使ってない部屋
短編です
大学四年生の春、私は初めて彼氏というものが出来た。同じ学科の人で、講義の時に席が隣になって、声をかけて来たのが彼だった。
「君、アキラって言うの?」
「え?うん、そうだよ」
そんな会話から始まって、なんだか意気投合して、仲良くなった。でもまさか、こんなとんとん拍子に恋人になるとは思っても見なかった。
そして今日、ついに、私は彼の家に遊びに行くことが決まった。
彼氏いない歴=年齢だった私の初めての彼氏、そしてその彼の家に初訪問!こんな恋愛イベントが私の人生に急に舞い込んできて、私は浮かれていた。
チャイムを鳴らすと、彼がすぐに出てきてくれた。
「アキラちゃん、いらっしゃい!」
笑顔で出迎えてくれた彼の家は、大きくて、一軒家だった。しかもそこに一人で住んでいるなんて、驚きだ。ご両親は仕事の都合で、近所には住んでいないと言っていたけど、大学生とは言え子供を一人でこんな一軒家に住まわせるだけの財力があるなんて、もしかして彼、超優良物件なのでは!?
付き合ったばかりだけど、そんな未来を想像してしまって、なんだかニヤついてしまう。
リビングに案内される途中、奥の部屋のドアがなんだか妙に気になった。ちょっとだけ日焼けしたそのドアにはぼんやりと文字が浮かんでいる。AKIRAと書かれている様にも見えた。
「ねぇ、あの部屋って」
「あぁ、あの部屋は使ってないんだ」
「そうなんだ」
明らかに誰かが使っていて、名前を外したような跡に見えたのだけど、まぁ、人の家を詮索するのは良くないし、と気にも留めなかった。
リビングで食事をしつつ、談笑する。穏やかで優しくていい人だなぁ。
「ごめん、トイレ借りても良い?」
「うん、階段の傍にあるから、わからなかったら声かけて」
そう言う細やかな気遣いも有難い。
用を済ませてトイレを出ると、やはりなんだかあの部屋が気になった。
ちょっとだけ、覗いちゃおうかな。
ドアを開けると、中にはベッドと机、そして衣装箪笥が置いてあった。ピンクを基調とした、女性が使っていると思しき部屋。
誰かの・・・部屋?彼の部屋は二階だと言っていたし、確かにアルバムなどを取りに行くときに足音は二階に上がって行った。
あの部屋は使っていないと言っていたけど、まるで誰かが使っているようなしつらえになっている。もしかして、私以外に彼女が居たり?でもそんな素振りは・・・。
「あぁ、見ちゃったんだ」
悶々と考えていると、急に後ろから声が聞こえ、驚いて振り向くと、笑顔の彼がいた。
「見ちゃったんなら仕方ないね、コレ、渡しておくよ」
そう言って彼は、鍵を一本渡してきた。
「ごめん・・・見ちゃって・・・でもこれ、何?」
「えっとね」
彼の両親は、占いにハマっており、その占い師から、息子の未来の恋人は「AKIRA」と言う名前であると教えられたんだそうな。両親を含めた彼らは、見たこともないアキラのために、一軒家を購入し部屋を一つ設けた。そして、彼を一人暮らしさせ、結婚後の生活をすぐにでも始められるように、準備をしたのだという。
「え、ごめんちょっと意味が」
「うん、俺もさ、占いなんてって思ってたんだけど、君に出会えたでしょう?俺、あぁ、あの占いは本当だったんだって、初めて気づいたんだよ。だからこの鍵は、君の物。ずっとこの部屋にアキラが来てくれるのを待ってたんだよ!嬉しいなぁ、これからはアキラが、この部屋で過ごすんだね!」
眩しい笑顔がなんだか怖いものに見えてならなかった。
「家具持ってこなくちゃね~」と適当を言って、この日は無事帰宅した。家に帰ってすぐ、私は彼の連絡先を消した。
——いや、怖い怖い怖い!——
部屋、気に入らなかった?とかそう言うことじゃないんだよ!




