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真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第一部「楼桑村立志編」
3/62

第三話「新たなる決意」

  前回からの投稿から丁度一週間。続きを楽しみにされていらっしゃる皆様方には大変お待たせして申し訳なく思います。


 今回は投稿前のチェックをお願いしている黒蜜白石様が、学期末考査である事を考慮し、初めてノーチェックで投稿する事と相成りました。


 投稿前に自分なりに目を通しましたが、それでも抜け落ちている箇所があるかと思われます。お気づきになられましたらご一報願います。



  あの後、一刀を歓迎する為に酒宴が催されたが、主賓である一刀は未成年故に飲酒の経験があまり無かった。


 おまけに酒自体が飲み慣れぬものであった為か、彼が一番最初に酔い潰れる。その直後、今度は顔を真っ赤にした桃香が彼にもたれかかると、彼女も眠りの世界へと旅立っていった。

 

 伯想達は、そんな二人に苦笑一つ浮かべるだけで、後は残った自分達だけで酒を楽しむ事にした。



「……ううっ、寒ッ 」



 時が経ち、酔いが醒めたのか。急激な寒気に襲われ一刀は目を覚ます。



「イッ……ツツッ! 」



 その直後、慣れぬ酒精(アルコール)を摂った代償か、鈍い痛みが一刀の頭を襲う。思わず彼は顔をしかめた。



(このままじゃ、風邪引いちゃうしな。取り敢えず起きよう )



 そう考えて、起きようとするが、左腕が動かない。何故なら、そこに重みがあったからだ。



「うぅん……。一刀さぁん 」



 不意に寝言らしきものが聞こえた。その時点で見当はついたが、改めて確かめてみれば、桃香が自分の左腕を枕にしている。彼女は、ちゃっかりと自分が着ていた制服の上着を上掛け代わりにしており、すやすやと寝息を立てていた。



(流石に返せとは言えないよなぁ、まっ、いっかぁ。良い物見られたし )



 一刀の体は冷え切っており、本来なら上着を返して欲しいところであった。だが、とても可愛らしい桃香の寝顔を見るとその気になれず、むしろ自分は運が良いとすら思えてくる。



(ヤバッ……。もしかして、俺マジで桃香の事が好きになってきちゃったのかな? )



 彼女の寝顔を見ているだけで、胸の内側が熱くなってくるのが一刀には判った。しかし、彼女とは昨日初めて会ったばかりだと言うのに、好意を、いや、恋愛感情を抱くのが余りにも早すぎるのではないのだろうか? 一刀は自問自答する。

 

 思い当たる節は沢山ある。行き倒れた自分を助ける為に口移しで水を飲ませてくれたり、行く宛も無い自分に寝床を提供してくれたりと、赤の他人に過ぎない自分にここまで甲斐甲斐しくしてくれた。

 

 だから、そんな桃香が、今では途轍もなく愛しく思える。だが、一刀は思いとどまった。もしかすると、日本に帰れる手段が見つかるかもしれない。その時、中途半端な自身の感情を彼女に押し付けるわけには行かないのだ。



(そう。だから……封じ込めておこう、この気持ちは。この時代の人間じゃない俺が、今を生きている彼女の邪魔をしては駄目なんだ )



 一刀は、そう自分で結論を出すと、桃香の眠りを妨げぬよう、サラサラとした感触の髪越しで彼女の頭をゆっくりと持ち上げる。そして、近くに落ちていた自分のタオルを手に取る。恐らく、スポーツバッグの中に詰め込んでいたものであろう。それを何とか片手で折り畳んでで床に置き、その上に彼女の頭をそっと載せた。次に自由になった左腕の痺れと凝りを解すべく、右手でそこを揉み解す。


 左腕の違和感が無くなると、一刀はフゥとため息を吐き、背伸びして辺りを見回す。既に室内の明かりは消え失せていた。それなりに用意されていたはずの酒や料理も綺麗さっぱりに無くなっており、大小様々ないびきが部屋の中に響き渡っている。いびきの正体は、先程宴を催す際に互いに名を、そして『真名』を預け合った者達であった。



 赤面長髭の大男で、かつ伯想の義弟『関翼』、字は『仲拡』、真名は『義雲』。※1(関羽)

 

 虎髭の大男で、かつ伯想の義弟『張翔』、字は『叔高』、真名は『義雷』。(張飛)

 

 長髪の美丈夫『趙空』、字は『子穹』、真名は『雲昇』。(趙雲)

 

 老熟した雰囲気を持つ中年の猟師『黄誠』、字は『国実』、真名は『永盛』。(黄忠)

 

 野性的な偉丈夫で馬の繁殖を営む『馬越』、字は『伯起』、真名は『壮雄』。(馬超)

 

 馬越の弟で、兄を手伝っている『馬岳』、字は『仲山』、真名は『固生』。(馬岱)

 

 飲んだ暮れだが、薬草と医学に明るい学者崩れ『龐総』、字は『統伯』、真名は『喜楽』。(龐統)

 

 村で子供達に学問と剣を教えている武芸者の『徐立』、字は『季直』、真名は『道信』。(徐庶)

 

 最後は……一刀を知性の光で強烈に照らした『諸葛瞭』、字は『然明』、真名は『照世』。(諸葛亮)



 一刀は、自分の目の前で眠る彼らを見て、物語では神懸り的な武勇や智謀を誇った彼らも、所詮は自分と同じ普通の人間だと思えるようになってきた。


 しかし、その一方で、自分は今非現実的な出会いや体験をしている。そう思うと、段々と興奮してきた。そのせいか今度は眠れなくなり、頭と目は冴え渡る一方だ。



「フゥ…… 」



 すると、一刀の耳にとくとくと水音が聞こえた。それは何かを飲み込む音の後で、酒精交じりのため息に変わる。音の方を向くと、一人残った伯想だけが窓辺で月見酒としゃれ込んでいた。杯を傾ける彼の顔は、どこか寂しそうに見える。



「伯想さん 」



 無粋さから来る申し訳なさを感じつつも、一刀は小声で伯想に呼びかけた。



「おっ、北の字。酔いが醒めたか? 」



 気付いたのか、伯想は酒を飲む手を休めると、一刀に顔を向けた。相変わらずの砕けた口調だが、儚げな笑みを浮かべている。



「ええ……。伯想さん。ちょっと……外、歩きませんか? 外の空気も吸いたいし、伯想さんにお話したい事があるんです 」


「何だ何だ? 明日じゃ駄目か? 」


「はい、少なくとも皆の前で話せる内容じゃないんで 」



 一刀の真剣な顔に何か勘付いたのか、伯想は何も言わずに頷き、二人はコッソリと外に出た。



「これから、ちょっと行きてぇとこがあるんだ。話をするのはそこに着いてからで良いか? それと、これを着ときな。春先になったとは言え、ここの夜は冷えるからな 」



 外に出て伯想は開口一番で一刀にそう言い放つと、家を出る際に引っつかんできたのだろうか、彼は上がワイシャツ姿の一刀に上着を投げ渡した。一刀は早速それにそでを通すが、一刀には少し大きめだった。恐らく伯想の物かと思われる。



「構いません 」



 伯想の言葉に一刀が首を縦に振ると、彼は一刀の先を歩き始めた。村の入り口を出て、先程の街道を村に来た時と逆方向に歩き始める。少し歩くと、今度は街道沿いの森に入り始めた。


