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真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第二部「黄巾討伐編」
30/62

第二十八話「黄巾落日『後編』其の一 慙愧の涙」

 どうも、不識庵・裏です。今回の更新に至り、一月以上も開かせてしまった事を深くお詫び致します。


 年末に入り、仕事の量が激増してしまって帰宅しても集中して書けなかった事、休みが日曜のみだった事が重なり、自分らしくお話が書ける状態ではありませんでした。


 それに付け加え、仕事関連でトラブルが発生してしまい、心身穏やかならぬ日々を過ごす始末。正に泣きっ面に蜂で御座いました……。


 今回の「黄巾落日『後編』」ですが、二部形式で掲載したく思います。これに関しては、文字数が足らなくなったのが原因です。


 元は一本の話で投稿しようと思ったんですが、段々残り文字数が不安になってきたので、これは無理だと判断し、寧ろ二つに分けてしまえと思いました。


 また、拙作は山の上の人様の『西涼に落ちた天の御遣い』と、家康像様の『恋姫†先史 光武帝紀』のキャラ設定と世界観をお借りいたしておりますので、是非ともそちらの方も読まれる事をお勧めいたします。


 それでは、照烈異聞録第二十八話。最後まで読んで頂ければ嬉しく思います。



――序――



 帝都雒陽。現在、帝座に就くは今上帝劉宏であり、その彼の前で一組の男女が拱手行礼で傅いていた。一人は六十手前の初老の男性、もう一人は十七、八位のうら若き娘である。


 今年齢三十四を迎えた劉宏であるが、虚弱そうな色白の肥満体で、かの光武帝の孫である章帝の玄孫に当たる人物であったが、血筋らしき物が微塵も感じられない暗愚な男だ。


 桓帝と諡され『党錮の禁』を行った先代の劉志に子が無かった為、先帝と同じ河間王家の出自であった彼は当時数え十三歳で、先帝の皇后竇氏(とうし)に当時の大将軍竇武(とうぶ)並びに当時太尉の陳蕃(ちんはん)の三人に擁立されると、光武帝から数えて十二代目の皇帝に即位したのである。


 然し、先代の桓帝から既に宦官勢力が朝廷を牛耳っており、劉宏本人は早速彼らの傀儡と化すと内外の声に一切耳を傾けぬ所か、もっぱら淫楽の日々を過ごしていた。その彼が如何にも『面倒臭げ』な顔で、酒精塗れの息を吐きながら言葉を発する。



「劉益州、此度は態々大儀である。で――今日は一体朕に何用ぞ? 態々益州の様な険しき地より参った所を見ると、余程の事なのであろう? 」



 そう言われ、劉宏に『劉益州』と呼ばれた初老の男は面を上げる。この男であるが、姓を劉、名を(えん)、字を君郎(くんろう)と言い現在齢五十八。前漢の景帝の第四子魯恭王劉余の末裔に当たり、役職は軍事権を持たぬ『益州刺史』だが、事実上の益州の支配者である。


 一見すれば、厳格な初老の男性の君郎だが、それとは裏腹に可也腹黒く且つ巨大な野心を持つ人物であった。彼の前の刺史は郤倹(げきけん)であったが、彼は失政を繰り返してしまい、その結果益州では馬相なる賊徒が益州各地で反乱を起こす。これを鎮圧すべく、当時太常(たいじょう)の職に就いていた劉君郎がその任を命ぜられる事となった。


 益州に入った彼は、郤倹の部下で当時兵を率いて反乱軍と戦っていた従事の一人である賈龍(かりょう)の協力を得ると、瞬く間に反乱を鎮圧させた。その後、郤倹は更迭され、君郎はその後任に就いたのである。


 刺史の任に就いてからと言う物、彼は傲慢な振る舞いを始め、贅沢な暮らしをするようになり始めるが、これに当初の協力者であった賈龍を始めとした多数の者から反感を買ってしまった。そして、共に叛乱を鎮圧した彼等から新たに謀反を起されてしまうが、これをも鎮圧してしまうと、益州を完全に掌握したのである。



「主上に置かれましては、相次ぐ黄巾どもの反乱で、さぞお心をお痛めなされているかと存じ上げ奉りまする。然るに、この君郎。主上と同じ劉姓を持つ者として、この漢に再び古の光武皇帝の如き威容を取り戻すべく参上致しました次第にて御座いまする 」



 この老獪なる彼の言葉に興味を示したのか、劉宏は大きく目を見開かせると、座から身を乗り出してきた。



「おおっ、この漢に偉大なる※1世祖(せいそ)の如き威容を取り戻すとなっ!? 劉益州よ、朕はそちの話をもっと詳しく聞きたいぞ? 」



 外見とは似合わず妙に甲高い劉宏の声に、顔を俯かせたままで君郎は思わず口元を吊り上げる。これを見るからに、先程の彼の発言はどう見ても本心とは程遠いものに思えた。



「はい、今回の張角なる僭称者どもの反乱に付け加え、五年前に勃発した涼州の乱、更に臣自らが鎮圧いたしました益州の乱と、何れも州を監視する刺史と郡を任されている太守との連携がなっていない為にその傷口を広めてしまい、現に今の黄巾どもの反乱もそれを体現しておりまする 」


「ふうむ、言われて見れば確かにそちの申すとおりだのう? 」



 肉の厚い顎に手をやり、劉宏が深く頷いてみせると、ここで畳み掛けるが如く、面を上げて君郎は目をカッと見開き言い放つ。



「然るに、臣は思うのです。従来、刺史には軍事権と行政権を許されては居りませんが、ここは一つ嘗て存在した『州牧』の役職を復活させるべきだと。


 この漢全土十三州に優れた臣を置き、州全体の軍事及び行政権を持たせるべきだと。そして、各郡を任された太守を統括させ、それにより各州の力を増強させるのです。


 さすれば、十三の忠臣達が漢の威光を民草に広め、任地より帝をお守り致しましょう……愚見やも知れませぬが、これこそがこの君郎の考えにて御座いまする 」


「おおっ……流石は若年の頃より俊英の誉れ高き益州だけはある……朕には思いもつかなかったぞ? 」


「それで御座いますが、※2『先ずは隗より始めよ』と故人も申しておりまする。僭越ながら、益州はこの君郎めにそのままお任せ頂きたく願い奉りまする 」


「うむっ、朕は早速そちの献策を取り入れるし、無論そちをそのまま益州牧に命ずるぞ! これっ、張譲、張譲はおらぬかっ!? 」



 口から唾を飛ばしながら、劉宏が何れかを見やって喚き散らしていると、物陰から一人の小柄な男が姿を現した。一見美少年のような容貌の持ち主であるが、彼こそが劉宏に『我が父』と呼ばれた中常侍筆頭の張譲である。



「お呼びで御座いましょうか、帝? 」


「おおっ、流石は張譲じゃ。朕の呼びかけに直ぐ応じてくれるとはな? 」


「ははっ、この張譲。帝とは一心同体の積りでおりまする。故に、帝の玉声に直ぐ応じられますよう、お傍に控えるのは至極当然の事 」



 不敵な笑みと共に答えるこの年齢不詳の宦官に、劉宏は益々相好を崩して見せた。



「張譲、この劉益州が申した『州牧』の話であるが、そちも聞いておったか? 」


「はい、流石は慧眼を以って知られた益州殿だけあります、臣も思わず唸ってしまいました。そこでですが帝、益州殿のご提案。これ程の物であれば、三公を始めとした臣下達との協議は無用で御座いましょう。然るに、直ちに勅令を出された方が肝要と思いまする 」


