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真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第三部「天下鳴動編」
48/62

幕間其の四『楊威公の正体』 ――三――

 お晩です、不惑庵です。さて、前の更新から急ピッチ……とは言えども、6000程度で御座いますが、一段落分仕上げましたので更新しておきます。


 短い分では御座いますが、昭烈異聞録最後まで読んで頂けたら嬉しく思います。


 ――三――

 

 

 暫し(しばし)の間、桃香の胸で泣きじゃくっていた楊威公こと真宮璃々香であったが、気持ちが落ち着いたのであろうか。彼女は、桃香の胸から離れると、涙を拭いすっくと立ち上がる。

 

 そして、彼女は水鏡塾の制服のスカートの裾を摘むと、優雅な仕種で皆に一礼する。先程までの感情を剥き出しにしていた小生意気な娘の姿はもうなく、今ここにいるのは気品に溢れた一人の淑女(レディー)であった。

 

 

「先程ははしたない所をお見せしてしまい、大変失礼をば致しましたわ。改めて、皆様にご挨拶させて頂きますわね? わたくし、姓は真宮、名は璃々香と申します。故あって世を忍ぶ為、楊儀、字は威公と名乗っておりますが、今後とも良しなにお願いいたしますわ 」

 

 

 そう本当の名を名乗る彼女の顔は、まるで憑き物が落ちたかの様にすっきりとし、実に晴れやかとしている。これを頃合と見計り、一刀は璃々香に話しかけた。

 

 

「どうやら落ち着いたみたいだな? それなら、真宮――いや、威公と呼ばなくっちゃな? 今度こそ本題に入りたい。これからあれこれと聞くが大丈夫か? 」

 

「ええ、構いませんわ、北郷――いえ、仲郷様。それと……わたくしの事は『璃々香』とお呼び下さいませ 」

 

「え? どうしてだ? それはお前にとっちゃ、その名前は『真名』に当たるんだぞ? この世界にいるんだ。当然、『真名』の意味合いは理解しているよな? 」

 

 

 怪訝そうに一刀が言うと、璃々香は申し訳無さそうに顔を俯かせ、言葉を続ける。

 

 

「無論ですわ、わたくしも孔明――いえ、朱里ちゃんや雛里ちゃんに真名を預けましたもの。それに、仲郷様はわたくしと同じ世界の人間です。同じ世界の人間として、支えあっていかねばなりませんわ 」

 

「…… 」

 

「……今更、虫の良い話を言ってるのは百も承知ですし、過去の無礼も謝りますわ。どうか、どうか…… 」

 

 

 そう言って、璃々香は懸命に頭を下げて心からの謝意を示すと、それに毒気を抜かれて一刀は溜息を一つ吐いた。

 

 

「ハァ~~、やれやれ。判った、もう良い。もう良いよ。そこまで謝るんだったら、許してやるよ 」

 

「ほっ、本当ですのっ!? 」

 

「ああ、だからもう気にしなくっても良い。それと、元々お前の正体が判った時点で、同じ世界の人間として助け合って行こうって考えてたんだ。まっ、そこら辺に関してはお前に先に言われちまったけどな? 」

 

「まあっ、妙な所で意見が合いましたわね? それと、わたくしの事は『お前』ではなく、きちんと名前の『璃々香』と呼んで下さいませ 」

 

 

 そう言って、クスリと笑みを浮かべる璃々香。ようやく、彼女は歳相応の少女らしい姿を見せたのである。

 

 

「判った、ちと恥ずかしいが、璃々香。そう呼べばいいんだな? なら、俺の事は『一刀』と呼んでくれ。この世界では『真名』にしているんだ 」

 

「畏まりましたわ、一刀様。うふふふっ 」

 

 

 

 何となく良い雰囲気を作り出す一刀と璃々香であったが、突如桃香が間に割って入ると、実に『エエ笑顔』で彼の背中をつねる。行き成り襲ってきた強烈な痛みに、一刀は思わず悲鳴を上げてしまった。

 

 

「イッツウウウウウウウウウウウウ!! 」

 

「一刀さん、同じ世界の人と再会できたのは良いけど、鼻の下伸ばしちゃ駄目だよ? 」

 

「イーーーーーーーーーッ!! 」

 

「ははは。御舎弟様、『李下に冠を正さず』と言う言葉もあります。紛らわしい真似はせぬべきですな? 」

 

 

