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真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第一部「楼桑村立志編」
2/62

第二話「姓は劉、名は北、字は仲郷、真名は一刀」

 お待たせしました。ようやっと第二話目を投稿しました。今回は可也の強行軍で書き上げました。ですが、自分なりに何べんもチェックしましたし、他の方にも目を通していただいたので、大丈夫かと思います。



  幽州涿郡は楼桑村。その中に劉備こと桃香の家がある。彼女の住まいは少々傷んでるものの、彼女の家柄を示す証拠であろうか、少し大きめで立派な造りの物だった。


 家の周囲や中は物凄く綺麗にされており、恐らく彼女がこまめに掃除をしている証拠であろう。


 彼女の両親は既に他界しており、現在ここには彼女一人しか住んでいない。そこの居間で一刀、伯想、桃香の三人が蝋燭立てを取り囲むような形で話し込んでいた。



「ふぅ~~ん、するってぇと北郷さんはずっと未来の世界からやってきたってぇ訳か。おいら達と似た境遇だなぁ 」


「ええ、桃香から話を聞いて驚きましたよ。だって俺達のいた時代では、幽州って地名は既に過去のものだからです 」


「えっとぉ、一刀さんが未来の人って言うのは理解できたよ。だって私たちの知らない事だらけだったし、それと、見たことも無い物を沢山持っているもん 」



 あの後、一刀、伯想、桃香の三人が村に着く頃には、もう夜になろうとしていた。村の入り口には見張りと思われる大男が二人、戟を片手に仁王立ちで周囲に睨みを効かせていた。

 

 一人は身の丈九尺。赤ら顔で切れ長の目に長い髭。もう一人は身の丈八尺。巌の様なごつい体つきに虎の様な髭、威圧的な視線を放つ大きなまんまる眼。

 

 二人は、村に戻ってきた伯想と桃香が見知らぬ男を伴い、そのまま中に入ろうとしていたので、何か言おうとした。だが、伯想が目配せをすると、結局彼らは何も言わずに黙って三人を通す。

 

 彼等を見た一刀は、『あれは、関羽と張飛だ』と内心では驚いたものの、流石にこの時ばかりは声を上げぬよう口を閉ざしていた。

 

 やがて家に着き、伯想と桃香は周りを見て誰も居ない事を確認すると、全ての窓や戸を閉めた。そして、入り口につっかい棒をして誰も入らせないようにすると、三人は会話が外に漏れぬよう、ひっそりと小声で話し始めた。

 

 この頃はまだ電気が無い時代だ。その上、桃香は自分で編んだ莚や草鞋を売り捌き、そこから得られる僅かな収入しかない。従って、彼女の家に置いてある照明器具といえばちびた蝋燭の灯りだけだ。蝋燭立てに三人が詰め寄り、そこから得られる僅かな灯りを頼りに顔を近づけて話す姿は窮屈そうに見える。



「まぁ、おめぇさんの持ちモンを見させてもらったが、確かに桃香が言ったように見た事がねぇモン揃いだ。恐らくだが、照世も知らねぇだろうさ。その、『のぉと』や、『しゃあぷぺんしる』って奴とかよ。それと……何てったって、この『えろほん』だな! これを見たらおめぇさんがこの時代の人間じゃねぇって事が判らぁ 」


 伯想と桃香の前には、一刀の所持品の数々が並べられていた。通学用の鞄とスポーツバッグに筆記用具。ノート、教科書に参考書。一刀が好んで読んでいるイラストや写真が入った戦国武将関連の書籍や漫画。

 

 そして……極めつけは悪友に返す予定だった数冊のエロ本。その内一冊は、現在伯想がフンフンと鼻息を荒く興奮しながら僅かな灯りを頼りに必死になり目を通している。


 伯想の言葉の中にあった「照世」と言う初めて聞く名前が気になる一刀だったが、今はそんな事より彼にとって非常に拙い事態が発生していた。

 


(流石にエロ本まで出したのは拙かったなぁ……。さっきから桃香の目が怖いや…… )



 鞄の中の物を出している際、指がエロ本に触れた瞬間、一刀は物凄く戸惑った。だが、伯想や桃香から「ちゃんと出せ」と言われた以上、一刀としても引っ込みがつかなくなり、素直に出す事にした。


 出した瞬間、伯想はいやらしく顔をにやけさせ、桃香は桃香で、行き成り鮮明な女性の裸が自分の視界に入り込んでしまったのか顔を真っ赤にして驚いた後、怖い目つきで一刀を睨んだ。



「まぁ、この『えろほん』だが、大切にとっときな。本当だったらみんなに見せてやりてぇとこだが、おめぇさんの友達の物なんだろ? だったらキチンと返さねぇとな。コイツは返すぜ 」


「一刀さんって、いやらしい……。でも、この裸の女の人達みんな綺麗な体してるよね……。ちょっと羨ましいかも 」



 別れを惜しむかのように一刀にエロ本を返す伯想。怖い顔で一刀を睨んでいたが、伯想の読んでいたエロ本を覗き見ると、ある種感嘆のため息を吐く桃香。一刀はギクシャクした動きで伯想からそれを受け取ると、鞄の中に大事にしまいこんだ。



