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真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第二部「黄巾討伐編」
40/62

第三十五話「章陵の大掃除 其の壱」

 どもーっす、不識庵・裏です。


 先ずは長ーいグダグダ期間を空けてしまい申し訳ないです!(汗 春から労働環境が変化し、精神面で可也やられていたのと、今年の猛暑のお蔭で執筆意欲がすっかり無くなっておりました。


 ですが、その間大好きなAXL作品に触れたりとか、三極姫2に触れたり、他にも普段読まねぇ様な分厚い文庫本を読んだりとかして、脳味噌への刺激は絶やさぬよう気をつけてはおりました。


 ……前置きはこの位にしておき、照烈異聞録第三十五話。最後まで読んでいただければ幸いにてございます。



――序――



 新王たる陽こと劉協を伴い、桃香こと劉玄徳が国相として南陽の地に赴任してから、はや二月が経ち南陽に新たな春が訪れる。一刀は十九歳になり、桃香と蓮華は十八歳になった。


 国相たる桃香と、その左国丞たる蓮華は慣れぬ事の連続に忙殺され、その一方で王である陽こと劉協は、陽春こと盧子幹と菖蒲こと鄒靖の二人からそれぞれ政戦両面に於ける教育を受け日々を過ごしていたのである。




「ねぇ、蓮華ちゃん。この帳簿だけど、チョット見てもらえるかな? 」


「う゛っ……ナニコレ? どこをどうやったら此処まで酷い数値になるのよ!? 前任者だった袁術の顔を思いっきりぶってやりたくなってきたわ! 」


 


 そんなある日の事であった。とある帳簿に目を通しつつ、眉間に深い皺を刻んでいた桃香であったが、自分の隣で執務に取り掛かっていた蓮華に呼びかけ彼女にそれを手渡すと、今度は蓮華が眉間に深い皺を浮かべ、この場に居ない前任者である美羽こと袁術への怒りを募らせる。




「うーん、前任者の袁術さんの事は聞かされていたけど、まさか此処まで酷かっただなんてね? 正直滅入っちゃうよなぁ…… 」


「ええっ、全くよね!? あっ、そう言えば思い出したわ……袁術って、南陽太守だった頃散々ウチの母様に無理難題を丸投げする一方で、自分は贅沢三昧をしていたのよ。はあ~~っ、今すぐにでも汝南に殴りこんで、あの『お馬鹿(袁術)』を丸裸に引ん剥いて、更に尻を(じょう)で百叩きしてやろうかしら!? 」


「はぁ~あ……袁術さんから没収したお金をこちらの運営資金として中央から回して貰ったし、陽様からは荒れ果てた南陽の再建や民衆の救済に使う様指示はされているけど、キチンと計画を練らないと直ぐに無くなってしまうよね? 」


「そうね……袁術が南陽から散々毟り取った五百万銭だけど、その代償は……五百万銭より大きかったわね? 」



 それぞれぼやくと、二人は天を仰いで大きな溜め息を吐いた。南陽の行政に当たる桃香達の今一番の課題は、『袁術がもたらした負の遺産を清算する事』である。南陽の太守として、一年余りの間散々暴政を振るった美羽であったが、その代償は余りにも大き過ぎたのだ。


 己の贅沢にしか興味を示さず、それどころか(まつりごと)を蔑ろにした結果、領内には大量の餓死者を出した挙句に住民同士で共食いを行う程の深刻な被害が出ており、他にも治安及び国力の低下と、思わず目を背けたくなるほど南陽は荒れ果てていたのである。 


 確かに、美羽から過剰に徴税した金銭を没収すると言ったツケを払わせた物の、現在の荒れ果てた南陽を元に戻すにはその払わせたツケを宛がっても足りないのは明白だったのだ。



「ふうっ……また照世老師や朱里ちゃん達に相談した方が良さそうだよね? 」


「はあっ……そうね。それに、そろそろ陽様に纏まった報告をしなければならないし、その打ち合わせもしたいところだわ 」



 少し一呼吸置き、桃香は再び蓮華に呼びかけると、彼女も桃香と同じく一呼吸置いてからそれに応えるが、両者とも表情は全く冴えない。然し、何か思い出したのか、桃香が行き成り声高に叫ぶ。



「あっ、そうだ! ねぇねぇ、蓮華ちゃん。一心兄さんや一刀さん達、今頃章陵(しょうりょう)に到着したかな? 」


「えっ? ええっ!? ええと、そうね……確かここを出立したのが十日程前だったから。そろそろ到着してる頃合ではないのかしら? だけど桃香、何で行き成りお義兄様達の話題を? 」



 眉を潜めながら蓮華が尋ねてくると、桃香は伏目がちで彼女に答えた。



「うんっ、蓮華ちゃんさっき陽様の事を言ったけど、その陽様が仰ってたじゃない。ここ南陽は偉大なる世祖の生まれ故郷だから、世祖が生まれ育った章陵で世祖の霊廟にお参りをしたいって。だけど、事前にそこを下調べしとこうよと言う事で、一心兄さん達を派遣した訳でしょ? こう言う時の為、私は一心兄さんを督郵の職に就けたんだから 」


「あっ……そうね、確かにお義兄様なら柄の悪い連中のあしらいが得意だし。一刀と義雷老師だけでなく、星や明命までお義兄様の補佐役に就けたのだから……何も無ければ良いけど、仮に何かあれば……陽様が訪れる前の大掃除をして欲しい所よね? 」



 思い出したかのようにハッとなって蓮華が言うと、桃香は少し複雑げな笑みを浮かべて再び言葉を紡ぐ。



「アハハッ。実はね、その星ちゃんと明命ちゃんを付けた本当の訳なんだけど。一刀さんや義雷兄さんが他の女性(ひと)に手を出すのを防ぐ為だったんだよね。星ちゃんと明命ちゃんの方も可也乗り気だったから、私の方も二人に頼み易かったんだ。それに、一心兄さんの方にも大喬ちゃんが付いててくれてるから正直助かってるかな? 一心兄さんは結構好色(すけべい)さんだしね? 」


「そうね……本音を言えば今でも複雑だけど、お義兄様達が見知らぬ女性(ひと)に手を出す事と比べたら可也マシだわ。あとその大喬だけど、まさか姉様の命とは言えお義兄様と『男と女の関係』になったのには驚かされちゃったわね? 元々、あの娘は姉様個人の愛妾だから…… 」



 二人の会話に挙がった『大喬』であるが、あの陽翟(ようたく)における出来事の後、雪蓮達の母である青蓮こと孫文台から劉家に使者として遣され、それと同時に彼女自身も贈られてきた『劉家への詫びの品』に含まれていたのである。彼女は双子の妹小喬と共に孫家、正確に言えば雪蓮と冥琳こと周公瑾に身請けされ、姉である彼女は雪蓮の、妹の小喬は冥琳の愛妾となった。


 姉が引っ込み思案、妹が勝気で行動的と実に正反対の性格だが、それぞれの主である雪蓮と冥琳そして孫家の人間に対し甲斐甲斐しく尽くしていたのである。



『ええと……私、何でもします。ですから、捨てないで下さい…… 』


『う~ん……確か大喬さんは雪蓮さんのお世話をしていたんだよね? それじゃ、前と同じ様に雪蓮さんのお世話を頼んでもらおうかな? 雪蓮さんには私から直ぐにでも伝えておくから 』


