第十七話「大興山の戦い」
どうも、不識庵・裏です。
さて、今回は前回予告しましたように、楼桑村義勇軍の初陣の話でございます。
今回も書くにあたり、横山三国志の二巻や三国志関連のサイトを調べてインスピレーションを最大限に沸かせました。
奇しくも、今日は私の三十八歳の誕生日。ならば自身への記念となる様に気合を少し入れてみました。今回もいつもながらの長文です。最後までお付き合いくださいましたら嬉しく思います。
それでは、後書きにてお会いしましょう。
桃香率いる楼桑村義勇軍と白蓮率いる公孫家軍は、道中冀州渤海郡で袁紹からの物資補給を終えると、彼女達は冀州との州境にある青州平原国に入った。南皮から丁度真南の位置に、同国の湿陰県がある。
そこには中央から派遣された鄒靖率いる官軍二万が、黄巾どもを殲滅せんと布陣していた。桃香達率いる『楼桑村義勇軍』の本格的な戦いの火蓋は今正に切られようとしていたのである……。
「お久し振りです鄒閣下! 幽州遼東属国長史公孫伯珪。只今着陣いたしました 」
「お初にお目に掛かります鄒閣下。私は幽州にて義勇軍を立ち上げた劉玄徳と申します。此度は公孫長史と共に閣下をお助けせんと馳せ参じた次第。何卒宜しくお願いいたします 」
湿陰の城外にて布陣する鄒靖の軍に合流した二人は、早速鄒靖の本陣を訪れ、着陣の挨拶を行う。この鄒靖であるが、その本人は齢三十絡みの、小柄な女性であった。
どうやら、彼女は気さくな人柄なのか、自分の身分に偉ぶる事無く桃香の前に進み出て、彼女の手を優しく握ると、二人と挨拶を交わし始める。
「二人ともご苦労さん、はじめまして劉玄徳殿、あだしが鄒靖だぁ。良くもまぁ、遠路遥々幽州から来てくれたべっちゃねぇ。伯珪、あんたも変わりなくって安心したっちゃよ~ 」
実は白蓮こと公孫瓉は、現在の役職に就く前に鄒靖の属官を務めていたのだ。優しく微笑みかけて、鄒靖は白蓮の肩に手を置くと、もう片方の手で彼女の手を優しく握りしめる。一方の白蓮も、昔自分に良くしてくれた上司との再会に相好を崩していた。
「本当に御免してなぁ。何せ、あたしんとこの兵は総勢二万。それに対して黄巾ば軍勢は約五万……。幾ら雑兵さいっても、こんだけおどけでねぇもんだから、正直どうすっか困ってたとこだべっちゃよ 」
訳:『本当に御免なさいね。何せ、私のところの兵は総勢二万。それに対して黄巾の軍勢は約五万……。幾ら雑兵とは言えども、これだけとんでもない規模だから、正直どうするか困っていたのよ 』
申し訳なさそうな顔で苦笑交じりに語る彼女は、黒目がちの大人しそうな顔立ちで、何となくだが躾がなってる犬を想像させる。然し、彼女は潰え掛けたとは言え、漢帝国を『武』で支える百戦錬磨の良将であったのだ。
彼女は辺境暮らしが長い為か、烏丸や鮮卑等の異民族の事情に詳しく、彼等を上手く利用して自軍の兵として用いた事もある。例を挙げれば、五年前の涼州の乱の折に鄒靖は皇甫嵩の部将として参戦し、鮮卑兵を用いて勇猛果敢な西涼兵と戦ったのだ。
だが、彼女はその影響で辺境訛りが酷く。鄒靖の下にいる者たちは皆、彼女の話す言葉を理解するのに相当苦労した。現に、今彼女の話を聞かされてる桃香も目を白黒させているが、隣にいる白蓮が一生懸命彼女に耳打ちしながら『通訳』していたのである。
(桃香ぁ、今はすんどいかもすんねけんども、我慢ばすてけろ……。その内慣れっから、問題ねぇっちゃよ )
訳:『桃香、今はしんどいかも知れないけど、我慢してくれ……。その内に慣れるから、問題は無いよ 』
(あのー……白蓮ちゃんも訛ってるんだけど? )
(はっ! あだすとすた事が、えれぇ事ばやらかすつまったべっちゃ!! )
訳:『はっ! 私とした事が、とんでもない事をやらかしてしまった! 』
「どんれ……早速なんで、軍議ば始めよっか? そこのあんたぁ、地図ば持ってきて頂戴 」
「はっ 」
通訳してる内に、その白蓮自身も辺境訛りになってる事を桃香に指摘され、衝撃の余り白蓮が頭を抱えているのを他所に、鄒靖が近くに控える兵士に地図を持って来させる様命じた。
彼女が卓の上に持って来させたそれを広げると、それにはここら辺の大まかな地形が描かれており、その上で様々な点を指しながら説明を始める。
「じゃ、説明すんなぁ? 今あたし達がいんのはここ湿陰県ね。んでね、こっから東南に進めば、台県外れの大興山に突き当たんのしゃっ。
そんで、そこを拠点に黄巾五万が布陣してる訳。んで、伯珪の軍と玄徳さんの軍にはうちの先陣を切って欲しいのっしゃっ! 」
「なるほど! 一気に出鼻を挫く訳ですね? 」
「うーん…… 」
そこまで説明すると、鄒靖は二人の顔色を伺う。白蓮がやる気に満ちているのに対し、桃香は顎を摘んで何か考えている様であった。そんな彼女の様子に鄒靖と白蓮は戸惑いの表情を浮かべる。
「玄徳さん、なじょしたのすか? 」
「桃香、一体何を悩んでいるんだよ? 」
二人に怪訝そうな視線を向けられ、桃香がちょっと困った風に顔をしかめて見せると、彼女はゆっくり口を開き始めた。
「……鄒閣下、それに白蓮ちゃん。恐れながら言わせて貰いますね?
確かに真正面から白蓮ちゃんの精兵、士気の高い私達の義勇兵をぶつけて敵の意気を削ぐ意図は判りますが、それだと悪戯に兵を消耗するだけだと思うんですよ?
兵数にしても閣下の兵は二万ですし、白蓮ちゃんの方は一万二千。私達に至ってはたったの五百ですから、これで合計しても三万二千五百で、五万の敵兵と比較すればその六割強しかありません。
戦争の基本は相手より多い兵数を揃える事ですが、この時点で私達はその基本ができない状態です。例え兵の質や士気がこちらの方が上だとしても、兵の損失は深刻な物になる恐れがあります。それだったら、これをもっと上手く利用して、且つこちらの損耗も減らして勝った方が良いと私は思うんです。
私に協力してくれる人達の中に、兵法に明るい方が三人います。その方達に意見を聞いてみたいんですけど……こちらにお招きしても宜しいでしょうか? 」
桃香が語り終えると、彼女の言葉に物凄く驚いたのか、鄒靖と白蓮は目を瞬かせ、二人は嬉しそうに頷いて見せた。
「成る程……玄徳さんのお仲間さ『軍師』さん達がいるみてぇだねぇ? んだらばそん人達の意見ば聞いてみてぇもんだべっちゃよ? 」
「桃香……。孫子や六韜三略でも読んでいたのか? 盧老師の私塾にいた時のお前からは想像もできないぞ!? 」
「うーん、まぁ、何て言えばいいのかな? 私の兄さんの仲間の人達に教えてもらってた事の受け売りだよ 」
二人にそう言われて、桃香は照れ臭げに笑ってみせると、早速許可を貰った照世・喜楽・道信の三人が鄒靖の天幕に姿を現し、鄒靖と白蓮は興味深げな視線を彼らに浴びせた。
三人は鄒靖に挨拶を済ませると、直ぐに三人は卓に広げられた地図の上で策を練り始める。先ず、道信が最初に口を開き始めた。
「照世、喜楽。私だとすれば、鄒靖閣下と公孫閣下の兵を関羽殿を始めとした将達に振り分け、足の速い騎兵に囮役を演じさせる。次に、大興山の山麓近くに兵を潜ませ、引き付けてから包囲殲滅が有効だと思うのだが…… 」
次に、ほんのり酒の匂いを残しながら喜楽が自分の意見を述べる。
「流石だな、道信。正に寡兵を用いる時の王道的な手法だが、もう一捻り欲しいなぁ。
俺だったら、確実に呼び込む為に『ウソの情報』を流すね? 例えば……兗州の黄巾がこっちの応援に来てるから、それと協力して平原国を落とせとかな。そうすりゃ、敵さん大興山を空き巣にして飛び出してくるぜ?