「よしっ! ならば、そちの申す通り早速勅令を出すぞ! 本日より『州刺史』を『州牧』に名称を変え、軍事は言うに及ばず行政面での権限も増強させよっ! この漢に、再び世祖の如き威容を取り戻すのじゃっ! 」


「ははっ、畏まりました。全て帝のお心のままに…… 」



 正に即断即決であった。本来ならば、国の大事を司る三公(司徒、司空、太尉)を始めとした臣下達で協議するのだが、行き成りの『頭越し採決』である。この時、君郎と張譲は目が合うと、互いにニヤリと笑みを浮かべた。


 一方、帝座の上で子供の様にはしゃぎ捲くる劉宏であったが、ふと彼の視界に君郎の隣に控える娘の顔が映る。好色な彼は、贅肉まみれの顔をにやつかせながら君郎に尋ねた。



「これ、益州よ。そちの隣に居る娘は何者か? 名は何と申すのじゃ? 」


「っ!? 」


「これ、菲娜(ふぃーな)よ、折角帝がお前に名を尋ねておられるのだ。早くお答えせぬか 」


「お父様…… 」



 『助平な蟇蛙(ひきがえる)』を髣髴させる劉宏の醜悪な面に中てられたのか、菲娜と呼ばれた娘は少しばかり怯えの表情を見せる物の、父親である君郎に厳しい目を向けられてしまい、澄んだ声で彼女は名乗り始める。



「はい、畏まりました……私は劉君郎が四子、姓は劉、名は璋、字は季玉と申します。現在、都にて学問を学んでおり、何れは父を助けるべく日々を精進しております。此度は父君郎が帝にご拝謁するに当り、父より同行を命ぜられた次第にて御座います 」



 劉璋と名乗った菲娜に対し、この醜悪な蟇蛙は益々好色そうに顔をにやつかせると、わざとらしく舌なめずりをした。



「ふうむ……益州よ、そちにはこんな美しい娘が居ったのか? 朕はこの娘が大層気に入ったぞ! 劉季玉よ、もしその気があるのなら、朕の後宮に入らぬか? 」



 劉宏の放ったこの言葉に、張譲は内心毒づいて見せると、君郎と菲娜の父娘はあからさまな動揺を色に出す。どう見ても、この父娘の表情は『否』としか思えなかった。



(チッ……この好色蟇蛙めが、また悪い癖を出し始めたな? 全く、手の付けられぬ馬鹿の分際で、『ソッチ(・・・)』の方だけは達者と来ている。お前が余計な女を増やす度、あの肉屋の妹から聞きたくも無い愚痴を聞かされるのはこっちなんだぞ? いい加減、僕の手を焼かせてくれるな! )


「み、帝。そ、それは…… 」


「なっ…… 」


「この朕が折角言葉をかけて居るのじゃ、当然断る理由も無いであろ? 」



 政を省みぬ暗愚な劉宏であるが、自分の快楽に関してだけは人一倍行動力がある。流石に、これには悪名高い十常侍筆頭の張譲も辟易したのか、彼はすぐさま帝座で駄々をこね始めようとしていた蟇蛙に釘を刺した。



「主上、これ以上はお控えあそばせませ。貴方様は仮にも偉大なる漢の象徴で御座いまする。只でさえ、最近お体の調子が悪いと言うのに、これ以上後宮に女を入れるのは臣としては賛成できかねませぬ。


 それに、こちらの益州殿のご息女ですが、何れは漢の為に働いて貰う貴重な人材で御座いまする。その彼女を後宮に入れてしまう事は、之即ち(これすなわち)帝の、ひいては漢にとっての重大な損失と思われまするが、之如何に(これいかに)? 」



 突き放すように言い放ち、張譲は鋭い視線を劉宏にぶつけると、途端に彼は顔を強張らせて見せた。只でさえ色が白いと言うのに、劉宏の顔からは血の気がサーッと降りてくると、余計に白く見えてしまう。そして、この哀れな白い蟇蛙は帝座の上で肥え太った体をカタカタと震わせ始めた。



「うっ、うむ! ちょ、張譲がそう申すのなら間違い無いであろ? すっ、済まなんだのう、益州。朕は危うく将来の逸材を失う所であったぞ。ささ、もう用は無いであろ? 朕はこれより少しばかり横になるのでな? 」


「ささ、帝……皇后様が閨にてお待ちで御座います 」


「はっ、それでは、これにて失礼致しまする…… 」


「失礼致します…… 」



 張譲に伴われ、未だに体を振るわせながら劉宏が退室するのを他所に、君郎と菲娜の父娘は拱手行礼で退出の口上を述べると、二人ともこの場を後にしたのである。やがて宮殿を退出し、宿舎に戻るべく馬車に乗り込んだ君郎父娘であったが、馬車の中で彼は忌々しげに顔を顰めて毒づいて見せた。



「フンッ……所詮は担ぎ上げられた傀儡にしか過ぎぬか。あんな色白の蟇蛙が、かの世祖の末裔かと思うと虫唾が走るわ 」


「お父様、誰が聞いてるか判りません。余り声高に言わない方が…… 」


「構わん、この馬車の御者は儂の息の掛かった者だ。それに、こんな老いぼれのぼやきなど、真剣に耳を傾ける者もおるまいて 」



 菲娜こと劉璋が眉をひそめるが、それに対し君郎は不遜に言い放って、自身の顔色を窺う娘を見やる。彼の表情には、可也の冷徹さが感じられた。



「のう、菲娜よ。儂はあの蟇蛙に儂の案をごり押しさせる為、張譲等に※2百万銭もの付け届けを出したのだ 」


「ええっ!? そっ、それは何故で御座いますかっ!? 」


「フフッ、考えても見るが良い。仮に付け届けを出さなんだならば、彼奴等を始めとした他の者からいちゃもん(・・・・・)を付けられてしまうだろうて? 


 それに、儂があの蟇蛙にごり押しさせた『州牧制の復活』なぞ、かの偉大な世祖であれば即座に却下されるだろうよ。何せ、州を統括させる者に兵馬や行政権を与えてしまえば、それこそ群雄割拠の原因にもなりかねぬからのう……フフフフフフ 」 



 そう言い放つと、不気味な含み笑いを上げる君郎であったが、そんな父を咎めるが如くすかさず菲娜は柳眉を吊り上げさせ、毅然とした態度で言い放つ。



「お父様に申し上げます 」


「うむ、なんだ? 申すが良い 」


「お父様は漢に弓を引く気なのですか!? これまでの話を聞くからに、お父様が帝に推し進めたのは、どう見てもこの国を更なる混迷に誘うだけにしか思えません! 


 ……それに、お父様は変わられてしまいました。いえ、お父様だけではありません! 兄上達も……。昔のお父様達であれば、そんな野心なぞ無縁でありましたのに…… 」


「…… 」



 感情が昂ぶったのか、すすり泣きを始める彼女であったが、対する君郎はだんまりを決め込んでいた。然し、少しばかり表情を砕けさせて見せると、彼はすすり泣く娘の方に優しく手を置き、そっと耳元で囁きかける。



「菲娜よ、聞くが良い……今この国は内に十常侍と何姉妹、外に黄巾と正に内憂外患の体を成しているのだ。恐らく、黄巾どもの叛乱が終わっても、この国は麻の如く乱れるであろう。


 そうなれば、儂等の様に地方を束ねる者が力を持つ必要があるのだ。儂は民の為、引いてはお前やお前の許婚の達哉(だーづぁい)君の為……儂は益州の力を更なる強大な物にする積りだ。


 理解してくれとは言わぬ。だが、お前達が安穏とした生涯を過ごせるのならば、儂は不忠者と罵られる覚悟は決めてる積りだ…… 」


「お父様…… 」



 顔を上げると、菲娜は涙に濡れた瞳で父を見る。この時の彼は、正に『父』の顔をしていた。



「菲娜よ、お前は兄達に比べれば才は乏しいやも知れぬ。だが、人一倍民草を重んじておるのは理解している積りだ。だからこそ、そんなお前を補佐するべく幼少の頃からの付き合いであった達哉君を始めとした他の皆をつけたのだぞ?