『はっ、はいっ。ありがとう御座います 』 



 その『詫びの品』の一つとして劉家に贈られた大喬であったが、正直桃香の方としては彼女の扱いに困ったので、以前と同じ様に雪蓮の世話係を命じた。然し……雪蓮は未だ人心地付かぬ大喬目掛けトンでもない事を言い放ったのである。



『ねぇ、大喬。私も一緒にいてあげるから、貴女一心に抱かれなさい 』


『えっ!? えええ~~っ!? しぇ、雪蓮様、ど、どうしてですか? それに、私はまだ男の人を知りません……行き成りこちらの殿方に身を委ねるなんて…… 』


『おっ、おいっ雪蓮。一体ェ、何言ってんだ!? こんなに小せぇ娘っ子を、それもその気が無さそうだってのに、何でオイラが抱かなくっちゃあならねぇんだ? 』



 雪蓮の言葉に困惑したのは大喬だけではなかった。彼女の婚約者である一心本人も困惑を隠しきれなかったのである。況してや、体型や年齢面から見ても、一心にとって大喬は『早過ぎるからアウト』だったのだ。



『あのね、大喬。それに一心も良ーく聞いて。私は何れ一心の妻になるわ。と言う事は大喬、私の愛妾である貴女も一心の愛妾にならなくてはならないのよ? それに、今後貴女の主は私じゃない、一心よ? だから、私に尽くしてくれた様に、一心にも尽くして貰えるかしら? 若し、それが出来ぬ様であれば今すぐ荷物を纏めて長沙に帰りなさい。出戻った貴女を咎めぬ様、母様には私から文を認めて(したためて)上げるから 』


『雪蓮様ぁ…… 』


『なっ…… 』



 だが、そんな二人に対し雪蓮は語気を強めてキッパリと言い放つ。大喬は只々雪蓮の顔を見るだけで、一心に到っては彼女の言葉の裏ッ側に秘められた覚悟に思わず言葉を失ってしまった。



『畏まりました、雪蓮様。私は本日より一心様の愛妾になります。両親を失い、途方に暮れていた私達姉妹を雪蓮様達が身請けして下さいました。ですから、雪蓮様の命には逆らいません。この大喬、雪蓮様の命とあらば喜んで一心様と『男と女の関係』になります 』



 そこから少し時が経ち、覚悟を決めたのか大喬は雪蓮と一心の足元に跪くと大仰に拱手行礼を行い、二人の顔をジッと見上げてみせる。彼女の両目には強い決意の光が宿っていた。



『フフッ、余り硬くならなくっても良いのよ? 大丈夫、私が優しく導いてあげるから♪ そ・れ・にぃ♪ 一心は可也『上手』よ? 最初は痛いかも知れないけど、段々と泰山に導かれるほどの快感を得られるわ、だから安心なさい♪ 』


『はっ、はいっ! 雪蓮様! 』


『やれやれ……どうやら、おいらに拒否権は無さそうだし、こうなったら腹ぁ括るとするか? なぁ、確かアンタ大喬ちゃんってぇ言ったよな? 宜しく頼むぜ? 』


『一心様、どうか末永く私をお傍に置いて下さいませ…… 』



 諦念の表れか、溜め息を一つ吐いて一心が大喬に言うと、対する彼女は頬を紅く染めて頷いてみせる。すると、そんな二人に割り込むかのように、雪蓮は少し意地悪そうに口角を歪めて見せた。



『フフッ、一心……大喬ってね、少し変わった体つきをしているの。あ、でも余り驚かなくっても良いからね? 直ぐに慣れるし♪ 』


『はぁ? そりゃあ、一体どう言う意味なんだ? 』


『え、ええと…… 』



 勿体振った風で雪蓮が言うと、一心は合点がつかぬといった感じで眉を潜め、大喬は顔を真っ赤にさせて俯かせる。その後雪蓮と大喬は湯で身を清め、一心との房事に入ったのだが、この時一心は思いもよらぬ衝撃を受けた。果たして、それがどう言う事だったのかは全く記録に残されていなかったので、事の仔細を記載する事が無理である為何卒御了承頂きたい。


 少しして回想を終えたのか、蓮華も桃香も互いにクスリと笑みを浮かべて見せると、それぞれ口を開き始めた。



「フフッ、色々あった様だけど、どうやら大喬の方もお義兄様にベッタリと甘えるようになったみたいだし、取り敢えずは一安心かしら? 」


「だよね? あ~あ、早くこっちに戻ってこないかなぁ~? 一心兄さん達…… 」



 そう言う桃香であったが、それに対し蓮華はわざとらしげに意地悪く口角を歪ませてみせると、しれっと言ってのける。



「あら? 桃香の場合早く戻ってきて欲しいのは、お義兄様ではなく一刀ではないのかしら? 」


「う゛っ……でも、それを言ったら蓮華ちゃんも同じなんじゃないの? 」



 半目にさせながら桃香がそう言い返すと、蓮華は苦笑いを浮かべて見せた。



「……それを言われると痛いわね? でも、私だけじゃないわ。翠と愛紗も毎日城門に足を運んではがっかりした風で溜め息ばかり吐いているもの 」



 そう言って、彼女は両肩を竦めて見せる。



「……早く帰ってこないかな、一刀さん 」


「そうね……このままじゃ、何だか悶々とした日々を過ごすばかりだわ 」



 そこまで言うと、二人は天井を見上げるや、盛大に長い溜め息を吐いた。然し、それは余りにも同じ間合いであった為、二人は愉快そうに笑い声を上げる。そして、この若い国相と左国丞は表情を改めると、後は何も言わずに政務の続きに取り掛かるのであった――だが、その一方で不真面目な右国丞とその末妹は……



「ねぇ、雪蓮に小蓮……本当にこれで良いのかな? 桃香や蓮華が政務に取り掛かっているというのに、僕達だけで町に抜け出すなんて…… 」


「あははは、大丈夫、大丈夫ですってば。陽様、陽様はまだ学ばなくてはならない時期なんですし、政や軍備は桃香達にやらせとけば良いんですよ~♪ さっ、次はあのお店を覗いて見ましょうか? そして、その次はどこか適当なとこでお昼にしましょう。実は最近評判になってる麺の屋台があると聞いてますし、何ならそこで食べてみるのも良いかも知れませんわね♪ 」


「そーそー! 雪蓮姉様の言う通りだよ、陽様。只でさえ陽様はお篭りがちなんだから、一日一回はこうやって外に出てみないと体がなまっちゃうよ? 」


「うっ、うん……それじゃ、お願いするよ。確かに二人の言う通りだよね? 僕はまだまだ色んな事を学ばなくっちゃならないんだから 」



 等と伊達眼鏡を掛けさせ、団子状に纏めさせた毛髪の上に薄紅色に染め上げた可愛らしい意匠の頭巾(ときん)を被せた変装姿の陽の手を引っ張り、恐れ多い事に宛の城下町を練り歩いていたのである。南陽右国丞の肩書きを与えられても、この孫伯符と言う自由気ままな女傑の本質は全く変わらず、加えて彼女の末妹の孫尚香もこの状況を楽しんでいたのだ。


 一方の陽も最初は尻込んでいたのだが、意を決したのか顔を少し強張らせて見せると二人の手を強く握り返し、後は三人揃って雑踏の中に消え入ったのである。まだ完全復活には程遠かったが、暴政を振るった美羽の頃に比べると、宛の城下町は活気を取り戻しつつあった。



