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いま、宇宙にある日常  作者: 水無月 林檎
ep1。いま、宇宙(ここ)にある日常
12/22

ep1 その2 「地球視察という名の新婚旅行」04

   4

「よお、お疲れさん」

日付を跨いだ深夜。一人オフィスに居残ってPCのモニターを凝視していた東條は不意に声をかけられて顔を上げると、そこにはコートを羽織った当間の姿があった。

「あぁ、課長。お帰りなさい。直帰していると思っていましたよ」

そこまで没頭していた訳ではないのだが、声をかけられるまで当間の接近に全く気がついていなかった。

前職である自衛隊の訓練でも段位を取るに至った武道の修練でも人の気配には敏感な方であると自負していたのだが、当間はこうして度々警戒網を掻い潜って唐突に声をかけてくるのだ。

「いやまあ何だ。帰る前に差し入れ持ってこようかと思ってね」

そう言って、持っていたビニール袋をデスクに置いて中身を取り出していく。

「夜食って言ったらこれでしょ、牛丼」

まず最初に出てきたのは24時間営業チェーン店のロゴが入ったテイクアウト弁当。

「しかも大盛り。あれ、まだいけるよね。若いんだし。俺はもう無理だから要らないなんて言わないでよ」

「そんなこと言いませんよ。全然いけます。ありがたくいただきます」

「そりゃぁ良かった。あとはほら、ツマミとスナック菓子と」

言いながらコンビニで買ってきたと思われる乾き物や袋菓子を机に並べていく。

「それと、缶ビール」

最後に500ミリリットル缶のビールを2本ドンドンとたて続けに置いて、差し入れのお披露目はフィナーレとなったようだ。

「自分はまだ仕事が残ってますから酒はちょっと」

東條が申し訳なさそうに遠慮する。

「固いなぁ。早めに済ませて飲んで寝ちゃわないと、明日もたないよ」

「はあ、それでは後で寝酒に頂きます。課長も一本飲みますよね」

2本あったのでそういう事だろうと1本に手を伸ばした東條だったが、当間の身振りで遮られた。

「ビールはダメなんだわ。痛風怖いでしょ」

「え、はぁ。それじゃあ遠慮なく」

なんとも反応に困る返答に、東條は困惑しつつ伸ばした腕をひっこめた。

「うんうん。若いうちだけだから、いっぱい食べるんだよ。それにしても人手不足か。連日残業させてしまって申し訳ない」

「気にせんでください。これまでも不規則な生活でしたから」

「そう言ってもらえると救われるよ。それで、進捗はあったのかな」

口には出さないが、当間も行方不明の京浜の事は気に病んでいる。

「スマホを回収しました。とは言っても自分が見つけたのではなく、落とし物として届けられた物を警察から受領しただけですが」

「届け出た人物は?」

「テナントビルの裏に落ちていたそうです。そこの1階に入っている居酒屋の店員です。不審な点はありませんでした」

「うむ、そこに手がかりは無しか」

「はい。現在の居場所につながるような情報はありませんでしたが、写真が数枚残されていました。当時の追手の姿が収められています」

「ほう。とは言ってもね」

ミィの証言から目星はついている。

「はい。こちらです」

東條はPC操作して、京浜のスマホから保存した画像をモニタに映す。

「うんうん。昼間の奴だねぇ」

光量が不足しているせいで鮮明な画像ではないものの、トレンチコートも腕の長い奇妙な体型も昼間の襲撃者と一致している。

「ミィの報告通りですな」

「しかし、想像よりもデカいな。こんなのに追っかけられるのは恐怖だっただろうね」

「報告済みのものですが、昼間の護衛スタッフが撮影したものも並べます」

言ってもう一枚の写真を横に並べて配置する。京浜が残したものとは違い体格も身長も衰えた、明らかに威圧感の削がれた姿がモニタに映し出された。

「エネルギー供給が無ければ己の身体をエネルギーとして分解していくって話だったが、相当に燃費は悪そうだな」

「このペースで縮んでくれれば、明日には氷守の体格でも対処可能なレベルに落ち着いてくれそうです」

「だと良いのだが。しっかし、他に何かヒント写り込んでなぁい?後ろの暗がりに黒幕とかいないかね」

当間はモニタに顔を寄せて食い入るように写真を凝視する。

「黒幕ですか」