「で、北郷さんはこれからどうするんンだい? 当然だが、行くあてもねぇンだろ? 」


「あ、実はそれなんですが、桃香のとこに…… 」


「ちょっと待って、その事なんだけど一心兄さん。兄さん達の時と同じように一刀さんもこの村に居て貰おうかと思ったの 」



 伯想が真面目な顔でそう言うと、一刀は先程桃香から言われた事を口にしようとしたが、直ぐに彼女が助け舟を出す。

 

 一刀は、桃香が伯想の事を「一心兄さん」と呼んでいるのが気になったが、彼女から「真名」の存在を教えられたのを思い出した。そこから「一心」とは伯想の真名ではないのかと判断した彼は、迂闊にそれで呼ばないように注意する事にした。



「そっかぁ……。判った。それならオイラは何にも言わねぇよ。桃香はおいら達の恩人でもあるしなぁ、基本おいら達は桃香の言う事には賛成さ 」


「それじゃ、良いよね? あ、一刀さんは私の家の中で寝泊りしてもらうから 」


「「ぬわにぃっ!? 」」



 納得いった顔で頷いた伯想。だが、次の桃香の爆弾発言を聴いた瞬間であった。盗み聞きされぬ様、細心の注意を払ったのも忘れ、彼と一刀は大声で叫ぶ。一方、桃香の顔は物凄く真っ赤になっていた。



「ちょっ、ちょっと待て桃香ッ! お前まだ十六になったばっかだろうが! 男も知らねぇのに嫁入り前の娘が若い男と一つ屋根の下だぁ、おいらが許さねぇぞ! 」


「え、ええと、桃香……。俺は納屋か物置の中で寝泊りさせてもらおうと思ってたんだ。気持ちは有り難いんだけどさ、流石にそれは拙いって。悔しいけど俺も男なんだよな……。だから、間違って桃香を襲ったりしたら…… 」


「一刀さんは黙ってて! 」



 顔を真っ赤にして怒る伯想。自分の予想を覆す答えに甘い誘惑めいた物を感じ、それに釣られそうになりつつも、ギリギリ理性で押さえ込む一刀。しかし、桃香はそんな彼にピシャリと言い放つと、彼女は一歩も退かない頑なな表情で伯想を睨み付けた。



「だって、一心兄さんとこも、照世さんとこも、雲昇さんとこも、みーんな人が入れる余裕無いじゃない? それに、もうこの村には人が入れるような空き家は無いんだよ? だったら、私の家しかないじゃない! 」


「そりゃあ、そうだろうけどよぉ……。けど、桃香。お前本当にそれでいいのか? この『北の字(ぺーのじ)』が何かやらかすんじゃないのかと思うと、おいらは心配で心配で…… 」 


(そうだろうなぁ、この伯想さんにとって桃香はもう一人の自分なんだ。仮に、俺みたいな奴が彼女と間違いを犯してしまうのが嫌なのも判るし……。あと、いつの間にか俺の事を『ぺーのじ』呼ばわりしている。伯想さん、それ幾ら何でも略し過ぎなんじゃないんですか!? )



 言葉尻からしても、伯想が桃香の事を本気で心配しているのが窺える。だが、正論を並び立てる彼女の剣幕に、彼は折れそうになっていた。一刀は一刀で、伯想から不名誉なあだ名をつけられたのもあったのか、何とも言えない複雑な表情で二人のやり取りを見守る。だが、次の桃香の台詞は更に大きな火種になった。



「私、一刀さんとなら間違いがあっても構わないよっ! 同い年位の男の人で、私が初めて真名を預けたのが一刀さんだったし。何よりも……初めて口付けた人だったんだからっ! 」



「んぁ! なぁんだとぅ! 北の字ィィ!! おめぇ、いつの間に桃香とンな事しやがったのかい! 」



 そう伯想は激昂すると、一刀の頭を腕でガッチリ押さえ込み一気に締め上げ始めた。



「んぐおおおおおおっ!! 」


「おめぇと言う奴は、おめぇと言う奴はよぉ~~っ! 」



 一刀の頭の中に、自分の頭蓋がミシミシと軋む音が響く。劉備が若い頃侠を引き連れていたと言うのは知っていたが、まさかその本人も可也力が強いとは思わなかった。

 

 良く良く思えば、劉備本人も若い頃から修羅場を潜り抜けてきた人物である。従って、自分の様な平和な現代日本で暮らしてきた高校生とは比べ物にならないと言うのは当然の事であろう。



「ギッ、ギブギブッ!! 」


「あぁん!? 『魏武』がどうしたってぇんだ! 北の字の分際でナニ抜かしてやがる!! 」 



 このままでは、本当に頭を潰されかねない。一刀は降参の意を示す為「ギブアップ」と言おうとしたが、三国志の時代の人間である伯想にその意味が理解出来るわけが無い。それどころか、締め上げる力が余計強くなるばかりだ。



