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真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第三部「天下鳴動編」
50/62

幕間其の五『巴蜀からの新参者』 ――壱――

 どもーっす、不識庵です。さて、今回の話ですが元々先日載せた『仮更新』の『壱』に該当する予定だったのですが、話が横道にそれ過ぎてしまい、別の話にした方が妥当と思い今回も『幕間』にしちゃいました。


追伸:タイトルを「巴蜀からの新参者」に変えました。

(平成二十五年十月二十五日追記)


 今回は内容が……ちょっと重いです。詳しいことは後でお話いたします。



 ――序――



 楊威公(よういこう)こと、真宮璃々香の告白から数日後。一刀は実戦訓練を兼ねた山賊の討伐に出動する。予て(かねて)より、宛の西に位置する(てき)県の※1(いん)県長から陳情を受けていた為だ。


 領内西部の治安を司る西都尉を任されているのは、白蓮こと公孫瓉である。だが、如何(いかん)せん南陽国が発足してからまだ半年も経っておらず、異民族討伐等で辣腕を振るった彼女を以ってしても其処の方まで早急に手を回せなかったのだ。


 袁術こと美羽の暴政のお蔭で、未だ南陽には負の遺産が山積み状態であり、全員手探り状態でそれ等の解消に当たっている。当然、治安の悪化もそれに含まれており、治安の回復も中々に骨の折れる事の連続でもあったのだ。


 今回、一刀は白蓮から応援を頼まれ、宛の警備隊を始めとした実戦経験の少ない兵を率いてそれに当たったのだが、他にも先日章陵で捕らえた奴隷商人の辛から聞き出した情報の中に、


 ――酈近郊の山塞(さんさい)をねぐらにしている山賊団に、通行料代わりとして何人かの女奴隷を渡した――


 と言う物が入っており、それの確認も目的に含まれていたのである。主将は一刀、副将は実戦経験がほぼ皆無の創宝(そうほう)(朱然の真名)、そして補佐役名目で璃々香も今回彼等に同行した。


 最初、一刀は彼女の同行に難色を示したのだが、『この世界の現実を改めて知っておきたい』と必死に懇願されてしまい、已む無く彼は『自分の言う事に必ず従う事』と彼女に約束させ同行を許したのである。



『ふぅ、若のお世話から離れ、こうして蓮華様の補佐ができるなんて……まるで夢みたい。でも、居なければ居ないで少し物足りないかな? 』


『優里、今度はこっちの竹簡にも目を通してくれるかしら? 今日は朝から竹簡が山積みなのよ 』


『はい。畏まりました、蓮華様 』



 余談であるが、創宝にとって口喧しい優里(諸葛瑾の真名)は宛にて蓮華の補佐として政務に当たっていた。


 宛を出立してから二日後、一刀率いる五百名の部隊は酈に到着すると、早速彼は創宝と璃々香を伴い県城へと赴き、(いん)県長から挨拶と事情の説明を受ける。


 殷県長は年の頃四十前後で、中背であったが体つきは結構がっしりとしている。だが、眠たげに半開きにした目が、如何せんやる気の無さげな印象を与えており、切れ者と言うよりは『昼行灯』の方が似合ってそうに思えた。



『え~、今回は態々宛からお越し頂き感謝しますよ。劉隊長 』


『いえ、自分にとり当然の事と思ってます故、どうかお気遣い無く 』


『では、早速ながらここに巣食う山賊どもについて説明します。奴等はおよそ二百人前後からなる集団なのですが、何度か手を打とうとした物の、県内の村や町から人手を集める事も叶わず、結局自分の身を護るのに手一杯。真に情けない話ですが、何とかして下さい。もう、こちらは穴と言う穴を責められ、奴等の『黄色く濁った精◎』で汚されまくった生娘状態なのです 』


