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Ⅵ 陸上特殊車両運用兵士&メカニック、パンツァー・カウフワーゲンの場合

冷たく 熱い

儚く 重い

鉄の塊とはなんだろう


 パンツァー・カウフワーゲン。その名をずばり叶えるように、彼女は鋼の鎧を保有する。

 水陸両用という高い汎用性を持ち、且つ地対空戦であっても劣らぬ重火器を積載。多脚型の足まわりを採用したそれは、従来の同系機より圧倒的に自由な機動を可能とする。

 走り、飛び跳ね、ホバーリングで浮きながらアメンボの様に滑る事も可能とした。次世代型最新式戦略車両兵器。

 名を、ブリュンヒルト(失墜の戦乙女)。敵を殲滅して戦況を左右するが、しかし仲間の命を連れて行かぬ鋼の女神。

 ヴァルキリーの中でも、最高位に近い反逆の長女たる女神の名を敢えて冠し。振り向くような軽い動作で、ブリュンヒルトは主砲塔を旋回させた。

 全長二〇メートル。全幅七メートル。全高は五メートルにして、六足の多脚式駆動で立ち上がれば最高が九メートル弱にまでなる。

 バケモノ級の大きさを誇る身体を、しかし彼女は物ともしない。

 敵機一六〇ミリ主砲を、身を低くすることで避ける。同時に、自らの主砲が仕返しの放電を行った。

 ブリュンヒルトが主砲に戴くのは、長さ五メートル、幅二メートル、厚さ一・五メートルの重厚な鉄板。先端に長方形のスリットがあり、放電音と共に鋼の弾丸が射出される。

 レールガンだ。

 一瞬で音速をぶち破る砲は、低空で発射すれば余波で地面を抉り。更には破砕の音すら貫徹の音に遅れてやってきた。


『パンツァー君、首尾はどうかね?』


 不意に、ブリュンヒルトの通信機から声が響く。声音は男の物で、自分のよく知る隊長のものだ。

 故に、パンツァーは「дaダー」と答えてから言葉を紡ぐ。


「重力制御ユニット正常に作動中。自重制御と防御壁、同時展開しても出力安定。余剰容量は十分。冷却装置グリーン。最高の機体に仕上がりました」

『なるほど、それは素晴らしい。ブリュンヒルトを制作依頼した開発チームには、後ほど色を付けた費用を支払っておかねばね』


 くっくっと喉を鳴らして笑う隊長の声に、やはり「дa」と応える。応えながら、左へ跳んで複数の砲撃をかわしていく。

 敵の総数はわからないが。相手が第一八一機甲兵団と言うことと、彼らの有する固有兵器の名が『エロヒム(天空より飛来した人々)』である事は知っている。

 車両乗りの中では有名な話だ。親機が一つだけ存在し、それ以外の子機が大量に存在する無人型戦略車両兵器。

 一機ずつの戦力は微々たる物。しかし、唯一の有人機である親機を破壊しない限りは万群の全自動式子機たちが恐怖の感情もなく命令に従って押し寄せる仕様で。文字通り数で圧して全てを飲み込む、とても強引だが最高に下品で有効な戦術をとってくる機甲兵団だ。

 二〇〇メートル向こう、立ち上がった四機の敵影へ主砲を連射する。貫徹の音と爆圧が、四つ殆ど同時に大気を揺らす。が、更に左右へ五機ずつの敵影が立ち上がった。

 主砲は一門。一〇機を砕くのは易いが、両側となると難しい。故に主砲は左へ振って五機を連続射撃、残りの右へは副砲で対応する事を判断した。

 副砲は、車両後部に装備された光学兵器。虫眼鏡で太陽光を集め、紙を燃やすのと同じ原理のレーザーが発射できる砲塔が二門ある。

 本来、地対空砲火のレーザー砲二門は地面に対して垂直に装備されているが。


(いけます)


 車両の両側。ミサイルポッドの様な鉄の箱が一つずつ配置されている。

 それらは、それぞれが重力制御を司る機械装置の塊。重いブリュンヒルトに自在な機動を許し、ドーム状に重力の膜を展開することで絶対の防御壁とする機能。

 重力の防御壁は、並の実弾兵器を停止させ光学兵器をも屈折させる。その副次的効果として、自らが直上へ放つ地対空レーザーを屈折させた。

 六連射。浅く物が蒸発する音を響かせて、光学兵器が五つの敵機を穿つ。細い閃光は機器を焼き切り、爆破もなしに戦闘不能へと追い込み。


(いけます!!)