「やめてよっ! 私がキチンと言わなかったのが悪かったけど、このままじゃ一刀さん死んじゃうってばっ! 」


「あっ……。すまねぇ、つい、我を失ってたぜ。ゴメンな、桃香。それと……北の字、悪かったな 」



 一刀が気を失いかけた時、桃香が止めに入った。桃香が怒声を上げると、逆上していた伯想は我に返る。そして、腕を緩めると一刀を解放し二人に頭を下げて謝った。



「私こそゴメンね。だって、兄さん頑として聞かなかったから、つい……。キチンと話すから。一刀さんもゴメンね。私がちゃんと話してればこんな目に遭わずに済んだのに 」


「とっ、桃香、流石にアレは無いよ……。行き成り結果だけ話しても俺だって理解できないって。ほっ、本当に、死ぬかと思った~ 」


「ああ、何でコイツと接吻したのか訳を聞かせてもらわねぇとな 」


「うん、実はね…… 」



 桃香の方も、一刀と伯想に頭を下げて謝ると、桃香は伯想に事の経緯を説明した。村はずれの街道で行き倒れていた一刀を自分が見つけた事。水を飲ませようとしたが、自力で飲めない程彼が弱っていたので、已む無く口移しで飲ませたと言う事を。



「なるほど、それじゃしゃあねぇなぁ……。ま、おいら達の時は桃香に直ぐ見つけてもらったから事無きを得た訳だし。それにしても、北の字。おめぇさんホントに災難だったな 」


「あ、いえ……。恥ずかしいですけど、あの時の俺は意識が無かったんで、その……俺も女の子と接吻したの初めてだったものですから。(思わぬ形で女の子とキスできたのは役得なのかな? ) 」


「あ、あうぅ……。こっちも恥ずかしいよぅ~ 」



 彼女の話を聞いて、納得のいった顔の伯想。改めて話を聞かされ、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分と言った具合で顔を赤らめる一刀。桃香も桃香で、一刀以上に顔を真っ赤にしていた。



「北郷一刀殿 」



 一刀と桃香がややお惚気っぽい雰囲気を作っていた最中、伯想が行き成り真面目な顔になった。

 

 姿勢も先程までのだらけたものではなく、背筋をぴんと伸ばして真っ直ぐ一刀を見る。口調も砕けたものから、一刀がイメージしていたような劉備の物に切り替わっていた。



「はい 」



 一刀も居住まいを正し、真面目に真っ直ぐ伯想を見る。場の空気を呼んだのか、桃香も一刀と同じようにした。



「私、いや、私達は貴方と同じくこの世界の人間ではない。だが、事情があってこの子……桃香に詳しい事は話せなかった。しかし、この子は私達の事を信じてくれた。それだけじゃない。この子は私の事を幼い頃に生き別れになった親戚の人間と言う事にし、この村に住まわせてくれたのだ 」



 そう語ると、伯想は遠い目で明後日の方向を見つめた。



「そう、だったんですか…… 」


 

 そんな彼の言葉に一刀は神妙な面持ちで頷く。



「だって、一心兄さん達見ていたら、何だか他人とは思えなかったんだもん。私、お父さんもお母さんも死んで物凄く寂しかった。だから、一心兄さんには本当のお兄さんになって欲しかったんだよっ! 」


 

 桃香は、胸の前で両の拳を握り、涙ぐんだ目で伯想に声高に叫ぶ。すると、感情が昂ぶったのか、両手で顔を覆うと大声で泣き出してしまった。



「有難う、矢張りお前はいい子だ…… 」



 伯想は優しげな笑みを浮かべて桃香に向きよると、彼女を慰めるべく頭をゆっくりと撫でてやった。



(そうだろうな。伯想さんにとって、まさか自分の名を名乗った桃香に「自分も同じ名前だ」と言える訳が無い。彼と一緒にこの世界に来た人達だって同様だ。名や字、そして真名も考えるのに苦労したんじゃないのかな? 桃香も桃香で、矢張りもう一人の自分に何か感じたんだ。だから、彼女は伯想さんを近くに置きたかったに違いない )



 二人の間には微妙な違和感があったに違いない。でも、このやり取りを見るからに、家族としての強い絆を築いてきたのではないのか? 一刀にはそう思えてきた。

 

 少しして桃香が泣き止んだのか、伯想は彼女の頭を撫でるのをやめると、改めて一刀に向き直る。真面目な口調はそのままで、彼は話を続けた。



「そこでだ、私は貴方にこの世界で生きて行く上での名を名付けたいと思うのだがどうだろうか? 同じ別世界からやってきた者同士、助け合って行きたいのだ 」


「え……? この世界での俺の名前ですかっ!? 」


「そうだ。本名の「北郷一刀」のままでは、ここの村人どころか、国中の人間に怪しまれてしまうからな。出自不明者は悲惨だ。何処へ行っても邪魔者扱いされ、人としても見てもらえぬ 」


