表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第二部「黄巾討伐編」
17/62

第十六話「白馬長史と常山の昇り龍」

 どうも、不識庵・裏です。先週第一部を書き終え、燃え尽き症候群みたいな感じになっていたのですが、自分の書いた話を読み返していく内に『続きを書きてぇな~』って思うようになってきました。


 横山三国志の第二巻を読み返し、何とか書けないかなぁって思い、見切り発車めいた感じで書き始め、幸いGW中と言う事も手伝ってか何とか一本書く事が出来ました。


 ですが……グダグダかなぁ~? と思っています。後できちんと大まかな話の流れを書かないといけませんねぇ……。それでは、「照烈異聞録」第二部スタートです。読んで頂ければ嬉しく思います。



 光武帝劉秀によって蘇った漢王朝という名の大樹も、長き時を経てゆっくりと根元から腐り始め、その太い幹は奸臣・悪臣と言う名の白蟻に食い荒らされ、民心と言う名の枝葉は次々と枯れ落ちていった。高祖劉邦が興した前漢から数える事四百年。漢王朝は徐々に落日の時を迎えようとしていたのである。


 後年霊帝と(おくりな)された劉宏の時代、それを決定付ける事件が起こった。『黄巾の乱』である。この『黄巾』の謂れであるが、『大賢良師』と自称する張角を中心に結成された『黄巾党』が由来で、彼等は信者の証たる黄色い頭巾を着けていた。


 最初は僅かな存在でしかなかったが、黄巾党は地道に活動を展開し、世に絶望した民衆の心を掌握する。その結果、信者の数は段々と増え始め、ついには大陸中を席巻するまでの規模に膨れ上がると、政治色まで帯びるようになってきた。そして、ついに彼等は漢に成り代わらんと目論む様になる。



『蒼天(すで)に死す 黄天(まさ)に立つべし 歲は甲子(こうし)在りて 天下大吉 』



 彼等は、五行思想による※1易姓革命(えきせいかくめい)由来の王朝の交代を謳った物を旗印に掲げ、最早徳を失った漢に変わるのは我等黄巾であると天下に触れ回ったのだ。


 甲子の年に入ると、黄巾党は幹部の一人である馬元義(ばげんぎ)を帝都洛陽に潜伏させ、皇帝の傍に仕える中常侍の宦官封諝(ほうしょ)徐奉(じょほう)を抱き込むと内応の約束を取り付ける。彼等は王朝交代を実行すべく洛陽の内と外で蜂起する計画を企てていたのだ。


 然し、その計画は未遂に終わる。張角の弟子の一人唐周(とうしゅう)が宦官に密告し、計画が発覚してしまったのだ。馬元義は即刻捕らえられ、洛陽の市中において車裂きの極刑に処せられる。


 この報を重く受け止めた劉宏は、三公及び司隷校尉に命じて背後関係を徹底的に洗い出しを行わせると、下は庶人から上は高官に至るまで実に千人余りが捕縛され、彼等も馬元義同様の道を辿った。死に行く竜たる漢とは言えども、その逆鱗に触れた張角への怒りは収まらず、劉宏は即刻張角及びその側近である二人の兄弟の捕縛を命じたのである。


 この報せを受け、張角は計画を予定より早く実行に移した。彼は『天公将軍』と自称すると、兄弟である張宝、張梁もそれぞれ『地公将軍』、『人公将軍』と称させ、各地に点在する大勢の信者達を軍隊化させると、連鎖的に挙兵させたのであった。黄巾と言う名の種火はいつしか大陸全土を覆う大火と化したのである。


 ……と、まぁ、一般的な歴史の資料ではこんな感じであろう。然し、この世界における黄巾の乱の裏ッ側では、実際にはこんなやり取りが交わされていたのだ。それは以下の通りである。



『大変よ、姉さん達。洛陽で集会の準備をさせていた馬元義さんが捕らえられてしまったわ! 馬元義さんを手伝ってた人達も皆捕まったって言う話よ? 』


『えー! 折角洛陽の人達の心を鷲掴みにして、私達の歌で天下獲ってやるぞー! って思ってたのにー!! 』


『天和姉さんっ! そんな事言ってる場合じゃないわよっ!? その内お役人達が私達を捕まえにくるわ!? 』


『そうね、私達全国区でお尋ね者になってしまったようだし……。おまけに馬元義さんと言うやり手を失ったのも痛いわね…… 』


『どどど、どーしよー!? ちーちゃん、れんほーちゃん? 』


『こうなったら……やるしかないわね!? 』


『へ? やるって……どういうこと? ちーちゃん? 』


『戦争よ、戦争をやんのよ!! 漢の判らず屋どもと戦争して、何が何でも私達の歌を聞いてもらうしかないわっ!! 』


『えー!? 戦争ぉ!? 嫌だよー! お姉ちゃん、戦争は嫌いだよー!! 』


『天和姉さん、こうなった以上は地和姉さんの言う事に一理あるわ。私達が生き残るには戦争に勝って、大人しくさせてから歌を聴いて貰うしかないのよ? 』


『う、うん……。判った。お姉ちゃん馬鹿だから、二人に任せるね……? 』


『ちぃたちに任せて、姉さんはいつも通りにすんのよ? でないと、信者の人達に余計な不安を与えるんだから! 』


『確かにそうよね? 天和姉さん結構顔に出ちゃうし 』


『あ~~ん! 誰か何とかしてー!! 何でこうなるのぉ~~~!? 』



 後漢末期の一大事件である黄巾の乱の首謀者が、まさかこんな情けない人物だったのを後世の歴史家が知ったとすれば、きっと彼等は呆れ返っていた事であろう。



 桃香こと劉玄徳を総大将とした『楼桑村義勇軍』は、道中遭遇した黄巾賊や匪賊の類を殲滅しつつ、涿郡を北東に抜けると、彼等は州都所在地たる広陽郡は薊県に到着した。


 当時、幽州を治める刺史は劉虞(りゅうぐ)で、字は伯安(はくあん)と言う人物である。


 彼の家は光武帝の長男にして東海恭王劉彊(りゅうきょう)を祖としており、祖父は光録勲、父は揚州丹陽郡太守を勤めた程で、その本人も祖父や父に劣らぬなかった。


 劉虞は極めて公明清廉な人物であり、皇室の流れを汲んでいた事もあってか、高い声望をも兼ね備えており、地元の名士は言うに及ばず人民からも慕われていたのである。


 その彼であるが、今回の黄巾党蜂起の報せを受けると、幽州ほぼ全域内の郡太守にそれぞれ自分等の軍を率いさせてここ薊に集結させる。その中には遼東属国の長史職を務める公孫瓉の姿もあった。


 薊に到着した桃香は先ず公孫瓉の陣を訪れるべく、彼女は義妹二人を引き連れ、学友であった公孫瓉と実に四年振りの再会を果たしたのであった。



「桃香、久し振りだなぁ! 四年前に涿で別れて以来だな? 」


「うんっ、お久し振りだね白蓮ちゃん! 元気にしていた? 」



 二人は抱き合いながら再会の挨拶を交わすと、互いに笑みを浮かべる。二人とも嬉し涙で頬を濡らしていた。やがて、二人は体を離し互いに向き合うと、白蓮は表情を改め、親友たる桃香に尋ねる。