 二度目の同じ思いを内心で叫んだ。果たして、パンツァーの意志を反映したブリュンヒルトが高速で駆け抜けていく。

 ホバーリングと重力制御で身を浮かし、脚を使って軽く地面を蹴りながら前進する。地面の数センチ上を滑るような機動は、アメンボが水面を滑る姿を彷彿とさせた。

 主砲を四方に連射し、その反動も何かもを利用して速度を上げ。そして、通信機が言う言葉に耳を傾ける。

 声は小さな息を吐き、初めにすまないねと言った。


『パンツァー君、君一人を派遣したのは私の判断ミスだったよ。今、航空戦力と私が向かっているからね。もう少しだけ、持ちこたえて欲しい』

「дa.私は大丈夫です、隊長。貴方に拾われて以来。我が鋼の身は貴方の為に。我が鋼の思いは貴方の物に。しかし、我が鋼の心だけは自らの意志で貴方を想い。しかる時には、この身を鉄屑へと変える所存です」


 唄う言葉で踊るように、パンツァーは身を振り、穿ち、粉砕し、そして進む。進んでいく。

 心に想うのは、真っ白なリノリウムの檻で過ごしていた過去の事。中央に台座がおかれ、そこに鎮座していた自分を思い出す。



 私は電子人工知能だ。それも軍事用に開発された、完全無人兵器運用型の。兵器に『私』を組み込むだけで、本来ならその兵器は勝手に学習して敵影を殲滅する。

 その為だけに、そうあるために開発されたプログラムの塊だ。

 実に便利な物となるはずで、しかし『私』はシステムを突き詰め過ぎた結果として生まれた不良品だった。

 戦闘用OSでありながら『恐怖』という、機械に在らざる感情も持った失敗作。

 自らの武力に恐怖し、外界へ恐怖し。内側へと引き籠って安らぎを求めた。暗闇に浸かる事で何もない世界を手に入れ、孤独という代償を支払うことで安全を買い取った。

 だが。それでも、心の中で求めていたことがある。心を得てしまったからこそ、私はそれが欲しかった。

 その日のことを、私は忘れもしない。


「見たまえ。恐怖する機械とは、博覧会にでも出せばノーベル賞物ではないかね?」

「あらあら、ホントこの人はデリカシーとか何処へ忘れてきたのかしら? こんなに躾のなってない獣を外界に放ったの誰よ」

「一応、君なんだがね? まあ、発言の不備はこの際置いておくとしてだ。恐怖する人工知能だよ? 私は非常に心惹かれるね」

「責任の棚上げに、子供のような物欲。ホント、私って色々間違えたかもしれないわね」


 男女の声を聞き、データとしてドライブへ納められた自分に有るはずのない目を開く。

 部屋の四隅にある監視カメラと視覚プログラムをリンクして、声の原因を注視する。果たして目の前には二人の男女が肩を並べて立っており、男の方は手をこちらへと差し出していた。

 背後のストレッチャー。その上に横たわる精巧な人型を一瞥して、男は部屋の中央に安置された私へと視線を戻す。


「勝手ながら、人型アンドロイドの身体を用意させてもらった。気に入ってもらえれば何よりだがね。そして、私は『君』という存在を欲している。故に恐怖するシステムへ、私が安らぎの命令を下そう。恐れも含めた全ての意志を、私に譲渡したまえ」