『殷県長様、若い娘もおります故……その喩え(たとえ)はちょっと……まぁ、強ち間違いではないと思うのですが 』


『はっ、黄色く濁ったせっ、◎液……何て破廉恥な喩えですの?! 』


『ぬおおおおっ! 何とも卑猥な響きなのだっ!? そう言えば、拙者がこの前買った『薄い書物』にもその様な絵が描いてあったぞ? 』


『『薄い書物』……? 創宝様、それは一体何ですのッ?! 』


『創宝先輩……少し黙ってて下さい。璃々香には刺激が強すぎますから…… 』


『おっと、確かにこれは失言であった。すまん、一刀君に璃々香君 』



 その際、緊張を解す目的と思われたが、可也下品な喩えが用いられると、璃々香は思いっきり赤面し、創宝は『スンバラシイご本』の内容の一節を口に出す有様で、一刀は軽い頭痛を覚えてしまった。



『ところでですが、殷県長。奴等は、主にどの時間帯に行動しておりますか? 』


『そうですなぁ……偶に日中に出没しますが、基本は夜間です。夜を狙い、奴等は付近の村々や通行人を襲っているのです 』


『成る程……出来得るのであれば、なるべく一網打尽にしたい。ならば、ねぐらに引っ込んでる日中にやるのが良さそうだな? 創宝先輩、璃々香。すぐに出立しよう! 夜になれば動き回るから、却って捕らえ辛くなってしまう 』


『了解したぞ、一刀君 』


『畏まりましたわ、一刀様 』



 こうして、彼等は休む間も無く例の山塞がある山の麓に直行すると、創宝と璃々香と簡単な打ち合わせをし、兵の割り振りを行う。先ず創宝に三百の兵を率いさせ、彼には正面からの攻撃を命じた。



『やぁやぁ、我こそは南陽の勇者朱義封なりー!! 行くぞ者ども!! 人の道に外れたケダモノどもを誅するのだ 拙者に続けェ~~~!! 』


『『『おおおおおおーーーっ!! 』』』


『なっ、なんだぁ!? まさか、ここの軍隊かよっ!? 』


『ひっ、ひいいいいいいっ!! 』



 賊兵がそれに気を取られてる間、一刀自身は百の兵と共に裏手から襲い掛かり、正面の創宝との挟撃に持ち込む。



『よし、手筈どおり、先輩の隊に気を取られてるな? 全員俺に続け!! 義封殿との挟撃に持ち込むぞ!! 』


『『『はっ! 』』』


『好き勝手放題散々ヤリ捲くったケダモノに情けは無用だっ! 全て斬り捨てろッ!!  』


『『『応ッ!! 』』』


『掛かれーっ!! 』


『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーっ!! 』』』


『なっ、今度は後ろからだとッ?! これじゃ挟み撃ちじゃねえかよっ!? げっ、あの黒い鎧! 間違いねェ、アイツは劉北だ! 皆逃げろーっ!! 劉北が来たぞーっ!!  』


『劉、劉北だとぉ!? 陽翟で百人近く斬ったあの“劉黒”かよっ!? アイツに目を付けられたら最後、全員皆殺しにされるぞ!! 』


『『『うわあああああああああああああああああああああああああっ?! 』



 そして、璃々香には少し経験を積んだ百人の女兵士が割り振られると、この場での待機を命じられる。何故、女性の兵士を連れて来たのかと言うと、奴隷にされた女性を救出・保護する際、女の兵士が来た方が安心できるだろうと、璃々香が白蓮に進言したからだ。



『皆さん、仲郷様のご命令通りわたくし達はここで待機です。合図があるまで勝手に動いてはなりませんことよ? 』


『ウフフ、大丈夫ですよ威公小姐(シャオチェ)(お嬢様)。『絶ェ~~対に、傷をつけさせるな! 』と劉の若大将(一刀のあだ名)からキッツゥ~~イお達しを受けていますからね? もし破ったら……いやぁ~~ん、(ねや)でガンガン……それも犬みたいな格好で夜通し犯されちゃう~~!! 』


