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真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第三部「天下鳴動編」
58/62

第四十二話 「雒陽戦慄 ――魔王降臨―― 」 ――四――

 どうもお久し振りで御座います。不識庵・裏です。昨年の仮更新から一年近くの時間を要してしまいました。ですが、ようやっと長いグダグダを通り越し、今回投稿に到ることが出来ました。今回は長ったらしい割りには、内容が大抵エロと言うどうしようもネェ有様でして、自分の能力低下が目に付きます。(汗 あ、最初の前半部分は昨年の仮更新と同じ内容なので、昨年読まれた方は読み飛ばしてくださって結構です。(土下座


 それでは、本当に長い事お待たせいたしました。昭烈異聞録第四十二話、最後まで読んでいただけたらうれしく思います。


 

 


 ――参――



 ――今から遡る事十日程前、雒陽(らくよう)市中のとある広場にて――



「うっぷ…… 」


「おげぇええええええ…… 」


「ひいいいいっ!! 」


「なぁ、父ちゃん、母ちゃん。あそこで一体何してるんだ? 牛か豚の肉でも(さば)いてんのかなー? ……おおっ、そうだっ! 父ちゃん、母ちゃんっ! 俺肉食いてぇっ! 」


「みッ、見るんじゃないっ!! 肉が食いたいんなら、後でちゃあんと買ってやるからな? な? 」


「そ、そうだよ、父ちゃんの言う通りさ! さっ、あれは見ちゃ駄目だからね!?  さっ、わかったんならさっさと帰るよっ! 」


「? へーい 」



 そこでは、不気味な音と共に「大掛かりな事」が催されており、周囲には沢山の人垣が取り囲んでいた。だが、それを見た者は全て露骨に顔をしかめ、中には嘔吐する素振りを見せる者さえ出始め、たった今とある一組の家族連れが足早にその場を去っていったところである。


 彼らの視線の先には大きな解体用の台が置かれており、そこでは屈強な体格の屠殺人達が黙々と「先ほどまで生きていた物」の解体作業を行っていた。毛を(むし)られ、皮を剥がされ、骨から肉をこそぎ落とされと、この時代の市場であればごく普通に見かける光景である。だのに、何故それを見ている者達の間に戦慄が走っているのか? それは――



「お、おい……あれって、まさか皇太ご、 」


「……余計な事は言わない方がいい。でないと、今度は俺等がああなってしまうぞ? 」


「あっ、ああ…… 」


「今はただ黙って見ておけ……後で報告しなければならないんだからな? 」


「……了解 」



 台の上に乗せられた頭部らしき物を見て、一人の男がそれを指差し何か言おうとするが、すかさず隣の男に止められると、後はそのまま黙り込む。その頭部らしき物だが、どう見ても獣の物ではなく……人の物にしか見えなかったのだ。そう、先ほどの戦慄の元とは正にそれで、今解体が行われているのは一人の人間、それもかつての「皇太后何氏」だったのである。



「あれが、あの皇太后様かよ……きちんと見なけりゃちゃんとわからなかったぜ? 」


「確かにそうだな? 何せ、普段から度派手な髪型とか化粧とかしてたしな……。それが今じゃ顔は青たんだらけの血まみれで、鼻もつぶされ歯も折られ、極め付けは髪の毛を全部毟り取られたはげ頭だしなぁ……先帝をその美貌で骨抜きにしたそうだが、もう完全に台無しだなこりゃ? 罰が当たったんだよ、罰が 」


「全くだねぇ……あたしらの事なんか全然かえりみないで、散々好き勝手して贅沢しまくったむくいだよ。ざまぁ無いね 」



 等と、野次馬の中からとある男女の声がひそひそと聞こえてくるが、何氏への憐れみよりもむしろ蔑みが勝っていた。然し、会話を重ねていくにつれ、その内容の中心が何氏よりも、新たな支配者である『(てい)(てき)』への不平不満、いや怨み辛みへと変わり始める。



「けどよ、今宮廷を牛耳ってる丁擢って奴も可也酷ぇぞ!? アイツんとこの兵隊のほとんどが、匈奴や鮮卑に烏丸と言った言葉の通じない、それも奪うか殺す事しか能の無い『けだもの』ぞろいと来ている。そのお蔭で、今じゃこの雒陽は無法地帯も同然だ! 」


「ああ、確かにそうだよな? ……実はさ、これは数日前の話だけどよ。東の通りにある韓さんの小さい酒家に、その『けだもの』どもが大勢で押し掛けてきたんだよ 」


「ふむふむ、それで? 」


「奴等は散々飲み食いした挙句、事もあろうか金を払わずにずらかろうとしたもんだから、慌ててそれを引き止めようとした韓の親爺が……無残にも斬り殺されちまったんだ 」


「なんだよ、それ?! そんなのありか?! 」


「それだけじゃあないぜ? そこの娘が親爺の亡骸にすがりついて泣き喚くと、次に奴等は娘を無理やり引き剥がして……その場で輪姦しやがったんだよ! 結局、娘の方も犯されまくった挙句に死んじまってなぁ……死体はごみみたいに捨てられて犬や烏の餌にされちまった。まだ十六になったばっかなのによぉ…… 」


「何て惨い真似を……あいつ等は人間じゃあない、人の皮を被った妖魔だ! 」


「あいつ等、完全に調子に乗ってるぞ? 街中にもかかわらず、平然と馬を思い切り走らせて人を撥ねてるし、しかも女を犯しながらやっていやがった! 」


「周囲の村々から男連中を無理やり駆り出して、歴代皇帝の墓を荒らしてるって話も聞いてるぞ 」


「巡察中の丁擢の機嫌を損ねたって理由で、南の村が一つ無くなったそうだ 」


「肉屋皇后や十常侍もひどかったが、丁擢はその上を言ってる…… 」


「畜生ッ! 皇天后土はこの状況を只黙って見てるだけなのかよっ?! ……はっ!? 」


「ッ?! 」


「ヒッ!? 」 



 会話は熱を帯び、声も大になっていたが、彼らは突如口をつぐむ。何故ならば、解体台の上で黙々と作業を続けていた屠殺人の間を縫って、一人の男が姿を現したからだ。



「皆、良く見ておくがいい! 今解体されているこの淫蕩(いんとう)な女は、先帝を色香で誑かしただけでなく、更には十常侍どもと結託して無能な姉を大将軍に据え、挙句我等の国を散々荒らした大罪人であるっ! よって、丁閣下が然るべき裁きをお下しになったのだ! この様な惨たらしい裁きは丁閣下の望んだ事ではない。だが、丁閣下は歪んだ政道を正しき方向に直される為、敢えてなさっておられるのだ! 」



 普段細く狭めた両目をカッと見開き、滔々と語るは丁擢の参謀にして董家の旧臣だった李儒(りじゅ)で、齢は現在二十五。この主君と同い年の男は、丁擢が丁原に養子入りした際、補佐役として彼に同行して今に至り、自他共に認める智謀の持ち主である。


 嘗て(かつて)の同僚で、現在の董家の当主(とう)仲穎(ちゅうえい)(月)の補佐役の文和(ぶんわ)(詠)も優れた智謀の持ち主であるが、彼女と比べれば李儒の方が可也狡知に長けていた。



「確かに、今行っている事は余りにも惨たらしい。そして、閣下の精兵と民草どもとの間で何かとすれ違いもあろう……だがっ! 」


「「「っ!? 」」」



 そう言って一息吐くと、李儒は先ほどひそひそ声で陰口を叩いていた者達の方をチラリと見やり、口角をわずかに吊り上げ酷薄な笑みを浮かべる。



「事実無根な陰口は余り叩かぬ事だ。何せ、この雒陽は未だに混迷を極めているのだからなぁ? ……さもなくば明日は我が身と思うが良い 」


「「「は、はい…… 」」」



 李儒の吐く言毒に中てられ、彼らは己の身の毛が総毛立つのを感じると、後はもう縮こまる事しかできなかった。然し、その一方で先ほどの三人とは別の場所で言葉を交わしていた二人の男の姿はここにはなかった。どうやら、いつの間かこの場から立ち去っていたようである。



 ――四――



 ――そして、現在に時間を戻す――




「以上が雒陽(らくよう)に潜入させていた細作からの報告だ。これは私個人の意見だが、幾ら何太后が悪女とは言え、あそこまで惨たらしいやり方で処刑されたと聞かされると正直哀れみを感じてしまうな? 」


「私の方も季直殿(道信(男徐庶)の字)とほぼ同じ報告を受けています。丁擢(ていてき)のやり方は正に『傍若無人』『悪逆非道』を地で行ってるだけでなく、あの男は自身が引き連れてる異民族の将兵の他に、どんな手段を用いたか判りませんが西涼の将兵を強制的に従わせてるみたいです 」


「なっ……? 」


「えっ……? 」



 宛城の桃香と蓮華の執務室にて、王である陽(劉協の真名)を除いた面々が諜報担当の道信(男徐庶)と先日雪蓮の臣下に加わった呂範(りょはん)の報告に耳を傾けていたが、呂範の言葉に翠と蒲公英は目を大きく見開くと言葉を失ってしまい、指一本動かせなくなってしまった。



「翠……たんぽぽ……ここから先は聞くのが辛いと思う。無理に聞かない方が…… 」


「うん、確かに一刀さんの言うとおりだよね? 翠ちゃん、それにたんぽぽちゃんも。一旦下がって休んでてもいいよ? 後で気分が落ち着いた時にでもキチンと話すから 」



 西涼馬家の姫君である二人を気遣うべく、一刀と桃香が声を掛けるが「いい、大丈夫だ。どうせ今聞かなくっても後で聞かされるんだ。なら今聞いた方がいい 」と翠が精一杯強がると、「たんぽぽも翠姉様と同じ。だから、一刀お兄様も桃香姉様も気を遣わなくってもいいからね? 」と蒲公英も強がって見せた。



(強がってるのは見え見えだけど、それでも何とか自分を保とうとしている。流石は『西涼の狼』の血を受け継ぐだけはあるわね? )



 そのやり取りに雪蓮はフッと苦笑いを口元に浮かべ、「子衡、報告の続きを 」と呂範に話の続きを促すと、彼女はゆっくり頷いてから、一呼吸おき再び報告を始めた。  



「はっ、畏まりました伯符様。それでは報告を続けます……丁擢は外敵への防衛と言った苛酷な事は西涼の将兵にやらせてるのに対し、歴代の皇族並びに王侯貴族の墓荒し、次に婦女への強姦及び村々への焼き討ちや略奪、更には民衆への理不尽な暴行や虐殺と言った惨い蛮行は丁擢の将兵がやってる始末で、性質の悪い事に奴等は悪事を働く際必ずと言っていいほど『馬』と『董』の旗を掲げていきます。その結果都の民衆の怨嗟の声は丁擢だけでなく、董涼州殿(董卓)や馬武威(馬騰)殿にまで及んでる有様です 」


「なっ……!! なっ、何でそんな事すんだよっ!! 母様や(ゆえ)は関係ないじゃんかよっ!! 」


「そうだよっ!! 何でこんなインチキな事をっ!! 琥珀おばさまや、月ちゃんまで恨まれるなんてこんなの絶対におかしーよ!! 」



 とうとう堪え切れなくなったのか、翠と蒲公英が顔を真っ赤にし、二人は怒りの形相で激昂するが彼女等を落ち着かせるべく道信が声をかける。



「気持ちは痛いほど判るが、二人とも落ち着くんだ。今ここで怒り狂った所で何の解決にもならないぞ? 」


「だけど、道信老師っ!! これが落ち着いていられるかよっ!! 悪いのは丁擢なのに、何で母様や月までが悪者扱いされなくっちゃいけないんだよっ!! 」


「翠姉様の言うとおりだよっ!! あんな酷いやつのせいで、伯母様だけじゃなく、鷹那(いんな)(龐徳の真名)や詠ちゃんたちまで恨まれてるのかもしれないのにっ?! 」


「……昔、一刀殿から『儒者憎けりゃ儒服まで憎い』と言う言葉を教えて貰った事がある 」


「いきなり何だよ、それ。一体どういう意味なんだ? 」


「行き成り訳わかんない事言わないでっ! そんな言葉とおばさまたちと一体何の関係があるのっ!? 」



 歯をむき出しにして二人が食って掛かるが、道信は一旦両の(まなこ)をつむるとフーッと一息吐いて、諭すように語り掛けた。



「“儒者を憎む余りそれが着ている儒服まで憎らしくなる”――要するに『ある物を憎む余りそれと関わりがある物全てが憎らしくなる』という意味だ。この場合は丁擢に強制的に従わされ、濡れ衣を着せられた西涼の将兵まで憎まれてるという事になる……こんな事を言うのは心苦しいが、丁擢から一方的に濡れ衣を着せられ奴に巻き込まれてしまった被害者だとしても周りはそう思ってくれない……この手の理不尽は常在する事なんだ 」



 この『儒者憎けりゃ儒服まで憎い』だが、無論そんな言葉は存在しない。これの元ネタは『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』だが、仏教よりも儒教の方が影響力が強いと鑑みた(かんがみた)一刀が判りやすく変えた物である。



「くうっ!! 」


「う~~っ!! 」


「翠殿、蒲公英殿。君達二人はれっきとした桃香殿のひいては南陽王殿下の臣でもあるだろ? ならば、もう少し自覚を強く持つべきだし、少なくとも私情にかられ全体の足並みを狂わせては駄目だ。それが桃香殿達を窮地に追い込むやもしれないのだからな? 」


「ッ?! …… 」


「でも、でもっ!! 」



 そこまで道信が言うと、翠は何か思い出したのか目を大きく見開き何やら考え込む素振りを見せたのに対し、一方の蒲公英は未だに納得出来ないと言った風で食い下がる。そして――



「……たんぽぽ、ここは道信老師が正しい。悔しいかもしれないけど、ここは我慢だ 」


「えっ? 翠姉様まで……何で? どうして? 一体どうしちゃったのよっ? 」



 咎める様に言う蒲公英。それに対し翠は何か悟ったのか、穏やかな表情を浮かべると、桃香その次に蓮華、そして最後に一刀の顔を見て妹同然でもある従妹に語り始めた。



「なぁ、たんぽぽ。あれは去年の事だけどさ――黎陽(れいよう)で黄巾と戦った時、一刀が毒矢に倒れただろ? 」


「へ? う、うん…… 」


「あ、翠ちゃんそれって…… 」


「翠、ひょっとしてあの事ね? 」


「え? 何かあったっけか? 」



 合点がいったのか、納得げに頷く桃香と蓮華に対しキョトンとした顔を見せる一刀であったが、彼女等をよそに翠は蒲公英への言葉を続ける。



「あの後、あたしと桃香と蓮華は毒に侵されて今にも死にそうだった一刀に付きっ切りだった。()っさけ無い事にさ、あたしら三人はもう我を忘れちゃってて、もう戦いたくない、黄巾をぶっ倒す事なんかより一刀のそばにずっといていたいと思ってたんだよ。だけどな、その夜あたしらは夢を見たんだ 」