ついでに、兗州の官兵の生き残りがそっちに来てるから、そいつも叩いといてくれとでも言えば完璧だろう。何も、わざわざあっちの地の利に応じてやる事なんか無いってモンさ、ック! 」
しゃっくりと共に喜楽が〆ると、最後に照世が白羽扇をゆっくりと顔の前にかざして悠然と語りかけた。
「二人の策は見事だ……。正直、二人の意見だけでもそのまま勝てるだろう。
だが、奴等には徹底的に我々の存在を知らしめる必要がある。ならば、例え倍の兵数でも我々に勝てぬと言う印象を奴等に与えるべきだ。
基本的な兵の割り振りや戦の方針は道信の策で良いだろう。
だが、それとは別に敵の拠点を陥とす為に別働隊を設ける。これに関しては、少数精鋭で間に合う筈だし、一心様にお任せすれば尚良かろう。一心様は元々こういう戦い方がお得意だしな。
先ず、最初に喜楽の策で敵をおびき寄せ、大興山を空き巣同然にするか或いは兵力を少なくさせる。
次に道信の方針通りで騎兵に囮を演じて貰い、伏兵を仕掛けた場所まで誘き寄せ、そこを一気に包囲。その間、別働隊が敵の本陣を襲撃しそこを一気に陥落させる。
この策通りに上手く行けば、誘き寄せられた奴等が気づいた時には既に遅し。戻ろうにも戻れず、退路を断たれ恐慌状態に陥った奴等は正に袋の鼠になろう。こんな物でいかがかな? 」
三人はそれぞれ自分達の頭脳の中で戦の流れをめいめいに描いており、彼等のやり取りに桃香達は思わず息を呑んだ。
「流石……世間に名が知られた『幽州の三賢人』だけあるな、本当に驚いたよ。然し、こんな三人が桃香に協力してるなんて……。桃香、正直言って私はお前がうらやましいよ 」
「成る程、都でも噂ば聞いてたども、こん人達が『幽州の三賢人』な訳ね……。
あらゆる所からの仕官の誘いばぁ断ってたって聞かされてたけんども、そん人達が玄徳さんとこの軍師とはえらく驚いたべっちゃよ。
玄徳殿、これ程の人達との絆、大切にすんだよ? 正直、あたしも彼等の内一人でも良いから、自分の手元さ置きてぇほどだわ…… 」
「はいっ! 」
白蓮と鄒靖が羨望を交えながら、桃香を真っ直ぐ見つめると、彼女は満面の笑みで大きく頷いて見せたのである。
かくして、鄒靖率いる官軍二万と白蓮と桃香の軍あわせて一万二千五百は、湿陰を出立。隣の済南郡に入ると、台県外れの大興山を目指した。
その間、喜楽の手引きで黄巾の兵に化けた偽伝令を敵陣に送り込み、道信の指示通りに兵を幾つかに分けると、大興山の麓の廃村や林等に彼等を潜ませる。
大興山に辿り着いた時には鄒靖や白蓮、そして桃香が率いる騎兵五千の囮のみになっていた。桃香の左右を愛紗と鈴々、白蓮の脇には趙雲、鄒靖の方は翠と蒲公英が、それぞれ指揮を執る将を守るべく控えていたのである。
伏兵に至っては、弓隊は紫苑と祭が、歩兵は雪蓮と蓮華、そして小蓮の孫姉妹と明命が受け持ち、彼女等は息を殺して自分達の出番を待っていた。
さて、残った野郎どもだが……。別働隊故に悟られぬ様、彼らは勾配がメッチャクチャキツイ方の山道を登らされていたのである。当然、馬は使えないから彼等は徒歩であった。
「なっ、何で俺達がこっちな訳ぇ? 間違ってる、何か間違っている!! 本当は桃香達と一緒に戦いたかったんだけどなぁ…… 」
漆黒の具足の重みに耐えながらも、槍で茂みや藪を切り払い、顔中汗まみれにして山道を登る一刀。
「しょうがねぇだろうがよ、北の字……。ったく、ガキじゃねぇんだ。無駄口たたく暇あったら歩を進めろってんでぃ! 女は楽な方、野郎はしんどい事すんのは昔っからの決まり事ってェもんよ! 」
言葉とは裏腹に、汗まみれになりながらも楽しそうな表情の一心。何だかんだ言いながらも、二人とも周りと足並みを揃えてる所は凄いとしか言いようがない。
「一刀、今日位は桃香殿達に華を添えてやった方が良い。漢同士と言うのも案外悪くないものだぞ? 変に気兼ねしなくても良いからな 」
「本当は俺もアッチで大暴れしたかったんだけどよ! だけど今日位ぇはあのチビッ子に譲ってやるぜ! それによぉ、女と一緒じゃ戦り辛ぇんだよなぁ~ 」
平然とした表情の義雲と義雷。特に二人の得物は重量や長さがあるのにもかかわらず、それを担いでいても涼しげな顔のままだ。
「大丈夫ですよ。関羽殿に張飛殿、加えて趙雲殿や翠殿といった豪傑が囮に居りますし。伏兵に至っては紫苑殿と祭殿、そして雪蓮殿に蓮華殿と小蓮殿の孫姉妹の他に明命殿も居ります。表舞台の方は問題無いかと 」
槍を右手に携えた雲昇が、いつもの無表情のまま淡々とした口調で話す。
「どれ……。久し振りに儂の弓の腕前を披露してやろうかの? これが終わったらゆっくり温泉か風呂に浸かりたいもんじゃなぁ~ 」
象鼻刀を携え、片方の手で腰に佩いた弓の感触を楽しむ永盛。然し、首をコキコキと鳴らしながら彼が言ってる事は妙に爺臭かった。
「ふぅ、久し振りに山での徒戦(歩兵戦)だ……。本当は表で暴れたかったのだがな、今回はもう一人の俺達のお手並み拝見だ。我慢してやろう 」
剛槍を握り締め、まだ見えぬ敵の拠点で大暴れする自分を脳内で思い描く壮雄。彼の表情は歓喜で満ち溢れていた。
「雲昇殿……。先程雲昇殿が言った者の名前の中に馬岱殿がいませんでしたが……。馬岱殿も『そこにいるぞ』…… 」
雲昇に嘗ての自分の名前を挙げてもらえなかった事で、少しいじけた素振りを見せる固生。彼はガックシと肩を落とすと、朴刀を力無く担いでトボトボと山道を登る。
漢ども率いる別働隊は、楼桑村義勇軍の他に白蓮や鄒靖の軍の中から山育ちや、山歩きを得意とする者達で構成された総勢千名の精鋭で構成されていた。
一人一人、調子は異なるものの、全体的に落伍者も出さずに、先頭を行く将達の後についてきている。
そうこうしている内に、やがて彼等の前方に砦らしき物が見えてきた。別働隊の指揮は一心に任されていたので、彼は右手を肩の所まで上げると、全軍に静止するように促す。次に彼は後ろを振り返り、小声でこう命じた。
(いいか、まだおいら達の出番じゃねぇ、先ずはここで待機だ。砦から敵さんが出払った所を見計らって襲撃をかけるぞ! 前の奴から後ろへ耳打ちして、今のおいらの言葉を伝えろい! )
彼の言葉を受け、兵達は前から後ろへと今で言えば『伝言ゲーム』の要領で、一心の命令を伝える。
(ここで待機だってよ、砦から敵が出て行ったら殴り込みだ )
最初はこんな感じだったのだが……、やはり統制が取れてないせいだろうか。最後尾に回った時には、頓珍漢なものに変貌していたのである。
(ここで薪を拾えってさ、鳥を適当に捕まえたら、殴って米と一緒に焼いて食えって )
(はぁ? なんだよそりゃ……これって本当に作戦なのか? )
最後尾の兵達は思わず首を傾げてしまったが、取り敢えず全体の流れに気をつけてれば大丈夫かと、彼等は自身を納得させてその場でじっと時を待つ事にした。
一方、その頃。大興山の黄巾軍の本陣。ここの軍を率いる主将は程遠志で副将は鄧茂と言い、二人はいずれも武芸者崩れから黄巾に身を落とした者であった。
何れも武芸者を本業としていた訳であるから二人は武芸に長けており、ここの兵はもとより、青州の黄巾兵全体の練度が高く済南郡を陥落できたのも、彼等の手腕によるところが大きかったのである。
だが、二人は何れも天公将軍こと張角に心酔してる訳ではなかった。このまま仕官も叶わぬ貧乏武芸者で終わるよりは、天下に背こうが、それなりの地位を得たいという願望が二人にあったのである。
この様に武芸の方で優れた二人であったが、何れも兵法の方はからきし駄目であった。愚かにも、彼等二人は早速喜楽の仕向けた偽伝令の言葉を丸飲みして信じ込んでしまい、ならば兗州の友軍と合流する前に、官兵や鄒靖を血祭りにあげようと考えたのである。
ついでに率いる将の鄒靖は女と聞いてるから、自分や部下達で散々弄んでから始末するのも悪くないだろうと言う邪念も抱いたのもあった。
「よし、出陣だ! ぐずぐずすんな! 」
「兗州から逃げてきた官兵どもを全員血祭りにあげろ! 殺した奴の武具はおめえらのモンして良いぞ!! 」
程遠志と鄧茂の号令の下、大興山の陣取っていた九割の黄巾兵が砦を出立し、残り一割の五千余りが留守として残る。
彼等は山を降りると早速情報通りに、鄒靖率いる官軍と会敵すると、忽ち二人の顔が嗜虐の笑みに変わり始める。彼等の後ろにつき従う黄巾兵も嫌らしそうに顔をゆがめて見せた。
「ほぉ……鄒靖だけじゃねぇ、若い娘が何人もいるじゃねぇか……! おい、お前等喜べ! こいつぁ『戦利品』の山だぜ! 女は殺すなよ? 適当に痛めつけてから俺等の前に差し出せ! 久し振りに俺様の『槍』が疼いてやがら! 俺等の前に『味見』した野郎は、見せしめで『ちょん切る』からな! 」
程遠志が下卑た笑みと共に檄を飛ばすと、兵の間から歓声が沸き起こる。続いて鄧茂も口を開いた。
「ヒヒヒ、女かぁ……本当に久しぶりだぁ……。この前済南を荒らした時にゃ、良い女なんかいねぇし、皆ブスばっかでウンザリしてたんだよ。こりゃあ、ソッチの鬱憤が晴らせるというもんだぜ!! アレだけの良い女なら、さぞ満足できるってモンよ!! 」
