第三十九話 「雒陽戦慄――魔王降臨―― 」 ――壱――
こんにちは皆さん、不惑庵・裏です。
更新してから二日経過してからの前書きになってしまいました。出勤前の集中して書ける時間を使い、チョボチョボと書き連ねた今回の更新で御座いますが、5000字が限度でした。そんなセコイ物ですが、読んで頂けたら嬉しく思います。
【注意】
この作品は作者が独自に考えた設定を使っておりますので、全て原作の『恋姫†無双シリーズ』や、『史実の三国時代』、『三国志演義』どおりでは御座いません。そこら辺を良くご理解した上で読んで頂きたいと思います。
――序――
――十常侍を始めとした宦官の粛清から約一月。永安宮のとある一室にて――
「っ!? 」
「ひいっ!? 」
「…… 」
『ぎぎぃ』と不気味な音を立てながら、重い扉が開くとその向こう側から若い男が姿を現す。それを見た瞬間、室内に居た二人の女から小さな悲鳴が上がった。その二人の女だが、先日帝位を継承したばかりの劉弁とその母である何皇太后である。重篤だった今上帝劉宏が崩御し、孝霊皇帝と諡されたのが三日前。
その跡を継ぎ、次の帝位に就いたのが皇太女たる弁であったが、彼女とその母親である何氏は臨終の場並びに葬儀の場にも姿を現さず、それどころか帝位継承の儀すら執り行われず、宦官の粛清からずっとこの永安宮に幽閉されたままだったのである。雒陽の民衆や他方には、高札や文書のみで劉宏の崩御と弁の後継が伝えられるのみに止まり、事実この親娘は名ばかりのみで、何一つ権限を持たされてはいなかった。何故そうなったのかは、全ての理由は二人の前に現れたこの若い男の存在である。
「な、ななな、何じゃ、無礼者っ! 何の断りも無く、入って来るでない! 」
「そ、そそ、そうじゃ、この不埒者めっ! 朕と母上に一体何の用じゃ?! 」
「これはこれは失礼をば致しました、皇太后様、帝…… 」
言葉とは裏腹に、極めて尊大な雰囲気のこの若い男は丁擢、字を孟高と言い、宮廷の支配権を何一族と十常侍から強奪した人物である。元来、ここに来るのは十常侍筆頭の張譲から書状を送られた彼の養父で幷州牧の丁建陽だったのだが、来たのはその彼ではなく今ここに居る丁孟高だ。
「だ、大体、そなたの父を呼ぶ話になっていた筈なのに、何ゆえそなたが来たのじゃ? 」
と、虚勢を張り声高に叫ぶ何太后。異民族との戦いで勇名高い丁原を、自分らの爪牙に引き入れ何進の後釜にせんと、亡き張譲からその話を持ちかけられると彼女もそれに賛同し、てっきり十常侍も彼女も丁原が来る物だと思っていたのだ。然し、実際に来たのは今自分らの目前にいるこの不遜な若い男で、しかも自分等の思惑を覆されたのも相俟り、彼女とその娘は丁擢の凶悪さに恐怖心を抱いてたのである。
「ああ……『あれ』ですか? 『あれ』には消えて貰いました。何せ、蛮勇しか能が無い癖にいつも父親面をしておりましたからね? 正直、存在自体を消したいと子供の頃からずっと思っていたのですよ。フフフフ…… 」
「「っ!? 」」
言葉尻にぞっとする様な冷気を含ませて孟高が答えると、それに中てられ何太后と劉弁は声にならぬ悲鳴を上げると共に腰を抜かしてしまう。すると、丁擢は鋭い視線を何氏に向けた。
「さて……私がここに来たのは皇太后様、実は貴女にお伺いしたき事があったからなのですよ 」
「い、一体何の用なのじゃ? はよ申せっ 」
「……今を去る事十年前、貴女は一人のとある女官を『処分』されましたよね? 」
「い、行き成り何を言うのじゃ?! 」
その何氏の返事を待っていたかの様に、すかさず丁擢が言うが、先程までの冷笑まじりの物と異なり、彼の顔から一切の感情が消え失せていた。然し、言葉尻がやや震えており、少なくとも怒りの感情を含ませているのが窺える。皇太后の動揺を他所に、丁擢は言葉を続けた。
