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いま、宇宙にある日常  作者: 水無月 林檎
ep1。いま、宇宙(ここ)にある日常
11/27

ep1 その2 「地球視察という名の新婚旅行」03

その日の夜のミーティングは、ちょっと険悪ムードだった。

午後の日程は車移動でいくつかの観光地を回って、結果的に何事もなく終わった。

しかし、美月はトレンチコートの男に警戒網を突破され、メリルとアランを危険な目に合わせてしまった事を悔いていた。悔いた所でそもそも警戒網を突破されたのに美月の落ち度はない。それはわかっているのだが、何も動けなかった事も、動けたところで何にもならなかったであろうことも、美月の心に重くのしかかるのだ。

「だから、あたし。この仕事を降りようかと思うんです」

美月は、正直な気持ちを吐露した。中途半端で投げ出すのは嫌だったが、素人考えで首を突っ込んで誰かが傷つくのはもっと嫌だった。

しばしの間沈黙が流れた。東條もキャバ嬢もミィも、誰もが口を開けずにいたが、フーリヤ大使の2人だけは違ったようだ。

「「そんな、困ります!!」」

誰も引き止めない事に焦った2人が身を乗り出して詰め寄ってくる。

「美月さんと一緒に旅行がしたいんです!」

「わたくしたちが狙われているなんて、何かの間違えですわ」

「間違えって言われても、実際に襲われたじゃない!」

「それは…そうなんですけれども…」

美月の反論にメリルがシュンとなる。

「それでも、美月さんが辞めることないです!元々美月さんには観光案内をお願いしたのですから」

「そうですわ。美月さんのせいではありませんわ」

そう言ってフーリヤ人2人は東條を見る。

「おやおや、東條ちゃん大ピンチじゃーん」

それまで黙って聞いていたミィもニヤニヤと東條を眺めている。

「それは…悪かったよ。くそっ、全員の動きが封じられるだなんてな」

心底悔しそうに歯噛みする。

「どういった状況だったの?」

美月の問いに、東條は深くため息をひとつ吐いて話し始めた。

「その時も予定通り、8人の制服組スタッフが周囲に控えていたんだが、不審者に気が付き駆け寄ろうとしたところ、野次馬の人波に押し戻されて身動きが取れなくなったそうだ」

「邪魔をしたい何者かに囲まれていたって事?」

美月の疑問に東條は首を横に振る。

「いや、どうやら数人の人間が一般客を煽動して動かしたようだな。周囲の人間に不審な点はなかったそうだ」

「ミィには何が何やらわからんちんだよ、東條ちゃん」

ミィが偉そうな態度で茶々を入れる。美月にもピンとこない話だったので、ミィは放っておいて続きを促した。数人でそうも簡単に扇動なんて出来るのだろうか…。

「あー、そうだな。解りやすく簡単な例をだすとだな。大勢人がいる中で、ほんの数人がある方向を見た直後に恐怖に青ざめた顔で突然逃げ出したとしたら、周囲には目視で危険が確認できなかったとしても釣られて走り出す人もいるわけだ。それを見た周囲の人間も、訳も分からず一緒になって逃げだす。そうやって雪だるま式に広がっていって、あっという間に大きなうねりを作ることが出来るわけだ。逆に何か群衆の興味の引く物で一部の人の足を止める事が出来れば、流れを阻害されてたちまち渋滞しちまう。興味を引くものは、実際には存在していなくても構わない。…だそうだ。」