舌なめずりして、馬上の鄧茂が抜刀すると、後ろに続く黄巾兵もそれぞれ得物を構え始める。そして、鄧茂の隣に馬を寄せていた程遠志も右手に持った刀を威勢良く振り下ろした。
「いっくぞぉ!! どうせ腰抜けの官軍野郎だ! 男の兵は皆殺しにしろ!! 全軍かかれぇーっ!! てめぇら、女どもが股を開いて待ってるぞぉ!! 」
程遠志のお下品な号令と共に、黄巾兵四万五千は一斉に鄒靖達が率いる五千の囮部隊目掛けて殺到してきたのである。
「閣下、先ずは作戦通りですね。黄巾達が一斉に襲い掛かってきました 」
馬上の桃香の言葉に、鄒靖は無言で頷く。そして、彼女も抜剣すると、辺境訛りで威勢良く号令を下した。
「おめだづ! 作戦ば忘れんなよ!? 全軍かかれーっ!! 」
鄒靖の号令と共に、囮の騎兵五千は黄巾兵を迎え撃ったのである。
「いいか、鈴々! 義姉上から言われた作戦を忘れるな。只でさえお前は頭に血が上りやすいのだからな! 」
「判ってるのだ! 突撃! 粉砕! 勝利なのだー!! 」
「ブヒッ! 」
「全然判ってないではないか!! 」
馬に乗った愛紗が、隣で猪に跨る鈴々に確かめるべく話しかけると、当の彼女は猪上で威勢良く蛇矛を振り回し始めた。これに面食らい、愛紗はこめかみに青筋を浮かべて鈴々を怒鳴りつけるが、鈴々はそれに臆する事無くニカッと笑い返す。
「大丈夫なのだ! 照世のおっちゃん達にきつく言われたから無問題なのだ! 」
「……鈴々~~~~ッ!! 」
「にゃはっ、愛紗ー、怒っちゃだめなのだー 」
ふざけ合い染みた追いかけっこを演じそうになった二人であったが、二人の傍にいた桃香が、少し困った顔で声を掛けてくる。
「ほらほら、愛紗ちゃんも鈴々ちゃんもそれ位にしとこうね? 先ずは、作戦通りに動かないといけないよ? 」
「わっ、判りました義姉上! 確かに義姉上の言う通りです。ならば、見事に作戦通りに動いて見せましょう! 」
「応ッ、なのだー!! 」
「ブッ! 」
桃香に窘められ、愛紗と鈴々は表情を一気に引き締めた。そして、作戦を遂行すべく彼女達三姉妹は動き始めたのである。
「ふぅ~~!! よぉ~~し、こんな規模の戦なんて生まれて初めてだモンね! たんぽぽ頑張っちゃうんだから! 」
鄒靖の直ぐ後ろで馬を走らせながら、蒲公英が気合を入れると、その隣で翠が気炎を上げ始めた。
「うおらっしゃらぁ~~っ!! 」
「……でも、その前にあの脳筋キチンと御しとけーって、道信老師に言われてたんだっけ……。たんぽぽに出来るかどうか不安だなぁ~~~ハァッ…… 」
――が、既に『暴走のお時間』に突入せんとしている自分の従姉の姿に、蒲公英はガックシと両肩を力無く落としたのである。
「良し、行くぞ者ども! 先ずは軍師殿達の指示通り、適当に戦ってから退却だ! 合図を見落とすなよ!! 」
白馬に跨り、純白の短めの戦袍をまとった白蓮が兵達に指示を飛ばす。その隣では同じく白馬に跨った星が不敵な笑みを浮かべていた。
「フフッ、大丈夫ですよ伯珪殿。見た所鄒靖殿の兵よりは、伯珪殿の兵の方が士気も練度も高い。指揮官たる貴女が不安がる事もありませぬからな? 」
「ありがとう、星。おかげで気が楽になったよ 」
星の言葉に肩の力が抜けたのか、白蓮は笑みを浮かべて見せると、直ぐにキリッと顔を引き締め兵を動かし始めたのである。
こうして、大興山の麓で黄巾軍と鄒靖の囮部隊が激突し始めたのだが、少しして鄒靖は退却の合図を出す。
囮部隊を任されている者達は、当然ながら皆馬の扱いに慣れた者のみで構成されていた。従って、彼等は退き際の演技も見事な物で、いかにも壊滅状態を装って逃走し始めたのだ。
無論それを見逃す程遠志と鄧茂ではない、愚鈍な彼等はまんまと照世達の策に乗ってしまったのである。
追撃する黄巾達は、最初に孫姉妹と明命が潜んでいる地点を抜けると、次に蔡と紫苑が潜んでいる場所を通過した。そして、そこで彼等は何か異変に気づき始める。
最初に鄧茂が気づいた様で、血眼になって官兵を、そして極上の女の尻を追いかけていた程遠志を懸命に呼び止めた。
「おっ、おいっ! 程遠志待てっ! 待てって言ってるだろうが!! 」
「何だ鄧茂ッ!! もう少しであの女どもにぶち込めるんだぞ!? それとも何か? テメェに譲れって訳じゃねぇんだろうなぁ? 」
「馬鹿野郎ッ!! 官軍の動きがおかしいんだよ!! 逃げ方を見てみろ!! 」
口角から泡を飛ばしながら、正に悪鬼とも言える形相で喚き散らす程遠志。然し、彼に追いついた鄧茂が程遠志の馬の手綱を握ると前方の官兵を指差して見せた。
「んっ……? なっ!! 」
相棒に言われ、程遠志が敵の動きを凝視していると、彼もその異変に気づく。最初は点々バラバラに逃げていたはずの騎兵が、いつの間にかまとまった集団になっていたのだ。こうなるのを見ては、彼の愚かな頭脳の温度も一気に降下してしまう。程遠志と鄧茂は周囲の味方に怒鳴り散らし始めた。
「てめぇら、一旦退却だ!! 何かおかしいぞ!! 」
「おめぇら! 進むんじゃねぇ!! 退くんだよぉ!! 退却だ!! 」
「今ですっ! 一斉に撃ち方を始めなさいっ!! 」
「今じゃっ!! 好き勝手放題やっていた黄巾どもに矢の雨を馳走してやれぃ!! 」
彼等が懸命に怒号を飛ばしたのにも拘らず、無常にもそれを打ち砕くかの如く、紫苑と祭――二人の号令が周囲に響き渡る。
その号令と共に、彼女達が率いる弓兵は潜んでいた場所から一斉に姿を現し、手に持った弓を力強く引き絞ると矢を放ち始めた。それは、まるで渡り鳥の集団の鳴き声を髣髴させるような矢音を立てながら、彼等に降り注がれる。
程遠志と鄧茂は嵌められたと歯軋りしながらも、何とか自分の得物でしつこく降りかかる矢を叩き落とす事しか出来ず、その間にも自分の兵達がハリネズミの様な姿で一人、また一人と倒れて逝った。
「祭さん、中々のお手前ですわね? 孫家に仕える弓の名手黄公覆殿のお噂は、かねがね益州でも聞いていましたわ? 」
「そういう紫苑もな? ムッ、思い出したぞ! 確か黄姓を名乗りし『女李広』の異名を持った娘が、益州におったと言う噂を十年程昔に聞いた事がある! まさか、お主の事か? 」
「あら、嫌ですわ? 十年経とうが、百年経とうが、私は今でも娘の積りですわよ? だって、私は義雲様の前では『恋する娘』ですから…… 」
「フッ、戦いの最中に惚気ておれるなら様なら無問題じゃな! 」
その中でも、特に紫苑と祭の弓の腕前は甲乙つけ難いもので、二人は互いに競い合う様に次々と黄巾という獲物に矢を当てていく。この二人に狙われたら最後、地獄で閻魔への言い訳を考える事しか出来なかったのだ。
何とか暫く持ちこたえていると、射撃が止んだのか。程遠志と鄧茂は生き残った兵を引き連れ、大興山の拠点へ戻るべくこの場を後にしようとする。だが、彼等がさっき通った廃村の辺りを通り過ぎようとすると、行き成りそこから歩兵の集団が飛び出してきた。
「全軍かかれぇっ!! 黄巾どもに報いをくれてやるのだ!! 一兵たりとも残すでないぞ!! 」
「全軍吶喊せよーっ!! 人の道を外れた獣どもに情は無用だーっ!! 」
「みんなー!! シャオに続けーッ!! 」
叫びと共に迫り来るは雪蓮・蓮華・小蓮の孫家三姉妹。彼女等は、手に持った得物を手当たり次第敵兵に振り下ろすと、その都度鮮血の雨が降り注がれる。まるで武神の顕現を思わせるこの三人の勢いに気圧されていると、今度は後ろの方で更なる怒号が響き渡った。
「今なのですっ!! 皆さんっ! 奴等の背後をつくのですっ!! 」
黄巾兵が一番最初に通過した伏兵を仕掛けた地点から、武装した明命率いる軽装の歩兵が一気に襲い掛かる。
明命は彼等の先頭を切るべく、手に持った太刀を素早く振りながら敵の命を次々と刈り取っていき、少し離れた敵には、左の大腿に括り付けた飛刀を飛ばし、道信直伝の撃剣術で確実に急所に当てて息の根を止めた。
「アハハハハハハハハハハハハ!! どうしたのどうしたのぉ!? 私達を満足させてくれるんじゃなかったの? こんなんじゃ全然物足りないわ! 少しでも良いから私に傷をつけれる奴はいないのかしら!? 誰か、誰かぁ、この私を満足させてよぉおおお!! 」
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいい!! 」
母青蓮譲りの戦狂いの血の影響か、雪蓮は常軌を逸した笑い声を上げながら、一人、また一人と楽しげに敵を蹂躙していく。
雪蓮の戦い方は正に『蹂躙』の二文字が相応しかった。彼女から放たれる得体の知れない殺気に中てられ、彼女に当たっていた黄巾達は失禁していたのも忘れて、我先にと逃げ出して行く。
「ハァ~、時折姉様と同じ姉妹なのか疑問に思っちゃうわ…… 」
「同感よねー、シャオあそこまで野蛮じゃないもの。雪蓮姉様の様な野蛮人は、あのオジサンがお似合いよねー♪ 」
『死狂ひ』とも言える姉の戦い振りを目の当たりにし、蓮華と小蓮は目前の敵を屠りつつも呆然となってしまう。特におしゃまな小蓮は、わざとらしく嫌がる素振りをして見せた。
「れ、蓮華様~~! 小蓮様ぁ~~~!!
