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真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第二部「黄巾討伐編」
31/62

第二十九話「黄巾落日『後編』其の二 大風歌は陽翟に鳴り響き、遂に悪童は断罪される」

 新年明けましておめでとう御座いますっ!


 どうも、不識庵・裏です。昨年の大晦日に『後編其の一』を投稿してからという物、その直後から肉付け作業に入ったのですが……又しても欲が出てしまいました。(汗


 其の一より読み応えのある物にしたいと思うようになると、アレコレと情景が浮かんでくる始末で、アニメ版の最終話とかのイメージ思い出して、悪戦苦闘し捲くり、遂には最大文字数を更新……。(汗 39522に到達してしまいました。


 今回の話を書くに至り、キャラや舞台背景の設定をお貸しして下さった、家康像様、山の上の人様、高島智明様に厚く御礼を申し上げたく存じます。


 それでは、照烈異聞録第二十九話。最後まで読んで頂ければ嬉しく思います。


――七――



 明くる早朝、何進は全将兵に総掛りを命じた。東門には皇甫嵩と曹操、西門には何進本人、南門には朱儁と孫堅、北門には盧植と鄒靖に公孫瓉が配置され、そして……その中には桃香率いる『楼桑村義勇軍』も含まれていたのである。



「よしっ、全軍一気に掛かれっ! 黄巾を率いる張角めを討ち取るのじゃッ! 馬騰、賈詡ッ! 妾達が一番乗りできるよう、一気に畳み掛けさせよっ! 」


「はい、かしこまりました…… 」


「…… 」



 西門に陣取った何進であるが、彼女は輿の上で右手を振り払いながら横柄な態度で命令するだけであった。この厚化粧に対し、腸が煮えくり返る思いを堪えながら頷く詠であったが、琥珀の方は眉一つ動かさずじっと何進の顔を見やる。彼女の態度が気に喰わなかったのか、この厚化粧は声を荒げさせた。



「聞いて居るのかっ、馬騰ッ!! 大将軍たる妾の命が聞こえぬのかッ!? 」


「…… 」


「琥珀様ッ!? 閣下の命に従わないと…… 」



 然し、幾ら脅しを掛けようが、幾数多の修羅場を掻い潜り『西涼の狼』とまで呼ばれた琥珀と、この愚かな厚化粧とでは積み重ねた物があから様に異なる。顔に焦りを浮べて必死に詠が琥珀を促すが、ここで始めて彼女は『西涼の狼』の顔に変貌すると、そのまま何進を睨み付けた。



「なっ、何じゃその目はッ!? 馬騰、若しや貴様ッ、だっ、大将軍たる妾に逆らう気かッ!? 」


「涼州武威郡太守馬寿成、何大将軍閣下に申し上げる……曲がりなりにも大将軍たる者ならば、これまで戦ってきた皇甫閣下を始めとした他の方々に対し、『示し』をつけるべきかと存じ上げますが? 」


「なっ、何じゃとッ!? 一体何を言うておるのじゃ!? 」



 あからさまに狼狽する厚化粧であったが、誇り高き『西涼の狼』は更なる舌鋒の刃を叩き込む。



「此度の黄巾との戦に於いて、閣下は帝の名代として戦場に赴いた筈。だのに、安全な場所で、それも只輿の上に悠然と座り込んで命ずるだけとは……帝の名代としてそれは余りにも情けのう御座いましょうや? 大将軍たる者ならば、先ず御自ら軍馬に跨って陣頭に立ち、将兵を鼓舞せねばならぬ筈。だのに、貴女は場違いな体たらくを決め込んでおられるッ!! 


 この馬寿成、閣下と同じく武に携わる者として、これほど情けなく思った事は御座いませぬぞ!? 況してや、この戦は漢の命運を左右する物でありますのに……閣下、貴女は偉大なる漢の世祖、光武皇帝陛下に対しどう申し開きなさるお積りかっ!? 」


「ウウッ…… 」



 幾ら大将軍とは言えども、所詮は妹のお零れに肖ってその地位を手に入れたに過ぎない。馬寿成と言う『西涼の狼』の咆哮に、『肉屋』は只呻き声を上げるだけであった。少しばかり気拙い空気が周囲に流れるが、突然琥珀が表情を穏やかな物に改める。



「……閣下、もし貴女が自ら陣頭に立って奮戦して見せれば、将兵達も心躍らされ我先にと死地に赴く事でしょう……張角めを討ち取れば帝の覚えも目出度く、閣下の地位と名声も更なる不動な物になるかと思われますが、如何で御座いましょうや? 」


「チッ! 判った、もう何も申すでないっ! これっ、妾の馬を引けいっ! かくなる上は、妾自ら陣頭に立って黄巾どもを蹴散らせて見せようぞ! 馬騰ッ! 大将軍たる妾の戦い振り、その両の眼にとくと焼き付けておくが良いッ! 」



 宥め賺す(なだめすかす)かのような琥珀の言葉に、何進は忌々しげに舌打ちして見せると、近侍の者に命じて自身の馬を持って来させた。



「うっ、馬に乗るのは久し振りじゃのう……全く、妾の尻に合わせた鞍くらい用意出来ぬのかっ!? きついったらありゃせぬわ! 」



 流石に馬くらいは乗れたようである。琥珀と詠が笑いを堪えているのを他所に、でか過ぎる尻を窮屈そうに鞍に収めさせると、何進は馬の腹を蹴り先陣へと駆け出していった。



「フフフ……少しは意趣返しが出来たわね? さてと……精々あの『ケツデカババア』には、大将軍らしく華々しい活躍をしてもらいましょうか? ついでに、アレに戦の恐怖を学ばせるのにも良い機会と言う物よね? 」


「クスクスクス……琥珀様も中々言いますよね? それにしても、何進の尻って本当にでかいですよね? 『ケツデカババア』って陰口叩かれてるのも納得できます 」



 したり顔で琥珀が意地悪く笑って見せると、詠の方もクスクスと笑い声を上げる。そして、琥珀は表情をキリッと引き締めると、詠に向き直った。



「さてと……それじゃ私達も行きましょうか? 例えむかつく上司でも、死なせてしまう訳には行かないし。詠、霞と恋に清夜(しんや)(華雄の真名)をアレ(・・)の援護に回して頂戴。私の方も鷹那を連れて行くわ 」


「はい、琥珀様。言われた通り、早速あの三人を『肉屋のケツデカババア』のお守りに回しますね 」



 苦笑交じりで詠が頷いてみせると、早速琥珀は鷹那こと龐令明を引き連れ、詠の方も主だった三人の将に命ずると、至急彼女等を先陣の何進の方へと向かわせたのである。




――八――



 ――少し時間が経ち、北門の陽春、菖蒲、白蓮――



「可笑しいわね……? 普通ならもっと激しい抵抗が考えられるのに、全然それらしき物が感じられないわ? 」


「確かに、何だか可笑しいですね? 城門の上さ弓兵らしきのも見当たんねぇし、いってぇなじょする積りなんだか…… 」


「お二方の言う通りです。然し、私は先の黎陽の戦いの折黄巾の術を目の当たりにしました。十分に注意された方が宜しいでしょう 」



 一気に北門を突き破らんと、陽春は※6雲梯(うんてい)を用意させ、永盛を始めとした弓に優れた将を中心に大規模な弓隊を編成させて臨んだ物の、門には全くって良いほど人影らしき物が見当たらなかった。思わぬ形で意表を突かれてしまい、馬上で三人が訝しげにそこを見やっていると、朱里と雛里を伴い桃香が彼女等の前に姿を現す。



「あのー、どうかなされましたか? 何時まで経っても攻撃命令が出ないので、皆不安になっていますよ? 」


「何かあったんですか? 」


「あっ、あの……何があったんでしょうか? 」 


「あっ、桃香と朱里に雛里じゃないか。丁度良い所に来てくれたよ、実はな…… 」



 まるで救いの神を得たかのように、白蓮が事情を桃香達に説明すると、桃香は二人の軍師を窺った。



「う~ん、確かにそれって可笑しいよね? 朱里ちゃんと雛里ちゃんはどう見る? 」


「そうですね…… 」


「え~と…… 」



 『臥竜鳳雛』と称されたこの若い二人の軍師は、照世から贈られた白羽扇を眼前に翳しながら、差し向かいで思考を巡らす。実は、白羽扇を贈られてからと言う物、この二人が同時に考えを巡らす時の癖になっていたのだ。余談であるが、若しこれを照世と喜楽が真似しよう物なら、ある意味怖い物が感じられるだろう。


 

「ねぇ、雛里ちゃん。雛里ちゃんはどう思う? 私はこの城を放棄するように思えるんだけど? 」


「うんっ、多分それで間違いないと思うよ? 恐らくだけど、張角さん達は何処かの門から全兵力を挙げて、そこから強行突破するかも知れないよね? 」


「そうなって来ると、何処が考えられるかな? ここの北門もそうだけど、残りの門だって戦に優れた人が兵を纏めているし、その配下にも優れた将が集まってるよ? 」


「うーん、若しかすると……可能性が一番高いとすれば、西門の何進さんかも知れないよ? だって、何進さんは名目だけの『大将軍』だし、まともな戦をしたと言う話は聞いた事が無いから 」


「成る程……確かにそうだよね? 何進さんは馬騰さんと賈詡さんを副将に十万の兵を率いてるけど、陽春様のお話を聞く限りでは連携が取れてる様には思えないよね? 」


「うん、それに何進さんの兵は調練不足の官兵に勇猛果敢な西涼の兵を併せた玉石混淆状態。恐らくだけど、ちゃんとした調練もしてないと思う。だから、黄巾の本隊、それも黎陽の時みたいに術を掛けた状態で襲い掛かられたら……多分真っ先に潰走するかもしれないよ? 」


「それじゃ、決まりだね。雛里ちゃん 」


「うんっ、朱里ちゃん 」



 こんな感じで、二人は代わる代わるに自分等の意見を述べ合い、そこから纏めた物を桃香に提言する形を採っていたのだ。無論、彼女等は単独でも極めて優れた軍師であるが、今の様に二人で言葉を交わした方が、更により良い物を生み出す事が出来たのである。



「桃香様、恐らく敵は西門から強行突破に出ると思われましゅ 」


「多分ですけど、黎陽の時みたいに敵は術を掛けた状態で一気に強襲する可能性が考えられましゅ。この際門は無視して良いかと 」


「それに、この門ですけど、時間稼ぎを狙って固く閉ざしているかも知れません。それだったら、寧ろ無理に門を破るより大至急軍を西門に回した方が早いと思います 」


「うんっ、判ったよ二人とも。陽春老師達も今の二人の話を聞かれましたよね? 」



 朱里達からの意見を受け、桃香が陽春達三人を窺うと彼女等も満足そうに頷いて見せ、早速陽春は全軍を西門の方に急行させるのであった。



――九――



「なっ……これが黄巾の術だと言うのですか!? 」


「はぁ~~やっぱそうだったべっちゃね? 黎陽の時とおんなじだぁ 」


「チッ! あの『ホアッ』を聞く度、愛馬を喪った事を思い出してしまうぞ! 」


「やっぱり……あの時と同じだ…… 」


「当たりだね、雛里ちゃん 」


「うんっ、そうだよね? 朱里ちゃん 」



 朱里と雛里の予測は的中していた。西門に到着した彼女等の眼前では、あの黎陽の戦いが再現されていたからである。張三姉妹から術を掛けられ、傀儡(くぐつ)と化した六万の黄巾兵は、皆一丸となって何進の軍勢に総当りしていたのだ。



「ホアッ! ホアッ! ホアーッ! 」


「ホアッー!! 」


「ホアアアアアアアッ!! 」


「なっ、何だこいつ等! 何遍倒しても起き上がるなんて、普通じゃありえねぇ!! 」


「ひっ、ヒイイイイイッ!! たっ、助けてくれぇ~~!! 」


「あっ、コラ! 貴様等、勝手に持ち場を離れるでない! 妾を見捨てて自分だけ逃げるとは、それでも貴様等妾の兵かッ!? 戻れ、戻らぬかーっ!! 」



 奇声を上げながら迫り来る黄巾兵に、何進の兵は恐怖に襲われてしまうと、我先にと逃走を始める始末。そんな彼等に、お飾りの宝剣を闇雲に振り回しながら、馬上で何進が見苦しく喚き散らす物の、誰一人としてそれを聞こうとはしなかった。



「ホアーッ!! 」


「ホアアアアーッ!! 」


「ホアーッ!! 」


「ヒイイイイイイッ!! くっ、来るなっ! 来るでないと言うに!! 」



 哀れな事に、自軍の兵から見捨てられた『肉屋』目掛け、黄巾兵の集団が手に手に得物を持って押し寄せてくる。無傷な者は誰も居らず、何れもあちらこちらに斬撃や刺突の痕が見受けられるが、彼等は虚ろな目で口々に奇声を上げていた。



「たっ、助けてたもれ~~!! なっ、何故妾が斯様な目に遭わねばならぬのじゃ~! 」



 もし、これが琥珀であれば果敢に立ち向かったであろうが、名目だけの大将軍の何進はそうも行かない。普段の高圧的な態度は何処へ行ったのやら、彼女は馬上で醜態を曝け出してしまうと、自身も馬首を翻すと一目散に逃げ出してしまった。



「うわあっ! 大将軍様が逃げてしまったぞー!! 」


「これ以上付き合っていられるか! こんな化け物どもなんぞ、西涼の田舎者連中にやらせときゃいいんだよっ! 俺達にゃあ、関係ねぇ事だっ! 」



 兵の士気は、率いる将の挙動一つに左右されるのが兵家の常だ。無様に逃走する『肉屋』の姿に、残りの兵達もそれに吊られる始末。そんな軽薄な連中に見捨てられ、哀れその場に踏み止まったのは、琥珀と詠が率いる西涼の軍勢三万のみであった。