 何処ぞの悪の組織の構成員みたいに、右手をびしっと上げた一刀が奇声で返事をすると、照世(男孔明)からは故事を引き合いに出されて諌められ、桃香は『宜しい』と一言告げて彼を解放する。そのやり取りが大変おかしかったのか、璃々香や周囲の者達から失笑を買ってしまった。

 

 

「クスクスクス……大変仲が宜しいのですのね? ご安心下さいませ、わたくし好いてる殿方は別に居りますから。あ、無論この世界にいる方ですわよ? 」

 

「あっ、ご、ごめんね? 二人の雰囲気が良かったからつい…… 」

 

 

 璃々香が笑いながら言うと、桃香は顔を真っ赤にして縮こまる。そして、抓られた所を擦りつつ、涙目で一刀が璃々香に尋ねた。

 

 

「イツツツツ……それじゃ、いいか? 璃々香、君に聞きたい事なんだが、どれ位前にこの世界に来たんだ? そして――君以外に誰か来ているのか? 因みにだが……俺は同じクラスだった及川、及川佑って言う奴と昨年陽翟(ようたく)で再会した。あいつは、今曹操の所で『天の御遣い』って道化を演じている 」

 

「……っ?! そ、そうですの、章仁……いえ、早坂様の親しいご友人だった及川様もここに…… 」

 

「ああ。先に言っとくが、今のアイツに会う事はお勧めできない。もう、アイツはフランチェスカに居た時みたいな、おちゃらけた奴じゃない。何か腹に一物を持った、とても危険な匂いがするんだ。現に、俺はアイツとの縁を切ったんでな? 」

 

「一刀様がそう仰るのなら、間違いありませんわね? ならば、気をつける事に致しますわ。それと、お尋ねになられた事ですが、私がいつここに来たか、そして私以外の誰がここに来たかという事でしたわね? 」

 

「ああ、辛い事を思い出させるが、協力してくれないか? 出来るだけ、一人でも多く助けたいと思ってる 」

 

「判りましたわ、では…… 」

 

 

 どうやら、ある程度は予想していたのであろう。璃々香は一刀の目を真っ直ぐと見据えて、ゆっくりと話し始めた。

 

 

「わたくしがこの世界に迷い込んだのは、西暦20XX年十二月十二日の放課後の下校途中。ここの暦であれば、多分昨年の春先だと思いますわ。あの時は記憶があやふやでしたし、況してや暦を調べる余裕なんかありませんでしたけどね? 」

 

「西暦20XX年十二月十二日……俺がこの世界に来た日だ。でも、璃々香がここに迷い込んだのが昨年の春先……俺がここの世界に来たのは、ここの暦で言う所の今から二年前の三月だ 」

 

「それなら、一年ほどの※1“ずれ”がありますわね? 」

 

「そう言う事だな。現に俺は四月生まれで今十九だし、君は―― 」

 

「ええ、十六ですわ。わたくし、三月の早生まれですの 」

 

「成る程、どうやら誤差があると見ていいな? で、君以外でここに来たのは―― 」

 

 

 そう言うと、璃々香は涙目になり、一刀にしがみつく。そして――

 

 

「お願いですわ、一刀様ッ! どうか、どうか章仁(あきひと)様や如耶(きさや)姉様達を助けて下さいませっ!! 」

 

「え……今、何て……? 章仁って……まさか早坂の事か? あと如耶姉様って、不動(ふゆるぎ)先輩までもここに来ているのかよっ!? 」

 

「ええ、その通りですわっ!! わたくしの他に、章仁様と羽深(うみ)様、そして如耶姉様もあの時一緒で……寮への帰り道の途中、行き成り変な光に巻き込まれたと思ったら、気付いた時にはこの世界におりましたの…… 」

 

「なっ…… 」

 

 

 そこまで言うと、璃々香は一呼吸置き、自身を落ち着かせた。

 

 

「フウッ……最初、私達は何が起こったのか全然理解出来ませんでしたわ。でも、気丈な章仁様や如耶姉様は、今にも泣きそうな羽深様やわたくしを懸命に励まして下さり、どこか人の居る所を探し、当て所無く彷徨いましたの…… 」

 

「俺もそうだったよ。だけど俺の場合――そこに居る玄徳が行き倒れた俺を助けてくれたんだ 」

 

「そう、でしたの……嗚呼、わたくし達も玄徳様の様な慈悲深い方に助けられたらどんなに良かった事か…… 」

 

 