申し訳ありませんが、お二人ともキチンと戦って欲しいのですー!! 」
然し、その一方で二人の補佐に回った明命が、一人で三人の敵兵と鍔迫り合いを演じる羽目になっており、三つの剣先を長太刀で受け止める彼女の顔には泣きが入っていたのである。
「チクショウ!! 何でこんな目にあわなくっちゃいけねぇんだ!! 官軍は弱いから楽勝だと思ってたのによ!! クソォ!! 」
「泣き言は後で言いやがれ!! 今こうなっちまったら女どころじゃねぇ!! 命あっての物種だ、何とか振り切って逃げおおせるぞ!! それにしても、こんな作戦考えた奴は誰なんだよぉ!? きっと、性格の悪い奴にちげぇねぇ!! 」
自分等がしてきた悪行を棚に上げ、程遠志と鄧茂はまたしても嵌められたと、顔は判らぬがこのえげつない作戦を考えた連中に呪詛の言葉を吐きつつ、何とかしぶとく持ち応える。
然し、そんな彼等に『止め』を刺すべき出来事が発生した。大興山に残してきた伝令の兵が、満身創痍でヨロヨロになりつつも息も絶え絶えで二人の前に姿を現したのである。
「ほ、報告……します…… 」
「どうした、何があったんだ!! 」
「おめぇは、大興山に残してきた伝令じゃねぇかよ!! いってぇ何があったんだ、早くしやがれ!! 」
「だっ、大興山の砦が……敵に陥とされました……! 」
「なっ……? 」
「あん……? 」
力無い声で告げられたその言葉の内容は、程遠志と鄧茂には到底信じられないものだった。二人は思わず呆気に取られ、互いに顔を向き合わせる。伝令は更に報告を続けた。
「官軍は千人余りの別働隊を引き連れ、地元の者でも通らぬ険しい山道を登り、そこから一気に奇襲を掛けられ、守備に残した五千の兵が一人残さず全滅…… 」
「ちょっと待て! 幾ら何でも奇襲を受けたからって、奴等は俺達の五分の一じゃねぇか!! 何で全滅したんだよ!! 」
「程遠志の言う通りだ! 守備に残した連中だってなぁ、守りを任せるからこそ徹底的に俺等で鍛え上げたんだぞ!? 」
とうとう聞くに堪えられなくなったのか、二人は眦を吊り上げると、目を血走らせてこの瀕死の伝令にがなり立てる。すると、伝令の男は突然両目をカッと開いて大声で叫び始めた。
「あっ、あれは……!! 人間じゃない!! 化け物だ!! 大興山の奴等はあの化け物達に殺られたといっても過言じゃ……ガホッ!! 」
最後まで言う事無く、彼は口から大量の血の塊を吐き出すと、そのまま事切れてしまったのである。彼の姿は、黄巾達の士気を一気に瓦解させる効果があった。生き残った連中は程遠志と鄧茂を見捨てて、我先にと蜘蛛の子散らしで方々に逃亡し始める。
「だっ、駄目だぁ!! 逃げろぉ!! 大体黄巾党に入ったのが大間違いだったんだよ!! 」
「俺、田舎に帰って農夫に戻る!! もう嫌だ!! こんなの!! 」
「あっ、てめぇら待ちやがれ!! 今まで散々好きにやってきてそれはねぇだろうが!! 」
「待てーッ!! 逃げんなぁ!! 」
程遠志と鄧茂の二人が怒声を浴びせて止めようとするが、既に時遅しで彼等を止める事が出来なかった。それどころか、逃亡した兵も次々と無残な屍へと姿を変えていったのである。
そして……徐々に聞こえてくる怒声を耳にし、二人の黄狗が後ろを振り返ると、先程まで追いかけていた女どもが、今度はこちら目掛けて牙を向けてくるではないか。
その光景を見た彼等は、自虐的な高笑いをしてみせると、こう言い放ったのである。
「なぁ、鄧茂ぉ……。どうやら俺等も年貢の納め時みてぇだ。糞どもが!! やってやる、どうせならこの際やってやる!! 」
「あぁ、程遠志。狗だろうが黄巾だろうが、せめて最期くれぇは武芸者らしく散ってやらぁ。ついでに、あの女どもを一人でも良いから道連れにしてやろうじゃねぇかよ!! 」
二人は、何か吹っ切れたかのような顔になると、馬の腹を蹴飛ばし自分等に斬り掛からんとする女達目掛けて馬を走らせ始めた。
「やいやい! どこの貧乏百姓の部隊か知らねぇが、大将の程遠志様が相手してやる!! 死にてぇ奴は掛かって来い!! 」
「同じく、副将の鄧茂様だ!! 俺に殺されてぇ奴がいたら掛かって来ゃあがれっ!! 」
それは、彼等なりの辞世の句の積りなのだろう、程遠志と鄧茂は最大限の虚勢を張ったのである。その様子を真っ直ぐ見詰めていた桃香は、左右に控える義妹をチラリと見ると、彼女は何か意を決したかの様に二人に話しかけた。
「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん……。どうやら、あの人達覚悟を決めたみたいだね。悪いけど……『看取って』もらっていいかな? 」
長姉たる桃香の言葉に、愛紗と鈴々は無言で頷き返し、二人はそれぞれ馬と猪を走らせ始める。
「鈴々ッ! 副将は私が引き受けた!! 大将首はお前に任せたぞッ!! 」
「合点承知なのだー!! 」
愛紗が力強く毅然に言い放つと、隣の鈴々も威勢良く応じた。愛紗は鄧茂を迎え撃ち、鈴々は程遠志を迎え撃つ。一方の程遠志と鄧茂、この二人の黄巾の将は、思わず苦笑いをして見せた。
「へっ、俺の最後の相手がこの小娘か……まぁいい! 出来る事なら相討ちに持ち込んで、地獄でしっぽりと犯してやらぁ! 見たとこ胸がでけぇようだし、揉み応えがあるってモンだぜ!! 」
「俺も舐められたもんだ……。まさか、最後の相手がこのチビと来たか。それも猪に跨ってるなんざぁ、慰めにもなりゃあしねぇ!! 」
そして、それぞれの武が交錯する。勝負は一瞬で決した。
「我が名は関羽! 劉玄徳が義妹の一人にして幽州の偃月刀なり!! 」
「ガッ! 」
鄧茂が獲物を振り下ろそうとしたその瞬間、馬上の愛紗は青龍偃月刀を一閃させると、得物を持った右腕ごと鄧茂の首を跳ね飛ばしたのである。跳ね飛ばされた鄧茂の首は、妙に晴れやかなものであった。その際、首だけになった彼は地上に落下する瞬間、誰にも聞こえる事無くこう呟いたのである。
「か、感謝するぜ……これで、武芸者として死ねる…… 」
その呟きは、地面に激突する音で完全にかき消されてしまい、鄧茂は地獄へと旅立っていった。
「死ねや! この雌餓鬼がぁ!! 」
「う~~っ! 鈴々、『めすがき』じゃないもん! 鈴々は、鈴々は……張飛! 劉玄徳が妹の一人にして桃香お姉ちゃんの蛇矛なのだぁーッ!! 」
「ブヒッ!! 」
「くたばれ、こんガキャアッ!! 」
「遅いのだっ!! うにゃああああっ!! 」
程遠志の馬と、鈴々の猪がすれ違ったその瞬間。馬上の程遠志が刀を鈴々に振り下ろそうとするが、鈴々の蛇矛の突きの方が速かった。
「ウボァッ!! 」
彼女の電光石火の突きが、狙い余さず程遠志の心の臓を一気に一突きにし、その勢いは衰えるどころか彼の体を突き抜けたのである。
だが、程遠志は最後の力を振り絞ると、自分の体から蛇矛を抜き取り、最後の激痛に耐えながらも鈴々を真っ直ぐ見つめる。それは、これまで散々悪事を働いてきた彼なりの赤心の現われなのだろうか、鈴々を見つめる彼の目はとても澄んでいた。
「お嬢ちゃん、張飛って言ったよなぁ……。い、い腕、していたぜ……冥土の良い土産話が出来たと言うもんだっ…… 」
そこまで言うと、程遠志はゆっくり目を閉じると落馬し、彼も鄧茂の後を追ったのである。鈴々はすぐさま猪から飛び降りると、屍と化した程遠志目掛けて蛇矛を振り下ろし、彼の首を跳ね飛ばすとそれを高々と掲げて見せた。
「敵将程遠志、張飛が討ち取ったのだー!! 」
「副将の鄧茂も、関雲長が討ち取ったぞ!! 黄巾どもよ、これを見るが良い!! 」
鈴々に続き、愛紗も鄧茂の首を高々と掲げる。すると、一気に官軍・義勇軍側の兵から歓声が上がり始め、鄒靖が声高に号令を下す。
「敵将どもは討ち取られた!! 後は残りの敵全てば殲滅するべっちゃよ!! 虐げられた済南の民の恨み、今こそ徹底的に思い知らせてやるべっちゃね!! 」
袋の鼠と貸した彼等に、最早戦意は無かった。慌てふためき逃げようとするも、どこへ逃げればいいのか見当もつかない。敗残兵と化した彼等は、闇雲に右往左往するだけであった。
「うおらっしゃらあああああああっ!! お前等の好き勝手でどれだけの人が泣かされて死んで行ったと思ってんだ!! 神妙に『西涼の錦馬超』の槍を受けやがれっ!! 」