 最初はやや優勢だった筈の兵力差が、『肉屋』達の愚行の所為で琥珀達は二倍の兵力を相手にする羽目になってしまったのだ。



「何なの? この者達は……『死兵』と言う割には、目が死んでいるわ? まるで生ける屍を見ている気分ね? 」


「……琥珀様、彼奴等の雰囲気は何やら常軌を逸したものがあります。この鷹那が命に換えてでもお守り致しますが、琥珀様もご油断召されますな? 」


「ありがとう、鷹那。でも、貴女一人だけに暴れさせるのも、癪と言う物よね? 私も久し振りに大暴れしたくなってきたわ…… 」


「御意、私も久し振りに琥珀様と共に暴れたく存じます 」


「フフフ、頼りにしているわよ? 」



 不利な状況にも関わらず、馬上で不敵な笑みを浮かべて見せると、琥珀は愛用の剛剣を抜き放ち、鷹那は戟を諸手に構える。



「西涼の勇者達よ! 我等に続け! 西涼兵の恐怖を黄巾どもに刻み込むのだッ! 」


「全軍突撃! 生きて帰ろうと思うな、死中に活を見出せ! 」 



 声高に合令を下すと、二人は勇猛果敢な西涼兵を引き連れ、死兵の集団目掛け猛然と斬りこみ始めた。



「詠、お前は早うここから離れるんや! 今のお前は正直足手纏いやからな!? ここから先はうち等に任しとき! 」


「霞の言う通りだ! それに、貴様に万一の事があれば月様がお嘆きになられる! 早くここから離れろ! 」


「詠、早くここから離れる。詠に何かあったら、月が悲しむ……霞達なら大丈夫、恋が守る…… 」


「くうっ……判ったわ、アンタ達の言う事聞いといてあげる。だけど、いい!? 絶対に生きて帰ってくんのよっ!? 死ぬなんて、絶対に、絶ーッ対に許さないんだからあっ! 」



 張文遠こと霞を始めとした三人の将に促され、悔しさで顔を顰めつつ不承不承この場より立ち去る詠。彼女の姿が見えなくなったのを合図に、霞、清夜、恋の三人の猛将は、それぞれ得物を手に躍り掛かって行った。



――十――



 主将の何進と彼女直属の兵達が無様に逃げ出し、彼女等に置き去りにされながらも、黄巾と奮戦する西涼の軍勢の姿は桃香達の目にも映った。この有り様に、馬家の姫たる翠と蒲公英が怒りの形相になっただけでなく、陽春を始めとした他の将達も怒りを露にする。



「西涼の同胞達を見殺しにしてはなりません! 至急全軍を挙げて敵を殲滅させるのです! 愚かな肉屋達は放って置きなさい! 」



 翠と蒲公英の心情を推し量ったのもあったが、無能過ぎる何進に悪態を吐きつつ、陽春が声高に号令を下すと、突然若い娘と気色悪く上ずった男の声が飛んできた。



「ちょーっと、待ったぁ~! 」


「ちょっとぉ~ん! そこの小姐(シャオチェ)(お嬢さん)達ぃ~! お願いだからお待ちになってぇ~ン! 」



 声の正体は他ならぬ楚々と高伯の際兄妹で、既に面識を持った桃香が彼等に話し掛ける。



「誰かと思ったら、的孫さんに高伯さんじゃないですか。ここは危ないですから、安全な所に避難した方が良いですよ? 」



 やんわりと桃香が二人を諭すが、楚々はニヤッと笑って見せると、左手を細い腰に当てて右の人差し指を顔前で振って見せた。



「チッ、チッ、チッ。玄徳さん、術を使えるのは張角達だけじゃないのよ? この『尊娘々(そんにゃんにゃん)』様も、打って付けの術を使えるんだからね? 」


「ええっ!? そっ、それは本当なんですかっ!? 」



 彼女の言葉に、桃香だけでなく他の者達からもどよめきが起こり始める。これを好機と睨み、楚々は更に言葉を続けた。



「まっ、あの術だけど、古の『禁書』に記載されてる『人を操る術』だと思うのよね。だけど、私も昔とある道士の下で術を学んだから、あんなの『ちょちょいのぷー』で破ってみせちゃうわよ!? 」


「妹の実力は本物よぉ~ン♪ もしぃ、これが嘘だったら、アタシと妹で『人肌寂しい思い』をしている人達の夜伽をして上げるわよぉ~~~ン♪ ウッウーン、極・好~ン♪ 」


「ちょっ、兄さんってばっ! 余計な事言わないでよッ! 」


「うっ、うっわー…… 」


「おいおい、おいらは『断袖(男色)』趣味なんかねぇぞ? おいらの親父も、『古の哀帝(男色趣味で有名)の真似すんだったら、器量の悪い女を抱け』って言ってたしなぁ 」



 高伯の放った戯言に、桃香や一心だけでなく他の将兵も顔を青ざめさせる。『妹は良いが兄貴の方はイラネェ!』等との声が周囲から飛び交っており、概ねの彼等の意見は『否』であった。


 だが、何時までもこのままでいる訳には行かない。陽春が二人の前に馬を進めると、彼女は毅然とした態度で二人に臨んだ。



「……この際です、縋れるのであれば藁ならぬ貴女に縋りましょう。ところで、貴女は名を何と申します? 」


「失礼致しました、盧閣下。私は際尊、字を的孫と申す旅芸人で御座います 」


「判りました、それでは際的孫殿。私達に力を貸して下さい 」


「はっ、この的孫、古の『刺姦将軍』の如く、華々しく、そして苛烈に敵を瓦解させて見せましょう! 」



 こうして、黎陽にて散々苦しめられた黄巾の術を打ち破るべく、『尊娘々』を中心とした作戦が開始されるのだが、先程の『尊娘々』こと楚々の言葉に僅かばかりの引っ掛かりを覚える者がいた。



(今、あの娘は『刺姦将軍』と言っていたけど、『刺姦将軍』の名で知られたのは、雲台二十八将が一人祭遵(さいじゅん)だわ……ッ!? 良く良く見てみれば、あの娘。雲台に描かれた祭遵の絵に酷似しているわね? だけど、祭遵本人は既に故人だし、恐らく他人の空似でしょう。それに、古の人物が実は死んでおらず、今の時代まで生きてると言うのも変な話と言う物だわ )



 それは他ならぬ陽春であった。彼女は現在の職責に就く以前に、学者として中央で働いていた事がある。その際、彼女は雲台に描かれた二十八将の絵を幾度か見ていたのだ。


 

(ふうっ、私も焼きが回ったかしら? つまらぬ事に疑問を抱くなんて…… )



 然し、幾ら何でも遥か昔の人間が生きている事なぞ有りえぬ物である。彼女は軽くかぶりを振ると、先程の引っ掛かりを自分の中から消し去った。



――十一――



「うっわ~~! この鎧、可也頑丈そうじゃない? こんなんじゃ相当重い筈なのに、良くこんなの着けて戦えるわね~? 」


「済まないが、濫りに話しかけないでくれ。君の術が届くよう、俺は君を護りつつ敵陣の奥深くまで斬り込まなければならないんだからな? 」



 黒風の上で一刀の後ろに跨った楚々が、戦袍越しで彼の鎧をコンコンと軽く叩くが、一方の一刀は仏頂面を決め込む。この時、一刀は鎧の上に羽織る物を陣羽織から、黒く染め上げた戦袍に変えていたのだ。


 何故ならば、及川も聖フランチェスカの制服を模した物を着用しており、同じく制服を模した陣羽織を着続ける事に一刀は強い抵抗を感じてしまったのである。


 これまでは、日本にいた時を忘れぬ意味合いを含め、制服を模したあの陣羽織に愛着を寄せていたのだが、先日及川の前で『北郷一刀の名はもう捨てた』と啖呵を切ってしまった。


 恐らく、この世界の曹操は既にフランチェスカの制服の意匠を知っているだろう。そう判断すると、折角陣羽織を作ってくれた照世に一刀は深く詫びを入れ、その一方で戦袍を黒く染め上げた物を身に纏い、曹操等への対処としたのである。


 また、この戦袍を羽織る事は未だ日本に未練を持つ自分、そして及川との訣別を意味し、同時にこの世界に骨を埋める覚悟の表れでもあった。そして、そんな思いを胸に抱いた一刀目掛け次々と温かき声援が送られる。



「良かったねぇ~一刀さん。可愛い的孫さんの指名を受けるなんて、本当に、本当に、ほ・ん・と・う・にぃっ、モテモテだよねぇ~~!? ……これが終わったら、(ねや)でジックリお話しようねぇ~? 」


「ええっ、本当に……一刀、判ってると思うけど彼女に手出しをしたら……『孫家秘伝の技』で暫く『再起不能』にさせるわよ? 」


「あ~~☆◎▼□……!! だーっ、めんどくせー!! いいかっ、一刀ッ! ソイツに手を出したら、『西涼式折檻全席』の刑にすっからなっ! コイツ、暫く『チョッカイ』出来ないようにしてやった方が良いんじゃないのかッ!? 」


「ご安心下さい、一刀様。仮に『間違い』が無き様、この愛紗が貴方の傍に控えておりますので……フフフフフフフフフ…… 」


「フフフ、まっこと女に関してなら、一刀殿は之正に『天下無双』なりっ! よもや、面識の無い娘までから熱ーいご指名を受けるとはなぁ? 流石は桃香様と同じ中山靖王を祖に持つだけはある……あ~羨ましいッたらありゃあせぬなあっ! この趙子龍も貴方に肖りたく思いますぞ!? フハハハハハハッ! 」


「良かったねぇ~、一刀兄様。か弱き女の子を守る為、お姉様達からの温かい声援を受けての斬り込みだよ? 武に携わる者にとって、これほどの栄誉は無いんだし、頑張ってねぇ~! 骨ならたんぽぽが拾ってあげるからさ、ニヒヒヒヒッ! あ、仮にお姉様達から見捨てられても、たんぽぽなら何時でも夜伽のお誘い受けてあげるよ~? 」


「うにゃ、本当は鈴々がやりたかったんだけど、鈴々の猪は一人乗りなのだ。鈴々は馬に乗れないし、だから今回は一刀お兄ちゃんに譲ってあげるのだー。たんぽぽー、さっき言ってた『よとぎ』って何なのだ? もしかして、『おとぎ話』の事かー? 」


「あ~、鈴々にはまだ早いと思うよ? 」


「ウウッ……何でこんな目に遭わなくっちゃ行けないんだ? マジで胃が痛ェ…… 」



 桃香を始めとした一刀を想う恋姫達から、それぞれ『素晴らしくドス黒い声援』が送られると、完全に楽しんでる顔の蒲公英からは、慰めどころかトンでもない言葉を掛けられ、今一つ判ってないのか、鈴々はお気楽な笑顔を見せている。そんな彼女等に中てられたのか、一刀は顔を青ざめさせると、苦悶の表情で胃の辺りをさする始末だ。


 何故こうなったのかと言うと、楚々から『自分の術は相手の術者の近くで発動させないと、中々効果を発揮出来ない』と言われた為、従って敵陣の奥深くに斬り込んで術を使う必要が出て来る。そうなれば、誰か武勇に優れた者に彼女の護衛を任せなければならないので、桃香が義兄義雲を始めとした豪傑に頼もうとしたのだが、ここで楚々が一刀を指名したのだ。



「それじゃ、仲郷さん。わ・た・し・の・事ぉ、ちゃあんと守ってねぇ~♪ 」


「ソレハ業務命令デスカ? 」


「うんっ、業務命令! だから、お願いするわねっ!? 」


「承知シマシタ…… 」



 わざとらしく頼み込む楚々に、妙な棒読み口調で一刀が聞き返すと、満面の笑みで彼女は一刀にしな垂れ掛かる。彼女の振る舞いに、恋姫達からは不愉快な歯軋りや、『うぬぬぬぬ』等と呻き声が聞こえる有様だ。然し、こんな状況を打ち破るべく、救いの神が現れる。その神は、楚々の脳裏に直接語りかけてきた。



『遵娘々……いい加減彼等をからかうのをやめないと、露々(ろろ)茶柳(ちゃる)をけしかけるよ!? 』


『イイイッ!? しゅ、秀児様ッ!? 』


『ほらっ、言わんこっちゃない。僕が言う前に二人とも来ちゃったよ 』


『ちょっとぉ、アンタ! 『元刺姦将軍』の分際で、良くもこの天才露々様を『自称大天災』なんて言ってくれたわね? アンタだって顔以外取り得が無い癖して、一体ナニ考えてんのよ!? 』


『楚々ちゃんだけ、下界に行くなんて……ズルイなぁ~私と露々ちゃんもそこに行きたかったんだよ? 駄目だよー? 秀ちゃんが情に脆いのをいい事に、どうせ泣き落としてもしたんでしょ? 』


『う゛っ……本当に自称天災児と嫌味な小姑まで来ちゃったわ…… 』



 楚々の脳内で、嘗ての主君たる秀児と天敵である露々こと鄧禹(とうう)と、茶柳こと朱祜(しゅこ)が一斉に責め立てて来る。これには堪らず、たちどころに楚々は顔をげんなりとさせてしまった。



『ったく、これ以上私達にああこう言われなくなかったら、アンタはさっさとやる事やんなさいっ! 』


『楚々ちゃん。楚々ちゃんも儒家の端くれなら、儒家らしくやる事やろうね? 』


『全く……こんなんじゃ、僕達は泰山の住人から物笑いの種にされちゃうよ……現に、伯升兄様なんか『いいぞもっとやれ』って、さっき馬鹿笑いしてたし 』



 三人から口々に言われると、流石にこれには堪らなくなったのか、楚々は実際に声を大にして叫ぶ。



「ああもうっ! 判ってるわよ! やれば良いんでしょ!? やれば!! 」


「え……? 的孫殿、一体どうしたんだ!? 」


「あのー……的孫さん、若しかして疲れてない? 」


「おいおい……あんた、まさかヤバイ薬でも飲んでるんじゃねぇンだろうな? 」


「あっ…… 」



 当然、彼女の脳内のやり取りなど、現世で暮らす者には判っていない。突如大声を上げた彼女に、一刀だけでなく、桃香や一心を始めとした周りの皆も、思わず呆然となってしまった。一斉に彼等からの視線を集めてしまうと、気拙そうに固まってしまう。



「うっ、ううんっ! なっ、何でもないの、何でもっ! ちょっと夕べ寝不足気味だっただけだから、何も心配しないでっ! 」


「え? ……判った、それじゃ飛ばすからな、しっかり摑まってろよ!? 」


「ええっ、それじゃ頼むわよっ!? 」



 先程までのおちゃらけた態度から一転し、楚々が真面目な物に改めると、一刀は愛馬黒風を走らせる。そして、それに併せて彼等を守るべく、義雲を始めた豪傑達がその周りを取り囲んだ。確りと一刀の腰に細い腕を回し、目の前に飛び込んでくる戦いの光景に楚々は懐かしそうに目を細める。



