前は英語な。俺、英語だけは無理」

 そこさっさと始めろー、と竹内に厳しめの口調で注意されたので、住田は肩をすくめながらぱっと席に向き直り問題に取りかかった。

 私も始めますか、と心の中でつぶやきながらシャープペンをくるくると回しながら問題用紙を眺める。が、すぐに諦めて顔を上げる。当然のことながら、そこには住田の背中がある。

 サッカー部でキーパーをしている住田は背が高く、二年の中でまとめ役をするくらい人望が厚い人物だ。三年が引退する夏の大会の後には、きっとキャプテンを継ぐのは住田だろう、とサッカー部のみんなは口をそろえて言っている。

その理由はサッカーの実力もさることながら、誰にでも打ち解けられる社交力が何よりの要因だろう。現に、私以外の女子でも他の部活や他のクラス、この前なんかは副会長と話をしていたのを見かけたこともある。

 本当、すばらしいお人柄で。うらやましくもあり、少し嫉妬してしまう。

 今が数学の小テスト中だというのに私はそっちのけでため息をついた。どうせ解ける問題などほとんどないのだ。

それならそれを口実に彼に勉強を教えてもらう方がずっと効率的だし、都合がいい。

「……終わり! よーし、後ろから前にまわせー」

 竹内が腕時計を見ながら終了の合図を告げた。今回も竹内に小言を言われてしまうが、次の機会に何とか挽回すれば成績には響かないだろう。多分。

「うわ、お前まっしろじゃん」

「ちょっと、見るんじゃない」

 住田が私の解答用紙を見てまるで自分のことのように驚いた。

「本当ムリムリ、お手上げだわ」

「いや、お前危機感なさすぎだろ」

 さっきと同じポーズをしておどけてみせるが、住田は呆れた顔で私をまじまじと見た。

「……どっから手ぇつけていいか分からないからさ」

 さりげなく視線をそらしてうつむく。毎度これを頼むには心の底から勇気がいる。普段ばかげた会話ならするすると出てくるというのに。

「また、教えてよ。放課後にでも」

 ごまかすように大げさに口の端を持ち上げて笑いながら、私は言った。

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