「部屋に居なかったら捜しに来て見れば、まさか城下町に居たとは……。まぁ、いい……雪蓮殿は結構強いし、下手な親衛よりはずっと当てになるから問題はなさそうだ…… 」



 と三人から少し離れた所に居た、陽付けの宦官である卅庫捜(さくそ)こと蹇碩(けんせき)が困った風で顔をしかめさせていたのだが、これは余談。




――壱――



『……ん? ここはどこだ? 』



 ふと目を覚ました一刀であったが、彼は軍装姿のままで愛馬黒風(ヘイフォン)に跨っていた。どうやら、行軍中に眠りこけていたらしく、居眠り運転ならぬ居眠り乗馬をしていたようだ。目として機能する左目のみを瞬かせ、周囲を見回すが当たり一面霧らしきものに覆われており、正に五里霧中であった。



『しょうがないか……まぁ、焦ってもしょうがないや。黒風、霧が晴れるまで迂闊に動くのはよそう。若しかすると桃香達が探しに来るかもしれないし、それまでの間俺達は一休みするぞ 』



 少し諦めが入った風で一刀がぼやくと、それに対し黒風はブルルッと小さく鼻を鳴らして答えてみせる。それを確認して一刀は黒風から降りるや、黒風はその場に寝そべると直ぐに眠り始め、一刀もそんな彼の体にもたれ掛り少しの間休息を取る事にした。



――うっく、ぐすっ、えっく……おねがい、だれかたすけて……――



『ッ!? 』



 黒風にもたれ掛り、少しばかりまどろんでいた一刀であったが、突如彼の耳に幼い少女の物らしき泣き声が入り込む。これには堪らず、一刀は勢い良く身を起こすと、左目を大きく見開いて周囲を見回し始めた。



『誰だ? 誰か居るのか!? 』


――ぐすっ、ぐすっ、ふぇええ……――


『クッ……! 』



 おもむろに大声で呼びかけてみるが、帰って来るのは泣き声のみで、それに対し少しばかりの苛立ちを覚え一刀は苦々しげに歯噛みする。すると、先程のやり取りで目を覚ましたのだろうか、起き上がった黒風が一刀の隣にその巨体をゆっくりと歩み寄らせた。



『しょうがないか……すまないが黒風、声のする方に言ってみるぞ。まだ霧が晴れてないようだし、慎重に行くぞ? 』



 そう一刀が苦笑交じりで言うと、さっきと同じくブルルッと小さく鼻を鳴らして答える黒風。それを確認して、一刀は黒風の顔を一撫でするや彼にひらりと跨り、早速彼等は泣き声らしきものが聞こえる方へと向かった。



――ぐすっ、えくっ、ぐすっ……おねがい、おねがい……だれかたすけて……――


『え? 助けて!? 一体どう言う事だ? 』



 最初は僅かにしか聞こえなかった泣き声であったが、近付くたびに大きくなると共に、内容の方も明瞭とした物になって来る。それに思わず目を白黒させる一刀であったが、そんな彼の前に人影らしき物が見えてきた。



『ぐすっ、ふえっ、ふえっ……だれか、だれか…… 』


『……女の子? どうやら、見た感じ璃々ちゃんと同じ位か? ああっ、こう言う時こそ桃香か紫苑義姉さんが居ればな……さて、どう声を掛けたものやら 』



 その人影は小さな女の子であった。見た感じ五つか六つ位で、その場にしゃがみ込んでいて、小さい体を震わせながら泣き声を上げている。この場に居らぬ子供の扱いに長けた女性達の名を挙げつつも、目の前の小さな淑女を何とか慰めるべく、一刀は黒風から下りると彼女の方へと歩み寄った。



『さぁ、助けに来たよ。だから、もう泣くのは止すんだ 』


『ぐすっ、えくっ、えっえっ…… 』



 なるべく優しげに一刀が声を掛けると、少女は涙に塗れた泣き顔をこちらの方へと向ける。少女は鮮やかな赤い髪で、小さい頭部の両側には、ウサギらしき動物をかたどった髪留めをしており、白いフリルが随所に施されたピンクの子供服を着ていた。



『ひくっ、ひくっ、おっ、おじちゃんがたすけてくれるの? 』


『ん゛な゛っ……おっ、おじちゃん……俺まだ十九なんだけど…… 』



 少女が開口一番に言った台詞がこれである。まだ二十歳前だというのに、『おじさん』呼ばわりされ一刀は思いっきり顔を強張らせてしまった。確かにそう言われても無理が無い部分はある。この世界に来た当初は年相応の面立ちの一刀であったが、義兄達から厳しい鍛錬を課され、更には黄巾賊との戦いを経た彼の顔には年齢不相応の貫禄が付いていたのだ。



『あっ、ああ。そうさ、おじちゃんは君を助けに来たんだよ? さぁ、どう助けて欲しいのかな? おじちゃん(・・・・・)に話してもらえるかい? 』



 然し、この際細かい事を言った所で事態が好転するとも思えない。一刀は少しばかりの不条理を覚えつつも、おじさん呼ばわりされた事に関しては堪えようと判断し、再び彼女に話しかける。



『あっ、あのね、おにいちゃんと、おにいちゃんのおともだちがわるいひとたちにつかまっているの。うみね、なんにもできないから、おにいちゃんたちをたすけられないの……ふぇっ、ふえええええっ 』


『なっ……悪い人達に……捕まっている!? それは一体どう言う意味なんだ!? 』


『ふえっ、ああ~~んっ! 』



 少女の返答を聞いた瞬間、一刀は一気に両眉を吊り上げて怪訝そうに顔を顰めると、思わず語気を荒げてしまった。だが、そんな彼の姿に怯えてしまったのか、少女はビクッと体を震わせると、一際大きな泣き声を上げてしまう。



『ああっ、ごめん、ごめんなっ? 怒ってる訳じゃないんだ。大丈夫、おじさんが君のお兄ちゃんを助けてあげるからさ、だからもっと詳しい事を教えてもらえるかな? それに、君と君のお兄ちゃんの名前も教えて貰ってないしね? 』


『うっ、うんっ。うみのなまえはね、『はやさか うみ』っていうの。おにいちゃんのなまえは…… 』



 これには堪らず一刀が慌てて少女を宥めると、少女は肩をしゃくり上げながら自身の名を言うが、その次に出た『お兄ちゃんの名前』を聞いた瞬間――



『『はやさか あきひと』っていうの 』


『……っ!? 早坂(はやさか)……章仁(あきひと)だって?  』



 軽い驚きを覚え、隻眼を大きく見開かせたのだ。何故なら、自分が知ってる早坂章仁と言えば、自分や今は訣別した及川と同い年で、且つフランチェスカへの編入組の一人である。それに、彼とは部活も同じ剣道部であったから、それなりに面識があった。そして、この目前の『うみ』と言う少女が名乗った自身の名――『はやさか うみ』に彼の頭脳は高速で稼動し始め、日本に居た時の早坂章仁に関する事を思い出し始める。



(章仁って、俺の知ってる早坂の奴と名前が同じじゃないか!? そう言えば、アイツにも妹が居たよな? 何回か道場に顔出しに来ていたのを覚えてたし、名前は……そうだ! 確か、あの娘も『羽深(うみ)』って言ってたぞ!? だが、この子があの『羽深』と同一人物とは思えない。あの子は俺より一コ下のはずだし、どう見ても幼過ぎる。こうなったら、もっと詳しい話を聞いてみないと…… )



 頭の中で情報を整理しつつ、更に話を聞きだそうとし一刀が『うみ』に近寄ろうとしたその時だった。行き成り誰かに肩を叩かれ、咄嗟に一刀は後ろを振り返る。すると、振り返った彼の視界に映ったのは、意外な人物であった。



