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ⅩⅣ 五指の後衛、マッドジャックの場合(前篇)

何ができるのかと考えていた

答えは出なかったが

代わりに見つけたものはある




 次世代型多脚式戦闘装甲車両の設計と量産ラインの確立計画。

 プラン・ヴァルキリー。

 ブリュンヒルデを含めた六機の多脚式戦闘装甲車両を試作し、量産して新たな機甲部隊を設立する予定だったらしい。

 中二病全開じゃないかねと笑っていた隊長に、да.と答えられなかったのは自分のことだからだろうか。パンツァーとしては迷惑な計画だ。


「しかし、この計画は私が持ち去られたことで中止になったはず。試作型一番機のブリュンヒルトを隊長はどこかの開発チームに委ねたようですが。それ以外のシリーズを完成させていたとでも?」


 圧倒的に手元の情報が不足している現状では、その理由すらもわからない。

 おそらく、隊長は何か知っているのだろう。七海八雲というのはそういう人間だ。

 必要ないと判断されたのか、あるいは別の思惑があるのか。どちらにせよ、聞いて教えてくれるとも思えない。


「да.お初にお目にかかりますお姉さま。我らの制作者、阿呆・ジャックは別件で忙しいため、我ら四人を相手にしていただきます」

『わあお、俺なんかけなされるー』


 割り込んできた通信は完全に無視した。相手も同じように対応しているので問題はないだろう。

 視界に入っている敵勢反応は四機。

 同一規格の形状ではなく、それぞれがワンオフの機体らしい。

 一機は二足歩行式の車両だった。全高三メートルほどの小柄な見た目だが、背面に取りつけられた加速器と脚部のホイールが気になる。主要武装は両脇から伸びている一対の板だろうが。


(どう使うのかは不明ですね……)


 その左に立つ一機は、足の短い三足歩行式だ。縦に長いボディに前足が一本と後足が二本という姿は、まるで三輪車を彷彿とさせる。三足にはそれぞれキャタピラを採用しているらしく、高速の移動を苦手とする構造だ。しかし、代わりに得た安定感は搭載された大型の長距離砲を運用するのに必要なのだろう。

 更に隣の一機はそもそも足が見当たらない仕様になっていた。目立った武装が見当たらず、背中にはアンテナモジュールと補給キットが見て取れる。支援に特化した性能なのはわかるが、機動力があるようにも見えない。


(指揮車両? どうのように運用を……Нет.むしろ、一番警戒すべきは最後の一機でしょうか。なんですかアレは。また隊長に中二病と言われそうな……)


 真っ白な機体がそこにいた。二足歩行の車両だが、腕の様なものも見て取れる。こちらとほぼ同じ全高四メートルほどで、見た目は大きなパワードスーツのようにすら見えてくる始末だ。

 どう見ても戦場では目立ちすぎてしまう。的にしてくださいと言っているようなものだ。こんな機体を、プラン・ヴァルキリーでどう運用する予定だったのか。一抹どころではない不安を感じざるを得ない。

 頭のない白の人型が代表なのだろう。初めの第一声と同じように、そちらかのスピーカーから音声が流れてくる。


「とりあえず、識別くらいは送っておきますお姉さま。是非、善戦してください」

「да.右からオルトリンデ、ゲルヒルデ、シュヴェルトライテ、ロスヴァイセ。識別コードを受信しました。善戦に関しては承諾しますが、そのお姉さまというはなんでしょうか?」


 帰ってきた答えは沈黙だった。

 答える気がないのだろう。誰も彼も情報を伏せるのが好きらしい。


「да.いいでしょう。とりあえず叩きのめしてから情報を引きずり出すことにします」


 こちらが一歩を踏み出したのが合図だ。

 姿を隠すように後退するゲルヒルデとシュヴェルトライテ、逆にこちらへ突っ込んでくるオルトリンデとロスヴァイセの姿を捉える。

 長距離砲を保有するゲルヒルデが見えなくなるのは不安要素だ。だからと言って、目の前の二機が素直に通してくれるとも思えないがやるしかない。

 無茶な対策案を三つほど自己提案し、そこで不意に通信が割り込んできた。


『大丈夫、私が援護する』

「その声はシャリス様ですね。ありがたい言葉ではありますが、相手は長距離砲です。撃たれればミンチになりますよ?」

『それくらい知ってる。だから、ラハティL-4649スペシャル持ってきた。ただ特殊徹甲弾使うから単発装填だし、ポイント移動で時間とるから発射間隔は空いちゃう。期待はしないで』


 十分に有難い話だと思う。ゲルヒルデの居場所をスポットしてくれるだけでも、動きやすさは格段に違うはずだ。

 だが、同時に危険な行動でもある。軽くミンチなんて言ってみたが、冗談で済まない可能性もあり得るだろう。

 誰かが欠けるのは嫌だ。そう思う気持ちで動力の回転が上がっていく。

 恐怖はない。だが僅かに感じる不安を決意でねじ伏せ、向かってくる二機の姿を補足した。


「да.誰も失わないために。もう、この身を鉄屑になどとは言いません!」


 急速後退。レール砲の反動も計算に入れながら、重力制御ユニットを展開してステップを踏む。

 オルトリンデは予想通り、両側に設置された板が武器のようだ。

 展開すると同時に弾丸を切り裂いたところを見ると、かなり強力な刃物らしい。熱反応がある辺りヒートカッターの類だろう。

 ロスヴァイセの方も難なく掻い潜って来る。


(必ず! 勝ちます!!)