「ところで……私に一体何の用件で来たんだ? まさか旧交を温めに来ただけじゃないんだろ? 」


「うん、実はね…… 」  



 対する桃香も真剣な表情で語り始めると、その表情を見て白蓮は、今の彼女は四年前とは別人であるかのような錯覚を覚えた。


 

 一方、幽州連合軍の陣から少し離れた場所に位置する『楼桑村義勇軍』の本陣。その天幕において『お留守番担当』達が待機しており、雪蓮と喜楽、そして祭の飲兵衛三人組はちゃっかり楼桑村の酒蔵から引っ張ってきた『清酒』の試し飲みをしていた。



「雪蓮ちゃん、祭さん。この『三』の瓶の奴はどうだ? 」


「うーん、そうねぇ……『三』だと、ピリッとした辛味とクセ(・・)があるわね? これよりは『四』の方が私好みかな? 果物みたいな甘い香りがするし、飲み口も良いもの 」


「ふむ、策殿は『四』か……。確かに『四』も美味じゃが、若い娘好みの味よな? 喜楽殿、策殿、むしろ儂はこの『三』の方が好みじゃ……。※2清蒸魚(チンチェンユウ)を肴にこれを飲めば、最高じゃと思うぞ? ふむ……想像しただけで腹が減ってきたわ。これ、松花。儂が作ってやるから、何でもええ。魚を買ってこぬか 」


「はぁ? 冗談言わないでっ! ナニ考えてんのよ!! 大体こんなご時世で魚売りがまともに商売してる訳無いでしょ!? おまけにここは幽州よ? 精々獲れても小さい川魚が限度だわ? 」


「なぁに、別に川魚でも構わぬのよ。白身であれば作れるしの? 」


「あっ、そう……。判ったわ、買ってくりゃいいんでしょ!! 」


(こっ、このオバハン……私は使い走りじゃないのに…… )



 これに合う酒肴が欲しくなったのか、祭は義勇軍の主計及び輜重担当である松花に魚を買って来いと、無理難題を押し付ける始末。彼女は眉根を吊り上げて声高に抗議するものの、祭からしれっとやり返されて、ガクッと肩を落としてしまった。



「まぁまぁ、松花殿。私もお供しますから 」



 然し、そんな松花を慰めるべく、祭の傍で控えていた明命が同行を申し出る。彼女の申し出は松花には物凄くありがたいものだった。



「有難う、明命。何で貴女も来てくれる訳? 」


「はいっ! お猫様への貢物が無くなりましたので、その補充なのですっ! 」


「あっ、そう…… 」


 

 明るい笑みと共に明命がその理由を述べると、松花は益々肩を落とす。結局松花は渋々明命を引き連れ、城下町の市場に魚を買いに行った。


 さて、先程松花に無理難題を申し付けた黄公覆こと祭であるが、孫家の中でも彼女は取り分け酒豪であり、その度合いは主公孫文台こと青蓮も適わないほど凄いものであった。


 その彼女であるが、楼桑村に来た時に雪蓮から喜楽を紹介され、彼が新しい酒を造っていると聞かされると、早速飛びつくように興味を示す。聞けば雪蓮もそれに協力していると言うではないか? 将来の主公を助けるのは家臣として当然と言わんばかりに、彼女もちゃっかり喜楽に協力を申し出たのである。要は、只酒を飲みたかっただけなのだが……。


 然し、祭はこの未知の酒の味の奥深さにいたく(・・・)感銘を受けてしまい、たちまち『清酒』の虜になり始めた。後日、彼女は喜楽経由で『清酒』を大量に入手し、一山当てただけでなく、孫家家中にて『清酒同好会』を発足するまでに至り、ついには孫家の領内の隅々までそれを広めた彼女は『清酒の母黄公覆』の異名で呼ばれるようになる。



「ふぅ…… 」



 一刀は、具足の兜と胴を脱いでおり、鎧直垂(よろいひたたれ)の上には陣羽織を羽織り、下は※3佩楯(はいだて)と※4臑当(すねあて)姿で座に腰掛けていた。今の彼は髷を解き、下ろし髪で鉢巻を額の前で結んでいる。恐らく、彼の悪友が今の彼の姿を見ればこう言うだろう。



『なんや? かずピー。自分、N○Kの大河ドラマにでも出演しとるんか? 』



 そう言われてもおかしくない位、今の一刀の姿はまるで陣中に控える戦国武将さながらの様で、陣中にて待機とは言えども、今の彼は少しばかり緊張していた。村を護る戦いの時や、道中での賊徒どもとの斬り合いとは異なった独特の空気は、彼の心に幾らばかりかの重圧を与えていたのである。



「一刀 」


「あ、蓮華 」



 彼と同じく、留守番組の一人であった蓮華が声を掛けてきた。彼女は『意外と重くて肩が凝るから』との理由で、髪飾りを外している。一刀の顔を見た彼女は、軽くプッと噴出し笑いをしてみせる。



「一刀、今の貴方『こーんな顔』してるわよ? クスッ 」


「え~? 今の俺そんな顔していたの? 」



 彼女は両手で目を吊り上げて見せると、思わず一刀はおどけた顔になって表情を崩し、それを見て彼女はにっこりと笑顔を見せた。



「ええっ、本当に怖い顔していたんですもの……。これで少し緊張がほぐれたかしら? 」


「あっ…… 」



 どうやら、彼女は緊張で固くなっていた彼をほぐすべく、わざと笑わせたのだろう。昔だったら考えられない彼女の気遣いに、一刀はその有り難味を痛感した。



「有難う、蓮華。お陰で気が楽になった 」


「ううん、気にしないで。私だってこれでも緊張しているのよ? だって、村にいた時の照世老師達中心の作戦会議と違って、本格的な『戦争の空気』が漂っている場所にいるんですもの 」


「そうだなぁ……俺も、こんな大軍の中で、然もこうやって陣の中で待機するのって初体験だし……。雪蓮さんや祭さんみたいに『戦慣れ』してる訳じゃないからな、俺達 」



 天幕の中を見回しながら、おどけた表情で蓮華がわざとらしく両肩をすくめて見せると、右に同じと言わんばかりに一刀も大げさに頷いて見せる。このような本格的な軍事行動に参加するのは、二人にとっては生まれて初めての事であったからだ。



「一刀、蓮華ちゃん 」



 すると、いきなり二人にいずこからか声が掛けられる。二人が声のした方を向けば、一心が砕けた笑みを二人に見せていた。



「あ、何ですか? 兄上 」


「何でしょうか、一心お義兄様? 」



 この頃から、蓮華は一心の事を『お義兄様(おにいさま)』と呼んでいた。想い人一刀の実兄だけでなく、母青蓮の許可なんぞは貰っていないが、姉雪蓮の『婚約者』と言う事になっており、他にも桃香の様に頼れる兄が欲しいと言う心の渇望もあったからである。一方の一心も、蓮華の事も桃香と同じく自分の妹同然に接していた。