「あ、言われて見れば確かにそうだよね? 一刀さんの着てる服も私達のと違うし、このままじゃ、下手をするとこの村にいられなくなっちゃうかも知れない 」


「うん、伯想さんの言うとおりだよな。流石に毎回「変った名前」だけでは済まされないし、これから何かをするにしてもやり辛くなる 」



 最初は伯想からの提案に驚いた一刀だったが、話を聞く内にその理由が理解したのか、納得のいった顔で頷く。桃香もそれにうんうんと頷いていた。



「私が考えた貴方の名なのだが、これを借りるぞ? 」



 そう言うと伯想は、目の前に並べられた一刀の所持品の中からノートとシャープペンシルを手に取った。一刀がそれらの扱い方を彼に教えると、彼はノートの真新しい頁にゆっくりと字を書き始める。そして、綺麗な字体で書き上げられたそれを見た一刀は驚きの余り目を見開いた。



『劉』、『北』、『仲郷』、『一刀』


 

 何故なら、ノートに書き上げられた名には『劉』の姓があったからだ。



「え……、俺なんかが劉姓を名乗っていいんですか? これって、桃香や伯想さんと同族と言う事になるじゃないですかっ! 」



 一刀は驚きの余り興奮していた。何故なら、彼にとって『劉姓』を名乗るという事は、漢を開いた高祖である劉邦、その末裔である桃香や伯想と同族という事にもなるからだ。



「いや、余りその様な事は気にせずとも大丈夫だ。歴代の皇帝や、桃香の祖である中山靖王等が沢山子を産ませた挙句、劉姓を名乗る者が増えてしまった。だから、その内の一人と思われるだけで済む。この『劉』の姓はな、然程特別な物ではないし、結構ありふれているのだよ 」


「そ、そうだったんですか……。意外と安売り状態だったんですね、劉姓って…… 」


「幾ら何でも、安売りはないよ一刀さん。でも、ある意味当たっているかもね。私が昔通っていた※1盧老師の私塾にも劉姓の子が結構いたし 」



 しかし、それに対して冷や水を浴びせるかのような伯想の言葉は、一刀をがっかりさせるのに十分な効果があった。桃香も伯想の言葉に思い当たる節があったのか、当時の思い出話を苦笑いを交えながら語った。



  

「話が少し逸れてしまった様だな、話を戻そうか 」



 場を取り直すために、咳払いを一つした伯想は、再び話を続けた。



「私が書いたものを見て判ると思うが、『名』に当たる部分には貴方の姓『北郷』の『北』の字を、そして『字』に当たる部分には『郷』の字を入れた。そして、真名で、始めて『一刀』と名乗れば良いだろう 」


「名と真名の部分は理解できました。ですが、どうして『仲郷』と言う字にしたのですか? 字に『仲』の字を用いると言う事は、次男と言う意味になるのでは? 」



 一刀は、伯想の説明に疑問を感じた。彼も一応『三国志演義』を読んでる以上、『字』の法則性位は知っている。大抵『字』を付ける際には、※2長男なら『伯』、次男なら『仲』、三男なら『叔』、四男なら『季』と言った感じで、これ等の字を『字』に用いているからだ。


 必ずと言うわけではないが、何処の家の何番目の子かと言うのを判りやすくする為に良く使われている。



「あぁ、その事に関してなら問題は無い。何故なら、貴方は今日から私の実弟と言うことにすれば良いのだ 」


「え……? ええ~っ!? 」



 伯想がしれっと出した答えは、一刀の疑問を解決させるどころか、彼にとってそれ以上の衝撃をもたらした。



「だ~か~ら~、今日からおめぇはオイラの実の弟になるんだよ。大丈夫だ、オイラの親父が後妻との間に出来た子とでも振れ回りゃ問題ねぇって! ついでに虐待に堪えかねた挙句、優しいお兄様を頼って楼桑村に逃げてきたという事にしとけば大丈夫だろうさ! わっはっは! 」


「さっすが、一心兄さん! これで問題ないよね! おまけに一刀さんと私が親戚関係にもなれるし、一石二鳥だよ! 」



 いつもの砕けた雰囲気に戻ると、ニカッと笑みを浮かべて一刀の肩を力強くバンバンと叩き、朗々と笑い声を上げる伯想。桃香も満面の笑みで嬉しそうにはしゃいでいた。



「た、確かにそれなら大丈夫ですよね。伯想さん…… 」



 すっかり、伯想の勢いに気圧されてしまった一刀は、若干引き気味でそう言うと、伯想は彼の両肩をガシッと掴んだ。



「『お兄様』だ……。それか『兄上』と呼べ。何なら桃香みてぇに『お兄ちゃぁ~ん』でも可だ! 」



 そう言い、伯想は一刀に真顔で迫る。新しい呼び名を強要された一刀は、彼からある種の理不尽さと恐怖を感じた。



「あ、兄上……。宜しくお願いします…… 」


「お、いいねいいねぇ~! 今日からおいらの事をそう呼びな、北の字 」


「うんうんっ、これで一安心だよ。良かったね、一刀さんっ。それじゃあ、今日は照世さんや義雲さんたちとか呼んで宴会でもしよっか? まだこの前のお酒残ってるし 」


「おっ! 流石は桃香、おいらの可愛い妹だけある。話が判るぜ。どぉれ、おいらは他の連中を呼んでくるとするか。何せ、北の字はこれからおいら達とヨロシクやってく仲になるんだ! チョッと待ってろよ~ 」