 月明かりを頼りに森の中を歩くと、やがて開けた場所に辿り着き、そこで伯想は歩みを止める。それまで二人は終始無言で、一言も発していなかった。



「で、話ってのは何だ? 北の字? 」



 振り向きざま、そう言って満月を背に立つ伯想は儚げな笑みのままだった。一刀にはそれが物凄く寂しそうに感じられる。



「ええ、宜しいですか? 蜀漢皇帝『劉玄徳』陛下 」



 既に自身の中では確定していたが、改めて確認する為に一刀はカマをかけてみる事にした。その際、諱で呼ぶことを避け、当時一般的な『字』呼びにする事を忘れない。

 

 次に、昔見た三国志物の映画やドラマに出てきた最敬礼を見よう見真似で行う。跪いて胸の前で両手を組み、それを伯想の前に突き出す形で深々と頭を下げるというものだ。即ち、『拱手行礼』といったところであろうか。



「やめな。今のおいらはそう呼ばれる立場じゃねぇんだ。だから、面ァ上げてくれ。それと……やっぱりおめぇさんは知ってたんだな。おいら達の正体。迂闊だったぜ、まさか北の字の猿芝居に引っかかるたぁ、情け無ぇったらありゃしねぇ 」



 一刀の大仰な仕草に、伯想は苦笑交じりで止めようとした。だが、それも束の間の事で、彼はしまったと気まずい表情になる。それを見た一刀は思わずしたり顔でにやりと笑った。



「ええ、貴方と貴方の仲間の人達の特徴は、俺の知っている三国志の話に出てくる人物と同じだからです。無論、劉思や伯想という字も偽名ですよね? この世界では桃香が劉備を名乗ってますから 」



 表情を真面目なものに改め、一刀は自分の推測を伯想に告白した。



「そうだ、おいらが劉玄徳だ。でもよ、最初は正直訳が判らなかったぜ。おいらもそうだが、雲長も益徳も孔明もみんな若返っていやがったしな 」



 憮然とした表情で首を縦に振り、肯定の意を示す伯想。そして、彼は自分等の事を話し始める。



「ここですよね? 桃香の話にあった伯想さん達が倒れていた場所というのは 」



 改めて周囲を見回す一刀。森の中はふくろうの鳴き声が響き渡り、生き物の目が月明かりに反射して光っていた。



「ああ、そうさ。おいら達はここに倒れていたのさ。それでなぁ、その桃香の事だ。自分と同じ名を名乗ったあの子に、おいらは物凄く戸惑った。でもよ、孔明が直ぐに知恵を貸してくれたんだ。そして、慌ててその場で全員で名前を決めてな。だから、劉伯想と名乗った訳よ 」



「『真名』もその場で決めたんですか? 」



 そう、この世界には『真名』の存在がある。一刀はそこら辺の確認をとるべく、伯想に尋ねてみた。



「あぁ……。真名に関してはな、正直に『無い』って言った。だから、皆で決めた。おいらの『一心』と言うのは桃香が名づけてくれたんだ 」



 そうあっけらかんと言うと、伯想は頬をこりこりと掻きながら照れ笑いを浮かべる。自分の予想と違う答えが返ってきたが、一刀には桃香から真名を名づけてもらった伯想が少し羨ましく思えた。



『伯想さんを見ていると、真心と言うか、信念の塊みたいなものを感じるの。だから『一心』って名前なんてどうかな~ 』



「ってなぁ、もう一人のおいらにしては何て健気なんだと、感動しちまったぜ! 」



 へたくそな桃香の口真似をすると、伯想はあの時の事を思い出したのか、興奮し声高に叫んでいた。



「えーと、これが一番聞きたかった事なんですけど。伯想さん達はどのような経緯でこの世界に来たんですか? 俺の場合はさっき話したように学校に行く途中で変な光に包まれた訳だったし 」



 これが一番の疑問点だ。自分をこの世界に呼び込んだ謎の光。自分は登校途中にそれに包まれてしまった。では、彼らの場合はどういう状況だったのだろうか? 


 彼らの方だって色んな経緯があるだろう。ましてや、物語の途中ならば、話自体が変わってしまうかもしれない。一刀はそんな危惧すら抱いた。



「あぁ……それか。みんなバラバラさ。おいらは白帝城、雲長は麦城、益徳は自分の屋敷の寝室、孔明なんざ五丈原だった。まぁ、自分が死んだ直後にこの世界に来たと見ていいかもな 」


「そうだったんですか……(取り敢えず、俺のいた世界の『三国志演義』に影響は無いと見て良さそうだな。でも、あの光は一体何なんだろう? ) 」



 伯想の返答は一刀をある意味安心させたが、それでも謎の光に対する疑念は消えなかった。



「なぁ、北の字……。おめぇさん、本当は帰えりてぇんじゃねぇのかい? 」


「うっ…… 」



 いきなり真顔になった伯想が一刀に尋ねる。自分の心の奥底にある本心を突かれ、一刀は狼狽した。



「やっぱりな。おいら達は元の世界では寿命使い切ったし、もう過去の人間だ。だからあっちにゃ未練もねぇし、この世界でもう一度人生を楽しみてぇとすら思ってるんだよ。だが、おめぇさんは違う。お父っつぁんもおっ母さんもいるんだろ? 会いたい奴だっているんだろ? 」


「……はい 」



 伯想の言葉を聞く内に、次第に一刀の両目から涙がこぼれ始め、声も涙声になっていた。彼の脳裏に、両親と厳しいが優しかった祖父の顔が、悪友の顔が、ちょっと気になる女子の顔などがよぎる。胸中に突如生まれた望郷の念が急激にふくらみ、彼は崩れ落ちついに慟哭した。絶望的な一刀の嗚咽が森中に響き渡り、伯想はそっと傍に近寄ると、一刀の背中を優しくさすり始めた。



「悪かったな、こんな事言っちまってよ。だけどな、これからおめぇさんはここで生きていかなくっちゃならねぇんだ。余計な事思い出してめそめそ泣かれるよりは、むしろここでまとめて泣いてもらおうと思っていたのよ。だからたっぷり泣きな、そして泣くのが終わったら強くなれ。『一刀』、おめぇは漢なんだからよ! 」



 現実を突きつける伯想の言葉は、一刀には残酷に聞こえたのかもしれない。だが、ここでまとめて泣けというのは彼なりの優しさの表れであろうか。一刀の事を『北の字』呼ばわりしていた彼だが、ここでは本名の『一刀』と呼んでいる。

 

 一刀に優しく語り掛ける伯想の顔は、優しく頼もしい父でもあり、兄のようにも見えた。一刀は泣いた。泣いて泣いて泣き捲くり、涙が枯れ果てるまで泣きじゃくった。



(ごめんなさい……。私、一刀さんの寂しい気持ちキチンと理解していなかった。それと……一心兄さんの正体が別の世界の私だったなんて……。そうか、だから私……兄さんに不思議なものを感じたんだ。一心兄さん、優し過ぎるよ……。本名を名乗ってくれても良かったのに )



 そんな二人を遠くから眺める人影があった。桃香だ。あの後彼女が目を覚ましてみると、伯想と一刀がいないことに気付く。慌てて外を見てみれば、何やら二人してどこかへ向かおうとしているではないか。


 しかし、二人の雰囲気にただならぬものを感じたのか、彼女は二人に気付かれぬようこっそり後をつける。彼らの向かった先は一年前に自分が伯想達と出会った場所であった。


 そして……。運悪く彼女は二人のやりとりを聞いてしまう。二人に対する申し訳なさと罪悪感めいたものを感じたのか、声を上げぬよう両手で口元を覆い桃香は偲び泣いた。



「気ぃ、済んだか? 」


「はい、ありがとうございます。伯想さん 」


(一刀さん…… )