 そんな感じで孫姉妹からも慕われてる一心だが、彼は義雲、義雷、蒲公英そして小蓮相手に以前璃々達とやった『絵札遊び』に興じている。この『絵札遊び』であるが、これは元々一刀の世界にあった『トランプ』であった。一刀が考案したと言う事にしといて、松花と協力して商品化に成功した経緯がある。


 後は簡単な遊び方のルールを紙に書いて説明書として一緒に売り出すと、忽ち幽州中で馬鹿売れし始めた。余談だが、彼等が遊んでいるのは『オイチョカブ』のトランプ版だったりする。



「恐らく、桃香はまだ戻ってこないと思うからよ。二人ともそこら辺歩いてくればいいさ。モノホンの戦場の空気に慣れとくのも勉強だぜ? おおっ!? 二ィ、三ッ、四ッ! 『ノボリカブ』ッ! こいつぁ、幸先がイイってもんよ! 」



 二人にそう言いながら、一心が札をめくって見せると、忽ち彼は顔を綻ばせ狂喜乱舞し、残る四人は手に取る様に忌々しげに顔をしかめた。



「ううむ、二、七で『カブ』であったと言うのに……『特殊役』を出されたからわしの負けだな 」


「俺なんざ九、四、七の『ブタ』だぜ? ったく、あんにゃろが『(ブタ)』に乗ってんの見てからことごとく『ブタ』ばっかだ……。あ~!! 悔しいったらありゃしねぇ!! 」


「う~!! 五、五、十の『ブタ』ですってぇ~~!? これじゃシャオの負けじゃない!! イカサマよ、イカサマー!! 」


「……何で、たんぽぽも十、六、四で『ブタ』な訳……? これってやっぱり鈴々の呪いなのかしら? それとも……おじさんズルしてない? 」


「はっはっは! 悪ぃなぁ? 四人とも! おいらが親だから総取りだぜ? まっ、バクチの運も実力ってェ奴よ!! 」



 わざとらしく勝者の高笑いを噛ます一心に、癇癪を起こした小蓮がわめき散らしているのを見て、二人は互いにクスッと笑って見せるとそのまま天幕の外へと出た。


 二人が外に出て見れば、照世と道信の指揮の下で雲昇、永盛、壮雄、固生、紫苑、翠の六人の将達が義勇兵の訓練を行っている光景が目に映る。


 旗の振り方やその読み方は言うに及ばず、兵一人一人を得意分野ごとに分け、それ等を特化させると言う手法で、それぞれに秀でた将達が彼等に手ほどきをしていたのだ。



「凄い光景よね? 村での自警団の訓練とは規模や雰囲気が別物だわ……。母様や祭達が兵の調練をしているのを思い出すわね 」



 目の前の光景に昔の事を思い出したのか、蓮華は懐かしそうに目を細めると、一刀はフッと口元に笑みを浮かべて見せた。



「そうだな、蓮華の言う通りだ。村の自警団の場合は、兎に角盗賊どもを追っ払う事が前提の大まかなものだったけど、今回からはそうもいかない。ここまで無傷で来れたけど、この先からは率いる将頼みばかりでは長続きしないよ。やっぱり、戦に勝つ為には相手より兵数と質が勝ってないといけない。いつもいつも寡勢で多勢を打ち破れると思ったら大間違いってものさ 」



 だが直ぐに表情を引き締め、一刀はこれからの事に思いを馳せる。蓮華は彼を頼もしげに見上げていた。



「へぇ~、一刀もウチの周瑜みたいな事を言うのね? 」



 感心したように彼女が言って見せると、一刀は恥ずかしそうな顔で種明かしをする。



「ははっ、これは照世老師達の受け売りだよ 」


「えっ……。やだ、もう……どこかで聞いた事あるなぁと思ったらそう言う事だったのね? 」



 思わず呆気に取られてしまったものの、改めて蓮華は一刀を見つめ直した。



「それでも、その受け売りをパッと言えるのだから凄いものよね? 」


「有難う、素直に受け取っておくよ 」



 二人は互いにいい笑顔を浮かべると、後は各郡の軍勢の陣の中を何気なく練り歩く。西から代郡、上谷郡(じょうこくぐん)、一刀達の住処だった楼桑村がある涿郡(たくぐん)、ここ広陽郡、漁陽郡(ぎょようぐん)、右北平郡、遼西郡、遼東属国、遼東郡、玄菟郡(げんとぐん)、そして高句麗と国境を接する最果ての楽浪郡と、幽州一国十郡の太守の旗が翻っていた。


 そして、それらの軍勢も多種多様でばらばらである。士気が高く、規律の確りとしたいかにも軍隊と言うのもあれば、それとは逆で緩みきってるのもいるし、中には性質の悪そうなならず者軍団といった風貌のものも見受けられた。


 その中を異様な風貌の一刀と年頃の娘の蓮華の二人が練り歩いているものだから、彼等は注目を集めていた。然し、二人はそんな事などお構いなしでもっぱら楼桑村にいた時の思い出とか、何気ない雑談を楽しみながらゆっくりと歩みを進める。いつしか二人は楽しそうな笑みを浮かべていた。



「考えてみれば……これって『逢引』だよな? 」


「あっ…… 」



 何気なく一刀が言った言葉に、蓮華は思わずドキッとした顔になる。そして、見る見る内に頬を紅く染め上げると、急にそわそわし始めた。



「もっ、もうっ! 何を言ってるのよ、一刀!? これは私達に戦場の空気に慣れときなさいって、お義兄様が配慮してくれたものじゃない? なのにいきなり『逢引』って言われちゃうと、その……急に恥ずかしくなってきちゃうわ……? 」


「確かに、これは兄上の配慮だろうさ。けどね、俺達こうやって二人だけの時間を作るって初めてなんじゃないのかな? 」


「えぇ……。確かにそうよね…… 」



 体をもじもじさせながら、恥ずかしそうに語る彼女の姿に、一刀は改めて『愛しい』と思える。いつしか、彼女もまた桃香と同じ位自分にとっては無くてはならない女性の一人になっていたのだ。その為か、『愛し合う』時も三人一緒が殆どであったし、どこかへ出かける時も三人一緒が多かった。


 だが、今こうして彼女と二人だけで束の間の逢引を楽しんでいる。恐らく彼女と二人っきりと言うのはこれが初めてではないのだろうか? そう考えると、一刀は改めて目前の蓮華と言う女の子を意識してしまう。二人はその後何も言わず、只々互いを見詰め合っていた。