(うぅ……。これから他の連中にも引き合わされるのかよ。伯想さんだけでも十分『濃い』のに、もっと『濃い』連中が……。マジ勘弁ッ! 夢なら覚めてくれぇ~~~!! )



 ついに観念したのか、一刀は恐る恐る伯想の事を『兄上』と呼ぶと、彼はニヤッと厭らしい笑みを浮かべ、満足そうに頷いた。これを心から喜んだ桃香は、嬉々とした表情で奥から酒の入った瓶を持ってくる。すると、伯想は待ってましたと言わんばかりの顔になって無邪気に喜ぶと、自分の同胞を呼ぶべく外に出て行った。

 

 一刀は、自分を肴にしてこれから繰り広げられるであろう乱痴気騒ぎに、鬱々とした気分になってしまった。



(そう言えば、この世界の劉備である桃香は女だ。と言う事は……まさか。曹操や孫権も女なのかな? でもな、案外桃香だけかもしれないし、そう都合の良い話が続く訳無いか )


 

 鬱々とした気分のままで一刀は、宴の支度をし始めた桃香を見て、ふと疑問を抱いた。しかし、それも一瞬の事で、彼はかぶりを振るとそれの存在を頭の中から消す事にした。



「手伝おうか? 」


「ううん、一刀さんは今日の主賓だからデーンと構えてて! 」


 

 そして、手持ち無沙汰になったのと、桃香に支度をさせている申し訳なさがあったのか、一刀は彼女を手伝うべく声をかけた。だが、彼女は首を軽く横に振ってニコリと微笑むと、一刀にそのまま席に着いて待つように促す。桃香のちょっとした仕草一つが、一刀にはとても可愛らしく思えた。

 

 この時既に先程の抱いた疑問の存在を忘れていた一刀であったが、後日彼はその『都合の良い話』が続いていた事を思い知らされる事となる。



「おぉ~~い、桃香ぁ、北の字ぃ。皆を連れてきたぜ 」



 桃香が、卓の上に簡単な料理や干し肉に乾物等の乗った皿を並べ終えた頃になると、仲間を呼びに行った伯想が陽気な声と共に戻ってきた。そして、彼の後から癖のありそうな男たちがゾロゾロと家の中に入ってくる。 




「夜分遅く失礼致す 」


「おうっ、邪魔するぜっ! 」



 先程見張り番をしていた二人の大男だ。改めてみると自分より背が高く、体つきも比べ物にならないほど大きい。腕や足も丸太の様で、徒手空拳で猛獣すら仕留められそうに思えた。

 

 長髭の大男の語り口は静かであったが、太い低めの声からは渋さと力強さが感じられる。虎髭の大男の方は、わめき散らすような大声で、まるで雷のようだ。


 彼は言葉を発する際に、口をそんなに開いていなかったように見えた。恐らく自分なりに抑えた積りなのだろう。だが、それでも家中にびりびりと響き渡り、卓の上に載った皿がカタカタと揺れていた。



「失礼致します、桃香殿。今宵はお招き頂き感謝致します 」



 次は、誰もが見惚れそうな長髪の美男子だ。彼も一刀より体つきが逞しいし、背も高い。だが、先程の二人に比べると彼は物凄く細身だ。

 

 どうやら無表情を決め込んでいるようで、それが目鼻立ちの整った顔立ちを一層良く見せており、後ろで纏めた長い髪と相まっている。そして何よりも、彼からは禁欲的(ストイック)な雰囲気が漂っていた。



「酒席を催すとは、桃香殿も運が良い。儂は今日、山で狩りをしてきたばかりなんじゃよ 」



 と、自分で仕留めた山鳥を片手に掲げるのは、筋骨逞しい中年。彼も長髭の大男同様に、見事な顎鬚を蓄えている。しかし、彼の外見はどう見ても四十歳前後にしか見えないのに、語り口や漂う雰囲気は、どこか達観したかのような、悪く言うと年齢以上に老け込んでいる様に思えた。



「俺は今日、弟と川で釣りをしてきた。雑魚しかないが、肴の足しにしてくれ 」


「私も兄上と同様で雑魚しか釣れませなんだ。食べ応えが足りないですが、これで勘弁してください 」



 そう言うのは、申し訳なさそうな顔で雑魚が入った魚籠を片手に持った男と、串を刺した雑魚を載せた竹ざるを持った男。一見すると二人は兄弟のように思えた。二人とも、一刀より歳が少し上のように思える。


 魚籠を持った男の方が兄だろうか。先程の美男子同様、彼も美男ではあるが、先程のが洗練された物なら、こちらは野性的なものを感じる。相当鍛え上げられているのだろうか、服の上からも筋肉の隆起が窺えた。

 