「だそうだ?」

「そんな内容の本を読んだことがある。マジシャンなんかもそうやって、上手いこと客の注意を引き付けたり躱したりして手品のタネを隠しているそうだ」

「なーんだ、受け売りか。感心して損した。てかマジシャンになりたかったの、東條ちゃん」

「俺はそんな器用な真似できねーよ。しっかし、今日の連中がが何者かは解らないが、中々の手腕だな」

「敵を褒めてどーする」

「侮ってちゃ、勝つものも勝てねぇからな」

「ふーん。勝つも負けるも東條ちゃん次第か。まぁ頑張りたまえ。にししし」

「なんで丸投げなんだよっ」

「東條ちゃんが頭使って、ミィがやっつける」

「俺のどこを見たら頭脳派に見えるんだ…とは言え、ミィが相手じゃ俺が考える他無いか」

「それもそうね」

「そうですねぇ」

美月もキャバ嬢も全肯定する。アランとメリルに至ってはブンブンと首を縦にふっていた。

「あれ?ミィの方が強いって言いたかったんだけど?」

ミィが不満の声を漏らすが、そんなことは誰しもがわかった上での事なので黙殺された。

「とりあえずあれだな。警護の人数を増やすか、立ち位置を見直すかしないとだな。トレンチコートの男ってのも、また現れるだろうしな」

東條の言葉で場が重い空気に包まれる。

この場の誰もが対応出来なかった相手の話題に悔しさが甦る。

「あの…」

メリルがおずおずと口を開く。一同の注目を待ってから意を決したように言葉をつづける。

「わたくし、あのコート姿の者に心当たりはないのですが、知っているかもしれません」

えっと、どゆこと?分からないけど、分かる。トンチか何かかな?

腑に落ちないといった表情の美月に気づき、メリルは丁寧に言葉を紡ぎ直す。

「わたくし達に狙われる心当たりは無いのです。ですが、あれが何者なのかは、わかります」

「ボクも、恐らくですが予想はついています」

メリルに続いてアランもそんな事を言いだした。

東條が無言で話の続きを促す。

「あれは、フーリヤ周辺星系で一般的に使われている液体繊維タイプの機械人形ですわ。日本の言語にしっかりと翻訳できているとよいのですが」

「大丈夫だ、だいたい意味は通じている」

東條が短く答える。美月たちも大丈夫だというように頷いた。

地球には存在しない物を自動翻訳で説明するのは本来難しい事なので、メリルは意味が通じている事にホッと胸を撫で下ろした。

「わたくし達が乗ってきた宇宙船にも相当数の数が乗っていますわ。でも、さっきも申しました通り、襲われる理由がありませんの」

「近隣星系とも関係は悪くありませんし、フーリヤ以外から送り込まれたという可能性も低いと思います」

「とは言え、元々日本にあったとも思えんなぁ」

東條が首をひねる。

「母船には確認の要求を行ったのですが、まだ返答は来ていませんわ」

「そうか。いや、ご協力感謝します。ついでにその機械人形の詳細も分かる範囲で教えてもらえると有り難い」

「承知しましたわ。まず、この機械人形は命令を達成するために自ら考えて行動する自律機械ですの。普段は船内の雑務や運用補助、船外作業など様々な雑用に使用していますの。知能はとても高いとは言えませんが、基本的な常識やルールをどの程度詰め込んでいるかで出来る範囲も変わってきますわ。」

「ちなみに、機械と言っても地球での機械とは構造が全く違いますよ。身体を構成する液体状の物質は骨であり筋肉であり皮膚であり、燃料でもあるんです。核になる小さな球状のチップに身体を構成する設計図や行動基礎情報が格納されていますので、これが破壊されると機能を停止してしまいますが、それ以外は破壊されても簡単に再生可能です。何せ身体を構成している物質は一つだけですから、今ある体積の範囲で役割分担を調整して再構成するだけです。体積は変わらないので破壊で失った分だけ小さくなってしまうんですけどね」