 あれから、どれ位経ったのだろうか。泣き腫らした目のまま、一刀は立ち上がると真っ直ぐ伯想を見た。一刀の瞳には新たに力強い光が宿り、唇をきゅっと結んだ彼の顔は引き締まっていた。もう、望郷の念にかられて泣きじゃくった少年ではない、この世界で生きて行く決意を固めた一人の漢になっていた。


 同じく、泣き止んだ桃香は彼の姿をとても頼もしく見ていた。『この人も心が強いんだ 』彼女には一刀がそう思えた。



「いい面になったな……『一刀』 」


「沢山泣いたら、なんだか吹っ切れました。正直まだ家に帰りたいなーってのはありますけどね 」



 伯想が満足そうに頷くと、一刀は恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。



「まっ、しゃぁねぇ。そこら辺は誰にもある事さ。次第に慣れてくしかねぇよ。ところでよ、一刀。チョッと聞きてぇ事がある 」



 伯想は、再び真顔で一刀に尋ねた。



「はい、何ですか? 」



 伯想の真顔に緊張を覚える一刀。



「おめぇ、桃香の事が好きか? 」


「えっ!? 」


(はうっ!? )



 思わぬ事を聞かれ、一刀は驚いてしまった。桃香も思わず驚きの声を上げそうになったが、慌てて口を押さえ込んだ。



「あ、あのー。それって重要な事ですか? 」



 思わぬ質問に呆れ顔になった一刀は伯想に聞き返す。



「ああ、重要な事だ。キチンと答えろい! 好きなのか? 好きじゃねぇのか? 」


 

 だが、それに対して伯想はまなじりを吊り上げると一刀を一喝した。一刀は、そんな彼の問いが冗談でない事を悟ると、覚悟を決めたのか、一刀もまた真剣な顔になって答え始める。一方の桃香は、期待半分恐れ半分の気持ちを胸中に抱いていた。



「はいっ、好きですっ! 」


(えっ!? )


「それは、ダチとしてか? それとも女としてか? 」


「女としての方です! 実は桃香に口移しで水を飲ませてもらってから、彼女の事が好きになり始めていましたッ!! 」


(ええええっ!? )


「それなら、抱きてぇか? 」


「はいっ、出来る事なら抱きたいですッ! 」


(え、ええ~~っ!? )


「『えろほん』に載ってた姿勢でヤってみてぇか? 」


「はいっ、エロ本に載ってるようなポーズで桃香とヤりたいですっ!! ……って、はい? 」


(は、はううぅ~~~~!! )


「うんうん、正直な奴ァおいら好きだぜぇ~! 良くぞ言った! 」


「しっ、しまったぁ~~~~!! 北郷一刀一生の不覚!! 」


「ダッハッハッハ! 野郎が好色(すけべい)でなくってどうする! おいらの親父も良く言っていたぜ! ぶわっはっはっは! 」


「ア、アンタは鬼だぁ~~~!! 」


「悪かったよ、だから落ち着けって、な? 」



 ふと、そこまで答えて一刀は気付いた。目の前のこの男は真面目な雰囲気を演出しておきながら、トンでもない誘導尋問を仕掛けたのだ。最後の答えを聞いて、伯想はいやらしそうにニヤリと口角を歪ませると、思いっきり爆笑し始める。

 

 思わず絶句した一刀は、爆笑する彼を睨み怒声をわめき散らす。伯想は笑いながら謝罪するが、正直笑いながら謝られても説得力なんぞ皆無だ。


 一方、一刀の告白どころか、それを通り越し激白を聞かされた桃香は、口を押さえたままその場にへたり込む。

 

 彼女は伯想が好色な人物なのは知っていた。既に何人かの村娘や、城下町の酒家の酌婦が彼と一夜を過ごした話を聞かされたこともある。しかし、桃香自身はまだ男を知らぬ『未通女(おぼこ)』だ。伯想が誘導させた一刀の本心は、彼女に刺激が強すぎる。胸の鼓動は先程から止まらないし、目は泳ぎっぱなしで、顔はまるで火山の大噴火のように真っ赤になっていた。



(お、落ち着かなくっちゃ、私。え~と、こういう時は深呼吸だよね! だよね! )



 錯乱状態の彼女の頭はそう結論を出すと、大きい胸を上下させて深呼吸を始める。新鮮な空気を大量に取り入れたのか、徐々に冷静さを取り戻した。



(ふぅ、これでヨシっと。それにしてもびっくりしちゃったよぉ~。一刀さんもやっぱり男の人だからそう言う気持ちがあるんだよね。それも私なんかと……あの本に載っていたみたいな格好で……。ううっ、恥ずかしいけど……。でも、嬉しいな。私の事をそこまでしたいと思うくらい好きになっていてくれたなんて )



 普通の人が聞いたら『とんでもない』と思うに違いないだろう。だが、彼女は先程伯想と一刀の前で『一刀さんとなら間違いがあっても構わない』と爆弾発言を投下した経緯がある。


 実は彼女も、一刀に初めて出会った時から彼にどこぞと無く惹かれ始めていたのだ。いわゆる『ひとめぼれ』である。そして、救命手段とはいえども彼女は一刀と口づけてしまった。


 そのような事も重なり、桃香は彼の近くにいたいという気持ちが物凄く強くなっていた。だからこそ、彼女は一刀と一緒に住むという台詞を吐いた訳である。


 男はまだ知らないが、同い年の女友達や学問を教えてくれた盧老師からそれ関連の事を色々と聞かされており、桃香もそれなりの知識は持っていた。いつかは好きな人とそういう事をするのだと心に決めていたが、まさか、そのひとめぼれしてしまった一刀が自分とそう言うことをしたいと声高に叫んだのだ。

 

 恋を知る年頃の彼女にとって、一刀の存在は急激に『好きな男』の位置付けになっていた。そんな彼と自分が男女の睦み合いをする姿を想像する。それだけで彼女の心臓は、またトクントクンと早鐘のように鼓動し始めた。



「確かに、そう言う関係になりたいほど、今俺は桃香の事が大好きです。むしろ愛していると言いたいほどですよ。でも、矢張りそんな事は出来ません。いたずらに彼女を傷つけたくないし、それに…… 」



 落ち着きを取り戻したのか、一刀は静かな口調で話し始めるが、口をつぐんでしまった。



「それに……。おめぇさんの時代の『日本』に帰えれるかもしれねぇからだろ? 」


「はい……。そうです…… 」


(そう、だよね……。確かに一刀さんはこの時代の人じゃないんだ。だとしたら、私が一刀さんの足枷になってしまう )



 伯想が一刀の台詞を付け加えると、核心を突かれた一刀は顔を曇らせる。さっきまで桃色妄想大爆発状態であった桃香も一気に顔を曇らせてしまった。



「なぁ、北の字よ。おめぇさん、国に帰える手段や方法が判ったら、そん時ゃ帰えるんだろ? 」



 伯想はフッと笑うとおもむろに立ち上がり、後ろ手に手を組みながら一刀の周囲をゆっくりと歩き始める。桃香は黙って成り行きを見守っていた。



「当然ですよ。だって、元々俺はこの世界では『招かれざる客』ですし 」



 さも、当然といわんばかりに言い返す一刀、だが伯想はそんな彼に優しく微笑んだ。



「おいらは思うんだがね。おいら達やおめぇさんがここに来たのは何か『意味』があるんじゃねぇのかな? 」


「『意味』ですか? 」


(意味…… )