『こんな所に居られたか我が主よ。ささ、早く戻りましょうぞ? 桃香様もですが、皆首を長くしてお待ちですぞ? 』


『ッ!? せ、星っ!? 何でここに、それにその格好……どう見てもメイド喫茶に出てきそうな物にしか見えないんだけど? 』



 彼の肩を叩いたの人物とは星こと趙子龍で、彼女はいつもの軍装を兼ねた白い普段着姿ではなく、昔雑誌とかで見たメイド喫茶に出てくるメイドのような格好をしている。おまけに、この時彼女は一刀の事を『一刀殿』ではなく、『我が主』と呼んでいたのだ。



『その格好と申されても、貴方様は我等が主ではありませぬか? だのに、お仕えする者として貴方様を『主』と呼ばずして何と申されるのやら? 』


『なっ…… 』



 「何を言ってるのだ」と言わんばかりに、平然と答える星に言葉を失う一刀。然し、その間にも先程まで一刀と相対していた『うみ』は光に包まれこの場から消え去ろうとしていた。これに気付き、一刀は慌てて『うみ』の方へと向き直り大声で呼びかける。



『……おねがい、おにいちゃんたちをたすけて…… 』


『ハッ!? あっ、ちょっ、ちょっと待ってくれ! もっと詳しい話を!! 』


『おねがい、おねがい…… 』


『判った、君のお兄ちゃんたちは必ず俺が助ける!! だから、また俺に会ってくれないか!? その時はもっと詳しい話を聞かせてくれ!! 』


『うんっ、うみ、またおじちゃんにあいにくるからね? だから、やくそくだよ…… 』



 泣き顔しか見せていなかった『うみ』であったが、光に包まれ完全に消え去ろうとしたその瞬間、彼女はとても愛くるしい笑顔を一刀に見せたのであった。



『行ってしまったか……一体何だったんだ? あの子は…… 』


『どうでも良いが我が主よ。こんな良い女を放って置いて、それも璃々と歳も変わらぬような稚児(ちご)に御執心なさるとは感心致しかねますな? 』


『うわっ、星っ!? 』



 先程まで彼女がいた場所を見詰め一人ごちる一刀であったが、彼の背後に居た星が面白くなさげに顔をしかめさせると、無理矢理その腕を取るや、再度自分の方へと強引に引き寄せる。 



『ごめん、星。だけど、これには事情があるんだ 』


『ふむ、どうやら先程の稚児と主との間に何やら並々ならぬ事情があるようですが主よ、貴方様は可也お疲れのようだ。ささ、私が今すぐ主を元気にして差し上げましょう…… 』


『へ? 介抱? 俺そんなに疲れてないんだけど……? 』


『フフッ、強がられますな。ささ、この星が主に膝を貸しましょうぞ…… 』


『ちょっ、ちょっと待ってくれよ星! 俺の話を……うむうっ!? 』



 ジッと湿っぽく自分を見詰めてくる星に思わず後ずさりする一刀であったが、そんな彼の事などお構いなしに彼女は更に強く一刀を抱き寄せるや無理矢理彼を膝枕し、その口には琥珀色の液体で満たされた哺乳瓶を突っ込ませた。



『うむっ、うむうっ!! うむむむむむうっ!?(な、なんじゃこりゃあああ!! 滅茶苦茶しょっぱいぞ!?) 』


『フフッ、これは特製メンマの漬け汁ですぞ我が主よ。とくとご賞味あれ! これを飲めば、無問題(モウマンタイ)ですぞ~! 』



 行き成り哺乳瓶を突っ込まれ、たちどころに一刀の口中を琥珀色の液体が満たす。それには強烈な塩っ辛さがあった。



『うむっ、うむむむ~~っ!!(星っ、放せ~~っ!!) 』


『おや? ご遠慮召されますな。最後の一滴まで飲み干してくだされよ? フフッ 』



 これには堪らず、今すぐにでも吐き出したくなる衝動に駆られる一刀。然し、それを飲ませている星に頭だけでなく体全体をがっちりと固定されており、彼女の戒めから抜け出す事が出来ない。



『うむむむむ~~っ!!(やめろ~~っ!!) 』


『さぁさぁ、まだまだ残っていますぞ~? フフッ、アハハハハッ、ハーッハッハッハッハ!! 』



 強烈にしょっぱい液体を飲ませられ続け、苦しそうに呻き悶える一刀に対し、悪意が込められた高らかな笑い声を上げる星。彼女の笑い声が辺り一面に響き渡る中で、一刀の意識は段々と薄れて行ったのである。



――弐――



「う~ん、やめろ~~! 星、そんなメンマの漬け汁なんか俺は飲みたく…… 」


「一刀殿っ、大丈夫か一刀殿っ!? 気をしっかりお持ちなされよ、一刀殿っ! 」



 苦悶の表情を浮かべうなされる一刀であったが、床を共にしていたと思われる星が一生懸命呼びかけてくると、勢い良く開眼し彼は悪夢の世界より生還した。



「はっ!? ハアッ、ハアッ、ハアッ……せ、星……だよね? はて、ここは何処なんだろう? 」


「全く、大丈夫か一刀殿? 可也うなされておりましたぞ? それと、まだ寝惚けておられる様だな? ここは章陵の城下町ですぞ? 私達は昨日章陵に入り、ここの※1飯店に宿を取った。思い出せましたかな? 」


「……あー、思い出したよ。そうだ、夕べは全員酒かっ喰らって爆睡したんだっけな? 」


「そうそう、私だけではない。※2一心大哥(ダークォ)に義雷殿もそうだが、大喬と明命の方も私達と同じく酒に酔ってしまいましたからな? 恐らく他の四人もまだ夢の中かと思いますぞ? 」



 全身をびっしりと寝汗にまみれさせ、未だ人心地付かぬ一刀に対し苦笑交じりで答えてみせる星であったが、直ぐに表情を真面目な物に改めて再び彼に尋ねる。



「――で、一体どう言う夢を見ておられたのかな、一刀殿? もし、良ければ私に聞かせてもらえませぬかな? 」


「……ああっ、それじゃあ、覚えてる範囲内で話すよ。実は…… 」



 そう言うと、一刀は先程まで見ていた夢の内容を星に説明した。もっとも、早坂兄妹の名前や彼らとの面識とかは伏せたが。



「成る程、夢の中で出会った稚児に『お兄ちゃん達を助けて欲しい』と頼まれたのですな? で、何やら侍女の様な服装の私に『主』呼ばわりされただけでなく『メンマの漬け汁』まで飲まされたと? 」


「ああ、正直その女の子の事も、そして夢の中の君の事も可也強烈な印象だった。あれ程鮮明に記憶に残る夢って中々見ないよ 」


「ほほう……だからですかな? 朝っぱらからご立派な『泰山』を曝け出しているのは? 」


「……なっ!? 」



 クスリと怪しく笑みを浮かべると、星は一刀の『とある部分』を指差す。あんな夢を見たのにも関わらず、一刀の『泰山』は実にご立派にそびえ立っていた。然し、直ぐに違和感を感じたのか一刀は眉を潜めながら彼女に尋ねる。



「これは仕方が無い、男なら朝はそうなっちまうモンだからな? ――で、何で俺と君は丸裸なんだ? 確か、俺は落ちる(・・・)直前に何とか寝間着に着替えて、寝床に潜り込んだはずだったんだが……? 」