「なにそれ、それじゃあ銃で撃たれたのに元気よく走って逃げていったのは、撃たれても余裕だったって事?」

ミィが不満そうに声を上げた。

「はい、そうですね。撃たれて空いた穴から液体が漏れて体積は減ったと思いますが、しばらくしたら塞がって元通りだと思います」

「それでも、次に会うときには今日よりも小さくなってその分だけ弱くなってるんだ」

美月がポツリと漏らす。ほんの少しだけ、希望が見えてきた気がする。

「そう考えていただいて問題ないと思います。ただ、撃たれた傷から失った分は誤差程度です」

「そうなんだ…」

見えた希望は幻だったようだ。目に見えて落ち込んでしまった美月を慰めるように、メリルが慌てて言い繕う。

「でも、それほど落ち込む事はありませんわ。それ以上に自らの維持に必要なエネルギーとして消費される方が格段に多いはずですから」

「昼間の段階で、エネルギー貯蓄に余裕のある体型には見えませんでした」

「ほう、人間で言うと脂肪が無い状態ということか」

東條の感想にアランが嬉々として答える。

「まさしくそれです。余剰分を使い切った後は必要な組織を分解してエネルギーに割り当てます。結果として筋肉を消費して活動エネルギーを得るほかなくなる訳です。宇宙船の船内で使う分には常にワイヤレスでエネルギー供給されているのでそれでも構わなのですが、船外活動となるともっと太らせておかないとすぐに力尽きてしまいますよ」

「でも、そんな基本的なことを解っていないとも思えませんの」

「船内用の機体を慌てて送り出したのかもしれません。船外活動用に調整するには時間が必要ですから」

「仲間の中にあなた達を狙っている人がいるの?」

「そうですわねぇ。納得は行きませんが、それが一番可能性のあるお話だと思えますわね」

美月の問いに不満そうに肯定する。

「本当に不満ですわ。もしかしたら本来この国に来る予定だった者たちが狙われていて…」

「え?元々はあなた達以外が来る予定だったの?」

「えっとー、それはですね」

「色々と込み入った事情がありましてですね」

「「ねー」」

はぐらかされてしまった。何か事情を知っていそうな顔の東條はだんまりを決め込んでいるし、キャバ嬢もポーカーフェイスでニコニコ笑顔を浮かべるばかり。ミィに関しては、これは本当に何も知らない顔だ。

美月は追及を諦めて話を進めることにした。

「状況は何となく把握できたんだけど、やっぱり…」

美月の決心は揺らいではいない。

「美月さん!大丈夫です!!次にあのコート姿の機械人形に会うときには精々大人の地球人くらいの力しか出せないはずですから!」

「だからお願いしますわ。辞めるなんて言わないで、明日も一緒に観光しましょ。ね?」

アランとメリルの意思も揺らいではいないようだった。

「あー、分かってはいると思うが、明日は観光ではないぞ」

「うぐぅ。それでも一緒が良いんですの!」

東條が釘を刺すと、メリルがただの駄々っ子といった様相になってしまった。

「と、こんな事を言っているが、どうする?氷守」

「え?何よ東條さんまで。メリルにそう言ってもらえるのは嬉しいけれど、なにも出来ずにただ見ているだけのお荷物になるつもりはないわ」

「ふむ。ならば美月くんにも問題を退ける力があれば問題ないという訳だね」

思わぬ方向からの声に振り返ると、いつの間にやら当間が良からぬ笑みを浮かべて立っていた。

「隊長、何か考えがあるんですか?」

当間のいたずらっ子のような笑顔に、東條が訝しんだ顔を向ける。

「ほら、お相手さんは宇宙人の技術でもって殴り込んできたのに、こっちは素手って訳にはいかないじゃない。倉庫に転がってる試作品でもなんでも使っちゃおうかなっとね」

「よく許可がおりましたね」

「許可も何も、使うよって言い逃げしてきたから。今頃大騒ぎになってるかもしれんなぁ」

「全く人が悪い。とは言っても厳密に言えば、現在の法に引っかかるような物はありませんし、あくまで自制の範囲。文句を付けられる謂れはないでしょう。せっかくの機会だ、派手にやったりましょうか」

