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いま、宇宙にある日常  作者: 水無月 林檎
ep1。いま、宇宙(ここ)にある日常
9/25

ep1 その2 「地球視察という名の新婚旅行」01

2「地球視察という名の新婚旅行」




2章 1


 年の瀬も間近に迫った12月の東京は、昨日に引き続き今日も快晴だ。地球温暖化もここまで来たか。と、思わせる暖かな日差しが心地よい。

「はぁ、落ち着くわー」

 午前中の暖かな日差し。手には缶のコーンスープ。周囲には浅草の下町風景。

 共に同行しているのは、落ち着きとは間逆の属性を持つバカ猫娘とバカップル宇宙人なのだが、バカ猫娘ことミィは、横で大人しく缶のホットおしるこをちびちびと舐めているし、バカップル宇宙人――アランとメリルは道端で井戸端会議中のおばちゃんたち数人に囲まれて、質問ぜめにあっている。

地球のそれとは違う服装と、夏空のように青い髪が、舞台メイクした芸能人か何かと勘違いされたようだ。こういった話題が好きで好きで仕方が無い下町のおばちゃんたちは、二人に矢継ぎ早に質問を浴びせているが、当のアラン・メリルも満更ではないようで、嬉々として受け答えしている。しまいには「ほら、歌手でしょ。何かで見たことあるわよぉ」等と言うセリフまで飛び出している。

 美月は、このまましばらくは、見知らぬおばちゃんたちにバカップルの事は任せて、平穏な時間を楽しむ事にした。


 元々の計画では、今日は美月が行ってみたかったお洒落スポットを重点的に巡る予定だった。街はカップルで溢れ、夜になると綺麗なイルミネーションが街を照らし出す。なんて素敵なのだろう。クリスマスを目前に控えているのだから、そんな気分だったとしても仕方が無い。ただ、ほんの少し魔がさしただけなのだ。

 しかし、実際に街に繰り出して美月は気付いた。クリスマス直前の浮かれた街を、さらに浮かれたバカップルを連れて歩く。そう、美月の隣を歩くのは素敵なまだ見ぬ恋人……ではなく、バカップル宇宙人とバカ猫娘。

「今なら有料展望台だって行ける!」

と意気込んでいたあの頃が懐かしい。

 お洒落スポットではしゃぐバカップルの浮かれっぷりに美月のイライラは最高潮に達し、

『「耐えらんない。バカップルのラブラブモードが耐えらんない』

そう言って、美月は突如スケジュール変更を宣言した。

『どこ行くんだ?』

という、オフィスで待機中の東郷の問いに

『おしゃれスポットの無い世界に』

と、死んだ目でボソリと返す。


こうして、お洒落スポット避けて避けて、辿りついた先がここ浅草だった。

「美月美月ー」

ミィが美月のコートの裾を引く。

「なに?」

「ほら、あの二人。祭り上げられてついに歌うらしいよ」

ミィがニヤニヤしながら指差すほうに目を向けると。まさに、アランとメリルが歌いだそうという頃だった。

先ず歌いだしはアランだった。普段の少年のような高い声からは想像もつかない、落ち着いた深い低音。

アランが低音でメロディを紡ぎ、そこにメリルが高音で歌詞を乗せる。二人で唄う、荘厳なミサ曲のような、懐かしさの漂う民俗音楽のような、不思議な歌。彼らの星の言葉なのだろう、歌詞の意味はまったく解らなかったが、綺麗な歌だと思った。