(ふうっ、久し振りの戦場の空気……何だか昔を思い出しちゃうわね? フフッ )



 この時の彼女の顔は、紛れも無く『刺姦将軍』の名で知られ、現在雲台二十八将の一人に名を連ねている『征慮将軍 潁陽成候 祭弟孫』その物であった。



――十二――



「一体どうなってるんだ? 全然前に進めないぞ? 」



 黄巾本隊の中心部にて、張三姉妹が乗った馬車の傍で張闓が忌々しげに顔を顰めていると、そんな中一人の黄巾兵が彼の許へと駆け寄ってきた。



「ご報告致しますっ! 」


「どうした? 何があった? 」


「はっ! 現在我が軍は、官軍の強い抵抗を受け足止めされておりますっ! 」


「何だとおっ!? 前衛の連中には特に強い力を大賢良師様達がお与えになっているのだぞっ!? なのに、何故突破できないんだ!? 」



 苛立ちを隠さず張闓が喚き立てると、その黄巾兵が動揺を露にする。



「はっ、はいっ! 何進らしき将が逃げ出すと、それに併せて周りの兵士も一目散に逃げ出し、後に残ったのはそれよりも規模の小さい軍勢でした。ですが、それが思いもよらぬ強さで、兵は言うに及ばず、それを率いている将も……! その中でも、特に『呂』の旗印を掲げた赤毛の女の強さは化け物です!! あれは人間ではありませんっ!! 」


「んなっ……! 何進が逃げただとっ!? 何で逃げ出したんだっ!? 」


「はっ、どうやら何進は陣頭に立っていた様です 」 


「チッ! 精々奥でふんぞり返ってると思ってたが、予想外だったか!? オマケに、それより規模の小さい連中から足止めとは、計画が台無しになるじゃないか…… 」


「計画? 」


「何でもない、お前には関係の無い事だ。判った、ならもっと兵力を前衛に投入させろ! 人海戦術で邪魔者どもを全て揉み潰してしまえっ! 俺は大賢良師様達に、更なる『天の力』をお与え下さる様お願いして来る 」


「はっ! 畏まりました! 」



 兵の姿が消えるのを確認し、張闓は馬車の方へと馬を寄せ、扉越しで天和達に語りかけた。



「大賢良師様、地公将軍様、人公将軍様。劉備にて御座います 」


『ど、どうしたの、劉備さん? 若しかして……まだ、脱け出せないのかな? 』


『劉備さん……若しかして、状況良くないの? ちぃ達何とか踏ん張ってるけど、体がフラフラだよ 』


『地和姉さんが持つ様、私と天和姉さんが支えてる状態だけど、この調子だと一刻(二時間)も持たないわ…… 』


(チッ、まだ一刻も経過していないだろうが! ったく、貴様等には兵や他の連中の食事を削ってまで良い物を食わせてやってるのに、それに見合っただけの働きも出来ないのかっ!? )



 彼の言葉に応じるべく、馬車の中から三姉妹が言葉を返すが、声の調子が弱々しい事から可也消耗している事が伺える。内心毒づきつつも、好青年の仮面のまま張闓は言葉を続けた。



「はい、少々梃子摺っておりまして……何やら、尋常ならざる強さを持った者達が行く手を阻んでいるようです。ですが、もう少しなのです! 奴等を蹴散らしさえすれば、必ずや危地を脱せます! この劉備に全てを、全てをお任せ下さい! それ故、もっと貴女方のお力を同胞達にお与え頂けませんでしょうか? 」


『地和ちゃん。劉備さんもああ言ってるんだし、お姉ちゃんも頑張るから。だからあと少しの辛抱だよ? ね? 』


『地和姉さん。苦しいのは判るけど、それは姉さんを支えている天和姉さんや私も同じ。だから、もう少し頑張って 』


『うーん……判った……ちぃ頑張るよ…… 』



 毎回ながら、真剣に頼み込む腐れ悪童の迫真の演技にコロリと騙されると、天和と人和は主な術者の地和を納得させる。地和の言葉に、心の奥で張闓は邪悪な笑みを浮べた。



「有難う御座います! それでは、私は持ち場に戻りますので…… 」



 そう言い渡すと、張闓は悪童仲間の孫仲と高昇の所に戻ると、早速二人を傍に呼びつけてそっと耳打ちする。



『孫仲、高昇。計画が少し狂ってしまった。一部変更だ 』


『はぁ? そりゃどう言う事だ? 何進に売り渡すと言ってたじゃねぇかよ? 』


『そうだ、お前の話じゃ、ドサクサに紛れてあの三人を何進に売り渡すんじゃなかったのかよ? 』


『ああっ、確かにお前等の言う通りさ。ここを抜けたら術で疲れ切ってるあの三人をとっ捕まえて、何進に引き渡す積りだったが、何せ肝心のソイツが逃げ出してしまったからな? アレが話で聞いた通りの奴なら、奥でふんぞり返ってると思っていたが、どうやら陣頭に立っていた様だ 』


『何だよそりゃ、元々何進って奴は肉屋のババアだから戦も知らないし、陣頭に立たねぇだろうって言ってたのはお前じゃねぇかよ? 』


『全くだ、こんな事になるんなら、もう少し考え様があったろうがよ? 』


『仕方が無いだろ? こんな事になるなど、予想外だったんだからなっ!? オマケに今、前衛がぶち当たってる連中が可也厄介みたいだし、俺はあいつ等にもっと強いのを掛けろと言ってきた。恐らく、直に消耗しきってあの三馬鹿どもは倒れるだろうし、俺達三人は無傷でここを脱出……。後は、ぶっ倒れた奴等を何食わぬ顔で官軍に売り渡すだけよ…… 』


『判った、判った。なら、テメェの言う通りにしてやらぁ 』


『全く……早いとここんな事終わらせて、金と女にありつきたいもんだぜ 』


『それじゃ、各自持ち場に戻れよ? いつでもヒソヒソ話してたら変に思われちまうからな? 』



 そう〆ると、この三悪童は下卑た笑みと共に持ち場に戻ろうとするが、後方のとある方から一人の男がヨロヨロと歩み寄ってきた。



「ちょ、張闓……悪い知らせだ…… 」



 よくよく見てみれば、この男は張闓の悪童仲間の一人である何曼(かまん)で、張闓等が黄巾党を発足させたのと同時に、彼を頼って来た男である。余談ではあるが、何曼は嘗て波才の副将を務めていたが、その波才が佑に討ち取られた為、命辛々張闓達に合流した経緯があった。



「お前は……何曼じゃないかッ、一体どうした!? 何があったんだっ!? 」



 その何曼であるが、今の彼は正に『満身創痍』を体現している。命の灯火が消え失せそうな彼の姿に焦りを覚え、張闓が声高に叫ぶと、何曼は息も絶え絶えに言葉を発した。



「こ、後方から、じゅっ、十数騎の騎兵に率いられた一団が、斬り込んできやがった……斬り込んできた奴等の中に、りょ、廖化らしき者が…… 」


「なっ、りょっ、廖化だとぉ!? アイツ、まだしつこく生きていたのかっ!? 」



 嘗て、自身が深手を負わせた男の名を聞かされ、動揺する張闓。そして――そんな彼を更に絶望の淵に追いやるかの如く、聞きたくも無い名前が何曼の口から告げられた。



「そ、それだけじゃあ、ねぇ……ちょっ、趙空に黄誠と馬越に馬岳、そ、それと劉思に関翼と張翔、中に変な黒い鎧の野郎に女どもとかがいたがよ……劉備までもいやがったんだっ! 」


「んなっ!? 」


「お、おいっ!! みっ、みんな化けモンばっかじゃねぇかよっ! 」


「いっ、何時の間にあいつ等ここまで追いかけて来たンだよっ!? 」



 嘗て楼桑村で、また、先の黎陽において散々痛い目に遭わされた者達の名を聞かされ、張闓だけでなく傍らの孫仲と高昇もうろたえ始める。そんな彼等を他所に、何曼は目をカッと見開かせた。



「劉思達だけじゃねぇ!! 俺はさっき劉備に殺されかけ……ガハッ! 」



 そう絶叫し、何曼は血の塊を噴き出すと、白目を剥いてあっけなく事切れる。倒れてしまった彼の背中には、大きな刀創が遺されていた。既に物言わぬ嘗ての仲間の亡骸を前にし、三悪童の顔から一気に血の気が降りてくる。



「ケッ、この根性なしが。冗談じゃねぇ……まだここで死んで堪るかってんだ。孫仲、高昇ッ! 後ろの方にも兵隊送り込んどけっ! 」


「あっ、ああ…… 」


「わっ、判ったぜ…… 」



 精一杯の虚勢を張る張闓に対し、力無く返事を返す孫仲と高昇であったが、何れもこの無残な亡骸に己の末路を重ねていたのだ。



――十三――



 時を同じくし、黄巾本隊の後部に斬り込んだ一刀であるが、後ろに楚々を乗せた自分達を中心に楼桑村義勇軍の将達が周りを囲む。義雲達は言うに及ばず、桃香の親友の白蓮や雪蓮を始めとした孫家の者達もその中に加わっていた。


 敵陣に斬り込んだ彼等は、全力疾走で押し進みつつ、立ちはだかる敵兵を次々となぎ倒す。然し、敵の中には倒しても起き上がってくるのも居る為、敵に完全に構わず寧ろ倒したらそのまま無視して通過する戦法を取っていた。



「一刀さんっ、それに的孫さんも。怪我はないっ!? 」


「問題ないっ! 俺の方は大丈夫だ! 」


「こっちも無問題(モウマンタイ)よ! それにしても、玄徳さん可也やるじゃない! まるで、自ら陣頭で剣を振るった古の世祖を見てるようだわ! 」



 声高に叫びながら、血塗れになった靖王伝家片手に桃香が馬を寄せてくると、同じく馬上の一刀と楚々も笑みと共に言葉を返す。すると、二人に呼応するかの様に、今度は馬上の吾朗こと廖元倹と雛菊こと周倉が傍によってきた。余談であるが、雛菊だけは馬に乗っておらず自身の足で走っており、その尋常ならざる速さは馬に遅れを取っていなかった。




「せやっ! 流石は一刀チャンが惚れるだけあるわぁ~! 中々やるやないか、『ホンマモン』の玄徳はんっ! ワシもアンタの下なら喜んで働かせてもらうで! やっぱ、ホンマモンは違うなぁ、雛菊(ちゅじゅ)ゥ? 」


「はい~っ、頭目の言う通りです~! 私も大将や愛紗お姉様に惚れ込んじゃいましたし~! お二人が仕える方なら喜んでお仕えしますよ~ 」



 幾ら一騎当千の猛者とは言え、彼等だけで敵陣に斬り込むのは到底無理がある。『戦い=喧嘩』が三度の飯より好きな吾朗の懇願により、三百五十名の元黄巾兵(荒くれども)で編成された『劉仲郷隊』もそれに加わっていたのだ。



「皆、有難う。でも、褒め言葉はこれが終わってからゆっくり聞かせてね? 目的地はまだ先なんだからッ! 」



 少しばかりの照れを浮べつつ、桃香がキッと表情を引き締めると、自分に襲い掛かろうとしていた敵兵を斬り伏せる。そして、彼女は一刀の周囲を守る仲間達に、誇らしげな視線を送った。



(皆……出会った経緯はバラバラだし、色んな個性を持ってるけど、ここまで一緒に戦ってくれた私の大切な皆……この戦いが終わったらお礼を言わせてね? そして、皆で無事に生きて帰ろう!! だって、私もまだまだ死ぬわけには行かないし、皆と一緒にこれから先の道を歩いていきたいんだからっ! )



 そう思うと、桃香は胸が熱くなってくるのを覚える。感極まって思わず泣きそうになってしまったが、彼女は握り拳を目に宛がい涙を拭い去った。そして、彼女の後ろで馬を走らせていた蓮華が声を上げる。



「桃香ッ! 来るわよっ! 」


「ッ!? 」


「ホアッーッ! ホアッ、ホアッ、ホアッーッ! 」


「ホアーッ! 」



 今では大切な親友の一人である彼女に注意を促され、改めて桃香が前方を見やると、そこには武装した黄巾兵の集団が待ち構えており、彼等は口々に奇声を上げながら襲い掛かって来た。不気味な黄狗どもを目の当たりにし、桃香は歯を食いしばる。



「よぉーーーっし……行っくよぉっ、みんなーっ!! 」


「「「オオオーッ!! 」」」



 一見、無謀とも言える突撃にも見えかねなかったが、桃香の号令に皆一斉に気炎を上げると、彼等は一体と化して黄巾本隊の内部へと更に押し入って行った。この時の桃香の戦い振りは、『正に潁川の戦いで自ら陣頭で戦った光武帝劉秀の様だ』と、後世の歴史家『家 康像(ジァ カンシャン)』に評されたのである。



――十四――



 敵陣の奥深くに斬り込んだ桃香達であったが、ようやく彼女等の前方に馬車らしき物がチラリと見えてきた。隻眼を狭めさせ、中央の一刀がそれをじっと見やると、確信するかのように後ろの楚々が頷いてみせる。



「馬車らしき物が見えるぞ……もしかして、あそこに張角達が? 」


「ええっ、どうやらそう見たいね? あそこから、強い力を感じるもの……差し詰め、※7投壺(とうこ)の役なら※8『有初(ゆうしょ)』と言ったとこかしら? 」


「成る程なぁ、だが、あそこまで行くのには骨が折れそうだぞ? 」


「あっ、それなら大丈夫よ。ここで下ろしてもらえるかしら? ここなら術が届く有効範囲ギリギリだし、かえってこれ以上突っ込ませるのも危険だしね? 」



 そう言うと、楚々は黒風からひらりと下馬し、右手には何やら煌びやかな宝玉を取り付けた短い杖らしき物が握られていた。



「仲郷さん、術が完全に発動されるまで時間が掛かるの。当然、その間私は無防備になるから、敵がこっちに来ないようにして貰えるかしら? 」


「判った……その言葉、桃香や皆に伝えておく! 」


「頼りにしてるわよ? 『独眼竜』さん♪ 」


「フッ、『独眼竜』か……言ってくれる 」



 ニコリと楚々が笑みを浮べて見せると、対する一刀は苦笑交じりで頷き、先程の彼女の言葉を大声で伝える。



「皆、良く聞いてくれっ! これより、的孫殿が術を使う! 術が完全に発動されるまでの間、彼女に指一本たりとも触れさせるな! 」


「「「応ッ! 」」」



 彼の呼びかけに、桃香を始めとした他の者達が頷いてみせると、彼等は楚々の周囲をガッチリと固めて傀儡と化した黄狗どもの集団を睨み付ける。正に、進む事も退く事も許されない死闘が始まったのだ。