「黄巾の狗どもめっ、お前等の相手ならここにいるぞーっ!! 『西涼の狼』と呼ばれし馬寿成が姪馬岱が相手だ!! 」
馬上で十文字槍を豪快に振り回し、翠が次々と敵兵を葬り去ると、続く蒲公英も素早く的確な槍捌きで確実に屍の山を築いていく。
「フッ……『常山の昇り龍』と呼ばれしこの趙子龍の神槍の舞、貴様等にたんと馳走してやろう! さぁ、遠慮なく受けるが良い!! はいはいはいはいはいはいはいはいはいいーっ!! 」
強烈な毒素を交え、星が蠱惑的な笑みを浮かべると、窮鼠と化して襲い掛かってくる残兵の一団に神槍の突きの雨を降り注がせた。それを浴びた者達からは次々と真紅の鮮血が噴出し、大地を、そしてそこに生い茂る叢を朱に染めていく。
「行くぞ者ども! 敵は鮮卑どもより練度の成ってない黄巾の雑兵だ!! 我が軍が誇る白馬陣の恐怖、今こそ骨の髄まで叩き込ませてやれぃ!! 」
白馬に跨った白蓮の顔は、鮮卑に恐れられた『白馬長史』そのものになっていた。彼女はいつもの気さくな雰囲気の『白蓮』ではなく、無慈悲に異民族を屠る『公孫瓉』と化していたのである。彼女の号令と共に、白馬で統一された騎兵隊が黄巾どもに天誅という名の殺戮を開始し始めた。
(ごめんね……。本当は逃げたかったんだよね? もしかすると、家族に謝りたかったんだよね? 一生罪を償おうと思ってたかもしれないよね? )
その残敵殲滅という名の殺戮劇から、少し離れた場所でその成り行きを見守る一人の少女が馬上で佇んでいる。それは、他ならぬ桃香であった。元来の彼女は優しい心の持ち主だ、当然この様な殺戮なんか論外である。
然し、彼女が始末したのであろう。彼女の周囲にも二十近くの黄巾の屍が転がされており、それぞれ恨みがましげな死に顔を彼女に向けていた。馬に跨る彼女がそれぞれの手に携えた靖王伝家も、母の形見の剣も染められぬ箇所が無い位に朱に染められていたのである。
(恨みたければ恨んでもいいよ? だって、私は『優しさ』だけでは生き残れない、修羅の道を選んじゃったんだから。
でもね、私はずっと貴方達の顔を忘れないよ。地獄の底から呪ってくれたって構わない。きっといつかは私もそこに行くんだから…… )
『争いの無い世を作りたい、だからこの国『漢』を立て直す』――桃香の願いは実に脆い物だ。それを実現させる為には、必ず戦う必要も出てくる。昔の彼女だったら、単なる理想被れに終わった事だろう。
然し、今の彼女は前世で修羅の道を生き抜き、蜀で漢帝国を興した自分自身、即ち一心達と出会った。彼女は偶然にも彼等の正体を知ってしまい、そしてその生き様を盗み聞きしてしまった経緯がある。そこから、彼女の心には強い意志が生まれたのだ。
(何かを手に入れる為には、必ず別の何かを失わなくてはならない! だから、私はそれを掴むまで鬼になる!!
だって、愛紗ちゃんに鈴々ちゃん、そして一心兄さん達や一刀さんまで、私の道に引きずり込んでしまった責任を取らなくっちゃいけないんだからっ!!
皆に人殺しと罵られても、今私は立ち止まれないっ!! 罵られても恨まれても、この大陸に生きる皆の為にっ!! 私は、私は……戦い続けるっ!! )
心の中で血涙を流し、桃香は馬の腹を蹴ると自らもその殺戮の渦中へと飛び込む。今の彼女は普段のほんわかとした物腰の柔らかい娘ではなく、この乱世に志を立てる一人の英雄そのものであった。
「やああああああああっ!! 」
桃香は威勢良く叫ぶと、靖王伝家と母の形見の剣を一閃させ、無慈悲に敵兵を葬り去る。鮮血に塗れた二つの剣は、まるであたかも血の涙を流している様であった。
そして、彼女の視界に大興山に聳え立つ黄巾の砦が映ると、彼女はそこで戦っている兄一心と想い人一刀に想いを馳せる。
(一心兄さん、一刀さん、そして皆。どうか無事でいて…… )
だが、彼女の祈りに答える者は誰もおらず、ただ阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられるだけであった。
さて、ここで少し時間を戻そう。
大興山に陣取る黄巾の砦に張り付く事に成功した一心とその愉快な仲間達――もとい、別働隊はじっと息を殺しながら身を潜み、ひたすら時を待っていた。
(んっ? )
何か気づいたのか、一心が少し身を乗り出すと、隣に控えていた一刀が小声で尋ねる。
(兄上、どうかされましたか? )
(どうやら、敵さん動き出したようだぜ。おい、厳さんはいるかい? )
一心が小声で呼びかけると、一人の小柄な若者が姿を現した。
(呼びましたか、伯想殿? )
(おう、悪いねぇ。早速だが、あんた達の出番だ )
(いえいえ、とんでもない。私は馬に乗るよりこっちの方が性分に合ってますんでね? )
砕けた笑みと共に答えるこの若者は姓を厳、名を網と言い、歳は二十二で白蓮の下で都尉を務めている。
都尉とは郡都尉とも呼ばれ、主に郡の軍事を司っており、郡に一人置かれているが、辺境や大きな郡になってくると東西南北の各方面に複数配置された。
武勇に長けていた彼は、白蓮に請われると彼女の部下となり、都尉の重職を任される。だが、彼は馬に乗るのが非常に下手で、この様な徒戦の方を好んでいた。
厳網自身も元々低い身分の出自であった為、自身の役職をひけらかさないどころか、寧ろ一心の様な好漢に声を掛けられる事を好としていたのである。
(敵さんが動き始めたようだ。悪ぃが、おめぇさん等は奴等が出払ったとこを見据えて、周囲から騒ぎ立ててくれ。兵隊なら百人程ありゃ大丈夫だろ。
その隙においら達が騒ぎに乗じて殴り込みを掛けるから、そしたらおめぇさん達は奴等が慌ててる内に門を固めてくれや。
溝鼠どもをここに封じ込めて、こっから出れねぇようにしてやるのよ! )
(成る程……そいつぁ、名案ですな )
悪戯っ子の様に、一心が顔をにやつかせながら作戦を説明すると、厳綱も顔を綻ばせながら頷いた。かくして、一対五と分の悪過ぎる拠点制圧作戦が開始されたのである。
一心の指示通りに、厳網達率いる百名の兵は黄巾の大軍がぞろぞろと山を降りるのを確認すると、彼等は一斉に砦の周囲で銅鑼を鳴らし、怒声を上げ始めた。
「なっ、何だ!? 」
「敵だーっ!! 敵の襲撃だーッ!! 」
彼等の仕掛けによって撹乱され、守備に就いていた黄巾の精兵達の間からどよめきが起こり始める。
程遠志と鄧茂は守備の兵は残していたが、愚かにも守りを任す人間をおいていなかったのだ。それも災いしてしまい、彼等の動きには一つも統制が無かったのである。この隙を突き、一心率いる『殴りこみ隊』が奇襲を開始した。
「悪く思うでないぞ……、これが貴様の末路じゃっ! 」
「グウッ! わっ、わっ、うわあああああああああああ~~っ!! 」
先ず仕掛けるは永盛。彼は神業とも言える射撃の腕を披露し、見張り台に立っていた監視の兵を見事射落とした。
「どうれ、そんじゃ仕掛けを作るとすっかい! 」
砦の中の兵がそれに目を奪われている内に、義雷が巨体に似合わぬ器用さで砦を覆う高い塀に短刀を次々に上へと刺して行き、その柄を足場代わりにして一気にそこを登り切る。
「義雷、受け取れ!! 」
「お、悪ぃな義雲兄貴! 」
下に控えていた義雲が義弟の蛇矛を放り上げると、それを易々と掴んだ義雷は塀の向こう側へと飛び降りた。
「好! 行くぞ野郎どもっ! 『出入り』だ!! 黄巾どもの命ァ取ったれ!! 」
「オオオオオオーーーッ!! 」
義弟が砦に潜り込んだのを確認してから、一心が侠独特の喧嘩口上で野郎どもに号令を下すと、『殴りこみ隊』は次々と砦の中に入り込み、怒声を上げながら義雷の後に続いたのである。
「ひっさびさの『出入り』だ……。おいらの中に眠ってた『侠』が『暴れてぇ』とざわめいてるぜ! 」
嬉々として危険を愉しむかの様な顔を浮かべる一心は、かつての英雄劉玄徳と言うよりは侠を率いる大親分の様であった。
「へっへっへ…… 」
「ふむ…… 」
ぞろぞろと集まってきた黄巾の集団の前に姿を現すは、『殴りこみ隊』一番手の義雷で、続いて義雲が彼等の前に姿を現す。
「なっ、なんだぁ!! あの二人の大男は!! 」
「じっ、地獄の鬼だぁ!! 虎髯の野郎もそうだが、あの長髯も見てみろよ! まるで鬼みてぇな赤ぇ面だ! 」