 ……特に、お前の許婚に決めてから達哉君の文武における研鑽振りは相当な物だと、『あの(・・)卡蓮(かれん)までもが褒めちぎって居るのだからな? 」



 想い合ってる人物を褒められ、機嫌を悪くする者は早々居ない物である。忽ち菲娜は頬を紅く染めると、まるで我が事であるかのように、想い人の活躍を父に話し始めた。



「ええ、お父様……張任、いえ達哉の研鑽振りは相当な物で御座います。この前、巴郡の厳顔殿の愛弟子である魏文長殿に勝ったのですよ? 」


「ほう! あの魏延に勝ったとな!? アレもまだ十六の小娘だが、武においては益州で指折り数える程と言われた程の腕前だ。そうか、そうか……達哉君があの魏延になぁ……益々彼が当家の入り婿になる日が楽しみになってきたぞ! 」


「後、それからで御座いますが…… 」



 これまでの重い空気を一掃するが如く、菲娜と君郎の父娘は達哉の話題で盛り上がる。この時、初めて二人は『親子』の表情で会話を楽しんでいたのだ。


 君郎が劉宏にごり押しさせた、この『州牧制の復活』であるが、彼が読んだ通りの結果になり中華は更なる混迷を迎える。


 そして……劉父娘の話題に上がった『達哉』であるが、姓を張、名を任と言う現在十八歳の若者で、菲娜こと劉璋の許婚であり、彼女付きの護衛武官の一人であった。


 後に、彼は桃香と一刀の前に立ちはだかると、その凄まじい活躍振りに『忠勇の烈士』とまで称されるのだが、それは後々の話である。




――壱――



 ――時を戻し、陽翟近郊――



 互いに名乗りを上げた後、一刀と佑は馬を進ませると距離を詰め、互いの顔をじっと見やる。先ずは佑が一刀の出で立ちを鼻で笑いながら語り掛けた。



「何や、かずピー? お前が歴史や戦国時代のマニア言うンは知っとたけど、まさかこの時代にまで来て伊達政宗のコスプレするとは思わんかったわぁ~! オマケにどこぞの世紀末覇者か傾奇モンが乗るみたいな馬にまで跨っとるし……自分、ドンだけ舐めくさっとるン!? 」


「くっ、確かに俺の好みが反映されてるのは認めるが、これらは全部見知らぬ世界に迷い込んでしまった俺を温かく育ててくれた人達からの贈り物なんだ! お前にどうこう言われる筋合いなんか無い!! 」


「ほ~う…… 」



 隻眼をクワッと見開き、佑に一喝する一刀の形相は正に怒れる独眼竜を思わせる。そして、今度は彼が目前の悪友にやり返し始めた。



「俺の事を散々こき下ろしてくれるが、そんなお前だって人の事言えるのかよ!? 変梃りん(へんてこりん)な三角帽被ってるし、フランチェスカの制服みたいなモンに悪趣味な金モールなんぞつけやがって……差し詰めナポレオンの物真似の積りかっ!? 」


「なっ、何やとおっ!? ごっついコスプレしとるかずピーだけには言われたないわ!! これはなぁ、偉大なる英雄ナポレオンに肖りたい思うただけやぞ!! それに、ワイは『天の御遣い』やしなぁ? せやから、それに見合っただけのカッコにしたまでやで!! 」



 顔を真っ赤にして激昂する佑。正直言って、この二人のやり取りは五十歩百歩、団栗(どんぐり)の背比べとも言えよう。然し、佑が言い放った言葉の中にあった『天の御遣い』が一刀の中に引っ掛かる。すぐさま眉を潜めて、一刀は佑にその意味を問うた。



「『天の御遣い』だと? それは一体どう言う意味なんだ、及川ッ!? 」


「せやなぁ……あ、その前に言っておかなならん事があるわ。ワイはな、ガッコに行く途中で変な光みたいなモンに包まれた思たら、何や変なトコで倒れとったんよ。その後色々あってなぁ~まっ、運良く孟徳……曹操はんに拾ってもろたんや 」



 佑の言葉に、一刀は驚愕の余り隻眼を大きく見開かせ、思わずあんぐりと口を大仰に開き、声を震わせる。



「い、今何て言った……? そ、曹操だとぉっ!? 」


「せや、曹操はんや。まっ、映画やらゲームやらで散々お前の話を聞かされた事あるしなぁ? せやから、曹操はんの名前位は覚えていたで? そしてな、その曹操はんがワイにこう言いよったんよ、『貴方が最近噂になっていると言う『天の御遣い』なのかしら? 』となぁ……。


 何でも、当時こんな予言が流れてたらしいんよ。『世が乱れし時、天の御遣いが降り立ち、世を再び安寧に導く』となぁ? ンナ事言われても、イマイチワイにはピンと来なかったし、正直訳が判らんかった。


 そしてなぁ……曹操はんはワイにアッサリこう言いよったんやで、『貴方には私の『天の御遣い』の役をやってもらう。無論、拒否権は貴方に無いわ。もし、嫌と言うなら今ここで殺気立ってる夏候惇に首を刎ねてもらうだけよ。どう? やる? やらない? 』ってなぁ……ワイより年下の女が、いとも簡単に人の生き死に弄ぶ発言をしたんやぞ!? 正直信じられんかったし、思わず耳を疑うてしもたわ!!  」


「なっ…… 」



 その発言の内容に絶句する一刀を見て、ここで一旦一呼吸を置くと、当時の事を思い出したのか佑は忌々しげに顔を顰めて言葉を続けた。



「そん時のワイの気持ちがお前に判るか、かずピー!? イエスかノーか、生か死か、正に究極の二者択一を押し付けられたんやぞ? ここは激ヌルな日本なんかやないっ! ワイは正に切った張ったが当然の世界に来てしまったんや! 


 せやから……プライドも減ったくれも無いまま、ワイは曹操はんに言われるまま『天の御遣い』の道化演じる事を選んだんや…… 」


「そう、だったのか…… 」


(俺の時と全然状況が違うな……確かに、実力主義で有名なあの(・・)曹操の下じゃ無理もないかも知れない。そう思うと、俺ってつくづく運が良かったんだなぁ…… )


「そこからは地獄の日々やった……筆頭武官の夏侯惇や筆頭軍師の荀彧に『軟弱モン』とか『汚らわしいから近寄るな』と、いつも邪険にされるわ、いびられるわで何遍死のうと思うた事か……それに付け加えて、拾ってくれた曹操はんからも白い目を向けられるようになるし、ワイは肩身の狭い思いをしてきた。


 けどなぁ? それでもワイは耐えた! 生きてれば絶対エエ事あるってなぁ!? そんな時、ワイは最高のパートナーを得た! なぁ、仙蓼!? 」



 そう、勢いよく叫ぶと佑は後ろに控える仙蓼を見やると、彼女は涼やかな笑みと共にゆっくりと頷いた。そして、彼女も馬を佑の隣へと進ませると、未だに動揺を隠せぬ一刀へ名乗りを上げる。