「おうおう、男だらけのむさい陣だって言うのに見せ付けてくれんじゃねぇかよ、お二人さん 」


「ケッ、どこの貴族の坊ちゃん嬢ちゃんか知らねぇが、俺達を只の雑兵だと思って馬鹿にしてんのかよ? 」


「う、うらやましいんだな 」



 突如掛けられた下卑た声に、二人の甘い空間は途端にぶち壊しにされ、一刀と蓮華は目を険しくさせると、声のする方を睨み付ける。そこにいた声の主は、どこかで見たようなちょび髭を生やした長身の男、禿頭を頭巾で覆った小男、そしてぶくぶくの肥満体の巨漢の三人組であった。彼等はそれぞれ声に見合った下品な顔と視線を二人にぶつけている。



「ったく、折角人がイイとこだったって言うのによぉ……。それをぶち壊すたぁ、随分と野暮な真似してくれんじゃねぇか……。誰が馬鹿にしてるだぁ? 馬鹿にしてんのはテメェ等の方だろうがよ? この落とし前ェ、一体(いってぇ)どうつけんつもりだ!? あ゛ぁん!? 」


「貴様等……、どこの所属だ? 場合によっては貴様等を即刻斬首に処する事も私には出来るのだぞ? さぁ、貴様等の所属と名を言うが良い! ここの刺史に掛けあった直後、私自らがそっ首を跳ね飛ばしてくれようぞ!! 」


 

 すっかり『侠』の顔が板に付いた一刀がドスの効いた声で睨みを効かせると、蓮華は孫家の貴婦人然とした毅然たる態度で威圧を掛ける。正直今の二人はこの下衆な三人組をシッチャカメッチャカのケチョンケチョンに叩きのめして素っ裸にひん剥いた挙句、城門から逆さまにして吊し上げたい衝動に駆られていたのだ。


 今の一刀が逆鱗に触れた竜なら、蓮華は尾を踏まれた虎と言ったところだろう。最初はいきがっていたこの三人組も、二人から放たれた尋常ならざる殺気に中てられてしまい、たちどころに怯えの表情を見せ始めた。



「ひっ、ひぃいいいいいいいいいいい!! 」


「おっ、おたすけぇえええ!! 」


「ざ、ざんしゅはいやなんだな!! 」



 情けない事に、彼等は何処かで聞いた様なお約束めいた悲鳴と共に、脱兎の如く一目散にその場を後にする。これには二人も思わず呆れ顔になってしまった。



「はぁ~、なっさけねぇの。こん位ェでビビるんだったら、でけぇ面すんなよ……。でも、官兵があんなんじゃ黄巾賊がでかい面をするのも頷けるなぁ 」


「ふうっ、そうねぇ。一刀の言う通りだわ。少なくとも孫家の軍で兵士があんな真似していたら、即刻軍規に照らし合わせた上で斬首、良くても杖打(じょうだ)百回ね? 」



 二人は溜息を吐くと、先程逃げていった三人組にこの国の末端に及ぶ腐敗の浸透を垣間見る。兵士一人一人にまであんな意識では、この国が駄目になってるのも頷けると言うものだ。


 然し、一刀は思わず蓮華の言った言葉の後の方が気になってしまった。今の奴等の場合厳罰に処しても、命を奪うまでの処分はしないだろう? 杖打百回となれば、途中で受刑者が死亡する可能性も高い。間髪入れず、一刀は彼女に尋ねてみる事にした。



「え? 斬首に杖打百回? それって厳し過ぎないか!? 」


「えぇ……私の母様、昔軍規がなってないとこの軍の下で散々辛酸を舐めさせられた事があったのよ。自分で軍を率いるようになってから、母様は独自の軍規を創ったわ。だから、上は将から下は兵の一人に至るまでそれを厳守させているの。現に軍規を破って処罰される兵士も毎年何人かいるわ。軍規の乱れは兵の乱れ、即ち戦に負ける事を意味するから…… 」



 しみじみと語る蓮華の話に、一刀は彼女の母である孫文台と言う女傑に戦慄を覚える。彼は思わず怖がる素振りをして見せた。



「うわぁ……俺、そっちの方の兵士にならなくって良かったよ 」


「ちょっと? それってどう言う事かしら? 」



 一刀の言葉に、蓮華はジトッとした目を向けてみせる。すると、彼はわざとらしくおどけて見せた。



「いや、蓮華といちゃついてただけで首を斬られそうだし 」


「プッ! 私は怖いわよ~? ……一刀だけだったら、閨の中で極刑を課しちゃうかもしれないわね? それも飛びっきりのを…… 」


「それだったら、大歓迎かな? 」



 熱っぽく自分を見つめてくる蓮華に、一刀がニヤリと不敵そうな笑みで答えると、彼女は『馬鹿ッ…… 』と小さな声でボソッと呟く。すると、二人は可笑しくなったのか、声高に笑いあった。少々の厄介事に出くわしたものの、一通り各太守の陣を見終えた二人は仲良く肩を並べ自分達の天幕へと戻って行ったのである。



「只今~ 」


「只今戻りました 」


「あっ、二人ともお帰り~! 」


「仲郷殿、仲謀殿、お疲れ様です 」


「仲郷お兄ちゃんに仲謀お姉ちゃんもお疲れ様なのだ 」


「ほう…… 」


「ふむ…… 」



 二人が天幕に入ると、既に桃香達が戻ってきていた。彼女の隣には愛紗と鈴々だけでなく、二名の女性が混ざっており、彼女等は興味深げに一刀達を見る。一刀と蓮華にとってこの二人は、始めて見る顔であった。



 一人は桃香より少し年上位だろうか、赤色の長髪を後ろで纏めており、それと同じ色の服の上に白い鎧を纏っており、腰には程好い具合で装飾された剣を帯びている。顔の方は桃香や蓮華の様な人目を惹く特別目立った物は無いが、きちんと磨けば光るであろうと思われた。


 もう一人の方も先程の彼女と同い年位だろうか? 少し大人びた感じで中々の美貌の持ち主だ。雪蓮よりは幼く見えるが、桃香や蓮華よりは大人ぶって見える。彼女は独特の奇抜な意匠を施された純白の服を着ており、右手には蛇矛の刃を交差させた様な穂先の槍を携え、足にはぽっくり(・・・・)下駄が履かれていた。


 こんな物を履いてまともに戦働きが出来るのかと、一刀は内心疑問に思うが極力顔に出さぬように勤める。こういう場合、迂闊に下手な真似をすれば喧嘩沙汰になり兼ねないからだ。おまけに、彼女達からそこはかとなく感じられる雰囲気が、一刀にはこの二人が『只者ではない』と思えたからだ。


 特に先程の槍を携えた女の方が強いだろう。下手をすれば雪蓮や翠と互角に戦えそうにも思えるし、愛紗や鈴々ともやり合えるのではないのかとも思った。




「桃香、この人達は? 」


「ええ、私も始めてみる顔よね? 」


「あ、ごめんね。紹介するのが遅れちゃって。今紹介するよ 」



 一刀と蓮華が桃香に伺うと、彼女は少し慌てた素振りで、彼等の前にこの客人達を引き合わせる。



「一刀さん、蓮華ちゃん。この人は私の学友だった公孫伯珪ちゃん。現在は遼東属国で長史職に就いてるの。そして、こちらの槍を持った人が趙子龍さん。伯珪ちゃんのとこの食客なの。白蓮ちゃん、子龍さん。この男の人が劉仲郷さん。私の従兄弟なんだ。そして、その隣にいる娘が孫仲謀さん。長沙太守孫文台さんの娘さんなんだよ? 」