「ホント、莫迦ねあなた。とっても愛おしくなるほど。そんな言葉で安心させられるんなら苦労しないわよ? 考えて喋ってる? 莫迦なの? 死ぬの?」

「君はどっちの味方かね」


 なんと自分勝手な人間だろう。なんて無茶を言う人間だろう。なんて常識のない二人だろう。

 そう思いながら、私は男の手をとった。そう想いながら、私は男に身を任せた。

 機械の体で、体温を感じられるはずもないが。馴染んでいない体で、ぎこちなく動かした手を取られた暖かさを覚えている。どこまでも心地いい、温度ではない熱で処理数値が緩やかな上昇傾向へと向かう。

 悪くない。むしろ嬉しいとさえ思う気持ちで、感情のプログラムが満たされていく感覚だ。

 今、目の前で立ち上がる敵へ恐怖は感じない。むしろ、感じるはずがなかった。

 意志の全ては、恐怖も含めて隊長が持っている。何も怯えることなく、誓いと意志と思いだけを抱いて叫ぶ。


「дa! 恐怖はありません!!」


 わざわざ外部音声マイクを使って、機械が吼えた。

 同時に、正面で四〇近い敵影が立ち上がる。追加で両側に二〇ずつ、後方からの挟撃が更に五〇。不味いだろうか? と恐怖の思いが頭を持ち上げそうになる。しかし敵の砲撃を重力制御でねじ曲げて別方向の敵勢力に叩き込みつつ、パンツァーは息を吸った。

 吐息の様な排熱が、一瞬で大量の水蒸気を生む。少しでも身を隠して、ロックマーカーを引き剥がしながら考える。

 今はまだ、この身を鉄屑に変えるような場所ではない。この場は、なんとしても乗りきらなくてはいけない場面だ。

 戦術を組み立て、切り崩すシミュレートをしながら動く。重力を操作し、防御機能の分も一時的に利用して足元に集めた。

 跳ぶ。反転重力を踏み台にして、多脚式駆動の間接を軋ませながら空高くへ跳び上がる。

 落下までの時間は長くない。防御を戻す時間すらも惜しいと、足を延ばして風を受け止め姿勢を制御する。

 上空七〇メートル。落下までに一分とかかるまい。

 着地は可能だ。再び重力場を集中させ、緩衝材の代わりにするだけで大丈夫だろう。

 問題は、着地までに敵を全滅できなければ負けるというところだ。着地の慣性を殺す為に停止すれば、全方位から攻撃が来る。

 今の火力で全てを倒すことは可能なのか、演算しようとして止めた。

 やらねばならないのだ。

 なぜなら。


「隊長以外の人間に、最早預けられる思いがあるわけもない!!」

「ほう。それは愛の告白かねパンツァー君」


 レールガンと地対空レーザーの連射を敢行しようとしたパンツァーは見る。

 眼下。そこに展開していた敵影が、自分の位置よりも更に上空から降り注いだ砲撃で蒸発した事実を。

それは塊だった。実際の着弾点から、五メートルほど離れた場所すら焼き尽くす熱量の塊だった。

 先ほどまでパンツァーがいた場所を抉り、しかし満足することなく蹂躙の範囲を押し広げていく。そこに展開していた敵機群、推定一一〇以上の数を飲み込んで融かしつくしたのだ。

 着地した大地は、溶けて硝子のようになっている。本来の原型を忘れた鉄が、ねじ曲がってよくわからない物に成り下がった風景は圧倒的だ。

 こんなことが出来る人物を、パンツァーは一人しか知らない。

 重力のクッションで着地すると、硝子質の地面が割れて渇いた音を連続させる。

 そこに一つの着地音が追加された。重量感を含んだ音が、硝子を踏みつけて鈍い音を鳴らす。背中に機翼を背負い、身の丈二倍程はある巨大な砲を肩に乗せ、風防も兼ねたヘッドギアの人影だ。

 可視化されたシールドの向こう、そこに優しげな表情がある。第一一〇小隊隊長、七海八雲の笑顔が。


「遅れたかねパンツァー君」

「Heт(ニェート)。むしろ、速かったと判断できます」


 そうかね。と静かに答える八雲は、鎧のような専用戦闘機動補助スーツを鳴らして歩く。加速器から吐き出される陽炎を沈静化させ、展開していた機翼を収納しつつブリュンヒルトの装甲へ触れ。