「当時、亡き先帝がとある南方人の女官に目を付け、それを目の当たりにし寵を喪う事に危惧した貴女は秘密裏の内にその女官を『処分』――いや、まるで家畜の様に『屠殺』し、事もあろうかその肉を料理に混ぜ下人どもに喰わせた……ここまで言って、まだ思い出せませぬかな? 」
「ッ!? 」
思い出したのだろうか、何太后は両の眼を大きくはっと見開かせて、丁擢を凝視する。それを見て、丁擢は露骨な憎しみの感情を顔に出し、完全に蚊帳の外にいた劉弁は今見聞きしている事に関し只々困惑するだけであった。
「な……何故それを知っておるのじゃ? だ、大体高々賤しきいち女官風情とそちに一体何の関係があると言うのじゃ!? 」
「……賤しきだとぉ? 少しばかり顔が良いだけの『屠殺屋』風情の女が、銅の花を積み上げ後宮入りしただけでもおこがましいと言うのに、挙句売女が如き淫蕩振りで『皇后』の地位までをも強奪した貴様がそれを言うか?! その様な言葉は、己が自身を鏡で見てから言う事だなッ!? 」
「「ひいいいいいいっ!! 」」
どうやら、太后様のお言葉は丁擢を怒り狂わせるのに十分過ぎたようである。彼は眦をグンと吊り上げると、彼女を睨みつけ怒鳴り散らす。初めて見せた丁擢の『怒り』に、太后だけでなく劉弁まで悲鳴を上げてしまうと、二人揃って無様に失禁してしまった。醜態を曝け出すこの親子に、少しばかり溜飲が降りたのか丁擢は先程と同じ冷笑交じりの表情に戻って言葉を発す。
「ふんっ……さてと、少々お喋りが過ぎてしまいましたかな? 太后様。※1身毒より伝来した仏教なる宗教の中に、『因果応報』なる言葉があるのをご存知ですかな? 」
「し、ししし、知らぬっ、知らぬわッ!! その様な訳の判らぬ邪教の類なぞ知らぬっ! 」
「ならば教えて差し上げましょう。善行を積めば善き事が、悪行を積めば悪しき事がそのまま帰ってくるという意味です……これより貴女様には、その『因果応報』を受けるべく『然るべき報い』を受けて頂きましょう……李儒! 李傕! 郭汜! 」
「「「ははっ 」」」
丁擢の呼び出しに応じ、返事が三つ返ってくるとすぐさま三人の男が室内に入ってくる。一人は張譲を始末する際にいた李儒で、後の二人は恐らく武官であろうか、何れも鎧兜で身を包んでいた。
「何故か、ここに皇太后様の衣服を身に纏った賤しき雌猪がいる。猪に人間の服なぞ無用と言う物だ。猪は猪らしく丸裸にしてしまえ 」
「「「ははっ、御意のままに 」」」
「あっ、なっ、何をするかッ、この無礼者がッ!! 来るでない!! 」
答えるや否や、三人は嘲り笑いを顔に浮かべると、一斉に何太后に襲い掛かり彼女の身包みを剥ぎ始める。一方の太后も懸命に抵抗するが、三人の男からの陵辱行為の前では無力に等しく、忽ち彼女は丸裸にされてしまった。これまで自分がしてきた事を、今度は『される側』となり、何太后は悔し涙を浮かべ、醜く歪めた顔を丁擢に向け呪詛の言葉を吐く。
「おのれぇ~~!! この下種がっ! この辱め、生涯忘れぬぞ!! 喩え泰山地獄に堕ち様とも、ずっと呪い続けてくれる!! 」
「左様で御座いますか、ならば愉しみにしておりますよ。ですが、これから貴女には絶え間無き責め苦と避け様の無い死が待っております。恐らくですが、呪いの言葉を吐く余裕なぞ無いと思いますな? 」
「くうっ…… 」
「さてと、これ以上話すのも時間の無駄と言う物……李儒、李傕、郭汜、これより太后様の見目麗しいお姿を、雒陽の住民達全てに見える様一昼夜の間『お披露目』させてやれ。その際、『先帝を誑かした賤しき雌猪』と書いた札を首から下げさせるのも忘れるなよ? 」
「「「ははっ 」」」
「その次は晒し者として貧民窟に放り込み、薄汚い浮浪者どもの慰み者にさせろ。三日三晩ほど経てば、正気を喪おう。『屠殺』はその後で行え。屠殺を終えたら、その肉を料理して貧民どもに喰わせてやれ。もし、何なら『お披露目』の前に三人で味見をしても構わん 」