「……夢? 」


「そ、夢。あたしら三人とも丸裸で星空を漂っててさ、何でここにいんのかなーって三人で考えてたら、突然あたしらを呼ぶ一刀の声が聞こえたんだよ。それに答えるべくあたしたちも一刀を呼んだらさ、鎧を着たあいつが現れたんだ 」


「へ? 鎧を着た一刀お兄様が丸裸のお姉様達を? も、もしかしてお姉様たち夢の中でお兄様としたとかっ?! しかも鎧姿の一刀兄様が丸裸のお姉様たちを……何だか、捕まった挙句に性欲に飢えた敵将に犯されてるみたいで、たんぽぽは絵的にどうかと思うんだけどなー? 」


「なっ……!? ☆◎△@↑%&#$!! なっ、ナニ言ってんだよ馬鹿ッ!! 人がまじめな話してる時に、変な方向に話を逸らすなっ!! 」


「あだっ!? 」



 真剣な雰囲気から一転。思わずいつものノリで蒲公英が茶化すように言えば、翠は顔を真っ赤にし一瞬言葉を失うが、すぐさまこのおふざけな従妹に愛の鉄拳制裁をその可愛らしい頭に振り下ろす。涙目で蒲公英がじんじんと疼く頭を抑えて屈み込むと、翠は気を取り直すべくふうっと一呼吸置き、話の続きを始めた。



「夢の中で一刀はあたしらにこう言ったんだ、俺にかまわず潁川(えいせん)へ行けってさ。情に振り回されて今自分が本当にしなくっちゃいけない事を見失うなってさ 」


「翠姉様…… 」


「まっ、この話は元々照世老師との講義で出て来た事だったんだけどな? たんぽぽ、お前の気持ちは痛いほど判るし、正直あたしだって母様や月達の事が物凄く不安だし気が気でならない。けどさ……ここであたしらがいたずらに動いてしまったら、桃香達だけでなく陽様にも迷惑かけちまうだろ? だから、ここは解決策が見つかるまでひたすら我慢の子だ 」


「う、うん……たんぽぽ我慢するね? 」


「よし、約束だぞ? もし破ったら……その時はカクゴシトケヨ? ワカッタナ? 」


「さ、さーいえっさー!! 」



 と、最後にナニやらオッソロシイ雰囲気で翠が蒲公英に言うと、当の蒲公英は最近知ったばかりの軍隊言葉で返事するしかできなかったのである。そんなやり取りを経て、馬家の二人が気を落ち着かせると、道信と子衡は報告を続けた。未だに帝は行方知れずあるとか、新しい帝が未だに公の場に姿を現していないとか、最後に丁擢一派に蔑ろ(ないがしろ)にされた朝臣たちの間で何やら不穏な動きがあるとまで言うと、二人は報告を終わらせ場には静寂が漂った。



「…… 」


「ふーむ…… 」


「これから先一体何が起こるか判らないな。取り敢えず実戦形式の物を増やしたりと、練兵の内容をもっと密度の濃いものに変えた方が良いかもしれない……鈴々にももっと動いてもらわないといけないな? 」



 義雲(男関羽)が無言で腕組みしたり、何時もの癖で白羽扇を眼前に翳して考え込む照世(男諸葛亮)。そして愛紗が何やらぶつぶつとひとりごちたりと、皆の表情や仕草はそれぞれ異なってたがこれからの事に思いを巡らせる。



「ねぇ桃香。あなたこれからどうする積り? 」


「へ? え、えーっと…… 」


「本当は放っておけないんでしょ? 悪い奴等に雒陽が荒らされてるだけじゃなく、恩人の琥珀(馬騰)様たちが良い様に利用されてる話とか聞かされると 」


「はい……雪蓮さんの言う通りです 」


「まっ、私が桃香の立場だったら、真っ先に都に乗り込むかな? それとも或いは……丁擢討伐の呼び掛けとかがあったら、それに応じるのも一つの手よね? 」


「うーん……確かにそれもありかもしれませんよね? 」



 そう孫伯符こと雪蓮が桃香に言うと、彼女は何やら期待するかのような眼差しを桃香に向ける。雪蓮が(まつりごと)より戦を好む事は誰もが周知しており、言葉は濁していた物の桃香に出兵を促しているのが見え見えであった。だが、桃香は思案顔で顎を摘むと自分の傍らに控える臥龍(がりょう)鳳雛(ほうすう)を見る。



「ねえ、朱里ちゃんと雛里ちゃんはどう見る? 本音を言えば私はすぐに出兵したいし、丁擢討伐の呼び掛けとかがあったらすぐに応じたいの。でも、今現在の南陽の国力だと……軍を動かすのは無理だよね? 」



 最後の方で声を小さくさせて、窺う様に桃香が二人に言うと、二人はその可愛らしい顔に渋面を浮かべる。『一々言葉に出さなくっても良いじゃないですか? 今の国力じゃ無理ですよー』と桃香は二人がそう答えてるように思えてきた。



「……桃香様も雪蓮さんも、今の私と雛里ちゃんの顔を見たら判ると思うんですけど? 」


「……確かに丁擢は物凄く酷い事をしてますし、あの人が朝廷を牛耳ってる以上何とかしなければいけません。ですが、今現在の国力では満足な状態での出兵は無理です。前任者の袁術さんが暴政を敷いた影響で、この南陽は未だに荒れたままですし…… 」


「そんな状態で無理に出兵しようものなら、今度こそ民衆の支持を失いかねましぇん。下手をすれば黄巾の乱が起こった時と同じ規模の反乱が起こり得る恐れもありましゅ 」


「あうう……やっぱりそうか 」


「判ったわ、それじゃ質問を変えようか? 改めて二人に聞くわ。仮に今の状態ならどれ位動員できるの? 」


「うんうんっ、例え満足な兵力じゃなくっても、どれ位動員できるかわかるだけでも大分違いますよねっ?! 」


「「ハアッ……松花さーん 」」



 模範解答とも言える軍師二人の返答に、苦笑交じりで桃香ががっくりと肩を落とせば、すかさず雪蓮が聞き返すと桃香もそれに乗る。これに二人は互いの顔を見合わせ揃って軽くため息を吐くと、財政担当の長で南陽の金庫番を任されている松花(そんふぁ)こと簡憲和(かんけんか)簡雍(かんよう))を呼んだ。



「なぁに、呼んだかしら二人とも? 」


「あ、え、えーっと実は雪蓮さんがでしゅね、現在の状況だとどれ位兵力を動員できるか聞きたいとの事なんです。私達が言うより、財政担当の松花さんに言ってもらった方が納得できるんじゃないかと思いまして 」


「既に松花さんもご存知だと思いますが、現在雒陽で丁擢一派が朝廷を牛耳っていて、もしかしたら近い内に丁擢討伐の名目で大規模な戦が始まるかもしれないんです 」



 とあからさまに不機嫌そうな声と表情で、松花が少しふらついた足取りで皆の前に姿を現す。髪は余り手入れしておらず、着衣もよれよれな所を見ると、どうやら仕事に追われ徹夜続きなのが覗えた。そんな状態の松花に一瞬気圧された朱里と雛里であったが、すぐに気を取り直し彼女に雪蓮に問われた事を伝える。



「はあ~~っ? どれ位の兵力を動員出来るかですって? それ、本気で言ってんの雪蓮さん……それに桃香、アンタだって判ってる筈でしょ? 今の状態で出兵できる余裕なんか無いって! たーだでさえ、今の南陽は財政が火の車なのにっ! 」


「そ、本気で言ってんのよ? だって、このまま静観決め込むなんて無理だし、それに雛里も言ってたでしょ? どの道近い内大掛かりな戦になるわ。もし、そんな時が来たら、先帝の子である陽様(南陽王劉協の真名)がいる南陽としては、まさか一兵も出さない訳には行かないわよね? 」 


「え、えーと……松花ちゃん、私だってちゃあんと判ってるよ? でもね、今改めて思ったんだけど、流石にこんな状況で何もしなかったら……私たちは丁擢を黙認したのも同然だよ? だからね……無茶は承知で言ってるの。今の南陽の国力でどれ位の兵を出せるか、教えて頂戴! 」



 ギロリと睨みを効かせ、泰山地獄の底から響くような声で松花が言うが、雪蓮はいつもの様に飄々と返し桃香は桃香で最初は慌てふためく物の、徐々に気を強く持ち直し最後は真っ直ぐな眼差しを彼女に向ける。毎回の事ゆえに二人がこう言う人物だと判っていたが、何ともやり切れぬ思いを抱いてしまう。だが、松花はフウッとため息を一つ吐いて気を取り直すと顎を摘んで少し考え込み、そして二人の前に指を三本立てて見せた。



「三千……これでも可也譲歩してるのよ? 現在の国費と糧秣の蓄えを考えたらそれが精一杯。この南陽には五万の兵力があるけど、今の蓄えじゃ全兵力の動員なんて土台無理な話だわ 」


「うーん、三千かぁ……本当は五千位欲しかったんだけど、専門家の松花にそこまで言われたんじゃ仕方がないか? 桃香はどう? 」


「はい、私も同感です。でも、一兵も出さないよりはマシですよ雪蓮さん。ありがとう松花ちゃん 」


「はいはい、どーいたしまして。でも、余り無茶はしないでね? 本当は一兵も出したくなかったんだから…… 」



 と、渋る素振りを見せて締める松花。恐らく彼女なりのささやかな抵抗の表れであろう。然し、それもホンの一瞬で最後に彼女は「ま、ここで黙って引っ込んでるってのも桃香らしくないわよね? 」と笑みを浮かべた。



『兵力があっても、それを賄う物が無ければいないのも同然。暫くの間この状態が続くな……かくなる上は、何か手を打たなければならぬ 』


『本ッ当に参ったねぇ、こりゃあ……正直言って、おバカの袁術に何かしら嫌がらせでもしてやりたい気分だな 』


『喜楽、それをした所で気休めにもならん。だが、奴らに苦杯を舐めさせる必要はあると思うな……そう、とんだ置き土産の礼をな? 』


『ああ、全くだな道信 』


『二人とも……その話、私も乗らせてくれぬか? 正直、私も袁術めに意趣返しをしたくなって来た。あの暗愚な女童(袁術)と、狡猾な毒婦(張勲)に思い知らせてやらねばな…… 』



 その一方で、ひそひそと小声で会話を交わす三賢人。照世は白羽扇越しで眉をひそめ、喜楽と道信は自称『汝南袁家の跡取り』と称すOBAKA(袁術)への恨みを募らせる。



『みっ、美羽様ーっ!! たたたたた、大変ですよぉ~~っ!! 』


『七乃、一体どうしたのじゃ? まさか、父様に国費のちょろまかしがばれたのかえ?! 』


『そーじゃありませんよぉ~~!! 汝南各地の城の倉が相次いで火事になって、そのお影響で備蓄してた兵糧の約四割がなくなってしまったんですよぉ~~!! 』


『ん? それがどーかしたのかの? 』


『“どーかしたのかの?”じゃありませんよぉ~~!! 兵糧が無くなったら、それを補う為に新しく買い直さなくっちゃいけませんしぃ、その分国費が減るって言うことなんですよぉ~!? ……ついでに言うなら、だんな様から思い切り減らされている蜂蜜水が更に減らされるという事なんですよぉ~? 』


『ん゛な゛っ!? そ、そんな事があってたまるか!! だったら、民草からもっと税を取ればよいではないか!? 』


『……それをやるのはいいんですけど、まただんな様にオシオキされたいんですかー? 』


『ピィィィィイイイッ!? いっ、いやなのじゃ!! 父様のオシオキはもう嫌なのじゃー!! 七乃ぉ、お前に全部任せるのじゃ…… 』


『それじゃあ、無くなった分の兵糧を買い直しておきますねー? イヨッ、憎いよー! この自称汝南袁家の跡取り娘ー! 』


『ううっ、何だかほめられた気分ではないのじゃ。それにしても、一体誰がこんな事を? きっと、物凄く悪い奴に違いないのじゃ…… 』 



 彼らが絡んでるかどうか判らなかったが、その直後汝南では各県の城の貯蔵庫からの出火が相次ぎ、糧秣の備蓄の約四割を焼失すると言う惨事に見舞われた。それらの損失分を補填した結果、汝南は暫くの間財政不足になり、美羽や七乃を始めとした汝南袁家の面々は頭を痛める羽目になったのである。


 先ほど照世が憂慮した『動員力不足』だが、これは当面の間南陽の大きな課題となる。何かしら軍事行動を起こす度、桃香や雪蓮達は寡兵で戦う事を強いられ、その都度彼女らは歯がゆい思いをする事となってしまった。


 松花からの報告を受けた後、桃香は改めて会議を始めると、動員可能な兵の振り分けを筆頭武官である祭や朱里を始めとした軍師達に任せ、自身は蓮華や松花と言った政務担当の面々と今後の行政計画を練り始める。更に、桃香は照世ら三賢人に陽春(盧植の真名)と菖蒲(鄒靖の真名)にも助言を求め、会議が終わるのに夜遅くまで掛かった。



 ――五――



「あ゛~~っ、肩凝った~~!! 」



 と、会議の重圧から解放された一刀が大きく伸びをする。何回か経験してるはずであったが、彼は未だにこう言った空気に慣れないでいた。さっさと家に帰って、飯を食ってオネンネしたい――と普通の人なら誰でも抱く衝動を抑えつつ、一刀がその場を去ろうとしたその時である。



「んっ? 」


「ねぇ、一刀さん……ちょっといいかな? 」


「一刀……私の方も少しいいかしら? 」


「なぁ、一刀……あたしも聞きたいことがあるんだ 」


「へ? へ? まぁ……いいけど? 」



 と、一刀の※1羽織の両袖を桃香と蓮華が摘み、更には翠までもが一刀の肩にポンと手を置く。突然の事に一瞬目を白黒させた一刀であったが、すぐに頷き返すと「付いてきて」と彼女に耳元で囁かれ(ささやかれ)何処(いずこ)かへと向かう。あわてて一刀も後を追うが、その際彼の左右両脇は翠と蓮華にガッチリ固められていた。その様子は会議が終わった後もこれからの事であれこれと話をしていた愛紗と星の目にも映る。