「よく無事だったね、流石はパンツァー君だ」


 機械の身には温もりなどわからない。まして、今のパンツァーはブリュンヒルトという鎧の奥深くに納められている。

 だが、声として。意志として。八雲の心が染み込んでくるような錯覚があった。

 きっと、これがあの時の熱なのだろう。触れてもわからないはずの温もりを、直接心に流し込まれたときに感じられる暖かな体温。例え作り物だったとしても、それがハードの奥深くへ刻まれた感情を振るわせてくれる。


「君の思いは、今でもしっかりと私が預かっているよ」

「дa.ありがとうございます」


嬉しいのだ。問われれば即答で『дa.』と言えるほどに、私は今とても嬉しいのだ。

 では行こうかと呟かれる声に応え、パンツァーは重力制御で八雲の身を上部装甲へと運ぶ。戦場である事は理解しているが、出来るだけ優しく包み込むようにして丁寧に体を持ち上げた。

 座らせ、重力制御の一部を割いて固定し、その上で思う。

 行こうと。この人と共に、私の思いを預けた人と共に、さあ行こうと思う。

 パンツァーの意志を反映して、ブリュンヒルトが戦場を駆け出した。頭上を突っ切る試作航空機と並走するほどの高速起動で、機械の体を軽やかに舞いはじめる。

 視界の景色が線になりつつある中、装甲上の八雲は重力制御の恩恵で物につかまる必要もないまま笑う。

 楽しそうでなによりだねと、漏れた声は一瞬で置き去りにされた。












隊長&オールマイティ

七海八雲(ななみ やくも)

 変態 愉快な男 お父さん

階級、大佐


現・副隊長

九条晶(くじょう あき)

 回し蹴り系男勝り少女 九条家令嬢

階級、少佐


元・副隊長

???

 お母さん 鋼の翼

階級、?


フォワード1

坂本アヤカ(さかもと あやか)

 迎撃キック 接近戦最強 義足 最初の娘

階級、伍長


通信士

真衣・プロセッサ(まい‐)

 電脳幼女 指折りの『エリート』 腹黒

階級、軍曹


衛生兵・補佐

瞑愛琳めい あいりん

天才 中国三千年の末裔 マッドサイエンティスト系衛生補助兵

階級、上等兵


フォワード2

御門撫子みかど なでしこ

長女 般若 折檻 和風薙刀娘

階級、伍長


陸上特殊車両運用兵士&メカニック

パンツァー・カウフワーゲン

 メカニック兼用 ロボ娘

階級、少尉


航空特殊機体運用兵士&メカニック

???


後方支援1

???


後方支援2

???


衛生兵長

飯塚ナツキ(いいづか なつき)

 三つ編みの常識人 晶の同期

階級、曹長




・個人武装、機甲殻薙刀『岩融いわとおし

……命名は武蔵坊弁慶の所有した大薙刀より拝借。通常時はただの薙刀と変わらない。機甲性能は振動。超過振動により、どんな物をも切断する事が可能。一度発動すると停止不能で、有効時間は五分間。


・陸上特殊車両『ブリュンヒルト』

……六本の脚を持つ戦車。重力制御機構を搭載し、自重を軽くした上でのホバーリング併用により高速移動を可能とする。

 また、重力制御機構を応用して、ドーム状の重力シールドを張る事が可能。物理系には停止、光学系には屈折で対応できる。

 主砲は長さ五メートル、幅二メートル、厚さ一・五メートルのレールガン。副砲として地対空レーザー砲を二門装備、地上と垂直になるよう設置されている。

 全長二〇メートル。全幅七メートル。全高は五メートルの化け物戦車。コックピットは、分厚い装甲の奥の奥。そこにある搭乗席は人型になっており、パンツァー・カウフワーゲンの体格に合わせて作られている。乗り込む際はそこへ体をはめ込み、自身ごとブリュンヒルトのパーツとして扱う。




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