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真・恋姫†無双 ~昭烈異聞録~   作者: 不識庵・裏
第一部「楼桑村立志編」
12/62

第十一話「初陣」

 どうも、不識庵・裏です。悪戦苦闘の末に何とか十一話目を仕上げました。ですが、今回はチョッと自分的に歯切れが悪かったです。前回に比べると、文字数が5000ほど足らず、満足できませんでした。


 今回は、エロス分多目です! 然し、余り引っかからないように心を砕きましたので、読んで頂ければ嬉しく思います。



 馬騰こと琥珀との別離から半月ほど経ったある日の夜の事、一刀そして桃香と蓮華の三人は初めての実戦を経験した。この時、まとまった匪賊の集団が周囲の村々を荒らし回っており、遂には楼桑村にまでその手を掛けようとしていたのである。


 この時は楼桑村全体が眠りにつく前の頃合で、襲われた村の生き残りが、満身創痍で村に駆け込み、村長と事実上のこの村の顔役でもある一心にこの事を知らせてきたのだ。


 一心は照世達を始めとした仲間達や自分の子分達を集めると、至急迎撃の為の部隊編成を行う。馬超こと翠と、馬岱こと蒲公英。そして、孫策こと雪蓮に周泰こと明命も一心達に協力を申し出る。それに、村の自警団の男達も加わると、その数はざっと百数十名になり、その中には一刀と桃香、そして蓮華の姿もあった。


 これまで何回か賊の集団が村を襲った事があったが、その都度一刀と桃香は村人の避難誘導役を任されていた。然し、そろそろ頃合と判断したのか、一心は一刀と桃香を実戦部隊に参加させ、雪蓮の方も、蓮華に関しては母青蓮から一任されていたので、彼女にも出るよう促したのだ。


 三人とも『初陣』であった為、可也緊張していた。そのせいか思うように動く事が出来ず、それどころか三人とも賊を倒す事、即ち人を殺す事に躊躇したのである。然し、それが祟ってか、逆に桃香が賊に組み敷かれ、殺されかけそうになった。



「桃香ぁ! ちっくしょう! お前らなんかに桃香を殺らせるもんかぁっ!! うおおおおおおおおおおおっ!! 」



 力強く叫ぶと、一刀は無我夢中で桃香を殺そうとしていた賊の首を背後から刎ね飛ばす。だが、次の瞬間。一刀は自分のした事に茫然自失になり、迂闊にも武器を取り落としてしまった。そんな彼を黙って見逃す賊ではない、うち一人が一刀を殺そうと背後から襲い掛かるが、そんな一刀を救ったのは蓮華であった。



「一刀っ!! このおっ、賊如きがァ!! でぇやあああああああああああ!! 」


 

 彼女は一刀に襲い掛かった男に目掛けて突進し、剣を心臓に突き立てる。すると、男は大量の血を口から吐き出し、苦悶の表情でもがくと、ついには事切れてしまった。蓮華は自分の顔に掛かった返り血と、血に染まった両手を見て、その臭いと不快感、そして罪悪感に耐え切れず、その場にうずくまると激しく嘔吐した。



「蓮華ちゃん! 危ないッ!! 」



 そう叫び、桃香は勢い良く立ち上がると、激しくえずく蓮華に剣を振り下ろそうとしていた男を宝剣『靖王伝家』で袈裟斬りにする。そして、桃香は自分の目の前で鮮血を浴びながら、自分が今人を殺したという事に気付く。手と足はがくがくと震え始め、呼吸も荒くなってきた。


 然し、彼女は少し深呼吸して手足の震えを落ち着かせると、改めて剣を強く握り、雄叫びを上げながら敵の集団に斬り込みをかけ始める。



「うわああああああああああああああああっ!! 」


「うおおおおおおおおおおおっ!! 」


「やぁあああああああああああああっ!! 」



 それが起爆剤になったのだろうか、一刀も蓮華も力強く立ち上がると、剣を握り締め、桃香の後に続き敵陣へと躍りかかっていった。そして、気付いてみれば三人とも全身血まみれになっており、それぞれ手に持った得物も真紅に染め上げられていた。その時には、もう既に夜が明けようとしており、一心の指揮の下、生き残った者達が賊兵の死体を埋める為の穴を掘っている。



