表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第三部「天下鳴動編」
56/62

第四十話 「雒陽戦慄 ――魔王降臨―― 」 ――弐――

 おばんです、不惑庵です。本当はもうちょっと書き加えたかったんですが、寝落ちしそうなのでとりあえずは前回の仮更新に更に書き加え、一段落として読める所まで載せる事にしました。


 タイトルと内容が全然合っていませんが、一つの話の中に出てくるエピソードと思ってください。(汗

――壱――


  桃香こと劉玄徳が地位と名声を得て出世したその一方で、長社で黄巾の最高幹部の一人波才を討ち取り、陽翟(ようたく)の決戦では潰走した何進を救出しただけでなく黄巾の首魁たる張三兄弟を捕らえる等、桃香より高い武功を挙げた華琳こと曹孟徳は新たに潁川えいせん郡太守に任じられる。だが、それは現職の陳留太守との兼任と、正に異例中の異例であった。何故ならば、余程の事が無い限り一人の人間に二つの郡太守を命ずる事が無かったからである。


 また、潁川は黄巾によって手ひどく荒らされており、そこを復興させるにはかなりの労力を要することが予想され、二郡とも健常ならまだしも片方が致命的な打撃を受けてる状態での統治を華琳一人に押し付けるのは彼女に対する嫌がらせにも思えた。


 今回、彼女が現職との兼任で新たな潁川太守に任ぜられた背景には様々な事情が絡んでいた。黄巾に殺されかけた事によって、太守の李旻(りびん)が心神喪失を発症。その結果職を辞してしまい、後を任せられる人材が今の中央にいなかったからである。


 ――そうだ。州は異なるが、潁川と隣接する陳留太守の曹操に兼任させよう――


 ――おお、それは名案。第一あの『宦官の孫』めに下手な中央の役職を与えてしまえば、何かにつけ我々に干渉してくる恐れがある。卿らも『北部尉(かつての曹操の役職)』殿にあれこれ口煩く言われるのは癪であろう? それに、潁川は賊どもにかなり荒らされているし、奴をそこに放り込んでおけば暫く何も出来まいて――


 ――全くだな。さっきの卿の言葉ではないが、奴の祖父は前の大長秋だし外聞なら申し分なかろう。それに曹操の下には優れた人材が多く集まっているし、奴自身中々の優れ者だ。仮に二郡を任せても、運営面で問題は無かろうよ――


 ――だがしかし、あやつの下には『天の御遣い』なる得体の知れぬ者がいるとの話を聞かされているぞ? 斯様な輩を囲う奴に、迂闊に二郡を任せるのはどうかと思うのだが……――


 ――卿の言いたい事は判るが、今は非常事態だ。この際『得体の知れぬ奴』の事は捨て置き、一刻も早く曹操めに潁川の統治をさせるべきだろう――


 ――むむむ……――


 等と、朝臣達の『ケンケンガクガク』を経て、彼女は前代未聞とも言える『二郡の太守』を命ざれたのだが――



「やれやれ……桃香、いえ劉備は宜城亭候の爵位と南陽国相の役職を得たと言うのに、あれより高い武功を挙げた私には黄巾どもに荒らされた潁川太守、それも現職の陳留太守との兼任か……随分と安く見られたわね? 」



 辞令を伝えられたその夜、華琳は春蘭こと夏侯元譲、秋蘭こと夏侯妙才、桂花こと荀文若、稟こと郭奉孝、風こと程仲徳の五人を自室に呼ぶや否や、彼女はおもむろに酒盃を傾けると開口一番でそうぼやいた。



「何進を救出しただけでなく、黄巾の首謀者張角達を捕らえたその恩賞が、黄巾どもに荒らされた潁川太守、それも現職との兼任でやれとは物凄く納得がいきません!! 私は、てっきりどこかの州牧か或いは中央の重職に取り立てられると思っておりましたのにっ!!