「もう。あんまり無茶しないでくださいよ。現在の法に引っかからないって油断してると規制されて泣きを見ても知りませんからねっ」

当間と東條の二人で盛り上がっているところにキャバ嬢が水を差す。

「あぁ、うん。それはまずいなぁ。やっぱ、ほどほどに。ほどほどにね。それじゃあ、後は任せたよ」

キャバ嬢の剣幕に、当間は早々と退散を決め込んだようだ。頭を掻きながらくるりと背を向ける。

「そうだ、美月くん。明日は君があのロボットゴリラ兵をぶん殴る機会があるかもしれんから、楽しみにしておいてくれよ」

去り際に意味深な言葉を残して隊長室の中へと消えていった。

「えっと、別にあたしがぶん殴ってやりたいとか、そういう事じゃないんだけど…」

ポツリとつぶやく。でも自分には何も出来ることがないからこそ降りようと思ったことも確かだ。

「はいはいっ、じゃぁミィがぶん殴る」

「えぇー。うん、やってみたら良いんじゃないかな」

美月が半分呆れたように返す。そのギプスで固められた腕は安静にしなくても大丈夫なのかな?とは思ったが、東條も同じ事を考えていたようだ。

「お前はケガしているんだから無茶するな。俺と氷守に任せておけ」

「東條さんもちゃんと自重してくださいね」

「はい、沙織さん。申し訳ないですっ」

ジト目のキャバ嬢に東條は背すじを伸ばして謝罪する。東條はキャバ嬢をあだ名ではなく本名にさん付けで呼ぶようだ。

「うふふ、よろしい」

それを見てキャバ嬢は優しい笑みを浮かべる。

「それでは、明日は東條くんも美月さんもミィさんも。無理はしないで頑張っていきましょうね。アランくんとメリルちゃんは安心して観光を楽しんでくださいね」

「「はーい」」

「はいっ」

「あいよー」

バカップル、東條、ミィが三様の返事を返す。

キャバ嬢に場をまとめられてしまい、美月は何も言えないまま引き続き明日もバカップルたちに付き合うことになってしまった。とは言え、やられっぱなしで逃げだすのは美月の性には合わないのも確かだ。手立てがあって求められているのなら、乗ってみるのも良いのかもしれない。

少し俯いたまま考え事をしていると、不意に袖を引っ張られた。

「美月はやれるの?」

目をやると、心配そうな表情のミィが控えめに聞いてきた。

心配させちゃったな。とか、また断りきれずに流されて引き受けちゃうな。とか、色々なことが頭の中を駆け巡ったが、心のなかで一つ深呼吸をして、一言。

「もちろん。やれるよ」

とだけ答えた。

ミィは小さく頷くと東條をビシッと指差して、

「本当に大丈夫なんだろうね、東條ちゃん!」

唐突の喧嘩腰に美月とバカップルは驚いたが、どうやらキャバ嬢もあちら側の人間だったようだ。東條に警戒の色を向けている。

「大丈夫だよ。そんなに信用無いのか、俺」

「わん!」

キャバ嬢の膝の上でうとうとしていたワンコが吠える。

「ほらほら、モチャも同意だってさ。明日はマイルドでまろやかなヤツを頼むよ」

「うわ、モチャ。お前もか」

ここぞとばかりに囃し立てるミィに、東條は悲観の声をこぼす。

「えっと、モチャちゃんはテーブルのクッキーが気になったみたいです」

自分のポッケから犬用ビスケットが入った小袋を取り出しつつ申し訳なさそうに弁明する。ホッとした顔になる東條だったが、キャバ嬢の言葉はまだ終わっていなかった。

「でも、本当に危ないのはダメですよ。東條くんは放って置くと抹殺光線とか持ち出してきそうな雰囲気があるから」

「なんですか、それは。そんな物ここで見たことないですよ」

キャバ嬢からの評価に涙目で反論するも、ふと何かに気づいた様子で神妙な顔つきになる。

「もしかして、あるんですか?そのなんとか光線」

「え、ありませんよ」

「無いんかいっ」

東條と期待に目をキラキラさせていたミィのツッコミがハモった。

「こっそりと眺めていた政府サーバーの兵器開発目録にはそんなような名前がありましたけど」

「え、あるの?」

「流石に中身は読んでませんから、完成品が実在しているかは不明ですよ」

サーバーに侵入した話を何でもないことのように語るキャバ嬢の意外な一面に、驚きを隠せずにいる美月。普通の女の子に見えても、やっぱここのメンバーなんだと妙に納得してしまう。

