ep1 その2 「地球視察という名の新婚旅行」02
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ep1 その2 「地球視察という名の新婚旅行」02
2
しばらくの間、足早に仲見世通りを進み、ここまでくれば大丈夫と足をとめて呼吸を整える。
命を狙われるバカップルの素性に疑問を抱く美月。
「あんなのに狙われるなんで、あなたたち何者?」
という詰問に
「ただの民間人です」
「そう、アレ。アレで当たりましたの」
しれっと言ってのけた。メリルの指差す先は、歳末福引セールの会場だった。
「はぁ?」
「もちろん、あれと全く同じものではありませんけれど」
「応募したら当たったんです」
なんて事を言い出した。
美月は訝しんだが、真顔で応募総数やら抽選方法やらを語るバカップルに、半分面倒くさくなって、その言葉を信じる事にした。
「じゃぁ、なんで」
狙われるのよ――。と続けようとした美月にの目の前に、小さな紙の束が突き出された。
「美月さん、これ」
「さっきお土産を買ったときに頂きましたの」
「折角だからやりましょうよ」
「美月さんに差し上げますわ」
「僕たちは見てますから」
「わたくしたちの幸運が美月さんにも微笑みますように」
矢継ぎ早に二人がサラウンドでまくし立てる。
「な、なに!?」
あまりに近くに突き出されたので焦点が合わない。
「うはーっ。すっごいよ、美月」
驚嘆の声を上げて、ミィがバカップルの手から抜き取った紙きれを美月の顔にぐいぐい押し付けてくる。
「だからっ、近すぎて見えないっての!」
美月がミィの手から更に奪い取ってそれを確認すると、紙切れの正体は福引券だった。それもドラマで見た100万円の札束程の厚さはあろうかという量の福引券の束だ。
「な。なんでこんなに!?」
「えへへー」
「お土産たくさん買っちゃいました」
「あまりにも多くて持てませんので、シャトルまで送ってもらいましたわ」
いや、たくさんとかそういった次元ではないと思うのだが…。とは思いつつも、心の底から湧き上がるワクワク感を隠し切れない美月。
「そうね、折角だし。やっていきましょうか」
「美月、ずっこい!ミィも!ミィも!」
「誰も独り占めなんてしやしないわよ」
ぴょこぴょこと跳ねて飛びついてくるミィの顔面を押しのけてひっぺがす。
福引の神様は居るものだ。と、美月は思った。
地球行きを引き当てたと称するバカップルたちに憑いてきた福引の神様からのおこぼれだろうか、ミィとアランとメリル。4人で熱狂した福引は、面白いほど良く当たった。
地味な賞の、かさ張る景品ばかりを狙い撃ちで。そう、このバカップルから分けてもらった「運」が素直に美月を喜ばせるように作用するハズがなかったのだ。
完全に謂れのない逆恨みなのだが、当たりが出る度にキャーキャー騒いでいた頃の自分をひっぱたいてやりたい気持ちで、ずっしりと重い両手の景品――トイレットペーパーとか醤油とか――と、今尚はしゃいでいるバカップルを交互に見比べる。
「ほら、おじさん困ってるじゃない。次行くわよ」
どうやら、当たりが出た際にカラカラと鳴らす鐘が欲しくなってしまったらしく、福引のおじさんにへばり付いているバカップルを引っ剥がす。
『で、お前ら何やってんだ?』
無線から東條の呆れ声が飛んでくる。
『何って。年末の…ふくびき…』
『大使にまんまと乗せられて、な』確かに、二人の素性を問い詰めている途中だったと反省する。
『ふくびきの豪遊なんて滅多に出来ないんだぞっ』
ミィが勢いよく反論するも、その論点は相変わらず独特だった。
『そりゃあそうだろうなぁ。まぁ別に良いんだよ大使の素性だなんて。いっその事、有耶無耶のままでな』
『何よ、意味ありげね』
『何者かになっちまったら目立つだろう?一般人でもこのザマなんだ。たまらないだろう』
手勢の護衛も動かせずに、邦堂に先を越され、東條も焦っているのだろう。言葉に力が無い。
『それもそうね』
美月には誰も責めることなんて出来なかった。
『悪いんだけどさ、この景品預かってほしいな』