「お初にお目に掛かります。劉仲郷、いえ『北郷一刀』殿……。私は司馬懿、字を仲達と申す者です。以後良しなに願いたい物です…… 」


「なっ……!? 」


(し、司馬懿だとぉっ!? 孔明の最大のライバルにして、三国時代の最後の勝者司馬炎の祖父に当たる人物じゃないかっ!! まさか、司馬懿までが女、それも及川のバックに付いていたなんて……これはヤバイ、絶対にヤバイ組み合わせダッ!! )



 仙蓼が名乗った『司馬懿』と言う名に、またしても一刀に更なる動揺が走った。そんな彼を他所に、佑は追い討ちを掛けるが如く言葉を発す。



「ワイは、司馬仲達言う最高のパートナーを得て、ワイは自分自身を革命した! 兵法、学問に武芸は言うに及ばず、この世界を生き抜く上で必要なモンを叩きこんだんや!! それがどないに大変なモンか、コスプレしとるだけのお前に判るかぁ!? 」



 大仰に深呼吸し、佑は昂ぶった己を鎮めさせ、今度は優しく諭すように言葉を続けた。



「……なぁ、かずピー。ワイは目覚めたんや。『ホンマモンの天の御遣い』なって、予言通りにこの世を再び安寧に導いたるってなぁ!? かずピー! もし、お前にその気があるならワイに協力せぇ! せやけど、その逆言うンなら……ワイの知らんとこで、ずーっとそこの彼女はんと『アッハンウッフン』ヨロシク子作り作業ヤっとればエエ。正直言って、お前は存在自体が危険やし、下手すれば孟徳はんにも勘ぐられそうやしなぁ? 」


「全くその通りです。私は佑様を『真の天の御遣い』にするべく、ありとあらゆる物を叩き込みました。そんな私の期待に応えるべく、佑様は日夜血を吐く思いをしながらも切磋琢磨し、遂には孟徳殿から真名を預けられるまでになったのです。


 仲郷殿、いえ北郷一刀殿に申し上げます。もし、以降この時代に関与するのなら、大人しく私達に従うか、それとも……二度と私達の前に姿を見せぬ方が無難かと思われますが? 私の佑様にとって、貴方と言う存在自体がとても危険ですし、何よりも……物凄く目障りです 」


「くうっ…… 」



 彼の言葉に呼応するかのように、仙蓼からも舌鋒の刃を叩き込まれ、忌々しげに歯噛みする一刀。然し、一刀の後ろに居た桃香が突然大きな声を響かせた。



「待って下さい!! 」


「あん? 」


「なっ!? 」


「ッ!? 桃香!? 」


「貴方達は一刀さんを見くびっていませんか!? 」



 顔を紅潮させながら、桃香が馬を走らせると、一刀の隣にぴったりと並んでみせる。眼光鋭く佑と仙蓼を見据える彼女の表情は、いつものホンワカとした村娘の物ではなかった。



「初めてお目に掛かります、及川殿に司馬仲達殿。私は劉備、字を玄徳と申す者です。今回、私は黄巾の叛乱を鎮圧するべく、私は故郷の楼桑村にてこちらの一刀さん達と共に義勇軍を立ち上げました。


 お話は聞かせて貰いましたが、貴方方は一刀さん、いえ劉仲郷と言う人物を見くびっています!! この世界に迷い込み、行き倒れになった一刀さんを助けたのはこの私です。この世界で生きる事を決めた一刀さんの為、私は一刀さんの傍にいる事を決めましたし、私の兄さんとその仲間達が一刀さんを一角の人物に鍛え上げましたっ! 」


「桃香…… 」


「ほう……それは意外な話やなぁ? ……確かに、かずピー日本に居た時より別モンみたいに体つきがごつくなっとるし、下手すりゃプロレスラーや『脳みそスッカラカン』の夏侯惇とガチの殴り合いできそうやで? 」


(チッ、やっぱかずピーは劉備に拾われてたんかい! 前々から思うとったんやけど、かずピーって妙なトコで運が強いわ……。オマケに孟徳はんより劉備の方がワイ好みやし、仙蓼が足元に及ばん程の破壊力のあるオッパイ持っとるやんけぇ~~!! クソッ! うらやまけしからんぞ、かずピーッ!! )


「成る程……確かに、良く見て見れば仲郷殿の雰囲気は一角ならぬ物がありますね? 」


(この男、下手をすると佑様より運が良いのかも知れないわね? あの曹孟徳は冷徹な人物だけど、それに対してこちらの劉玄徳は可也温厚と思われるわ。劉仲郷がこの世界で上手くやってこれたのも、ひとえに彼女の存在による物が大きいのやもしれない…… )



 誇らしげに想い人を語る桃香に一刀は優しげな眼差しを送ると、対する佑と仙蓼はいかにも興味津々と言った風で一刀をじっと見やる。桃香は更に言葉を続けた。



「昨年の春先に私達と出会ってから、一刀さんは心身両面で己を鍛え上げ、時には私と共に村を襲ってきた盗賊と戦ったりと、沢山の場数を踏んできました。今の一刀さんは私にとって欠かせない将の一人だし、そして何よりも……私の、私の……大切な『恋人』なんだからっ!! 」


「と、桃香ッ!? うむっ!? 」


「んなっ!? 」


「ええっ!? 」



 そう啖呵を斬って見せると、行き成り桃香は一刀を抱き寄せ、彼の唇に自身の物を重ねて見せる。この突然の彼女の行為に一刀だけでなく、佑と仙蓼も目を白黒させてしまった。そこから少し時が経ち、落ち着いてきたのか一刀は桃香をゆっくりと引き離すと、彼女に優しげな微笑を浮べる。



「有難う、桃香……久し振りに君が熱い想いを俺にくれたから、お陰さんでいつもの自分に戻れたよ 」


「お礼なんて言わないで……だって、私馬鹿だし。こんな形でしか一刀さんに報いて上げられないから…… 」


「なぁ、前にも言ったじゃないか、桃香……。俺に君の思い描く夢を見せてくれってね? だから、君が自分の道を成し遂げるまで、俺はここで愚図ってる訳には行かないんだ 」


「一刀さん…… 」



 顔を俯かせ、力無く肩を落とす桃香に一刀は優しく言葉を掛けると、力強く後ろを振り向いた。そして、彼は兄一心を始めとした漢達直伝の威圧感を解き放って佑と仙蓼を睨みつけると、大仰に芝居掛かった風で力強く叫ぶ。



「及川ァッ! そして司馬仲達! 二人ともとくと覚えておくが良い!! 貴様等が何を考えてるかは存ぜぬが、仮に俺と桃香の前に貴様等が立ち塞がるのであれば、俺は一切容赦せぬっ!! この劉仲郷が共にあるは劉玄徳のみッ! それを忘れるなぁ!! 」


「くっ……かずピーの癖に言うてくれるやんけ……然し、ホンマにこれかずピーか? どー見ても、N◎Kの大河ドラマで『世界のナベケン』が演じた伊達政宗みたいやんけぇ!! 」


「なっ、何なのっ!? 先程とは全くの別人としか思えないっ!? 」



 佑と仙蓼が動揺しているのを他所に、一刀は右手に持った大身槍を両手で構えて見せると、義兄義雷に引けを取らぬ程の大喝を轟かせそれを一閃させた。



「そしてぇ……貴様等に言って置くっ! 今の俺は『劉北』、字は『仲郷』!! 『北郷一刀』の名はもう捨てたあッ! だから……気安く俺をそう呼ぶなぁ!! この事も良く覚えておけいっ!! 」