「春蘭に同調する訳ではありませんが、私も納得できませんっ!! あんな幽州の田舎者なんかより、ずっと高い武勲を挙げた華琳様がこんな扱いを受けるなんて!! 」


「全くだ! あの劉備なる田舎者だが、元々劉姓とは名ばかりの卑しい草履売り風情にしか過ぎない! それに対し、我らが主華琳様は由緒正しき沛国曹家の当主で、挙げた武勲もあんなのとは比べ物にならない! だのに、その褒美がボロボロになった潁川一郡の太守のみとは、これはまさに朝廷が華琳様を軽んじてる証拠ッ!! そして、それは臣たる我等にしても耐え難き屈辱だッ!! 」


「その点に関しては同意見だわ! 大体、帽子掛け程度の頭しか無いくせに、ちょっと帝に気に入られたからって図に乗りすぎよねっ!? ……おまけに、いつの間にか華琳様と真名で呼び合ってるなんて……身の程知らずもいいところよ……いつか煮え湯を飲ませて、華琳様に泣きながら丸裸で土下座させてやるわ、あンの乳デカ女ッ!! そうだわ、ついでにあのでかい胸に『雌猪』って書いてやるのもいいわね…… 」



 と、華琳への盲信度では双璧を誇る春蘭と桂花が鼻息荒く気炎を上げるが、しまいには桃香への悪意に切り替わっており、どう見ても彼女に対して非友好的なのが窺える。



「……姉者、それに桂花も、気持ちは判らなくもないが、少し落ち着いたらどうだ? 正直私も納得はしてないが既に決まった事だし、今更喚いたところで覆る(くつがえる)訳でも無いだろう? 」


「むむむ…… 」


「ふんっ……そうね、確かに秋蘭の言う通りだわ 」


「二人とも劉備を嫌ってるようだが、実際話をしてみたが人となりは悪くは無かったぞ? 仮に劉備が二人の言うとおりの人間なら、あれだけの傑物が奴の下に集まらんさ。華琳様と真名で呼び合ってるのも、互いに好敵手と認め合った証ではないのか? 」


「秋蘭の言うとおりです。二人とももう少し冷静になるべきです。確かに、今回の沙汰は華琳様の功績に比べ真っ当な評価を得ているとは思えませんが、そんな事よりこれからどうするか? まずはそれを考えるべきだと思いますが? それに、今の問題は劉備ではありませんからね? 」


「そですねー、風もそう思うのですよ。既に決まった事をああこう論じた所でどうしようもありませんからねー? それと、秋蘭ちゃんの科白じゃありませんが、春蘭ちゃんも桂花ちゃんも劉備さんを毛嫌いしすぎですよー? 事を構えていない内から余り尖り過ぎてると、要らぬ恨みを買ってしまうのです 」


「おいおい、しょうがないぜ風よ。ことあるたびに華琳様があれこれ劉備の話をするもんだから、二人ともヤキモチ焼いてんだよ。何せ最初の出会いが風呂場、それも『裸のお付き合い』だったしなぁ? 案外羨ましいと思ってんじゃねぇのか? 」


「「ぬわんだとおっ(ですってぇ)?! 」」


「これこれ宝譿(ほうけい)。幾ら本当の事とは言え、そうずけずけと言う物ではありませんよー? 」


「おっと、いけねぇ。つい口が滑っちまったぜ 」


「春蘭、それに桂花もその辺にしておきなさい。私の事を想ってくれるのは嬉しいけど、二人とも熱くなり過ぎよ?  」



 秋蘭、稟、風の三人がそれとなく二人を諭し、風の分身たる宝譿が茶化すような口調で事実を突きつけると、春蘭と桂花の両目が一気につり上がるが、場を制するべく苦笑交じりで華琳がゆっくり手を挙げた。



「も、申し訳ございません、華琳様…… 」


「申し訳ございません、華琳様。確かに、華琳様が仰るとおり、熱くなり過ぎてしまいました…… 」



 華琳にたしなめられ、二人は申し訳なさげに頭を下げて詫びると、彼女は『判ればよろしい』とうなずき返す。そして、軽く一息吐いて気を取り直すと、いつもの華琳らしい口調で語り始めた。