「おっ、俺達……まだ生きてるのか? 」


「うっ、うん……少し怪我しちゃったけど、私達まだ生きてるよ 」


「こっ、これが……戦争、いえ、戦争と言う名の殺し合いだわ…… 」



 一刀が呆然とした顔で呟くと、桃香と蓮華も一刀と同じ顔で言葉を返す。彼等の足元には賊の死体が十数体以上転がっており、それぞれ頭を割られたり、首を刎ね飛ばされたり、斬られた腹から腸をはみ出させたりと、実に惨たらしいものばかりであった。それらは全て、いずれも恨みがましげな目を一刀達に向けており、それに耐え切れなくなったのか、三人は恐怖心に襲われ、無意識の内に失禁してしまう。



「一刀、桃香、蓮華ちゃん……ここにいたのか 」


「三人とも、大丈夫だった? 」



 作業が一段落着いたのだろうか、一心が雪蓮を従えてこちらの方へとやってきた。三人は、見知った顔を見て安堵したのか、忽ち腰を抜かしてその場にへたり込む。一心はそんな彼らに対し、何も言わずに、そっと優しく抱き寄せた。すると、三人は顔を歪めて大声で泣き始めた。



「三人とも怖かったであろう……。泣けると言うのは今生きてる証だ、だから思いっきり泣くがいい。だが、この世界で生きて行く事、そして何かを守らねばならぬ時や、己の道を歩まねばならぬ時、必ずと言って良い程避けて通れぬ事がある。今お前達がしてきた事が、まさにそれだ。それを生涯忘れぬ為、今この時の光景をきちんと目に焼き付けておくのだぞ…… 」



 優しく語り掛ける一心の言葉に、三人は只黙って首を振ると、ゆっくり後ろを振り返り、賊徒や戦いに参加した村人の亡骸が転がっている無残な光景を見る。涙に濡れた目に焼きついた光景は、生涯三人の心に残る事となった。



「……三人とも、良く頑張ったわね。ここは私達がやるから、貴方達は体を綺麗にして、後はゆっくり休んでなさい…… 」



 雪蓮が優しく微笑んでそう言うと、一刀達はゆらりと立ち上がり、その場を後にした。村を守りきったはずなのに、とぼとぼ歩く姿からは誇らしげなものが何一つ感じられず、まるで敗戦したかのように見える。そんな彼等の姿は翠と蒲公英の目にも映った。



「どうしたんだ、あいつら? あたしたちが勝ったって言うのにしょんぼりしちゃってさ? 」


「どうしたんだろうねー? 翠姉様、声をかけてみたら? 」


「うーん、そうだなぁ…… 」


「止めておけ、翠、蒲公英。今あの三人に声をかけるな 」


「兄上の言う通りです。お二人とも今はそっとして置いてあげて頂きたい 」



 蒲公英に促され、翠が声をかけようとするが、すぐさま近くにいた壮雄と固生に止められる。



「え? どうしてだよ、壮雄、固生? 何か拙い事でもあるのか? 」


「そーだよ、何かおかしい事でもあるの? 壮雄さん、固生さん。訳を教えてくれなかったらたんぽぽ達判らないよー 」



 面白くないと言わんばかりに、二人は唇を尖らせると、壮雄と固生は重々しく語り始めた。



「あの三人は今日が『初陣』だったのだ。だから初めて人を斬ったんでな……既に戦を経験したお前達なら判るだろう? 今の三人の気持ちが? 」


「一刀殿と桃香殿はこれまで喧嘩とかはしてきましたが、『殺し合い』はまだ未経験だったのです。聞けば孫家の蓮華姫も戦は未経験とか……翠姫、蒲公英姫、貴女達程の戦慣れした人なら、そこら辺を察してあげてください 」