『ねっ、閨で、それもガンガンの犬みたいにバンバンッ?! かっ、一刀様は、一体何人の女性と関係を持っておりますのーーーーっ!? 』


『ちょっと、アンタ! それって罰じゃなくご褒美の間違いなんじゃないの? あと威公様をからかっちゃ駄目じゃない? 本気で信じきってるわよ? 』


『あら、ばれちゃったか? 』


『え゛……今のは嘘ですの? 』



 と、遠慮を知らぬ女兵士達との間でこの様なやり取りがあったが、改めて気を引き締め直し、彼女等は事に当たったのである。


 一刀と創宝の二人で敵を殲滅し、塞を陥落。次に璃々香を入らせ、彼女に囚われていた奴隷の保護や、略奪した物資の回収作業に当たらせる。これが三人で考えた作戦であった。小規模ではあったが、今回の討伐戦は一刀たちにとって大きな経験になったのである。


 一刀達が塞に突入してから一刻(約二時間)ほど経過すると、“プオオ、プオオ”と突如法螺貝の音が山の中腹から聞こえてきた。それは麓で待機する璃々香達の耳にも入ると、彼女はそれに小さく頷き、声高に叫んで号令を下す。



「皆さん、仲郷様と義封様が敵の塞を落としましたわ! わたくし達も続きますわよ?! 」


「「「はっ! 」」」



 こうして璃々香達も入山して行ったのだが、また更にそこから二刻半(約五時間)程経過した。


 辺り一面、すっかり夕闇に塗れる中、一刀達率いる五百の兵が下山する。彼等は手に荷車を引いていたり、或いは大きな荷物を背負っていた。その中身は、主に山賊が略奪してきた大量の物資や、その山賊どもの首である。二百人いた山賊どもの内、約七割が首だけの姿にされたのだ。



「くそっ、何で俺等があんな奴等に…… 」


「畜生! 好き勝手やって何が悪いんだよッ! 」


「正義なんて今時はやらねぇのによぉ…… 」


「黙れよ……何なら、今ここで八つ裂きにしてやろうか。ああっ!? 言っとくが、今俺はてめぇ等の『鶏巴(ジィーバ)(ち◎こ)』を全部切り落としたい気分なんだからよおっ!? 」


「「「ひいいいいいっ!! 」」」



 他にも、頭目や数名の幹部連中を始めとした生き残りの山賊どもが捕虜として連行されており、当然悪びれずに悪態を吐き捲くるが、一刀が槍を突きつけ無理矢理黙らせた。


 これに関しては、殷県長から『あの山賊どもに関して、周囲からの恨みが骨髄に達しておりましてね? 親玉や幹部連中は言うに及ばず、出来るだけ生け捕ってもらえませんか? 』と、追加で頼まれたからである。



「はあっ……参ったな、こんなに気が滅入ったのは久し振りだ…… 」


「これが戦、小さいとは言えどもこれが戦か……ウプッ…… 」


「……これが戦……あの時見たケダモノどもも、行き着く先はこうなってしまいますのね? 一刀様はこんな事をずっと……血の臭いがこんなに酷い物だなんて……ウウッ 」



 三人は何れとも憔悴しきっており、苛立ちや疲れを露にしていた。今回、彼等は目にしたくない物を見てしまい、正直戦よりもそちらの方で可也堪えていたのである。


 他にも、創宝と璃々香は二人とも戦の経験が余り無い為、大量の血を見たり或いは生首や凄惨な屍――その内三十は一刀が出した――とかを見た影響もそれに加わっていた。余談であるが、二人とも下山する前盛大に『大噴出』してしまい、先程まで衛生兵に介抱されていたのである。



