幕間其の五『巴蜀からの新参者』 ――弐――
ドーモ、ミナ=サン。不惑庵デス!
現在午後出勤の帰りが深夜帯と言う生活パターンになっており、寝る前のホンのちょいと、出勤前の時間を使って更新作業を進めております。
そんな訳で今回も少ない字数ですが昭烈異聞録の続きを投稿致したいと思います。
それでは昭烈異聞録『幕間其の五』最後まで読んで頂けたらうれしく思います。
――三――
「焔耶ちゃん?! 」
「桃香様、貴女様にこの様な軟弱な男は似つかわしくありません!! 即刻ここから追放すべきですっ!! 」
『追従』、『妄信』――焔耶と呼ばれた少女の桃香に対する振る舞いにはそれらの物が感じられ、一刀は思わず生理的嫌悪感を感じる。だが、そんな彼の事等知る事も無く焔耶は一刀への罵詈雑言を続け、それは更に熱を帯びた。
「大体、保護した女性が桃香様達に似ていた時点で、何かあると見るべきだろうが? 貴様の目は一つしかない様だが、こんな事に気付けない様では、別の意味で視野が狭いようだな?! 」
ここまで来ると、最早完全な暴言である。流石に他の女性陣も焔耶をきつく睨みつけ、特に一刀が右目を失明する原因になってしまった愛紗は、両肩をわなわなと震わせ、全身から怒りの焔がゆらゆらと立ち上がり始めていた。
『あ、あの女……今すぐにでも縊り殺してやりたい位だ!! 一刀様は私を庇い右目を喪ったと言うのに……一刀様を侮辱するのは、この私を侮辱するのも同然!! だが、思えば嘗て私も一刀様に初めて会った時あんな風に口汚く罵った事があった。即ち、あの女は嘗ての私だ……改めて己を再認識出来た点だけは、貴様に感謝しておくぞ? だが、それとこれとは全くの別問題!! 後で見ていろ……絶対に、絶対にその生意気面を泣きっ面にして土下座させてやる!! 』
『う~~!! あいつ、何だかとってもいけ好かないのだー! これ以上一刀お兄ちゃんをいじめるのなら、鈴々がやっつけてやるのだー!! 』
『何だよ、あの生意気女! そりゃ、一刀に落ち度があったとしてもさ、そこまで言う事ないじゃんかよ?! くそっ……後で練兵所の裏に呼び出してやる!! 』
『至極気に喰わんな、あの女。どうやら腕は可也立つと見たが、ここまで自分勝手な理屈を振りかざす様では、戦の時には独断専行で勝手に動くかもしれぬ。正直、上司にも部下にも、そして同僚にも欲しくない手合いだし、背中も預けたくないぞ? かくなる上は、後で華蝶仮面となって仕置きする必要がありそうだな? 』
『なんなの、アイツ……一刀お兄様を散々罵ってるけど、そう言うアンタだって『脳筋のお馬鹿』なんじゃないの? 多分、今の一刀お兄様は可也傷ついてると思うから、後でお兄様を慰めて上げなくっちゃ。でも、それより前にアイツにはきっつぅ~~い『お仕置き』しないとイケナイよね~~~?! さぁて、どんな手を使おうかなぁ? 』
『あらあら……焔耶ちゃんの男嫌いは相も変わらずみたいね? 可也手を焼かされていると、良く桔梗がぼやいていたけど、流石にここまで暴言を吐く様では黙っていられないわ。それに、一刀さんは私にとって義弟なのだし、身内を貶されて黙っていられるほど私は寛容じゃなくてよ? 』
『は、はわわわわわー!! ひっ、雛里ちゃん、どど、どうしようっ?! 』
『あ、あわわわっ、取り敢えず今は下手な事は言わないで黙って見ていた方がいいと思うよ、朱里ちゃん 』
『あの女、一体何様の積りなの!? 新参なのにも関わらず、一刀をここまで罵るだなんて……絶対に許せないわ!! 』
『惚れ込んだ人物に入れあげるとこや、勢い強さは思春にちょっと似ているけど、この子は彼女より数段劣るわね? 自分と相手の立場全く理解していないわ。こんなんじゃ、四六時中誰かと喧嘩沙汰を起こしかねないし、正直ウチには欲しくないわね? 』
何も愛紗だけではない。他の恋姫達も一斉にこの『焔耶』なる少女に不快感を感じていたのだ。だが、その一方で一心を始めとした漢達は何もせず、ただ黙って見守っていたが、照世は眉を顰め固生に到っては……噴火直前の火山のような表情になっていたのである。
『こりゃあ、性質が悪すぎるな? 以前、雒陽で会った曹操配下の夏侯惇に雰囲気が似ている。正直、あんまり相手にしたくない手合いだな? 』
未だに悪口の暴風雨を自分に叩きつけてくる少女に、内心思う一刀であったが、一方的に言われるのも正直腹立たしいし、第一あっちらさんは名前すら名乗っていない。取り敢えず名前くらいは聞いておかねば――そう考えると、一刀は彼女に名を尋ねる事にした。