「んっ? 義姉上と一刀様、それに翠や蓮華殿まで。一体どこへ向かうのだ……はっ?! まさか……三人がかりでお情けを頂戴する積りかっ!? 」


「うーむ、物凄く気になるな? 愛紗よ、もしやするとお前の予想当たってるやも知れぬぞ? 」


「くっ、だったら……後を追うぞ、星っ! 」


「応ッ! フフッ、愛紗よお主も大分ノッて来るようになってきたな? 」


「ん? 何か言ったか? 」


「いや、何も言っておらぬよ? 」



 愛紗が訝しげな視線を星に向けるが、彼女は何時ものように飄々(ひょうひょう)とした風でかわすと、すぐさま四人の後をこっそりと追う。その際、自覚してなかったが彼女らは激しい嫉妬の炎を両の瞳に燃え上がらせていた。



『全く……一刀様からお情けを頂く時は、事前に知らせると言う約束を交わしたばかりなのに義姉上たちときたら……! 私だって、出来うるなら一刀様からのお情けを毎日頂きたいと思っているのに……! 』


『そう、一刀殿のお情けをあの三人に独占させるわけには行かぬ! 私とて主のお情けを頂く権利があるのだからな? 』



 ――そして、その一方で――



「ふっふ~ん、何だか面白そう。もしかしたらお姉様たちのしてるとこ覗けるかも? それに上手く行けば……たんぽぽもそれにまざれるかもしれないしね? ニシシ♪ 」


「ね、ねぇ、雛里ちゃん。あれってもしかして……行って見る? 」


「しゅ、朱里ちゃん。多分、そのもしかしてかもしれないよ? うん、行って見よう 」


「あらあら……一刀様ったら、相変わらずお盛んですわね……どうやら朱里ちゃんと雛里ちゃんは覗き見を洒落込む積りみたいですし。こうなったら、(わたくし)も覗いて、もとい、ここは暖かく見守らなければなりませんわね? 」



 と、蒲公英、朱里、雛里、そして先日桃香の幕下についたばかりの一刀と同じ世界から来た、ここでは楊威公(よういこう)(楊儀)と名乗る真宮璃々香の四人娘。いずれも性に興味津々なお年頃らしく、この四人のお嬢さん方は喜々とした表情でまた更にその後を追いかける。この光景に。一心(男劉備)は呆れ笑いを浮かべていた。



「やれやれ……若いってェのはいいこったねェ~~、おいら、羨ましくなってきたぜ。まっ、ここン所ギスギスしっぱなしだし、こういった時ゃあ鬱憤(うっぷん)晴らしも必要か?  」


「一心、今の科白何だかオッサン臭いわよ? そう言う一心だって、まだ三十前じゃない。老け込むにはまだ早過ぎるわよ? 」


「お、どこの美人かと思ったら雪蓮じゃねぇか。そうだ、これから一緒に一杯引っ掛けねぇか? あいつら見てたら、何だか急に呑みたくなっちまってさ 」



 と、砕けた笑みを浮かべ、一杯傾ける仕種を見せる一心であったが、それに対し彼女の反応は斜め上のものであった。



「あら、いいわね♪ でもね、私が付き合うのはそれだけじゃなくって……こ・れ♪ 」


「うおっ?! 」



 そう言うや、雪蓮は頬を紅く染めつつ一心の手を取り、それを自身の胸元に滑り込ませる。雪蓮の暖かい体温と柔らかい乳房の生々しい感触が直接手に伝わり、思わず一心はびっくり仰天と言った風の表情になった。



「ねぇ、いいでしょ? さっき戦の話をしてから、急に体の火照りが止まらなくなってきて、もう我慢できないの……オ・ネ・ガ・イ♪ 」



 懇願するかのように潤んだ瞳を一心に向ける雪蓮。そんな彼女に「しょうがねぇなぁ」とため息混じりに返すと、一心は雪蓮と腕を絡め、彼もまた何処かへと消えて行ったのである。



「何よ何よ姉妹そろって見せ付けて……彼氏がいない私への嫌味の積もり?! もうっ、恋人同士なんかみーんな爆発しちゃえばいいのよっ!! どーせ、ど・お・せっ! 私はまだ生娘ですよーだっ!! 」



 と、一人血涙を流し、嫉妬の炎を燃え上がらせるは呂子衡。家庭の事情や仕事に追われた彼女にしてみれば、男女の営みどころかいい出会いの機会に恵まれなかったのは仕方のない話であろう。だが然し、そんな哀れな彼女にもやがて春が訪れるのだが、それはまだ少し先の事であった。




 ――六――



 ――それから半刻後(約一時間)、城内中庭のとある一角――



「桃香たち、何でこんな場所を指定したんだ? おまけに鎧着て来いって言われたから、言われた通りにしたけどさ……一体何をする積りなんだろ? 」



 と、戦の時と同じく具足に身を包みぼやく一刀。正直、今の彼には桃香たちの真意が全く掴めないでいた。それに付け加え、戦などの軍事行動を始めとした危険な任務以外で具足を身に纏う事などほぼなかったので、今こうして只単に具足を着ている事に強い違和感を感じてしまう。



「それにしても、三人ともまだ来ないのかな? こっちは約束通り、鎧を着る為わざわざ一旦家に帰ってから、急いでダッシュで戻って来たのに…… 」



『アイヤー、ちゅ、仲郷サン、何かあたノー? 鎧姿で街の中走テルなんて、何か変ヨー!! 』


『こんな時間に鎧姿で大通りを走るなんて……どう見ても今の仲郷さん不審者ですよ? 』


『いや~~ん、こっちこないで~♪ 鎧を着た変質者に襲われちゃう~~♪ 』



「……お蔭で麺屋台の劉さん夫婦から変な目で見られちまうわ、※3楚々からも『鎧を着た変質者』扱いされるわで……はぁ~~あ、散々だよ 」 



 少し待ちくたびれたのか、周囲をぐるりと見回すが桃香たちの姿が未だに見えない。そして、気晴らしに夜空を見上げてみようと思い、一刀は兜で重みが加わった頭をゆっくり上に傾けた。



「うわぁ~、今宵の星空はまた格別に綺麗だなぁ~。こう、手を伸ばしたら今にも星に手が届きそうだ……まぁ、こんな事したって届くわけないんだけどね? 」



 と、篭手に覆われた右手を星空に伸ばして星を掴む仕草をするが、当然掴める訳がなかった。思わず童心に帰った自分に、苦笑いを浮かべる一刀であったが、突然後ろの方から声をかけられる。



「おっ待たせー、一刀さん。星が綺麗な夜だよね? 一刀さん、鎧を着てきてくれたんだ。本当に無理させちゃってごめんね? それ、結構重たかったでしょう? 」


「待たせてごめんなさい。一刀、約束通り鎧を着て来てくれたのね? 本当にありがとう 」


「ごめんな、一刀。ちょっと三人で湯浴みをしてきてさ、だから時間かかっちまった、待たせちまって本当にごめんな? しっかし、一刀の鎧って物凄く特徴あるよな? 遠くから見てもすぐに一刀だって判るし 」


「いや、そんなに待って……って、三人とも何でそんなカッコしてんだ? 目のやり場に困るぞ、それ…… 」



 後ろを振り返って、自分の視界に入ってきた三人の恋姫たちの姿に一刀は表情をほころばせるが、その彼女らの格好に思わず目が点になる。何故なら三人とも長衣を纏っていたからだ。おまけに、それの合わせ目から見えるのは彼女ら三人の豊満な胸の谷間で、しかも長衣が彼女らの体にぴったりと張り付き、それぞれ女らしい体型が浮き彫りになっている。



『ウホッ! 何回も見てるけど三人ともオッパイ結構でかいよなぁ~。蓮華と翠はEはあると思うし、桃香は……G、いやHかも? それに長衣が三人の体にピッタリ張り付いてて……もしかして三人とも下は裸? なら、裸エプロンならぬ裸長衣とか……やべ、想像しただけでオイの『御岳』の火山活動が……! 』



 どう見てもその下は裸だと理解すると、熱い男の滾りを感じ思わず前かがみになる一刀どん。これまで三人と交わした情交の回数は既に三桁を超えたというのに、未だに彼女らへの新鮮味を失ってないところはある意味『ご立派な漢』と言えもす。その一方では、茂みや物陰に隠れたお嬢様たちが、あちらこちらで成り行きを見守るべく息を潜めていた。



「ねぇ、雛里ちゃん。これって桃香様たち一刀様を誘ってるんだよね? でも、何で一刀様鎧を着てるのかな? 」


「うん、この状況だと間違いないよ? ねぇ、朱里ちゃん。もしかすると、一刀様がそれ着てるのって……普段とは違う状況でしたい願望が桃香様たちにあるんじゃないのかな? ……だけど、朱里ちゃん。それを見る為、わざわざ桃香様の唇の動きを読んで待ち合わせ場所を調べるなんて……  」


「ええとね、以前怪我や病気で上手く喋れない人の看護をした時に、水鏡老師がそれをしていたのを覚えたんだよ。覚えておけばいざと言う時に便利だし、今度雛里ちゃんにも教えてあげるね? 」


「う、うん……(確かに、何かあったときに使えるかも) 」



 先ほどまで桃香や雪蓮に助言をしていた時とはえらい違いで、こっそり隠れて『艶本』を読んでいる時と同じ雰囲気な朱里と雛里。元々この二人は『そちら』の好奇心が人一倍強かったし、おまけに一刀と桃香達が繰り広げる秘め事が自分の間近、それも日常茶飯事で行われていたから、彼女らに取りそれは本よりも強烈な生の知識でもあったのだ。



「朱里と雛里の後をつけてみたらまさかの大正解なのはいーんだけど……まだ脱がないの? さっさと脱いじゃえばいーのに……それにしても、何で一刀お兄様鎧着てるんだろ? ……まさか、本当に『敵将に犯される捕虜』ごっこでもするのかな? でも、そんな感じでされて見てもいい……かな? 今日こそは、ね? 」



 蒲公英はじれったそうな感じでやり取りを見ていたが、既に彼女は衣服を脱ぎ始めており、更に下着まで脱ごうとしていた。実は彼女、初めて逢った時から一刀に好意を抱いており、更には雪蓮の悪質な悪戯とは言え、互いに裸で密着して寝た事からもっと強く彼を意識するようになっていたのである。それ以降姉同然である従姉の翠を一刀にたきつける行為をしていたが、その反面『彼と男女の関係になりたい』と桃色願望を胸の奥に潜めていたのだ。



「ふふっ、去年(陽翟(ようたく)での愛紗と星による一刀への逆夜這い)は翠姉様に見つかって失敗したけど、今度こそは……クシュンッ! ううっ、さぶっ……! 調子に乗って全部脱いじゃった。まっ、いーか? どーせ、お兄様にあっためて貰うし♪(注:飽く迄も予定です) けど、その前に準備運動しなくっちゃ♪ んんっ……♪ 」



 と、馬三姉妹の末妹(まつまい)馬鉄とは別の意味での双璧をなし、馬騰と龐徳の頭痛の種になってる『西涼暴走娘』の片割れ馬岱こと蒲公英が、下着も脱ぎ終え全裸待機に入ると、彼女は淫らな表情で両手をあちこちと自身の体に蠢かせ『準備運動』を始める。それが一体どんな物なのかは……皆さんのご想像にお任せしたい。



「姿を追って色々探し回った挙句、ようやく辿り着いたのが中庭だなんてどこか普段とは違いますわね? それにしても、何で一刀様は鎧を着ているのかしら? まさか、一刀様や桃香姉様にこう言ったシチュエーションでHをするご趣味があるとかっ?! ああっ、そんなご趣味は余りにもはしたな過ぎで、物凄く危険ですわっ! ……でも、何て背徳的で甘美な雰囲気が漂ってるのかしら 」



 そうただれた桃色妄想を膨らませるは、これまた別の方から除き見ている璃々香さん。彼女も彼女で、章陵で一刀と星の『やり取り』を覗き見して以来、一刀が誰かと情事に耽っている現場を見掛けた際必ずと言っていいほど覗き見しており、言わば『覗き』の常習犯であった。余談であるが、彼女も他の恋姫達と同じく、朱里や雛里から秘蔵の書物――特に艶本――を貸して貰い、そちら方面での想像の翼を良く羽ばたかせていた物である。



「いつか、(わたくし)もこう言う風に章仁様と……んんっ…… 」


 そして、いつしか彼女も蒲公英と同じく息を荒げ始め、自身の昂ぶりを鎮めるべく『孤軍奮闘』に耽り始めていた。かと言え、璃々香は安易に一刀に身を委ねようと思った事は一度も無い。何故ならば、彼女が想いを寄せる男は、友人の高坂(こうさか)羽深(うみ)の兄で且つ一刀と同じ剣道部に所属していた高坂(こうさか)章仁(あきひと)である。それに対し、一刀は『頼れる兄のような存在』に過ぎなかった。現に章仁の名を声に出し、自身を落ち着かせているのもその表れであろう。


 この世界に迷い込み一年ほど経つが、共に迷い込んだ高坂兄妹と不動(ふゆるぎ)如耶(きさや)の行方は未だ判らず、一刀や桃香と言った協力者達を得た物の、心の中にはずっとやきもきした物が住み着いていたのである。彼女が今している行為は、ざわめいた自身の心を落ち着かせる手段の一つでもあったのだ。



「ねぇ、一刀さん。何で私たちが一刀さんをここに呼んだか判る? 」


「え? 」



 と、あれこれ桃色妄想に耽っている恋姫たちに気づかず、桃香が一刀に問いかけるが当の彼は小首をかしげる始末。そして、それに続く様に蓮華と翠も一刀に問いかける。



「一刀……昨年の黎陽(れいよう)での事だけど、毒矢に倒れたあの時私たち三人が出た夢を見なかったかしら? 」


「……夢だって? 」


「そう、夢。さっきたんぽぽにも言った事だけどさ、こんな風に綺麗な星空の中をあたしら三人とも漂ってたんだ 」


「……星空の中を漂ってた? うーん……全然覚えが無いんだ。それと、何で俺に鎧着て来いって言ったんだ? ここら辺も説明が欲しいし。あと繰り返し言うけどさ、何で三人ともそんなカッコしてんだよ? それの意味が全然わからないんだけど…… 」



 そう沢山の疑問符を浮かべながら一刀が言うと、桃香はニッコリと屈託の無い笑みを満面に浮かべた。



「何でこんなカッコしてるかって? じゃ、その意味を教えてあげるね♪ 蓮華ちゃん、翠ちゃん 」


「ええ、その意味は…… 」


「ああ、こう言うことだよっ!! 」


「んなっ?! 」



 桃香に続いて蓮華と翠が言うと、彼女ら三人は一気に長衣を脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿を星空の下に曝け出す。突然の出来事に一刀は目を白黒させてしまい、朱里を始めとしたこっそり覗き見ていた娘達も、声こそ出さなかったが思わず息を呑んでしまった。