美月もミィも、すっかり聞き入ってしまった。

「……上手かったね」

「うん」

ミィのつぶやきに、美月も同意する。

歌い終えたアランとメリルは、名残惜しそうにおばちゃんたちにブンブンと手を振って、パタパタと騒がしく美月たちの元に駆け戻ってきた。

「ほらほら、もらっちゃいました」

「上手ね。って、褒めてくれたんですよ」

『ねー』

そう誇らしげに語る二人の手には、ビニール袋いっぱいの駄菓子が握られていた。

歌っている時の落ち着いた雰囲気はどこへやら。

場所を変えてもバカップルはバカップル。どこでも楽しめてしまう二人のパワーに、美月は諦めのため息をつくのだった。

「よかったわね」

「「はいっ」」

「それじゃ、次行こうか」

「「はーぃ!」」

手を上げて、元気に返事をするアランとメリル。

「どこいくの?」

というミィの問いに。

「せっかく浅草来たんだし、お店でも見て回ろう」

そう答えて、美月は歩き出した。コーンスープとさっきの歌で少し機嫌を直したようだ。

一向は、浅草の観光スポット、仲見世通りへと向かう事にした。


  ◆◆◆◆◆◆


仲見世通りは、クリスマスなどどこ吹く風。すっかりと年末の雰囲気が漂っていた。

アラン・メリルは、仲見世の人ごみ・年末特有の活気・数々のお土産品。はじめて見るものばかりで大興奮だ。二人手を繋いで、せわしなくあちらこちらを覗いては歓声を上げている。

「おーぃ、あんまりはしゃいで迷子になるんじゃないぞー」

ミィが投げやりに注意するが、彼らの耳に入ったかは定かではない。

「おバカ。あたしたちが目を離さないように気をつけるんでしょうっ」

美月にしかられて、ミィは頬を膨らませる。

「ちぇー、面倒くさい」

美月とミィは、バカップルを視線で追いながら、ゆっくりとした歩みで後を追う。

ちょこまかと右往左往する2人は、呆れるほど元気に駆け回っているが、明らかに無計画で無駄が多い。急がなくてもはぐれる事は無さそうだ。逆に、大真面目にぴったりと後を追って行ったら、あっという間に疲れて見失ってしまうだろう。

「美月、美月」

「ん?なに?」

「だるま買ったげるヨ」

「はぁ?」

「だるまにオーディションの合格を祈願するがいいさ、フヒヒ」

「いらないわよっ」

「ほらほら、オーディションに受かったら黒目塗りつぶせばいーじゃん。ミィが選挙の当確速報ばりにレポートしたげるからさー」

スーツ姿でハチマキにタスキ。大勢の報道陣の前で、涙を流しながら筆を持ち大きな達磨に黒目を入れる。そんな姿が頭をよぎる。

「絶対にいらないっ!!」

そんな美月とミィのやり取りは、悲鳴にかき消された。

悲鳴のした方を見ると、人の波を掻き分けて、トレンチコートの怪しげな男が突進してくる。

「あ!アイツ昨日の!」

ミィが咄嗟に気付いて反射的に飛び出すが、メリルたちと距離を取っていたのが裏目に出た。とても間に合わない。

トレンチコートの男は、店先で土産物品の物色に勤しむバカップルに襲い掛かる。

「危ない!逃げて!!」

美月の悲鳴に、寸でのところで気付いたバカップルは、紙一重でかわして、土産物屋の店内に転がり込む。

『東條さん。東條さん!』

『くそっ。護衛が群衆に囲まれて動けん。どうなってんだ!』

無線に呼びかけるが、助けは望めそうにない。

この突然の騒動に慌てたのは美月とミィだけではなかった。JA3Sの無線を傍聴していた木場も、現状を知って顔を青くする。

『邦堂!なんとかしろ!』

インカム越しで、現場に控えている邦堂に『具体性に欠ける指示』をわめき散らす。

「−やれやれ、仕方ありませんね』

「仕方ないじゃな

いだろう!それが貴様の仕事だ!いいか、失敗は許さんぞ!!』

緊張感の欠ける邦堂の返事に、青ざめた顔を今度は真っ赤に変えて怒鳴りつける。

『はいはい、わかっていますよ』

木場の金切り声をサラリと流しながら、遠巻きに足を止め混雑し始めた群衆を掻き分けて、野次馬の先頭に立つ。

土産物屋の店内では、ガシャンガシャンと何やら壊れる派手な音が響いたかと思ったら、店先のワゴンをひっくり返しながら、2人が店を転がり出てきた。そこで、駆けつけた美月が、勢い余って転倒しそうな二人を抱きとめる。