 

 伯想の喋り口調は相変わらずの『べらんめぇ』であったが、実に穏やかな優しい声で彼は一刀に語りかける。一刀は彼の声に安堵感を覚えた。



「そうさ、『意味』だよ。もうご存知だと思うけどよ。元の世界でおいら達は何だかんだ死にもの狂いでやってきて、ついには『蜀漢』を興す事が出来たし、おいらは『皇帝陛下』と呼ばれる御身分にまでなった。まっ、最後の最後で下手ぁ打っちまったけどな。でもな、あの時代で生きてきた『意味』がおいらにはあった。きっと、あいつらも同じだと思うぜ 」


(多分、伯想さんと一緒にこの世界にやってきた人達の事だな )



 一旦話を区切り、伯想は夜空に輝く月を見上げると、再び語り始めた。



「そして、この世界のおいら……『桃香』の事さ。あの子はおいらと同じ『皇帝』への道を歩むかもしれねぇし、或いは貧しい村で平凡な一生を終えるかもしれねぇ。けどよ、おいら達が、次におめぇさんがこの世界にやってきた。どっちもまるで桃香に引き合わせたみてぇにな。ここまでくると偶然とは思えねぇ、もしかすると、おいら達とおめぇさんがここに来た『意味』はあの子の人生を見届ける事にあるんじゃねぇのかな? 」


「伯想さん達と、俺が……桃香の人生を見届ける…… 」


(わっ、私が『皇帝』!? そんな、ありえないよ! )



 伯想の言葉は一刀と桃香に大きな衝撃をもたらした。一刀は伯想の言葉を繰り返すようにつぶやき、桃香は平凡な村娘に過ぎない自分が、そんな大それたものになれるかと驚き半分、疑い半分であった。



「そうさ。だからよ、最後の最後にまでなってみねぇと判らねぇもんさ。『日本』に帰えれるかどうかはそん時考えりゃいいし、桃香の事が本気で好きなら、この世界から奪い取る位ぇの気持ちで接してやりゃあいいさ! 」


「伯想さん…… 」


(一心兄さん……本当に優しすぎるよぉ…… )



 伯想は一刀の両肩を力強く叩き、初めて出会った時の『あの顔』で真っ直ぐ一刀の顔を見る。一刀は改めて伯想こと劉備と言う漢の『深さ』を実感した。桃香はもう一人の自分であり、兄と慕う人物がここまで自分の事を思ってくれていたのかと思うと、嬉しさのあまり涙がこぼれてくる。



「わかりました、伯想さんッ! 俺、やっぱり桃香の事が大好きです! むしろ愛しています! そして……絶対にこの世界から奪い取りますよ! 」


「よしっ、その意気だ! もう一人のおいらをよろしく頼むぜ! 」


「はいっ! 」


(嬉しい……。一刀さん、本当にありがとう )



 迷いはもう吹っ切れた。意を新たに決し、同じく一刀も真っ直ぐ伯想を見る。それに伯想が実にいい笑顔で返すと、二人はガシッと腕を強く組んだ。一刀の熱い想いを受けた桃香は、更に嬉し涙を流す。



「※2皇天后土(こうてんこうど)の神々よ、御照覧あれっ! 生まれし時は異なり血縁は無くとも、今我等は真の兄弟にならん! 」


「今俺達は真の兄弟になる事をここに誓います。だから、俺たちの行く末をとくとご覧下さいっ! 」


(あ……。二人とも神様に誓いの言葉を言い始めている。そうか、さっき一心兄さんが一刀さんの事、実の弟にするって言ってたから……。何だか羨ましいなぁ )



 急に伯想が誓いの言葉を言い始めると、一刀もそれに応じるべく自分の言葉で誓いを立てる。そして、二人が互いにニヤッと不敵そうに笑うと、桃香にはそれが眩しく、そして羨ましくも思えた。



「改めて、兄上。よろしくお願いします。この不出来な弟をご指導ください 」


「ああ、こちらこそ改めてよろしく頼む。一刀……今日からお前は私の弟なのだから 」



 兄弟の誓いを交わした後、ひざまずき、拱手行礼をする一刀。伯想は片膝を付き、一刀の手をとると『劉備』の口調で語りかけ、優しく微笑んだ。



「どれ……。それじゃ早速だが、おいらはおめえさんを『いっぱし』に鍛え上げようかと思う 」


「え? 」



 いつもの口調に戻った伯想の言葉に一刀がキョトンとなると、伯想は呆れ顔になった。



「あのなぁ、北の字。この時代はなぁ、おいら達がいた世界とほぼ同じ情勢なんだよ。外には野盗や山賊に江賊海賊、内にはごろつきが掃いて捨てるほどいるんだぞ? 場合によっては腕っ節が必要だし、知恵を絞んなくっちゃいけねぇ時もある。ここはおめぇさんがいたような天下泰平じゃねぇんだ。判るか? 」


「あ……。確かにそうですよね、済みません。言われるまで認識していなかったです 」


(あ、あはは……。一刀さん、のん気そうだもんね。私が来なかったらあのまま身包みはがされて野垂れ死にしていたかも )



 呆れ顔のままで、伯想は改めてこの時代の情勢を一刀に説明すると、彼は気まずそうな顔で頷き、桃香は苦笑いを浮かべていた。



「桃香もああ見えるが、おいらや仲間連中が鍛えてるんだよ。武芸・兵法・礼法と何処へ行っても通用できるようにな。少なくとも今のあいつはおめぇさんよりは強ぇぞ? おいらも鍛え直してる最中だが、そのおいらから十本の内一本は取る事が出来るようになっているし、おいら御自慢の六人の武芸達者どもからは三十本中一本は取れるまでになった 」


「え……? と、桃香って、そんなに強いんですか? でもなぁ、何だか想像できないよなぁ…… 」


(う~~! それって私が弱いって事? これでも私結構凄いんだよ? 村の男の子達は喧嘩で私に勝てないんだからっ! )



 伯想の説明を受け、一刀が正に『信じられない』表情になると、桃香は面白くなさそうに頬を膨らませた。確かにそうであろう、ほんわかした雰囲気の彼女が『蜀の五虎将軍と馬岱』相手に三十本のうち一本は取る。これは正直想像できないというものだ。もし、その話が事実であるとすれば、彼女は並のごろつきや追いはぎ程度なら簡単に倒せるであろう。



「あ、改めて言っとくがな。桃香は既に自分の身くれぇは守れるようになってるぞ? 人はまだ殺してねぇが、以前おいらたちの留守を狙って村に来たごろつきどもを半殺しにしたことがある。話によると、確か四、五人ぐれぇだったかな? 」


「え……マジですかっ!? 」


「うん、マジだぜぇ。何なら明日にでも村の連中に聞いてみるんだな? あん時ゃ、おいら達以外の村の連中が一部始終見てたしよ 」


「うそーん…… 」


(あぁ~、そう言えばそんな事があったような。でも、何もこんな時に言わなくってもいいじゃない。恥ずかしいよう…… )



 伯想がそう付け加えると、一刀は今度こそ驚いた。桃香は自分より弱いと思っていたし、いざとなれば自分が彼女の事を守れるとさえ思っていた。だから伯想の話も少し大げさではないのかと眉唾物で聞いていた。

 

