ep1 その2-2「地球視察という名の新婚旅行」06
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リムジンは今日1日借りているという事だったので、美月たちはスカイツリーまで送ってもらうことにした。
タクシーのように距離や時間でメーターが上がるのではなく、契約期間中はどこまで行っても料金は変わらないと当間に教えてもらったので、さすがの美月もふっ切れたのだ。
今では帰りにスーパーで夕食の買い物と、クリーニング屋に寄ってもらって洗濯物の引き取りも出来ないかと不遜な事まで考える始末である。
イヤホンから流れるラジオも穏やかな昼のトークと音楽がゆったりとした時間を演出してくれる。
しかし、緊張も解けて快適な車中を満喫したのも束の間、目的地まであと一歩という所で足止めを食らってしまう。
最初に異変に気がついたのはメリルだった。窓の外を眺めていた彼女が突然こんな事を言った。
「人が増えてきましたわ。地球の街は賑やかですのね」
美月が外の様子を確認すると確かに混雑している。
「お祭りでもあるのかしら?」
声に出してみたが、何かが違う。集まりつつある人は、そんな浮かれた様子には見えない。
「嫌ーな予感がする」
ミィも外を見て顔をしかめる。
歩道から溢れ出しそうな程の人間を轢かないように細心の注意を払いながら速度を緩めて車は進む。
「ここって、昨日にきた近くですよね」
「さっき見覚えのある通りを見ましたわ」
「うん、そうよ。昨日はあの騒ぎで中途半端に終わっちゃったからね、その続きって感じかな」
「「わーい」」
アランとメリルは手を叩いて喜んでいるが、ミィの嫌な予感は的中していた。
ついに歩道から人が溢れ出し、交通整理に駆り出された警官によって車は止められてしまったのだ。
「何で止まっちゃったんですかー?」
アランが不満げに問う。
「んー、聞いてみようか?」
美月は車の窓を開けて、近くの警官を呼び止める。
「すいませーん、この辺りで何かあったんですか?」
美月の問いに気がついた若い警官は、頭を掻きながら答える。
「ご迷惑をおかけしてすみません。何でもデモ行進だとかで、自分も急遽呼び出されて来たのでまだ詳しくは把握していなくて。参ったなぁ、上からは前々から決まっていたと言われているんですが、現場の人間は初耳なんですよ。どこで連絡に齟齬があったのか、ともかくすみません。早めに道路は空けさせます」
それだけ早口で告げると、無線に応答して走り去っていってしまった。
「デモ⋯だって」
「デモぉ?」
「うん、東條さんにも聞いてみるよ」
そう言って無線に繋ぐ。
「東條さん、デモの混雑で車が止まっちゃったんだけど、何か聞いてます?」
「え、デモだって?そんな話は聞いてないぞ、ちょっと待ってくれ」
無線からはすぐに返事があったが、その声は怪訝だ。何も情報は入っていないらしい。
「やはりそんな情報は入っていないな。場所はどのあたりだ?」
「えっと、聞いてみる。運転手さん、ここはどの辺りですか?」
「そうでございますね、江戸通りを吾妻橋前を抜けて言問橋目前と言ったところでしょうか」
「だそうよ」
「うーん、やっぱり知らねぇな⋯。ん?ちょっと待て、なんだこりゃ情報が書き換わった」
「見落としじゃなくて?」
「そんなんじゃねーよ。リロードしたら変わったんだ。しかも発表は1週間前って事になってるぜ」
「うーん、お巡りさんもそんなような事を言ってたわ」
「そりゃぁ、胡散臭いな」
お互いに、しばしの沈黙。その沈黙を破ったのはメリルの明るい声だった。
「ねぇねぇ美月さん、目的地はもうすぐですの?」
目をキラキラさせながら聞いてくる。
「うーん、そうね。ちょっと行くと右手に橋があって、そこから見えるはずよ」
「それなら歩いたほうが早いですわ」
「そうと決まれば急ぎましょうー」
言うが早いか、バカップルは美月が制止する間もなくドアを開けて飛び出していた。
「え、ちょっと。見えるって言ってもまだ距離があるんだから!」
美月も慌てて降車する。
「運転手さん、スカイツリーの駐車場で待っていてください」
ひと声かけて後を追おうとする美月を運転手が呼び止めてスッと名刺を差し出した。
「お帰りの際はこちらの番号におかけください、すぐにお迎えにあがります」
「ありがとうございます!ほら、ミィも行くよ」
「えー、面倒くさいー」
文句を言いつつミィも付いてくる。
「いってらっしゃいませ」
運転手に見送られ、美月とミィもアランとメリルを追って走り出した。
「なんだ、どうしたんだ?」
無線からは東條の困惑した声が飛んでくる。
「二人が、歩いたほうが速いって⋯はぁはぁ⋯飛び出して行っちゃったのよっ」
先を走る2人を必死に追いかけながら、東條に現状の説明をする。走りながら喋るのは呼吸が乱れて途絶え途絶えになってしまう。
「なんてこった、このデモはなぁ」
東條の言葉を遮ってミィが素っ頓狂な声を上げる。
「なんだこりゃ、宇宙人反対運動じゃないか」
「え、なによ。それ⋯」
美月が改めて人混みを見ると、数は少ないものの『宇宙文明の流入反対』だの『地球文化を死守せよ!!』と書かれたプラカードや紙を掲げている姿が目に入る。
「なんなのよ、この人たちは!」