「ホアーッ、ホアッ、ホアッ! 」


「ええーいっ! ホアホアとしか言えないのかっ!! せぇりゃあああああっ!! 」


「鈴々も、いい加減ホアホアは聞き飽きたのだっ! うにゃああああああっ! 」


「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん! あんまり突っ込んじゃ駄目だよっ!? ……痛~~ッ! 」


「なっ!? 義姉上ッ、左腕を怪我しているではありませぬかっ!? そう言う義姉上こそお下がりください! 貴女に万一の事があれば、一刀様が悲しまれますっ! 」


「そうなのだっ! ここは愛紗と鈴々に任せて欲しいのだ! 」



 苛立たしげに愛紗と鈴々がそれぞれ得物を敵に一閃させると、突っ込みそうになる義妹達を桃香が諌める。この時、既に桃香は左腕を負傷していたが、それでも痛みを堪えつつ敵に対し白刃を見舞わせていたのだ。そんな彼女の痛々しい姿に居た堪れなくなり、義妹達が下がる様言って来るが、当の桃香はニッコリと笑って見せる。



「ううんっ、こんな怪我右目を喪った一刀さんに比べれば大した事無いよ? さぁ、私の事は大丈夫! だからっ、今やるべき事をやろうよ! 」


「……判りました。義姉上、我等生きるも死ぬも一緒です! ですから、約束を違える事は許しませんよっ!? 」


「そうなのだ! 鈴々も死ぬ時は桃香おねえちゃんと愛紗と一緒じゃなきゃ嫌なのだー! 」


「あはは、私はまだまだ花の乙女真っ盛りの十七なんだよ? だから、今の内から死ぬ事考えたってしょうがないじゃない♪ 」


「フフッ、そう言える余裕があるのなら、まだ大丈夫ですね? 私も『花の乙女真っ盛り』の※9十七歳ですし、それでは参りましょう! 」


「鈴々も『お花畑特盛の乙女』の十五なのだ! だから、もっと頑張るのだー!! 」



 互いに満面の笑みで頷き合うと、この三姉妹は更に猛然と敵に立ち向かい、正に獅子奮迅の戦い振りは『三位一体』であった。



「ぬうんっ! 」


「「「「「「「ホアギャハアッ!? 」」」」」」」


「ふうっ、流石に少し力を入れねば一撃で倒せぬか? 」


「あなたっ! 大丈夫ですかっ!? 」



 一人で十数人の黄狗を一気に葬り去り、冷艶鋸を一振りして血を飛ばす義雲の傍に紫苑が※10眉尖刀(びせんとう)片手に馬を寄せる。幾ら弓が得意な彼女とは言え、流石に弓だけではこの状況は不利であった為に、彼女は近接武器を用いていたのだ。既に、幾人かの敵を屠ったのであろうか、その得物にはおびただしい鮮血が滲んでいる。



「紫苑、わしは大事無い。寧ろ、そなたの方こそ大事無いか? 楼桑村に残した璃々の事もある。余り無理をするでないぞ? むっ? そなた、今わしの事を…… 」


「ふふっ、無論亡夫『想貫(亡き賈龍の真名)』様の事は忘れて居りませんわ。ですけど、璃々はまだ六つです。幼いあの子の為にもあなたと言う父親が必要なのですし、それに、あなたは以前仰って下さったではありませんか? 『璃々の父親でもあり、そなたの夫でもある』と……ですから、私の返事の積りですわ…… 」



 頬を紅く染め、義雲に告白する紫苑。この時の彼女は、まるで十代の娘さながらの様な可愛らしさがあった。



「判った……それでは、この義雲改めてそなたに申すぞ! 紫苑よ、わしの妻になってくれ! 」


「はいっ、義雲様……! この紫苑、喜んであなたの妻になりますわ。やがて、常世に行こうとも私はあなたと添い遂げたく存じます…… 」



 双眸をカッと見開き、思いの丈をぶつける義雲に、紫苑は嬉しさの余り涙ぐむ。やがて互いに向き直ると、襲い来る黄狗どもを睨み付けた。



「……黄狗どもめ、わし等が相手だ! 命が要らぬ者は掛かって来るが良いッ! 」


「貴方達のお相手は、関仲拡が妻黄漢升がして差し上げますわ……。女と思って舐めて掛かると容赦致しませんわよっ!? 」


「紫苑、参ろうぞ! 」


「はいっ、あなたっ! 」



 改めて『夫婦の誓い』を立てると、一瞬だけ二人は手を握り合うが、すぐにそれを離して更に勢い強く敵に向かって行ったのである。



「せりゃあっ! はああっ! せいっ! 」


「ギャッ! 」


「アビッ! 」


「オワタッ! 」



 俊敏な動きで急所を突き、あっと言う間に三人の敵兵の命を刈り取った明命であったが、突然強烈な力で羽交い絞めにされた。



「ホアーッ、ナンダナ。ホアーッ、ナンダナ…… 」


「くうっ……なんて怪力なのです! 離すのですっ! 」



 両足をじたばたさせ、明命は懸命にもがくが、この巨漢の黄狗は彼女を離そうとしない。そうこうしている内に、止めを刺すべく、数人の敵兵が宙ぶらりんになった彼女目掛け槍を繰り出そうとしていた。



「くっ……父様、母様、蓮華様……義雷様ぁ~~~ッ!! 」



 両親と主人の名を呟き、最後に思いを寄せていた漢の名を涙ながらに叫んだ明命であったが、その瞬間彼女に奇跡が訪れる。



「うおーい、呼んだかぁ? 」


「え? 」



 拍子抜けするような返事と共に、栗毛の巨馬に跨り、一丈八尺の蛇矛を小脇に抱えた義雷がその場に姿を現す。突然の出来事に、明命に槍を突き立てようとしていた敵兵が彼の方を向くが、対する義雷はニヤリと笑って蛇矛を一閃させた。



「オイオイ……気付いたとこでもう遅ぇんだよぉッ!! おらあああっ! 」


「アベシッ! 」


「ビデブッ! 」


「タワバッ! 」


「アダモステッ! 」


「はー……正に『瞬殺』なのです…… 」



 あっと言う間に数名の敵を屠る義雷に、呆気にとられる明命であったが、彼は更に笑みを凶悪な物にさせると彼女を拘束していた巨漢を睨み付ける。



「さってと……オイッ、そこのでかぶつ黄巾野郎! その娘はなあっ、この張叔高様の『可愛い可愛い黒猫』ちゃんなんだよおっ! いい加減、その薄汚ェ手を離さねぇと、今度はテメエがあいつ等みてぇになる番だぜ! 」


「え? 」


「ホアーッ、ナンダナ……ホアーッ、ナンダナ…… 」



 義雷の思わぬ言葉の内容に、明命が頬を紅く染めるが、その一方でこのでかぶつは義雷の凄みに全くの無反応であった。



「チッ! そうかい、そうかい……それがテメェの返事ってェ訳だな!? なら、容赦しねェ! 覚悟しゃあがれいっ! 」



 忌々しげに舌打ちし、義雷が馬を飛ばして巨漢の頭を右手でガシッと鷲づかみにすると、その拍子で明命の拘束が解ける。



「ホ、ホアーッ、ナ、ナンダナ…… 」


「あっ! 」



 それをチラッと横目で確認すると、義雷は猛虎の如き雄叫びを上げた。



「ぬおおおおっ……らっしゃらああああああああああっ!! 」


「ホアアアアアアナンダナアアアアアアアアッ~~! 」



 気合一閃、義雷は右腕を思いっ切り振りかざし、自分より体重があろうと思われる巨漢を遥か彼方へと放り投げる。放り投げられたそれは大きな放物線を描き、やがて物凄い地響きと共に叩き付けられると、周囲にいた多数の黄巾兵を巻き添えにした。



「どれ、イッチョ上がりだな? 」


「あ、あのー義雷様、有難う御座いました 」



 わざとらしく義雷がバンバンとごつい両手で払う仕草をすると、礼を言うべく明命がぺこりとお辞儀する。そんな彼女に、義雷はニカリと笑って見せた。



「なぁに、物凄く分が悪ィ喧嘩の真っ最中だし、ああなる事もあらぁな。けどよぉ、背中にも目ェつけとかねぇと、簡単におっ()んじまうぜ? 」


「はいっ、なのです……それと、義雷様。さっき私の事を『可愛い黒猫』と仰って下さいましたが、あれはどう言う意味なのですか? 」



 頬を紅く染め、身をもじもじとさせながら明命が尋ねてくると、ばつが悪そうに義雷は頬をこりこりと掻く。



「いっ、いや~そのよおっ、俺は馬鹿だけど、人の気持ちにはそれなりに聡い積りだぜ? アンタが俺に好意を寄せてくれてたのは前々から知ってたし、その気持ちに応えたろうじゃねぇかと思ってたんだよ。まっ、この戦が終わったらキチンと言う積りだったが、思わず口に出ちまったぜ…… 」



 最後の方で尻すぼみになってしまったが、思わぬ義雷の言葉に、明命は嬉し涙を流し始めた。



「嬉しいのですっ! 明命は義雷様をお慕い申し上げておりますっ! 」


「あ~そのぉ~何だ……まっ、改めて宜しく頼むぜ『黒猫』ちゃん? 」


「はいっ、なのですっ! 明命は義雷様の『黒猫』様になるのですっ! 」


「何だよ、そりゃあ? 普通自分を『様』付けすっかあ? 」



 照れ笑いを浮べる義雷に、これまでの自分の一生の中で一番の笑顔を見せる明命。何とも言えぬ甘い雰囲気が漂っていたが、直ぐに二人は気持ちを切り替えると、まだまだ襲い来る敵にぶち当たる。この時の二人の戦い振りは『獰猛な虎と俊敏な猫』と例えられ、以降義雷は明命の事を『黒猫ちゃん』と呼ぶようになった。



「どれ、祭よ……ここは一つ儂等が気合を入れて見せんとなぁ? 」


「全くじゃのう……最近は小蓮様から『爺ィと婆ァだから仲が良い』とからかわれる始末じゃし、一体儂等を何じゃと思っておるのじゃ? 」



 お互いに馬を寄せ合い、自分等に襲い掛からんとする集団を睨み付ける永盛と祭。永盛は象鼻刀を構えており、祭の諸手には※11硬鞭(こうべん)が握られていた。二人の得物は何れも真紅に染まっており、いかに数多の敵兵を屠ってきたのかが伺える。


 じりじりと迫り来る黄巾兵に厳しい表情を向けていた二人であったが、突然祭が永盛にしな垂れかかって見せた。そんな彼女に、永盛は困惑気味の表情を見せる。



「んっ!? 祭よ、今は戦いの最中じゃぞ? 行き成り何をする気じゃ? 」


「フフフ……のう、永盛よ。この戦いが終わったら……久し振りに『せぬ(・・)』か? 策殿ではないが、何だか儂の『女』が疼いてきよった 」


「……全く、そんな事を申せるのであれば問題はなさそうじゃな? だが、お手柔らかに頼むぞ? 何せ、お主の相手をすると、幾ら精力があっても足らぬと言う物じゃからな? 」


「フッ、若い連中ばかりが『お盛ん』ではないと言うのを見せ付けてやりたいのもあるしの? それに、お主ほどの漢であれば、儂も満足できるのよ…… 」 


「なら、無事にそれが出来るよう、目前の奴等を蹴散らそうではないか! 」


「それに関しては、同意見じゃな! 」



 永盛と祭――互いにいい笑みを見せ合うと、この同い年の『熟年男女』は互いを庇い合うようにそれぞれ武を振るわせた。二人の粘り強い戦い振りに感化されると、他の者達も更に心を振るわせたのである。



「ハッ! フッ! セイッ! ハッ、ハッ、ハッ、ハアッ! セヤアッ! 」


「はああああああっ! 」


「一ツ、二ツ、三ツ、四ツ、五ツ、六ツ、七ツ、八ツ、九ツ……十ォ!! 」



 それぞれ馬上で敵と応戦する一心と雪蓮、そして羅蘭(ろうらん)こと太史子義。この世界に来てからという物、一心は義雲を始めとした仲間達に頼み込んで、己を徹底的に鍛え直していたのだ。その成果があってか、彼の戦い振りは雪蓮やその隣の羅蘭と比べても何ら遜色は無かったのである。一区切りつき、雪蓮が左右の二人を見やると、不敵そうに笑って見せた。



「流石は侠の頭目やってただけはあるわね? 一心、貴方も中々やるじゃない? 益々惚れ惚れしちゃいそうだわ! 」


「まあなっ、北の字や桃香だけでなく、他の連中にもでけぇ面してんだ。だったら、それなりの努力すんのは当たり前ェってモンよ! 」


「流石は一心様! 雪蓮様が惚れられた方だけあります! この太史子義、お二人の足元にも及びませんっ! 」



 一心も不敵に返して見せると、目をキラキラさせる羅蘭であったが、そんな彼女に対し二人は呆れ顔になる。



「何言ってんのよ、一番敵を倒していたのは他ならぬ貴女じゃない…… 」


「全くだな、久し振りに出番来たからって、一気に十人倒すんだもんなぁ? 」


「いっ、いえっ、あのそのっ……ささ、それよりも敵はまだまだ居ります! 的孫殿が準備を終えるまでの間、某等が惹き付けないと…… 」



 二人から言われてあたふたする羅蘭であったが、その際彼女の手から戟がすっぽ抜けてしまい、一心の頬を掠めた。



「ッ!? 」


「あ…… 」


「ちょっ、ちょっと羅蘭ってば! 一体何やってんのよ! 」


「うぉい! ちょいとおめぇさん、おいらを殺す気かい! 一瞬、肝を冷やしちまったぞ!! 」


「そっ、某とした事がぁ~~!! 」



 思わぬ失態に、両手で頭を抱えて叫ぶ羅蘭であったが、そんな彼女に二人はぼそっと呟く。



「ったく、とんでもねぇ『うっかりモン』だな、ありゃあ? 」


「本当ねェ……迂闊にアレを褒めると、トンだ『うっかり』をやらかされてしまうわ……今後は気をつけなくっちゃいけないわね? 」


「なっ……そっ、某が『うっかりモン』、『うっかり』、『うっかり』、『うっかり』…… 」



 恐らく、二人が言った『うっかり』は羅蘭にとっての『禁句(タブー・ワード)』であったのだろうか。突然、彼女は顔を物凄く歪めさせると、奇声を上げ始めた。



「クケーッ!? 」


「んっ!? 行き成りどうした!? 」


「ちょっと、羅蘭ってば! どうしたのよ、一体!? 」



 突如乱心したかの様な彼女に一心と雪蓮が呼びかけるが、当の羅蘭には全く聞こえていないようだ。オマケに何処から出したのかは知らぬが、彼女は放り投げてしまった戟の代わりにごつい※12狼牙棒を携えると、敵の真っ只中に躍り出てしまう。