 だが、彼が真面目な顔で話すところを見るからに、本当に嘘ではない事が判る。この時、一刀の中で自分なりに築いてきた『男の矜持(プライド)』が音を立てて崩れ始めた。桃香はあの時の事を思い出したのか、自分の武勇伝を話す伯想を少し恨めしく思ったし、同時に恥ずかしく思えてきた。


 一刀は学校の部活動で剣道をしており、れっきとした段位も持っている。しかし、これまでの話を聞くからに一刀は、桃香とやりあったらまず勝てないと思った。既に彼の脳内では、試合で桃香にコテンパンに伸されている自分の姿が鮮明に描かれている。

 

 自分がこれまで勝てなかった女性といえば、学園中の憧れの的である不動先輩位だ。少し変な口調で話すが、彼女は常時凛とした雰囲気を持っており、付け入る隙が全くといってない。


 それに対し、桃香は何もかもが彼女とは正反対だ。そんな桃香が自分より強いのかと思うと、一刀は自分のお気楽さに呆れてしまい、同時に自分が物凄く情けなく思えてきた。



「まぁ、がっくりするこたねぇさ。桃香だって、最初の頃は素人剣法のへっぴり腰だったしな。だから、おめぇさんも鍛えりゃモノになるぜ? なんせ、ウチにゃ武芸なら右に出るもの無しが六人もいるんだ。頭の方だってすげぇ奴が三人いる。無論、使う機会が無い方がいいがやっとくに越した事はねぇよ 」


 

 すっかり矜持(プライド)を傷付けられ、ガックリうなだれる一刀。哀れと思ったのか、伯想は一刀の肩を優しく叩き、慰めの言葉を掛けた。

 


「はい……。ありがとうございます……。ちっくしょう! こうなったら俺も男だ!! とことんやれるとこまでやってやらァ!! 」


「うしっ! その意気だ! 早速明日からみっちり仕込んでやっからよ、北の字! 」


「はいっ! よろしくお願いします! 兄上! 」


(大丈夫だよ! 私だってそれなりに出来たんだし、一刀さんなら絶対私より強くなれるよ! だから、私の事を守れる位強くなってね! )



 それに対し、弱々しく返事を返した一刀。だが、それも束の間。いきなり彼は、開き直ったかのように握り拳を作ると力強く声高に叫んだ。


 伯想が満足げに頷き、力強く一刀の背を叩いた。一刀は痛そうに背中を押さえつつも、実にイイ笑顔を彼に返す。


 そして、今すぐにでも飛び出して一刀を励ましたい衝動をこらえながらも、二人のやり取りを隠れてみていた桃香は心の中で一刀に声援を送るのであった。



(でも、もう一人の私。一心兄さんって……一体どういう人生を送ったんだろ? 皇帝になったと言ってたけど……。ううん、駄目だよ。多分それは絶対に聞いてはいけない事なんだ。そう、だから私は私の道を歩こう。一刀さんは知ってるようだけど、絶対に聞かない。でも、私は……この世界でどうしたらいい? そう、私は…… )



 その直後、彼女の中で疑念が生じる。そう、彼女は運悪く知ってはいけない事を聞いてしまったのだ。少なくとも、もう一人の自分である伯想と一刀はこれからの自分の運命を知っていると思われる。


 だが、彼女はかぶりを振ると、自分で自分を納得させる。伯想の人生は伯想のものであって、自分のものではないのだ。恐らく一刀も彼と同じで、自分がこれからどうなるか教えてくれるなんて、そんな都合の良いお願いなんか聞いてくれる訳も無かろう。


 彼らの助けを借りる事はあるかもしれない。だが、結局は自分の人生は自分で切り拓いて行くしかない。そう落ち着かせた桃香だが、この時初めて『自分のあるべき姿』を考え始める。

 

 自分は中山靖王の血筋ではあるが、劉姓を名乗るだけの只の村娘だ。両親は失ってしまったが、伯想をはじめとした頼れる家族を得たし、そして一刀に出会った。


 出来る事なら彼と結ばれ、子を産み、家庭を作り、贅沢はいらないからささやかな幸せを送るだけの平凡な一生であればいい。ついさっきまで彼女はそう思っていたのだ。


 だが、今は違う。伯想と一刀の会話で出てきた『皇帝』と言う言葉が、彼女の心を掴んで離さない。だが、彼女は元々争いごとが嫌いな性分であるし、そもそも『野心』とは全く無縁だ。

 

 しかし、彼女は考える。年を追うごとに暮らしは悪くなる一方だ。ここ最近はごろつきが言い掛かりをつけてくるようになってきたし、外に出れば賊の類が出没するようになってきた。役人は税を取る事しか能がなく、自分達の声なんか聞く耳を持たない。



(一心兄さん達が来てから、村から不正はなくなったし、お役人も照世さんたちに論破されて徴税を吹っかけないようになってきた。でも……他の所は違うよね? 私達だけ良ければいい訳がないよね )



 ふと、彼女は伯想達が来てからの事を思い出す。それまでの楼桑村の暮らしは他よりマシとは言えども苦しいものであった。時折、よそからのならず者達が村で乱暴狼藉を働くし、役人は税の勘定を誤魔化し、もっと出せと吹っかけてくる。

 

 彼らの目に止まった娘がいれば人身御供同然で奉公に出され、村に戻された時には心身ともにボロボロにされてしまい、村中には泣き声が絶えなかった。絶望して自ら命を断った者もおり、その犠牲者の中には桃香の子供の頃からの遊び仲間もいた。


 自分も役人の目に止まりかけた事もあったが、亡き父が昔地方役人であった事と、学問の師である盧植が口利きを働いた事もあってか、そのたびに難を逃れていた。

 

 だが、伯想達が来てから村は息を吹き返した。ならず者達は伯想やその仲間である六人の豪傑たちによって完膚なきまで叩きのめされ、更生されたのか、挙句の果てに伯想の子分になりたがる者さえ出てきた。


 役人の時もそうだ。彼らが言い掛かりをつけると、伯想の知恵袋の照世が正論を並び立て論破し、おまけに作物を納める際に使われていた計量用の器財の細工を見抜く離れ業さえ、皆の前でやってのけたのだ。


 そして、最後に伯想たちが『睨み』を利かせると、すっかり彼らは怯えあがってしまい、二度とそう言う行為に及ばなくなっただけでなく、村の娘達に手を出す事もしなくなった。



(そうだ……。今度は私がみんなが楽しく笑顔で暮らせる世の中を作ればいいんだ! でも、その前にこの国を何とかしなくっちゃいけないよね! )



 それらの事を思い出し、深呼吸して桃香は一つの結論に辿り着こうとする。おもむろに目をつむり、そして彼女は勢い良く開眼した。



(私は……。弱りきってしまったこの国、『漢』を建てなおす! そして、みんなが笑顔で暮らせる世の中を作るんだ! だから、私は戦う! 私が、争いを終わらせる! そう、この大陸で生きるみんなの為にっ! )

 


 今、星のきらめきを瞳に宿した『劉備』こと桃香。只の村娘にしか過ぎなかったこの少女が大望を抱くきっかけを作ったのは、皮肉にも異世界から来たもう一人の自分と、同じく異世界から来た一刀の言葉であった。


 この時、ゆっくりとではあるが、時代の波が動き始める。夜空に輝く満月を見上げる桃香の姿は、まるで神々に誓いを立てているかのようで、凛々しくもあり神々しく見えた。



 