 振りかざした一刀の得物から解き放たれた風圧に中てられたのか。佑と仙蓼の馬が怯える様にいななき暴れ始めると、制服を模した佑の軍服に吊り下げられていた金の飾り紐がブツリと切れてしまう。また、仙蓼の方も衣服の胸元が切れてしまい、そこから弾ける様に大きな乳房がポロリと露になってしまった。



「のわっ!? 」


「えっ……? なっ……キャアアアアアアアアッ!? 」


「えっ……おおおおをっ!? このサイズはC、いやD、もしくはEカップの美巨乳だとぉ!? 服の上からでは判らなかったが、司馬仲達……見かけによらず何て恐ろしい乳なんだッ!! あの乳を独占出来るとは……及川の奴ゥ、なんてうらやまけしからん事を!! 正しくこれぞ、『死せる乳(貧乳のニュアンスらしい)の孔明、生ける乳(巨乳のニュアンスらしい)の仲達を走らす』なりっ! 」 



 悲しいかな、そこは漢の性であろうか。カッコ良く極めた筈だったのに、露になった仙蓼の意外な大きな乳房に一刀は目が釘付けになってしまうと、思わず鼻の下を伸ばすだけでなく、オマケに何やら意味不明の戯言を抜かす始末だ。物凄く情けないったらありゃしない。



「かっ、一刀さんの、一刀さんのぉ……お馬鹿(OBAKA)ぁ~~~~っ!! 」



 然し、それを見逃さぬ桃香ではない。細い肩と仙蓼を遥かに上回る二つの膨らみをプルプルと震わせながら、彼女は柳眉を吊り上げると、この度助平な恋人目掛け『愛の鉄拳制裁』をぶちかます!



「ウボァー!? 」



 哀れ、彼女の『愛の形』を左の頬に受けると、その勢いで一刀は思いっきり落馬してしまい、地面をゴロゴロと転がってしまうとそのまま伸びてしまった。



「ウ~~~ン……中々ええパンチしとるやんけぇ~。乳の大きさとパンチ力は比例するって本当の事だったんだぁ~ 」


「ハッ!? かっ、一刀さんっ!? ごめんなさい、思わず力加減が出来なくって!! 私ッたら……何てはしたない事しちゃったんだろ!? 」


「お星さぁ~まが回ってるだぁ~よぉ~。見えない筈の右目にもお星様がチカチカしてるだよぉ~ 」



 自分の仕出かした事に我に帰ったのか、気を失ったままうわ言を抜かす一刀に駆け寄る桃香を他所に、佑は軍服の上着を脱ぐと両手で胸を隠していた仙蓼にそっと掛ける。そして、彼はシリアスな雰囲気から一転し、夫婦漫才を演じている二人目掛けこう言い放った。



「まっ、ええわ。今日は偶然会うただけやし、ちょぉ挨拶をしただけやからなぁ? 劉玄徳はん、かずピーにヨロシク言っといてや。機会あらば又会おうってなぁ…… 」



 一方の桃香であったが、彼女は一刀を介抱する傍ら、佑等をキッと睨み付けると毅然とした態度で彼に臨む。



「及川さん、そして司馬仲達さん……貴方達が一刀さんや私に協力してくれるのなら話は別ですけど、そうではありませんよね? 」


「さぁ? それはあんさん等のこれから次第や。利害一致するなら幾らでも協力したるし、そうでなければ……たとえかずピー言うても、全力で叩き潰すまでや 」


「きょっ、今日は思わぬ所で恥をかかされてしまいましたが……佑様に免じ、先程の事は忘れて差し上げます! ですが、私も佑様と同意見です。そこをお忘れ無き様…… 」


「判りました、今の貴方達の言葉。一刀さんに必ず伝えておきますから…… 」 


「うしっ、話は終わりや、終わり。帰るで、仙蓼。早よ戻らんと孟徳はんに怒られるし、仙蓼の服も着替えなアカンしなぁ? 」


「はい、佑様 」



 かくして、佑は仙蓼を伴うと自陣に引き返すべくこの場を後にし、桃香の方も一刀が意識を取り戻すと先程の二人の言葉を彼に伝えた。佑と仙蓼からの言伝を聞かされると、一刀は渋面を作る物の、早速二人は自陣の方へと引き返したのである。




――弐――



「いいかい、桃香。さっきの事は皆には黙っておいてくれ。黄巾との決着が着いてない内から、余計な不安は与えたくないからね? 」


「う、うんっ……判ったよ、一刀さん。確かに、及川さんの事は一刀さん絡みだからね? これは愛紗ちゃん達にも言えない話だし…… 」



 陣に戻り、彼は不安げな表情を見せる桃香にそう言い渡す物の、その一方で兄一心と筆頭軍師の照世にその事を報告すると、忽ち二人の顔に深い皺が刻み込まれた。



「成る程なぁ……北の字と同じ世界、それも仲の良かった奴があの『曹操』ンとこにいるのか……それも『司馬懿』というオマケつきとはなぁ。北の字よぉ、おめぇさんは知ってると思うが、曹操もそうだが司馬懿ってのも可也ヤバイ奴なんだよ…… 」



 そうぼやく一心であったが。彼はガラリと表情を本来の物に戻すと、隣に控える照世を窺う。



「孔明、これは可也厄介な相手ではないのか? 今の一刀の話を聞くからに、正直私は目先の黄巾よりもそっちの方が恐ろしく思えてならぬ……若しやすると、桃香の前に立ち塞がる最大の障害に成りかねぬぞ? これは雲長達にも話しておかねばならぬな…… 」


「はい、確かに我が君の申す通りで御座いますな? 御舎弟様と同じ世界の人物が曹操の側についており、且つあの『司馬仲達』がその協力者とならば、これ程危険な組み合わせは御座いませぬ。私の方も士元と元直に話しておきましょう 」



 そう言うと、照世は少しばかりの溜め息を吐き、一刀を見やった。



「ふうっ……御舎弟様ならご存知でしょうが、我が君玄徳様にとって生涯の強敵は他ならぬ曹操で御座いました。ですから、この世界の我が君――即ち、桃香殿にとっての最大の宿敵も同じく曹操ではないのかと、私は睨んでいたのです 」


「ええ、実は俺もそうなるんじゃないかって思ってたんですよ 」 

 

「然し、御舎弟様のお話を聞くからに、警戒する相手は曹操だけでは無くなりました。御舎弟様、司馬仲達が私の知っている人物であれば、あれ程老獪で強かな者は居りませぬ。桃香殿が彼奴等に惑わされぬよう、御舎弟様も努々(ゆめゆめ)御油断成されませぬな? 」


「はい、及川と司馬仲達、そして曹操がいかなる企みを仕掛けようとも、俺はそれを全て噛み破り桃香を守り抜く積りです! 」


「ああっ、頼りにしてるぜ? まっ、おいらや照世達も出来るだけ協力するからな? しっかし、ここの曹操ってどんな娘っ子なんだろうねぇ? まぁ、曹操ってのはおいらより可也背の低い奴だったが、案外ここのもドチビだったりしてなぁ? 出来るこったら、一目ご尊顔を拝し奉りたいモンだぜ? もしかすると、桃香と全て真逆かも知れねぇしなぁ!? 」


「ははは、一心様。一先ず、それは置いておきましょう……。ところでですが、御舎弟様。この照世も一心様と同じですぞ? 私も出来る限り、貴方や桃香殿にご協力致す所存ですからな?