『ひ、雛里ちゃん。桃香様たちが脱いだよ!? いつ見ても思うけど……桃香様たちの体つき羨ましいよね? とても女らしいし……それに比べて私達なんか……完全な幼児体型だもんね 』


『そうだよね、朱里ちゃん……私もそう思うよ? あぁ……私も桃香様みたいになりたいな。特に胸が…… 』


『はぁ……やあっと脱いだんだぁ……さて、後はどうやって入り込もうかな? 何せ、翠姉様がいるから、下手な真似すれば返り討ちにされちゃうしね? 』


『ああっ、何て大胆な……一刀様たち、一体これからどんな淫らな事をするのかしら?  』


「さっ、三人とも一体ナニを?! じゃなく、何をっ?! はっ、早く服を着ろよっ! 」



 と、これから起こるであろう情事に思い切り期待を込め、熱いまなざしを送る四人娘。それを他所に、もう判らずじまいと言った風で大慌てになる一刀。そんな彼に、桃香達はゆっくりと歩み寄った。



「一刀さん、行き成り私達が裸になって取り乱すのは判るけど。取り敢えず落ち着こうよ、ね? 」


「と、桃香……うん、判った 」



 そう笑顔の桃香に優しく諭され、一刀は自身を落ち着かせると、次に蓮華と翠が口を開いた。



「一刀……さっきの夢の話だけど、私達は今みたいに裸で星空の中に漂ってたのよ 」


「で、あたしらは何でこんなカッコでここにいるんだろって考えてたら、あたしたちを呼ぶ一刀の声が聞こえてさ 」


「俺が? 君ら三人を呼んだって? 」


「うん。確かにあの時一刀さんは私達を呼んでいた。で、ここにいるよーって答えたら、鎧を着た一刀さんが今みたいに私達の前に姿を現したわけ 」


「そうなのか? 」


「ああ、その通りだよ。で、お前はあたしたちにこう言ったんだぞ? 俺の事に構わず潁川に向かえって 」


「だけど、それでも私達は決断を下せないでいたわ。だけど一刀、あなたは昔照世老師から教わった事を引き合いに出して、更にこう言ったのよ? 悪戯に情に振り回されて、今自分がすべき事を見失わないでくれって……どう、思い出せたかしら? 」


「あの言葉のお蔭で、私達は立ち直る事が出来たし、黄巾討伐に再び立ち上がる事が出来たんだよ? おまけにね、私達三人ともあの時同じ夢を見ているの。そして次の朝、夢から醒めた私達が見た一刀さんは安らかな顔を浮かべていた。それを見て、私達は※2皇天后土が私達と一刀さんを夢の中で逢わせてくれたんだって思ってたんだよ? なのに、その一刀さんが覚えてないって言うのは……正直悲しいかな? 」 


「ああ、桃香の言うとおりだよ。なぁ、一刀……これでも思い出してくれないのか? 」


「お願い一刀……思い出して 」


「…… 」



 そう言って伏目がちになり、桃香は悲しげに一刀の顔をじっと見つめると、彼女に続き翠と蓮華も彼女と同じ表情で彼を見つめてくる。それに対し一刀は何も言えなくなっていたが、自分も負けじと彼女らをじっと見つめ返す。思えばこの三人の恋姫とは楼桑村で過ごした日々から黄巾討伐の旗揚げ、そして現在に至るまで幾たびも心と身体を重ね、互いに支え合って来た。



 ――最初に想いを通じ合わせた桃香――


 ――桃香と共に契り強く想い合う様になった蓮華――


 ――互いを理解し自分に想いをぶつけてくれた翠――



 そんな愛しい彼女等に、一刀は自分の胸がグッと熱くなるのを感じる。



「っ……!? 」



 胸にこみ上げてくる物が影響したのだろうか、一刀の脳裏にあの時の事が鮮明に蘇ってくる。



「ああ……そうだ、思い出したよ。確かに俺はあの時夢で君たちに逢った。そう、意識を失う直前、俺は君等の事が物凄く気がかりだったんだよ。もしかすると、俺に感け(かまけ)っきりになって黄巾賊の事を放っぽり出すんじゃないかってね? 」


「一刀さんっ、思い出してくれたんだ!? 」


「嬉しい……一刀、思い出してくれたのね? 」


「一刀ッ……! そうだよ、確かに一刀は今言った事をあたし達に言ったんだ 」 


「ごめんな……すっかり忘れちまっててさ。偉そうな事を君たちに言ったくせに、俺ってホント駄目だよな? 」



 嬉しさで顔を綻ばせ三人が一刀に駆け寄ってくると、当の彼は気恥ずかしさの余り苦笑交じりで頭を掻く仕草をするが、如何せん兜を被ってる為それが出来ない有様だ。そんな彼が余程滑稽に見えたのか、彼女らからくすりと笑い声が上がった。



「でも、本当に良かった、思い出してくれて。私達がこうして体を張って、裸を見せた甲斐があったよね? 」


「ええ……それにしても、夢の内容を再現する為とは言え、物凄く恥ずかしかったわ…… 」


「全くだよ。これやる為に、わざわざ見回り担当の壮雄や固生に無理言って、誰も来ない様にさせたんだからな? 」


「…… 」


「ん? 一刀、どうしたんだよいきなり黙りこくっちゃってさ? 」



 と恥ずかしさで顔を赤らめ三人が言うと、一刀は行き成り黙り込む。すかさず怪訝そうな表情で翠が覗うと、彼はニヤリと助平そうな笑みと共にじっと彼女を見やる。



「フウッフッフッフッフ……翠さ~ん。あの後俺に言った言葉覚えてるかな~? 」


「へ? へ? あ、あたしお前に何か言ったか? 」


「君は俺にこう言ったんだぜ? “良くなったら、あたし等をまた抱いてくれよな!? 約束だぞっ!?”ってさぁ~? 忘れたとは……言わせんよぉ~~? フォッフォッフォッフォッ~ 」


「なっ! #×△■☆@*~~~!!! 」



 今一つ合点がつかめず目が点になる翠であったが、次に彼が言った言葉に、彼女は何時もの様に言葉に詰まり錯乱した。そして、彼女ら三人の脳裏にあの時のやり取りが鮮明に蘇ってくる。 



 ――当時の回想――



“ああっ、だから一刀は早く良くなってくれよ? そして……その……。※◎△■☆~~~!! ああっ、めんどくさい!! 良くなったら、あたし等をまた抱いてくれよな!? 約束だぞっ!?”


“あはははははっ! たっ、確かにそれは重要な事だな? 判ってるよ、俺の方だってまだまだ君達を抱きたいと思ってるんだ。こんな所で死ぬ訳には逝かないよ?”


“あはははっ! そうだね、一刀さんにはまだまだ頑張って貰わないといけないんだから。だって、私一刀さんと子供をたーくさん作りたいと思ってるし♪”


“うふふふふっ、そっ、それは確かに重要よね? あと、桃香。私だって一刀との間に子供を沢山作りたいと思ってるのよ? 桃香や翠に出遅れる積りは更々無いわね?”