 所変わり、荊州(けいしゅう)の南にある長沙(ちょうさ)。ここを治めるは孫子こと孫武の末裔を称する孫堅。彼女の特徴は鮮やかな薄紅色の髪に、南方人の特徴である褐色の肌。頭に真紅の布を巻きつけ、眼光は獲物を狙う虎のように鋭く、妖艶な雰囲気を醸し出す赤い紅を引いた唇。人ごみの中を歩けば、恐らく彼女は沢山の男の目をひきつけるであろう。

 

 彼女はまだ三十代半ばと若く、極めて文武の才に恵まれており、若い頃から海賊討伐に江東の反乱鎮圧で武勲を立て、『江東の虎』の名で呼ばれていた。


 そんなある日の事である。彼女が城の執務室の中で側近達と政務を執っている最中の事であった。



「母様、入るわよ? 」


「母様、失礼致します」


 

 と、断りの挨拶と共に二人の少女が部屋の中に入ってきた。言葉の内容からして、彼女の娘であろうか。二人とも髪と肌の色が母親譲りであった。



「あら? 雪蓮に蓮華じゃない。何か用なの? 」


「うーん……。親子だけで話したいんだけどいいかな? 」



 二人の娘のうち、背の高い方が気まずそうに口を開いた。目の前の母もさながら、彼女は後ろに控えている側近達をバツが悪そうに見る。



「ふむ、雪蓮がそう言うのなら余程の事なのね。大喬、小喬。お茶の用意と二人の椅子を持って来て頂戴。(えん)(さい)蝋梅(らめい)山茶(しゃんちゃ)。貴女達は一旦下がってて、話が済んだら直ぐ呼ぶわ。その間に食事でもしてきて頂戴 」 



 一息つくには丁度良い頃合であろうか。彼女はそう判断すると、近くにいた侍女に茶と娘達の椅子を用意を、側近達には一旦下がるよう命じる。やがて椅子と茶が運ばれ、親子三人は茶を飲みくつろぎ始めた。 



「で、何なのかしら? 用は? 私の仕事を中断させるほど『重要な事』なんでしょうね? 雪蓮(しぇれん)? 蓮華(れんふぁ)? 」



 茶碗を傾け、彼女はそれぞれ名前を呼んだ順に笑みを向けるが、正直目は笑っていなかった。それを見て、二人はゾクッと全身の鳥肌が立つのを覚える。



「うん、ちょっとね……。ほら、蓮華。あなたから言いなさいよ 」


「ねっ、姉様。それってずるいわよっ 」



 『雪蓮』と呼ばれた先程の背の高い娘が、気まずそうな顔で『蓮華』と呼ばれた娘を肘で突っつく。恐らく『雪蓮』が姉で、『蓮華』が妹であろう。どちらも美人であったし、体つきも実に女らしい。


 しかし、この姉妹は持っている雰囲気が異なっていた。雪蓮が開放的なら、蓮華は実に生真面目そうなものを感じる。話を振られた蓮華は、振ってきた姉を恨みがましそうに睨んだ。



「あのねぇ……。この際雪蓮でも蓮華でもいいわ。だーかーらー……さっさと言いなさいっ! 」


「「うっ! 」」


 

 次元の低い姉妹の諍いを見て、段々いら立ってきたのであろうか。しまいに語気を荒げ、二人を一喝する孫堅。母に一喝され、彼女等はびくついて怯えの表情を見せた。どうやら、この二人は心のどこかで彼女を恐れているように見受けられる。



「実はね、母様。私、夢を見たの……。しかも、今でもはっきり言えるほど内容を覚えているわ 」



 それから少しの沈黙の後、蓮華がおずおずと口を開き始めた。ちらちらと母親の顔色を窺いながら話す彼女の顔は、気まずそうに見える。


 彼女の姓は孫、名は権、字は仲謀と言い、孫堅の次女である。先日十六歳になったばかりの孫家の姫君は、普段から毅然と振舞っており、幼い頃から学問や武芸の英才教育を施されている。


 しかし、彼女はまだ母に(まつりごと)や戦への参加を許してもらえず、自分自身を持て余す日々を過ごしていた。



「ほう、夢ねぇ……。で、どんな内容だったのかしら? 」



 蓮華の話に孫堅は片眉を吊り上げると、興味深そうな顔で彼女に続きを話すよう促す。



「夢の中には赤い服を着た若い男が出てきたの。そして、こう私に言ったわ『北に行きなさい。幽州は涿郡。涿郡は楼桑村にそなたの伴侶となるべき男に出会うであろう 』って 」


「あら、それで他に何か言ったのかしら? 」



 少し顔を赤らめながら話す蓮華に、孫堅は面白そうに目を細める。



「それで、私は『それだけじゃ判らないわ。何か手がかりはないの? 』と言ったら、『北と刀の名を持つ男を探しなさい 』って答えたわ。そして目が覚めたの 」


「ふぅ~ん。蓮華の夫ねぇ……。まぁ、あなたもこの前十六歳になったばかりだし、そろそろ男や結婚を意識しなさいという天のお告げなのかしらねぇ? 」



 言い終わると、蓮華は完全に顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。孫堅は彼女に意地悪くニヤニヤと笑みを浮かべながら軽くからかう。


 『男』、『結婚』、そして『十六歳』と、母親が言った言葉の中に出てきたものが蓮華の中で急速に結びついてしまったのであろう。彼女は、恥ずかしさの余りもじもじと身悶えしてしまった。



「へぇ~、蓮華の見た夢って、私が見たのと似ているわ 」


「えっ? 姉様もなの? 」


「あら? 雪蓮も……でも、あなたの場合はちょっと疑わしいわねぇ? 」



 不意に、雪蓮が目を大きく見開き、驚きの声を上げる。蓮華は意表をつかれた顔になったのに対し、孫堅は疑いのまなざしを向けていた。



「ぶー、ぶー! 何よ、母様って~。いいわよ、これから話すから。だから、二人ともちゃんと聞いてよ? 」 



 自分と妹に対する母の扱いが物凄く面白くなかったのか、不貞腐れた雪蓮は頬を膨らませる。そして、憮然とした表情のままで語り始めた。


 彼女の姓は孫、名は策、字は伯符。孫堅の長女で、嫡子でもある彼女は現在十九歳。既に同い年の周瑜(しゅうゆ)と初陣を経験しており、何回かの実戦経験を積んでいた。

 

 政への参加も許されてはいたが、そちらの方面に関して、彼女は『めんどくさい』の一言で済ませる傾向が強く、毎回といっていい位朝議をすっぽかしている。現在では、それが母や他の側近達にとって大きな頭痛の種になっていた。



「私の場合はね、蓮華の時と違って、白い服を着たお爺さんだったわ。そしたらね、私にこう言ったのよ。『北へ行くが良い。幽州は涿郡。涿郡は楼桑村じゃ。そこにはお主の夫となる男がおるであろう 』ってね。どう? 蓮華の夢と似てるでしょ? 」


「へぇ~。偶然の一致とでもいうのかしらねぇ? 」


「いやだ、姉様も私と殆ど同じじゃない 」



 そこまで言うと、どうだと言わんばかりに得意顔なる雪蓮。孫堅は軽く驚いてみせたが、蓮華は嫌そうに顔をしかめる。



「蓮華~? それってどういう意味よ? まるで私と一緒がイヤみたいな物言いじゃない? 」


「だって、姉様とほぼ同じ夢を見ていたのかと思うと寒気がしてくるわ 」


「イイ度胸しているわね? 蓮華…… 」


「二人ともおやめなさい。そんな些細な事で喧嘩しないの。で、雪蓮。その夢の中のお爺さんは手がかりを話してくれたのかしら? 」



 孫堅はやや険悪な雰囲気になりかけた二人を軽く手で制する。そして、彼女は雪蓮に再び話すよう促した。雪蓮は軽く咳払いすると夢の続きを話し始める。



「う~ん、私もね、『それだけじゃ判んないわよ。手がかり無いの? 手がかりー 』って言ったら、そのお爺さん呆れ顔で『焦るでない、今から話す。『思い』と『心』を持った男を探すが良い……。こんなんだから婚期を逃すんじゃ 』って答えたのよ!? 頭に来たんで、思いっきりぶん殴ってやろうと思ったら、急に目が覚めちゃった 」