 然し、曹操の下には早くも人材が可也揃っている様です。今後は、曹操の動向にも更に目を向けねばなりませぬ。また『及川佑』なる者と『司馬仲達』ですが、彼等は一体何を目論んでいるのか? ここら辺にも注意が必要かと 」


「全くですね、及川って男は日本に居た時から『喰えない奴』でしたが、恐らく今のアイツは更に性質悪く化けてると思いますよ。何せ、司馬仲達がアレの背後に居ますからね? 」



 伏目がちで一刀がそう言うが、一心はいつもの様に砕けた笑みを向けて見せると、彼の背中をバンバンと叩く。



「さて、辛気臭ェ話はこれでしめぇだ! さっ、北の字に照世。そろそろ皆のトコに戻らねぇと、他の連中が怪しく思っちまう。それに、そろそろ紫苑さんたちが美味ぇ飯をこさえてる頃だし、おいらもいい加減腹が減っちまったぜ 」


「ははは、確かにそうですな? 故人曰く、『腹が減っては戦が出来ぬ』……ここは一つ、我々もそのひそみに倣いませぬと。かく申す私も流石にお腹が空きましたからな? 」


「フフッ、言われてみればそうですよね? 俺も腹が減りましたし、夕べはちと体力を消耗してしまいましたから……やっぱ三人同時はハードだよなぁ~ 」



 わざとらしく腹に手を当てながら一刀がおどけて見せるが、それに対し一心と照世は訝しげに彼を見やった。



「オイオイ……三人とヨロシク励むのは良いが、程々にしとけよ? でねぇと、蓮華ちゃんのおっ母さんと馬家の琥珀さんにとっちめられてしまうぜ? 何せ、おいらも雪蓮を身篭らせねぇ様に気ィ使ってる積りなんだからな? 」


「全くですな……少なくとも、この戦が終わるまではあのお三方が御懐妊せぬ様、お気をつけなさいませ。宜しいですかな、御舎弟様? 」


「う゛っ……。は、はい、以後気をつけます…… 」



 二人に窘められガックシ肩を落とす一刀であったが、すかさず一心が彼の肩を大仰に抱き寄せてニヤリと笑って見せると、それが可笑しかったのか三人は愉快そうに笑い声を上げる。


 三人の漢達は互いに『イイ笑顔』のまま、皆が集まってるであろう義勇軍本陣の天幕へと向かっていったのだが、そんな彼等を物陰から見やる人影があった。姿形からして女であろうか、彼女はボソッと小声で一人ごちる。



『何を話しているかは聞き取れなかったが……劉兄弟に諸葛然明、奴等は一体何を話していたのだ? どうも気になる……然し、これ以上の行動は控えるとしよう。表向きの仕事もあるからな? 』



 そう自分に言い聞かせると、『彼女』は音も立てずにその場から立ち去る。この『彼女』であるが、先日長社の戦いの後一刀達をこっそりと覗いていた『彼女』本人であった。



――三――



 一刀と及川が馬鹿馬鹿しい邂逅を遂げたあの日から丁度翌日の事である。ようやっと、『厚化粧肉屋大将軍』こと何進率いる十万の軍勢が陽翟に到着した。


 あれだけ軍事を遅延させたのにも拘らず、彼女はその非礼を周囲に対して一言も詫びずに、自身の天幕にて虎の毛皮を敷いた豪奢な作りの座にてふんぞり返る。そんな厚化粧の年増女を内心忌々しく思いながらも、皇甫嵩を筆頭に黄巾討伐軍の名立たる将達が上辺だけの拱手行礼を行った。



「何閣下、此度は遥々都よりご足労頂き、この皇甫義真有難き幸せにて御座いまする 」


「構わぬ、皇甫将軍、此度は大儀であった。帝もお主等の働きに大層お喜びである。然るにこの何進、黄巾どもを完膚なきまで打ちのめす為、帝の勅命を帯びて参った次第じゃ。よって、妾の申す事は之即ち帝の申す事……それを忘れる事無き様になぁ? 無論、他の者達もじゃぞ? 」


「「「「「「「ははっ!! 」」」」」」」



 この場において皇甫嵩・朱儁・盧植・鄒靖・曹操・孫堅・公孫瓉の七名がそう返礼する物の、彼等はこの厚顔無恥な年増女に内心毒づく。特に何進を毛嫌う鄒靖こと菖蒲の心中は、今にも爆発しそうであった。



(フンッ! 肉屋上がりの厚化粧が良くもまぁ、抜け抜けとかだるもんだべっちゃよ。おめの様なのが何もすねぇから、陽春様や皇甫閣下がその分苦労すんでねぇか!


 権力争いだか何か知らねけんども、少しは自分の職責位ぇまっとうすてみろってもんだべっちゃよ! ほに(全く)、おめの様な奴がいっからあっつこっつで『給料泥棒』どもがでけぇ面するんだべっちゃよ、こんほでなすが!! )



 多分、そう思っていたのは彼女だけではなかろう、何進にひれ伏す面々からもその背中から怒りが込み上げているのが感じられる。この有様に、何進の両隣に控える董卓の代理で参陣した詠こと賈文和と琥珀こと馬寿成は困惑した表情を浮かべていた。



(拙い、非ッ常ーに拙い雰囲気だわ。この厚化粧のトンでもない命令に振り回されただけでなく、付け加えてその非すら詫びないコイツの態度に皆怒りを押し殺している。これからの軍事行動に悪影響が出なければいいんだけど……月を雒陽の留守に置いて正解だったわ )


(皇甫将軍を始めとした黄巾討伐の将達は、これまで連戦続きだった上に何進の無茶な命令で足止めされて可也殺気立っている……かくなる上は、明日にでも総攻撃を掛けて張角を討ち取らねば、彼等の不満は解消されない。然し、月をこの場に連れて来なくって正解だったわ。只でさえ余り体が強くないと言うのに、こんなギスギスした雰囲気の中では即座に倒れかねないわね? )



 二人がそう考えてるとは梅雨知らず、何進は両隣の詠と琥珀を見やると、彼女は横柄に語りかけた。



「どれ、早速これから軍議を始めるぞ。賈詡、それと馬騰。準備を始めるが良い 」


「はっ、畏まりました 」


「はっ 」



 この厚化粧に対し、詠と琥珀が返事を返すと、早速何進主導での馬鹿馬鹿しい軍議が始まる。結局、軍議の方は一刻もしない内に終了してしまい、七人の黄巾討伐軍の司令官達は休むべくそれぞれの陣へと引き上げたのだが、この時の彼等の顔には疲労感が色濃く残っていた。



――四――



 軍議を終え、義勇軍本陣の天幕に戻ってきた陽春と菖蒲、そして白蓮の三人であったが、彼女等はすっかり疲れ切った顔になっていた。



「今戻ったわ、ふうっ……全く、本当に不毛な軍議だったわね? 」


「あ゛~っ、たっだいま~! あだしも陽春様と同意見だぁ、あだしも軍に長ぇ事携わってきたけどもっしゃっ、これほど馬鹿くせぇ軍議は生まれて初めてだべっちゃよ~! 」


「ったく、あの厚化粧がノコノコ出向かなくっても、ここの兵力だけで黄巾本隊を殲滅できると言うのに……一体何考えてんだよ、あの『厚化粧肉屋大将軍』が…… 」


「皆さんお疲れ様でした。さっ、お腹が空いたでしょ? 皆で食べようと思って、お待ちしてたんですよ? 」



 天幕の中には主だった者達が揃っており、一同を代表して桃香が笑顔で出迎えると、既に食事の席が用意されていた。紫苑達が作ったであろう手料理を前にし、アレだけ疲れ切っていた筈の陽春達も頬を綻ばせる。