 竹ざるを持った弟の方は、背の高さも体つきも兄の方より一回り小柄だ。しかし、無駄なく引き締まった体は俊敏な躍動感を思わせる。彼の顔は無表情と言う訳ではないが、やや表情が乏しいように思えた。しかし、話し口調は兄の方が明朗快活なら、彼は物凄く落ち着いた静かなものであった。




「只酒が飲めると聞いたんでね。悪いが邪魔させてもらうよ 」


「今晩は、桃香殿。手ぶらじゃ悪いと思ったので、私も酒を持参しました。少しの足しにでもして下さい 」



 ぷんと酒の匂いを漂わせ、無精髭を生やした男が千鳥足で入ってきた。よろめきそうになると、彼の後ろにいた真面目そうな男が慌てて押さえる。


 この酒臭い男は、よれよれの服を着ている辺りからして、身嗜みがだらしなかった。髪もきちんと手入れをしていないようで、※頭巾(ときん)から、毛髪がはみ出ており何本か顔に掛かっている。憎めなさそうな顔をしているが、どこか人を喰った様な雰囲気が感じられた。


※『ときん』と読む。頭髪を結い上げ、髷にした部分に被せる布の事である。


 一方、呆れ顔でそんな酔っ払いを抱きかかえる男は、この酔っ払いとは何もかもが正反対だ。


 きりっと引き締まった顔で、髭や頭髪も綺麗に手入れされている。衣服の着こなしも折り目正しいものと、恐らく可也几帳面な性格と思われた。



「おおっ、酒じゃないか。流石は俺の兄弟子、気が利くなぁ~~ 」



 彼が片手に持った大徳利が目に入ったのか、酔っ払いがそれに手を伸ばす。すると、彼は「勝手に飲むんじゃない 」と、その手を軽く引っ叩いた。しかし、一刀はその手が意外とごつかったのを見逃さなかった。



「あっ、皆さん。良く来てくれました。今日は皆さんにご紹介したい人がいるんですっ。一刀さん、この人達が一心兄さんの義兄弟や仲間だよ。とっても強い人や賢い人たち揃いなんだから 」



 桃香は彼らの姿を確認すると、心底嬉しそうな笑顔になり、一刀の腕を掴むと彼らの前に引き合わせる。

 

 彼の前に並びし八人の漢達は、いずれも個性が強そうな人物ばかりだ。彼等は自分らの前に引き合わされた一刀を興味深そうに見る。



(彼等が、蜀漢を作り、劉備を支えた将や軍師達なのか? 中には判らない人もいるけど、最初に入ってきた屈強そうな五人は間違いなく、『蜀の五虎将軍』だ! )

 

 

 これ以上『濃い』連中の肴にされるのはゴメンだ。最初、一刀はそう思っていた。しかし、彼らを見た瞬間。一刀はその考えを改める。


 何故なら、村人の身なりをしているが、彼等からは常人とは違った物を感じられ、自分の魂にそれらが強い勢いで入り込みそうな感覚を覚えたからだ。現に、彼は無意識に拳を握り締め、掌には冷や汗がびっしりと沸き、衝撃の余り身震いをしていた。



「やれやれ……。一心様もお人が悪い。今宵は書物を読み耽ろうと思っておりましたのに…… 」



 落ち着いた口調で話す穏やかな声と共に、最後の人物が入ってきた。



「遅ぇぞ、照世! ったく、書物なんぞいつでも読めるじゃねぇか。それに、おめぇさんいつも言ってただろ? 『新たな出会いは値千金』ってなぁ 」


「ははは、これはしたり。一本取られましたな 」 



 伯想はそんな彼を『照世』と呼び、苦笑を交えながら咎めた。しかし、それに対して彼は余裕たっぷりといった感じで涼しげに微笑むと、手に持った白羽扇で口元を隠す。そして、知性の光を宿した切れ長の目で一刀を真っ直ぐ見据えた。



「貴方ですかな? 我等と同じく異世界からの人物と言うのは? 」


「はっ、はいっ。北郷一刀と言います。 」


「これは失礼。挨拶が遅れましたな。私の姓は諸葛、名は瞭、字は然明。以後良しなに…… 」



 そう言って、彼が一刀に対し拱手の礼をとった、正にその瞬間であった。更に大きな衝撃が一刀を襲う。

 

 彼の目に宿りし知性の光は、まるで天空に煌く星々のようであった。そして、それが次々と自分という人間を、そして魂を、白日の下にさらけ出す。



(こっ、これが……。『臥龍』諸葛孔明……! )



 我に返った一刀は、偽名を名乗ってはいるが、稀代の名軍師である彼に畏敬の念を覚えた。そして一刀もまた、無意識の内に彼に対し拱手の礼で応じる。


 かくして、『三国志演義』の蜀漢の主要人物達との邂逅を果たした一刀。だが、一刀と彼らがこの『外史』の表舞台に立つのには、まだ時間が必要であった。




 所変わり、益州(えきしゅう)は成都近郊のとある森の奥。そこには小さな石が立てられており、こう刻まれていた。



『憂蜀の士 賈龍ここに眠る』



 そして、その前では二人の女の親子連れが屈みこみ、それぞれ手を合わせていた。恐らくは石に刻まれた名の人物の妻子であろうか、妻と思われし女はまだ年若で、子と思われる女児も可也幼く見えた。