「へぇ、この二人がさっき桃香が話していた『仲郷殿』と『仲謀殿』か。成る程、確かに只ならぬ雰囲気があるな。桃香の紹介でもあったけど、私は幽州遼東属国で長史をしている公孫瓉。字は伯珪。伯珪と呼んでくれ、二人とも宜しく頼むよ 」



 嫌味臭さとは無縁な口調で、爽やかな笑みを交えて挨拶をする公孫瓉の姿は、一刀に好印象を与えた。


 どうやら、隣の蓮華も一刀と同じく思ったのか、彼女も好ましげな視線を公孫瓉に向けているのが判る。次に公孫瓉の隣にいた趙雲と名乗る少女が名乗りを上げた。



「ほう……、確かに伯珪殿の申される通りですな。この二人からは只ならぬ物が感じられる。特に……仲郷殿は、そう『英雄』めいた物が感じられますな? おっと、これは失礼。名を名乗るのが遅れましたな? 私の姓は『趙』、名は『雲』、字は『子龍』。仲郷殿、仲謀殿、以後良しなにお願い致す 」



 彼女の話し口調は、どこか独特の物が感じられる。少し気取った感じと言うか、語尾の何処かに毒気を含んでいるように思えたからだ。伏し目がちで語りかけて来る彼女の雰囲気に、一刀と蓮華は飲み込まれるかのような感覚に襲われる。



「はっ、ははっ……。それはどうも……。私の姓は『劉』、名は『北』、字は『仲郷』。こちらも宜しくお願いします。公孫閣下、趙子龍殿 」


「今の言葉、褒め言葉と受け取っておこう。私は孫権、字は仲謀だ。公孫長史、趙子龍殿、仲郷同様こちらも宜しく頼む。ところでだが、子龍殿。先程貴女が一刀、いえ、仲郷に話した『英雄』めいた物とは一体どういう意味か? 」



 先程の趙雲が一刀に言った言葉が少し引っ掛かったのか、蓮華は眉を潜めてその意味を彼女に尋ねた。



「なぁに、確かに『英雄』とは申しましたが、良く言うではありませぬか? 『英雄色を好む』と。仲郷殿からはそっちの方で『英雄』めいた物を感じただけですよ 」


「プッ! たっ、確かに、それ当たってるわね!? 一刀って結構『ソッチの方』で手を出す方だし 」


「はぁ~~~。やっぱそんなこったろうと思ってたよ…… 」



 皮肉めいた毒素を言葉の裏っ側に滲ませて趙雲がそう答えると、蓮華は噴き出してしまい、一刀は落ち込んだかのように両肩をガックシと落としてしまうと、彼のその姿は他の者からも笑いを買ってしまい、忽ち天幕の中は笑い声に包まれた。そして、一刀は再度改めてこの二人の少女をじっと見る。


 公孫瓉に至っては、白馬陣を得意とした勇将と言うイメージがそれとなく感じられ、どちらかと言うと(はかりごと)とは無縁そうだし、どこか優等生っぽく思える。簡単に言えば、お勉強が出来て、武芸の腕を少し控えめにした翠と言った感じだろうか? 


 次に……。この趙雲と名乗る娘に関しては確かに強そうに思えるが、ちょっとどころか可也自分が抱いたイメージとかけ離れている。何故なら、一刀はこれまで『本物』たる雲昇と触れ合い、可愛がってもらった経緯がある。


 雲昇は無表情が多いが、時折優しい笑みを浮かべる事もあるし、生真面目で気遣いの出来る人物だ。時折ふざけた面も見せるが、彼女ほど露骨なものは見せないし、ここまで変で派手な格好は先ず好まない。確かに雲昇はお洒落な面も持ち合わせてるが、ここまで奇抜な意匠の服は先ず着ないだろう。



(この二人の女の子が公孫瓉と趙雲……。そう言えば、公孫瓉と劉備は学友関係だったな? その隣の娘が趙雲って話だけど……雲昇老師とイメージが全然違うな……。理由はわからない、だけど何だか『変』だ!! 本当にどっか雰囲気が『変』だぞ!! 確か、彼は劉備の所へ来る以前、公孫瓉に厄介になってたよなぁ……。こっちの雲昇老師がこの娘見たら絶対に驚きそうだ、反応を見てみたいな )



 そんな風に考えていると、彼の希望通りになったかは知らないが、天幕の中に白銀の鎧兜姿の雲昇が入ってきた。彼は、公孫瓉と趙雲をチラリと一瞥するものの、いつもの無表情を決め込んで桃香に一礼する。



(いよっしゃーっ! 真打ち登場だ! )



 雲昇の姿に安堵しつつ、内心で雄叫びを上げながらガッツポーズを決め込む一刀。そんな彼の思惑なぞ梅雨ほども知らず、雲昇は桃香に報告すべく、口を開き始める。



「桃香殿、本日の兵の調練が終了しました。照世殿と道信殿の指揮の下、無事滞りなく終える事が出来ましたので、ご報告しておきます 」


「有難う御座います、雲昇老師。本当は私も手伝わなくっちゃいけないのに、申し訳ありません 」


 

 申し訳なさを顔に滲ませると、桃香は彼に頭を下げて謝るが、雲昇は手を前に突き出すと、彼女をやんわりと制した。



「気にする事はありませんよ、桃香殿。桃香殿には桃香殿の役目が、私達には私達の役目があります。私達はその役目を果たしているだけに過ぎません 」



 語り終えると、拱手して一礼する彼の姿は大変様になっており、美しさと精悍さが相俟ったその顔は公孫瓉と趙雲の目に止まると、思わず二人は彼について桃香に尋ね始めた。



「なぁ、桃香。良ければこの人物も私達に紹介してもらえないかな? 見た感じ中々強そうじゃないか? 」


「伯珪殿の仰る通りですな。玄徳殿、良ければ私にも紹介してもらえぬかな? 何せ私も女だからな、これ程の美男なら名前位は知っておきたいものだ 」


「え、えーと…… 」



 二人に気圧され、桃香はチラッと雲昇を見やると、彼は口元に笑みを浮かべて頷いて見せた。



「構いませんよ、桃香殿。何でしたら先に私から名乗りましょうか? 」



 そう雲昇が桃香に申し出たが、直ぐ様公孫瓉と趙雲がそれを止める。二人はそれぞれ真剣な顔を彼に向けていた。



「いや、待ってくれ。紹介させてくれと言ったのは私の方だ、なら私の方から先に名乗らないとな。幾ら何でも失礼過ぎるというものだし 」


「うむ、そうですな。伯珪殿の申される通りだ。先ずは私達から名乗らせて頂こう 」



 『きちんと礼儀をわきまえてるではないか? 』そう言わんばかりに、雲昇は穏やかな笑みを湛えて見せると、満足そうに頷く。



「判りました……。では、其方からお先にどうぞ 」



 雲昇が答えると、公孫瓉と趙雲の二人はそれぞれ名を名乗り始める。二人の名を聞いた瞬間、雲昇の片眉が僅かにだが動いたのが一刀には判った。



「すまない、では私から。私の姓は『公孫』、名は『瓉』、字は『伯珪』。以後宜しく頼む 」


「次は私ですな、私のは姓は『趙』、名は『雲』、字は『子龍』。伯珪殿同様、今後とも宜しく頼む 」


「ほう……貴女方が『公孫瓉』様と、『趙雲(・・)』殿ですか……。これはこれは 」



 二人が名乗りを終えると、雲昇が自分の名を名乗った少女を僅かにだが意識して見ているのが判る。恐らくであるが、愛紗と鈴々を見た時の義雲と義雷に近い物が在るのではないのだろうかと一刀は思った。