「見つけたのは情報収集のついでですよ?業務の一環ですよっ」

美月の表情から何かを察したらしいキャバ嬢が慌てて弁明する。

「木場のなんとか課っていう怪しげな部署について調べてもらっていたんだが、まぁそういうこっちゃないわな」

東條もフォローに回ろうとしたが、無理筋と察してあっさりと諦めたようだ。

「いや、違うのよ。キャバ嬢もここのメンバーなんだなーって思っただけで。うん、たくましくて良いんじゃないかな。あははは…」

美月は乾いた笑いで誤魔化すも、やはり無理がある。

「それよりも、さっきから何を悪企みみたいに話してるの?」

話題を変えてみるが、これは本当に気になっていた事だ。

「そうよね。美月さんには何の事だか分からないわよね」

気が付かなくてごめんなさいと前置きして説明してくれた。

「倉庫に眠っている試作品っていうのは、ロズウェル事件って聞いたことあるかしら?昔アメリカに墜落したUFOの残骸を解析して得た技術を実験的に使って作ったものなのよ。とは言っても解析なんてほとんど進んでいないらしいのだけれども。うちの隊長さんが武官としてアメリカ派遣時に向こうの方と仲良くなって色々と教えてもらったらしいの。宇宙人の存在と、その宇宙人との約束の事とか、彼らの持つ技術の事とか」

キャバ嬢の説明に東條が補足する。

「帰国後にアメリカで得た地球外文明の情報を政府に提出して、惑星フーリヤとの交流準備に尽力したそうだ。ちなみに、今日使っていたインカムもその解析技術を使った物だぞ。バカみたいな通信距離を持つ優れものだが、使用可能チャンネルが極端に少なく同じインカムがあれば簡単に盗聴出来ちまう。まぁ、政府内のごく一部にしか出回っていないからそれほど警戒する必要もないだろうが。それと、機械兵の接近時にも電波障害が起こらなかったから気づかずに出遅れてしまったのも欠点と言えるかもしれねぇな」

宇宙技術で作られた通信機は、同じ宇宙技術で作られた機械の出すノイズの影響を受けない。そもそも電波を用いた通信では無いそうだ。

「いえ、あそこで連絡が途絶えちゃったらきっとパニックになっていたから、欠点ではなかったと思うわ」

美月の言葉に偽りはなかったのだが、東條には気遣いと映ったのだろう。寂しげな笑みを浮かべて

「おう、そうか。それなら良いんだ」

力なく頷いた。

「明日は普通のラジオもつけて警戒しておくわね」

「そうだな、そうしておいてくれ」

「うん。ってあれ?このインカムって政府関係者なら使っていてもおかしくないのよね」

ふとした疑問を漏らす。

「そうだな。滅多にないが、電波干渉が起こりやすい場所では使われているな。他には解析技術や宇宙技術に関わる部署だな」

「法堂さんも持っているのかな」

「あ。あー、完全に失念してたぜ。持っているかもなぁ。こちらの通信は筒抜けと思ったほうが良いかもしれんか」

ピシャリと自分の額を叩いて天を仰ぐ。

「どうする?通信は控えようか?」

「いや、当たり障りのない事はこれまで通りでいいだろう。緊急を要することも仕方がない。予定の変更は時間に余裕があるなら電話で連絡をくれ。不自然に通信を減らしても下手に勘ぐられるのは厄介だ」