「失礼、まだ貴殿の名を聞いていない。若し宜しければ教えていただけないだろうか? 某は劉北、字は仲郷。以後良しなに 」
すると、目前の少女はフンと鼻息を一つ鳴らすと、不遜な態度で名乗り返す。
「フンッ! こんな状況にも拘らず名を尋ねるとは随分と神経が図太いようだな? 良いだろう、貴様が先に名乗ったからワタシも名を教えてやる。ワタシは魏延、字は文長! 良く覚えておくが良い! 」
「ッ!? 」
その名を聞いて、顔には出さなかった物の、一刀は内心とても驚いていた。何故ならば、魏延とは諸葛亮が陣没した後、政敵の楊儀と内紛を起こすが、結局敗れてしまい、最期は馬岱に討ち取られた人物だからである。
確かに、彼は武勇や将才には優れていた。だが、その反面気位が高く他の諸将から敬遠された為か『三國志演義』では悪役として描かれてしまい、以降良くない印象を周囲に抱かれ、ある意味不憫な目に遭った人物である。
この辺りは『人形劇三國志』の影響で、『卑怯な手段で関羽を騙まし討ちにした卑劣漢』と、呂蒙が悪役のイメージを長年抱かれていたのと似通っている。
『演義じゃ悪役やダーティなイメージが付き纏ってるが、史実では可也優れた将軍だと言うのは理解している。けど、目の前のこの娘が魏延となると、果たしてどうなんだか……? 』
隻眼を狭め、一刀が険しげな表情になると、魏延の罵詈雑言を制止すべく桃香が声を上げるが、すかさず一刀がそれを遮る。
「焔耶ちゃん……これ以上一刀さんを罵るのなら私にも 」
「お待ち下さいませ、閣下。この仲郷、魏殿に申したき儀が御座いまする 」
「一刀さんっ?! 」
「なっ? 」
思いも寄らぬ彼の発言に桃香や焔耶だけでなく、周りの面々も驚きの表情になると、一刀は焔耶を真っ直ぐと見据え毅然とした口調で語り始める。
「魏殿にこの劉仲郷申す。先ず、此度の山賊討伐の件は、元は酈の殷県長が公孫西都尉様に依頼され、その公孫都尉様がこの仲郷めに懇願されたのだ。その辺りを理解して頂きたい 」
「なっ、行き成り何を言い出すのだ、貴様は? 」
勢いを削がれ、狼狽する魏延の事なぞ意に介さず、一刀は淡々と言葉を続ける。
「山賊どもにより酈の民は苦しめられ、その恨みは骨髄に達するまでになっていたのだ。確かに、山賊どもは国相閣下以下他のお歴々に良く似た女達を手篭めにし、慰み物にしていた。が、それを理由に筋を曲げる訳には行かぬ 」
「何だと、貴様っ?! まさか、ここの主たる桃香様を蔑ろにする積りかッ?! 」
「……蔑ろだと? それはどう言う意味か? まさか、貴殿は劉玄徳様の存在が全てに於いて優先すると思っているのではあるまいな? 」
「当然だろう、ここの主は劉玄徳、即ち桃香様以外有り得ないッ!! 」
すると、ここで初めて一刀は感情をあらわにし、魏延を一喝する。また、この魏延の発言を聞き、流石に人の良い桃香も渋面を作っていた。
「人の話を黙って最後まで聞けないのかッ? このっ、粗忽者めがっ!! 」
「うっ 」
一刀に大喝され、魏延は言葉に詰まり思わず呻いてしまった。
「勘違いをするなッ!! この仲郷、確かに国相閣下の※1陪臣。されど、ここの国主は飽く迄も『南陽王殿下』であって、国相閣下は王殿下の直臣の一人に過ぎない。今の魏殿の発言は、王殿下を国相閣下より下に見ているとも取れ、最悪国相閣下のお立場を悪くしかねない。故に、斯様な発言は控えるべきだ 」
「何ッ……だとおっ!! 」
『なぁ、照世。北の字の野郎、あの雌餓鬼に上手い事鎌ァ掛けやがったな? それにしても、魏延が劉備にぞっこんなトコはあっちでもこっちでも変わんねぇみてぇだし、下手すりゃあっちよりも性質が悪そうだな? 』
『左様ですな……とくに意識はしていないようですが、御舎弟様もそこら辺の駆け引きが徐々に上手くなって来ております。あと、あの娘に関してですが、彼女の師母たる厳顔殿と良く良く相談し、徹底的に『再教育』させるべきでしょう。今のままでは桃香殿の近侍に置けませぬ 』
『だな。あのままじゃ、やれ政だ戦だという前に、同僚と殴り合いの喧嘩ァやらかしかねないぜ? 』
一刀が熱弁を振るう一方、一心と照世は互いに顔を寄せ合い、ひそひそと小声でやり取りを交わしており、満足げな眼差しを一刀に、そしてやや険しげな視線を魏延に向けていた。