「公孫伯珪様、趙子龍殿、お二人ともご尊名を私にお聞かせ下さり、真に有難う御座います……。それでは、今度は私が名乗る番です。私の姓は『趙』、名は『空』、字は『子穹』。私の方も良しなにお願いします 」



 雲昇が己の名を名乗ると、二人は一気に表情を変える。公孫瓉はもとより、趙雲の方も眉をしかめてしまい、特に趙雲の方が少し訝しげな視線を浴びせていた。



「へぇ……。似た様な名前と言うのは意外とあるものなんだな? 」


「そうですな……。特に名と字が一字違いと言うのも、随分と出来過ぎと言うものだ。何だか自分の偽者を見てるような……おっと、これはしたり。口が過ぎましたな? 申し訳ない 」



 言葉では謝って見せたものの、趙雲は雲昇に対する不審さを解いていないように思える。益々彼女は訝しげな視線を浴びせるが、当の雲昇はいつもの無表情で、少しも動じる気配を見せなかった。


 その空気に中てられ、周囲にいた者達は緊張を顔に浮かべてしまい、どうしたら良いものかと判断が出来ない状態に陥っている有様だ。



「いえ、お気になさらずとも結構です。何せ、私の方も良く間違われているものですから。お陰で『常山の昇り龍』と噂されてる貴女程の武芸者と勘違いされてしまい、要らぬ喧嘩を買わされる事もしばしばあるのですよ。全く、良い迷惑と言うものです 」


「ほう? 何と、私の通り名をご存知か!? それも、幽州(そちら)の方まで伝わっているとは、正直驚きましたぞ? おまけに、そのせいで貴方にまで要らぬ迷惑がかかっていたとは……。いやはや真に申し訳ないっ! 」



 いつもの無表情のまま、穏やかな口調で雲昇がそう答えると、上機嫌になったのか忽ち趙雲は相好を崩す。それが引き潮になったのか、場に漂っていた緊張感は一気に解れた。



「ええ、美と武の化身と呼ばれる程の、それは大層美しく強い人物とも聞かされております。それに比べて私なぞ大した事はありませんので…… 」


「いやいや、それ以上褒めて下さるな! 何だか背筋が痒くなってくるではないか! 」



 雲昇の褒め言葉に乗せられて、すっかり趙雲は顔を紅くすると照れ笑いを浮かべる。一刀と蓮華は苦笑交じりでそのやり取りをみていたが、誰にも聞こえない様な小声で二人はひそひそと囁きあった。



(雲昇老師も意外と言うわね? 雲昇老師の強さは、はっきり言って『あの』義雲老師や義雷老師達と引けを取らないのに……。下手をすると、雲昇老師はウチの興覇(甘寧の字)より強いと思うわよ? )


(まぁね、でも余計な波風を立てない様にかわす(・・・)のもあの人の得意技だよ。あの趙雲って娘は確かに強いと思う。でも……雲昇老師とガチでやり合ったらどうだろうな……? )


(きっと、最初は互角でも負けるかもしれないわね……姉様だって、雲昇老師や他の老師達と手合わせして一回も勝てなかったもの…… )



 そして、二人は会話をやめると、改めて桃香の方に向き直り、彼女に話しかける。何故公孫瓉と趙雲の二人がここにいるのか? それを尋ねたかったからだ。



「桃香、ちょっといいかな? 」


「ええ、私も一刀と同じで桃香に聞きたい事があったの 」


「うん? 何かな? 一刀さん、蓮華ちゃん 」



 二人に尋ねられ、桃香はいつものにこやかな笑みで応じる。



「こちらの二人が公孫閣下と趙子龍殿だという事は判った。けど、何でわざわざウチの方に来てくれたんだ? 」


「一刀の言う通りよ? 少なくとも身分は公孫長史の方が私達より上なのに、何でわざわざ下の身分の私達の本陣に足を運んでくれたのかしら? 」


「うんっ、それはね…… 」


「おいおい。それを言ったら、この義勇軍には長沙太守孫文台の嫡子と次子に、武威太守馬寿成の嫡子とその族子まで馳せ参じてるじゃないか? 身分云々で言ったらそちらの方がずっと上なんだぞ? 」



 二人の問い掛けに桃香が答える前に、公孫瓉が言葉を挟んだ。彼女はキリッと引き締めた表情を二人に向けている。



「それに、今は非常事態だ。こんな時まで身分とか家柄なんか関係あるものか。私の軍に桃香達が協力を申し出たから、そのお礼と挨拶を兼ねてここに来たんだよ。それと、二人とも閣下とか長史呼ばわりはやめてくれ。仲郷殿は桃香から想い人と聞かされてるし、仲謀殿に至っては桃香とは親友関係だと言うじゃないか。ならば、私の事も桃香と同じく、真名の『白蓮』で呼んで欲しい 」



 真名まで預けてくるこの公孫伯珪、いや『白蓮』と言う人物の言葉に、一刀と蓮華は心を打たれ、彼女もまた、この乱世に生きる一角の傑物だと思った。そして、二人は互いに頷き合うと白蓮に熱い眼差しを送る。



「それじゃ、伯珪殿、いや、『白蓮殿』。俺も君の事を『白蓮』と呼ばせてもらうよ? 俺の真名は一本の刀と書いて『一刀』だ。今度から一刀と呼んでくれ 」


「ええっ、私もそうさせて貰うわ。私の真名は蓮の華と書いて『蓮華』よ? 今度から『蓮華』で呼んでくれるかしら? 『白蓮殿』 」


「あ、有難う……、『一刀』、『蓮華』。私は友達が余りいない方なんでな。だから、こうやって真名で呼んでくれる奴が一人でも多いとどんなに嬉しい事か…… 」



 涙ぐみながら語る白蓮の姿に、一刀と蓮華は彼女が抱える孤独を垣間見たような気がした。特に蓮華は彼女に対する同情の念を抱く。彼女と自分は生まれも似ているし、そして真名を預ける事の出来る同年代の友人もいない状況にいたのだから。