邦堂は、コホンと咳払いをして乱れたスーツを正すと、涼しい顔でジャケットの裏内ポケットから拳銃を抜いた。

店先では、二人を追って、トレンチコートの男も飛び出してくる。そして、流れるような正確な動作で、美月たちをターゲットに定め襲い掛かる。美月もメリルもアランも、大男を追って店内に飛び込んだミィにも、男を止める術を持ち合わせてはいなかった。美月は恐怖で目を閉じた。

タァンッ!!

邦堂は、表情ひとつ変えずに、突如発砲した。乾いた銃声が響いて、騒然としていた通りが一瞬で静まり返る。

トレンチコートの男は肩を撃ち抜かれて、どうっと転倒したが、すぐに起き上がると、常識外れな身体能力で屋根に飛び移りあっという間に逃げ出した。

邦堂は涼しい顔で銃を仕舞い、男を追いはしなかった。木場も黙っていたが、こちらは、ただただ絶句していただけのようだ。インカム越しでもワナワナと震える木場の気配が伝わってくる。

『銃……だとぉ!」』

やっとの思いで声を絞り出す。

『なんとかしろと言ったじゃありませんか。なーんちゃって、とでも言ってお茶を濁して見せましょうか?」』

やはり、顔色ひとつ変えずに言ってのける邦堂。

『そんなものが通用するか馬鹿者!』

『具体的な指示もありませんでしたので、僕なりにもっとも確実な方法で解決しました。後の処理は、木場さん。僕は万策尽きましたので、貴方にお任せしますよ」

朗らかな笑顔で、街中での発砲騒ぎの後処理を木場に押し付けて、無線を切る。「あっ」だか「きっ」だか、木場が何か叫んだようだったが、そちらは気にも留めずに、邦堂の元に駆け寄ってきた美月たちに向き直る。

「あの、助かりました!ありがとうございました」

美月が深々と頭を下げる。

「ほら、あなたたちもお礼言って!」

ミィの頭をぐいぐい押し下げる美月。メリルとアランは素直に礼を述べていた。

「いえいえ、礼には及びませんよ。それよりも、ここは早く離れる事をお薦めします」

「え、でも」

「こういった場所では、処理の専門スタッフに任せるのが筋というものです。それでは、僕はこれで失礼します」

そう言って、紳士のような優雅さで胸に手を当て一礼すると、銃撃騒ぎの当事者はさっさと野次馬の中に消えていった。一方的に無線を切られ、傍聴するJA3S無線を介してただ邦堂の発言を聞く他無かった木場は、頭から湯気を上げながら歯噛みしていたのだが、美月たちの知る由ではなかった。

ともかく、美月もここは逃げたほうが得策だと判断して、ミィとバカップルの手を引いてそそくさとその場を後にした。



美月に挨拶を済ませた邦堂國昭は、スーツを正して何食わぬ顔で歩き出す。

野次馬が割れるようにして邦堂の道を作る。

邦堂を恐れて道を開けたのではない。野次馬の中に紛れ込んだ僅かな人間が野次馬たちの深層心理を焚き付けて、周囲の人間を無意識に誘導したに過ぎない。

その群衆の中に1人の男を見つけ、目で合図を送る。男は頷いてから速やかにその場を離れていく。

「太陽の子供たち(Children of the sun)の斎藤和磨、でしたか。なかなかに使えますね」

野次馬に紛れてJA3Sの取り巻きを無力化する様に動いてみせたのも見事だった。

とはいえ、長い付き合いになるとも思えないが。

「さてと。この発砲事件を木場さんはどのように処理してくれるのでしょうか。楽しみですね」

近づいてくるパトカーのサイレンを躱すように、邦堂は路地の闇へと消えていった。



  ◆◆◆◆◆◆



2日目スタート。

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登場人物も増えて、ストーリーが動きはじめた期待感⭐︎!!
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