「こうなるのは、ある程度は予想はしていたんだけどな……クソッ、こんなに後味悪いのは久し振りだッ!! 」


「全くだな……一刀君。正直、あんな事は『薄い書物』等の創作物だけで十分だ!! 実際に目の当たりにして見れば、何とも不愉快極まりない……っ!! 」


「ええ……お二方が仰られる通りですわね? こればかりはわたくし達だけではどうしようも……宛に戻ったら、桃香姉様や朱里ちゃん達に相談するしかありませんわね? 」 



 そう言って、三人は女兵士に背負われた『元』女奴隷達に目を向ける。発見、保護された時全員全裸で、首輪を付けさせられていた。また、逃げ出せぬ様首輪に付けた鎖で繋がれ、手足には枷がはめられ、そして……『想像した通りの状態』で汚されていたのである。


 おまけに、服や身に着けていた物は全て処分されていたらしく、已む無く兵が鎧の下に着ていた肌着や、そこら辺に放置されていたぼろきれ等で何とか彼女等の裸を覆い隠した。


 その女達は、奴隷商人から入手した者も含め二十五名おり、主に十代から二十代の若い娘達であった。その中には可也痛め付けられたり、或いは栄養失調などで衰弱著しい者も何人か見受けられたのである。



「ふうっ…… 」


「な、なぁ、一刀君。気持ちは判らんでもないが、余り落ち込むのもどうかと思うのだが…… 」


「創宝様の仰る通りですわ。一刀様は白蓮様から依頼されたお役目を立派に果たしたのですから 」


「は、ははっ、別に良いですよ、二人とも。そんなに気を使ってもらわなくっても…… 」


「一刀君…… 」


「一刀様…… 」



 何とか一刀に立ち直ってもらうべく、創宝と璃々香が声を掛けるが、当の彼からは苦笑いしか帰ってこない。それから間も無く、彼等は酈に到着すると、出迎えてくれた殷県長に捕虜の身柄と山賊どもから没収した物資を全て引き渡した。


 ここの殷県長は実に公正らしく、出来るだけ調べて元の持ち主に返却すると一刀達に約束してくれた。ただ、保護した女達に関しては別で、ここの住人以外は全て宛に連れて行く事になったのである。



「皆さん、お疲れで御座いましょう? 簡単な物ですが、食事や酒を用意しますんで今夜一晩ゆっくり休んでくださいよ。風呂の方も入れる様にしてますから、そこで戦の汗や埃を落として行ってください 」


「殷県長様、多大なる御厚意に感謝致します。幸い死人は出なかった物の、何せ将も兵も未経験故に、可也滅入ってたんですよ。それに、ここには女の兵も居ますし、風呂に入れると聞けば絶対に喜ぶと思います……後、保護した女性達を最優先で入れてあげて下さい。満足に食事も与えず不衛生な環境下で慰み物にされ続け、衰弱が著しいですから 」


「承知しました。なら、城内の女中や町の女達から有志を募り、その世話に当たらせましょう 」


「殷孔休様……真に感謝致します 」



 と、殷県長の有難い申し出を受け取った一刀は一晩軍勢を休ませ、その翌朝には宛に帰還すべく酈を出立した。



 ※1:役職の内容は県令(県知事)と同じ。規模の大きな県は県令、規模の小さな県は県長と名称が区別されていた。



 ――壱――




「はぁ~あ…… 」



 昨晩、持て成しを受けている時は笑みを見せていた一刀だったが、酈を離れ宛への街道を進むと、彼はまた直ぐに落ち込み、ため息まみれの体を成す。これには堪らず、副将の創宝が馬を寄せてきた。



「一刀君、気持ちは判らんでもないが、いい加減引き摺るのをやめたらどうだ? それに、一刀君はこの隊の主将なのだぞ? その主将たる君が落ち込んでいては士気にも大きく響くし、第一、君の想い人たる国相閣下にどの面下げて報告せねばならぬのだ? 」 