「まぁ……美味しそうね? フフッ、折角皆さんを待たせてしまったのだから、早く席に着かねばならないわね? さぁ、菖蒲に白蓮も早く席に着きましょう? 」


「はい、ほに陽春様の言う通りですねぇ。折角うめぇもん前にしてあだこだぼやくのも野暮ってモンですし 」


「全くです、それでは私もその様にさせて貰います……あ、あのー、固生殿。と、隣に座ってもいいかな? 」



 師母陽春の言葉に従いつつ、空白になっていた固生の隣をチラッと窺う白蓮であったが、彼女はほんのり頬を紅く染めつつ尋ねてくると、固生も顔を真っ赤にしつつ大仰に頷いて見せた。



「あ、え、ええっ! どうぞ、私の隣で良ければ座って下され! 」


「そ、それじゃ……失礼させてもらうぞ? 」



 少しばかりぎこちない感じで白蓮が固生の隣に座ると、先日のやり取りを知っていた者達からは「おおお~っ」と囃し立てる様な歓声が巻き起こる。然し、一刀を始めとした途中からの合流組は今一つ合点が掴めない様であった。



「なぁ、桃香。白蓮と固生老師の間に何があったんだ? 」



 陣中故に、髷を結わず下ろし髪の上に鉢巻を巻いた一刀が桃香に尋ねると、彼女はクスッと悪戯っぽく微笑んでそっと一刀に耳打ちする。



『あのね……若しかすると、白蓮ちゃんと固生老師の間に恋の花が咲くかもしれないんだよ? だから、温かく見守ってあげてね? 』


『……あーそう言う事か。判った、俺は敢えて何も言わないで置くよ 』



 フッと口元に薄く笑みを浮べると、その後一刀は何も言わずに黙々と箸を進めながら、固生と白蓮が上手く行く様心から願うのであった。



――五――



――一方、その頃。義勇軍本陣の天幕より少し離れた所に位置する際兄妹の天幕にて――



「あ~~ん! 私もあそこで皆と一緒にご飯食べた~い! 」


「駄目よ、楚々(チュウチュウ)(遵娘々の真名)ちゃんったら~? そ・れ・にぃ! アタシ達はまだそこまで玄徳さん達と仲良くなってないでしょう~? 何事もちゃんと順序を踏まないと、みーんな水の泡よ~ン? 」



 不満そうに手足をバタバタさせながら、『際的孫』と名を変えた『遵娘々』が本陣の天幕の方を指差すと、『際高伯』と名を変えた『祭午』がそれを諌める。



「はぁ~~~い……あ~あ、折角いい漢達が目前にいるのになぁ~。子穹さんに仲郷さんでしょ、伯起さん仲山さんの兄弟に然明さん……季直さんや伯想さんに統伯さんも渋くて捨て難いわよね? はぁ~あ、誰でも良いから、私を攫って~~♪ 楚々の乙女心は、もう爆発寸前なの~♪ 」


「しょうがないわねぇ~ン、楚々ちゃんは。それじゃ、お兄様はご飯の支度をするわよ? 」



 

 彼女はプクッと可愛らしく頬を膨らませると、今度は義勇軍の主な好男子の名を列挙して乙女色を全開させるが、そんな妹に対し高伯は呆れ顔で食事の支度をする物の、ふと彼は表情を真剣な物に改めた。



「ところでだけど……楚々ちゃん 」


「……何かしら、兄さん? 」


「泰山に居た時、いつも下界の様子を見てた楚々ちゃんなら判ると思うけど、黄巾党の張三姉妹が使う術って相当厄介じゃない? ほら、黎陽の戦いの時の奴よ? あんなの又やられたら、本当に面倒だわ。何か対抗策でもあるのかしら? 」



 麦粥が入った椀を受け取ると、楚々は悪戯っぽく笑みを浮かべ、胸をドンと叩いてみせる。



「あっ、それなら大丈夫。この私にまっかせなさーい! 泰山に居た時、※4東方曼倩(とうほうまんせん)様から手ほどきを受けてたんだからっ! ……でも、秀児様から濫り(みだり)に使うなーって、きっつく釘を刺されたんだけどねー……アハハハハハハー…… 」



 恐らく、当時の事を思い出したのであろう。最初は威勢が良かった物の、彼女は徐々に力無げに乾いた笑い声を上げた。



「まぁっ、それなら何とかなりそうじゃない! ウッウーン、※5極・好(ジィ・ハオ)~~ン♪ 」


「アハッ、やっぱそれが無いと何時もの兄さんらしくないわよね? アハハハハハッ! 」


「当然じゃなぁ~~い♪  楚々ちゃんが居れば、黄巾なんて無問題よ~♪ ウフッ、ウフフフフフフフフ~ン♪ 」



 目をキラキラさせながら、何時もの口癖で〆る兄に彼女は愉快そうに笑い声を上げると、それに吊られる様に際武も薄気味悪い笑い声を上げるのであった。



――六――



 ――それと同時刻、陽翟の城の謁見の間にて――



「大賢良師様、そして地公将軍様に人公将軍様っ! 真に無念で御座いますが、これ以上この城に立て篭もるのは危険です! 明日、ここの六万の同志と共にここを脱しましょう! 」


「そうなんだ……これ以上は無理なんだね、劉備さん? 」


「天和姉さん、確かに劉備さんの言う通りだよ? 食料だってこれ以上持たないし、皆の士気だってがた落ちしてるわ。こうなった以上、この城放棄してどこかに落ち延びた方が得策じゃないかしら? 」


「そうね、これ以上組織としての黄巾党の機能を維持するのは無理だわ。寧ろ捲土重来を狙って、再び黄巾党を立ち上げた方が良いと思う 」



 側近の劉備こと張闓が涙ながらに天和こと張角に意見を述べると、それと同調するかのように地和こと張宝に人和こと張梁も深く頷いた。



「うっ、うん……私、馬鹿だから皆に任せるね……? 悪いけど、今日は少し気分が悪いの。だから、早めに休ませて貰うね? 」



 力無げにそう呟くと、彼女は妹達と偽善者面した張闓をその場に残し、自身は寝室へと戻る。そして、彼女は寝台に腰掛けると、一気に沈み込んでしまった。



「本当に、本当にこれで良かったのかなぁ? 最近は歌っていても全然楽しくないよ…… 」



 最近、天和は深い罪悪感に悩まされていたのである。最初は、只純粋な気持ちで沢山の人々に自分達の歌を聞いて欲しいと思っていたのが、いつの間にかそれが変な方向に暴走してしまったからだ。


 それに付け加え、最初は支持者の集まりだった筈の『黄巾党』も今では完全な只の暴徒と化してしまうと、聞いて欲しいと思っていた彼等からは怨嗟の対象になる始末。こうなってくると、止め処無く真っ黒い物が自分の心をねめつけてしまい、いつしか天和は涙を流していた。



「ウッ、グスッ……何で、何でこうなっちゃったんだろ? 本当は楽しく歌いたかっただけだったのに…… 」



 両親に先立たれ、幼い二人の妹を抱えながらも様々な旅芸人の下を渡り歩き、彼等から芸や簡単な術を教えて貰う日々を過ごし、ようやく独立出来ても僅かな稼ぎしか得られない。だが、それでも妹二人と楽しくやってこれたし、それが彼女にとって何よりの幸福でもあったからだ。


 然し、昨年自分達の歌を熱心に聞いてくれた劉備と名乗る好青年から『太平要術の書』なる物を手渡されると、そこから彼女を取り巻く環境が一変した。姉妹の中で次妹の地和が術に優れていた事もあってからか、彼女を中心に『人心を惹き付ける術』を歌声に乗せて使うようになると、一気に自分達を支持する者達が増え始めたからである。