 あの時の事を思い出したのか、眉間にしわを寄せて憮然となる雪蓮。しかし、口元を押さえつけたり、体を小刻みに震わせたりと、話を聞いた母と妹の二人がそれぞれ笑いを堪えているのが彼女には手に取るようにわかった。 



「ちょっと、何よー!! そんなにおかしいの? 」



 両目を吊り上げ、声高に叫ぶ雪蓮。



「ぷっ、くくっ、だって、姉様ったら現にこの前お見合いの話が上がったら、先方が姉様の名前聞いただけで断ってきたじゃない! 」



 両手で腹を抱え、目尻に涙を浮かべて笑う蓮華。



「うふふっ、ま、まぁ……あなたの場合子供の頃からやんちゃが過ぎて、男連中から嫌われていたじゃない? 本来だったらもう子供を生んでてもおかしくないはずだしね? あー、おかしい! 夢にまで婚期の事で馬鹿にされるだなんてねぇ~! あははははっ! 」



 孫堅も、左腕で腹を抱えつつ、指で涙をぬぐいながら笑いこけていた。



「ちょっとー! そんな事言ったら、ウチの若手全員が婚期を逃してる事になるじゃない! 」



 ついに堪えきれなくなったのか、雪蓮は怒りを爆発させる。すると、先程まで笑いこけていた孫堅は急に真面目な顔になった。



「判っていないわねぇ……。うちの若い子たちが婚期を逃してるですって? 答えは簡単よ。後継者のあなたが、婚期を過ぎても好き勝手放題してるからじゃない。真面目にやってるのは戦の時だけ、政は冥琳(めいりん)(のん)に丸投げして自分は町をぶらぶらしている。上に立つべき立場のあなたがいつまで経っても結婚する気配を見せないから、臣下たるあの子等は安心して身を固める気になれないわ 」



「いやー、あの、ほら。私には大喬いるし、冥琳には小喬がいるから……それじゃ駄目? 」



 真面目な顔で鋭く突っ込んでくる母の言葉に、雪蓮は昨年自分の愛妾代わりに召抱えた侍女の話を切り出し、それでかわそうとした。



「随分と面白い冗談を言うようになったわね、雪蓮……。女相手にどうやって子供を作るのか、皆の前で見せてもらおうかしら? 」


「うっ…… 」


「ねっ、姉様っ! あ、謝った方がいいわ! 」



 雪蓮の言葉が気に喰わなかったのだろうか。孫堅は段々と無表情になってきた。声に凄みを利かせ、殺気を漂わせる様はまさに『虎』というべきであろうか。

 

 殺気に()てられ、すっかり怯えた蓮華は姉に謝るように必死に訴える。雪蓮は大仰に唾を飲み込み、自分を落ち着かせようとしたが、既に彼女は砕け腰だ。現に、すらりとした彼女の綺麗な両足はがくがくと震えている。



「ごめんなさい……。私が悪うございました 」


「そっ、ならよろしい。私はこの手の冗談は嫌いなの、二度と言わない事ね 」



 『虎』と化した母の殺気についに折れたのか、雪蓮は深々と頭を下げる。怒りは解いたものの、孫堅はジトッとした目で、チクチクと突っつくような視線を彼女に浴びせた。



「でも雪蓮、あなたには少しお仕置きをする必要があるわね……。ついでに蓮華もそろそろ『外の世界』を知るいい頃合かしら 」



 そう言うと孫堅は、後ろ手に手を組み、窓の外の景色を眺める。雪蓮は苦虫を噛み潰したかのようになり、蓮華は驚き半分、期待半分と言ったところだ。



「二人とも、今からその『夢』に出てきた所へいってきなさい。そして、その者が実在し、孫家の為になりそうであれば連れ帰ってくる事。いいわね? 路銀は多めに用意させるけど無駄遣いしては駄目よ? 特に蓮華、あなたは今まで殆ど外に出した事がないから、恐らく雪蓮より世間知らず。だから、雪蓮の言うことをきちんと聞くのよ? 」



「よりによって、幽州へ行けだなんて……。どれくらいかかると思ってんのよ 」


「お、お母様…… 」



 振り向きざま二人に実に『イイ』笑顔を見せる孫堅。突如の幽州行きを命じられ、雪蓮と蓮華は困惑しており、これから先の事を考える余裕すらなかった。

 

 そんな状態のまま、二人はあわただしく支度をして翌朝を迎える。良く眠れなかったのか、旅支度に身を包んだ二人が眠い目をこすりながら城門に向かうと、既にそこには孫堅が見送りに来ていた。



「それじゃ、しっかりやってきなさい。そして、孫家の未来を支える男を捕まえてくるのよ? 現に私は蓮華くらいの年に外でお父様と知り合ったのだから 」


「はいはい、それじゃ、とっとと未来の旦那を捕まえてくるわ 」


「はいっ、母様……。孫家の為、きっと将来の夫を見つけてまいります 」



 孫堅が激励の言葉を娘達にかけると、雪蓮はかったるそうに、そして蓮華は張り切って返事をした。



「それと……もう一人同行者をつけるわ、明命! 」


「はっ! ここに控えております、青蓮(ちんれん)様っ! 」


 

 おもむろに孫堅が同行者の名を告げると、いつの間にか小柄な少女が孫堅の脇に控えていた。彼女は足元まで届く長い黒髪で、全体的に細い体つきは動きが俊敏そうに思える。幼さが強く残る顔立ちと、大きい目はそれに相まり、彼女を動物で例えるなら俊敏な猫であろうか。孫親子よりは色が薄いが、彼女の肌もやや褐色がかかっており、南方の出自であることが窺えた。



「あなたは確か……半年ほど前に召抱えられた周幼平(幼平は周泰の字)よね? 」


「はっ、自分の姓は周、名は泰、字は幼平と申しますっ! 以後お見知りおきを! 」



 蓮華は自分の記憶を総動員させ、この小柄な同行者の名前を思い出す。すると、周泰はにこやかな笑みを満面に浮かべた。



「そ、私が目をつけたのよね。庶民の出だけど中々動きが素早かったのよ? だから母様に頼んで親衛隊の候補にしたの 」


「最近、ものになってきたとの報告を祭から受けてね。それに、蓮華と歳も近いと聞いてるから、蓮華個人の親衛に組み込もう考えてたのよ。丁度いい機会だから、今回はその予行演習代わりにこの子を同行者に指名した訳 」



 姉と母からそれぞれ説明を受け、蓮華は嬉しさで身が震えそうになる。つい先日、自分に歳の近い思春こと甘寧を自分個人の親衛隊長としてつけて貰ったばかりだ。こうしてまた一人と、自分と歳の近い者が自身の側近として組み込まれる。これはある意味友人が増えるような感覚に少し似ていた。