「なぁに、簡単で御座るよ一刀殿。私が全部脱がしたからだ。仮に寝てる間に一刀殿が『その気』になった時の為、この私も直ぐに応じられる様に全裸で待機しようと思ってな? だから、私も生まれたままの姿で貴方と枕を共にしたわけだ 」


「なっ…… 」



 悪びれもなく、そうしれっと言い放つ星に言葉を失う一刀。そして、彼女は蠱惑的な笑みを浮かべて見せるとススッと彼に擦り寄るや、その分厚い胸板に指で『の』の字を書き始めた。



「フフッ、主よ。恐らく夢の中の私に『メンマの漬け汁』なる物を飲まされていた所為か、先程まで随分と私の乳房に御執心なさっていた様だ……お陰様で赤子に乳を与える母親の気分を味わえましたぞ、『あ・る・じ』? フフッ…… 」


「へっ……そりゃあ、一体どう言う意味でゴザンショ? あと主って……君の主は桃香だろ? 俺じゃないぞ!? 」



 『主』――そう星が甘く囁いてくると、事情がつかめていない為か思い切り顔を引きつらせ、うろたえる素振りを見せる一刀。そんな彼の様が滑稽に映ったのだろうか、笑みに妖艶な物を含ませると、星はそっと一刀に耳打ちする。



「フフッ、確かに貴方の仰られる通り本来の我が主は桃香様だ。然しな、一刀殿。桃香様に捧げたのは趙子龍と言う武人としての私自身なのだ。だが、その一方で星と言う女としての私自身を捧げたのは……紛れも無い貴方なのだよ、一刀殿。だから、二人っきりの時だけは貴方を『主』と呼びたいのだ 」


「星……判った、それじゃ俺と二人きりの時だけその様に呼べばいいさ 」



 真剣な表情で彼女が言った言葉を受け、感慨深げに頷く一刀であったが、途端に星が先程と同じ妖艶な笑みをその美貌に滲ませる。そして、彼女はねっとりと絡み付く様に言葉を続けた。



「フフッ……それにしても主殿は……一晩中……私のを……と音を立てて……われていた。そう、まるで赤子の様にな? 」


「んなっ!? おっ、俺そんな事をしていたのかよっ!? 」



 彼女の声は途切れ途切れに外に漏れる程度の大きさでしかなかったが、全てを聞かされている一刀にとっては相当強烈であったらしく、見る見る内に彼の顔が羞恥で紅く染まっていった。



「さてと……主だけ散々楽しむのは些か(いささか)不公平と言う物ですし、今度は私も楽しませてもらいますぞ? 」


「……はい? 星さん、朝っぱらからですかい!? 朝からンな事しちまったら、あっしは今日一日まともに動けなくなりますぜ? 」


「ふふふ、まだ互いに若いのだ。少々無茶をしても問題はありませぬぞ? さてと……主の一本しかない『極太メンマ』を心ゆくまで堪能させて頂きましょうかな? 」



 わざとらしく舌なめずりした後に、更に体を密着させて自分と『自身のとある部分』を凝視する星に圧倒され、一刀は完全に腰砕けになる。



「あ、ああああああ…… 」


「ふっふっふっふっふっ…… 」



 そうこうしてる内に、顔中にびっしりと冷や汗を浮かべている一刀の両肩を星のすらりとした手が力強く掴むと、後は勢いに任せてそのまま彼を一気に押し倒した。この時彼女は実に悩ましげな笑みを浮かべており、目の方も正に『狩る者』になっていたのである。



『うりうりうりうりうり~! ここか? ここがいいのか? 大喬ちゃんよ? 』


『あうっ、らっ、らめれすっ一心しゃまっ! そんなとこいじらないでっ……! らめっ、らめなの~~っ! 』


『ほら、いくぜぇ~! 黒猫ちゃん! 』


『ぎっ、義雷様っ! 激しすぎるのです~! そっ、そんなにされてしまうと、壊れてしまうのですっ!! 』



「さぁ、主……大哥と義雷殿ですが、どうやらそれぞれ大喬や明命と『お愉しみ中』の様だ。何せ、この部屋の両隣から壁一枚を隔てて寝台の軋む音だけでなく、可愛らしい嬌声までが微かに聞こえて来ますからな? なればこそだ、我々も出遅れるわけには行かぬ。では主よ、この趙子龍参りますぞ? 」



 そう、わざとらしく耳に手を添えながら言うと、後はひたすら雌の本能剥き出しで星は一刀に襲い掛かった。



「それでは、主……早速ですが、その『極太メンマ』馳走にならせて頂きますぞ? はむっ…… 」


「せっ、星イイイイイイイイイイッ!! いっ、行き成り『それ』ですかーっ!? うわっ、いっ息を『ソコ』に吹きかけっ、ウヒャヒャヒャヒャッ、くっ、くすぐった過ぎるっ!! 」


「ひゃるじ、ひゃんまりひゃばれなひへふらはれ。ふぇなひほ、はみひってひまひまふひゃらな? 」

(主、あんまり暴れないで下され。でないと、噛み切ってしまいますからな?)


「ノオオオオオオ~ッ! 結局こういうオチなのかよーっ! ちっくしょお~! こうなったら、ヤケだっ! やってやるっ!! トコトンやってやるぞぉ~っ!! 」



 『朝っぱらからナニやってんだよ! アンの度好色(すけべい)兄貴どもっ!』と義兄達に内心呪詛の言葉を吐きつつも、一刀も自棄になって星を迎え撃つ。やがて、二人は激しく不健康そうな『朝の体操』を開始した。



『フフッ……改めて申しますぞ? この星、生涯をかけて身も心も捧げるのは(あるじ)只お一人だけ……仮に貴方より先に私が逝こうとも、我が魂魄(こんぱく)は常に主と共にありますからな? 』



 因みにではあるが、この日以降星は一刀と二人きりの時だけ彼を『主』と呼ぶ様になったのである。



※1:宿屋の事。日本に於ける『飯店』のニュアンスだと、中国では『菜館』と言う名称になる。


※2:『大兄貴』、『長兄』と言う意味。拙作に於ける一心の通称。



――三――



「おいおいっ、泊まり賃が一人に付き一晩※3百銭たぁ、余りにもべらぼうじゃねぇのかいっ!? 宛の都のイイ飯店だってそんなにふんだくらねぇぞっ!? 」


「申し訳御座いません、昨年から続く増税のあおりでこうせざるを得ないのです。何卒ご理解の程を…… 」


「んな事言われてもなぁ、新しい王様が税率を元に戻せってお触れを出したのを知らねぇのか!? 現に宛の都じゃ活気が戻ってきてるんだぞ? 」


「そうは申されましても、ここの税率は前の太守様の頃と全然変わってないのです…… 」



 あれから散々『お愉しみ』に励んだ六人の男女であったが、そろそろ宿を引き払うべく、店主に料金の清算をして貰う。然し、彼から請求された金額は六百銭――即ち、一人頭百銭と言う事であった。大した宿でもなかったのに、何故こんなに高い金額を請求するのか? 正直我慢できなくなり、顔を真っ赤にさせて詰め寄る一心であったが、対する宿屋の親父は申し訳なさを顔に滲ませながら何遍も頭を下げる。