「やれやれ、伯珪殿に先を越されたか。私もこの二人に『真名』を預けようかと思っていたのだ。桃香殿達とは先程真名を預けあったのだしな、ならば桃香殿の想い人たる仲郷殿とその親友である仲謀殿に真名を預けても問題は無かろう? 」



 先程の照れを若干顔に残しつつ、趙雲が二人に話しかけてくる。思わぬ彼女の申し出に、一刀と蓮華は驚いてしまった。



「え、いいのか? 子龍? 」


「ええ、そんなに気安く真名を呼んでも良いのかしら? 」


「はははっ、別に構いませぬよ。お二人は信用できそうだし、長の付き合いになるかもしれない。それと、戦いになれば背中を預けるかも知れませぬからな? 気心の知れた相手は一人でも多い方がこちらとしても気が楽になると言うものですよ 」



 戸惑い気味に二人が言うと、それに対し趙雲は一笑に付してみせる。そして、彼女は真剣な表情に切り替えると、二人を真っ直ぐ見詰めた。



「私の真名は星と書いて『星』です。今度からは星と呼んでくだされ。宜しくお願い致しますぞ? お二方 」


「判ったよ、星。ならば俺の事は『一刀』と呼んでくれ 」


「私もよ、星。私の事は『蓮華』と呼んでね? 」


「判りましたぞ、一刀殿、蓮華殿。今日はまっこと良き日になったものだ。こうして真名で呼べる友が沢山出来たのだからな? 」



 本心からの笑みを浮かべながらそう語る星の姿は、『常山の昇り龍』ではなく年相応の少女そのものである。彼女の笑顔に一刀は思わずドキッとなってしまうが、行き成り左腕に激痛が走った。彼の左隣にいた蓮華が、怖い笑みを浮かべながら彼の左腕を抓っていたのである。



(判ってるとは思うけど……。一刀、星に対して変な気持ち起こしちゃ駄目よ? )


(……はい )



 ボソッと囁いてくる蓮華の言葉に、一刀は只々頷く事が出来なかった。おまけに白蓮と星の後ろの方では、桃香も実にオッカナイ笑みを自分に向けているではないか?



(余り無節操に手を出しちゃ駄目だからね? 只でさえ愛紗ちゃんに目が行ってたようだし、今度は星ちゃんって、本当に気が多いんだから )



 何となくだが、一刀には彼女が目だけそう語っているように思えたのである。『前門の虎 後門の狼』とまではいかないにしても、今の彼の状況はそれに似ていたのだ。



「じゃあな、桃香、愛紗、鈴々、一刀、蓮華、子穹殿。さっき言った通り、今晩こっちの方で一席設けるから皆を全員連れて来て欲しい。兵の方にも私が酒を回そう。それでは、後で又会おう 」


「うんっ、白蓮ちゃん。じゃ、また後でね? 」



 桃香との約束を交わすと、白蓮は星を伴い、天幕を辞そうとする。その際、星が一刀の隣を横切ろうとした正にその瞬間、彼女は一刀にこう囁いた。



(一刀殿……後で二人っきりで酒でも酌み交わしませぬかな? 良いメンマがあるのでな? フフッ、待ってますぞ? )


「!? 」



 目を白黒させて、一刀が後ろを急に振り向いてみせると、星はわざとらしく妖艶な笑みをチラリと見せるだけで、後は何も言わずにこの場を去っていったのである。


 そして……ナニやら自分の周囲にどす黒いモノを感じ始めた。恐怖で顔を引きつらせ、ギギギと音を立てながら向き直ると……二人の正妻候補が実に、オッカナ~~イ笑みを自分に向けているではないか。


 雲昇に伴われ、愛紗と鈴々はいつの間にか天幕の外に避難しており、ご丁寧に彼は周囲に人払いまですると、入り口をそっと閉めたのである。そして、彼は哀れむような笑みを浮かべると去り際にこう言ったのだ。


「一刀殿、後は私が上手く取り繕っておきます。どうぞ、ごゆるりとお楽しみ(・・・・)下さい…… 」


「そっ、そんなぁ…… 」



 今、この二匹の狼に睨まれた哀れな男を助ける者など誰もいない。一刀は正に孤立無援であった。



「ねぇ? 一刀さん。さっき星ちゃんにナニ言われていたの? 」


「本当よね……翠までなら何とか許してあげようかなって思っていたけど、いつの間にか星まで手懐けていただなんて……ホント、お義兄様に引けを取らぬほどの女ったらしだわ…… 」



 二人の語り口調はいつもの筈だ。なのに、一刀にはそれが物凄く怖い。一刀はなけなしの勇気を総動員させ、喉の奥底から振り絞るように声を出した。



「いっ、いや……そんな事言われましても、ワタクシメには何ともはや……。大体彼女とワタクシメは初対面にて御座いまする。お二人とも! これは趙雲の罠で御座るよ!! 」



 さっきならず者どもを眼光と脅し文句で追っ払った彼は何処(いずこ)へ逝ったのだろうか? 今の一刀は完全に浮気がばれて言い訳を抜かしまくる情けない奴そのものであった。



「ふぅ~~ん。ねぇ、蓮華ちゃん。確か夜までには『まだまだ』時間があるよね? 」



 そう言いつつ、桃香は自分の着ている物を行き成り脱ぎ出し始める。その彼女の行動に蓮華は我が意を得たりとばかりに満面の笑みを浮かべた。



「ええっ、そうね……。白蓮殿との約束だったかしら? 夜のいつ頃かは判らないけど、時間があるのは確かだわ。少なくとも、一刀が『ソノ気』になれない位に搾り取る事は可能よね? どうせだから、さっき言った『とびっきりの奴』を試すいい機会だわ…… 」



 笑みを姉雪蓮に引けを取らぬ程の妖艶なものに切り替え、蓮華も桃香と同じく身に纏っていた軍装を脱ぎ始める。そして、全裸になった二人は、その場で腰を抜かしてへたり込んでいる一刀に迫り始めた!!


 普段なら『バッチ来ぉーい!! 』と喜んでもイイ光景なのだが、今の彼には恐怖の対象にしか思えない。まるで、生贄の男を前にした地獄の鬼女達が、歓喜の余り舌なめずりをしてる様であったからだ。



「待っ、待て待て待て待て待て! 慌て慌て慌て慌てあわあわあわあわ待て待て待て!! これは趙雲の罠だ!! 」



 二人の前に手を突き出し、支離滅裂に叫びながら腰を退く一刀。然し、二人の女修羅は行き成り無言になると合掌し、死刑宣告に等しい言葉を彼に告げた。



「「いただきます♪ 」」


「うっ、うわあああああああああああああああああああああああああああああっ!!! 」



 哀れ、後年『黒将劉仲郷』と称された彼も、二人の前では形無しである。この時、本陣の天幕には誰も寄り付かなかった。極めつけに立て札までが天幕の周辺に設置され、それにはこう記されていたのである。