「あっ……そう言う事か……納得が行ったよ。ありがとな 」


「うん、たんぽぽもお姉様も立ち直るの大変だったしね。特に翠お姉様はおね…… 」


「余計な事言うんじゃない!! 」



 顔をニヤリとさせて蒲公英が続けようとした言葉は、顔を憮然にさせた翠が彼女の頭に振り下ろした鉄拳で完全に遮られてしまった。



 とぼとぼと楼桑村へと戻る一刀達の足取りは重く、その間誰も口を開かなかった。然し、何か思いついたのだろうか、突然桃香が口を開く。



「ねぇ、一刀さん、蓮華ちゃん……このままじゃ村に入っても何だから、汚れ落としていかない? 」


「えっ? 桃香? 」


「桃香、行き成りどうしたの? 」



 突然の彼女の発言に、一刀と蓮華は戸惑いの表情を浮かべる。すると、彼女は自分の腕に鼻を近づけて、臭いを嗅ぐと途端に顔をしかめて見せた。



「うっ、やっぱり臭うよねぇ~。だって、私達沢山血を浴びちゃったし、おまけにかっこ悪いけど、三人ともおしっこ漏らしちゃったんだよ? 」



 彼女の言葉に続く形で、一刀と蓮華もおもむろに右腕を鼻に近づけ、自分の体臭を嗅いでみると、二人ともその強烈な臭いに顔を思いっきりしかめる。



「うっ……、確かにこれは酷すぎるな 」


「言われてみればそうね……私なんかさっき思いっきりもどしちゃったもの 」


「でしょ? だったら、村に戻る前に洗い流した方がいいよ。いい場所知ってるから、ついて来て 」



 そう、桃香は二人について来るように言うと、以前一心と一刀が兄弟の誓いを立てた森の中に入る。例の開けた所を過ぎ、更に歩くと三人の目の前には泉があった。



「この森には泉があったんだ。全然知らなかったよ 」


「本当、それに、物凄く澄んで綺麗な水を湛えているわね…… 」



 一刀と蓮華は素っ裸で水浴びしたらどんなに気持ちいいだろうかと思った。ついでに喉も渇いたし、ここの水で口をすすぎたい衝動にも駆られる。



「うん、実はね。ここ私が見つけたんだよ? 私だけの秘密の場所なんだ。さ、ここなら大丈夫だよ。滅多に人も入らないし、服を脱いでも大丈夫だから。あ、そうだ! 私も水浴びしようかな? 」


「……はい? 」


「え? 」



 桃香の言葉に、ふと違和感を感じた一刀と蓮華は彼女に顔を向ける。すると、二人の目の前では信じられない光景が繰り広げられていた。



「どうしたの? 一刀さん、蓮華ちゃん早く服をぜーんぶ脱ごうよ。私も水浴びしたいし、一緒に浴びよ? 」



 何の恥じらいも見せずに、キョトンとした顔で桃香は二人の前で服を脱いでいた。白い羽をあしらった髪留めも外し、眩しく輝く白い素肌や大きい乳房を惜しげもなくさらけ出している。やがて、彼女にとって一番大事な部分を隠していた腰布にも手をかけると、それを一気に引き下ろす。そして、ついに彼女は生まれたままの姿になった。



「え、えーと…… 」


「ちょっと、二人とも。私だけ裸にしとくつもり? 」



 正直、一刀は彼女が一体何をしたいのかさっぱり判らない。何か気分転換をさせたいでのはないのかと考えてみたのだが……。



(やめだ、やめ! こう言う時はウジウジ考えても仕方の無い事だ! だったら、とことん付き合おうじゃないか!! )



 あれこれ考えるのを止めると、一刀は顔を綻ばせ、自分も着ている物を全て脱ぎ捨てる。二人の女の子の前で裸をさらけ出すのは正直恥ずかしかったが、こう言う時は馬鹿になるのが一番だと、一刀は思った。



「ふぅ、こういったとこで真っ裸になるのも悪くないなぁ~! 何だか開放感っていうのかな? ほら、蓮華も早く脱げよ? 」


「え? え? ええぇええええ~っ!? 」



 自分の男の象徴を惜しげもなく彼女等の前にさらけ出して、一刀が言うと、蓮華は顔を真っ赤にして声を上げる。



「ちょっ、ちょっと! 一刀! そんなプラプラしたの見せ付けないでよ!! それに二人とも何を考えてるの!? 私は嫌よ!! 絶対に!! 」


「ふぅ~ん、この前三人で『裸の付き合い』したのに、今更そんな事言うのかなー? それじゃ、仕方無いよねぇ~? 蓮華ちゃん覚悟!! 」



 蓮華は、左腕で自分の体をかばいつつ、右手を突き出して拒絶するが、そうは問屋が卸さなかった。桃香が目を光らせて両手をワキワキさせると一気に彼女を裸にするべく飛び掛る。