“なっ!? @×△∀※~~!! おっ、お前等そんな事考えてたのかよっ!? ちっくしょぉ~~! こうなったらあたしも負けてられっか!! おい、一刀! 潁川で子作りすっからなっ? だから、逃げんじゃないぞっ!? 無事に西涼に帰ったら、そん時母様の前であたしの子を見せつけてやる!! そしたらこう言ってやるんだ、『あたしの子だ。今日から母様は『お婆様』だ 』ってさ!”



 ~~~※※※~~~



「あ~~、うん。確かにそんなやり取りあったよね? 私も今思い出しちゃった、あははははは…… 」


「もうっ、一刀ったらそう言う事はすぐに思い出すのね? 本当にいやらしいんだから……でも、一刀らしいと言えば一刀らしいわね? 」


「あ、あたし……今思えばとんでもない事言っちまったんだよな……物凄く恥ずかしい 」



 顔を赤らめ、力なく笑い声を上げる桃香。もじもじと身悶えしつつ一刀をチラリと見やる蓮華。恥ずかしさの余り、頭を抱え込んでしまう翠――と、それぞれ反応は三者三様であったが、そんな彼女らに一刀は鼻息荒げて言い放つ。



「ふっふっふー。丸裸のおはんらに、今のオイは正直辛抱タマラーン!! おっ、丁度良い所に東屋(あずまや)がある……と言う訳で、三人ともそこに手をついて貰おうかな? 」


「うわぁ……一刀さんが物凄くなってる 」


「ええ……いつもより物凄くなってるわ 」


「あ、ああああ……何で、そんなになるんだよっ?! 」



 熱く燃え盛る『御岳』を堂々とそびえ立たせ、池のそばにある東屋を指差して一刀が言うと、三人は一瞬戸惑いの表情を浮かべる。



「まぁ、いいかな? えへへ、実は結構期待してたんだ♪ 」


「もうっ、桃香ったら……でも、私もこうなるんじゃないかなって思ってたの。私達からこんな事したら、一刀はすぐに食らいついて来るんじゃないかって? 一刀、思い出してくれたご褒美をあげるわ。ちゃんと貰ってくれないと許さないわよ? 」


「だな? 一刀って基本助平だし。それに、抱いてくれ云々に関しては元はあたしが言い出したことだ……『隗より始めろ』って故人も言ってるだろ? だったら、その通りにしないといけないよな……(そう、本当に一刀の子供が欲しい……母様の無事が判らない今だからこそ、何が何でも母様見つけ出して、あたしと一刀の子の顔を見せてやりたいんだ! ) 」



 だが、すぐに吹っ切れたのか彼女らは笑みを浮かべると、言われたとおりに東屋へ向かいそこを囲う手すりに手をつける。そして、何ともあられな光景が一刀の前に広がった。



「おおっ、おおっ……今オイの目の前にうまそな(美味そうな)桃が三つ、いずれも甘そな蜜をしたたらせとうぞ……!! 白くってみずみずしそうな楼桑村の桃! 大きくって実も柔らかそうで食べ応えのありそうな長沙の桃! そして……身が引き締まってるが、味と香りが濃厚そうな西涼の桃! ううっ、オイは幸せ者ぢゃっ! こげんうまそな桃を三つも()がなっとは……嗚呼、男児として生を受けて今日ほど嬉しかと思ったこつなかっ! 」


「かっ、一刀さん、そんな事言わないで……物凄く恥ずかしいよぉ~~ 」


「一刀、お願い。余りじらさないで……こんな格好物凄く恥ずかしいわ 」


「一刀……今夜の『一番槍』はあたしにくれよな? いっつも桃香か蓮華だし……たまにはいいだろ? 」



 と、三人が懇願してくるがそれに対し一刀はきっぱり言い放つ。



「待ちんしゃいっ! オイはこげん格好でする趣味はなかよ? ※4この前の(てき)の一件もあるんだ、たんぽぽじゃないけど鎧着たままじゃ、まるで君らを犯してるみたいで嫌じゃん? 」


「一刀さん…… 」


「「一刀…… 」」



「そいと……こげん重か鎧兜着たままおはんらとしたら腰を痛めてしまう! 以前、あたいはおはんらとし過ぎて腰痛めた事あったし、また喜楽老師の世話になる羽目になるのは御免だしね? ハハハハ…… 」



 最初は勢い良かった物の、後で弱々しげに一刀が言った言葉に三人とも思わずプッと噴出し笑いをしてしまう。それを見て、一刀はニコッと笑みを浮かべた。



「どれ、緊張は解けたかな? それじゃ……フオオオオオオッ! クロース、アウーッ!! 」



 と、どこぞの変態チックな仮面野郎の如く一刀が叫ぶと、鎧兜は言うに及ばずその下につけていた服や下着まで一気に脱ぎ捨て、彼女らと同じ生まれたまんまの姿を星空の下に曝け出す。先ほどまで兜を被っていた為髷は結っておらず、長く伸ばした髪を振り乱し、筋骨逞しい裸身を曝す様は正に『チン撃の巨チン』とも言えた。むしろ、鎧を着ている時よりこちらの方が野蛮そうな雰囲気がしてくる。



「それじゃ、お望み通り今夜の『一番槍』は翠から行くよ? 桃香と蓮華もそれでいい? 」


「「…… 」」



 そう一刀が二人に言うと、彼女らはにこりと笑みを浮かべて無言で頷く。それを見て、一刀はそっと翠に覆い被さると、彼女の耳元で優しく囁いた。



「それじゃ、翠……行くよ? 」


「ん、一刀……来て 」



 両目を閉じ、やがて来るであろう強く、そして甘美な刺激を期待する翠。



「…… 」


「ん? 一刀、どうしたんだ……って、んなっ?! 」


「ほ、ほーるどあっぷ…… 」



 が、それが来ない。『また焦らす積りなのか?』――そう思い、両目を開けて翠が怪訝そうに一刀の方を見てみれば、彼は思い切り表情を強張らせて両手を上に揚げており、その様子に彼女は思わず絶句してしまう。何故ならば、彼の頭の左右両側には青龍偃月刀と槍が背後から突きつけられおり、それらはいずれも刀身を青白く煌かせていたからだ。



「私達に黙って一体何処へ逝くお積りなのですか、一刀様、それに義姉上たちも? ……まさかこの様な抜け駆けをなさるとは……キチンと納得のイク説明をしてもらいますよ? 」


「フフフ……よもや、我々を除け者にしてイクお積りだったとはなぁ? しかも王殿下がおわす城の中庭でお励みになさろうとは……桃香様、それに蓮華殿も翠も大胆な真似をなさる。(ねや)に関しては君臣の身分並びに役職の上下、そして義姉妹の順序も関係無し――故に一刀殿と契る時は事前に知らせると先日約定を交わしたばかりではありませぬか? まさか、三人揃ってそれを破ろうとは……いやいや、随分と舐められた物ですな? 」



 と、おっかない台詞を吐くは愛紗と星。あの後、彼女らも桃香達を追い先ほどの朱里と同じく星が桃香達の唇の動きを見て、それから待ち合わせ場所と時刻を察知していたのである。



「あ、愛紗ちゃんに星ちゃん!? 違うの、これは抜け駆けじゃないの。だから、二人とも矛を収めて 」


「二人に言っておくけど、これは誤解よ? だから、闇雲に得物を突きつけないで 」


「そ、そう、そうだっ! 桃香と蓮華の言うとおり! 大体、お前らだって何だかんだ言う割には、最初は抜け駆けだったじゃないかっ! 」


「うっ、そ、それは……だが、今は関係のない話だ。おまけに、その様な格好の何処に『抜け駆けじゃない』だの『誤解』だのと言えるっ?! 」


「くっ、確かにそうであったが、愛紗の申すとおりそれとこれとは別問題! さぁっ、どういう事なのか事情を説明してもらおうか? 」



 翠にやり返され、一瞬言葉に詰まるもすぐに居直る愛紗と星。だが、そんな二人を翠はジトッと半目で見るや、呆れ顔になる。



「ちゃんと説明するけどさ……何で二人とも素っ裸なんだよ? 裸で得物を一刀に突きつけるなんて、お前らだって『やる気満々』じゃないか? 」


「えっ? おおっ、確かに…… 」



 そう、翠が指摘した通り確かに愛紗と星は一刀に得物を突きつけていたが、二人とも全裸、それも一刀と情事を交わす時と同じく普段纏めている髪を下ろしている。こんな状況では、どう見ても一刀からお情けを貰おうと言う魂胆が見え見えであった。ついでに一刀もちゃっかり後ろを振り向き、全裸で得物を構えてると言う滅多に見られない二人の艶姿をじっくりと観賞していた。



「なっ…… 」


「うっ…… 」


(愛紗は推定GかHで桃香と同じ位、星は翠や蓮華より少し小さめだからCかDってとこかな? それにしても、全裸で得物って……妙にエロいな? )


「一刀……今夜の一番槍はあたしだって言ったろ? なのに、何で二人の裸ジロジロ見てんだよっ!! 」


「いだだだだっ!! ゴメン、ゴメンナサイ! 俺が悪かった!! 」



 不謹慎にも愛紗と星の胸の大きさを推測し、デレデレと鼻の下を伸ばす一刀。当然ながら『一番槍』の翠にはそれが面白くも無く、彼女は眦を吊り上げると、だらしない彼の頬を思い切りつねった。



「愛紗ちゃん、星ちゃん……確かに二人に何も言わずにこんな事をしたのは謝るけど、キチンと理由があるんだよ? だから、話を聞いてもらえないかな? 」


「義姉上…… 」


「桃香様…… 」


「実はね、さっき翠ちゃんがたんぽぽちゃんに言った事にもあったんだけど、昨年黎陽でね…… 」



 真剣な表情で桃香が愛紗と星に言うと、二人とも先ほどまでの物とは一転し、揃って神妙な表情になった。そして、桃香は二人にも黎陽での出来事を話し始める。二人は黙って話を聞いていたが、当時の事を思い出していたのだろうか。星は何度も深く頷きながら相槌を打ち、一方の愛紗は苦くそして辛い出来事が改めて脳裏に思い浮かび、物凄く辛そうな表情になっていた。



「なるほど、桃香様たちはあの時夢で一刀殿と……こんな夢を見られたのなら、私ももっと早く一刀殿と深い仲になりたかった……然し、星空の中でお三方も裸だったとは、若しやすればそれは一刀殿の願望の表れかも知れませんぞ? フフッ、それにしても桃香様たちが物凄く羨ましい。私もその夢の中に入りたかった 」


「あの時、私の心は強い自責の念に激しく苛まされ、重く押しつぶされていた。だが、そんな私よりも義姉上達の方がもっと辛い思いをしていた筈。なのに、それでも気丈に振舞えていたのはその夢のおかげだったのですね? もし、あの時私も義姉上たちと同じくその夢を見ていれば、もっと早く立ち直れていたかもしれません。故に……義姉上達が羨ましいし、正直妬ましいとも思えます 」



 と、星と愛紗が羨望と嫉妬の念を交えた眼差しを三人に向けるが、それに対し彼女らはそれぞれ苦笑いや少しの呆れを交えて応じる。



「あはははは……それはしょうがないかな? だって、二人ともあの時点ではまだそこまで一刀さんと深い仲になっていなかったよね? 」


「桃香の言う通りだわ。当時の星は一刀と親しくなりかけていたけど、愛紗は未だに一刀を受け入れていなかったじゃない? 」


「だな? それに対し、あたし等はあの時点で既に一刀とはそれなりに長い付き合いだったんだ。お前らも知ってると思うけど、大興山の戦いからあたし等三人一刀と閨を過ごしてただろ? それ位一刀とあたし等との絆が深かった証なんだよ 」


「「…… 」」



 三人にそこまで言われ、愛紗と星は押し黙ってしまう。やや気まずそうな雰囲気になりかけるが、一刀の言葉で破られた。



「待ってくれよ、みんな。確かに俺と桃香達の絆が深いのは事実だ。じゃっどん、こげんオイに極上の可愛い娘が五人も慕ってくれてるんだ。正直オイは夢を見た見ん、或いは絆を深めた期間の長短で差別したかとも思ってなかよ? 不器用で、どうしようもなく度助平なオイだけど、出来るだけ等しく愛したいと思ってる!! こいがオイの本心ぢゃっ! 」


「一刀さん……ありがとう。でも……勢い良く『ソレ』を突き出したまま真顔で言われると……だ、駄目ッ、笑いをこらえきれないよ~~!! あはははははははははっ!! 」


「だ、駄目よ桃香! わ、私だって我慢していたのに!! ご、ごめんなさい一刀。私ももう限界!! うふふふふふふふっ! 」


「かっ、一刀~~!! マジで言ってくれるのは嬉しいけど、ソレを上下にブンブンさせながら言わないでくれよ~~! 見てるこっちが恥ずかしいってばっ!! 」


「かっ、一刀様……その、すごく立派です。ですが、そちらの方まで『ご立派』にそびえ勃たせたまま言われてしまいますと…… 」


「はははははっ、流石は『劉家の種馬兄弟』の片割れだけはある。まさか、己が泰山をそびえ立たせたまま真顔で愛を語られるとは、いやいや、これでは感銘を受けるどころか笑いを誘ってしまいますぞ? 」


「しょーもねだろ!(しょうがないだろ!) こやおとこんこ(男子)の生理現象なんじゃって! ……大体、可愛い君たちがすっぽんぽんで俺の目の前にいるんだ。これで勃たなかったら、かなりの断袖野郎か或いは性的不能者だぜ? 」



 と、まぁご立派な『モノ』をおっ勃たせたままで、ご立派に愛を語った物だから、哀れ一刀は五人の恋姫から笑われたり、恥ずかしがられる始末。然し、すぐに彼が言った言葉に彼女らは顔を赤らめてしまった。



「どれ……中断しちゃったけど、さっきの続きしよっか? あ、愛紗も星も桃香たちと同じようにそこに手をついてくれるかな? 」


「一刀様、それはもしや…… 」


「一刀殿…… 」



 瞳を潤ませ、期待するかのような表情を愛紗と星が一刀に向けると、彼はニコリと笑みを浮かべる。



「こんな状況で君らを除け者にするほど俺は無粋じゃないよ? ……まぁ、その代わり明日俺の体がやばい事になるかもしれないけど、男冥利に尽きるってモンさ 」


「ふふっ、畏まりました……では、一刀様の望む通りに致します。私の身も心も、全て一刀様の物です 」


「一刀殿……等しく愛すると申したからには、その言葉に嘘偽り無くお願い致す……私とて、武人である前に一人の女に過ぎないのだからな? 」


「お、おおう…… 」



 そう言うと、二人とも桃香たちと同じく東屋の手すりに手をつけ、一刀の前に美味な桃が更に二つ追加される。そのモンのすごい光景に、彼の『剛槍』はまた更に天を衝く勢いにならんとしていた。そして、先ほどの約束を守るべく一刀は再び翠の背中にそっと覆い被さる。



「翠、待たせてゴメンな? それじゃ約束どおりいく……はあうっ!? あgふじkべsこrてQ~~~!! 」


「かっ、一刀!? 今度はどうしたんだ!? 」



 翠との行為を始めるべく、一刀が彼女に言おうとした瞬間の事であった。今度は意味不明の事を叫ぶや、彼は顔を青ざめさせ漫画的表現の如く、頭の上から滝の様な脂汗がとめどなく流れてくる。



「一体どうしたんだよ、一刀? 何があったんだ? まさか犬や猫が一刀の尻に襲い掛かったわけじゃ……って、なんだよこれ?! 」



 余りも様子が変だったので、何が原因かと思い一刀の方に向き直って彼の顔や体を見ていると、彼女はその異変の正体に気づいた。何と、何者かが一刀の背後から襲いかかるや、その股ぐらに手を突っ込ませて彼ご自慢の『剛槍』を思い切り掴んでいたのである。



「だ、誰だっ! 一刀の『ソレ』を掴んでるのは! 隠れていないで顔を見せろ! 」



 と、眦を吊り上げ翠が怒鳴り声を上げると、彼女がいつも聞きなれた叫び声が返ってきた。



「ここにいるぞ! 」


「なっ、たっ、たんぽぽ! 」


「げえっ、馬岱っ! 」



 そう、一刀の剛槍を掴んでいた侵入者は他ならぬ全裸の蒲公英であった。先ほどから目敏く突入する機会を覗っていた彼女は、今が好機と睨むと即座に行動に移し、一刀の剛槍が翠に振るわれる寸前にそれを阻止したのである。それに付け加え、どうやら彼女もお姉さまたちの真似をしたらしく、一刀と睦事に入る時の様に纏めた髪を下ろしていた。