「さて、本音を言えば、今回の辞令に未だ不満はあるのだけど、その反面これは自分にとっての好機と捉えているのよ。何故だか判る? 」


「うむむむむむ……不満だが好機? いったいどういう意味なのだ? さっぱり判らん…… 」



 そう言って意味深げなまなざしで皆を見やると一同あごをつまんで思案顔になるが、春蘭一人のみ頭から煙を上げる始末である。



「ッ?! 華琳様、もしや華琳様の狙いは※1(きょ)の街ですか? 」


「ふふっ、流石は桂花だわ。まさか、すぐに当ててしまうなんてね? 」



 そう真っ先に声を上げるは桂花。矢張り華琳の誇る幕僚の中で一番行政能力に優れてるだけはある。その答に華琳は満足そうにうなずくと、皆を一瞥(いちべつ)しいつもの彼女らしく堂々かつ不敵な口調で自分の考えを言う。



「前の黄巾討伐の折、許の街に駐留したのを皆覚えているわね? 私が統治するようになってから、陳留の街にも人と物が出入りする様になり、可也繁栄したけど、許の街はそれの遥か上を行っていたわ。あの街の光景を見てから、私はそこを陳留に変わる新たな拠点にしたいと思ってたの。だから、今回のこの辞令は私にとって正に好機と思った訳 」


「素晴らしい……流石は華琳様。私には想像もつきませんでした。もしや、華琳様は既に潁川の統治計画を立てておられていたので? 」



 感心したのか、大仰にうなずきながら秋蘭が言うと、華琳は目を細めつつ口角を吊り上げた。



「まぁね? まだ大雑把な物しか考えていないけど、治府を陽翟から許に移しそこを中心に潁川を立て直すつもりよ。無論先立つ物も必要になってくるから、それはここ陳留からまわさせるし、輸送隊及びそれにつける警護の兵も大規模編成でさせるわよ? そういうわけで桂花 」



 そこまで言うと、華琳は桂花の方を向き、彼女に指示を出す。


「はっ! 」


「貴女には、今話した潁川への物資輸送計画の総責任者を命ずるわ。陳留に残す物資は必要最低限に留め、後は全て潁川、取り分け許に回す様にしてちょうだい 」


「はっ、畏まりました華琳様! 委細滞りなく 」



 拱手一礼で桂花が応えると、次に稟と風に顔を向けた。



「次に稟、風 」


「はっ 」


「はいー 」


「二人には今までと同じく私の補佐を頼むわ 」


「はっ 」


「承知したのです 」


「なっ……?! 」



 と、華琳からの指示に二人が拱手一礼で応じたその一方で、桂花の顔が強張る。何故ならば、彼女は自分こそが華琳のそばにいるのに相応しいと強く自負していたからである。

 


「……桂花。本当はね、貴女を補佐に使いたかったのだけど、今回は物資輸送の方に力を入れたいから敢えて貴女に頼んだわけ。人には適材適所と言う物があるわ。かの高祖が項羽を打ち破った際、一度も兵站を伸ばさなかった蕭何(しょうか)を勲功第一にしたのは知っているわよね? 」


「はっ?! は、はいっ……!! 無論です、華琳様っ! 」



 自尊心の強い桂花に対する、華琳なりの配慮であろうか。薄く笑みを浮かべつつ、故事を交えて事の重要性を説くと、桂花は一瞬ハッとなり、そして次の瞬間満面の笑みで大仰に頷いた。



「桂花、貴女は我が子房(しぼう)である事には変わりは無いのだけれど、古の蕭何の如く兵站や行政を任せられる人材が中々いないのは理解しているでしょう? 当面、貴女には子房と蕭何の二役を任せるけど、蕭何足りえる人材を早急に発掘する必要がありそうよね…… 」

(桃香に仕える(かん)憲和(けんか)簡雍(かんよう))の様な人材が欲しい所よね……幽州の三賢人や臥竜鳳雛の様な優れた参謀の他に、兵站や行政面で一任できる人材がいるのは可也の強みだわ )


「畏まりました華琳様、物資輸送の任喜んでお引き受け致します。あと、人材の件ですが心当たりが一人居ります。もし、華琳様が宜しければお引き合わせしたいと思いますが? 」


「……桂花、その話だけど。もっと詳しく聞かせてもらえないかしら? 」


「はい、畏まりました。その人物は鍾繇(しょうよう)、字は元常(げんじょう)といい、潁川の出自で…… 」


「ほう……流石に人材の宝庫と呼ばれた潁川だけはあるわね? よもやその様な人物がまだ埋もれていたなんて…… 」



 思いもよらなかった桂花からの言葉に、華琳が興味深そうにずいっと身を乗り出すと、待ってましたと言わんばかりに桂花は華琳との二人の世界に浸り込む。その際、桂花はニヤリと意地悪く口角を歪め、他の面々を一瞥した。