「あっ、ちょっと! 桃香、何か手つきがいやらしいっ! って、そうじゃなく……アーーーーッ!! 」



 蓮華はもがいて見せるが、大の男をねじ伏せる腕力の持ち主である桃香相手では、到底叶わなかった。あっという間に彼女も丸裸にされてしまい、健康そうな褐色の肌と、桃香と甲乙つけがたい位の魅惑的な裸体をさらけ出す。



「ううう~っ!! 恨むわよ! 二人とも!! 」


「聞こえない、聞こえなーい♪ それじゃ、一刀さん。蓮華ちゃんよろしくね? 私先に入るから……そーれっ! 」



 恨みがましく睨みつけてくる蓮華を他所に、桃香は泉に勢い良く飛び込む。彼女は本当に気持ち良さそうな顔で水を浴びると、悠々と泳ぎ始めた。



「どれ、桃香だけに独り占めさせるわけには行かないな。それじゃ、蓮華。俺たちも行こうぜ 」


「あっ…… 」



 一刀にひょいと軽々と抱え上げられ、『お姫様抱っこ』の形になった蓮華は、自分の胸がトクンと高鳴るのを感じる。二人とも丸裸で密着してる上に、彼の顔が自分の直ぐ近くにあるのだ。然し、そんな一刀の顔が急に意地悪くニヤリと笑みで歪んだ。



「え? 一刀? 」


「それじゃ、お姫様。行っ……くぜぇええええええええええええええええええ!! 」


「きゃあああああああああああああああ~~っ!? 」



 きょとんと小首をかしげる蓮華を他所に、一刀が泉目掛けて全力疾走してみせると、堪らなくなったのか蓮華は大声で悲鳴を上げた。そして、一刀は蓮華ごと大きな水音を立てながら泉に飛び込む。抱きかかえられたままで水面に顔を上げると、蓮華は今にも泣き出しそうな顔になった。



「かっ、一刀! ひどいわ! 行き成り飛び込むなんて!! 怖かったんだから、本当に…… 」


「ゴメンゴメン、何だか蓮華の顔見ていたら悪戯したい衝動に駆られちゃってさ……本当に悪かったよ。ゴメンな 」



 苦笑いを浮かべて一刀が謝ると、蓮華は『知らない』と言った風で顔を背けてすねた素振りを見せる。彼女の仕草に、思わず一刀はドキッと胸が高鳴るのを感じるが、そんな二人に行き成り頭から水が浴びせられた。



「ぶわっ! 」


「きゃあっ! 」



 思わぬ不意打ちを受けた二人は顔をふって水を弾き飛ばすと、水をかけられた方を向く。そこには桃香が両腕を腰に当てて怖い顔をしていた。



「ちょっとぉ~! 何二人で甘い雰囲気作ってるのかな? それにしても一刀さんも浮気者だよね? 私がいるのに蓮華ちゃんとイチャイチャするなんて……えーい! こうしてやるんだからっ!! 」


「桃香、孫家の姫である私に対して水攻めとはいい度胸をしているわね? 水攻めと言うのはこうやるのよ! え~い! 」


「桃香ぁ、後ろががら空きだぞ! それっ! 」



 二撃目を放とうとして、桃香が水面に手を入れるが、一刀と蓮華も黙ってはいない。二人は悪戯っ子みたいに、顔を綻ばせると、蓮華は一刀から離れ、桃香に反撃しようと水を浴びせ始める。一刀も桃香の背後に泳いで回りこむと、後ろから彼女に水をかけ始めた。


 それから三人は、暫くの間童心に帰ったかのように水遊びを楽しむ。先程まで殺し合いをした衝撃を忘れるかのように、一心不乱で水を掛け合った。そうしている内に、遊び疲れたのだろうか、三人は血や汗で汚れた自分達の服を洗うと近くの木の枝にかけて乾かし始める。そして泉のほとりの草むらに丸裸のまま大の字で寝ッ転がった。