 自分にとり想定外だった蒲公英の乱入に翠は驚きで目を大きく見開き、一刀はびっくり仰天と言った風で思わず『げえっ!』と叫ぶ始末。桃香たちも声には出さなかったが、それぞれ驚きの表情になっていた。だが、すぐに翠は気を取り直し、自分の邪魔をした小生意気な従妹を思いっきり睨みつけると、怒りを押し殺して言い放つ。



「たんぽぽ……何でこんな真似をっ!? まさか、お前もかっ?! 」


「あったりまえじゃん! たんぽぽだって一刀兄様の事が好きなんだもんっ! 翠姉様が好きになるずーっと前から機会を狙ってたんだからね? 」


「だったら、あたしのいないとこでもっと早く一刀に言えば良かったろうがっ、じゃなくっ! ☆◎:*>#……ッ!! 」



 と、自分が蒲公英に言い返した言葉が余りにも支離滅裂だった事に気付き、一瞬錯乱しかけた翠だったが寸でのところで自身を落ち着かせると、彼女の脳裏に以前蒲公英が仕出かした行為が鮮明に映し出された。



「……今思い出したよ。去年陽翟(ようたく)で愛紗と星が一刀に夜這いかけたあの晩、確かお前はドサクサに紛れて、ちゃっかり一刀の天幕に忍び込もうとしてたよな? 考えてみれば、お前も一刀に対してあれこれとチョッカイ出していたし、あたしより先に一刀と仲良くなってたもんな……楼桑村にいた時気付くべきだったよ…… 」


「とーぜんじゃん! 本当は、楼桑村にいた時にたんぽぽのはじめてをお兄様にあげようと思ってたのに、よりによって翠姉様に先を越されちゃったんだもん! そうなっちゃうと、中々好機を得られないんだよ? あっ、言っとくけどお兄様との翠姉様の初体験、たんぽぽ見ちゃったからね? 」


「な゛っ……おっ、お前あたしと一刀の『アレ』見ていたのかっ?! ……#Θи@~~ッ!!! 」



 と、一刀との初体験を蒲公英に見られていた事に、思わず翠は石のように固まってしまった。それを好機と見て、蒲公英は小悪魔めいた口調で一刀に囁きかける。一方の彼であるが、文字通り『タマ』と主導権を彼女に握られすっかり顔を強張らせていた。



「ねぇ……そう言う訳だからさ一刀お兄様。たんぽぽもお兄様の女にして……お・ね・が・い♪ たんぽぽね、アレから結構おっぱいも大きくなったし、翠姉様にも負けない位にお兄様好みの体になったと思うんだけどなぁ…… 」


「なっ…… 」



 確かに、彼女が言うとおり始めて会った頃に比べ、蒲公英は胸や尻が可也大きくなっただけでなく、少し背も伸び女らしい体つきに変わっていた。考えてみれば、始めて会ったのが彼是二年前。当時齢十五だった彼女も今年で十七歳になる。翠が一刀に抱かれたのも当時十七歳。年齢面で見れば何ら問題は無かった。だが、一刀からしてみれば、これ以上悪戯に関係を持った女性を増やすわけにはイカない――湯屋や娼館の遊女は勘定にはいれないが。



「ごめん、たんぽぽ。そこまでしてくれるのは嬉しいけど、俺はこれ以上――んぐおっ!! 」


「『いえす』か『はい』――お兄様に残された選択肢はそれしかないんだけど……? 」


「おごごごごごごご~~!! ち、力を入れるなぁ~~!! ツブサレル~~ッ!! 」



 申し訳なさげに一刀が蒲公英の誘惑めいた願いを断ろうとするが、その瞬間苦悶の表情に変わる。何故ならば、ニヤリと黒い笑みを浮かべた彼女が、彼の『ソコ』を掴んでいた手に力を入れたからだ。どちらかと言えば、武に秀でた恋姫たちの中では蒲公英は余り力が強くない方である。然し、無防備で曝け出されていた一刀の『御岳』を握りつぶせる位の力は持っていたのだ。



「たんぽぽちゃん、何もそんな真似しなくたって、キチンと普通に気持ちを伝えれば良いのに…… 」


「蒲公英、確かに貴女は最初から一刀に好意を持ってたわね? 始めて会ったあの日の晩、私達は酔った※5姉様に悪戯をされたけど、貴女だけは満更でもなさそうだったのを覚えていたわ? だけど、そんな真似をして一刀に抱いてもらえると思ったら大間違いよ? 」


「蒲公英よ、私と愛紗はお前と同じく力ずくで一刀殿に抱いてもらったが、流石にそれはいかがなものかと思うのだがな……? 」 


「三人の言う通りだ、その様に一刀様を脅す真似をしては、幾ら女好きの一刀様とてその気になれないぞ? 余り女の意地を通しすぎては、殿方の方から退かれてしまうという物だ 」



 一刀を脅し、強引にお情けを貰おうとする蒲公英を見るに見かねて桃香達が諌めるが、それに対し彼女はきっと眦を吊り上げ、四人を睨みつける。



「桃香姉様達は黙ってて! わかってると思うけどさ、たんぽぽや翠姉様達はずーっと女所帯で暮らしてきたんだよ? 父様と母様を早くに亡くしちゃって、琥珀伯母様に引き取られてから翠姉様、(るお)ちゃん、蒼ちゃんとは姉妹同然で過ごしてきたけど、歳の近い男の子と遊んだ事なんか一度も無かったんだもん…… 」


「たんぽぽ、お前…… 」


「そんな時ね、伯母様の付き添いで楼桑村を訪れて一刀兄様に初めて出会った。たんぽぽより二つ年上のお兄様は、とても眩しく見えたなぁ……もうね、理屈じゃないの。お兄様を見た瞬間、たんぽぽは本能で『ああ、この人はたんぽぽの良い人になってくれる人なんだ』って思ったんだから…… 」



 そう語る彼女の顔は、いつもの小悪魔めいた悪戯娘ではなく、一人の女性その物であった。それを見て何か悟ったのか、翠は一つ深呼吸して彼女を真っ直ぐ見つめ返す。



「判ったよ……なら、あたしがあれこれいう問題じゃない。一刀がいいというのなら、あたしは黙って認めてやる 」


「ちょっ、チョット翠サーン! そ、それって、どゆ意味デスカー?! 」


「お姉様、それって…… 」


「ねぇ、翠ちゃん。たんぽぽちゃんの気持ちも判るけどそれはちょっと…… 」


「翠、そう言う事は簡単に決めない方がいいわよ? それに、一刀の負担も考えないといけないし 」


「行き成り何を言っている、翠っ!? 義姉上や一刀様の気持ちを考えてそのような事を言っているのか? 」


「翠よ、血迷った事を抜かされては正直こちらとしても困るばかりだ。只でさえ我ら五人を日替わりで相手し、一刀殿の負担は可也の物だと言うのに、それに蒲公英まで加えてしまっては流石に一刀殿の体が持たぬぞ? 」



 意外な翠の言葉に驚く一刀と蒲公英。それに対しすかさず桃香達が翠に言うと、彼女は申し訳なさげに頭を下げた。



「ゴメン、一刀、それにみんな……本当にゴメン。たんぽぽはさ、あたしにとっては妹同然なんだ。だからさ、もし万が一母様だけじゃなく、あたしや妹達に何かがあった時。その時馬家を託せるのはたんぽぽしかいないんだよ……そのたんぽぽがあたしと同じく一刀に想いを寄せているんだ。だったら、これほど好都合な話はないよ。正直言って、今でもメッチャクチャ複雑な気分なんだけどなっ? 」


「翠姉様…… 」


「翠ちゃん……うん、確かにそうだよね? 翠ちゃんは馬家の跡継ぎとして自分の抱えてる使命があるんだもの。でもね、翠ちゃん。正直言って私も本音を言えば物凄く複雑なんだよ? 」


「翠、確かに嫡子の貴女が家の事を大事に考えるのは至極当然の事だわ。私だって母様や雪蓮姉様に何かあった場合、跡を継がなければならないから……でもね、私も桃香と同じで物凄く複雑な気分よ? 」


「一刀様と交わる事は子宝を授かる事。即ち、生まれて来た子に後を託す事を意味する。ましてや、翠は私や星とは異なり代々続く名家の家柄だ。翠が家の事を考え、蒲公英の事を認めるのも良く判る。だからこそだ? 蒲公英、それを踏まえた上で翠の気持ちをキチンと理解しなければ、例え義姉上や一刀様が認めても私が認めぬからな? 」


「ああ、それに関しては私も愛紗と同意見だ。蒲公英よ、お前の一刀殿に対する想いは良く良く判った。だがな、一刀殿と男女の関係になると言う事は、戯れだけではないのを忘れてはならぬぞ? 我らもそれなりの立場があるのだ。先ほど権利を声高に言った以上、それに伴う義務と責任が付きまとうのを忘れてはならないからな? 」



 と、苦渋の表情を浮かべ彼女なりに馬家の行く末を考え心境を吐露する翠に、蒲公英が神妙な顔で節目がちになると、桃香達は桃香たちでそれぞれ諦めの混じった複雑な表情になる。翠の理屈は判ったが、正直言って不承不承なのが彼女等の本音であろう。



「だもんな~~、只性欲の赴くままにしまくりゃいいってモンじゃないんだ。実はさ、今翠に言われて改めて気付かされたよ。俺のしてる事って物凄く重要な事なんだよな。なら、俺は翠の真剣な気持ちに答えたい。俺で良いのならさ、たんぽぽもおいでよ 」


「え? 一刀兄様? 」


「まっ、たんぽぽは初対面の時から俺に良くなついてくれてたし、本音を言えば妹が出来たみたいで嬉しかったんだよ。それに……出会って最初の『アレ』が原因で、翠に嫌われてた俺を良く慰めてくれてたしなぁ……ハハハハハ…… 」


「ニシシ、そーだったよね? 雪蓮姉様にトンデモナイ事されちゃったから、アレが原因で始めの頃翠姉様、一刀兄様をメッチャクチャ嫌ってたもんね? 」


「あ~~、そう言えば翠ちゃん最初のころ一刀さんを嫌ってたもんね? 『来るんじゃねー! この好色好色魔神!』って、一刀さんを思いっきり罵ってたし♪ 」


「だけど、そんな翠がいつの間にか一刀といちゃいちゃする様になったし……何でそうなったのか、その理由を知りたいところだわ? 」


「何? 翠は最初一刀様を嫌っていたと? 翠よ、良くそれで私や星の事をあれこれと言えた物だな? 」


「ほほ~~う? 一体両者の間に何があったのか詳しく知りたい所ですな? まぁ、先ほど蓮華殿や蒲公英の話に上がった『雪蓮殿の悪戯』で大方想像がつきそうですがな? 」


「@☆¥$%~~っ!! そ、そんな事思い出さなくってイイから!! 忘れろっ、忘れてくれ~~っ!! 」



 と、昔の事を思い出し一刀が乾いた笑みを浮かべると、それに続くように皆がにやついて見せれば、翠は恥ずかしさの余り何時もの様に錯乱する始末。それをきっかけに笑い声が上がると、暫くの間彼らは愉快げに笑い続けた。そのお蔭で場の雰囲気が和らいだのか、翠は苦笑交じりで蒲公英に言った。



「たんぽぽ、一応言っとくがお前は一番最後だかんな? 」


「えー!! どうしてさー!! だって、たんぽぽの初めてなんだよ? だったら、一番最初にするのが筋じゃないのさー!! 」



 意外な形で思惑を覆され、蒲公英は両目を吊り上げプンスカ怒るが、それに対し翠はジトッと半目で彼女を見やる。



「どーせお前の事だ。上手い事ちゃっかり割り込んで、一番最初にしてもらおうと思ってたんだろ? 」


「う゛っ! 」


「だけどな、今日の一番槍はあたしだ。これに関しては絶対に譲る気はないし、あたしだって『女の意地』がある。おまけにお前は今この中に入ったばっかだ。これ以上出しゃばろうモンなら……桃香や蓮華だけじゃなく、愛紗と星まで怒らせる事になるぞ? 」


「ううっ! 」



 止めを刺すかのように翠に言われ、蒲公英が固まると、それに追い討ちを掛けるが如く他の四人もそれぞれ彼女に言う。



「う~~ん、たんぽぽちゃん。悪いんだけど、最後まで我慢してもらえないかな? 今夜の一番槍は翠ちゃんからお願いされたから。それに一刀さんや翠ちゃん、私や蓮華ちゃんにいつも気を遣ってるし…… 」


「そうね? 今日まで待てたのだし、何も半刻に満たぬ時を待つ事くらい造作も無いことでしょう? じっと黙って待つのも淑女の嗜みの一つ。蒲公英、自分も一刀の女にしてと言った以上、貴女もそれなりの自覚を持たないと駄目よ? 」 


「二人の言う通りだ。翠が認めてくれたのだし、それ位の事我慢しないでどうする? これ以上の我儘は控えるべきだ 」


「なぁに、余り気にする事は無い。自分の番が回ってくるまでの間、我ら五人と一刀殿のまぐわいを見て、自分なりの『掴み』を探してみれば良かろうさ 」


「うう~~っ!! 」


「……んんっ? 」



 四人からそう言われ、うっすらと悔し涙を浮かべ、悔しげに唸る蒲公英。だが、そんな彼女を他所に蓮華が険しげに目を狭めると、とある方をチラリと見やる。何も彼女だけではない、他の面々も表情を強張らせ、あちらこちらへと睨みを利かせた。



「もしかして、蓮華ちゃんも気付いてた? 」


「ええ……誰か覗いてるわね? 」


「幾つかの気配を感じます。恐らくですが、下手人は一人ではないかと? 万が一の事もあります。義姉上と蓮華殿は私と星の後ろに 」


「全く、折角の一刀殿との甘い一時を……かくなる上は、必ず捕らえて丸裸にひん剥いてやろうか? 」


「どいつもこいつも……全く、そんなにあたしと一刀がするのを邪魔したいのかよっ!! 星、丸裸にひん剥くだけじゃ物足りない! こうなりゃ、逆さ磔にしてから城外で晒し者にしてやるっ!! 」


「あー、もしかするとそれって……(朱里たちかな?) 」


「たっ、たんぽぽ……そんな事より、いい加減そこから手を離せ~~っ!! これ以上やられたら、使い物にならなくなる~~っ!! 」


「あ~~、触ったの初めてだったから、つい夢中になって握っちゃってた。本当にゴメンね? それとも……『しごいた方』が良かった? 」


「確かにソッチの方が……じゃなくって! そ、そういう問題じゃないだろっ!! 」



 そんなやり取りを経て、愛紗・星・翠の三人がずいっと前に歩み出ると、彼女らは一斉に声を大にして叫んだ。



「そこで覗いてるのは誰だっ!? 今すぐ出て来い!! 」


「正直に出てくれば、今なら許してやる。だが、逃げよう物なら……それなりの報いを受けてもらうぞ? 」


「言っとくけどなぁ、こっちが裸だと思ってなめんじゃねーぞ? これでもあたしは昔素手で武器を持った奴を半殺しにした事あるんだからなぁっ!! 」


「「「……っ!! 」」」



 と、丸裸にもかかわらず、三人の恋姫が戦の時の表情で気配のある方を睨み付ければ、途端にその先にある茂みがガサリと揺れる。無論、そこに隠れているのは朱里に雛里、そして璃々香の三人であった。



『は、はわわわわわ~~!! どどど、どうしよう雛里ちゃん? 』


『あ、あわわわわっ! こ、こうなったら、早く逃げなくっちゃ 』


『ううう~~、に、逃げなくては。でも、あの三人が相手じゃ逃げ切れなさそうですし、一体どうすれば…… 』


「義姉上、蓮華殿。どうやら、下手人どもは二手に分かれているようです。いかが致しましょうか? 」


「愛紗ちゃん……お願いするね? 」


「もしかすると、覗きではなく他所の間者や刺客とかも考えられるわ。だけど、深追いはしないで。こんな状況、他の人達に見られたら……私達一生物の赤っ恥になってしまうし、逃げられたら逃げられたで、そのまま放置して構わないわ 」


「御意。それでは、星、翠……三つ数えたら一斉に飛び掛るぞ? 」


「ああ、任せておくがいい 」


「あいよ、任せとけってんだ! 」


「それでは、行くぞ? 三、二、一……今だっ!! 」


「応ッ! 」


「うっしゃあっ! 」



 当然、それを見逃さぬ愛紗達ではなかった。すかさず愛紗が桃香と蓮華に伺うと、二人は下手人の捕縛を命ずる。次に愛紗は傍らの星と翠に呼び掛けると合図を数え始め、数え終わったその瞬間三人は一斉に飛び掛った。