「「「ははっ、御身の御意のままに 」」」
丁擢から言い返され、只々歯噛みするだけの丸裸の太后を、彼はまるで汚物でも見るかの様に蔑視すると、彼女の身包みを剥ぎ取った三人に命じた。
「ひいっ、ひいいいいいいいっ!! ふ、福銀っ、母を助けてたもれーっ!! 」
「あ、あああああああ……は、母上…… 」
無駄な足掻きとは判りつつ、太后は弁を福銀――真名で呼び懸命に助けを得ようと手を伸ばすが、当の彼女は只呆然とした表情で「母上」と繰り返すだけである。
「さぁ、太后様。雒陽の民が貴女様の『お披露目』を心からお待ち致しておりますぞ? 」
「ですが、その前に我等三人はこれより主命に従わねばなりません。少々心苦しく思いますが、どうか平にご容赦の程を 」
「その代わりと言っては何ですが、我等三人誠心誠意を以って……泰山に昇る位の快楽を太后様に与えたく存じます 」
「ひいいいっ!? 」
李儒、李傕、郭汜――この丁擢に忠実な三人の部下は、薄っぺらい笑みを顔に浮かべ、姉の何進より魅惑的である太后の艶かしい肢体を好色そうに見やると、そこから来る生理的なおぞましさに太后は一際大きな悲鳴を上げ、また更に失禁した。
「ふんっ、部屋が小便臭くなって堪らぬわ。三人とも、さっさとそいつを連れて行け。正直言って、俺はこれ以上この淫売の姿を目にしたくないからな? 」
「「「ははっ! 」」」
「ひいいいいいいっ!! 嫌ッ、嫌じゃああああああああああああああああああっ!! 妾を誰と思うておる、恐れ多くも皇太后なるぞぉおおおおおおおおおおお…… 」
忌々しげに丁擢が言い捨てると、そこから来る威圧に中てられたのか、三人は表情を一気に強張らせると、全裸の太后の両腕を無造作に引っ掴むとそれをずるずると引き摺り始め、醜く喚き散らす彼女を連行したのである。
「ふんっ……やっと消えてくれたか。さてと…… 」
「あ、あああああ……ち、ちちちち、朕をどうする積りじゃ? 」
涙と鼻水塗れの顔をくしゃくしゃに歪ませ、言葉だけ強がる弁であったが、そんな事もお構いなしで丁擢は彼女に言い始めた。
「『朕』ですか? 恐れながら、今の貴女様を見ておりますと、自分を指す言葉に『それ』を使うのは相応しくないと思いますがね? 『弘農王殿下』 」
「なっ!? 」
『弘農王殿下』――この言葉に劉弁は思わず困惑した。何故ならば、自分は劉宏亡き後の漢の正統な皇帝であったし、『王』呼ばわりされる理由など無かったからである。
「お、お、王じゃと? 朕は皇帝であるのに、何故『王』、それも『弘農王』呼ばわりされねばならぬのじゃ?! 」
「理由は簡単ですよ……先程、主だった重臣を集め論議した結果――貴女を廃位し弘農王に封ずると決まったからです 」
「なっ……!! ならば、次の帝はどうする積りじゃ、朕こそが正統なる漢の後継ぞ! 朕以外で帝たる者……まさか、南陽の協を帝に据える気かっ?! 」
「……ほほう、『阿呆の弁』と陰口を叩かれた貴女様にしては、随分と珍しく頭を働かせたようですな? ですが、その答は違います 」
「だっ、誰が『阿呆』じゃ!! それとも、まさかそなた帝位を簒奪する腹積もりかっ?! 」
弁は完全に泣きっ面で喚き散らした。
「ふっ 」
すると、それを見越したかの様に丁擢は口角を吊り上げる。
「いいえ、簒奪では御座いません。恐れながら、貴女様は帝位を『相応しき人物』に禅譲するのです。その人物ですが、貴女様と同じく亡き先帝の血を受け継いでおり、欠陥だらけの貴女様と違い、器量人望共に優れておりますよ? 」
「そっ、それは一体誰なのじゃ?! 」
完全な絶望を顔に浮かべ、恐る恐る弁が尋ねた。
「それを貴女が知ってどうするのですか? 失礼ですが、貴女様はこれよりこの部屋を出て行ってもらいます。何処ぞの猪とも山狗とも知らぬ、劉姓を名乗るのもおこがましい貴女がここに居るのも全く以っておかしいですからな? 」