「ねぇ、一刀さん 」


「何だい、桃香? 」


「一刀さんの髪……触ってもいいかな? 」


「え? あ、ああ。良いよ。でも、これじゃチョッときついだろ? 今起きるよ 」



 寝ッ転がったままで桃香が腕を伸ばして一刀の髪に触れると、彼はゆっくりと体を起こした。そして、桃香は一刀の後ろに回ると、膝立ちで彼の髪を手入れし始めた。蓮華は体を転がしてうつ伏せになると、頬杖を突いてそれを興味深げに見る。



「一刀さん、結構髪伸びてきたよね? 」


「あぁ……楼桑村に来てから三月半ほど過ぎたしな 」



 桃香の白魚の様な指が、一刀の髪を優しくまさぐる。彼は気持ち良さげに両目を閉じていた。そして、彼女の指が伸びた部分を摘むと、それを一刀の頭の上へと持ち上げてみせる。すると、桃香は優しく微笑みかけた。



「もう少ししたら、髷が結えるようになるよね? その時は……私が一刀さんに合いそうな色の布で※1頭巾(ときん)を作ってあげるから 」


「ありがとう、桃香…… 」


「ねぇ、何で一刀は髷を結ってないの? 良かったら聞かせてもらえる? 」



 二人のやり取りに何か腑に落ちないものを感じたのだろうか、それまで黙っていた蓮華が口を挟んできた。



「えっ、えぇと…… 」


「うーん…… 」



 一刀と桃香は少し迷ったが、彼女に対して嘘を吐く申し分けなささを感じつつも、結局一心と三人で決めた作り話を彼女に話すと、蓮華は涙を流し始めた。



「大変だったのね……お兄さんと生き別れになっただけでなく、引き取り先で酷い虐待を受けていたなんて…… 」


「あっ、ああ。でも、もう大丈夫だよ。兄上を始めとした皆がいるし 」


「うんっ、一刀さんはここに来てから立ち直ったんだし、逞しくなったんだよ。だから、蓮華ちゃん。心配しないでも大丈夫だから 」



 微妙な雰囲気を作る彼女を宥めるべく、二人は懸命に言葉を掛けるが、次に蓮華がとった行動は桃香を唖然とさせた。



「一刀! やっぱり私と一緒に長沙に来て! 私達の家族も桃香達に負けない位情に篤いし、母様も一刀を絶対気に入るから! だから、私が慰めてあげるっ! 」


「うぷっ! 」



 そう叫ぶと、蓮華は自分が全裸だというのに、自分の胸に一刀の頭を抱き寄せたのだ。桃香に少し劣るが彼女も中々大きい胸の持ち主である。褐色の大きな乳房に挟まれる形になった彼は、嬉しさ二割、息苦しさ八割といった具合で手足をばたつかせた。



「ちょっと! 蓮華ちゃん! どさくさに紛れて何を言ってるの!? やっぱり諦めていなかったんだ!? 一刀さんは私がいるから、大丈夫ッ!! 」


「ぬおおおっ!? 」



 そう叫んで桃香が一刀を蓮華から引き離すと、今度は桃香が一刀の頭を自分の胸に抱き寄せる。爆発的な破壊力を持つ彼女の白くて大きな乳房に挟まれ、一刀は更なる息苦しさに襲われた。



「桃香じゃ不安だわ! やっぱり私が! 」


「私だってばっ! 蓮華ちゃんじゃ役不足! 」



 そんな感じで桃香と蓮華は一刀の奪い合いを演じ、その間一刀の頭は二人の大きな乳房を行ったり来たりの形になってしまう。実に羨ましい光景にも見えるが、それをされた本人は息苦しさの連続で落ち着いて呼吸をする事が出来なかった。そして、ついに疲れたのか二人は一刀を解放すると、意を決した表情で彼に迫る。



「この際だからハッキリさせて、一刀さんっ! 最近蓮華ちゃんとも親しくしてるけど……本当に私なの? それとも蓮華ちゃん? まさか……翠ちゃん、それとも蒲公英ちゃんとか!? 」


「そうよ、桃香の言う通りだわ! 大体ハッキリさせない一刀が悪いんだわ!! 」


「え、えぇと…… 」



 実は、一刀はこの時点で既に理性が崩壊寸前に陥っていたのだ。況してや三人とも一糸纏わぬ姿をさらけ出している。二人ともそれぞれ対照的だが可也の美貌の持ち主だし、体つきも実に申し分なく女性として熟成の域に達している。こんな状況で理性を保つのは土台無理な話であった。