「それに、何だあいつ等の得物はよ!! 人間が持つ大きさじゃねぇ!! 」
この二人の姿を見て、黄巾達は一歩、また一歩と後ずさりし始める。二人の異様な外見は元より、その手に携えた得物の尋常ならざる雰囲気に恐怖したからだ。
「義雷、わしが許す。ここで思い切り大暴れするが良い! 久し振りにわしも大暴れしたいのでなっ! 」
「へへっ、判ってんじゃねぇか、義雲兄貴!! 何せこちとらさっきまで散々『ブタ』ばっかで、兄者に五十銭もカモられたんだ! この鬱憤、おもきし晴らさせてもらうぜ!! 」
青龍偃月刀を構えた義雲が睨みを効かせると、義雷は嬉々とした表情で片手に担いだ蛇矛の柄で肩をポーンポーンと小気味よく叩く。
「そんじゃ、いっくぜぇ!! 黄巾のドブネズミ野郎どもッ!! テメェ等全員三枚におろして膾にしたらあっ!! 」
「黄狗風情がでかい面をしおって……。皇天后土に代わってわし等が仕置きしてくれるっ! 覚悟せいっ!! 」
猛虎の如き雄叫びと共に、義雷が蛇矛を振り回しながら駆け出すと、続く義雲も青龍偃月刀を振りかざしながら襲い掛かった。
「ぬおらっしゃああああああああ~~~っ!! 」
「ふんっ!! 」
「ぎゃあああああああああああああああああああっ!! 」
義雷と義雲が得物を一振りする度、一気に十人前後の黄巾が倒され、そのまま泰山地獄へと旅立つ。
「ちっ、ちくしょうが!! こうなりゃ、程遠志様達を呼びもどしっ、ガハッアッ!? なっ、何で槍が……? 」
目前で繰り広げられる凄惨な殺戮劇に、一人の黄巾兵が本隊を呼び戻そうと駆け出すが、行き成り激痛が走った。急な異変に驚き自分の体を見てみれば、腹から槍が突き抜けているではないか。
口から鮮血を大量に吐き出しながら後ろを振り返ると、そこには白銀の鎧兜に身を包んだ雲昇が背後から槍を突き出しているのが判った。
「何処に行くというのです? 貴方の行き先は泰山地獄のみ……。ならば、※1神妙に東嶽大帝の裁きを受けて来なさい 」
「そ、んな…… 」
雲昇から冷ややかな言葉を浴びせられると、男は白目をむいて力無く崩れ落ちる。これが彼の最期の言葉となってしまった。
「貴様等邪魔だぁ!! そこを退けい!! 劉玄徳が家臣の一人、馬伯起の剛槍! 冥土の土産にとくと味わっていくが良い!! 」
「そっ、そんなのいらねぇ、ギャハァッ!! 」
「ひっ、ひいいいっ!! ギャブッ!! 」
獅噛兜を被り、白銀の鎧に身を包んだ壮雄が、手にした剛槍で次々と敵兵を串刺しにする。彼は突き殺した敵兵の体を蹴倒すと、びゅおうっと剛槍を一振りし雄叫びを上げた。
「物足りんっ!! 誰か俺を満足させる奴はいないのかっ!! 」
その様子に固生は呆れ顔で、黙々と朴刀を振るい続ける。一見すると無気力そうに見えていたが、彼もまた的確に一人一人敵を倒し続けていたのだ。
「兄上……、今はそんな事を言ってないで黙って目前の敵を倒しましょう。暴走しっ放しでは、あの『翠』殿と同類と言うものです 」
すると、その言葉が気に食わなかったのか、壮雄は両目をカッと開いて弟を一喝する。
「固生ッ! 俺をあの様な『小便臭い小娘』と一緒にするな!! 」
「ははっ、そうでしたね。兄上はその様なお方ではありませんな、これは失礼 」
ニヤリと笑いながら、固生が白々しく謝って見せると、壮雄は思わず呆気に取られるが破顔一笑し始めた。
「ハッハッハ! 俺をからかうとは、生意気な弟だ!! 」
「ハハッ、それでは気分を新たにして黄狗どもを葬りましょうか? 」
「ああっ、固生。我等兄弟の新たな戦いぞ! 前世の分を含めて思い切り大暴れしてくれん!! 」
「応ッ! さぁッ、馬伯起が弟馬仲山が貴様等の相手だっ! 我こそはと思う者は前にでよっ!! 」
そう声高に叫ぶと、二人の兄弟は背中合わせで得物を振るい続け、幾数多の敵兵を次から次へと冥府へと誘ったのである。
「ハッ! フッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッハッハッハッハアッ! 」
「うっ、うわああああああああ!! なっ、何だコイツの剣裁きは! 手数が滅茶苦茶過ぎる! 」
諸手に携えた雌雄一対の剣を器用に扱いながら、一心が途切れない剣戟を敵兵に浴びせ続けていた。一方の黄巾兵はそれを受け流すのに精一杯で、完全に受け切れなかったのか体中のあちらこちらに赤い筋が出来上がっている。
「馬鹿野郎がぁっ! テメェとおいらじゃ踏んだ場数が違ぇんだよっ! ※2湯で顔を洗って出直して来ゃあがれっ! 」
「グハッ! 」
一心が体を捻ってみせると、鋭い回し蹴りを中段で繰り出し、敵の腹にぶち当てた。それを受け敵兵は体をよろめかせると、一心は蹴り足を地に着けたと同時に体を反転させ、右手に持った剣を一閃させる。
「セリャアッ!! 」
「ギャブッ! 」
一心の剣に頚動脈を切られた男は、そこからプシューッと音を立てながら盛大に血を噴出すと、地面に倒れて自身の血の海の中でのた打ち回りながら事切れた。
「次ィ生まれて来る時ゃあ、苦しくっても畜生道に身ぃ墜とさねぇ真人間になるんだなっ! 悪ぃが、同情はしてやんねぇぜ 」
右手を一振りさせ、一心が剣にこびり付いた血を弾き飛ばすと、突然彼は左手に持った剣を掌中で一回転させて背後に突き立てる。すると、一心を背後から斬り掛かろうとしていた敵兵の一人が心臓を一突きにされており、白目を向くとそのまま後ろに倒れこんだ。
「おい、おいらを背中から襲って良いのは雪蓮だけだぜ? テメェの様な薄汚ぇ狗は真っ平お断りなんだよっ! ケッ、やってらんねぇ 」
一心は敵兵の躯から剣を抜き去ると、とある一角を見やる。
この砦は塀の内側を覆う様に足場が設けられており、下とそこを結ぶ階段が何箇所か設けられていたのだ。
「おっ、やってるやってる……。流石北の字だな、きちんと義雲たちに揉んでもらった成果を出してるじゃねぇか 」
一心が見やった『とある一角』とはその足場部分と階段との昇降口で、そこでは漆黒の具足に身を包んだ一刀が、十名近くの敵兵と斬り合いを演じていたのである。一対十の不利な状況下でも、全く引けを取らずに戦う弟の姿に一心は満足げに頷くのであった。
「ちぇすとぉッ!! 」
「グベッ! 」
薩摩示現流に伝わる掛け声を声高に叫びながら、一刀が大身槍を敵の心の臓に勢い良く突き立てる。雲昇直伝の槍術を駆使し、彼は相手の鎧越しで敵を貫いて見せたのだ。
「この黒鎧野郎がっ! 死にゃあがれ!! 」
「やかましぃ!! てめぇはすっこんでろぃ!! 」
「グヘッ! 」
階下から他の敵が襲い掛かってくるが、一刀はすぐさまその顔面に蹴りをめり込ませる。その反動で、蹴倒された方は後に続いていた者達を巻き込んでしまい、彼等は一斉に下の方へと雪崩落ちていった。
「おっ、おいっ!! こっちに来んじゃねぇよ!! 」
「うっ、うわぁ!! 落ちるっ!! 」
「うわあああああああああああっ!! 」
「うっ、ううっ…… 」
「いだだだだだだ…… 」
階段から転げ落ちた黄巾を一瞥し、一刀はワンシーンだけ覚えていた映画のタイトルをボソッと口にしたのである。
「ったく、『蒲田行進曲』じゃねぇんだぞ…… 」
そうぼやいて見せると、一刀は自分の頬をバシッと両手で叩いて気合を入れ直し、キュッと歯を食いしばって再び得物を振るい始めるのであった。
「この砦はもう駄目だ!! 早いとこずらかるぞ!! 」
「こんな連中に付き合ってられっか!! 」
一方でこの砦はもう駄目だと判断し、ここを放棄して逃走しようとする者達も出始め、彼等は砦の門を目指した。然し、そこに辿り着いた瞬間、彼等は絶望に襲われる。
「なっ! 門が官軍で塞がれているだとぉっ!? 」
「黄巾どもめ! 何処へ逃げおおせる積りだ! ここは遼東属国長史公孫伯珪が部下が一人厳網が占拠した! 大人しく死出の旅路を逝くが良い!! 」
「皆の衆!! 黄巾の賊徒どもに矢を馳走してやれいっ!! 」
砦の門は厳網と永盛が率いる百名の兵で固められており、門番と思しき数名の屍がそこに転がっていた。声高に叫んだ厳網が睨みを効かせ、永盛が号令を下すと、一斉に矢の雨が彼等のほうへと降り注がれる。
「よしっ! 皆殺しじゃ!! 」
射撃を止めると、永盛は素早く弓を鞘に収め、地べたに置いていた象鼻刀を引っ掴み、恐慌状態に陥っていた黄巾どもに踊りかかった。