『了解、人を遣る。
荷物持ちくらい役に立ってもらうさ。ついでに大使の土産回収と店への弁償もな』
『ありがと』
美月は礼を述べて、荷物を一箇所にまとめた。
『…さっきの大男は見失ったそうだ』
東條が悔しそうに漏らす。護衛の一部に追わせていたのだが、今しがた見失ったとの連絡が入ったのだ。ジャンプで屋根に登るようなやつに追いつくのは難しいだろう。
『少し護衛の距離を詰めてはどうかしら』
キャバ嬢が提案する。
『確かにな。あんな人外のバケモンが出てくるとは想定外だ』
『あー、それと。車を出しもらおうかな』
申し訳無さそうに美月が申し出る。
『おう、構わないぞ。どうした?』
『2人ともはしゃぎすぎて疲れちゃったみたい』
さっきまでの元気はどこへやら。バカップルは2人とも地面に座り込んでしまっていた。
「ミィも疲れたー。お腹すいたー」
みぃのアホ毛も力なく垂れ下がっている。
「それじゃ、ご飯にしましょ」
「「「わーいご飯だー」」」
バカップルとミィのセリフが見事にハモった。
昼食は、月島のもんじゃで豪遊と相成った。
駄菓子屋発祥というもんじゃの遊び心がバカップルにピッタリだったのだろうか。瓶ラムネのお祭り感も相まって、やっぱり彼らはキャーキャー騒いで幸せそうだった。
さっきまで仕入れていたミィのアホ毛もすっかり元気を取り戻している。
得体の知れない相手に襲われた直後だというのに、どんな神経をしているのだろう。ミィvs宇宙人sでもんじゃの奪い合いに発展した鉄板を眺めて、美月はため息一つついて瓶ラムネを一気に飲み干した。
「はいはい、おかわりなら注文してあげるからケンカしないの。ほら、ミィ!威嚇でシャーって言わないっ!」
この子達の面倒を見るのは疲れるわ。
気分転換にお酒が欲しくなってくる。
ビールは駄目ですか、駄目ですよね。
美月はしかたなくラムネををもう一本注文して一気飲にみ干した。
◆◆◆◆◆◆
3
「あのような場で発砲するなど、何を考えている!」
報告に戻った邦堂に、開口一番で木場の小言が飛んできた。だが、それは想定内のことであり、発言の一字一句までが邦堂の予想通りとあっては全くもって威圧感のかけらもない。邦堂は気に留めた様子もなく肩でかわす。
「現場での責任は僕が、後方での後始末は木場さんが。それが役割分担というものです。人間は一人では生きてはいけないのですよ、支え合いの精神。素敵な言葉じゃないですか」
のらりくらりとかわす邦堂に、木場はイライラを募らせる。
「ならば!ならばあの宇宙人共の兵士を制御できなかったのは、現場担当である貴様の責任だろう!だいたい奴はどこに行った?なぜ連れて戻ってこない!」
鬼の首でも取ったかのような形相の木場だったが、対して邦堂はまるで悪びれる様子がない。
「残念ながら、またどこかに行ってしまいました。当然ですよね銃で撃ち抜かれたんですから」
額に手を置いて大げさに首をゆっくりと振って見せる。
「なっ……威嚇じゃなく、当てたのか」
「それはもう。そうでもしないと止まってくれそうにありませんでしたので。ちなみに、僕の銃は45口径のオートマでして、薬莢もどこへ行ったのやら」
楽しそうに告げる邦堂だが、木場は顔面蒼白になる。
警察官の持つ拳銃は38口径だ。現場から見つかった薬莢が日本の警官にはない装備のものだったとあっては『突如発生した暴動に対しての警察権の行使』という事態の鎮静化案は使えない。
頭を抱える木場に、さらに言葉を続ける。
「そもそも、あれは僕の指揮下にあったものではありませんよ。今までは建前だけの共闘関係にありましたが、あれはあれなりに自分で考えて目的達成のために動いているのです。一介の地球人である我々にどうこう出来るものではありませんね」
大袈裟に首を横に振ってみせる。
「どういうことだ?あれは地球人が頼りないからと一方的に送り付けてきたお目付け役だろう?それが護衛対象を襲うなどと……」
「何を言っているんですか?あれの目的は初めからフーリヤ人大使の殺害です」
「なんだって?!」