 

 

「お父様にお別れの挨拶は済んだかしら? 璃々? 」


「うん、おとうさんに『いってきまーす 』って、いっといたよ! 」


「そう……。それなら、お父様も天国で安心して眠っていられるわ 」



 母親らしき女が、自分の娘にそう言うと、『璃々』と呼ばれた女児はニコリと無邪気な笑顔になった。それを見た彼女は、優しげな笑みを一つ浮かべ、満足そうに頷く。そしておもむろに立ち上がると、璃々と手を繋ぎ、亡夫の墓に改めて一礼してその場を立ち去ろうとしていた。


 母である彼女の背は高かった。豊満な胸にくびれた腰、そして程好く膨らんだ尻と女らしい体つきをしており、とても子を産んだ様には思えなかった。顔立ちの方も稀に見ぬ美貌で、薄紫色の髪は腰までに達するまで長い。

 

 娘の璃々の髪も母親譲りの薄紫色であった。少し伸びてきたそれは邪魔にならぬよう、左右両側で可愛らしい色の飾り帯(リボン)で留められている。子供ゆえに顔はまだ幼かったが、成長すれば母親に負けぬほどの美人になるであろう事が窺えた。



「もう行くのか? 紫苑よ 」


「桔梗っ…… 」



 すると、不意に後ろから声がかけられた。それは低目の女の声であった。『紫苑』と呼ばれた女は、後ろを振り返り声の主を確認する。その正体が親しい人物であったのか、安堵の表情になると『桔梗』と声の主を名で呼んだ。


 桔梗と呼ばれた女も実に女らしい体つきをしていた。彼女は服を大きく肌蹴させ、肩を露出させており、その崩した着方のせいか、今にもこぼれ出しそうな大きな乳房が直ぐ目に入る。 

 彼女の髪は艶やかな銀髪で、後ろで纏めており、(かんざし)で留めていた。顔立ちも紫苑に負けぬほどの美貌で、一言で言い表すと、正に『熟れている』と言ったところであろうか。



「想貫、酒好きのお主の為に特別な物を取り寄せた。たらふく飲んでくれ…… 」


 

 そう言うと、桔梗は紫苑の亡夫の墓の前に歩み寄り、手に持った大きな徳利を傾けると、中に入った酒を墓石に注いだ。そして、酒の独特の匂いが辺り一面に漂う。やがて紫苑の方に向き直ると、彼女は頭を下げた。ここに来る前に少し飲んできたのであろうか。顔や肌はほんのり赤らんでおり、微かな酒精の匂いを漂わせていた。



「誠にすまなんだ。わしがあの時無理にでも止めておれば、お前も夫を失わずに済み、璃々にも片親だけの不憫な思いをさせなんだのに…… 」


「桔梗…… 」



 後悔と慙愧の念に耐えられなかったのだろうか、桔梗の双眸からは涙が止め処なく流れ、両肩を大きく震わせると微かに嗚咽の声を上げ始める。だが、紫苑はそんな彼女を責めるどころか、優しく抱き寄せた。一方、取り残された形になってしまった璃々は、二人のやり取りを不思議そうに眺めている。



「良いのよ、気にしないで……。あの人が劉君郎(君郎は益州刺史劉焉の字)に処刑されてしまったのも、そうなる運命だったのだから……。況してや貴女は君郎の部下。臣として君命に従い、乱を鎮圧するのは当然の事よ 」



 半ば諦めが入ったかのような口調で桔梗に慰めの言葉を掛ける紫苑。



「だがな、紫苑。わしは最初、君郎様があの様な真似をなさるはずが無いと信じていたのだッ! しかし……益州を平定されてからあの方は豹変されてしまったっ! そう、都から君郎様にくっついてきた、あの忌々しい宦官のせいでなッ! 」



 しかし、桔梗は治まるどころか激昂し、紫苑の両肩を激しく掴む。だが、紫苑は直ぐ様人差し指を立て口に当てると、少し険しい顔で彼女を睨んだ。



「すっ、すまん……。わしとした事が少し酒に酔った様だ……。ついつい要らぬ事まで話してしまうものよ 」


「誰がどこで聞き耳を立てているか判らないわ。況して、貴女はこれから巴郡を任される身なのよ? 迂闊な発言は避けないと 」



 紫苑の仕草に桔梗は我に返ったのか、彼女の肩から自分の手を放すと、深々と頭を下げる。それに対して紫苑は苦笑交じりで応じた。



「ねぇ、おかあさん。このおんなのひとだれ? おかあさんのおともだちなの? 」



 我慢できなかったのか、放ったらかしにされていた璃々が、二人の間に割り入ってきた。構ってもらえなかったのもあったのか、璃々は不機嫌そうな顔で頬を膨らませている。二人はそんな彼女の仕草や表情が可笑しく見えたのか、思わずプッと噴出し、コロコロと笑い声を上げた。