「ったくよぉ、普通こん位ェの宿だったら、高く見積もっても精々一晩十銭位ェだろうが? この親父、ざけてんじゃないんだろうな? 」


「全くだよ、義雷兄者。素泊まりしただけで一晩百銭なら雒陽(らくよう)の平均相場より滅茶苦茶高いよ? 」


「ふむ……随分とぼったくりますな? いやいや、こんなにふんだくる飯店は始めて見ましたぞ? 」


「たっ、高過ぎるのです……百銭あったら、お猫様への貢物が沢山買えるのです…… 」


「え、ええと……私が居た長沙の飯店でもそんなに取らないと思います 」



 二人のやり取りを見守りつつ、義雷、一刀、星、そして明命と大喬がそれぞれぼやいて見せた物の、一心と店主の押し問答はどちらも引かずの堂々巡りであった。結局、最後はこちら側が折れる形で店主に渋々宿賃を支払うと、彼らは憮然とした顔で飯店を後にしたのである。



「全く……どうやら、桃香達の頑張りはここまで及んじゃいねェ様だな? さっきの宿代が良い例だしよ……あ~っ! 腹立つっ!! 」



 飯店を引き払い、屋台で買った串焼きを頬張りながらぼやく一心であったが、先程のやり取りを思い出し又しても声を荒げさせた。現在、彼等六人は何処に行く宛もなく漫然と章陵の城下町をぶらついていたのである。



「兄上、桃香達が南陽の統治に当たり始めてからまだ二月位しか経ってませんよ? 確かに、宛の周辺は改善の傾向が徐々に出始めては居ますが、流石に章陵だとまだそこまで及んでいないと思うんですけど? 」


「だな、北の字の言う通りだぜ兄者。それによぉ、照世の奴だって言ってたじゃねえか。『悪ぃ事は伝わんのは早ぇが、善い事は伝わんのが遅ぇ』ってよぉ? 」



 と同じく串焼きを頬張りながらそれに答える一刀と義雷。特に義雷は酒豪の上に大食漢である所為か、彼は右手で串を持ちつつ左手の方には五本の串焼きを握っていた。



「左様、お二方の仰られる通りだ。現にこの串焼きとて一本ニ銭と実にふんだくっている。この程度の粗末な物であれば、精々十本で一銭が妥当でありましょうに……串焼きがこれでは、メンマなぞ買おう物なら大変な事になりそうだな? 」


「全くなのです! こんなの長沙(ちょうさ)だったら売り物にならないのですっ! それにさっき魚屋を覗いて見たのですが、お猫様への貢物用の干物が一枚三銭だったのです! 高過ぎるのですっ! 」


「この串焼き、お肉が筋張ってるしぱさぱさで全然美味しくありません。長沙の城下町だったら、これよりもっと美味しい物が安く売られています…… 」



 今度は星に明命、そして大喬の三人も串焼きをかじりつつ、これに対する素直な感想と章陵全体に於ける物価高への不平不満をぶつける。この肉が筋張っていて全然美味くないのにもかかわらず、法外な値段をふっかける串焼き自体は正に章陵の現状を象徴付けていたのだ。


 余談ではあるが、この時の彼等の服装は一般庶民と同じ平服である。何故ならば、普段通りの軍装を兼ねた様な出で立ちでは物凄く目立つし、秘密裏での行動に悪影響を及ぼすと考えたからだ。



「ふぅ、そう言えばさっき飯店の親父が言ってたよな? 『税率が前の太守の頃と全然変わってない』ってよぉ……どうやらここの県令は桃香達に嘘の報告をしているみてぇだな? 」


「「「「「っ!? 」」」」」



 溜め息を一つ吐きぼやく一心であったが、彼の言葉に他の全員がハッと息を呑む。何故ならば、毎月領内の各県の県令から徴税額等の詳細な報告が中央に居る桃香達によこされるからだ。然も、ここ章陵の県令からの報告では、税率を前の物に戻したがその反面徴税額が可也減ってしまったとの内容だったのである。


 だが、先ほどの飯店の店主の台詞で、『税率が袁術が暴政を敷いていた頃の物と全然変わっていない』と言うのがあった。オマケに幾ら袁術の暴政の悪影響が尾を引いていたとしても、こんなに物価高な状況で、付け加えて宛に納められる税金が著しく目減りしているのは可也変である。そうなってくると、辿り着く結論は只一つ。ここの県令が背任行為をしている可能性が高いと言う事だ。



「大哥、物凄く臭い(におい)そうなのです。もし、何であれば今宵にでも潜り込みましょうか? 」


「うーん、そうさなぁ……尻尾掴むなら早ェ内が良さそうだな? それじゃ、悪いが頼まれちゃくれねぇか……ん? 」



 そう明命に伺われ、顎に手をやり一心が考え込む素振りを見せたその時だった。彼等の前方にある屋敷の門前で、一人の少女が二人の門番と何やら揉めている光景が目に映ったのである。



「ここにお嬢様が来たのは間違いありませんっ! お嬢様は何処ですか!? 」


「一体お前は何を言ってるんだ! ここは県令様のお屋敷だぞ!? お前の言うお嬢様なんてのは来ていない! 」


「さぁ、もう良いだろう? 判ったならさっさと出て行け! 」


「ですが、昨日お嬢様は『県令様のお屋敷に行く』と書置きを残して出かけたまま戻って来ていないのです! 」


「おいっ、いい加減にしろよ!? これ以上しつこい真似をするなら、お前を牢にぶち込むぞ! 」


「只でさえ、お前の様な庶民が県令様のお屋敷に来る事自体が間違ってるんだ! 俺たちは忙しい! 出て行けッ! 」


「きゃあっ!? 」



 尚も食い下がろうとする少女であったが、それに業を煮やした門番達から乱暴に突き飛ばされると、そのまま地べたに倒されてしまった。



「ううっ…… 」


「フンッ、とんだ時間の無駄だったぜ! 」


「全くだ、いいか二度とここに近寄るなよッ!? 判ったな!? 」



 苦しそうに呻く彼女を一瞥し、ペッと地面に唾を吐き捨てると、彼らは荒々しげに門の向こうへと消える。すかさず、その一部始終を見ていた一刀が慌てて彼女の方へと駆け寄った。



「大丈夫か? どこか怪我はしていない? 」


「ええ、大丈夫です。何処のお方かは存じませんが、わざわざ気を使って頂き感謝します 」


「そうか、それは良かった 」



 その少女はとても小柄であった。八尺二寸弱(190cm)の一刀の視点であったが、それでも物凄く小さく見える。『おそらく150より小さいかな? 』と一刀は思った。



「……ひょっとして、今失礼な事考えていませんでしたか? 」


「いっ、いやっ、そっ、そんな事考えていないよっ! 」



 恐らく何か勘付かれたのだろうか、彼女が半目でジトッと睨んでくると、慌てて一刀は否定する素振りを見せた。



「おーい、北の字よぉ。一体ぇ(いってぇ)何遊んでやがんでぇ。これじゃ話が進まねぇだろうがよ? 」


「あ、兄上……申し訳ありません 」


「あ、あのー、あなた方は一体? 」



 後ろに控えていた一心から呆れ顔で声を掛けられ、一刀がばつが悪そうに顔をしかめさせると、少女は恐る恐ると彼等に尋ねる。すると、一心はにかりと笑みを浮かべて見せた。



「なぁ~に、節介焼きな只の通りすがりよ。さてと、お嬢さん。もし何だったらおいら達に事情を聞かせちゃくれねぇかい? 話すだけでも腹ン中がスーってするもんだぜ? 」


「ああ、兄上の言う通りさ。君が良ければ話を聞かせてもらえないかな? 」


「……判りました、ここでは何ですから別の場所にでも…… 」



 そう言うと、少女は何処かへと向かって歩き出し、一同も彼女の後に付いて行ったのである。 



※3本作に於ける一銭は三百円位の価値に相当する。



――四――



 あの後、県令の屋敷を立ち去った一刀達であったが、彼らは先ほどの少女の案内でとある茶館に入った。店内に入り、茶を啜って少し落ち着いたのか、先ずは挨拶として彼らはそれぞれ己の名を名乗り始めた。