「氷守落ち着け。宇宙技術は万人に受け入れられている訳じゃないんだ」
「だからって、こんなに拒絶することないじゃない!」
ぞろぞろと無表情で歩くデモ隊の姿に、美月は悲しさが込み上げてくる。なんであの子たちがこんなに否定されなければならないの?あの子たちの何を知っているというの?悔しくてたまらない。
「当間部長も言っていただろう、世界中の大手企業から自分たちのシェアを脅かす存在として警戒されているんだ。それなりの事はやってのけるさ。それにこいつらの大半は、特に良くも悪くも思っちゃいない、動員された社員や時給で集められたバイトだよ。氷守、いちいち気にすんな。」
「そんな事言われたって⋯」
そんなこと言われても納得はできない。美月は唇を強く噛む。
「いいから落ち着け。気合の入った本気の奴らは目立つ前方に固まっているのが常だ。氷守、周囲の状況はどうだ?」
そう言われて、改めて行列を観察する。列の先は長く、遥か前方まで伸びている。渋滞した車が邪魔でよく見えないが、掲げられたプラカードが車道まで溢れて占拠する勢いの様に見える。
「この辺りはまだ落ち着いているわ。先の方は騒がしそうだけど」
「それならば、まだ大丈夫だ。殆どがやる気のない動員とバイトだよ。囲まれる心配はない」
美月を落ちつかせるために、ゆっくりと丁寧に語る。
「それに、メディアの取材は全てキャンセルしたんだ、まだ大使の顔は割れていない。出回っている姿は、精々本来来る予定だった大使のものだ」
「うん、わかった」
「だが気をつけろ、バイトに扮して反宇宙人組織の連中が紛れ込んでいる可能性はあるぞ」
「え?」
「考えても見ろ。午後の行き先は俺たち以外の誰にも知らせていないのに、こんなにピンポイントで予定には無かったデモが行列を作っているなんて、どう考えたって怪しいだろう?」
「確かに⋯あ」
「どうしたんだ氷守、何かあったか」
「いえ、何でもないの。立ち止まっているメリルたちを見つけたから行くね」
そう言って無線を切る。美月には、心当たりがあった。午後にどこへ行くか話をしていた相手⋯。
「でも、相手は法堂さんだし⋯。木場さんとは確執があるけど、あれで政府の人だし、法堂さんは昨日助けてくれたし、信用できる⋯よね?」
言いしれない不安が心の奥底で渦巻く。
その時、美月のラジオにほんの僅かなノイズが乗ったが、考え事に気を取られていた美月には気付く余裕はなかった。
美月は頭を振って不安を追い払う。今はそれどころではないのだ。メリルたちに追いつかなければならない。
;美月は、立ち止まって呆然と空を見上げている二人に駆け寄った。
「やっと追いついた。もぉ、勝手に走り出したら駄目じゃない」
「あ、はい⋯。ごめんなさいですわ⋯」
「うわー⋯」
メリルもアランも心ここにあらずといった様子で眼前に聳えるスカイツリーを眺めている。
ここ、言問橋から見上げるスカイツリーは雲一つない冬空に
美しい巨体が映えて見るものを圧倒させる力がある。
「凄い大きいですね!驚きました!!」
「美しいですわ。あれで宇宙まで行けるんですの?」
何か勘違いをしている様だが、褒められて悪い気はしない。
「あれは電波塔で、宇宙とは関係ないのよ。中は展望台になっているから上ってみようね」
ガガ、ザザーッ
美月が言い終わるかどうかのタイミングで、ラジオがノイズに支配される。
と、同時にどこかで悲鳴が上がった。
「アラン、メリル。逃げるよ」
美月の一声で2人にも緊張が走る。
「美月、こっち!」
ミィが駆け出そうとした美月の手を引いて言問橋とは真反対の方向に誘導する。
&;、(「デモ隊を分け入って進むのはキケン。敵の仲間がいたら捕まる」
「そっか、ありがとう」
ミィに礼を言って、通行止めで歩行者天国状態の江戸通りを横断すると言問通り方面に向けて走り出す。
「いい判断だ。そのまま言問通りを進んでくれ、車を向かわせている。合流したら乗り込んで逃げるぞ」
東條から無線で指示が来る。美月たちを追っていたスタッフカーが渋滞を回避して近くまで来ているらしい。
「了解、ありがとう」
美月は礼を言って、昨日と同じスカイブルーのミニバンを探す。
「美月、あれ!」
ミィの目線の先から蛇行しつつ爆走するミニバンが迫ってくる。並み居る車を逆走で追い越し、美月たちの数メートル手前で急停車する。そして、運転手が叫んだ。
「そのまま走れ!俺が時間を稼ぐ!!」
「え、ちょっと⋯」
訳がわからず美月が何かを言おうとした矢先、車は急発進した。
ドンッ!!
ゴムの溶ける匂いとスリップ痕を残して飛び出していったミニバンは思いのほか近くで何者かに衝突した。そのまま10メートルはその何者かを轢いたまま引きずってようやく停止する。
「「おおーー」」
思わず歓声の声を上げて立ち止まってしまったバカップルの手を引いてミィは再び走り出す。
「何感心してるんだ馬鹿。あの程度じゃ足止めにはなんないぞ」
「えぇ、あの程度って」
「四の五の言わずに逃げる!」
美月の驚きにも見向きもせず、ミィは全力で走っていく。
「え。ちょっと、待ってよ」
美月も慌ててミィたちの後を追った。
アクションシーンスタート。苦手なので大目に見てね。少しでもよかったと思ったら高評価や感想をお願いします。