 しかし、それでも一刀はギリギリで残った理性を最大限に働かせると、昔アニメ好きの友人と一緒に見たアニメ作品の主人公の台詞を思い出す。その瞬間、彼の頭の中に何かの種が弾ける様な映像がくっきりと浮かび上がり、迷わず彼はその台詞を口にした。



「お前が…… 」


「へ? 」


「え? 」


「お前達が、俺の翼だぁッ!! 」


「かっ、一刀さん? 行き成り何を? って、きゃあっ! 」


「一刀、もしかして血迷ったの!? アッ、駄目ぇ~ッ! 」



 そして、彼は桃香と蓮華を抱き寄せると、元の世界で見たエロ本やアダルトビデオとか、その手の知識本で学んだ事を二人に対して実践し始める。この時の一刀は本能任せで動いてしまったが、それでも微かに残っていた理性を働かせて、二人を粗末に扱わず、大切な壊れ物を扱うかのように優しく接した。


 森の木々の間を一刀の荒々しい呼吸や、桃香と蓮華の甘い声が響き渡る。彼等の服を干していた木の枝で羽を休めていた小鳥が、それを興味深そうに見ているが、やがて飽きたのだろうか、小鳥は羽を休めるとさっさと飛び去っていった。


 そして、事を終えると、三人は力尽きてその場にぐったりと倒れこむ。一刀は完全に眠りこけてしまい、桃香と蓮華はそれぞれ一刀の両腕を枕にして胸にもたれかかった。この時桃香と蓮華は何も考える事が出来なくなっており、一刀に続く形で彼女らも眠りにつく。三人の寝顔はまるでいい夢を見る子供のように無邪気な笑みを浮かべていた。



「う~ん、流石はおいらの弟だ。更に出来るようになったな、一刀 」


「心配になって探してみれば……こんなとこで乳繰り合っていたなんて、しかも初体験が二人同時って、彼『大物』になるんじゃないの? 」



 声の主は一心と雪蓮であった。一刀達三人がいつまで経っても村に戻ってこないので、心配になった二人は手の空いてる者たちに彼らを探すよう命じて、自身も一刀達を探すべく森に入ってみたのは良かったのだが……。


 丁度二人が一刀達を見つけた時は、一刀が桃香と蓮華を強く抱き寄せていたところだったのだ。声を立てては拙いと思い、二人は近くの茂みに身を潜め、事の成り行きを見守っていたのである。



「まっ、おいらも昔三人の女を同時に相手した事あったしなァ…… 」


「ふぅ~ん、それってどう言う事をしたのか詳しく聞かせてもらえる? って言うか、それ、今の女の前で言う話かしら? 」



 そう言うと、雪蓮は一心の腕を強くつかむ。顔はにっこり笑っていたが、目は笑っておらず、そんな彼女の姿に一心は思わず恐怖した。そして、彼女は一心を押し倒すと彼に覆い被さる。



「いっ、いや……悪い、今のは失言だったな。って言うか、雪蓮さん? 一体『ナニ』をなされるんで? 」



 一心が冷や汗を流して顔を引きつらせると、雪蓮は妖艶な笑みを浮かべた。彼女の肌は火照っているのかうっすらと赤くなっており、潤んだ瞳を彼に向けている。



「『ナニ』って、決まってるじゃない……私達のそれぞれの弟や妹が『頑張って』いるんだから、私達も『頑張らない』とね? だから、しましょ? それに……さっきから体が熱くってしょうがないの……鎮めてもらえるかしら? 」


「おっ、おいっ! 待て待て待てッ!! 」


「だーめっ、待たない♪ 」



 そう言うと、雪蓮も着ている物をすべて脱ぎ去り、一心にじゃれ付き始める。それぞれ主導権は異なっていたのだが、同じ森の中で兄弟姉妹揃って睦み合いに励む結果になってしまう。だが、幸いな事に、眠っている一刀達がそっちの方に気付く事はなく、結局事無きを得たのであった。