「あ、創宝先輩……スンマセン 」


「全く、君の方が拙者より場数を踏んでいるはずなのに……これでは立場が逆ではないか? 」


「…… 」


「創宝様、お待ちになって下さいまし 」


「む、璃々香君? 」


「璃々香? 」



 今度は璃々香が馬を寄せ、創宝に話し掛ける。余談であるが、彼女もれっきとしたお嬢様育ちで、然も御幼少のみぎりから乗馬を嗜まれており、難なく馬に乗れていたのだ。



「創宝様、今回ばかりは仕方がありませんわ。多分、わたくしが一刀様の立場でも激しく落ち込んでしまいますもの 」


「むむむ……まぁ、確かに保護した女性があれではなぁ…… 」


「はあっ…… 」



 三人がとある荷車をチラリとを見やると、そこには荷駄の中に例の女達も乗せられており、何れも虚ろな目をこちらに向けていた。それをまともに受けてしまい、三人は思わず目を背けてしまう。



「まさか……保護した方達の大半が、顔や姿形が桃香姉様達に良く似ていただなんて? 確かに、本人達ではありませんけど、大切な人達に良く似た方々があんな目に遭わされていれば…… 」


「むむむ……もし拙者であったとすれば、お気に入りの獣娘に良く似た娘が汚された様な物か? 」


「……いささか引っ掛かりを覚えますが、その様な物だと思って下されば…… 」



 少し的のずれた創宝の答えに、璃々香が顔を引きつらせていると、徐に一刀が口を開いた。



「それにしても、何だ。まさか、捕らえた山賊の親玉が昨年俺達と直接戦った黄巾の生き残りだったなんてな? 義勇軍率いていた桃香達の顔を覚えていれば、それに似た人達に恨みをぶつけるのも十分に有り得たんだ……それだけ、俺達は恨みを買ってたという事か。ったく、洒落んならないよな? ハハハッ…… 」


「一刀君…… 」


「一刀様…… 」


「さっきは思わず目を逸らしちまったが、改めて俺は彼女等の姿を目に焼き付ける積りだ! 何故なら、この(ひと)達は俺達の所為で犠牲になったも同然なんだからなっ?! 」



 己に言い聞かせる様にそう叫ぶと、一刀は愛馬黒風(ヘイフォン)を先程の荷車の方に寄せ、山賊どもに壊された女達を直視する。



 ※2――桃香、愛紗、鈴々、星、翠、紫苑、雪蓮、蓮華、小蓮、明命、祭、羅蘭(ろうらん)(太史慈)、白蓮――



 彼女等の風貌は、何れもこれ等の恋姫達に可也似通っており、中には瓜二つともいえる位に酷似した者も見受けられた。彼女等の目には未だ正気が戻っておらず、それ所か時折発狂しては折角着させた服を脱ぎ出す者が出るほどであったのだ。余談であるが、こんな状況でも『健全』な男子連中は不謹慎ながらも『反応』してしまう。結果、彼等は妙に前かがみになって行軍する羽目になってしまい、その光景は女兵士達からの失笑と呆れを買ってしまったのである。



「今更謝った所で、貴女達に許して貰えるとは思わない。けど……貴女達の事は 」 


「いっ、いやああああああっ、こっちにこないでっ!! 」


「ッ!? 」



 沈み込んだ表情で、彼女等に頭を下げ謝罪の言葉を述べる一刀であったが、それを遮るかの如く一人の女性が行き成り声高に叫ぶ。思いも寄らぬ出来事に愕然となり、一刀がその声の主を見た瞬間――彼は言葉を失ってしまった。



「いやッ、いやあああああああああああああああああああああっ!! これ以上近寄らないで、もう、これ以上ぶたないでよおおおおおっ!! 」


「…… 」



 その女性は桃香と瓜二つで、声や顔立ちは言うに及ばず、髪や肌の色に背丈や姿形までと、何から何まで彼女その者と言える位に生き写しだったのである。彼女は完全に心を壊されており、体を隠していた布から垣間見える手足や肌には、男たちに汚された痕がおびただしく残っていた。



(そう言えば、夕べ山賊の一人を尋問した際に『桃香達の活躍を劇の題目にしていた旅芸人の一座を襲った』とか抜かしていたな? 他人なのは判っているけど……これじゃ、これじゃまるで桃香に拒絶されてるみたいじゃんかよ、クソッ!! )