「そう言えば、今回は思春は来ないの? 」



 ふと、蓮華はその思春の存在を思い出す。元々思春は江賊を率いていたが、雪蓮に召抱えられ、歳が近いという理由で蓮華個人の親衛隊長を任される事になった。

 

 普段は無表情で感情を表に出さず、取っ付き難い印象のある彼女ではあるが、付き合ってみれば中々いい人物である。しかし、その彼女ではなく、新人(ルーキー)の周泰がその代役とは、蓮華にとってみれば少々心細く思えたのだ。



「あぁ……あなたの言いたい事は判るわ。でもね、思春は若いけど、彼女に任せてるのは親衛隊だけではないのよ? ウチの水軍の実働部隊も任せているわけだし、今回は冥琳に大々的な水軍の演習をするよう指示したから、その補佐に回したわ 」


「そうですか……。少し残念です 」


「れーんーふぁー。駄々こねちゃ駄目よ? 元々二人っきりで幽州へ行かされる予定だったんだし、オマケにウチはまだまだ人材不足でみんな大変なのよ? そんな中明命を付けてくれただけでもありがたいと思わないとバチが当たるわ 」



 申し訳なさそうな顔で孫堅が説明すると、蓮華は残念そうに顔を曇らせ、雪蓮は呆れ顔でそんな妹を窘める。



「あのっ、申し上げます。確かに私はまだまだヒヨッ子です。ですが、私を召抱えてくださった孫家への忠誠心は誰にも負けません! 蓮華様は思われたかもしれませんが、思春殿と比べれば私は大きく劣ります。でもっ、思春殿の代役を精一杯勤め上げたく思いますし、何よりも命に替えてお二人を守らせて頂きたく存じ上げますっ! 」



 しかし、遠回しで自分は役立たずだと思われた周泰は黙っていなかった。彼女は真っ直ぐ姉妹を見上げると、自分の主家に対する想いを声高に叫ぶ。孫親子は真剣な顔でそれを聞いていた。



「ごめんなさい。私が浅はかだったわ。周泰、あなたの真名を私に預けてもらえるかしら? 私も『蓮華』の真名をあなたに預けるわ 」



 周泰の悲痛とも思える忠義の叫びを聞き、いたたまれなくなったのだろうか。蓮華は本当に済まなさそうに頭を下げると、謝罪の言葉と共に自分の『真名』を彼女に預けた。



「いっ、いえっ、トンでもありません! 非礼は未熟な私の方にあります! ですから頭をお上げくださいっ、仲謀様っ! 」



「……蓮華と呼んでくれないのかしら? 」



 思わぬ蓮華の行動に、周泰は両目を白黒させ、両腕をばたばたさせて慌てふためく。将来の自分の主から謝罪の言葉だけでなく、真名まで預けてもらったのだ。これでは慌てるなといわれても無理な話である。


 そんな彼女の姿はとても滑稽に思えたが、自分の事を『字』で呼ばれたのが少し気に喰わなかったのであろう。蓮華はくすっと笑った後に唇を少し尖らせると、すねる素振りを見せた。



「もっ、申し訳ありませんっ、蓮華様っ! 私の事は『明命(みんめい)』とお呼び下さいっ! 」


「ふふっ。それじゃこれからの道中よろしくね、『明命』 」



 蓮華から指摘を受けると、しまったという顔で『明命』は慌てて自分の真名を彼女に預ける。蓮華は優しげな笑みを浮かべると、彼女を真名で呼んだ。



「もう、大丈夫みたいね。それじゃ早速行きましょうか? 蓮華、明命 」


「この旅があなた達にとっての大きな収穫になるよう、長沙から祈ってるわよ 」


「「はいっ! 」」



 かくして、雪蓮と蓮華の姉妹と明命の三人は長沙を発った。彼女等が目指すは幽州涿郡は楼桑村。この三人の娘が一体そこでどんな邂逅を果たすのか? それは、まだ誰も知らぬ事であった。しかし、後日三人はこの旅を『一生忘れられない素敵な思い出だった 』と回顧録に残している。




※1カッコ内は一刀の推測。


※2天を治める神と地を支配する神の事。天地の神々。



  ここまで読んでくださり、誠に感謝いたします。今回でようやっと三話目に漕ぎ付く事が出来ました。


 毎回難産ですが、今回は特に『大難産』でした。なかなか文章がまとまらず、おまけに着地点を用意した積りが、その時に限って急に情景が頭にくり広がる始末。


 それを延々と繰り返した結果、追加エピソード部分も本編並みの長さになってしまい、字数も二万オーバー……。正直今の私はもぬけの殻です。(苦笑


 さて、今回の追加エピソードは烈火竜様への感想レスにも書きましたが「孫家(呉)」です。一応公約は守らんと思いましたので、必死こいて書きました。


 孫家のキャラを思い出すために、全クリした萌将伝を立ち上げ、会話のやり取りをチェックしたり、三国志11を立ち上げ、武将事典を見てみたりと脳みそに過負荷をかけました。(汗


 このサイトにおいては、孫呉を題材にした作品中で私が一番秀逸だと思っているRrrrRrr様の『江東に揺れる稲穂の海』が連載されております。

 

 だから、孫家のキャラで下手を打ってはマズイと思い、自分なりに気合を入れて描写した積りです。


 文中に出てきた孫堅の側近四人ですが、その内の『祭』こと黄蓋は諸兄ならお判りかと存じます。後の残りの三人は、三国志演義に出てきた『孫堅四天王』です。


 まず、四天王筆頭の程普。彼女の真名は『えん』にしてあります。彼女を中心に孫呉の家臣団が結束を強めるというイメージです。ですが、外見イメージは彼女も含めた三人ともまだ決めておりません。


 次に韓当。彼女の真名は『蝋梅らめい』としてあります。『ろうばい』と読み、実在する花の名前ですが、元々中国から日本にもたらされて『唐梅』とも言うそうです。

 彼女は幽州の出ですので、孫家の家臣団の中でも他のところからやってきたと言うイメージで名づけました。

 ですが、流石に『ろうばい』さんだと、何だかおばあさんみたいな聞こえなので、ピンイン発音(中国の発音)風に『ラメイ』としました。


 最後に演義で孫堅の身代わりになった祖茂。彼女の真名『山茶しゃんちゃ』なのですが、これはズバリ『椿』の中国名です。『シャンチャ』も、先程の『ラメイ』と同じくピンイン発音風です。

 鮮やかな紅い花を咲かせますが、最後に花ごとボトリと落ちる。まるで、孫堅の身代わりになって散るというイメージに合ってるのではないのかと思い、この名前にしました。


 そして、今回初めて出した孫堅です。彼女の顔のイメージは孫策に近い感じにしております。蓮華のデザインもすきなのですが、自分的には片桐雛太さんが描かれた孫策の方がキツイ印象を与える孫堅にあっていると思いました。


 周泰の台詞にも出てきましたが、真名は『青蓮ちんれん』としております。他の方の作品にでてくる孫堅の真名は、矢張り孫一族共通の『蓮』の字が使われておりましたので、それに倣う事にしました。

 日本語的ニュアンスで言うと、ちょっとおかしくも聞こえるのですが、敢えてここは三国志を生み出した中国の歴史と文化に敬意を表してその読み方で行こうと決めた訳です。


 さて、現在四話目はまだ取り掛かっておりません。ですが、今晩から執筆を始めたいと思います。これを書いている今日は祝日ですので、午後は少しリフレッシュを決め込み、気分転換をする積りです。


 それでは、また次回でお会いしたく思います。以上、不識庵・裏でした。

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