 言い聞かせるように念じて五連射。砲撃の反動を活かして後ろに飛び、重力制御を利用した加速を強めていく。

 地面に対する六脚の干渉は必要最低限を維持し、いつもより速度を確保した。

 それでも数の戦力は覆せない。ならばと、パンツァーは防御に回している分の重力制御を足まわりに割いていく。

 結局のところオルトリンデに取り付かれるか、ゲルヒルデの一撃を貰えば防御ごと貫徹してくるだろう。

 ならばと、さらなる加速を得てパンツァーは駆けていく。





 双眼鏡の向こうで、巨大な六脚戦車が驚くべき機動を取っている。敵の接近を許さないためとはいえ、後退移動したまま射撃戦を繰り返しているのだ。

 ブリュンヒルトのポテンシャルは知っていたが、流石のシャリスも驚きを禁じ得ない。

 追うのは二機。真っ白な頭のない人型と、両側に灼熱したヒートカッターを持つ二足歩行型だ。

 白い方に目立った武装がないのは気になるが、この二機はパンツァーに任せるほかない。


「私はこっち」


 鈍い動きで位置の確保をしている長砲の機体と、アンテナモジュールの機体へ双眼鏡を向ける。

 手元の装備でレーザー指定も可能だ。目標を指示してしまえば、上空のステロペースに攻撃以来をすることも可能だろう。

 だが、アンテナ持ちの機体が随伴している。レーザーを照射した瞬間、こちらの位置がばれてしまうのは避けられない。

 そうなってしまったら、さっきパンツァーに言われたミンチが現実的になってしまうだろう。


「距離は目測で計るしか。位置報告は通信? 傍受されるかも……砲撃車両の足を潰すのが先? でも、アンテナ機を先に潰せば場所の特定もできない、かな?」


 一発撃って移動。この動作を怠れば、弾道予測で位置バレからのミンチが待っている。

 二射目までは時間が空く。どちらを先に潰すかは、判断が難しいところだ。


(流石に、移動中まで敵機のスポットは出来ないし。足回りは潰せても、長砲を黙らせるのは出来ない。なら、正確な位置情報を送受信しているアンテナを先に……)


 頷き、準備に取り掛かる。一度下した判断で迷っていて、手遅れになっては意味がない。

 背負っているラハティL-4649スペシャルを引っ張り出す。展開したバイポットは、地面を軽く掘り返した穴の中に立てれば完璧だ。

 スコープ越しに、愚鈍な大砲へ随伴しているアンテナ機を見る。

 足周りに移動手段が見えないのは不思議だったが、どうやら二機はセットで行動する仕様らしい。

 砲撃機に寄生する形で、アンテナ機は移動している。


(他にも移動手段はあるかもしれないけど、今は関係ない!)


 細く息を吸って止めれば、どくんどくんと耳の奥で心音が響いていく。

 スコープの電子的サポートは切ってあった。

 気取られる可能性は、少しでも排除するためだ。

 いくら特殊徹甲弾でも、本体にダメージを入れるのは難しい。

 狙うべきはモジュールの基部。

 当たれば弾薬は装甲を貫通して、内部で炸裂する。

 防御の薄い場所を狙う。

 効果的なポイントは……

 目標までの距離が……

 外せない……

 風が……

 世界が静かになって、目標と自分だけしか見えなくなった瞬間。

 獣が吠えるような音が響き渡った。













隊長&オールマイティ

七海八雲

 変態 愉快な男 元・軍神

階級、大佐


現・副隊長

九条晶

 回し蹴り系男勝り少女 九条家令嬢

階級、少佐


元・副隊長

アテナ・アカコス

 お母さん 双盾 現・軍神

階級、大尉


フォワード1

坂本アヤカ(さかもと あやか)

 紅目の悪魔 接近戦最強

階級、伍長


通信士

真衣・プロセッサ(まい‐)

 電脳幼女 指折りの『エリート』

階級、軍曹


衛生兵・補佐

瞑愛琳(メイ アイリン)

 マッドサイエンティスト系医療補助兵 中国三千年の末裔

階級、上等兵


フォワード2

御門撫子(みかど なでしこ)