 そう内心で叫ぶ物の、一刀は何とも言えぬ虚しさに襲われてしまい、両の眼から熱い涙を流すと、彼は肩を微かに震わせ嗚咽した。



「ウッ、ウウッ、クッ…… 」



 ――嗚呼 夢を追うと言う事は、関係の無い者まで犠牲にする事でもあるのだな……――



「一刀君……何て悲しい背中をしているのだ!? くうっ……! 」


「うううっ……かっ、一刀様、こんな悲しい事は絶対に、絶対に繰り返させては…… 」



 咽び泣く一刀の胸中は、如何許り物のであったのだろうか? 今回の出来事で、一刀はこの世界における厳しい現実の一端を改めて思い知らされる。彼の背中には、図り様の無い悲しさが背負われてる様で、後ろに控えていた創宝と璃々香も貰い泣き、二人は激しく慟哭するのであった。




 ※2:山賊どもは直接戦った恋姫達の顔を覚えていたので、朱里や雛里は入っていない。




――弐――



 その後、宛に帰還した三人は全てを桃香や白蓮達に報告すると、彼女等は暫くの間何も言えなくなってしまい、中には声を上げて泣き崩れる者もいた。そして――



「一刀さん……あの(ひと)達の事だけど、私も協力するよ? だって、これは私の責任でもあるんだもの。一刀さんだけに負担を掛けさせる訳には行かないから…… 」


「無論、私もよ? 私達に似ていると言う下らない理由で、惨い仕打ちを受けた(ひと)達を放っておく訳には行かないわ 」


「お前から話を聞かされて、正直他人事だと思ってない。だから、あたしも協力する。それにしても、何て汚いんだよ。あの山賊どもっ!? あたしがこの手で直接殺したい位だ!! 」


「一刀様、私も協力致します。この(ひと)達がこうなったのも、ある意味私の所為ですから……若し、あんな目に遭わされたのが私自身だと思うと……恐らく、自ら命を絶っていたかもしれません 」


「一刀お兄ちゃん、鈴々も協力するのだッ!! 今日からおやつを減らして、その分をあのひと達にあげてほしいのだ! 」


「一刀殿、私も禄の一部を返上し、貴方に協力するぞ? フウッ……! 今更言うのも何だが、こんな事になるのであれば、私も行くべきだった 」


「ええ、星ちゃんの言う通りね? これなら私だって行きたかったわ。もし私だったら……先ず、全員の逸物を切り落とし、次に生きた的にして、死なない程度に矢を射ち捲くり、更には生皮を全て剥ぎ取ってから、カラリと油で揚げて……東嶽大帝への供物にしてくれるっ!! 」


「お父さん、お母さんがなんかこわいよ? 」


「そうっとしておくが良い、璃々……母さんはな、今悪い奴等に怒っておるのだ 」


「桃香、それに皆…… 」



 桃香を始めとした皆が一斉に協力を申し出ると、早速彼等は宛郊外の静かな場所に大きな邸宅を作り、女達をそこに入居させたのである。他にも、二、三名の医師や二十名近くの世話人を常時置き、何不自由無く療養生活が出来るよう配慮した。


 運営費用は可也高く付いたのだが、その資金は一刀達が返上した俸禄の一部に、先日没収した寇『元県令』と奴隷商人の辛の財産を付け加えた物で賄われたのである。後に、この施設は、先程の様な目に遭った者達の他に行き場の無い重病人や戦での傷病者も受け入れ、今で言う所のサナトリウムへと変化した。


 だが、一方では一刀の判断に不満を唱える者も居た。雪蓮と羅蘭、そして小蓮の三人である。



「一刀、何でそいつ等をこっちに連れてこなかったの? あんな女の敵、わざわざ県長に渡す必要も無かったんじゃない? 」


「雪蓮様の申す通りだ! それがしだけでなく、敬愛せし雪蓮様に似た者をあんな風に汚した連中、絶ぇっ対にィ、生・か・し・ておけぬぅ~~~っ! この太史子義が戟の錆にしてくれるっ!! 」