「マデェエエエッ……! オ~イ~デェゲェェエエエエ!! イノチヲオイデゲェエエエエ!! 」


「フンゲエッ!! 」


「アビバッ!? 」


「ヒイイイイイイッ!! なっ、何だ、あの女は!? まるで泰山地獄の鬼女だぞ! 」


「こっ、こんなの相手にしてられるか!! にっ、逃げろおおおぉっ!! 」


「オ~イ~デェ~ゲェエエエエエエ!! 」


「ちょっ、ちょっと! 羅蘭ってば、待ちなさい! 」


「オイオイ! 羅蘭さんよ、一体(いってぇ)何キレてんだよっ!? 待たねぇかい! 」



 目を爛々と光らせ、容赦なく黄狗どもを撲殺する彼女の姿は正に『鬼女』を髣髴させ、一部の黄巾兵の間には術を強制的に解かれた者が出る始末。哀れ、この戦闘が終わるまでの間、一心と雪蓮は暴走した羅蘭を止めるのに専念せざるを得なかったのだ。これ以降、羅蘭こと太史子義の前では『戦闘中に褒める事』と『うっかり』は禁忌とされたのである。


 

「せやああああっ!! ハアッ、ハアッ、ハアッ……的孫殿ッ! まだなのっ!?  」



 右手に剣を、左手に『孫』の家名を刻んだ※13短拐(たんかい)を持った蓮華が、苛立たしげに敵の頭部に短拐を打ち据えると、楚々の方を向いて声高に叫んだ。



「はいはいはいはいはいーっ!! くうっ……流石にこれ以上はきついな!? 早く何とかして欲しいぞっ!! 」



 神槍の舞を見舞わせつつ、星も続いて叫ぶが、彼女の顔にも疲労の色が濃く浮かんでいる。



「お前達! 弱音を吐く暇があれば、目前の敵を殲滅する事に専念しろっ! どうりゃあっ! 」


「同感です、これしきの事で音を上げる様では、到底この先戦い抜く事なぞ不可能という物ッ! はあっ! 」


「蓮華、星ッ! 俺達もいるっ! だから、最後まで諦めるな! ちぇすとおっ! 」



 然し、そんな彼女等に喝を入れるべく、壮雄と雲昇、そして一刀の三人が助太刀に加わると、途端に二人の恋姫は嬉しさで顔を綻ばせる。



「一刀……それに壮雄老師に雲昇老師も……! 」


「ふふっ、壮雄殿と雲昇殿に……そして、我等が『種馬』の一刀殿か? 万夫不当の猛者が三人も来てくれたのだ、こっちも気を引き締めぬとなっ!? 」



 わざとらしく星が言い放った『種馬』と言う言葉に、一刀は愕然となってしまうと、力無げに肩をガックシ落としてしまった。



「た、種馬って……星さん、そりゃあアンマリじゃござぁせん事!? 」


「ハハハ……まだ齢十八の若武者とは言え、桃香様、翠、そして蓮華殿と身分も器量も申し分ない女性を侍らせているのだ。私が漢だったら、一刀殿の様になってみたい物だなぁっ!? フハハハハハハッ! 」


「クスッ……そうね? 一刀、男子たる者にとって、『種馬』ほど極上の褒め言葉は無いのよ? ……だから、後で又頑張ってもらおうかしら? 」


「れ、蓮華まで……二人ともホントにシドイわ!! 」


「ハッハッハ! 良かったなぁ、一刀! 星と蓮華の様な見目麗しい女子(おなご)達からそう呼んで貰えると言うのは、ある意味男子にとって『極上の褒め言葉』だぞ! 」


「フフッ……左様、壮雄殿の仰る通りです。何せ、この雲昇はそこまで呼ばれた事はありませんからね? 」



 笑みと共に、兄貴分とも言えるこの二人の漢にそれぞれ両肩をポンと叩かれる物の、一刀はジトッと隻眼を半目にさせて彼等を睨む。



「二人とも、それ全然褒めてるようには聞こえませんよ? 」


「何を言うか、事実を言ったまでだ。だから、お前を褒めているのだぞ? かく言う俺や固生も『種馬』呼ばわりはされなんだからな? 」


「ええ、私も事実を言ったまでですよ? 『種馬』……私の知っている限り、そう呼ばれた男子は一心様位の者かと? まぁ、一心様は別名『好色王』とも呼ばれたこともありましたがね? 」


「はぁ~あ、やっぱこの人達別格だよ……こんな状況なのに、ふざけた事言う余裕があるんだから…… 」 



 散々弄られ、疲れ切ったかの様に溜め息を吐く一刀であったが、それを他所に楚々が声を上げた。



「おっ待たせ~!! 準備が出来たわ、今から早速仕掛けるわよっ!? 」


「頼んだぞっ!! 」


「それじゃ……行っくわよぉ~~!! 」



 そう一刀が言うと、楚々は手にした杖に取り付けてある宝玉を口に近づけ、綺麗な歌声で歌い始めたのである。




――十五――


 

 (ダー)(フォン)(チィ)(シィ)(ユン)(フェイ)(ヤン)――大風起って 雲飛揚(ひよう)

 (大風が巻き起こり 空に雲が湧き上がった)



 (ウェイ)(ジァ)(ハイ)(ネイ)(シィ)(グィ)(グゥ)(シャン)――威は海内(かいだい)に加はって 故郷に歸る(かえる)

 (私の威光は天下に響き渡り 今故郷に戻ってきた)



 (アン)()(マン)()(シィ)(ショ)(スィ)(ファン)――安く(いずく)にか猛士(もうし)を得て 四方を守らしめん

 (何とか猛士(勇士)を集め 天下を守りたい物だ)




 何処からか流れてくるこの歌声は、周囲に響き渡った。この時になると、流石に他の門に配置されていた軍勢も気付いており、彼等も西門の方に回っていたのである。そんな中、東門から急行した華琳が思わず眉を潜めていた。



「これは……『大風歌』ね? 」


「そですねー? 天下を平定した漢の高祖が、後に故郷で歌ったとされる物ですねー。でも、何でこんな時に歌ってるんでしょうかねー? 」


「だな、黄巾との決戦にこんなの歌うなんて、よっぽどいい度胸してると思うぜ? 」


「はい、確かに『大風歌』です。それにしても、一体この歌にどの様な意味があるのでしょうか? 」



 華琳の両隣で風と宝譿、そして稟がそれぞれ彼女と同じく眉を潜めているが、華琳は不敵そうに口元を歪めて見せた。



「フフッ、気に喰わない詩だけど、漢に成り代わろうと目論んだ黄巾どもには打って付けの『滅びの歌』じゃない? それと、これを歌っている者を後で調べて頂戴。私の手元に置きたくなってきたわ? 」


「はいー 」


「若しかして、華琳様はあの歌声の持ち主に別の意味で『歌わせる』とか……ぷはあっ! 」



 そう悪戯っぽく華琳が笑って見せると、風は眠そうな目で頷き、稟はと言うと例の如く『妄想のお時間』突入状態に入ってしまい、最後は両の鼻孔から紅き血潮を盛大に噴出したのである。



「この歌は…… 」



 号令を下さんと馬上の青蓮が、右手を掲げたままでいると、彼女の両隣で縁こと程徳謀と冥琳こと周公瑾もそれぞれ耳を傾けていた。



「青蓮、これは『大風歌』ね? 高祖が故郷で歌ったと言われている物だわ 」


「はい、私も昔儒家が詠っているのを雪蓮と共に聞いた事があります 」


「そう…… 」



 二人から説明を受けると、青蓮は一旦上げかけた手を下ろし、歌声のする方をじっと見やる。そして、彼女は後ろを振り向くと、全軍に命を下した。



「全軍、この場で待機! 私が良いと言うまで勝手な行動は許さぬ! 」



 意外な彼女からの命に、これから黄巾本隊に決戦を挑む積りであった孫家軍の兵の間からどよめきが起こり始める。無論、縁と冥琳の二人も思わず彼女に詰め寄った。



「ちょっ、ちょっと! 青蓮、一体どう言う積りなの? 敵の本隊は目の前なのよ? 今あそこでは西涼の軍勢と盧植の軍勢が黄巾と戦っていると言うのに、見殺しにする気!? 」


「青蓮様ッ、それに関しては、徳謀様と同意見です! 一体何をお考えなのかっ!? 」



 二人から激しく責め立てられる青蓮であったが、彼女はケロッとした表情を彼女等に向けると、悪戯っぽく笑って見せた。



「そうねぇ、多分だけど黄巾の本隊は直に瓦解するかもしれないわ。だから、私達がノコノコ出向く必要は無いと思うのよ 」


「……青蓮、雪蓮様では無いにしても、まさかお得意の『勘』かしら? 」


「はぁ……そう言えば、青蓮様の『勘』も可也の確率で当たりますからね? 雪蓮もそれを受け継いでいましたし…… 」


「そ、勘よ、勘。大体、何か重要な局面があると、突然閃いてしまうのよね? フフッ 」



 呆れ顔でぼやく二人に対し、青蓮は娘の様に声を弾ませて見せたのである。一方で、そこから可也離れた所に配置されていた奏香こと劉徳然率いる『樊県義勇軍』では、奏香が思わず涙を流していた。



「ウッ、グスッ、グスッ…… 」


「どうしたんだよ、奏香? さては、喰い過ぎで腹が痛くなったとか? そう言えば、お前夕べ結構焼き菓子喰ってたモンなぁ~! 」


「どうしたどうした? まさか、この期に及んで家に帰りたくなったんじゃないんだろうな? 」


「大丈夫か、奏香殿? まぁ、無理もない? 何せ、決戦だと言うのに足止めされるし、オマケに何やら『大風歌』らしき物まで流れてくる始末だからな? 」



 懸命に涙をぬぐう彼女の許に、雄雲こと関坦之、修史こと陳叔至、そして義勇軍の参謀である黄公衡こと霧花(うーふぁ)が馬を寄せてくる。気遣うように、奏香に言葉を掛ける彼等であったが、当の彼女はしきりにかぶりを振って見せた。



「ううんっ……違うの。この『大風歌』を聞いていると、何だか胸がとっても熱くなって来ちゃったの……三人とも、心配させちゃってゴメンネ? 」


「……そうだな、確かにお前の言う通り、何だか胸が熱くなってくるな…… 」


「あー……確か高祖が歌ったって奴だっけ? 」


「ならば修史殿、この歌について私が説明しよう。古の高祖は天下を平定した後、名立たる功臣や謀反を企んだ者を次々と粛清したのだが、その仕上げで淮南王英布(わいなんおうえいふ)を討伐すると、その帰途に故郷の(はい)に立ち寄ったのだ。その時、高祖が歌ったとされたのがこの『大風歌』と言う訳だ 」


「はー……流石は学問盛んな蜀で学んだと言うだけあるな? 全然知らなかったよ? 何せ、俺は元々浮浪児だからな…… 」 



 霧花から説明を受け、思わず修史は感嘆の溜め息を吐く。彼は武には優れていたが、その反面浮浪児という出自もあったせいか、学問の方はからきし駄目だったのだ。



「別に気にしなくとも良い、私には私の、そして修史殿には修史殿の『役割』があるだけに過ぎぬ。それに……純然に道を行ける貴公等がとても眩しく見えるのだからな? 」


「え? そりゃ、どう言う意味なんだ? 」


「何でもない……どうやら、私も胸が熱くなったみたいだ…… 」



 そう呟くと、彼女は青く澄み渡った空を見上げ、右手を胸の前できゅっと握り締めると、そっと涙を流した。



(皇天后土よ……これは先帝陛下に不忠を働いた私への罰だと言うのですか……? )



 この少女の名は黄権、字は公衡(こうしょう)で真名は霧花と言う。何故、彼女がこんなに悲しい涙を流すのかは、この時誰も知る由がなかったのだ。



「ふうっ……一体何時まで続くのかしらね? いい加減飽き飽きしてきたし、『大風歌』らしき物まで聞こえてきたわ 」


「琥珀様っ、あれを! 」


「何かしら……なっ!? 」



 斬り伏せても再び起き上がる黄巾兵の集団に、休み無く斬撃を浴びせ続けていた琥珀と鷹那であったが、ふと鷹那がとある方を指差す。彼女に言われるまま、琥珀も指差す方を見てみると、飛び込んできたその光景に思わず言葉を失ってしまった。彼女等に続くかのように、近くで奮戦していた董家の三猛将――霞、清夜、恋からも驚きの声が上がる。



「なっ、何や? どうなっとるん!? 行き成り黄巾どもが倒れよったで!? 」


「これは一体どう言う事なのだ? さっぱり訳が判らぬぞっ!? 」


「恋も良く判らない……だけど、叩くなら、今 」



 己の武においてなら、董家、いや西涼最強と呼ばれた恋こと呂奉先が、右手に持った得物をとある方に振り翳す。彼女が指したその先には、幾数多の倒れた黄巾兵だけでなく、何やら馬車らしき物が見えていたのだ。それは琥珀の視界にも映ると、『西涼の狼』と化した彼女は凄惨な笑みを浮かべて見せる。