「うううう…… 」
「於夫羅ッ! 」
「呼ん……だか? 我が朋友よ 」
於夫羅――丁擢がその名を呼ぶと、彼の背後から頭二つ分背が高く筋骨たくましい大男が姿を現す。恐らく年の頃は四十近く位だろうか、若くも無いが歳を食いすぎた感じも無かった。普段から寡黙なのだろうか。男は眉一つ動かさない全くの無表情で、口調の方も実に重々しい。
「この賤しい雌の仔猪を猪小屋にでも放り込んでおけ。事もあろうか、こやつは猪の分際で生意気にも貴人の服を着ている。丸裸にひん剥いてしまえ 」
「なっ!? 」
劉弁を指差し、丁擢は嘲りを含んだ口調で言うと、劉弁は絶句した。
「わかっ……た 」
「ヒイイイッ!! 嫌ッ、嫌じゃっ! こっちに来るな、このっケダモノめがッ!! 朕を誰じゃと思うておる、恐れ多くも漢の皇帝なるぞーっ!! 」
「……ケダモノ……だと? 」
「ヒイイイッ?! 」
――ケダモノ―― これまで、全くの無表情だった於夫羅であったが、その言葉に両の眼をくわっと大きく見開かせると、一気に怒りの形相になり憤怒の激炎を身に纏う。その姿はまるで怒れる魔神の様で、劉弁は更に一際高い悲鳴を上げた。
「俺は人間だ……! 貴様と同じ赤い血が流れる人間だ……!! ケダモノなんかじゃあ……ないっ!! 」
「いやじゃああああああああああああああっ!! 」
怒れる於夫羅はつかつかと弁の方に歩み寄り、その両肩を掴むとそこに力を入れ一気に彼女の服を引き裂く。哀れ、この力無き皇帝陛下は、一瞬の内に母親と同じく丸裸にされてしまった。
「あ……あ…… 」
「……主命だ。これより別の所に連れて行く……悪く思うな 」
今の自分の状況が理解できず、ただ呆然とした表情を向ける弁に、元の無表情に戻った於夫羅が冷たく言い放つと、彼は丸裸にひん剥いた彼女をヒョイと肩に担ぎ上げ何処かへと去っていく。後に残ったのは室内に漂う、何親娘の据えた小便の臭いと丁擢一人のみであった。
「猪の親子の処分は終わった。次は……我等が皇帝陛下をお迎えせねばならぬな? 卓よ……俺から董の家督と姓を奪ったその代償。今から払ってもらうぞ? 仲良しの賈詡共々、精々俺の掌で踊る傀儡に成り果てるが良い……フッ、フフフフフフフ……ハーッハッハッハッハッハッ!! 」
暫しの間、丁擢は高笑いを上げており、彼の笑みには凄まじいほどの狂気が滲み出ていた。
※1:天竺の名称。司馬遷の「史記」では天竺ではなく「身毒」と呼ばれている。
ここまで読んでいただき真に感謝。
前回と言うか、昨年載せていた仮更新に登場させた丁擢。ぶっちゃけ、彼は典型的な「董卓」のポジションにしてあります。恋姫での董卓はとても可愛らしい月ちゃんですが、無印や真の方のでも他者の悪意絡みとは言え暴君にされてしまいとても不憫な扱いを受けていますよね。(苦笑
もう、それなら董卓以外で董卓作ろうと考え、丁擢に登場してもらいました。外見イメージですが……三極姫シリーズの董卓です。
そして、於夫羅。丁擢の配下で圧倒的な猛将を出したいなと考えておりましたら、匈奴の単于で丁度良いのがあったので彼に登場してもらいました。外見イメージですが、三極姫2の男呂布、蒼天航路の呂布と言った感じでしょうか。ですが、やる夫スレ見ていた影響で、彼のキャラ描く時に範馬勇次郎のAAが脳裏に浮かんでしまいました。(苦笑
次回の話ですが、まだ取り掛かっておりません。これからどうなるのか……心が落ち着ける時間が欲しいんですけどね、中々そうも行きません。ですが、エタらないよう頑張りますので、どうか宜しくお願いいたします。
それでは、また~! 不惑庵・裏でした~!
追伸:家康像様、以前考えて頂きました劉弁の真名「福銀」を使用させていただきました。大分時間が経過してしまいましたが、ようやく日の目を見れた感じで一安心です。本当にありがとう御座いました。