「は、はわわ~~っ! 」


「暴れても無駄だ、大人しく観念しろっ……って、朱里ではないかっ?! 何故? 」


「あ、あわわわわわ~っ! 」


「ふむ、愛紗が朱里を捕まえたと言う事は……矢張りこちらは雛里であったか? 」


「いやああ~~っ!! はなしてくださいましっ! 」


「お前は楊儀……何でこんな真似したんだよっ?! コイツ……マジでひん剥いてやろうか? 」


「翠、それは後でいい。先ずは義姉上たちの前に引き出すぞ? 星もそれで良いな? 」


「ああ、わかったよ 」


「うむ、承知した 」



 当然ながら、筋力、敏捷力と言った身体能力面で朱里たち三人が愛紗と星、そして翠の三人に適う訳が無い。一刀と恋姫達の秘め事を覗いていた三人であったが、あっという間に愛紗達に捕まってしまうと、桃香達の面前に引き出されてしまった。




――七――



「ええと…… 」


「あ、あの…… 」


「ううっ…… 」


「「…… 」」



 愛紗達に捕まった朱里と雛里、そして璃々香の三人。彼女等はいずれも気まずそうな顔で全裸の桃香と蓮華の前に正座させられており、それに対し桃香と蓮華は何れも無言のまま訝しげな眼差しを彼女等に向けていた。先程まで自分等と一刀との秘め事をこっそり覗かれていた訳であるから当然と言えよう。



「まさか、朱里と雛里、それとオマケに璃々香まで覗きをしてたとはな? はぁ~あ、三人に俺の『御岳』見られてたのかと思うと……一刀君、物凄く恥かしいっ! 」


「えーと、たんぽぽ達は女だからいーけどさ? お兄様は男なんだし、「ソレ」を隠した方が……とりあえず、たんぽぽが隠してあげるね? それっ! 」


「オウフッ?! 」



 そうわざとおどけた振りをしていた一刀であったが、彼の『御岳』は依然雄々しくそびえ立ったままで、それを隠すべく蒲公英に思いっ切りグニャリと掴まれると、顔を青ざめさせ悶絶する始末。



「た、たんぽぽ……オイの「御岳」を思いっ切り掴むなんて……そ、そげん隠し方があるか! 普通、布とか巻いたりするだろ? さてはわざとだなっ?! 」


「あ、ばれたー? ニシシシシ。ごめんね、痛かった? 今度こそちゃんとしてあげるね? それとも……たんぽぽがお口で隠してあげよっか? 」


「あ、それ良いかもって、そうじゃなくっ! もうっ、いい加減にしてくれっ!! でないと、俺等翠に殺されるぞっ! 」


「かぁ~~ずとぉ……それにたんぽぽおっ!! 」


「スンマセンッ! ゴメンナサイッ! オレガ悪カッタデスッ! 」


「あ~~、ゴメンね、一刀兄様に翠姉様。悪乗りが過ぎちゃったかな? 」



 性懲りもなく、舌なめずりして蒲公英が一刀の『御岳』を妖しく一瞥し可愛らしいお口を大きく開けて彼を窺うが、それに対し一刀は冷や汗まみれの体で大声で叫ぶ始末。次の瞬間、翠が鬼の形相で二人を怒鳴りつけると、一刀は思いっきり彼女に平謝りし、蒲公英は蒲公英で気まずそうに一刀と翠に謝った。



「さてと……三人とも、何でこんな真似をしたのかな? 」


「桃香、そんな事聞くまでもないわ。大方、私達が一刀としている所を興味本位で覗きたかったのでしょう? それに朱里や雛里からは『その手の知識本』を貸してもらう事もあったし、楊儀も楊儀で普段はツンとお澄まししてるけど、その手の話題に耳聡い所も在ったじゃない? 」


「ああ~、言われてみれば確かにそうだよね? 」


「「「ッ!? 」」」



 蓮華の指摘に三人がビクッと固まると、続けざまに星が口を開いた。



「……そう言えば、以前章陵にて一刀殿との『乗馬の練習』に励んでいた折、誰かの視線を感じたの思い出した。もしや、あの時覗いていたのは楊儀、貴様だな? 」


「ひうっ!! あ、あの……ごっ、ごめんなさいましっ!! 確かに、私あの時興味本位で子龍様の一刀様との『乗馬の練習』を覗いておりましたっ! すぐに向寵(しょうちょう)さんに止められたから、ばれなかったと思っておりましたっ! 真に申し訳ございませんっ!! 」


「ふむ……正直に白状したから許すと言う訳でもないのだが……まぁ、いい。然し、白霧(ぱいうー)(向寵の真名)め……後で〆てやる 」



 白状した璃々香に対し何ともやるせなげな表情になると、この場にいない※6従姉妹への怒りを募らせる星であったが、今度は桃香たちが怪訝な表情になった。



「『乗馬の練習』? ねぇ、星ちゃん……それ、どういう意味か後で詳しく教えてもらえないかな? 」


「そうね、どうやらその様子だと章陵で一刀を思いっきり独占したみたいだし、一体どんな感じで一刀と『乗馬の練習』をしたのか、私にも事細やかに教えてもらおうかしら? 」


「おい、星ッ! あたし等はあの時ず~~~っと我慢してたのに、お前って奴は~~っ!! 」


「星……後で練兵場で手合わせ願おうか? どうやら貴様には力ずくで聞き出さねばならぬ事が沢山ありそうだしな? 」


「どういう意味とは、これまた心外ですな? 私はただ、桃香様からの命(体を張った浮気防止係)を全うしただけに過ぎませぬ。桃香様と主従の誓いを交わしたからには、主命に従うのは当然ではありませぬか? だのに、それで一々目くじらを立てられるのもどうかと思うのですがなぁ? フフフ…… 」



 と、いつもの様に飄々とした風でしれっと言う星に、「ぐぬぬ~」と悔しげに顔をしかめる桃香達。しかし、そんな状況をすぐ打ち破るが如く蒲公英が口を開く。



「えーと、お姉様達。それは後でいいんじゃ、そんな事よりこの三人をどーしたいの? 」


「あ、そ、そうだったね? ありがとう、たんぽぽちゃん。ねぇ、みんな…… 」


「何かしら? 」


「ん? 」


「義姉上? 」


「桃香様? 」


「今この場は一刀さんと私達の睦み合いの場。即ち(ねや)も同然だよね? それなら閨の正装とくれば…… 」



 無邪気な笑みと共に桃香がそう四人に問いかけると、彼女らは思いっ切りニヤリと悪い笑みを浮かべた。



「決まってるじゃない……当然『アレ』よね? 」


「だな、閨での正装なら『アレ』しかないだろ? 」


「ええ、神聖な閨の中に着衣のまま入り込む等、正に無礼極まりありませんから 」


「全くですな。この際だ、三人には男女の睦み合いを覗いた非礼を身を以って思い知ってもらいましょう 」 



 そう締め括ると、桃香達五人は一斉に朱里たち三人の方を向く。五人から発せられる異様な物に中てられ、朱里たちは恐怖の余り息を呑み指一つ動かせなくなってしまった。そして……



「それじゃ、むいちゃえ~♪ 」


「「「「おお~っ♪ 」」」」


「はわわわ~っ! 」


「あわわわ~っ! 」


「いやあああああ~っ!! 」



 と桃香の号令一下、桃香を含む五人が一斉に三人に飛び掛ると、それに対し朱里たちは悲鳴を上げてうろたえるだけで何も出来ず、あっと言う間に『閨の正装』にさせられる。然し、桃香達はそれだけに飽き足らなかった。



「うわ~、三人とも綺麗な肌してるよね? 触り心地もすべすべしてるし、朱里ちゃんたちが物凄く羨ましいな 」


「ふふっ、体に自信がないって良くぼやいてたけど、気にする事はないわ? うちの明命だって、胸やお尻は大きくないけど義雷老師と結ばれているもの。だから貴女達にも絶対好い人が来ると思うわよ? ふふっ、桃香の言葉じゃないけど、三人とも凄く肌が綺麗よ? 正に珠の肌と言うべきかしら? 」


「と、桃香しゃまに蓮華しゃま~~!! も、物凄くくすぐったいでしゅ~~! そ、そこは触らないで下さい~~! 」


「そ、そんなところさわらないでくだひゃい! ら、らめぇええええ~~っ! 」


「ひいいいいいい~~っ! お許しを~~っ! 」 



 等と、感嘆のため息交じりで桃香と蓮華が言葉を発すると、彼女等はまるでお気に入りの人形と戯れるかのように三人とじゃれあう始末。これを見て一刀は驚くものの、目前で繰り広げられる『少女たちによる裸の親睦会』と言う滅多に拝めない光景に、思わずにやけ顔になるとその場にどっしり腰を下ろす。



「な、何でこうなってしまったんだ……? まっ、いっかぁ~? そんじゃ、しばらく見物させてもらうとするか。何せこんな百合百合しいの滅多に拝めないし……って、うわっ! だ、誰ぢゃいっ! オイの目を塞ぐのはっ!? 」


「ここにいるぞっ! 」


「その声……たんぽぽか? 」



 突如彼の一つしかない視界が闇に覆われる。蒲公英が彼女なりに機転を利かして一刀の背後に回りこんで彼の両目を手で塞いだからだ。



「駄目だよ、一刀お兄様? たんぽぽやお姉様達の裸なら幾ら見てもいーけど、流石に朱里たちのはマズイってっば! そ・れ・に、お兄様って、種馬並みにすぐに発情するから、きっと朱里達の裸にもソレが反応すると思うんだけどな? もし、そうなったら……翠姉様だけじゃなく、桃香姉様達に『ソレ』を喰い千切られるかもしれないよ~? 」


「判った、判ったからって……後、たんぽぽさん。目を塞いでるのは判るんだが、胸が背中に当たってるんですけど……? 」 


「ん? えへへ。そーだよ、わざとやってるんだもん 」



 言葉通り、蒲公英は一刀の背中に自身の乳房をぐいぐい押し付けており、その大きさは翠に追いつく位になっていた。そして、彼女は小悪魔めいた笑みと共に彼の耳元で妖しく囁く。



「ねぇ……一刀お兄様。翠姉様も朱里たちの方に行ってるから、今なら誰にもばれないし、たんぽぽとしようよ? 」


「いっ、いや……流石にそれはマズイ、マズイデスヨ、タンポポ=サン! 閨での順番は厳守なんだって! 仮にそれを破ったら……オッソロシイ罰が待ってるんだぞ? ううっ、想像しただけでオイの泰山が縮んでしまう 」


「ふぅ~ん、この期に及んでまだそんな事言うんだ!? 別にいーじゃん、要はやったモンがちでしょ、もうっ! 」


「うわっ、俺の手を掴んで一体何するんだよっ!? 」


「こうするのっ! 」



 未だ順番を守る事に拘る一刀に対し、蒲公英は徐々に苛立ちを募らせると、ついに痺れを切らしたのか、彼女は彼の手を強引に掴んで自分の体のとある部分に触れさせる。すると、そこからは昂った女特有の感触が伝わってきた。



「うっ……こっ、こいは……()()()? 」


「うんっ、その()()()だよ? ほら……もう、こうなってるの。たんぽぽね、準備はもう出来てるんだよ? だから、いいよね? 」


「ううっ…… 」



 ふうっと熱い吐息を一刀の耳に吹きかけ、妖艶な響きを含ませ誘惑する蒲公英。それに中てられ昂ぶったのか、一刀の泰山は天を衝く勢いで屹立する。だが、それでも彼は愛した女達との約束を厳守し、小悪魔の誘惑を跳ね除ける。



「いっ、いい加減にしんしゃいっ!! 確かに無節操の度助平野郎の俺だけど、幾ら何でも場の空気は読んでるんだ! だから、これ以上俺を誘惑しないでくれよ~っ!? 」


「へぇ~~……たんぽぽがここまでしてあげたのに、まだそんな事言えたんだ? でもさ、さっき言ったけどお兄様には『はい』か『いえす』しか選択肢は無いんだよ? それに……これから強引にたんぽぽのはじめてを奪ってもらうんだから、それっ! 」


「おごおっ!? 」



 そう言うと、蒲公英は勢い良く一刀の体を自分の方へと引き寄せ強引に押し倒す。突然の彼女の行動に一刀は目を白黒させるが、すぐに起き上がるべく腕を動かそうとするも、ここで彼は両腕の自由を奪われてることに気付いた。



「うっ、いっ、いつの間に!? 」


「へっへーん、残念でしたー! こうなるの予想してたから、さっきお兄様の両手を縛らせてもらったの、ゴメンネー? テヘペロッ☆ 」



 一刀の両手首には、蒲公英が普段髪を纏めてるのに使ってる飾り紐が巻かれており、簡単に解けぬようきつく縛られていた。完全に蒲公英にしてやられてしまい、一刀は悔しげに歯噛みするが対する彼女は悪びれもせず、片目をぱちんと閉じると舌を出しわざとらしくおどけて見せる。



「くっ、くそうっ! おのれぇ、謀ったな馬岱っ! 」


「はっはっは! 気付かなかった己の不幸を呪うがいい! と言う訳で……一刀お兄様お覚悟ッ! それじゃ一番っ、たんぽぽいっきまーす! 」


「うわぁ~~!! オイの泰山が喰われる~~っ!! 『馬』なのに肉食系とはこれいかに~~っ!! 」



 両腕を後ろ手に縛られ、ご立派にそびえ立った泰山を曝け出し情けない悲鳴を上げる一刀。そして彼と契るべく、女の顔で蒲公英が“ソレ”めがけゆっくり腰を下ろそうとしたその瞬間だった。



「……はうっ!? 」



 突如、彼女の背後に人影が現れると、いきなりぬうっと右手を伸ばして蒲公英の小さな頭をがしりと掴むとそのまま易々と彼女を持ち上げる。思いもよらぬ出来事に蒲公英が驚いてると、その人影からは底冷えするようなオッソロシイ声が発せられた。


 

「たぁ~んぽぉぽぉ~~っ! お前……随分と舐めた真似しやがって。ここまでやった以上……覚悟できてんだよなぁ~!? 」


「すっ、すいねえ……さま? ア、アハハハハハハ…… 」



 その人影の正体は翠であった。今の彼女を一言で表せば、正に『怒髪天を衝く』である。翠は先ほどの蒲公英とは異なり、武に秀でた恋姫の中では鈴々と一、二を争うほどの強力(ごうりき)の持ち主である。それに付け加え、蒲公英は比較的身軽な方である。従って、そんな彼女を片腕で持ち上げる事など翠にとっては造作も無かったのだ。



『オ、オッカネェ~。今の翠、まるで、暴走状態になったどこぞの人造人間初号機みたいだ~~! ヒイ~~ッ! 』



 と、憤怒の形相の翠に恐怖し、心の中で悲鳴をあげる一刀。全身から怒気を激しく揺らめかせ、両目は思い切りつり上がり、歯をむき出しにして唸る今の翠の様は、先ほどまでの全裸の美少女から一転し、まるで咎人どもに責め苦を与え続ける泰山地獄の鬼女その物であった。



「お、お姉様? た、確か朱里たちの方に行ってたんじゃ? 」


「朱里だぁ~? 朱里たちなら……ほら、あそこで三人纏めてイイ顔で逝ってるぜ? 」


「はい……? 」



 無駄な足掻きと知りつつ、何とか話題をはぐらかそうと蒲公英が翠に言うが、逆に言葉を返され翠が顎でとある方をさすと、そこには朱里、雛里、璃々香の三人が、『閨の正装姿』で伸びていた。彼女らは何れも恍惚の表情を浮かべており、正に『ほわわ~ん』と言った表現が合いそうに思える。



「書物で得た知識と実践とでは天と地の開きがあるんだ。だから、流石の軍師達も実戦を積んだあたし等に掛かればこんなモンさ 」


「あ、あらら~~? 」


「と、言うわけでたんぽぽ……お前が今一刀にしようとした事、あたしだけじゃなく桃香や蓮華たちも一部始終見ていたぞ? 従って……桃香、こいつには「アレ」が必要だよな? 」


「たんぽぽちゃん、いっけないんだ~? 決まってるよ、翠ちゃん。もう、こうなったら「アレ」しかないかな? 」


「全く、本当に困ったものだわ。抜け駆けしたらどうなるか、蒲公英には一度身を以って「アレ」を受けて貰うしかないわね? 」


「全くです……掟を破った以上、たんぽぽには「アレ」を受けてもらわないと。まさか、最初の一回目で「アレ」とは……これでは先が思いやられる 」