「やれやれ……どうやらご舎弟様たちは大丈夫のようだし、私が案ずるまでもなかったか……。

それと、一心様はもう少し自重なされたら良いものを……フフッ、本当に困ったお方だ 」


 そして、そんな彼らを別の方から照世が見守る。彼も一刀達のことを案じており、何か言葉を掛けてやろうと思って彼等の姿を探し回っていたのである。


 入った森の中で偶然彼らを見つける事が出来たので、声をかけようと思ったものの、事の成り行きを見てどうやら何か吹っ切れた様子で、場を後にしようとする。だが、運悪く一心と雪蓮の睦み合いを見て、思わず彼は眉を潜めた。然し、言葉とは裏腹に彼は『いつもの事だから仕方がないか』と言わんばかりに苦笑いを浮かべる。



「それにしても……先程の戦い振りや、吹っ切れようを見るからに、ご舎弟様はまた一歩ご自分の道を進まれたようだ。ならば、私も支度を始めるとしよう……ご舎弟様はそろそろ将へと変わる頃合だしな 」



 そう呟き、照世は村に戻るべくその場を後にすると、今度はまた別の方で茂みがガサガサと動いた。そして、そこから翠と蒲公英がひょっこりと顔を出す。



「ちえっ、何だよ。折角人が心配してやったら、結局桃香と蓮華相手にいちゃついてたじゃんか……ったく、心配して損したぜ。やっぱりあいつは好色好色魔神(エロエロ魔神)じゃんかよ…… 」



 面白くなさそうな顔で翠が不貞腐れて見せると、蒲公英は茶化すようににやけた笑みを見せる。



「もしかして、お姉様妬いてるの~? それにしても一刀お兄様の『アレ』凄かったよねぇ~? もしかしてお姉様もそうして欲しいとか? 」



 すると、翠は本気で殺意のこもった顔を蒲公英に向けた。



「たんぽぽ……今の本気で言ったんじゃないんだろうな? 」


「うっ、ううん!! じょ、冗談、冗談だってばっ!! 」


「ならば宜しい、ほら、たんぽぽ。さっさと村に帰るぞ! 」



 必死の形相で蒲公英が首を横に振ると、翠は憮然とした表情で踵を返すと、村への帰路に着く。蒲公英は後ろ髪が引かれる思いで後ろを振り返ると、小声でそっと呟く。



「一刀お兄様だったら……たんぽぽをあげちゃってもいいかな? 」



 小悪魔めいた笑みを浮かべた彼女の目には、何やら危うい光が灯っているのであった。



 そして、一夜明けてその翌日の早朝。照世は村の鍛冶屋の家を訪れた。彼は片手に一冊の書を携えている。



「失礼する、呉※2師傅(しふ)はいらっしゃるかな? 」



 作業場に入り、彼が声をかけると作業をしていた弟子の一人と思われる若者が仕事の手を止め、照世の下へやってきた。



「これは、諸葛老師。師傅なら奥にいますよ。何なら呼んで来ましょうか? 」


「いや、それには及ばぬ。私が直接師傅にお会いしよう 」



 そう言って、照世が作業場の奥へと進むとそこには一人の老人が槌を振るっていた。齢既に六十は過ぎていると思われるが、彼の肌は浅黒く日焼けしており、眼光は鋭く筋骨逞しい体つきは彼が並大抵の人物ではない事を窺わせる。



「呉師傅、然明でございます 」



 照世が声をかけると、老人はクワッと目を見開き、鋭い視線を彼にぶつけた。



「おうっ、諸葛老師。一体俺に何の用だ? 」


「貴方に仕事を依頼したいのです。無論、代金は弾みましょう…… 」



 彼は重く低い声で答える。すると、照世は自分が持ってきた書を広げて見せた。それには何やら武器や鎧の絵が描かれている。



「これは……見た事も無い鎧や刀だな? それにこの刀は随分と細身のようだが……これで人なんか斬れるのか? 」



 そう、ぼやきつつも呉師傅と呼ばれし老人は、照世が持ってきた書に記載された絵や、説明文を興味深そうに見始める。



「フフッ、これは異国の武具でしてな。これ等は実に機能的でして、正直私も驚いているのです。そこで幽州一の鍛冶師である呉師傅にこれ等の物を作って頂きたく、今日参った次第 」



 すると、呉師傅は眉を吊り上げ、照世を睨んだ。



「幽州一? 勘違いしてもらっては困るな、俺は天下一の鍛冶師だ。少し時間を貰うが、頼まれた以上仕事は完璧にやり遂げて見せる。然し……これ程までに細かい物になると、人がいるな……鍛冶師だけじゃなく、細工職人の手も必要になるわい 」