「東條君なら、電池の切れかかった自律機械ひとつに自分の未来を託すことはできるかい?」

当間の問いかけに渋い顔をする。

「複数あるプランのひとつとしてならば実行に移しますが、たしかに、心許ないですな」

「そうなんだよ。しかも銃を向けられて撤退しているそうじゃないか。その程度を脅威と判断して逃げ出すレベルのユニット単体には暗殺なんて荷が重いんじゃないかなぁ」

「確かにそうですね。となると、別働隊が⋯いや、本隊が暗躍している可能性が高いと」

当間に並んで東條もモニタを凝視する。

「そういや、先日までアメリカに集結していた反社の連中が日本に向かいだしたって噂はどうなりました?」

「反宇宙人組織『太陽の子供たち』なぁ。うーん、狙いはフーリア大使だろう?アメリカ国内からじゃマークされているだろうし、三国経由じゃ日程が厳しいだろうし。どれだけ辿り着けるんだか。向こうじゃすっかり鳴りをひそめちゃって、雲隠れだって話だ」

「今回の騒ぎとつながりはあるのでしょうか?やはり宇宙人と反宇宙人組織では共闘は相容れないのでは無いかと考えますが」

「基本的にはそうなんだろうけどね。条件次第じゃ仲良しこよしって事にもなると思うよ?」

「条件、ですか?」

「例えば、そうだな。フーリアの一部勢力が地球から手を引く事を見返りに、大使の殺害を反宇宙人組織に依頼する。って事なら宇宙人嫌いでも最初で最後の共闘も可能じゃないかな」

「確かに、フーリア側も自分たちの依頼だったなんて事は知らないフリをして、大使の殺害を理由に地球との交流を白紙に戻すのであれば不自然には映りませんな。しかし、これまでに宇宙港やワープゲートなど結構な投資を行っているはずですが、それらを捨てる覚悟で縁切りを提案してきますかね?」

「それはなんとも言えんなぁ。地球なんて遅れた星と交流したところで、技術を提供していくばかりで向こうさんには元々うま味も無いだろうし。後は殺害動機次第って所じゃないかなぁ」

「なるほど、さもありなん。ですな。っと、課長。ここを見てください」

凝視していたモニターの写真を拡大表示して追手の首元を指さす。

「これはインカムではないでしょうか?」

「どれどれ。これは⋯、うん。確かに」

露光不足と画像圧縮からくるノイズの中に、確かにノイズとは違う何かが見える。

「この環境下で使えるってことは、障害対策のされた軍用品か、自分たちの使う物と同等の宇宙由来の品ですよね。軍用レベルの障害対策でどうにかなるのかはわかりませんが」

「そうだねぇ。お人形さんの出力レベルが低くい間なら使えるかもしれんね」

「はぁ、そのレベルですか」

「そのレベルでしょう。それと、残念ながら俺たちの使うインカムとは別物だな。どこか組織と繋がりがある可能性は濃厚だが、木場との繋がりを肯定することは出来ず、か。良い発見だと思ったんだがなぁ」

同じインカムであれば、その出どころは政府関係者と断定できたのだが、そう簡単には行かないようだ。

「とは言っても、木場の関与を否定する要素にもなりませんがね」

「もちろんだとも。あー、反宇宙人組織だったらアメリカかロシア製の通信機くらい入手できるかもなぁ。しっかし、それだとウチのメンバー拉致して何も言ってこない理由がなぁ。はぁ⋯」

宇宙からの積荷⋯。実際には荷ではなく大使だったのだが、襲われた時点でそれはまだ知られていない情報だったので置いておくとして、積荷を狙って襲ってきたのだろうから、拉致した京浜がそれを所持していないと分かった時点で人質交渉と称して連絡を取ってくるのが定石なのだが。48時間以上たった今、何の音沙汰もない状況だった。

「うーむ。何か見落としがあるのか⋯。まいったねぇ、脳ミソが痒くなっちゃうよ」

後半は、ほとんど独り言のようであった。当間は頭をポリポリと掻きながら画面から離れる。

「ほんじゃ、俺はあがるわ。東條もほどほどにして休めよ」

一方的にそう告げると、くるりと背を向けて出口に向けて歩き出す

「はい、お疲れ様でした。差し入れゴチになります。」

「おうよ、おつかれさん」

当間が出ていったオフィスは、再び静けさを取り戻した。


〈つづく〉

宜しければ、評価、感想などお願いします。延長戦。2日目終了です!


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