「蒲公英よ、安心するがいい。我ら五人少なくとも一回は「アレ」を受けている。従って、お前もある意味一刀殿の女の一人になれるのだし、寧ろ喜ばしいことだぞ? 」



 そこまで翠が言うと、それに続くかの如く桃香を始めとした残りの四人が現れる。彼女らは何れもどす黒い笑みを浮かべていた。そして――



「一刀さん 」


「は、はひいいいっ!! 」


「悪いんだけど、たんぽぽちゃんに『アレ』をしてくれないかな? 」


「ア、『アレ』ですとおっ!? 」



 『アレ』―― と、桃香が一刀に言った言葉。それが余程恐ろしい内容だったのか、思わず彼は大袈裟な仕草と共に声高に叫んだ。



「そ、『アレ』。だってね~、たんぽぽちゃんは抜け駆けしたんだし、だったらお仕置き――じゃなかった、キチンと教えてあげなくっちゃいけないよね? 」


「ハァ~~~……ああ、判ったよ。と言う訳で翠、たんぽぽを一旦放してやってくれ 」


「あいよ 」


「あだっ?! 」



 一刀に言われ、翠が蒲公英の頭を掴んでいた手を放すと、彼女は思いっきり尻餅を突く。



「たんぽぽ…… 」


「いたたたたたた~~、へ? か、かずとおにい……さま? 」


「これから『アレ』をたんぽぽにする。……悪く思わないでくれよ? 」


「ちょっ、ちょっとー!! ア、『アレ』って、何? 一体何なの? ちゃんと説明してよー!! 」



 尻を強かに打ち、涙目になってた蒲公英にゆらりと一刀が迫る。普段とは違った物に恐怖したのか、彼女は慌てふためき叫ぶが、それに対し一刀の方は儚げな笑みを浮かべるのみであった。そして――



「ごめん 」


「ちょっ、タッ、タタタタタタタタンマッ! いっ、いやああああ~~っ!! 」



 果たして、一刀が蒲公英に行った『アレ』とは何であったのか? それを知る者はこの場に居た者達のみであった。



「は、はわわわわ~~! ひ、雛里ちゃん。一刀様がたんぽぽちゃんにしてるアレって一体何なの? あんなのこれまで読んだどの書物にも載ってないよ~~! 」


「あ、あわわわわっ、しゅっ、朱里ちゃん。もしかすると一刀様がたんぽぽちゃんにしてるのって、噂で聞いた※7身毒伝来の性愛の経典に載ってる物かも知れないよ? 」


「でも『アレ』って可也過激そうだよね? さっきからたんぽぽちゃん「許してー」って泣き叫んでるし、一刀様の方も激しく動いてて息切れしてて何だかしんどそうだもん。でも、もう駄目。これ以上見ていられないよ…… 」


「も、もしかして『アレ』も愛の形の一つじゃないのかな? 泣き叫んでるのも、恐らくだけど雰囲気を出す為にわざとやってるのかも知れないし? けど、あんな激しいのこれまで読んだどの書物にも載ってなかった。朱里ちゃん……私ももう駄目 」


「こ、これは、まるでサバトかワルギルプスの夜ですわ。あんな体勢で馬岱様としている一刀様が串刺し公ヴラドに見えてしまいそう……そうよ、きっとこれは悪い夢に違いないわ。……如耶姉様、璃々香を助けて下さいませ…… 」



 余談であるが、この時偶然にも気を取り戻した朱里たち三人は、運悪く一刀が蒲公英に行った『アレ』の一部始終を見てしまう。そして、彼女らは恐怖の余り互いを強く抱き合うと、哀れな事にカタカタと身を震わせながら再び気を失ってしまうのであった。妖艶な娼婦と化した恋姫達と一刀(オマケ)が繰り広げる恐ろしく且つ甘美な夜の宴はまだまだ続く――



――八――



 ――恋姫達と一刀が乱痴気騒ぎを繰り広げていた頃と同時刻。雒陽の丁擢の寝室にて――



「閣下……李儒にて御座います 」


「李儒か……どうした? こんな夜更けに 」



 拱手行礼で李儒が大仰に言うと、豪奢な作りの天蓋付きの寝台から丁擢の声が返ってくる。口調からして、どうやら彼はまだ眠りについていなかったようだ。



「悪い報せで御座います。翌朝屠殺予定だった『子猪』が猪小屋から逃げ出しました……これも全て私の至らぬ所、真に申し訳御座いません 」


「……ほう? 」



 床に額を付ける位にひれ伏し、恐怖で声を震わせて李儒が言うと、丁擢は興味深げに応えると共に寝台を覆う御簾を邪魔そうに払いのけ、一糸纏わぬ姿を彼の前に現す。



「ふんっ、存外寝心地の良くない代物だな皇帝の寝所と言う物は? 」


「は、はぁ…… 」



 そう言って、今まで横になっていた物に一瞥くれると、丁擢は何も羽織らず裸のままで適当な座に腰掛ける。



「で、どうやって逃げ出した? 見張りは置いていたのだろう? 」


「はい、確かに腕の立つ者を十人ほど配置し、逃げ出さぬよう四六時中見張っておりました。ですが、報せを受け私が現場に駆けつけて見れば、全員殺されておりました 」


「ほう、そうか。李儒、お前はこれを誰の仕業と見る? 」



 その丁擢の言葉に、李儒は細い目を更に細める。



「はっ、恐らくですが未だ閣下に従わぬ「漢の忠臣」を自称する輩どもかと 」


「ほう? ならば、その忠臣どもは次に何をすると思う? 」



 口角を吊り上げ丁擢が問うと、李儒はゆっくりと答え始めた。



「……これは私の憶測で御座いますが、『子猪』を旗頭として担ぎ上げてくれそうな勢力に接近するかと。そして、次に檄文を各地に飛ばし……我々に対し戦いを挑むやも知れません 」


「ハハハ、そうか。ならばそうあってほしいものだな? 正直物凄く退屈していたし、何よりも兵どもに血を吸わせてやりたいと思っていたところだ。李儒 」


「はっ 」


「前準備だ。いつでも迎え撃てるよう軍勢を揃えさせろ。於夫羅(おふら)にも伝えて置け 」


「畏まりました。あと董卓様と馬騰の軍勢はどうなさいます? 」


「卓と馬騰の兵か……何れも主への忠誠高く、何かと使い辛いよな? ククククク…… 」


「ッ! 」



 丁擢がぞっとする様な笑みを李儒に向けると、彼は戦慄を覚えると同時に、背中には大量の冷や汗が流れ込んできた。



「李儒、馬騰の娘達とその姪は今何処に居る? 」


「は、ははっ。長女の馬超と姪の馬岱は南陽に、そして次女の馬休と三女の馬鉄は母親の代わりに武威の留守を任されております 」


「そうか……南陽と武威、仮に攻め込むならばどちらが落とせそうだ? 」


「……南陽を落とすのは得策ではありませぬ。南陽王を守る将ですが、何れも先の黄巾との戦で武勲を挙げた者達ばかりです。兵力ではこちらが勝ってますが、仮に攻め込もう物なら彼奴等は必死で王を守り、我らが受ける被害も甚大な物になりましょう 」



 そう丁擢に問われると、少し間をおき熟考してから李儒は答えた。



「成る程。貴様がそう言うのなら、南陽を攻めるには無理があるか? ならば武威に決まりだ。早急に軍を差し向け、馬騰の娘達を捕らえろ。ついでにそのまま西涼全土を掌握してしまえ。将の人選は任せるが、なるべく西涼の事情に明るい者にしろ 」


「御意。閣下の仰せのままに 」


「卓と賈詡は、馬騰の家族と子供の頃からの付き合いだ……ならば、これを上手く利用しない手は無い。母親と妹達に、幼馴染がこちらに居る事を知れば、流石の錦馬超もこちらの言う事に耳を傾けよう 」


「これぞ正しく定石で御座います。西涼の狼の娘『錦馬超』の武名は天下に鳴り響いております。あれが加われば、我らの言う事を聞かぬ西涼兵や賈詡や龐徳と言った配下達も従わざるを得ません。事が上手く行けば、我が軍益々強くなりましょう 」


「正にその通りよ。馬超の強さは、昔於夫羅が奴隷に産ませた化け物娘にも引けを取らぬ。武勇に限るなら高順、樊調、徐栄の三烏将よりは遥かに上だろうよ? 」


「閣下、今のお言葉は三烏将の前で言わない方が宜しいかと? あの三人は何れも閣下の期待に応えるべく、幾数多の死線を潜り抜けてきた猛者達で御座います故に 」


「ああ、確かにそうだったな? 於夫羅が来る前はあの三人が俺の剣だったのも事実。今後は気をつける事にしよう……話を変えるが、さっき言ったあの『化け物娘』はどうしている? 」


「あれで御座いますが、余りにも抵抗が激しく死人も多数出ました。故に、強引に薬で眠らせ身包みを全て剥ぎ取り裸にし、地下牢に幽閉しております。服や下着などに武器を隠されては困りますからな? 更には脱走できぬ様、両手両足に頑強な太い鎖を巻きつけて宙吊りにしております。今頃もがいてる事でしょう 」


「そうか、合い判った。今宵は大儀であった、もう下がっても良いぞ 」


「ははっ、それでは私はこれにて失礼させてもらいます 」



 そう大仰に拱手行礼しながら応えると、李儒は速やかに退室する。部屋の中には全裸のままで座に腰掛けた丁擢一人のみが残された。



「さて、これからどうなる事やら……フフフッ、また滾ってきたか? 矢張り偽者では物足りぬ 」



 どうやら、今後の事に思いを馳せ、興奮したらしい。丁擢の男子の象徴は勢い良く滾っていた。



「おい、誰かあるか? 」


「はっ 」



 と、丁擢が扉の向こうへ声を掛けると、寝室の外で見張りをしていた兵の一人が入室する。



「高順を呼んで来い。今すぐ来いと俺が言ってたと伝えろ 」


「ははっ! 」



 そう命ぜられ、急いで見張り兵が退出してから少しした後、一人の女が室内に入ってきた。女の背は高く、体つきの方も実に女らしくて肌は色白である。顔立ちの方も申し分なく、腰まで伸びた銀髪と相俟って、どこか神秘的な雰囲気をかもし出していた。 



「高順、閣下のお召しにより参上致しました 」



 と、拱手行礼と共に「高順」と名乗った美女はその外見に見合った大人びた声で言った。彼女は黒い鎧兜で全身を覆っており、傍らに置かれた方天画戟は可也の業物と思われる。



「意外と来るのが早かったな高順、いや銀淑(ぎんしゅく) 」


「閣下の命は私にとっては最優先ですので。で、私に一体どのようなご用件なのでしょうか? 」 



 恐らく高順の真名であろうか、――銀淑――そう呼ばれ彼女が伺うと丁擢は口角を吊り上げる。



「俺の格好を見れば、何の用件か良くわかるだろう? 全て脱げ。伽の相手をしろ 」


「……畏まりました。この銀淑、伽の相手を務めさせていただきます 」



 今の丁擢は全裸で、しかも己が象徴を滾らせたままである。そんな状況で、自分が何の為に呼び出されたのかはどう見ても明白であった。そして、彼女は何のためらいも見せず、言われるがままに鎧兜だけでなくその下に着ていた服までをも全て脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿を彼の前に曝け出す。



「よし、全部脱いだな? ならばこっちに来い 」


「御意 」



 と、優雅な足取りで銀淑が歩み寄れば、丁擢は勢い良く立ち上がるや彼女の手を乱暴に掴み、強引に自分の方へと引き寄せる。突然の彼の行動に、銀淑は思わず声を上げてしまった。

 


「あっ……! 」


「流石に元高級娼婦だけはあるな? 今のお前の姿を見れば、晋陽中の男どもが夢中になっていたのも頷ける 」


「閣下からその様なお褒めの言葉を賜り、この銀淑。まことに恐悦至極で御座います 」



 そう言うと、一見感情の乏しそうな銀淑の頬に赤みが差す。どうやら、彼女は丁擢に好意以上の物を抱いてるように思えた。



「さぁ、夜はまだ長い。俺の滾りを鎮めてもらうぞ 」 


「はい…… 」



 丁擢に誘われ寝台に上がる銀淑であったが、彼女の視界に女の裸体が二つ写る。それに一瞬眉をひそめるが、自分が来る前に丁擢の相手をしていた側女(そばめ)達である事をすぐに理解した。丁擢から欲望のまま貪られ、涙を流し放心した状態の二人に銀淑は表情に出さなかったが内心で嘆息した。



『孟高様……貴方の心には未だあの娘が居るのですね? 昔、貴方が心底から愛した南方人の娘が…… 』



 只々、丁擢から激しく求められているのに対し、それ相応の表情を浮かべて声を上げる銀淑。だが、その一方で邪険に転がされてる女達と、己の目前で息を荒げる男に憐憫(れんびん)の情を抱く。その女達であるが、何れも褐色の肌と桜色の髪でどこか蓮華に雰囲気が似ていた。


 それから一月経ち、中華全土の有力諸侯に檄文が二つ送られる。一つは大将軍何進、そしてもう一つは……今上帝劉弁からの物であった。束の間の静寂が破られ、今再び戦乱の嵐が吹き荒れようとしていたのである。


 


 ※1:本作での一刀はフランチェスカの制服等の洋装を着るのをやめており、その代わりに武士の平服(羽織・長着・袴)を着用している。(大河ドラマや時代劇に出てくるものをイメージして下され)


 ※2:天地の神々の事。


 ※3:嘗て光武帝の配下だった祭遵(さいじゅん)がこの時代で使ってる偽名。外見モデルは『は◎ねす!』の準に◎ん。


 ※4:(てき)県での山賊討伐。その際、山賊どもは桃香をはじめとした恋姫達に良く似た女性達に陵辱の限りを尽くしており、それは一刀の心に強烈なショックを与えた。


 ※5:第十話「狂歓」参照。


 ※6:星(趙雲)と白霧(向寵)は従姉妹の関係。(本作のオリジナル設定)


 ※7:天竺、インドの事。

 ここまで読んで頂き真に感謝。今回のお話なんですが、実は書き始めは二年前の六月末で、書き終えるのに二年近く掛かってしまいました。理由は様々なんですが、労働環境変化と残業が増えた影響で、帰宅しても気力が持たなかったのが一番大きかったです。一日一行二行しか書けない日々をずーっと過し、自分自身に何遍も嫌気がさしてしまいました。


 ですが、それでも「絶対に諦めない」と言う思いを抱き続け、今日ようやく投稿でき、改めて「やれば出来るんだ!」と言うのを痛感しました。ここまで来れたのも、こんな駄作を応援してくださった皆さんのおかげです、本当にありがとう御座いました。この不識庵、嬉ションの極みでございます。


 今回の内容ですが、文字数使った割りにはグダグダなエロだったと、反省いたしております。次回はもちっとマシに出来るよう頑張りたいです。終盤の方で、少しだけ本題に入れた訳ですが、何で檄文が二つも出たのか? そこら辺の理由は次回に出せるよう頑張ります。


 三烏将>私が勝手に考えたオリジナル設定です。董卓配下の将には、呂布や華雄だけでなく、徐栄、樊調、高順と言った戦上手がいましたが、恋姫ではこれらの人物は未登場でしたからね? 三烏将の外見とCVイメージですが、他社の三國志作品の呂布・華雄・高順をイメージしています。余談ですが、高順のCVイメージは既に引退されてしまいましたが、「鈴音華月」さんです。(ここら辺で、元ネタの作品判るかも?(苦笑))


 さて、次回の更新ですが……今やり終えたばっかなので、果てしなく未定です。本当に申し訳御座いません!! ですが、やると言った以上がんばってやってく積りです。どうか生暖かい目で見守ってくださいませ。ここまでお付き合いいただき、本当にありがとう御座いました!


 それでは、また。不識庵・裏でした~!! 


追伸:「Airily Steps」のまーちん様。この場を借りて感謝申し上げます。モチベーションが最低の時、まーちん様に素晴らしい物を描いていただいたお蔭で、「へうげもの」の古田織部の如く「ゲヒヒ」状態でやる気が出たのは今でも忘れていません。本当にありがとう御座いました!

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