 当時の辛い事を思い出したのだろう。璃々香は上着の衣嚢(いのう)(ポケット)から、小さな手巾を取り出すと、そっと目頭に宛がって涙を拭い、声を詰まらせながらも当時の事を語り続けた。そんな彼女の痛々しい姿に、漢どもは悲痛そうに顔を顰め、桃香は肩をしゃくりあげて貰い泣きする有様だ。

 

 

「この世界に来てから数時間後、わたくし達は何とか村と思しき物に辿り着いたのですが、そこは…… 」

 

「そこは? 」

 

「人の皮を被ったケダモノたちが、乱暴狼藉の限りをし尽くしておりましたわ。男子供に老人達は無抵抗のまま殺され、若い娘達は……想像も付きますでしょ? 」

 

「……ああ 」

 

「恐らく気付いたのでしょうか。次に、奴等はわたくし達の方に目を向けると、一斉に襲い掛かってきました。章仁様と如耶姉様は、傍らに落ちていた棒切れで応戦しながらも、わたくしと羽深様に逃げるように言いました。ですが、羽深様は章仁様のお傍を離れたがらず。已む無くわたくしは一人で……後はどこをどう逃げたのか全然覚えておりません。気付いたら、水鏡老師に保護されて、寝台の上に寝かされておりましたわ……わたくしは臆病者の卑怯者ですっ!! 大切な人達を差し置いて、一人で逃げたのですから……!! わたくしはっ、わたくしはっ……!! 」

 

「もう良い、これ以上何も言うな、何も…… 」

 

「そうだよ、一刀さんの言う通りだよっ! もう、これ以上自分を傷つけちゃ駄目だよッ!? 」

 

 

 どうやら、強い自責の念に苛まれていたようである。璃々香は、爪が食い込むほど自身の両腕を掴み、両肩を小刻みに震わせ半狂乱気味で叫ぶが、すぐさま一刀と桃香が二人揃って彼女を優しく抱きしめる。それは、まるで小さな妹を抱きしめる兄と姉の姿の様に思えた。

 

 

「あっ…… 」

 

「悪かった。璃々香がそこまで辛い目に遭ってたなんて……思い出させてゴメン……だから、お前の心の痛みを俺にも分けてくれ。それと……今すぐは無理だが、早坂や先輩達は必ず俺が助け出すっ!! 必ずなっ!?  」

 

「大丈夫だよ、大丈夫……ねぇ、威公ちゃん。私にも威公ちゃんの痛みを分けて頂戴。一刀さんが言う様に、今すぐは無理だけど、絶対に貴女の大切な人達を助けるから…… 」

 

「一刀様、玄徳様…… 」

 

「それとね、私の事は今度から『桃香』と呼んでね? 私の真名だから 」

 

「はいっ、桃香様っ……! ならば、わたくしも『璃々香』の真名を桃香様に預けます 」

 

「うんっ、判ったよ。璃々香ちゃん 」

 

「ああっ、桃香“姉様”…… 」

 

 

 と、感慨深げに頷く璃々香であったが、そこに一心達も割って入ってくると、彼等も彼女にそれぞれ手を差し伸べてきた。

 

 

「それじゃ、おいらもこの娘さんに真名を預けなくっちゃな? 及ばずながら、おいらも手を貸すぜ? 」

 

「ならば、わしも協力しますぞ 」

 

「兄者や兄貴が手を貸すんなら、俺様もそうしねぇといけねぇな? 宜しくな、可愛い嬢ちゃん 」

 

「私も手を貸しましょう。一刀殿の同胞なら、私達にとっても同胞ですからね? 」

 

「俺もだ。男子たる者、弱き者の力にならねばな? 」

 

「儂もじゃぞ? それに、可愛い娘さんが加わるのも中々乙な物じゃて 」

 

「私も協力致しましょう。尋ね人の件ですが、今すぐは無理でもそれらしき情報を集めて置きましょう 」

 

「照世の言うとおりだな。威公さん、後でその人達の特徴とか教えてくれ。こう言った事は俺たち軍師の仕事なんでね? 」

 

「威公殿、もしその気があるのなら、我々が貴女を一人前にしてやるぞ。少なくとも、朱里達の補佐が出来る位にな? 」

 

「伯想様、それに皆様まで……!! 」

 

「…… 」

 

 次々と、手を差し伸べる漢達であったが、一人だけ口を真一文字に結んで動かない人物がいる。それは固生(男馬岱)であった。いつもと違う弟の様子に気付いたのか、壮雄(男馬超)が怪訝そうな表情で彼に尋ねる。

 

 

「固生、一体どうしたのだ、固生? 」

 

「威公殿、少し宜しいか? 」

 