そして彼に続くが如く、兵達も弓から剣や槍に持ち替え雪崩れ込んだのである。
「うりゃあああっ!! 劉玄徳が家来の一人黄国実の衰え知らずの武! 冥土への土産話にするがいい!! 」
「うぎゃがはっ!! 」
永盛こと嘗ての黄漢升は、何も弓だけではない。前世にて現在の義雲こと関雲長と、互角に一騎討ちを繰り広げた程の武勇の持ち主である。
彼が象鼻刀を一振りすれば、たちどころに数名の人間が大小様々な真紅の華を咲かせ、強制的に泰山地獄へと行かされて逝った。
「ひっ、ひいいいいいいいっ!! 」
然し、運の良い者もいたものである。一人の伝令兵が満身創痍に成りながらも、何とかほうほうの体で砦からの脱出に成功したのだ。
傷だらけの彼は途中何度も転倒しながらも、死に掛けの状態で大将の程遠志と副将の鄧茂に報告する事が出来たのである。
一心率いる『殴りこみ隊』による奇襲開始から、かれこれ一刻(約二時間)余りが経過した。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ。ふうっ……若返った嬉しさで無茶し過ぎちまったかな? でもまぁ、前の世界より体が軽いしなぁ、少し休めば落ち着くだろ。
北の字が言うとこの、『自主とれ』と言うモンやっといて正解だったぜ 」
肩で息をしながら一心が周囲をぐるりと見回すと、幾数多の黄巾が無様な屍を白日の下に曝け出している。彼等の中からは、誰一人として蠢く者はいなかった。
「兄上~~っ!! ご無事ですかぁ~~!! 」
「兄者ーっ、ご無事でしたか!? 」
「兄者~っ!! 生きてっか~~!! 」
「んっ……? 」
何処からか、自分を呼ぶ声が三つばかり聞こえてくる。声のする方に目を向けてみれば、大切な義弟達がこちら目掛けて走ってくるではないか。
一心は顔を綻ばせると、大きな声で彼等に答える。
「おぉ~~い! おいらは大丈夫だ、何ともねぇ!! お前等こそ大事ねぇか~っ! 」
一刀・義雲・義雷の三人は一心の許に辿り着くと、生きていた事の嬉しさと戦いに勝利した嬉しさとで、長兄たる彼の手にそれぞれの手を重ね合わせた。
「全く、大袈裟なんだよお前等。まぁ、義雲と義雷は心配してなかったが、北の字がちぃと不安だったかねぇ? 何せ、おめぇの武は閨限定と来てるしな? 」
「うわぁ……酷いなぁ~~! 確かに兄者達や老師達の様に一騎当千とまでは行きませんでしたけど、一騎当百位は出来たかなぁって思ってますよ? 」
悪戯っ子の様に一心がニヤッと笑って一刀をからかうと、当の本人は少し唇を尖らせつつもニヤリと笑い返す。
「まぁ、一刀なら大丈夫でしたわい。わし等が散々鍛えただけの動きはしてくれましたからな? 」
「おうよ、義雲兄貴の言う通りだぜ! 俺や兄貴には大きく劣るが、『西涼のションベン娘』並みの働きはしたと思ってるしよ、及第なんじゃねぇの? 」
義雲と義雷は会心の笑みを湛えて、この末弟の戦働きを称賛した。そうしている内に、雲昇を始めとした他の将達も彼の許に駆け寄る。彼等を代表して、雲昇が一心に拱手行礼で報告を始めた。
「一心様、砦の黄巾殆ど討ち果たしました 」
彼の報告を受け、一心は一気に表情と雰囲気を本来の物に戻すと、雲昇の肩に手を置き優しく語り掛ける。
「大儀であった、雲昇。殆どと言う事は……逃げおおせた者もいた訳か? 」
その言葉に雲昇はやや表情を曇らせたものの、隠し事無しで正直に事実を告げる事にした。
「はっ、門で永盛殿が残敵掃討に当たられましたが、運良く逃げおおせた者が何名かいた様です。申し訳ございません 」
「構わん。後は鄒靖殿の仕事だし、取り敢えず我々の目的は果たした。……皆の者! 我等の勝利だ、勝ち鬨を上げよ!! 」
「うおおおおおおーっ!! おおおおおーっ!! 」
王者の風格を身に纏った一心が威厳のある声を周囲に響かせると、一斉に『殴りこみ隊』が勝ち鬨を上げ始める。
彼等が上げる勝ち鬨は大興山を包み込み、それは麓で戦っていた鄒靖達の軍にまで届いた。この時、既にこちらの方も戦いは終結しており、黄巾五万の兵の殆どが壊滅されていたのである。
また、この戦いを切欠に『楼桑村義勇軍』及びそれに加わっていた者達の勇名は周囲に知られる様になり、彼等に対する人品の援助が殺到する事になった。
「只今、桃香、蓮華……。何とか生き残ったよ 」
大興山の砦を陥落させる事に成功した『殴りこみ隊』が次々と下山し始め、鄒靖率いる本隊と合流する。その中には漆黒の具足と純白の陣羽織を朱に染めた一刀の姿もあった。
彼が携えた大身槍は朱に染められており、少し怪我をしたのだろうか、左腕には包帯が巻かれている。だが、本人はケロッとしており、二人に対してニカッと笑みを見せていた。
「一刀さん、お帰りなさい……。私、一刀さんの無事を祈ってたんだよ? 」
「一刀、本当に無事で良かった……! 」
彼の無事な姿を確認した桃香と蓮華は、想い人の生還に頬を綻ばせ清水の如き涙を流し始める。堪らなくなったのか、二人は一刀に抱きついた。
「おおっと! 」
思わぬ衝撃に軽くよろめいて見せるが、一刀は持ち堪えると、それぞれの腰にそっと手を回して二人を抱き寄せる。
「桃香も蓮華も大変だったろ? 何せ俺達より規模のでかい連中に当たったんだし…… 」
「ううんっ……愛紗ちゃんや鈴々ちゃんたちがいたから、私は大丈夫だったよ。一刀さんの方だって……五倍の敵を相手にしてたんじゃない 」
「私も大丈夫だったわ、姉様に祭、そして小蓮に明命がいたんですもの……。私、自分の事より一刀の方が心配だったんだから! 」
一刀は、二人の髪から放たれる甘い芳香を堪能していると、何やら自分等の前方で雪蓮が一心を引き摺っている光景が目に入った。
そんな彼と目が合うと、一心は一刀に助けを求める。
「おっ、おいっ! 我が弟一刀よ! この哀れな兄を助けておくれ! 何やら雪蓮の様子がおかしいのだ!! 」
「おかしいって……失礼な言い草よね? それよりも、これから本気のマジでガチな『子作り作業』をしましょう……。さっきから体が熱くってしょうがないのよ…… 」
雪蓮の目は何やら常軌を逸している様であった。一言で言えば、今の彼女は『イッちゃってる』訳である。
一心の義弟である義雲と義雷は既に我関せずと無視を決め込んでおり、頼れる忠臣の雲昇達も知らん振りを決め込んでいた。
「あ~、あの~~兄上、某は兄上の弟として、兄上のご武運をお祈りするのみでございます。どうか、晴れて孫家の姫君に子宝をお与え下さいませ 」
既に、一刀も何回か雪蓮の特殊な性癖を目の当たりにした経緯がある。こう言う時の彼女は、暴れん坊の義雷でも可也手を焼かされるのだ。
自分としても係わり合いを持ちたくなかったので、
兄には大変申し訳ないが、彼には『生贄の山羊』になってもらおうと判断したのである。
「うっ、恨むぞこんにゃろぉ~~~!! 」
「さぁさぁ、天幕まであと少し……夜明けまでどっぷりしっぽり愉しみましょう♪ 」
喚き散らす一心を他所に、雪蓮は自分用に用意させた天幕に彼を引き摺り込むと、少ししてからそこから何やら激しい声や物音が聞こえてくる。
兵達の間には助平根性を起こそうとする者もいたが、天幕から放たれる殺気に中てられると忽ち腰を抜かして逃げていった。
「ふうっ、雪蓮さんもスンゴイ人だよなぁ……兄上の体が持てばいいけどね。まっ、俺より絶倫だから問題ないだろうな 」
一刀がその光景にフッと余裕の笑みを浮かべていると、行き成り一刀の両耳に『フウ~ッ』と息が吹きかけられる。思わぬ不意打ちに一刀は驚くが、自分の兜がいつの間にかに外されていた事に気付いた。
「一心兄さんや雪蓮さんの事心配する暇あると思ってるの、一刀さん? 」
「ええっ、私達をこんなに心配させといてケロッとしてるんですもの……罰を与えないといけないわね、桃香? 」
その犯人は他ならぬ桃香と蓮華だった。二人はいつの間にか一刀の兜の緒を解き、同時に剥き出しになった彼の耳に息を吹きかけたのである。彼女等は既に『女の顔』に変貌していた。
「ちょっ、ちょっとチミタチ待ち給え!! まさか、これってこの前と同じオチですカー!! 」
桃香と蓮華の変貌ッぷりに、一刀の脳裏に嘗ての悪夢が再現される!