 旧家の出身 純和風 長女的存在 般若

階級、伍長


陸上特殊車両運用兵士&メカニック

パンツァー・カウフワーゲン

 メカニック兼用 ロボ娘

階級、少尉


航空特殊機体運用兵士&メカニック

ステロペース・キュクロプス

 メカニック兼用 父子家庭 エセ関西弁

階級、軍曹


狙撃兵

シャリス・ワッターズ

 狙撃手 褐色少女 元レジスタンス 現スパイ 

階級、中尉


工兵

トリトナ・ルー

 爆薬姫 不幸体質 黒髪ツインテ ドジっ子

階級、上等兵


衛生兵長

飯塚ナツキ

 三つ編みの常識人 晶の同期

階級、曹長



五指・フォワード

女剣豪(ムサシ)巴円ともえまどか

 御座る 紅一点 沸点低め ツバメ返し


五指・バックアップ

『二つの頭脳(ツインズ)』ボイポスとアルテミス

 性別不明 二人で一人のエリート 五指の良心


五指・技術者

『いかれた灯火(マッド・ジャック)』ウィル・オ・ウィプス

 魔改造 天才的技師 基本馬鹿


・陸上特殊車両『ブリュンヒルト』

……六足の脚を持つ戦車。重力制御機構を搭載し、自重を軽くした上でのホバーリング併用により高速移動を可能とする。

 また、重力制御機構を応用して、重力の遮断幕。重力シールドを張る事が可能。

 主砲は長さ五メートル、幅二メートル、厚さ一・五メートルのレールガン。

 全長二〇メートル。全幅七メートル。全高は五メートルの化け物戦車。

 コックピットは、分厚い装甲の奥の奥。そこにある制御盤へパンツァーの核ドライブを設置する。


・航空特殊戦闘機『カエルス』

……ステロペースの離縁した母、ガイア・ヘレネスが設計し、設計図だけを娘に託した代物。名前の由来はウラノスから。

 デルタ主翼と先端翼(カナード)を備えるカナードデルタ形式の機体であり、後部には小型の尾翼が上下に一対ずつ設置されている。

 加速器は計5つ。主翼と尾翼にそれぞれ一つずつ小型の加速器を配し、その中心に大型推進の加速器が搭載されている。

 デルタ翼である為、真上から見た形は三角形に近く。また、やや厚みはあるものの機体の凹凸が少ないよう設計である為。正面から観た姿は、金属の板から十字型に主翼と尾翼が張り出している様に見える。

 武装は機関砲二門とレーザー砲三門だが、仮想翼が展開されれば砲門は自由に設定できる。機関砲は上部に、レーザー砲は下部にそれぞれ実装。

 コックピットはバイクに乗る様な体勢になるもの。


・固有兵器、長砲&機甲殻槍『ピナカ=トリシューラ』

……熱量砲撃、レールガン、反動相殺用スラスターによる衝撃波。この三つによる三叉の攻撃が可能。内部に動力部とかして三叉槍を格納。外部の長砲部分をピナカ、内部の三叉槍をトリシューラと呼称する。熱量収束による砲撃は、射程が五キロ。それ以上は、熱が冷却して効果的なダメージにならない。


・個人武装、機甲殻薙刀『岩融いわとおし

……命名は武蔵坊弁慶の所有した大薙刀より拝借。通常時はただの薙刀と変わらない。機甲性能は振動。超過振動により、どんな物をも切断する事が可能。一度発動すると停止不能で、有効時間は五分間。


・個人兵装、機甲殻盾『アイギス』

……背中のバックパックより伸びるアームに、二枚の盾を接続して自在に操る。後にウィルの魔改造で、重力制御ユニットを装備。意識反映プログラムをボイポスとアルテミスに組んでもらい、円との戦闘訓練でものにする。同時に六枚まで、盾を自在に制御可能。操作可能距離は、自分を中心に約五〇メートル。可能範囲内であろうとも、視界を遮られた場所では精密な動きは不可能である。


・個人武装、機甲殻刀『物干し竿』

……鞘と刀でワンセットの、二メートル級長刀。鞘部分に収納された二枚の刃は、可視光を極限まで透過させる特殊ガラス製。視覚で捉えるのは至難の業。ブーメラン形状で、中心には小型のジャイロが組み込まれている。刃を振る動作で制御し、同時に三方向から斬ることが可能。武蔵のくせにツバメ返しの佐々木小次郎の愛刀より命名。


・LVT-8(呼称:マヒシャ)

……水陸両用の歩兵運搬トラクター。現代のアムトラックの後継機。積載人数、一七名。

・C7

……皆さんご存知、C4の改良型。粘土状で加工しやすく、火や熱への反応が皆無なので直接着火でも爆発はしない。従来のものより信管の取り扱いが非常に簡単になっており、重量もより軽く製造されている。


・ラハティL-4649スペシャル

……ラハティL-39のバージョンアップモデル。ラハティL-40は高射砲として開発されたが、それをもう一度対戦車用銃に引き戻そうという馬鹿な開発理由の元で改修を受けた。特殊徹甲弾を使用することで、装甲を貫けさえすれば何とかなるはずの対戦車ライフル。





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