 

 少しきつめな口調で壮雄に言われるが、それに対し固生は一言も答えず璃々香に話しかけた。

 

 

「はい、なんですの? 」

 

「昔、貴女と同じ名を名乗った男がいた。彼は実に有能な人物だった。然し、小心者で且つ狭量であった為か、何かにつけ己の才を鼻に掛け、気に喰わぬ者に対しては根拠の無い讒言をすると言った、まこと救い様の無い悪癖があり、周囲から激しく忌み嫌われていた 」

 

「え……? 」

 

 

 固生のその言葉に、璃々香だけでなく一刀や照世達の表情も凍りつく。何故ならば、璃々香が名乗っている『楊儀』とは、孔明没後の蜀漢において、内部抗争の原因を作った片割れであったからだ。周囲から強烈な冷気が立ち込める中、それを意にも介さず固生は熱弁を振るう。

 

 

「後に、彼は政敵との内部抗争に勝利したのだが、性格が災いしてしまい、遂には主君から追放されると、絶望の内に自ら命を絶った 」

 

「まぁ、そんな事が…… 」

 

「無論、貴女がその男と同じでないのは、十分に理解している。だが、どうか、どうかその男と同じ末路を辿らないで欲しい。況してや、我々にとって、大切な弟である一刀殿と同じ世界から来た人間であればこそだ 」

 

 

 そこまで言って、固生は熱を帯びた眼差しを璃々香に向けると、彼女は少し黙考した後に力強く頷き返して見せた。

 

 

「大丈夫ですわ、仲山(ちゅうざん)(固生の字)様。わたくし、決して賢くはありませんが、自分の分という物を心得ておりますもの。それと、今のお話。生涯忘れないよう胸に刻んでおきますわね? 」

 

「それを聞いて安心した。ならば、私の真名を貴女に預けよう。私の真名は固生だ。以後良しなに頼む 」

 

「畏まりましたわ、固生様。わたくしのことは璃々香と呼んで下さいませ 」

 

 

 どうやら、彼女の返事に満足したのだろう。固生は、暖かな笑みと共に彼女に右手を差し出すと、彼女もその手を力強く握り返し互いに真名を預け合う。恐らく、彼なりに不安に思っていた部分を彼女に直接ぶつけてみたかったのだろう。少なくとも、固生が抱いていた物は杞憂に終わりそうであった。

 

 これ以降、楊儀こと璃々香は一刀と桃香だけでなく、漢達とも真名を預け合い、彼等に敬服する様になる。その後、彼女は主に道信に師事し、朱里や輜重を任された松花(そんふぁ)簡雍(かんよう)の真名)の補佐役を任せられるほどにまで成長するのだが、その一方で『とある人物』と、と~~ってもメンドクサイ関係になり、それは周囲を大変困らせその都度朱里に『はわわわわ~』と言わせる事となった。

 

 

『それにしても、及川だけでなく、早坂や不動先輩達まで……皆、どうか無事でいてくれ。絶対に、絶対に俺が助けて見せるからなっ!? 』

 

 

 桃香と共に璃々香を抱きしめつつ、隻眼に強い意志の光を宿す一刀。この時、彼は新たな決意に燃えていたが、彼等との再会は一刀にとって尤も望まぬ形で果たされる事となる。

 

 

 

 ※1:一刀と及川、そして早坂兄妹達は同じ日に外史の世界に来ましたが、時間の流れでは約一年のタイムラグが発生しています。

 

 


 ここまで読んで下さり真に感謝致します。


 今回の話で、一刀には衝撃の事実が伝えられる事に。此処のくだりも、昭烈異聞録を書き進め、及川以外のフランチェスカのキャラ出したいなと言う欲が出てしまった結果で御座います。(汗


 ですが、その反面「一刀と及川の戦い」がぼやけてしまう恐れもありますので、そこら辺は上手くやりくりします。絶対にします!! 早坂兄妹、そして一刀の憧れのマドンナ不動如耶の運命や如何に? それは……まだまだ先で御座います。


 早く助けてあげてよと言う意見も耳にしており、真に申し訳なく思いますが、これに関してはどうかどうかお待ち下さいとしか答えようがありません。(汗


 あ、この幕間ですが、次回の更新で終わる予定にしております。後もう一段落御座いますので、またお付き合い頂けたらうれしく思います。


 それでは、また~! 不惑庵・裏でした~!!


更新作業BGM:ケーシー・ランキン「心はジプシー」(超時空世紀オーガスED)

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