「よし……西涼の勇者達よ! 良くぞここまで耐えてくれた! 我等はこれより黄狗どもに止めの牙を突き立てる! これまでの鬱積を思う存分晴らしてやれ! 」


「「「「オオオオーッ!! 」」」」



 馬上で剛剣を振りかざし、琥珀が声高に号令を下して馬を走らせると、鷹那を始めとした他の将兵達も彼女の後に続いて行った。



――十六――



 一方その頃、張闓、孫仲、高昇の三悪童は、倒れて動かなくなった兵達の体をしきりに蹴り飛ばしつつ、大声で喚き散らしていた。



「畜生どもが、何で行き成り倒れるんだよっ! オイッ、起きろ! 起きろってんだ!! 」


「くそっ、駄目だ! 張闓、兵隊が全員使い物にならなくなってるぞ! 」


「張闓、原因は恐らくあの歌だ! あの歌に違ぇねえっ! 」 



 高昇の推測は当たっていた。楚々が歌声に乗せて使った術は、地和こと張宝が使った『術』の効果を打ち消したのである。



「チクショウ……! おいっ、貴様等! これは一体どう言う事なんだ! さっさとあの術を使うんだよっ!! 」



 全ての企みを水泡に帰され、本性を露にして馬車の中に駆け込む張闓であったが、中にいた三姉妹は全員倒れていた。



「こっ、これは……おっ、おいっ、頼む、頼むよっ! この通りだ! だから、目を覚ましてくれ! 」



 顔に焦りを浮かべ、三人を起そうと懇願するかの様に声を掛けるが、何れも目を覚まさない。そうこうしている内に、やがて何処からか馬蹄や喚声が聞こえてくる。それに気付き、慌てて張闓が馬車の外に出ると、彼だけでなく二人の悪童仲間の顔にも絶望の色が広がってきた。



「ひいっ! あれは、まさか…… 」


「間違いねェ、官軍だ! 」


「ヤバイぞ! 今ここでまともに動けるのは俺達だけだ! こんなんじゃ、即座に殺されちまうぞ! 」


「あ、あああああああ…… 」



 殺気立った西涼の軍勢が迫って来るのを目の当たりにし、恐怖の余り悪童どもが固まっていると、その光景は一刀の目にも映る。そして――彼は部下の一人である劉辟(りゅうへき)を大声で呼びつけた。



「劉辟ぃっ! 」


「へいっ! お呼びでやすか、大将! 」


「弓ィッ! それと、矢を一本だッ! 」


「へいっ、合点承知でやすっ! 」



 恭しく劉辟が弓矢を差し出してくると、一刀は大身槍を地面に突き刺しそれを受け取り、流れるような仕草で弓に矢を番え始めた。左目になった自分の視界に、只うろたえてるだけの悪童の顔を見た瞬間、一刀の中に激しい怒りが沸いて来る!



「張闓……今だけはお前に感謝してやる。隻眼になったお陰で右目を瞑る手間が省けたし、かえって狙いやすくなったからなっ!? 皇天后土にこの劉仲郷願い奉るっ! 我が放つ矢……当てさせたまえッ! 」



 皇天后土――即ち天地の神々に祈りを捧げ、一刀は弓をよっ引ぃでひょうど(・・・・)矢を放つと、それは辺りに響くほど長鳴りして、あやまたず張闓の右目をひぃふっ(・・・・)と射切って見せた。


 

「ヒギッ……ギャアアアアアアアアアッ!! おっ、俺の目、俺の右目がああああっ!! 」


「この前の黎陽のお返しだ、毒矢にしなかっただけでも感謝しろ! 俺はお前よりもっと苦しんだんだからな!? 桃香と愛紗だけじゃない、お前の所為で辛く悲しい目に遭わされた人達の痛みを存分に味わえッ! 」


「全軍突撃ーッ! 皆、これが最後だよ! 絶対に張闓達を討ち取るよーッ!! 」


「「「「オオオオーッ!! 」」」」



 痛みでのた打ち回る張闓に、掃き捨てるかの様に毒づくと、一刀が大身槍を再び携えて黒風を爆走させる。そして、桃香も靖王伝家を勢い良く振り下ろすと、最後の攻撃をするべく生き残った者達は力の限り駆け出して行った。



「ジ、ジギジョウ……こ、こんなとこでくたばって溜るか!! この張闓様が、あの劉備なんかにやられて溜るかってんだよオオオオオォォォォ!? 」



 右目に刺さった矢を引き抜き、そこから大量の鮮血を流しつつ悪鬼の如き形相で桃香達を睨み付けると、張闓は傍らの孫仲と高昇を怒鳴りつける。痛みを堪え、ヨロヨロと馬車に向かうと、御者台に腰掛け手綱を握った。



「い……いいか? これから強行突破だ……この張闓様には取って置きの『隠し玉』がある……そいつを使って、奴等の目を晦ませたら、何処でも良い!! 兎に角兎に角……逃げまくるぞっ!! 」


「あ、ああ……判ったぜ 」


「このままじゃ、俺達まであの三人と一緒に極刑受けんの目に見えてるしな? 毒を喰らわば皿までだ! おめぇと運命共にしてやらぁ!! 」



 片目だけになった張闓の凄まじい形相に気圧され、孫仲と高昇が恐る恐る頷いてみせると、張闓は腰に下げた袋から黒い玉を取り出し、そしてそれを一番距離が近いであろう桃香達の方へと放り投げた。



「覚えてろよっ! 劉備どもッ! このままじゃ終わらねぇからなっ!! 」



 呪詛の言葉と共に放り投げたそれは、桃香達の前に落ちるとけたたましい爆音と共に、もうもうと黒煙が辺りを覆い始める。一方の彼女等もこれには溜らず、あちらこちらから咽る声や、どよめきに馬の嘶きまで飛んでくる有様だ。



「くうっ……まっ、待て張闓!! ケホッ、ケホッ! おっ、落ち着いて! どうどう! 」


「義姉上、これは火薬を使った狼煙らしき物です! 視界が遮られている今、迂闊に動くのは危険です!! ケホッ、ケホッ! 」


「うにゃあああ!! 全然見えないのだー!! ゲホゲホ! 」


「ブキイイイイッ~!! 」


「クソッ……何処まで抜け目無いんだ、あん畜生めぇっ!! 黒風ッ、落ち着けッ! 落ちつくんだッ!! 」


「やぁ~~ん! 折角、髪の毛お手入れして、服も綺麗にしてきたのにぃ~~!! 尊娘々様の華々しい見せ場が台無しよ~! 」



 怨敵を討つべく、何とか前に進もうとする桃香であったが、暴れる馬を鎮めたり或いは煙で目と喉をやられてそれが出来ぬ所か、近くにいた愛紗に鈴々、そして一刀に楚々までもが彼女と同様の目に遭う。可也大量の火薬を仕込んでいたのだろうか、その黒煙は西涼勢の方まで覆ってしまい、琥珀を始めた将兵達も足止めを喰らってしまったのだ。


 暫く経ち、煙が晴れると混乱を収拾した彼等が目にした物は、煤で真っ黒けになってしまった仲間だけで、張闓達の姿はとうに消え失せていたのである。



「義姉上…… 」


「桃香お姉ちゃん…… 」


「桃香…… 」



 煙や煤ですっかり軍装や顔を黒くしてしまい、愛紗と鈴々に一刀の三人が桃香の傍にそれぞれ馬と猪を寄せると、当の彼女は懸命に涙を堪えつつ悔しさを顔に滲ませていた。



「……ウッ、クッ……あ、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、一刀さん……ごめんね。私が不甲斐無いばかりに、最後の最後で張闓達を見逃しちゃったよ……だけど、陽春老師達に結果を報告しないといけないし、怪我した人や死んだ人達も回収したいから…… 」


「あ、義姉上、無念ですっ……! 」


「うにゃああああっ! 滅茶苦茶悔しいのだー!! 」


「桃香…… 」



 涙をポロポロ零しながら、飽く迄も義勇軍の総大将としての責務を全うせんとする彼女の姿はとても痛々しく、手綱を握っていた左手からは血が滲んでくる有様だ。これには居た堪れず、一刀は黒風から降りると桃香の下へ歩み寄り、彼女を無理矢理馬から降ろして強引に抱き寄せる。



「……一刀さん…… 」


「もう良い、もう良いんだ。君は良くやったよ? だから少しの間だけで良い、俺に身を委ねてくれないか? 」


「一刀さん……一刀さんっ、一刀さんッ、一刀さんッ……アアアアアア~~ッ!! 」



 一刀の胸に己の身を委ね、桃香は泣き崩れた。鎧越しに伝わる彼女の涙の熱さに、一刀は更に桃香を強く抱くと片方の手で髪をそっと優しく撫でる。本当は一刀も悔し泣きたかったのだが、彼は唇を真一文字に結んで自分自身に強く言い聞かせていた。



(桃香が泣いている時は、俺まで泣いていては駄目だ! 桃香の涙は俺の涙なんだ。だから……だから、今は耐えろ一刀っ! お前は漢だろっ!? )



 この二人の悲痛な姿は周囲からの同情を誘い、運良く琥珀に会えた翠や蒲公英は母の豊満な左右の胸に抱きついて涙を流すと、他の恋姫達も彼女等と同様に涙を流す。そして、一心を始めとした漢達や雪蓮と琥珀は暖かげな視線を二人に送っており、その中でも琥珀こと馬寿成は一刀を頼もしそうに見やっていた。



「鷹那……一刀殿だけど、昨年会った時より更に漢らしくなったわね? 」


「はい、琥珀様……一刀殿の様な男子なら、益々当家の婿に相応しく存じます。一刀殿と翠姫様との間に生まれたお子なら、西涼馬家を更に盛り立てる事でしょう 」



 そう言って、琥珀は煤塗れになった顔を傍らの鷹那に向けると、同じく煤まみれの彼女も得心するかの様に頷いて見せる。



「悔しかったでしょう、蓮華? だけど、戦と言うのはこんな物だし、いつも順風満帆とは限らないわ? だから……今は思うだけ泣きなさい。 」


「ああ……雪蓮の言う通りだ。けどな、蓮華ちゃんは良くやったよ。義兄貴として、おいらは蓮華ちゃんを誇りに思うぜ? 」


「ね、姉様、お義兄様……こんなに悔しい気持ちは、あの黎陽の時以来ですッ!! ウッ、ウウウウウウウウウ……アアアアアアア~~ッ! 」



 今度は雪蓮と一心に慰められ、泣きじゃくる蓮華の方に目を向けると、琥珀はクスクスと笑い声を上げた。



「フフフ……前に送られてきた蒲公英からの文によれば、どうやら一刀殿は桃香ちゃんだけでなく、ウチの娘と蓮華ちゃんにまで『お手つき』をした様だし……かくなる上は、『江東の虎』と直談判する必要が出てきたわ 」



 そう呟く彼女の瞳には、何やら危険な色が浮かんでいるのが窺える。すかさず、鷹那が怪訝そうに眉を潜めた。



「琥珀様……『直談判』とは? まさか、孫文台相手に『力ずく』でやるお積りですかっ!? 」


「そうねぇ……まぁ、それでも別に構わないけどね? ねぇ、鷹那。私が知ってる孫文台と言う女は、野心家だし人材にも貪欲だわ。恐らくだけど、蓮華ちゃんと雪蓮を楯に取って一刀殿と一心殿や桃香ちゃんだけでなく、彼等ごと自身の掌中に収める事が考えられるのよ。そうなって来ると、桃香ちゃんにとって大きな妨げに成りかねないわ…… 」


「確かに……恐らくですが、雪蓮殿よりも母親の文台の方が油断ならぬ相手かと 」



 そう、鷹那が相槌を打つと、琥珀は諦め切ったかの様な苦笑いを浮かべて見せる。



「正直ね、私は一刀殿と翠の間に生まれた子供に馬家の家督を継がせようと考えていたの。それにね……翠はそのまま一刀殿の嫁に上げても良いかなって思っているわ? 」


「これは何と……この龐令明、琥珀様がここまで大胆なお考えをなさるとは思いもよりませんでした! 」


「何となくだけどね、どちらかと言えば、翠は私の様に家を纏めるのには不向きと思ってるの。それなら一層……桃香ちゃん達に武威を委ねても良いかしら? 」


「確かに……桃香殿には従兄の一心殿を始めとした智勇に優れた傑物が揃っておりますし、彼等が居れば西涼をより良き物にしてくれる事でしょう 」


「桃香ちゃんからは、高き徳を持った古の高祖と、智勇徳を兼ね備えた世祖を思わせる物が感じられる……。私はね、あの子達が何をするのか見てみたいの。それなら、持つべき物を持つ者に譲るのは当然の事ではなくって? 」


「フフフ……ですが、琥珀様。私は馬家の臣です。仮に琥珀様と翠姫様達が桃香殿の臣下になろうとも、私は琥珀様や姫様達の臣下で居る積りですから…… 」


「その言葉だけで満足よ、鷹那。……仮に私が世を去ろうとも、貴女は今まで通り翠達を支えて頂戴…… 」


「はっ、この龐令明、馬家に生涯変わらぬ忠節を尽くす所存 」



 改めて琥珀に忠誠を誓い、鷹那が拱手行礼を行うと琥珀は満足そうに目を細め、そして……未だに泣きじゃくる長女にジトッと半目を向けた。



「全く……何時までも泣いていないで、早いとこ一刀殿と『有初』になってくれないかしら? そんなんじゃ、何時まで経っても桃香ちゃんと蓮華ちゃんに出し抜かれたままよ? 」



 そうぼやく琥珀であったが、翠の方は泣く事に夢中で、全然聞こえていなかったのである。そして……鷹那の予想通り、『西涼の狼』と『江東の虎』の対決は数日後に実現する事となってしまったのだ。



――十七――



 ――そこから約半刻(一時間)後、陽翟郊外のとある街道にて――



 黄巾との戦いが始まる直前、佑達は偵察任務を華琳に願い出ており、彼女から許可を貰うと、早速彼等は陽翟近郊の偵察に出発する。その理由であるが、先日の長社の件と奇頓の件で少し気拙くなっていた華琳たち首脳陣へのご機嫌伺いであった。


 最終決戦は上のお歴々にお任せし、自分達は華琳様が安心して戦えるよう偵察の任に赴かせて下さいと、しおらしい態度をとって見せたのである。



「デカケツゥ、獲ったどー…… 」


「はぁ……佑様、これ以上はもうお控えあそばせませ 」


「隊長……そのボヤキ、これでもう十二回目ですよ? 」


「せやー……はー、何や戦っとらんのに、妙に疲れるで? 」


「うー……隊長の言いたい事も判るのー! こんな『ケツデカババア』、ゴミでポイしていいのー! 」



 愛馬馬倫哥(マレンゴ)に跨り、隣にある物をチラリと見やって馬上の佑がそうぼやいていると、それに仙蓼と三羽烏がぼやき返す。そんな彼等に、最近佑の臣下になった奇頓(きぃとん)こと劉子揚が苦笑いを浮かべた。