「ほんっと、一刀って蓮華姉様達と閨でいちゃつく事以外は気が利かないんだからっ! シャオのそっくりさんも犯されちゃったんでしょー? だったら、何でこっちに連れて来なかったのよー!? 」


「…… 」



 彼女等に咎められ、口を真一文字に結んで沈黙する一刀。また三人以外の恋姫達も、やや不満げな視線を――特に類似者の数が一番多かった桃香も――一刀にぶつけており、室内の空気に冷たいものが立ち込めてくると、それに追い討ちを掛けるが如く一際大きな怒声が上がった。



「貴様ッ、それでも武人かっ!? それでも男かっ!? 大体、何で貴様の様な腑抜けた奴が桃香様の臣にいるのだっ!? 」


「!? 」



 一刀を始め、場に居る全員が声のした方を向く。そこには背の高い少女が拳を振り上げ、憎き仇でも見るかの様に一刀を睨みつけていた。




【殷県長について】



 姓:(いん) 名:(かん)




 字:孔休(こうきゅう)



 余りにも知名度がマイナーですが、殷観と言うれっきとした劉備配下の史実の人物です。(私もつい最近知ったばかりです(苦笑))


 以前出した章陵の県令と奴隷商人は完全な悪役だったので、名前は適当に付けましたが、今回はまともな県長だったので、何か適当な史実キャラはいないかなと思ったら、打って付けなのがいた訳なのです。


 この殷観さんですが、孫権の協力を得て荊州の主になった劉備に、その孫権から「協力して蜀を攻めようぜ」と言う申し出があり、当時の劉備陣営で「それもありじゃね?」という意見が出ましたが、殷観は「孫権には態度曖昧にして、自力で蜀を取った方がイイッすよ~」と発言したとか。後に荊州別駕(州の長官職)に任じられたそうですが、演義には出ておりません。


外見イメージですが……『昼行灯』と呼ばれた、「カミソリのG藤」さんにしています。(苦笑)本作では凄いんだけど、やる気の無い、ちと下品なおっさん仕立てにしています。






 ここまで読んでいただき真に感謝。現在、労働環境が激変しており、またしても上手く文章が書けない状況に陥っております。今回も以下次号みたいで本当にセコイ真似をして申し訳在りません。何せ、就寝の一時間前にだらだら書いてようやっとここまでって感じでしたので。(汗


 正直、本音言うと今回は私の完全なる『マスターベーション』です。今回のこのお話は……元ネタが恋姫の『不健全』な薄い本や、とある恋姫同人CG集に触れて思いついた物です。流石に私はメインキャラが露骨に犯される物とか書けないので、敢えてそっくりさんが犠牲になると言う、それでも一刀にとって物凄く後味の悪い結果にさせちゃいました。


 ですが、これも在り得るんじゃね? とか思い、改めて一刀にはこの優しくない世界の現実を味わってもらおうと、敢えて今回も苦汁を舐めさせた訳です。


 そして、ラストの方で出てきた少女は何者か……? 多分気付くでしょうね。(苦笑


 今回も幕間ですが、先日の仮更新に続く展開で終わらせたいと思っております。そして続きは……いつ出来るか断言できません。今日明日休んで、明後日から当面夜勤……体内時計が狂い捲くりで、調子が乗れないのです。


 ですが、それでも何とか出せるよう頑張ります。十五話まで面白かったと酷評された私ですが、正直エタりたくないし、自分なりに意地があるからです!!


 また次回もお会いいたしましょう、それではまた~! 不惑庵・裏でした~!!


追伸:今回、元ネタ提供を快諾していただいた『討伐失敗』の作者シワタカ様に多大なる感謝の念を贈らせてください。シワタカ様、本当に有難う御座いました。


※:シワタカ様。お名前を「シワカタ」と語表記してしまいました。本当に申し訳御座いませんでした。謹んでお詫び申し上げます。

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