「あっ、ひっどーい! せっかく璃々がきいているのに~~ 」


「ごめんね、璃々。そうね、最初に会ったのは璃々がまだ赤ちゃんの頃だったわね…… 」


「おお、そう言えばそうだった! それでは初めましてだな、わしの名は『厳顔』。わしの事は『桔梗』と呼ぶが良い。わしはな、お前のお母さんの昔からの友達だ 」


「あっ、えーと。璃々でーす。よろしくおねがいします。ききょうさん 」


 

 お互い名乗り合うと、璃々は花が咲いたかの様な笑顔になり、桔梗はそれに満足そうに頷く。そして、彼女が優しく璃々の頭を撫でると、璃々は嬉しそうに目を細めた。



「で、紫苑よ。お主はこれから幼い璃々を連れて何処へ行こうと言うのだ? 」



 璃々を撫でる手を止めぬまま、桔梗は紫苑に言う。すると、彼女は少し黙考の後に、桔梗の傍によると小声で話し始めた。



「実はね……。北に行こうと思ってるの 」


「北にだと? 都にでも行く積りか? 」



 しかし、紫苑はそれに対して首を横に振る。



「いいえ……。もっと北。そうね……幽州辺りにでも 」


「何っ、幽州だと? ここ成都から可也の距離ではないか! そこまで璃々の体が持つかどうか不安だぞ。何だったらわしが預かろうか? 」


「ううん、大丈夫よ。休み休み行くわ。それと、蓄えはあるもの。幽州に辿り着くまでは持つわよ 」



 この幼子がそんな長旅に耐えられる訳がなかろう。そう思った桔梗は璃々を自分の所で預かろうと申し出たが、紫苑はそれをやんわりと断った。



「やれやれ、相変わらず一度決めたら曲げぬな。どれ、わしからの餞別だ。路銀の足しにしてくれ 」



 桔梗は璃々を撫でる手を止めると、懐から可也大き目の巾着を取り出し、紫苑の手に押し付ける。紫苑はその中身を見ると、驚愕の余り目を見開いた。



「……これって全部黄金じゃない? これは要らないわ。別に貴女から餞別を貰わなくても大丈夫よ 」



 答えを予想していたのか、それを聞いた桔梗はしたり顔で意地悪く笑った。



「わしも一度言い出したら中々曲げぬ性質でなぁ~。だから黙って持って行くが良い。それだけあれば璃々が成人する位まで持つだろうさ 」



 桔梗の言葉が気に喰わなかったのだろうか、紫苑はムスッと顔をしかめ彼女を睨み付ける。



「頑固ね 」


「互いにな 」



 互いにそう言うと、二人は心の底から笑い合った。森の奥に女達の小気味良い笑い声が響き渡る。二人の笑い声を聞いている内に、璃々の方も何やら楽しい気分になってきたようだ。この小さな令嬢も、二人に合わせて楽しそうに笑い声を上げた。

 


 そして、そんな彼女らを他所に墓石がぼうっと光った。すると、そこに男の姿がぼんやりと浮かび上がる。



「あっ…… 」



 璃々がそれに気付いたようだ。声を上げようとしたが、彼は人差し指を立てると口にあて、黙っているよう促すと、優しく微笑む。



「うんっ。璃々いいこにしているから『しー』してるね? 」



 そう言い、男と同じ仕草をしながら璃々がニコッと笑うと、彼は満足そうに頷いた。そして現れた時と同じ様にぼんやりと消えていく。



『またね…… 』



 男が消える間際、璃々には彼が自分にそう言った様に思えた。




※1中国では、教師を意味する『先生』の事を老若男女関係なく『老師』と呼ぶ。『師匠』の場合は男女関係なく『師父』と呼ぶが、同様の女性に対し『師母』と言う呼び名が存在する。余談だが、あちらで『先生』と言う呼び方は、主に年上の人に対しての『~さん』言うニュアンスになる。


※2例:孫策(そんさく)(長男。字は伯符(はくふ))、孫権(そんけん)(次男。字は仲謀(ちゅうぼう))、孫翊(そんよく)(三男。字は叔弼(しゅくひつ))、孫匡(そんきょう)(四男。字は季佐(きさ)



 まず、今回もチェックしていただいた黒蜜白石さんへ、本当に有難う御座いました。貴方の助言のお陰で、私もその都度書く気力が起こるというものです。


 黒蜜さんも中々面白い作品を書かれる方です。彼の作品「あなたに囚われた」(ジャンル:ゼロの使い魔)はオリジナル設定とは言えども、結構秀逸です。


 ゼロの使い魔が好きな方は、是非一度目を通されてみてください。


 ラストの紫苑親子と桔梗のやり取りですが、あれは完全に私独自の設定です。益州刺史劉焉の益州平定に手を貸した賈龍と言う豪族が、後に劉焉と対立して処刑された話がありましたので、それと絡めてみました。


 現在、第三話を書いている最中です。早ければ来週中に上げたいと思っております。


 それでは、今回はこれにて失礼致します。不識庵・裏でした。

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