『勝手に天幕の中に立ち入る事を禁ず。禁を破りし者は厳罰に処するものと思へ 趙子穹 』



 これを見た将達も只事ではないと判断し、事情を知っていた雲昇や愛紗達もそうだが、一心達もほとぼりが冷めるまで足を踏み入れようとしなかったのである。



張翼徳殿曰く

『なっ、何かスンゴイ悲鳴が聞こえたのだ!! (ブタ)を殺す時に上げる悲鳴に似ていたのだ!! 』


関雲長殿曰く

『私には地獄の鬼女の声みたいなのが聞こえたのだが……? 然し……あんな声を聞いてしまうと、今晩夢に出てきそうだ……。うむ、義姉上達を怒らせぬ様気をつけねばならないな 』


劉伯想殿曰く

『まぁ、アレだ。北の字も火遊びは程々にしとかねぇとなぁ? 幾ら十八で若いからと言っても、あんなんじゃ持たねぇぜ? 』


関仲拡殿曰く

『全く……そこまで兄者を真似んでも良いものを…… 』


張叔高殿曰く

『そうだぜそうだぜ! ったく、なんて情けない子だろう! 俺と兄者達はそんな奴に育てた覚えはねぇんだけどなぁ~ 』


孫伯符殿曰く

『あらら……まぁ、蓮華も南方の女だしね。その情熱の激しさは私以上かも知れないわよ? まぁ、たまには良いんじゃないのかしら? 蓮華も『ソッチ』の方でイライラしてたようだしね♪ 』


趙子穹殿曰く

『どうやら、『常山の昇り龍』殿はとんだ悪戯者のようです。我々も気を付けませぬと、明日は我が身かも知れません。今日はたまたま一刀殿がその犠牲になっただけで済みましたが、彼女には十分な注意が必要になるでしょう 』



 先程のやり取りに関してだが、以上の様な関係者の証言が、伝令と記録係を兼ねていた田国譲の手記に残されており、後年歴史研究家の手でそれらが明らかにされたのである。


 さて、天幕内にて行われた三人の男女の実に馬鹿げた狂宴も終わりを告げると夜になり、桃香達は公孫瓉の催す宴に出向くべく、彼女の本陣へと向かった。



「フンフフッフフーン♪ ランタラッタッタターン♪ 」


「フフッ、陣中の宴って初めてだからドキドキしちゃうわね? 」


「うっ、ううっ……。体がだるい……腰から下の感覚が無い…… 」



 先頭を行く桃香と蓮華の肌が艶々だったのに対し、一刀はすっかり萎びた漬物のような顔になっており、雲昇と固生の二人に肩を貸して貰う始末であった。



「一刀殿、しっかりなさい。男子たる者がこれしきの事で参ってはなりません 」


「しっ、然し、雲昇殿っ。一刀殿は既に立つのもやっとの有様ですよ? これからの酒宴の空気に耐えられそうには思えませんが? 」


「まぁ、不可抗力と言うかあれは『事故』です。機を見て彼だけ早く戻す様にしましょう。固生殿、その時はお願いします。私も手伝いますので…… 」


「はぁ、それは構わないのですが……。一刀殿、私と雲昇殿で何とかしますから、今暫く辛抱して下され 」


「あ……あり、がとう、ございます。雲昇老師、固生老師…… 」



 一刀の声はまるでしわがれた老人のようであった。そして、彼は最後に力無くこう叫んだのである。



「し、暫く女の子とエッチしたくない……。本当にお花畑が見えた……!! ゴメンナサイ! モウシマセンッ!! 」



 後世の歴史家の研究によると、劉仲郷は精力絶倫で関係を持った女性も多数存在したと言われている。然し、どんなに好色な彼も、劉玄徳と孫仲謀には一生頭が上がらず、恐妻家の側面が在った事も判明した。


 この出来事から、既に劉仲郷と正妻格であるこの二人との力関係が如実になっていたのではないのかとも推測されていたのである。『黒将劉仲郷』、『劉黒』と謳われた彼の代名詞とも言える『女難』の生涯はここから始まったと言っても過言ではなかったのだ。




※1:『木→火→土→金→水』の五行に基づく思想で、古代中国の王朝交代劇もこれに(なぞら)えられている。

古来、天は己に成り代わり王朝に天下を治めさせているが、その天が見切りをつけた時『革命(元々天命を革める(あらためる)と言う意味)』が起きるとされていた。

即ち、現王朝の徳が無くなる時(天が見切りをつけた時)、新たな徳を備えた一族が次の王朝になると言う事になる。

この場合、漢王朝は『火徳』なので、『土徳』の黄巾(黄は土徳の色)が天下を治めるいう意味。


※2:白身魚を丸ごと一匹紹興酒で蒸し、醤油と油を掛けて薬味を乗せて頂く料理。広東料理の代表格の一つで、いわゆる『ご馳走料理』。


※3:太腿を護る部品。大腿部を上から覆うような形状をしている。


※4:名前の通り、臑(脛)を護る部品。脛を丸ごと覆うように着用する。

 ここまで読んでくださり真に感謝いたします。さて、今回は行き成り戦闘と言う話にはしませんでした。横山三国志でも、先ず幽州太守の劉君郎(劉焉)に目通りし、歓待を受けてから将軍の鄒靖すうせいと共に黄巾討伐に出向いています。


 原作ゲームの方でも白蓮に会ってからちゃっかり兵を借りて黄巾討伐に出向きましたからね。今回はそこら辺に該当する話です。


 幽州連合軍みたいなのは、私独自の設定です。本当は各郡の太守だったら自分の任地の治安維持で大変だと思うのですが、今作で幽州刺史を任されてる劉虞さんは出来る人だけど、臆病者っぽい感じにしています。


 実際、刺史は発言権というか軍事力は余り持ってません。後年自勢力の独立を目論んだ劉焉の提案で刺史に統治権や軍事権を持たせた『州牧』の役職が創られました。ここら辺は家康像様辺りとかが詳しく説明してくれそうですね。(笑


 まぁ、今回は白馬長史こと公孫瓉と常山の昇り龍こと趙雲との出会いを描きました。そして、元祖趙雲こと雲昇さんとの絡みもチロっと入れてみましたね。相変わらずの文章力不足でグダグダでしたが、楽しんでいただけたらこれ幸いです。


 そして、ラストの……不識庵お得意の『エロス技』、何故かこれを使ってる時は妙に頭がさえちゃうんです。只のエロスではなく、お笑いめいた物を混ぜるの結構好きなんですよね。


 星に気に入られてしまった一刀の女難はまだまだ続くのかも知れません。ハーレムはしたくないのですが、その代わり『女難の相』っぽくとんでもない目に遭わされる演出はこれ以降も用いるつもりです。


 次回は……黄巾賊とのドンパチに入る様にがんばります。でも、三国志演義では黄巾の乱って結構アッサリ目なんですよね。それをどうやって上手く引き伸ばせるか? パズ様からも感想欄で叱咤激励を受けた以上はここからが踏ん張り所です。


 次回はいつ更新できるかわかりません。これまで週一ペースで書いてきましたが、ここから先は更新が鈍ると思っていますので。それでも月一位で頑張りたいと思います。


 それでは、また~! 不識庵・裏でした~!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