「ははっ、まぁ、しょうがないよ? まさか、偵察の途中でこんなのを拾っちゃったんだからね? 」


「う~~ん、妾を誰だと思うておる~大将軍何遂高(何進の字)であるぞ~ 」



 そう言って奇頓が佑の隣に目を向けると、何と、そこには『厚化粧肉屋大将軍 慎候 何遂高閣下』が馬に括り付けられていたのである。彼女は完全に気を失っており、顔や体はあちらこちら擦り傷や引っかき傷だらけで、極めつけは全裸であった。


 

 さて、何故彼等が何進を保護しているのかと言うと、これには複雑な経緯がある。あの後、無様に敵前逃亡を行った何進であるが、悲惨な事に部下から見捨てられて落馬してしまったのだ。馬を失い、彼女は付近の森を彷徨うが、更なる災難に襲われる。


 何と、行き成り熊や猪、狐と狸に猿と虎、オマケに『食物来了(シーウーライラ)(食い物が来たぞ)』と書かれた立て札を持った大熊猫等の『森のどうぶつたち』からたくさん癒されて(・・・・)しまったのだ。



「じょっ、冗談ではないっ! 幾ら妾が肉を売っていたとは言え、畜生どもに喰われるのは真っ平御免じゃ! 」



 そう叫ぶと、彼女は彼等からの熱烈な歓迎から抜け出して一目散に逃げ出したのだが、その際彼等の爪や牙にあちらこちらの藪や木の枝に衣服を全て破かれてしまうと、遂には生まれたままのお姿で街道に駆け出していったのだ。もし、仮にこの場に助平な一心達四兄弟が居合わせたとしても、彼等は即座に回れ右していたに違いない。


 やがて、運良く付近に居合わせていた及川隊と遭遇するが、既に彼女は完全に錯乱しており、佑達が懸命に宥めても言う事を聞かなかった。



「ええいっ、面倒や! 凪ッ、ワイが許す! この『ケツデカババア』いてもうたれ! 」


「はい、隊長! 」



 これ以上はやり切れんと、遂に痺れを切らした佑に言われ、凪は容赦なく拳を『大将軍様』の腹に叩き込み、彼女を完全に沈黙させたのである。然し、黙らせた彼女の顔を見た瞬間、仙蓼が驚きの声を上げた。何故ならば、彼女の母は都仕えをしており、その母親経由で何進の顔を見知っていたからである。



「佑様……これは大将軍何進です! 以前母と共に宮廷内で見掛けた事があります 」


「はぁ? 何で年増の大将軍はんがこんなトコにおるん? 若しかして、エエ年こいて野外露出プレイでもしてたんか? 」


「いえ、流石にそれは無いかと。然し、このまま放置して置くのも何ですし、引き返した方が宜しいでしょう 」


「……せやな。まぁ、エエ気分転換になったし、そろそろドンパチも終わっとるかも知れへん。ほな、今日はこれ位にしとくわ 」



 流石に放置しておくのは拙いと判断すると、已む無く佑達は偵察任務を切り上げ、華琳の所へ戻ろうと帰途に着く事にした。その道中、暴れられたら面倒と何進は馬に括り付けられてぞんざいに扱われ、薄情な事に誰も彼女に服や布を掛けようとはしなかったのである。


 それに付け加え、女である仙蓼達もそうだが、中年男の奇頓や兵士達も何進のでかい尻なぞ見たくも無かったので、ここは一つ、『我等が眼鏡隊長』に何進閣下の『ご尊顔』ならぬ『ご尊尻』を拝して頂こうと言う結論に至ったのだ。


 かくして、『素晴らしい部下達』の配慮により、佑は剥き出しになった『ご尊尻』を前に向けた大将軍閣下と『轡を並べる』栄誉を与えられたのである。



「フゥ~~! 一体何があったか知らんけど、まっ、この『デカケツ』見とったら何となく判るわ。大方黄巾にボロ負けして逃げて来たんとちゃうかー? 」



 『ご尊尻』に軽蔑と言う名の尊敬の眼差しを送り、それをペチンと叩いてみせると、佑は一人ぼやいてみせた。



「クスクスクス……そうですね? 多分ですが、間違いないでしょう。何進は妹のお零れに肖っただけの大将軍にしか過ぎませんから 」


「ははは……確かに君達の言う通りだね? 仮に、私が彼女なら下手に口を挟まず、寧ろ皇甫将軍達に一任するね? その方がもっと早く終わらせられたと思うよ? 」



 相槌を打つかの様に、仙蓼と奇頓がそれぞれ意見を述べるが、突如前方から地響きと共に立ち上がる土煙が見える。暢気な空気から一変し、佑は大声を上げた。



「全軍注意せよッ! 直ぐに応対できる様、警戒を怠るなっ!! 」



 彼の命令に及川隊全員は一斉に頷くと、目を皿の様にして前方を見やる。すると、土煙の中から二つの騎影と馬車らしき物が見えてきた。



「どけえええええいっ! どかないと轢き殺すぞっ!! 」


「あれは……馬車か? 」



 馬車らしき物から聞こえてきた怒鳴り声に、佑が怪訝そうに眉を潜めると、突然仙蓼が彼に呼びかけ、その佑も声を大にして全員に呼びかける。



「佑様ッ! あの馬車、動きがとても不自然です! どうやら車軸が折れているようで御座います! 転倒すれば巻き添えを受けるやもしれませんっ! 」


「全員ッ! 馬車の転がる方と逆に逃げるんや! 早うせぇ!! 」


「「「「さーいえっさー!! 」」」」



 仙蓼の予想は当たっていた。暴走していた馬車の車軸が折れると、それは物凄い音を立てて転倒し始める。及川隊は、全員言われた通りに退避し、間一髪難を逃れた。



「ウッ、ウワアアアアアアアアッ!? 」


「ウワアアアアアアアアッ!! 」


「ギャアアアアアアアッ!! 」



 転がったそれは、傍に居た二人の馬に乗った者も巻き込み、遂には街道脇の森林に激突する。そして、街道を挟んでそこと真向かいの森林からひょっこりと佑達が姿を現した。



「一体何なんや……まっ、それよりも現場検証せなアカンな? 生きとる可能性もあるし。凪、真桜、沙和。何人か引き連れてワイと一緒に来てや 」


「はっ! 」


「了解したでー 」


「さーいえっさーなの! 」



 佑に言われ、三羽烏は数名の兵を引き連れ彼と共にそこに行くと、彼等は早速事故現場を調べ始める。すると、突然凪が大声を上げた。



「隊長! こっちに来て下さい! 女性が三名倒れてますっ! 何れも息があるようです! 」


「おーう、判ったー 」



 彼女に言われるままに佑がそこに行くと、彼の目前には自分と同年代か、やや年少と思われる三人の娘達が倒れていた。何れも露出の多い服を着ていたが、この時佑は妙な違和感を覚える。



「……この三人、何やお揃いの服着とるなぁ? オマケにどっか浮世離れした感じがするし……んんっ? この三人、みーんな『黄巾』巻いとるやんけっ! 」


「なっ……確かに言われてみれば……! 」



 佑の言葉に驚くと、凪も彼女等をじっと見詰める。彼の言う事は的中していた。一番発育の良い娘は頭に、小柄な娘は右腕、眼鏡を掛けた娘は胸に黄巾を着けていたのである。



「隊長! こっちは男が三人なのー! 右目潰されたり、骨折ったらしいのいるけど、まだ息があるのー! 後、三人ともチ◎コは皮被ってたのー! 」


「あ゛~男はほっとけー……ちゅうのは嘘や。一応応急処置でもしときや 」


「判ったなのー! お前達ー、この三人の皮被りに応急処置でもしとけなのー! 」


「さーいえっさー 」



 沙和に対しやや投げやりっぽく応じると、今度は真桜の声が飛んできた。



「おーい、隊長! 」


「んっ? 今度は真桜か、一体何やねん? 」


「何や、書物見たいなのがあるで? 」



 少しばかりの引っ掛かりを覚えたのか、佑は眉をピクリと動かす。



「書物か……タイトル……題名は何や? 読んでみ 」


「ほな、読むで? えーと、太平、『太平清領書』と書かれてるわ 」


「何やとぉ……? 」



 真桜が読み上げたその名前に、佑は灰色の脳細胞を活発に動かし始める。すると、先日再会した一刀との事が脳裏を過ぎり、その彼から昔貸して貰ったゲームを思い出し始めた。



(そう言えば……かずピーから借りた『三国ホニャララ』とか言うゲームに、『太平ナントカの書』ってアイテムあったなぁ? 知力とか政治にプラス修正したり、『妖術』の特技言うオマケあった様なっ……! )



 そこまで思い出すと、ふと佑の脳裏に強烈な閃光がほとばしる。彼は目の前に倒れている三人の娘と、真桜から告げられた『太平清領書』と言う名前に、組み合わせを始めていたのだ。



(ゲームの『太平ナントカ』は『妖術』使えた訳や、目の前の三人の娘は黄巾着けとるし、カッコも黄巾の信者とちょぉ違う。確か、黄巾党の首謀者は『張角』、『張宝』、『張梁』の三人やったな?


 例えば、『妖術使える太平ナントカ』+『黄巾着けた普通じゃないカッコの三人娘』+『黄巾の首謀者は三人』だとしたら……まさかっ!! )



 どうやら、組み合わせの答えが出たようである。大げさに深呼吸してみせると、佑はゆっくりと後ろを振り向き、仙蓼に呼びかけた。



「なぁ、仙蓼……どうやら、ワイ等トンでもないモン拾うたようやで? 悪いけど、凪達連れて大至急孟徳はん呼んで来てくれへんか? 下手をすると、ワイ等だけでは対処しきれん問題やねん…… 」


「畏まりました…… 」



 恐らく、彼の表情から何かを読み取ったのであろう。早速彼女は三羽烏を従えると、馬を飛ばし陽翟の華琳の元に向かった。そこから一刻ほど経過した後、秋蘭と稟に風を伴い、華琳がこの場に到着する。



「佑、一体何なのかしら? 後始末で忙しいと言うのに、貴方が絶対に連れて来いと言うから、已む無く春蘭と桂花の謹慎を解く羽目になってしまったのよ? 」


「華琳様、恐らく及川が何か重大な物を見つけたのでしょう。愚痴はその後でも宜しいかと 」


「ええ、こんな時にわざわざ『天の御遣い』殿が火急の報せと言ってきたのです。馬鹿馬鹿しい報せではないと思いますが? 」


「そですねー? 秋蘭ちゃんと稟ちゃんの言う通りだと風は思うのですよー? 先ずはお兄さんの話を聞いてみましょー 」


「どうも、えろうすんまへん。ですが、華琳はんっ! これはワイでは始末に負えんと思うたんで、わざわざお越し願ったんですー! 」


「……まぁ、良いわ。それでは、貴方の話を聞こうじゃないの? 」



 不機嫌そうに顔を顰める華琳であったが、冷静な三人に窘められ、更に佑からも申し訳なさそうに頭を下げられると、流石に彼女も気を取り直す。



「はいー、実は…… 」


「んっ? あっ、アレは何なの? どう見ても……『お尻』にしか見えないんだけど? 」


「確かに、尻ですね……? それも可也大きいし、ややたるみ(・・・)があるような? 」


「尻……及川殿、まさか火急の報せとはあの『尻』なのですか? 」


「ふぇーこれは見事な『デカケツ』ですよねー? 」


「だな、風よ。これだけでけぇケツなら、さぞかしでかい屁でもこきそうだぜ? 」



 佑が話を切り出そうとするが、行き成り華琳が口を挟んできた。何故ならば、彼女等の視界に『ご尊尻』が映ったからである。すっかり、尻の持ち主の事を頭の中から消していた事に気付くと、佑はその持ち主の名をボソッと言った。



「あ、あれは何大将軍閣下ですー。偵察の途中スッポンポンで街道に飛び出してきたんで、ワイ等が保護しましたー 」


「ちょっ……プフッ……あっ、アレが何進ですってぇ!? じょっ、冗談ではないのよねえっ!? 」


「プッ……ククッ……アレが何進だと? 然し、本当にでかい尻だな……クククッ……! 」


「ぷぷぷ……本当に『デカケツ』ですよねー? 風の小さいお尻の何倍の大きさなんでしょー? 」


「オイオイ……『都のケツデカババア』の噂は聞いてたが、まさかあそこまででかいとは思わなかったぜ? 」


「アッハッハッハ、アーハッハッハッハ!! 」



 『ご尊尻』の持ち主たる意外な人物の名を聞かされると、華琳達はそれぞれ笑いを噛み殺していたのだが、堪え切れなかったのか稟だけは大爆笑をする有様。暫くして、笑いが収まるのを確認すると、佑は先程の『太平清領書』を華琳に手渡す。



「笑いが収まったトコで、華琳はん。これを見て欲しいのです。実はこれ、先程突っ込んできた馬車の中から見つけたんですわ 」


「こっ、これって……まさか、こんな所で出てくるなんて……! 」


「かっ、華琳様っ、これはっ……!! 」


「おや? これは書物ですねー? 『太平清領書』……どこかで聞いたような? 」


「『太平清領書』……まさかっ!? 間違いありません、風、それは『古の禁書』ですよ!? 」



 華琳にとって『悩みの種』の一つであった『太平清領書』、又の名を『太平要術の書』が、約一年の時を経て再び彼女の元へと戻ってきた。そして、彼女は一つ深呼吸し、未だに動揺する秋蘭達を他所に佑の傍に歩み寄ると、彼女はゆっくりと語り始める。