「おや?浮かれて話半分にこの役職に就いたのですか?感心しませんね。僕たちの任務は、日本に居る間のフーリヤ大使の護衛と、日本の管轄を離れた時点でのフーリヤ大使の抹殺です。確かに彼らは地球人が頼りないと考えあのエージェントを送ってきましたが、大使を討ち漏らす可能性を考えて頼りないと判断したのです」
木場にとって、今日一番の衝撃だった。いや、これまでの人生の中でも最大級の衝撃だ。
「抹殺…。それが政府の意思だと?」
木場には、あの日和見的で決定力のない政府にそんな大それた決定が出来るとは思えなかった。
「いいえ、政府からは日本の主権が及ぶ範囲では何事も無く視察の工程を消化せよと厳命されていますよ。ただし、それを越えた先については関知しないと決め込んだようです。安心安定の日和見ですよ、信頼が置けますねぇ」
つまり、日本の責任下で万が一の事態が起きてフーリヤとの国交がおじゃんになった場合、各国からの非難を浴びることになるのは明白なのでそれだけは回避したいが、責任の所在を問われないのであれば目を瞑ろう。ということであろう。そして、殺害が完了し実行犯として我々の関与が露見してしまった場合、日本を代表して木場幸二郎の首が飛ぶという筋書なのだろう。
「くそっ、嵌められたのか。室長などというちっぽけな餌に釣られて」
「なに、悲観したものではありませんよ。殺害依頼のクライアントは長いこと日本の政界と財界を牛耳ってきた超大物に、世界各国に支部を持ち世界中の名だたる企業がパトロンとなった反宇宙人組織。更にはフーリヤ中枢の大物です。上手いことやってください、悪いようにはならないと思いますよ」
法堂は軽い調子で言ってのけるが、その目は冷たく木場を射抜いている。木場は恐怖で背筋が冷たくなるのを感じた。
もし、それが本当ならば相手が大き過ぎるのだ。上手く立ち回れと言われても、濁流に落ちた木の葉に等しい自分に何が出来るものか。
「なにを、そんな馬鹿な話が……」
言いかけて口ごもる。
「フーリヤの中枢がどういった理由で自国の大使を消し去りたいのかは分かりませんが、大企業のお偉方が宇宙人を忌避する理由は簡単ですよ。これまでに莫大な時間と金と人材をかけて積み重ねてきた技術・市場・特許。そんな会社の財産のほとんどは、これから入ってくるであろう宇宙人の文明の前にはなんの価値もありません。大企業も小さな工場も、ある日突然にこれまでの資産を否定され、一律に宇宙人の技術を渡されて同じスタートラインに立たされるのです。それを、いまの財界のトップたちが面白くないと感じても、僕には否定できません」
「しかし、そんなことが起こらないように規制を敷き、混乱を招かないよう最大限の努力を……」
「木場さん。」
法堂は木場のセリフを遮った。
「国会答弁でもさんざん聞かされた言葉ですね。それを、だれが保証できますか?仮に、国内で上手くいったとして、国外との折り合いがつくとは思えません。他所より1つでも多くの技術移転を得られれば、それこそ世界征服も夢じゃなくなると言われていますからね、各国の首脳も企業も皆が疑心暗鬼に苛まれていますよ。
昨今の市井で活発になりつつある反宇宙人デモも、裏で糸引いているのは財界の人間です。表では我が社がもっとも正しく安全に宇宙人の技術を扱うことができると宣伝して回る一方で、裏では今ある技術的価値と優位性を失うことをもっとも恐れているのです。交易が始まる前である今なら、まだ間に合う。
焦っているのですよ、技術は一度得てしまえば、引っ込めることはできません。大企業の優位性は完全に失われてトランプの大貧民のように、革命で簡単に序列がひっくり返ってからでは遅い。それが、現状で力を持っている者達の考えです」
木場は何も言い返せずに押し黙ってしまった。
何かしらの考えを纏めているのか、それとも必死に飲み込んでこんで覚悟を決めようとしているのか、それは法堂には分からなかったが、木場は決して中抜けを許されない所にまで踏み込んでしまっていた事だけは理解しているようだった。
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