「りょーかい」

東條は、こちらの情報は筒抜けでも構わないという覚悟を決めたようだ。美月としては、法堂に助けてもらった身だ。例え筒抜けだったとしても構わないと思っている。情報を共有することで、また何かあった際には助けてくれるかもしれない。そんな淡い期待さえ持ってしまう。

きっと、なるようになるだろう。

「そうだ、せっかくだからオススメのラジオ局教えてくれない?ラジオは初めてだからよくわからないのよ。邪魔にならなくて、飽きの来ないのが良いわね」

「ん、そうだな。無難なのは59.6hzのFMゴクーシックスだな。通称ご苦労ラジオ。アナログチューナーならば少しずらして59.63のご苦労さんに合わせると少しだけ音が良くなるって噂だぞ。ちなみに、ハム無線も59,63だ。俺か隊長がいるから機会があればアクセスしてくれ」

「なによ、その意味不明な噂は」

意気揚々とした東條の説明に、揶揄われたと思った美月は口をとがらせて抗議する。

「いや、冗談とかじゃなくってだな⋯」

「私もゴクーシックス聴いてるわよ。仕事しながら聴いてもらえるように意識した派手すぎない内容で音楽も豊富だからお勧めよ」

「そうなんだ、キャバ嬢が言うなら間違いなさそうね」

笑顔で答える美月に何か言いたげな東條だったが、プレゼン方法に難があったのは明白なのでぐっと押し黙った。

「さてと、こんなところかな」

そう言って東條は一同の顔を見渡す。異論は無さそうだった。

「それじゃあ、今日はもう帰ってゆっくり休んでくれ。解散」

「東條ちゃんも今日は帰るん?」

「いや、まだ残るぞ。やる事が残っているからな」

「あら、昨日は徹夜だったのでしょう?」

キャバ嬢も心配そうに声をかける。

「ちょっと大丈夫?」

東條の顔を覗き込む美月。

「んぁ?何がだ」

「ひどい顔よ?」

「うるせー。生まれつきだ」

「何よそれ。あたし、どんだけ性格悪いのよ」

あんまりな勘違いに少し呆れる。

「目の下のクマ。少し休んだほうがいいわよ」

「あぁ、悪い。ファッションだのお洒落だの言ってるヤツはどーにも苦手でな。京浜もイタリアブランドで固めてやがったし、邦堂の野郎も全身フランスブランドだ。ったく、どいつもこいつも…」

「あーあ。すっごい偏見。そりゃモデル仲間にすっごい嫌な子いるけどさ。そーゆーの関係なくドコにだって嫌な子も良い子もいるじゃない。ほら、キャバ嬢はお洒落で良い子よ」

東條の愚痴を遮って、美月がずずいっと詰め寄る。

「ん、まぁ。えーと、氷守。顔が近い」

「ほえ?そう?」

顔を赤くしてそっぽを向く東條。

「ふひひ。東郷ちゃんはそんなナリでシャイなんだ。美月、許してやっておくれヨ」

ミィが茶化す。

「あーわかったわかった。後でちゃんと休むから、お前らは帰れ帰れっ」

真っ赤な顔でしっしっと追い払う。

「わあー赤鬼だー逃げろ。ほら美月も帰るよ」

そう言うと、ミィは椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がって駆け出した。

「わーい」

「きゃーですわー」

アランとメリルもミィの後を追って駆け出してしまう。

「え、ちょっと待って。えっと、明日もよろしくお願いしますっ」

美月も慌てて二人に軽く一礼してみんなの後を追いかけた。

「ほんと騒がしい奴らだな」

美月たちが去っていった方を見やりながら東條が呟く。

「明るくて良い子たちですよねー」

「わん」

キャバ嬢とその飼犬のもちゃも慈愛に満ちた眼差しで一行を見送った。


  ◆◆◆◆◆◆



動きはないけど、情報整理回でした。

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