「ご心配されずとも大丈夫です。それを見越した金額を用意しましたので…… 」



 照世が、懐から巾着を取り出し、その口を開いてみせると呉師傅は驚きで目を見開く。



「こっ、これは……砂金じゃないか? それもこんなに! 」


「これだけあれば、人を使ってもお釣りが出ましょう。それでは、師傅。良しなに…… 」


「任せておけ、完璧にやって見せるからな! 」



 照世は鍛冶屋を後にすると、次は針子の家に向かい、先程と同じく、針子達のまとめ役である女将に話を持ちかけた。



「これはこれは、諸葛老師。一体私に何の御用でしょうか? 」


「女将、実はこれと同じ物を作って欲しいのです 」



 照世が一枚の紙を女将に渡すと、五十絡みで痩せぎすな体型の彼女はそれに描かれていた物を興味深そうに見入る。



「これは……袖を切った感じの長衣みたいですね? 」


「ええ、それは『陣羽織』と言う物です。異国の軍装の一つだとか。出来うるのあれば、これと寸分違わぬ物をお願いしたいのですが……やってくれますかな? 」


「お任せください。材料費や人件費は高くつくと思いますが、やって見せましょう! 老師達にはウチの娘達に字や学問を教えてくださった恩義もありますから 」


「フフッ、大丈夫です。お金は用意しておりますので……これ位あれば足りますかな? 」



 そう言うと、照世は先ほどと同じく、砂金の詰まった巾着を女将に手渡すと、彼女は驚きの余り飛び上がってしまった。



「とっ、トンでも御座いません!! これでは、こちらが貰いすぎで御座います!! 必要経費を差し引いた分はお返ししますから!! 」


「いえいえ、それは貴女やここで使っている娘達と公平に分け合って下さい 」



 恐縮の余り、何度も頭を下げる彼女に一礼すると、照世は外に出た。そして、彼はおもむろに空を見上げる。何処までも高い空は青く澄み渡っていたが、東の方から何やら陰りが見え始めた。眉をひそめ、照世は誰に言う事も無くそっと呟く。



「蒼天(すで)に死す、か…… 」


 

 徐々に広がりつつある暗雲は、正にこれからの行く末を表しているようであった。





※1:「ずきん」ではなく、「ときん」と読む。髷を結った部分に被せる布の事を指す。


※2:親方・師匠の中国語訳


 ここまで読んでくださり真に感謝いたします。


 前書きでも書きましたが、今回はエロスが可也大目、それも序盤部分血生臭い描写が多かったので自分的に可也ギャップを感じてしまいました。(汗


 今回のタイトル「初陣」は色んな意味での初陣と言う洒落をかけてみました。どうしても、現代日本の普通の高校生にしか過ぎない一刀が、血生臭い戦場に立つ訳ですから今回の話は避けて通れないものだったのです。


 これから、更に一刀は強く逞しくなっていきます。厳しい乱世で生き残る為には殺し合いをする必要も出てきます。原作の桃香は争いごとが嫌いな理想主義者の面が強く出ていましたが、史実や演義の劉備は数多くの戦いをしつこく生き抜いてきた人物です。


 一見すると、彼はそんなに強くなさそうなイメージが付きまといますが、実際の彼がボロ負けを喫したのは曹操や陸遜、そして呂布とやり合った時位のものです。


 今作の桃香に関しては、そんな劉備達からあれこれと教えられていますので、ある程度の割り切った考えが出来るようにしてあります。


 実は、今回はもっと長くする予定でしたが、このまま行くと長くなり過ぎてしまい、恐らくですが20000文字に達したかもしれません。


 そうなると、読み手の方にも負担をかけさせてしまいますので、今回は第四話の時と同じ様に、区切りのいいところでちょん切りました。


 流石に今宵は疲れましたので、明日から次話の執筆に取り掛かりたく思います。


 前回で第十一話目は少し時間を進ませてからといいましたが、半月程度しか経っていなかった事に物凄く反省……自分が情け無い。(涙 第十二話でお会いしたく思います!!(土下座 


 それでは、また~! 不識庵・裏でした~!!

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