「佑――実を言うとね、この書は元々私が入手した物だったの。だけど、昨年城で火事があったのを覚えてるわよね? その時、何者かに盗まれてしまったのよ…… 」


「成る程……道理であの時の華琳はん、やたらとイライラしとるなと思うとったら、そういう訳があったんですか 」


「佑、悪いけど、事の仔細を詳しく説明して貰えるかしら? 」


「はいー、ほな、これから説明しますわー 」



 華琳に促され、佑は先程起こった出来事と自分が立てた推論を包み隠さずに説明した。彼の話を聞く内に、華琳の両目には危険な光が宿り始めるのが窺える。



「成る程ね……多分、あの三人の娘は張角達で間違いないと思うわ。それとは別に……こちらの男達は何だか臭うわね? 秋蘭! 」


「はっ! 」


「直ぐに引き返すわよ? そして、この者達を洗いざらい吐かせなさい! 特に、男達の方は拷問を行っても構わないわ! 」


「御意っ! 」


「それにしても私達はツイてるわね? 『太平要術の書』は取り戻せたし、大将軍を保護しただけでなく、黄巾の首謀者を捕らえられたのだから? 」


「多分ですが……これも華琳様が及川と言う『天の御遣い』を得た事による天佑で御座いましょう 」



 すっかり上機嫌になった華琳に、秋蘭がそっと言葉を返すと、彼女は軽く頷き佑の傍に歩み寄る。そして――歳不相応の妖しさを秘めた笑みを彼に向けた。



「フフフ、最初は『只の道化』にしか思っていなかったけど、どうやら『天の御遣い』に見合うだけの天佑を享けているみたいね? 偶然が重なったとは言え、今回の戦いにおける真の勲一等は他ならぬ貴方よ? 何れ、然るべき形で報いてあげるわ、だからこれからも私の傍に居なさい…… 」


「へいっ、喜んでー! 」


(まだや、まだ……これはワイが伸し上がる為の準備運動にしか過ぎひんっ! 及川佑……お前は『天の御遣い』なんや! ワイが『天の御遣い』になるまで、まだまだ時間が必要なんやっ! )



 強制を命ずる彼女の言葉に、満面の笑みで佑は拱手行礼で跪く物の、この時彼の胸中には凄まじい炎が燃え盛っていたのである。



――十八――



 明くる早朝、陽翟は騒然となった。何と、敵前逃亡した大将軍何進が曹操に保護され、付け加えて黄巾党の首謀者たる『張角』、『張宝』、『張梁』の三人を捕らえたというのである。この報せに各陣営は色めき立つと、主な面々は早速曹操の陣へと殺到した。



「みっ、皆の者、此度は大儀であった……黄巾どもに不覚を取ってしまった妾であったが、どうやら妾の代わりに馬騰や盧植らが奮戦してくれただけでなく、他の皆も死に物狂いで戦ったと聞かされている。この何遂高、皆に改めて礼を申すぞ? 」



 華琳の本陣の天幕にて、服を与えられた何進が華琳を隣に従えて座に腰掛けていた物の、彼女からは先日の傲慢さが微塵も感じられず、精一杯の虚勢を張っている様にも思えた。



「何閣下、ご無事で何よりで御座います。然るに閣下に申し上げる、張角どもを捕えたと言うのは真の事で御座いましょうや? 」



 諸将を代表し、皇甫嵩が尋ねるて来ると、何進は隣に控える華琳を窺う。



「それに関してじゃが……そ、曹操、お前が説明せよ。張角を捕えたと言うのは、他ならぬお前なのじゃからな? 」


「御意 」



 涼やかな声でそう答えると、華琳は未だに合点がつかぬ表情の諸将に説明を始めた。大方は昨日佑が話した通りだったが、この時彼女は『張角等三人の男』との脚色を交えていたのである。華琳が説明を終えると、何進は諸将にとある事を告げた。



「本日の正午に、張角、張宝、張梁の処刑を市中にて行う! 数日の間彼奴等を晒し首にした後に、都へ凱旋するぞ! 無論、卿等も同行せよ。帝から労いの言葉を掛けて頂く様、妾から陳情しておくからのう 」



 そこまで言うと、『ケツデカババア』は華琳の兵にその身を支えられ、休むべくこの場を退散する。その際、彼女は『肉にされるのは御免じゃ~!』とか『畜生は真っ平なのじゃ~!』等と喚き散らしていた。


 そしてその正午、城下町の市中に於いて予定通り黄巾党の首魁たる『張角』、『張宝』、『張梁』の処刑が決行される。周囲には沢山の人垣が出来ていたが、その中には陽春や菖蒲の付き添いで来た桃香達『楼桑村義勇軍』の主な面々の姿があった。


 未だに不安げな表情の桃香に、一刀や義妹の愛紗や鈴々だけでなく、兄一心等も心配そうに彼女を窺っていたが、刑場の中に張角らしき者達が入ってきた瞬間、思わず彼等は息を呑む。



「桃香、あれはまさか……! 」


「うっ、うんっ。ちょ、張闓、それと孫仲に高昇だよ、一刀さんっ! でも、何で!? 張角達は別に居るんじゃなかったのっ!? 」



 何と、『黄巾党の首謀者』としてこれから刑を受ける者達とは、張闓、孫仲、高昇の三悪童だったのだ。彼等の体には、何れも凄惨な傷痕がびっしりと刻まれており、可也過酷な責め苦を受けていた物と思われる。


 この意外な出来事に桃香達だけでなく、事情を知っていた陽春や菖蒲達からもどよめきが起こり始めるが、すぐさま劉家筆頭軍師たる照世が言葉を発した。



「皆様方、どうかお静かに……。恐らくですが、どうやら彼奴等は『替え玉』にされたと思われます。この照世も事の詳細は掴めておりませぬが、我欲に任せて黄巾党を操っていた彼奴等には最も相応しき最期で御座いましょう……。ここは悪戯に騒がず、先ずは彼奴等の最期を見届けるべきかと存じますが? 」


「だな、俺も照世と同意見だ。あいつ等を捕えたと言うのは曹操だと聞かされてるが、その曹操に聞かない限り事の仔細は判らないだろうよ。もしかすると、既にモノホンの張角達は死んでいて、諸将を納得させる為に『犯人』としてでっち上げられた可能性もあるしな? 」


「ええ、二人の言う通りです。この私も腑に落ちぬ点は多々あります……ですが、これだけは確かに言えます。あの三人の悪童は、大悪党として裁かれるべきでしょう。彼奴等のした事は、人として到底許される物ではありません 」



 慧眼の友に続く形で、次席軍師喜楽、三席軍師の道信が言うと、あれだけざわめいていた一同が一斉に静かになったのである。そこから少しして、体調を崩した何進から代理を命ぜられた華琳が、腰掛けていた座からすっくと立ち上がると、彼女は声高に声を張り上げた。



「では、これより黄巾の首謀者である『張角』、『張宝』、『張梁』の処刑を執り行う! 獄吏、こやつ等を執行人の前に引っ立てい! 」



 屈強な獄吏に取り押さえられたまま、張闓達三人が執行人の前に引き摺られるが、その際彼等は華琳目がけ見苦しく喚き散らす。



「畜生! 全て白状したじゃねぇかよ! 何で、俺達がこんな目に遭わなくっちゃいけねぇんだよ!! オマケに美味しいとこ全部テメエに持ってかれるなんて、納得行かねぇぞ曹操ォ!! 」


「たっ、頼む、頼むよ! 何でもする、だから見逃してくれぇ!! 」


「ヒイッ、死、死ぬのは嫌だぁ!! 」



 この期に及んで醜態を曝け出す三悪童であったが、そんな彼等に華琳は侮蔑的に見下して見せた。



「良かったじゃない? これまで黄巾党を操って散々良い目を見ていたのでしょう? それに、私は貴方達の希望を叶えてあげただけ……ならば、『本物の黄巾の首魁』としての最期を迎えるのも、当然ではないのかしら? クスクスクス…… 」



 口元に手を添えて、わざとらしく彼女が含み笑いをしてみせると、更にもがき始める張闓達であったが、彼等の前におぼろげな人影が浮かび上がる。それは、以前張闓達を治療した干吉(かんきつ)であった。


 どうやら、張闓達以外には見えていないのであろう、華琳も他の者達も全くの無反応であった。思わぬ出来事に三人が呆然となっていると、干吉は冷たい笑みを浮かべる。



『おっ、お前は……干吉! 』


『なっ、何でここに居るんだよ!? 』


『何だよ、テメェも俺達を笑いに来たのかっ!? 』


『以前言ったではありませんか……『悪しき事に使えば天罰が下りる』とね? ですが、貴方達は人の忠告を全く聞かなかった様で……さぁ、既に泰山地獄では東嶽大帝様が大喜びでお待ちかねです。後は大人しく死出の旅路を逝かれるが良いでしょう…… 』


『ヒイッ、いっ、嫌だ! 泰山地獄に逝くのは嫌だぁ!! 』


『俺達が悪かった! だから助けてくれ!! 』


『ああああああああっ!! 畜生、こうなったのも張闓、みんなてめぇの所為だぁっ!! 』



 冷たく突き放すかの様な彼の物言いに、三悪童の顔には絶望の色が広がると、やがて干吉の姿が消え始め、彼は去り際にこういい残した。



『そうそう、あなた方と言う尊い犠牲で、哀れな三人の娘達は命を拾う事が出来ましたよ? まぁ、彼女等も残りの人生を贖罪に費やす事となるでしょうがね? さて、そのお礼と言ってはなんですが、私の本当の名を教えて差し上げましょう……『于吉(うきつ)』、これが私の本当の名です。それでは、ごきげんよう。フフフフフフフ…… 』



 『干吉』こと『于吉』が完全にその場から居なくなると、遂に張闓達は大きな首斬り刀を携えた執行人の前に引き出された。



「嫌だぁああ!! 俺はまだまだ死にたくないんだぁ! 誰でもいい、俺を助けてくれぇ!! 」


「畜生! 張闓、お前の話に乗った俺が馬鹿だった! 放せっ、放せってんだよ!  」


「クソッ、クソッ、クソクソクソクソクソッ!! 何でこうなっちまったんだよぉ! 」



 最期の最期で見苦しく泣き喚く三悪童であったが、そんな彼等に華琳はたった一言を単純明快に叫ぶ。



「斬れっ!! 」



 次の瞬間――張闓、孫仲、高昇の三人は、首だけの姿で蒼天を大いに仰ぎ見たのである。その光景に周囲の者は言葉を失い、桃香は一刀に寄りかかると、帷子(かたびら)で覆われていた彼の左腕を強く掴んだ。



「桃香…… 」


「本当に、本当にこれで終わったのかな……? 」


「……それに答える事は出来ないよ。だけど確かなのは……張闓達は泰山地獄に逝ったと言う事だけさ 」



 そう返す一刀であったが、彼もまた地面に転がった三悪童の首に、何とも言えぬもどかしさを感じていたのである。


 その後、華琳は何進の代理と言う権限を最大限に活かすと、張闓を張角、孫仲を張宝、高昇を張梁として、彼等の首を市中に晒した。それからという物、彼等の首目掛け唾や石を投げつける者が後を絶たなかったと、後世の記録に残されている。


 かくして、約一年近くに及んだ黄巾党の事件は終結し、後に『黄巾の乱』と呼ばれるようになった。然し、この事件の真相を知るのは華琳を始めとした、曹家のごく一部の者のみだけだったのである。




※6:台車に折り畳み式の長梯子を取り付けた攻城兵器。


※7:古代から中国で親しまれていた遊びの一つで、室内の中央に置いた壺の口を目掛け、矢を投げあう。


  『つぼうち』とも呼ばれており、四書五経の一つである『礼記』には紀元前五百年前に遊ばれていた事が記載されている。


  奈良時代に日本に伝来し、江戸時代中期に作られた『投扇興(とうせんきょう)』(扇を投げて台に乗せた的を落とす遊び)のルーツになったとも。


※8:投壺の役の一つ。最初に投げた矢が、そのまま壺の中に入る事。


※9:この頃、愛紗は十七歳の誕生日を迎えていた。


※10:大刀の一種。青龍偃月刀や大刀より細身である。


※11:金属の棒に節を入れたしならぬ鞭で、打撃武器として用いられている。


※12:又の名を鉄疾黎骨朶(てつしつれいこつだ)。金属製の土台の上に無数の棘をつけた打撃武器。


※13:木製、或いは鉄製の打撃武器で、長い物は『長拐(ちょうかい)』と呼ばれ、トンファーのルーツになった。

 ここまで読んで頂き、真に有難う御座います。


 さて、今回の話で『黄巾の乱』自体は終結を迎えました。本音を言うと今の私は正に『精根使い果たした』状態ですね~! 何せ、第一部最終話書くときよりエネルギー使いましたから。


 流石に、今回は疲れてるので後書きはサラッとにしますけど、話の中身は自分なりに『直球と変化球』、そして『緩急』を織り交ぜられたかなと思ってます。


 あ、一部敵兵の悲鳴に『お遊び』入れてますが、あん時は『徹夜でハイ』になってた時にやっちゃいました。正統派小説書いてる訳でもないし、まっいいかとか思ったりして。(苦笑


 他にもアニメ版を元ネタにしたり、或いはご本家の『三国志演義』のエピソードを入れたり、他にも文面のみですが平家物語の『扇の的』ネタを入れたりと、色んなモンを詰め込んだ積りです。


 今回、オリキャラで登場した黄権こと『霧花』さんなのですが、これは高島智明様の作品『恋姫無双演義』と『恋姫無双演義~黄権伝~』に登場しております。


 昨年、高島様に使用の許可を願った所、快諾を頂きましたので今回有り難く使わせてもらいました。高島智明様、本当に有難う御座いました!


 次に尊娘々こと楚々、即ち光武帝の功臣で『雲台二十八将』の一人祭遵が『大風歌』に乗せて術を使ったシーンですが、あれは家康像様の『恋姫†先史 光武帝紀』のエピソード『祭遵外伝 其の一』で、民衆の心を炊きつけるべく彼女が『大風歌』を歌ったのをヒントにさせてもらいました。


 家康像様、本当に感謝です! 貴方と貴方の作品がなかったら、ここまで満足のいくシーンは描けませんでした!!


 そして、西涼馬家の琥珀さんや鷹那さんと言う虎の子を使わせて頂くのを快諾して下さった山の上の人様にも改めて御礼を言いたいです。何故なら、琥珀さんが居なければ、桃香達と翠の繋がりをここまで色濃くは描けなかったと思いますから。


 今回、かなーり長ったらしいんで、感想を書くのも大変だと思いますから、書いて下さる方が居れば簡潔で構いません!


 毎回、私の冗長な作品に付き合って下さるだけでも、嬉しい限りですんで。


 さて、今回で張闓達には退場してもらいましたが、この後どうなるか? 後日談の話を書き終えてから、第二部を締めくくろうと思ってます。


 今日は流石に疲れた……午後は街に出かけるかな?


 それでは、また~! 不識庵・裏でした~! 今年も宜しくお願いしま~す! 

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