恐怖した一刀はこの場から戦略的撤退を図ろうとするが、そうは問屋が卸さない。既に、彼の体は二人の女傑によってがっちり掴まれており、一刀はここから一歩も動く事が出来なくなっていたのだ。
「おや……ご舎弟様ではありませんか? 」
身動き取れぬままの一刀の視界に照世が入ってきた。一刀と目が合った彼は、この光景を見るや否や、白羽扇を軽く顔の前にかざして何やら考え込む仕種をしてみせる。少しして、彼は得心したかの様に悠然と頷いてみせた。
「ふむ、そう言う事ですか……。桃香殿と蓮華殿に跡継ぎを産んで貰うのも『国家百年の計』の一つ、ならばこの照世もご協力致しましょう 」
照世はわざとらしく笑みを浮かべると、彼は指をパチンと鳴らす。すると、彼の後ろに楼桑村義勇軍の勇士十数名が横一列に並んだ。
「どうやら、ご舎弟様達はお疲れの様だ。そなた達には至急天幕を作って欲しい。大きめの寝台を入れるのも忘れぬ様にな? 」
「ハッ、諸葛軍師殿! 」
照世が命じると、彼等はてきぱきと作業を開始する。呆然としたままの一刀の目前で、あっという間に天幕が組み上げられると、器用にも大きめの寝台までがそこに運び込まれた。
「ふむ、中々の出来栄えだ……。ささ、お三方準備は整いましたぞ? 後は翌朝までごゆるりとお休み下され 」
「んがっ!? 」
大仰に照世が恭しく言上してみせると、一刀は奇声を上げるだけで固まってしまい、桃香と蓮華はにっこりと笑みを浮かべて見せた。
「有難うございます、照世老師。さぁ、一刀さん。これから休みましょ? 今日は疲れてるから早く休んだ方がいいよ~♪ 」
「照世老師、お心遣い感謝致します。一刀、桃香の言う通りよ? 貴方は今日は疲れてるんだし、早く休まないと明日に響いちゃうわ? 」
二人は一刀に優しく語り掛けるが、その言葉とは裏腹に彼女等はこれから一刀に『休む』どころか、下手すりゃ『命を削る』行為を彼に強いる訳である。
一刀はそのまま彼女等に成すがされるまま、天幕へと引き摺られていき、照世とすれ違いざまに彼目掛けて大声で毒づいた。
「まっ、又しても謀ったなぁ照世!! 」
「はっはっは、ご舎弟様。努々ご油断成されますな……。年頃の娘はふとした一言でも敏く応じてしまうものです、以降は慎重に言葉をお選びなさいませ 」
余裕あふれる涼やかな照世の笑みに見送られ、哀れ一刀は二人の女修羅に引き摺られ、閨と言う名の泰山地獄に墜ちていったのである。
然し、この世には不確定要素が存在した。その内の一つが、こちら目掛けて馬を走らせ来たのである。
「ちょぉっと、待ったァ~~!! 一刀お兄様と閨を所望する者はまだここにいるぞ~~!! 」
「ムーーーッ!! 」
馬を走らせていたのは蒲公英であった。彼女は後ろに縄でグルグル巻きにした翠を括り付けており、ご丁寧にも猿轡まで噛ませていたのである。
「もうっ、翠姉様も一回こっきりで済まそうなんて思ってるようじゃ、桃香姉様と蓮華姉様に舐められっぱなしになっちゃうんだよ? 本当にそれでもいいの!?
こんな事伯母様と鷹那に知られたら、どんなお仕置きが待ってるかヨヨヨ…… 」
「ムゥーーーーッ!! 」
蒲公英がわざとらしく泣く素振りを見せるが、彼女の目は笑っていた。翠がおっかない目つきで彼女を睨み付けるが、当の蒲公英は全く取り合っていない。
「そんな怖い顔しないでよ、翠姉様……。これは、たんぽぽがお姉様の事を思ってしてるんだからね? そう言う訳で『雑用将軍』の固生さーん! 」
「は? 私ですか? それと『雑用将軍』って……。蒲公英姫? 」
行き成り蒲公英に振られ、固生は目を白黒させて自身を指差す。彼は既に兜を脱いでおり、武具の手入れを始めようとしていた矢先であった。
「悪いんだけどさ、この奥手な西涼娘をあそこに放り込んでくれない? たんぽぽからのぉ、お・ね・が・い♪ 」
小悪魔めいた笑みと共に蒲公英が天幕を指差すと、固生は盛大に溜息を吐いてしまい、ガックリと肩を落とす。
「はぁ~~、はいはい判りました。やれば宜しいのですね? 全く……私はいつから『雑用将軍』になったんだ! 」
不承不承頷きながらも、律儀にも固生は『西涼娘』を担ぎ上げると、天幕の中へそれを放り込んだ。この『雑用将軍』であるが、悲惨な事に後々彼の『代名詞』になってしまったのである。
「はぁ~い、ありがとう固生さん。それじゃ、たんぽぽは……今日は眠いから、今度にしようっと。お休みなさぁ~~い 」
やるだけやると、蒲公英は急に眠気に襲われたのもあったせいか一気に興を無くしてしまった様で、軽く欠伸をすると自身も休むべく自分の天幕へと戻っていった。彼女は正に生まれ付いての災厄製造者 と言えよう。
「……今度って、一体どう言う意味なんだ?
それと『雑用将軍』って……なんなんだぁーっ!! 」
この場に一人残された固生は、先程の蒲公英の言葉の意味を解そうとするが、出来ずじまいで彼は忌々しげに頭をかきむしる。
おまけにあの小生意気な、この世界の自分自身に言われたあだ名が頭の中にこびり付き、彼はただ喚き散らす事しか出来なかったのだ。
最後に滑稽な出来事が発生したものの、大興山における『楼桑村義勇軍』の初陣は大勝利に終わったのである。
※1:道教に伝わる泰山地獄の守護者。人の生死を司ると言われている。後年仏教と融合され、閻魔の眷属の一人とされた。別の呼び方で泰山府君(太山府君とも書かれる事も)がある。
※2:スープの事、お湯ではない。
ここまで読んで下さり真に有難うございます。
さて、今回は『大興山の戦い』となってますが、この『大興山』とは演義独自の設定で実在していません。吉川三国志でも『青州大興山』としか書かれてませんでした。
ですので、どこら辺がいいだろうと三国志の地図を載せてるサイトを探しまくり、見つける事が出来た物に目を通して、後は自分なりにでっち上げました。何せ、青州の何処の郡か何処の県かと言うのも設定されていなかったので、骨が折れましたねぇ~~。
今回登場させた鄒靖将軍ですが、辺境暮らしが長かったと言う事でしたので、お恥ずかしながら、私の地元の『仙台弁』を喋らせて見ました。それでも、いんちき風味仕立てにして胡散臭さを滲ませております。また、公孫瓉の部下の厳網ですが、これも実在の人物で公孫瓉の部下です。後に袁紹と戦った際に囚われの身となってしまい斬られてしまいました。鄒靖と厳網の外見イメージですが、誰だーとか言うのは特定していません。
今回のお話は戦闘だった故に、戦描写で可也梃子摺りましたねぇ……。何せこの様な状況描写は今回が初挑戦だったのです。照世達の策のシーンも然りで、ない知恵を絞りました。マニアックな方だったら『ここがおかしいぞ』とか、『こんな戦術ありえねぇだろう』と突っ込まれるかも知れません。ですが、現時点での私の技量ではこれが精一杯です。突っ込まれても『ごめんなさい』としか言えません。これ本当の事ですんで。
前半部分は恋姫たちに暴れさせ、後半部分は漢どもに暴れさせる形式を取り入れ、自分なりにバランスを気遣いました。ですが、まだまだだと思っています。こればかりは書きなれて自分なりの匙加減を手に入れるしかありませんから。
どうも、第一部最終話で37000文字を書き上げたせいか、この第二部に入って以降、一話ごとの文字数が可也増えています。十六話が約18000で、幕間其の二が20000、今回に至っては26000です。そして、それに比例して寝不足が増えちゃいましたねぇ~。肩こりも酷くなってきました。(苦笑)
只、三月の震災の影響で中々寝付けなくなってしまい、夜中の軽い余震でもすぐに起きてしまうものですから、これらのお話を書くのも手慰みの意味合いが含まれております。ですが、皆さんの期待に応えたい、面白いお話を作ってみたいと言うのも、私にとっての原動力の一つでもあるのです。モチベーションが何処まで続くかは不安です。然し、書けるんだったら書いていきたいなぁと思っています!!
また次回も桃香達は次の戦いの舞台へと飛び込みます。さて、次回はどうしようかな? 三十八歳の独身中年の悪戦苦闘はまだまだ続く……。
次回も更新されましたら、またお会い致したく思います。
それでは、また~!! 不識庵・裏でした~!!
この歳になってくると、ガキの頃の友人は皆家庭持ち……。家庭を持つのも大変だよなぁ~~。