「先ずは自己紹介しねぇとな? おいらは劉思、字は伯想(はくそう)。伯想って呼んでくんな 」


「俺は伯想の弟で名は劉北、字は仲郷(ちゅうきょう)。仲郷と呼んでくれ 」


「俺様は伯想の義弟の張翔、字は叔高(しゅくこう)ってんだ。宜しく頼むぜ?(うほっ、改めて見てみりゃ中々可愛い子じゃねェか? ) 」


「私は伯想殿の従者が一人の趙雲(ちょううん)、字は子龍(しりゅう)。以後良しなにお願いいたす 」


「同じく従者の周泰、字は幼平と申す者です。今後ともよろしくなのです。(……何だか今、義雷様から邪な雰囲気を感じ取ったのですっ!! ) 」


「わっ、私は※4喬靚(きょうせい)と申します。伯想様の身の回りのお世話をしております 」



 六人からそれぞれ挨拶を受けると、少女の方も彼等に挨拶を返す。彼女の最大の特徴と言えるのか、愛くるしい声とは裏腹に語り口調は実に毅然としており、正に『士大夫』を髣髴させる物であった……のだが、どう見ても着ている物が『メイド服をイメージしたファミレスのウェイトレスの制服』としか思えず、一刀は彼女から微妙な違和感を感じさせられた。



「済みません、まだ名を名乗っておりませんでした。私は鄧芝(とうし)、字は伯苗(はくびょう)と申す者で、ここ章陵で使用人として伏家にお仕えしております 」


「「「「「「伏家? 」」」」」」



(この娘さんが鄧芝か……まこと、この世は不思議な物だ。前世では最初は劉璋の配下だった鄧芝が、この世では大きい家の使用人になっているのだからな? もし、彼の娘が伯苗に似つかわしい能力の持ち主であれば、然る後に桃香に推挙するのも悪くは無いやもしれぬ )


(鄧芝……確か、亡き劉備から蜀を託された諸葛亮が、険悪になった呉との国交を修復させる為の使者に任命した人物だったよな? 他にも、晩年期の趙雲の副将を務めたりと、意外と政戦両方で活躍したんだよな )



 鄧伯苗(とうはくびょう)と名乗った彼女の言葉に彼らが一斉に反応するが、そんな中前世で面識があった一心と彼女に関する情報を知っていた一刀はそれぞれ思いを巡らせる。そして、鄧伯苗(とうはくびょう)は更に言葉を続けた。




「はい、伏家です。軽く説明を致しますと、旦那様――主人は伏完と申しまして、昔侍中として都で働いておられました。ですが、高齢に差し掛かったのと、お体の調子が悪くなった事により職を辞す事となりましたのでご長男の伏徳様に家督を譲られますと、ご自身は余生を過ごすべくここ章陵に(つい)棲家(すみか)を構えたのです 」


「ふぅん、それじゃ君もその伏完様と一緒に都から来たのかい? 」



 『ならば、この娘は都人(みやこびと)か』――そう心中で思いつつ、一刀が口を挟むと伯苗は少しばかりの苦笑を交えて応じる。



「いいえ、違います。私は新野の生まれです。実は私、将来役人になるべく自己研鑽の日々を過ごしていたのですが、父が旦那様――伏完様とは旧知の間柄でして、その伏完様から口利きを頂くお約束で、お嬢様のお世話係として伏家にお仕えする事となり現在に到っております 」


「なるほどなぁ、将来の仕官話と引き換えのご奉公ってぇ訳か? まっ、良くある話だ 」



 すぐ下の義弟より遥かに短い顎髯(あごひげ)を扱きながら、意地悪い笑みを浮かべて一心が言うと、伯苗は『これも自己研鑽の一環ですから』とさっきと同じ苦笑いで答えて見せた。



「で、君がさっき言ってた『お嬢様』の事だけど、一体何があったんだい? そこら辺をもっと詳しく教えてもらえないかな? 」


「だな、弟の言う通りだ。伯苗さんよ、一体何があったか事情を教えてもらえねェかな? 」


「はい、実は…… 」



 本題に入るべく、一刀と一心がズイッと伯苗に顔を近付けて見せると、彼女は二人の顔に圧倒されつつもゆっくりと事情を説明し始める。



「貴方方も既にご存知かもしれませんが、ここ章陵は重税を掛け捲った先の太守の頃と同じ物価のままで、民衆の暮らしも実に困窮極まりない物と化しております。今年から新たな南陽の統治者になった南陽王様が、税を前の物に戻せとのお触れを出したと聞き及んでおりますが、ここは未だに…… 」



 そこまで言って伯苗が言葉を濁らせると、対する六人はゆっくりと頷き相槌を打った。そして、また彼女は言葉を続けた。



「元侍中だった事もあり、毎日様々な商人や有力者達が何とか県令様に掛け合って欲しいと旦那様に陳情に来る様になりました。流石にこれには堪らず、旦那様も腰を上げたのですが、県令様の方は一向に掛け合わぬ有様。すると、今度はそれに業を煮やしてお嬢様の方が昨日県令様のお屋敷へと向かって行ったのです。無論、旦那様を始め家人一同お止め致しましたが、何時の間にか屋敷を抜け出していたらしく、気付いた時には『県令の屋敷に向かう』との書置きのみが残されていて…… 」



 そこまで言って、言葉を詰まらせ思い切り顔を俯かせると、伯苗は両肩をプルプルと小刻みに震わせていた。恐らくだが、『お嬢様』の件で自責の涙を流していると思われる。



「兄上……どうしますか? ここまで聞かされると、正直放って置けませんよ 」


「だな、折角このかわい子ちゃんがおいら達に事情を聞かせてくれたんだ……それにどうやらここの県令は『黒』みてぇだ。こうなった以上、看過は出来ねェ。そう言う訳で明命ちゃん 」



 顔をしかめさせながら一刀が一心に言うと、彼は判ってると言わんばかりにゆっくりと頷き、明命の方に顔を向け彼女に声を掛けた。


「はいっ、大哥! 」


「悪ぃが、早速これから潜り込んでくれねぇかな? 場合によっちゃあ、今晩辺り動く必要がありそうだしな? 」


「はいっ、合点承知之助なのですっ! 」


「うんうんっ、いつ聞いても良い返事だ 」



 と、いつもの調子で元気溌剌に答える彼女に一心が満足そうに頷くと、伯苗は恐る恐ると尋ねてきた。



「あ、あのー……本当に貴方達は一体何者なんですか? 本来なら部外者の筈なのにここまで係わるなんて……それに、県令様のお屋敷に潜り込むなんて…… 」


「だからよ、さっきも言っただろ? おいら達ゃ節介焼きな只の通りすがりだって。まぁ、これからやる事も所謂『只のお節介』ってぇ奴さ。伯苗さん、後はおいら達に任せてくれ 」


「は、はぁ…… 」



 そう一心から満面の笑みで返されると、彼女としては只々戸惑いがちに頷く事しか出来なかったのである。



※4:京劇『鳳凰二喬』に於ける大喬の名。拙作では大喬の本名扱いとする。因みに小喬は『喬婉(きょうえん)』と呼ばれる。



――五――



(うーん……可也警備が厳重なのです…… )