 おまけにそれだけではない。とある町での公演中、術を解かぬまま舞台上の彼女等が観客の前で姉妹の語らいをしていた時に、更なる出来事が起こった。



『そっかー。地和ちゃん、十万斤饅饅頭好きだもんねー? 』


『うんっ♪ 十万斤饅頭なら、いっくらでも食べられるから。みんなジャンジャン差し入れしてねー♪ 』



 そう地和が軽い気持ちで発言してしまうと、その翌朝食べ切れぬほど大量の『十万斤饅頭』の差し入れが彼女等に届けられたのである。


 調子付いた者ほど恐ろしい物は無い。これに味を占めた彼女等は、舞台上で歌い終わった後に様々な物を要求するようになってしまい、とうとう彼女等は並みの富豪でも得られぬ巨万の富を得た。


 また、それに併せるかのように劉備が支援者の取り纏めを願い出るようになると、天和達三姉妹を中心に『黄巾党』が結成されたでのある。


 益々勢い付いて知名度を高めた『黄巾党』であったが、とある城下町で公演をしていた時にそれは起こった。警邏の役人達が、『無許可の公演を即刻中止せよ』と舞台に押し入って来たのである。


 無論、幾ら少し抜けてる天和でも無許可で公演をする程愚かではない。彼女は劉備を通じて、役所へ許可を届けさせていたのだ。然し、この好色そうな役人は『聞いてない』の一点張りで、周囲からの罵声を他所に彼が天和の肩にいやらしく手を掛けたその瞬間――地和が怒りを爆発させる。



『みんなー! 役人なんかぜーんぶやっつけちゃえー!! 』


『ホアーッ!! ホアホアーッ!! 』


『ホアアアーッ!! 』


『なっ、きっ、貴様等、お、お上に逆らう積りか!! 』



 怒りに任せた彼女の叫びに、周囲の観客は一斉に暴徒と化すと、卑しげに天和に触れた役人だけでなく引き連れた兵まで私刑に掛けて殺してしまうと、挙句の果てに彼等は遂に城までをも陥としてしまったのだ。



『フフフフ……上手く行ったぞ? 後は俺達があの三人を、即ち黄巾党全てを上手く操作してやれば良いんだからな? 』


『うめぇ事考えたじゃねぇかよ、張闓。まさか、あいつ等の術が強くなった頃合を見計らってこんな事をやらせるとはな? 』


『全くだ。昔っから狡賢い奴だとは思ってたが、ここまでの事を考えられるとはなぁ……正直恐れ入ったぜ 』


『まだだ。これはホンの小手調べだ。何せ、これから俺達は『黄巾党』に天下を握らせねばならないからな? 孫仲、高昇、先ずはその仕込みとして雒陽に馬元義を送り込んどけ。今国を牛耳ってるのは『十常侍』って宦官どもだからな? 雒陽で俺達が動ける様、これまで稼いだ銭を握らせて、奴等の気を逸らせろ! 』


『ああっ、了解したぜ張闓、いや、劉備様 』


『判った、そっちの方の小細工は任せろよ。劉備様 』



 そして、この出来事をこっそり舞台袖から覗き見て、邪悪な笑みを浮べる張闓、孫仲、高昇の三悪童。最初から張闓は『許可』なぞ届けておらず、それどころか『許可も取らずに悪戯に人心を掻き乱す者達が騒いでおります』等と通報し、暴動が起こる様に仕向けたのである。


 曹操から『太平要術の書』を盗み出した彼等は、とある町で張宝が術を使っているのを偶然見かけると、張闓は『劉備』と名を偽って彼女等に接近し、如何にも好青年らしく振舞った。以降、彼は悪童仲間の孫仲、高昇と共に表向きは張三姉妹の有能な側近として振舞っていたが、彼女等が術を使いこなし、より強い物を扱える時期を窺っていたのである。


 哀れな事に、天和達はそんな悪童どもの思惑なぞ知るどころか、支援者達によって勝手に神格化されてしまった。天和は『天公将軍』或いは『大賢良師』、地和は『地公将軍』、人和は『人公将軍』と称されると、『黄巾党』は宗教色を帯びた戦闘集団へと変貌し、現在に至るようになってしまったのである。


 最初の頃は順風満帆であった筈の黄巾党であったが、今では明日も判らぬ有様になってしまい、それどころか、自分等には余り知らされていないが、大規模の死者を出したに違いない。天和の脳裏に命を失ったであろう人々の死に顔が浮かび上がってくると、彼女は頭を抱えてしまい本格的に泣き始めた。



「ウッ、ウウッ、アァアアアアアアアアアアア~ッ!! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……本当にごめんなさい…… 」



 大粒の涙を流しながら、自分等の所為で命を絶たれた者に対し、繰り返し謝罪の言葉を涙声で呟く天和であったが、それに応える者は誰も居なかったのである。




※1:光武帝の廟号


※2:戦国時代の燕の昭王が、優れた人材を求めるに際し家臣の郭隗(かくかい)に尋ねたところ、


 『先ずは私を優遇して下さい。私の様なつまらぬ者でも優遇すれば、各地より幾数多の優れた人物が集まる事でしょう』と答えた。


 早速、昭王は言われた通りに彼の案を実行し、その結果各地より優れた人材が集まったと言う故事が由来。


 元は『身近な者から始めよ』と言う意味だが、後に『物事は言い始めた者から行え』と言う意味になった。


※3:作中の価値観で約三億円。


※4:東方朔(紀元前154~紀元前92)の事。


 前漢の武帝の側近で、知略知己に富んでいた事から後に神格化され、下界に住む仙人の様に描かれた。


 滑稽な事をする事でも有名で、西王母が栽培していた仙桃を盗み食いした伝説がある程。


 また、『相声(お笑い)の神様』としても尊敬されており、詩仙で有名な李白からも称賛された。


※5:おフランス語訳で『トレビアン(スンバラシィ~~!!という意味)』

 ここまで読んで頂き、真に有難う御座います。


 さて、前書きにも書きましたが、今回は後編の話を二部形式にせざるを得ませんでした。(涙


 今の私の心境は正直複雑ですが、これ以上待たせるのは嫌なのと、形を少し変えてでも自分の納得する物を書こうと思いました。


 ええと、今回の『後編その一』ですが、出だしに劉焉・劉璋親子、そして会話の中に張任を登場させました。恐らく、劉璋と張任の真名からピンと来た方もいるかも知れませんが、私の大好きな作品の一つ『夜明け前より瑠璃色な』に登場したキャラをイメージしています。


 らしくねぇよと言われるかも知れませんが、劉璋こと『菲娜』はフィーナ・ファム・アーシュライトです。(苦笑 CVイメージは手塚まきさん(生天目仁美さん)にしております。


 後、今回出てきた十常侍筆頭の張譲ですが、彼の外見イメージはもろアニメ版の奴です。一見美少年だけど年齢不詳みたいにしております。CVイメージは、無論矢島晶子さんですね。(これが、ク◎ヨンし◎ちゃんなんだもんなぁ~!)


 そして、前回からの続きで、及川達に出くわした一刀と桃香ですが……交渉決裂し、見事敵対関係に。ここら辺も初期の構想時に決めていた物の一つです。今後この二人はどうなって行くのか? 大まかではありますが、一応顛末は決めております。


 最後に、張角こと天和が慙愧の念に耐え切れず泣き崩れるシーンでしたが、ゲームやアニメではちょっと自責の念が薄いかなーって思ったので、敢えて私なりに味付けしてみました。


 一体彼女はどうなるのか? 度腐れ悪童どもの末路は? それは……早速これから書くとこです! 次は来年にお会いいたしましょう!


 それでは、また! 不識庵・裏でした~! 皆さん良いお年を~!

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