「フフンッ 」


「ん゛な゛あ゛っ!? 」


「やめとけ姉者。あんな見え見えの挑発に乗る方が馬鹿を見るというもの。何遍も同じ目に遭えば少しは判るだろうに? 」


「ううっ、秋蘭ぁ~ん…… 」


「……正直、私もムッと来る物がありますが、彼女はああいう人ですからね? 下手に抗ったところで、こじれさせるだけです。人材発掘能力や行政能力に関しては、桂花に一日の長があります。ここは黙っていましょう  」

(そう、ここにいる人間の中で、桂花と私、そして風を合わせた三人と政戦両略で真っ向勝負できるとするならば、司馬仲達に劉子揚。この二人のみでしょうね? あの二人を見ていると、正しく古の『張良と陳平』の再来を思わせるわ…… )



 桂花からの軽い挑発行為に春蘭が目くじらを立てるも、すぐさま妹の秋蘭や稟から諌められ彼女はガックシと両肩を落とすが、その一方で知略では曹家第一とまで評された稟は、この場に居らぬ司馬仲達と劉子揚に思いを巡らせる。


「そーそー、流石は秋蘭ちゃんに稟ちゃん。二人とも大人の対応ですよねー? そんな二人には、あとで山純の新作『糞味噌的技術』をお見せするのです。風のとっておきですよー? 」


「「()(ホッ)!? 」」


 だが然し。それも束の間の事で、能力は桂花と稟の丁度中間と評された風が放った一言で打ち破られる。思わず秋蘭と稟は奇声を上げただけでなく、『妄想鼻血軍師』とか『煩悩軍師』と揶揄された稟にいたっては形の良い小さな鼻腔から赤い血潮を勢い良く噴出させてしまった。


 ――と、彼女らは終始こんな調子で大まかな統治計画を練ると、早速その翌日には実行に移し始めた。華琳は主な将兵に潁川に移動する様通達し、桂花は陳留の金銭や備蓄物資を必要最低限のみ残してその大部分を潁川に輸送。輸送隊の警護には族子の曹仁等をあてがう等、可也大規模なものであった。



「そうだわ、陳留の留守居役を考えていなかったわね? さて、誰にやらせようかしら……あっ、あいつがいいわね? 優れた側近が居るとは言えども、あいつ自身どれだけ行政能力があるのか見てみたいし、ついでに『あの三人』の面倒を見させるのも良いかも知れないわね? 一応取引に応じてあげたけど、使える駒になってくれないと助けた価値が無いというものだわ……  」


 と、誰に言うまでも無くひとりごち、華琳は『とある人物』に自分の代理として陳留の統治を任せることにしたのである。丁度今から遡る事約半年前。黄巾討伐が終わった直後の出来事であった。

 

※1:後の『許昌(きょしょう)』。


 ここまで読んでいただき真に感謝。実はこの話は二月から書き始めていたのですけど、例の「アレ」に罹ったり等色々とあり、暫く何もしたくなくなってしまいました。


 現在は可也良くなっており、何とかお話を書くべかってな気持ちにはなれましたけど、それでも勢い良かった三年前に比べ何とも情けない有様です。


 今回は久し振りの華琳様パートと、正直桃香たちの話を書くよりエネルギーを消費しますね。もう、ここまでくればお判りと思いますが、華琳の現在の本拠地は陳留から許に移転しております。現在次の話を書いてる真っ最中で、久し振りに「アイツ」が登場いたします。乞う(?)ご期待!(汗


 それでは、また! 不惑庵・裏でした~~!!


追伸:苦手キャラ(桂花&春蘭)の描写は本当に神経使います……。あ、一言断っておきますが、私は魏はさほど好きじゃありません。でも、書く以上はある程度の公平さは持っておきたいと思ってますが、そう思われない方もいるかもしれません。本当に申し訳ない限りです。何せ、「真・恋姫†無双」も苦手な魏を最初にクリアしたものでして……(蜀ルートの「アレ」な展開や終わり方には異議ありですけどね?)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