 あの後、早速県令の屋敷に潜り込んだ明命であったが、現在彼女は物陰に潜みつつ中の様子を窺っていた。嘗て青蓮の臣下であった時、明命は親衛としてだけでなく間諜としての特訓をも施されていたので、彼女にとってこう言った行動は得意な方に入る。


 屋敷内への進入は簡単に出来たのだが、そこから先が可也大変であった。恐らく県令は可也用心深いと思われる。邸内の到る所に警備の兵が配置されており、蔵と思しき建物の前には三、四人程の見張りを立たせていたのだ。



(蔵の前にこんなに見張りを立たせるとは、益々怪しいのですっ! )



 と険しげに目を狭ませる明命であったが、そんな彼女の耳に何やら人の会話らしき物が聞こえて来る。



『……しっかし、ここの県令様も随分と悪どいよなぁ? 』


(んんっ? 何か話しているのです )



 声の主は先程の蔵の前に立っていた見張りの者達で、早速彼女は耳をそばだて始めた。



『全くだ、何せ中央には嘘の報告する一方で、自分は税や年貢を不当に取り立ててるんだからな? 』


(ッ!? )



 その言葉を聞いた瞬間、驚きの余り明命は声を上げそうになるが寸での所で堪える。そんな彼女を他所に、彼等は話を続けていた。



『しっかしよぉ。ここの県令、元はしがない一徴税官にしか過ぎなかった筈だったのに、前の袁術の時に散々不正に取り立てた金を貢いで県令になったそうじゃねぇか? オマケに今のご身分になっても時折袁術の家来と会ってるんだぜ? 』


『おい、そりゃあマジかよ? 』


『あ、お前ここに雇われたのつい最近だもんな? 俺は昨年からここに雇われてるけどよ、袁術の家来の顔くらいは覚えてるぜ? 』



 と会話が盛り上がる二人の見張りであったが、もう一人別の見張りが彼等の間に割り込む。



『シッ! そう言う事はあんまりでかい声で話すもんじゃないぞ? 若し、仮に国王や国相の耳に入ったら大変な事になるからな? 』


『大丈夫だ、聞いた話だと袁術の後釜で来た劉備って国相は『人が好いだけの間抜け』だと聞いてるぜ? 俺等がこうして話していても、奴等の耳に入ることは先ず無いだろうよ 』


『そうだぜ、大体お前は神経質過ぎんだよ? 』


『……確かにそうだな、ここにいない奴の事を話したとこで、アレの耳に入るわけが無いか 』



 そこまで言うと、彼等は一斉に下卑た笑い声を上げた。然し、それを一部始終聞いていた明命としては到底面白く思えず、ゆらゆらと義憤の炎を上げ始める。



(うう゛~っ! 蓮華様や桃香様達が一丸となってこの国を建て直そうとしているのに、こんな事を言うなんて……任務中でなかったら、『消えない墨』で思い切りこいつらの顔に落書きしてやるのですっ!! ……んんっ? )



 と『ぐぬぬ』顔で歯噛みする明命であったが、この時彼女の視界に『とある物(・・・・)』が木にぶら下がっているのが映ると、意地悪そうに口角をゆがめて見せた。



(ふっ、ふっ、ふっ……あんな物があるとはとっても有難いのですっ! 蔵の中も見てみたいと思っていたので、物凄く好都合なのですっ! )



 そう内心で呟き、明命は左の太股に巻いた革帯に括り付けた飛刀(ひとう)(投げナイフ)を右手に構えるや、それを『とある物』目掛けて投げ放つ。あっと言う間に飛刀は『とある物』に命中すると、それは地面に叩き落され、そこから何やら無数の黒い点が不快な羽音と共に飛び上がってきた。



『んっ? 何か虫の羽音みてぇなのが聞こえねぇか? もしかして蝿か? 』


『確かに、虫の羽音みてぇなのが……でもよ、蝿にしちゃ随分数が多そうだな? 』


『何言ってんだよ、お前ら!! ありゃ蝿じゃねェ! 蜂だ、それも胡蜂(フーフォン)(スズメバチ)だぞッ!! 』



 異変に気付き、音の正体を確かめるべくあちらこちらをキョロキョロと見回す二人の門番であったが、先ほどのもう一人が行き成り声を荒げさせ音の正体を声高に叫ぶ。



『『フ、胡蜂だとおおおおおおおおッ!? 』 



 そう、続くように叫ぶと、あっと言う間に二人の顔から血の気がサーッと下りてしまい、哀れ三人の見張り兵は一目散にこの場から駆け出して行った。



(フフフフフ……まさか、胡蜂(フーフォン)の巣がぶら下がっていたとは思わぬ幸運だったのです )



 門番達と胡蜂の群れがこの場から居なくなったのを確認し、隠れていた場所から姿を現す明命。そう、先ほど彼女が飛刀で落とした『とある物』とは胡蜂――即ちスズメバチの巣であったのだ。


 大抵、蜂は自分の巣を攻撃された場合一気に攻撃性が高まり、その性質も到って凶暴になる。只でさえ危険なスズメバチが、より更に危険な状態になると完全に手が付けられなくなるのは明白だったのだ。



「どれ……それでは早速中に入らせて貰うのです 」



 三人の見張りが完全に見えなくなったのを確認してから、したり顔の明命が隠れていた場所から姿を現すと、早速彼女は針金を鍵穴に挿し込み少し弄くって開錠させて中へと潜り込む。間諜として訓練を受けてきた明命にとって、この手の物を外すのは造作も無い事であった。



【新キャラ情報】


姓名:鄧芝(とうし) 字:伯苗(はくびょう)


真名:露夏(ろか)


身長:六尺四寸(149cm)


職業:伏家の使用人。令嬢たる伏寿のお世話係。


年齢:十五歳


性格:責任感が強い。真面目で仕事熱心且つ可也の胆力の持ち主だが、人懐っこい一面も持ち合わせている。


特徴:白いリボンと短めのツインテール。非常に愛くるしい声の持ち主。そんな彼女に『お兄さん♪』と言われた日にゃあ、貴方のハートはぶち抜かれる事でしょう!


外見イメージ:全国的に超有名なファミレスギャルゲーの二作目と三作目に登場した『妹属性キャラ』の後期型(笑


CVイメージ:倖月美和


備考:某ファミレスギャルゲーの二作目に登場した『メイドタイプ』っぽい女中の制服を着用している。(伏家における若手の女中の制服である)義雷兄者が彼女に鼻の下を伸ばしてるようだ。



 ここまで読んで下さり真に有難う御座います。


 今回ですが……自分の第一印象は『納得イカン』ですね。(汗 前回の仮更新に肉付けした程度の内容でしたので、期待されていた方々にお詫びを申し上げます。本当にすみませんでした。(涙


 続きですが、早速今日仕事から戻ったら一時間でも良いから執筆を再開します。これ絶対ですわ。(汗 ダラダラ待たせた挙句に『何だまたかよ』と言う展開にさせたので、この話を書いてる以上モチベーションを上げていかねばなりません。それに、仙台の方はすっかり涼しくなってきましたので、執筆作業を再開するのに正に理想的な状況になってきました。


 次回の更新ですが……遅くても二週間後に上げられるよう頑張ります。さぁ~てぇ、気合入れてくべさ!


 それでは、また~! 不識庵・裏でした~~!!


 

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