「先程も申したが、此度の討伐は公孫都尉から直接頼まれ、国相閣下の了承も得ている。また、私情で通すべき筋を曲げてしまっては、この仲郷、酈の県長や民は言うに及ばず、態々頭を下げて頼んでくださった殿下の直臣たる公孫都尉にどう顔向け出来様や?! ……此度、某は私人ではなく公人としての判断を下しただけに過ぎぬ。その辺りを考えられぬ様では、如何にして事に当たれ様ぞ? 」
「う…… 」
そこまで言って、一刀が一息吐くと、彼に文句をつけた雪蓮が納得した表情で深く頷くと、彼に深々と頭を下げる。
「……成る程ね、道理に適った発言だし、キチンと自分の立場を理解してるじゃない? 悪かったわね、一刀。軽はずみであんな事言ってしまって。それに、あの場に居たのは一刀だし、若しかすれば一刀が真っ先に殺りそうだったかもしれないのにね? 」
「いや、気持ちは判りますよ。だって、自分と似た人物があんな目に遭わされたんじゃ、誰だって心が落ち着きませんからね? 本音言えば、俺だってあの時あいつ等の『ブツ』を全部切り落としたかったのを必死で堪えてたんで…… 」
「成る程、でも良く抑えたわ。若し、ウチの母様だったら今の一刀の判断を褒めてたと思うわよ? 」
そして、今度は羅蘭と小蓮が一刀に頭を下げる共に謝辞を述べた。
「済まなかった、一番辛かったのはあの時場に居た一刀殿であったのに……某は何て迂闊な事を吐いてしまったのだ!? 嗚呼、穴があったら入りたい…… 」
「うん、雪蓮姉様や羅蘭の言う事尤もだよね? ゴメンネ、一刀。シャオ、酷い事言っちゃった…… 」
「羅蘭さん、小蓮…… 」
「一刀さん、私も感情的になってた。確かに、元々は白蓮ちゃんを通して酈の殷県長から頼まれた事だしね? だったら、そっちの頼みを最優先にするのは当然の事だし。今回の一刀さんの行動は、今後のお手本にしておくね? 」
「そうね。冷静になって考えてみれば、一刀のした事は至極当然の事だもの。一刀に腹を立てた自分が恥ずかしくなってしまったわ 」
「う~~~、やっぱあたしって『脳筋』だよなぁ……そこまで考える事が出来なかった 」
「さっすが、翠姉様。自分の事わかってんじゃん! 翠姉様だったら、全員皆殺しにして大鍋でグツグツ煮ちゃうかもしれないよね? 」
「たんぽぽ……後で特訓を『大牢』で味わわせてやる。逃げるんじゃないぞ? 」
「若しかしてヤブヘビッ?! 」
「一刀様、この愛紗も今回の貴方の行動を参考にさせて頂きます。矢張り、公人たる者自身の感情を先走らせてはなりませんから 」
「北の字よぉ、どうやら自分なりに勉強したみてぇだな? 今回ばかしはおいらもお前ェさんを見直したぜ。昔のおいらだったら、間違いなく全員皆殺しにしていたなぁ~~ 」
「御舎弟様、道理に適った判断が出来る様になりましたな? この照世がお教えした甲斐があったと言う物です 」
どうやら、一刀の言葉に納得が行ったのだろうか。桃香を始め他の面々も満足げに頷くと――悔しげに歯噛みしている魏延ただ一人を除いてであったが――一刀に暖かい眼差しを向け、何れも頼もしげに彼を見やっており、何とも穏やかな空気が場に漂う。
「うわああああああああああああああああっ!! 」
「ぐうっ!! 」
――だが然し、それは突如一刀を襲った衝撃と激痛により、無残にもかき消されてしまった。
※1:ぶっちゃけ簡単に言えば『家来の家来』。直江兼続、小早川隆景、堀直政は『天下の三陪臣』と呼ばれた。
ここまで読んでいただき真に感謝。今回で正式に魏延を登場させました。本当はもっと後にする予定だったのですが、連載を始めてから彼是二年半以上経過しており、そろそろ出さないと自分の中で風化しかねないなと思い、話の流れを訂正し登場させたわけなのです。
焔耶に関してなんですが……本音言うと、桂花並に扱いづらい子です。悪し様に書いてるんじゃねェよと思われるかもしれませんが、彼女の性格考えたらこう言うこと言うんじゃないのかなと思い、あんな台詞回しにしました。魏延ファン、そして焔耶ファンの皆さん……ドーモ、スミマセン!(土下座
さて、この後一刀と焔耶はどうなるのか? そして……これだけは言える、次回は『鉄拳制裁BBA……ゲフン、熟女』が登場します!この熟女に関しても、既にカップリングは決定済みで御座います。誰と絡むか適当に予想してみて下さい。
これより、私はお仕事前に少し休みます。昨日も帰りが夜中の一時近く……寝れる時寝とかないと体が持たないのです。勤務時間の約九割が冷凍庫での作業なんでね?
それでは、また~! 不惑庵・裏でした~!!