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悪役令嬢は聖夜に微笑む 〜銀雪の裏通り、一杯のラテが繋いだ二人の真実〜

作者: 上下サユウ

少し早めのメリークリスマス♪

 王都に雪が降り始めたのは、聖星祭を今夜に控える朝のこと。

 窓の外を眺めるエレーナ・フォン・ヴァルデンの瞳には、華やかな銀世界も冷たく、他人事のように映っていた。


「……結局、今年もこうなるのね」


 エレーナは手元にある一枚の招待状を指先でなぞった。

 王家主催の聖星祭晩餐会。この国において、一年で最も華やかで、そして最も『政治的』な夜。

 公爵令嬢であるエレーナは、幼い頃から第一王子レオナールの婚約者として育てられてきた。しかし、彼女に向けられる世間の評語は芳しくない。


 「氷の令嬢」「慈悲なき公爵家の薔薇」「レオナール殿下を束縛する悪女」。

 彼女が完璧な淑女として振る舞えば振る舞うほど、周囲は、その厳格さを『高慢』と呼び、彼女が法を重んじて意見を述べれば『苛烈』だと指弾した。


 一方で、レオナール王子の周囲には、いつしか天真爛漫な男爵令嬢が侍るようになっていた。今夜の晩餐会で、ついにレオナールがエレーナとの婚約破棄を宣言し、その娘を隣に迎えるのではないか。そんな噂が、雪のように、静かに王都を覆っていた。


「誰が、そんな公開処刑の場に出向くものですか」


 エレーナは鏡に映る自分を見た。

 燃えるような赤髪に、切れ上がった勝気な瞳。確かに善良な娘をいじめる『悪役』には、うってつけの容姿かもしれない。


「お嬢様、お召し替えの準備が整いました」


 侍女のアンナが控えめに声をかける。用意されているのは、家紋である薔薇をあしらった、血のように赤いドレス。


「アンナ、そのドレスは片付けてちょうだい」

「え……? ですが、今夜は王宮での……」

「行かないわよ、あんな息の詰まる場所。今夜の主役は私を嫌っている殿下と、あの可憐な娘でしょう? 私は引き立て役になるつもりはないわ」


 エレーナは立ち上がり、クローゼットの奥から一着のコートを取り出した。

 それは、貴族令嬢が着るような装飾が目立つ服ではなく、街娘が着る地味で、それでいて暖かい仕立てのウールコート。


「今夜は、私一人で過ごすと決めたの。誰にも邪魔されない、私だけの聖夜をね」


 ◇


 王宮の華やかな喧騒から、遠く離れた下町の外れ。 石畳に積もった雪を自らの足で踏みしめながら、エレーナは自由を噛み締めていた。

 護衛も、お目付け役の侍女もいない。

 ただの一人の女性として歩く街角は、エレーナにとって、何よりも贅沢な贈り物だった。


 街角からは焼き菓子とバターの香りが漂ってくる。

 広場では子供たちが雪玉を投げ合い、恋人たちは身を寄せ合って聖夜の奇跡を語り合っている。


(……これでいいのよ。私は、あの中で主役になりたかったわけじゃない。誰にも縛られずに、この雪の白さを綺麗だと思いたかっただけ)


 ふと、通りの隅から微かな音が聞こえてくる。

 それは古びた手回しオルゴールが奏でる、静かな賛美歌の調べだった。


 音色に誘われるように、エレーナが足を止める。

 そこは裏路地にひっそりと佇む、古びた看板の喫茶店だった。窓からは暖色のランプの光が漏れ、冷えた身体を誘うように揺れていた。

 カラン、とドアベルが鳴る。


「いらっしゃい。……おや、この雪の夜に珍しい客だ」


 カウンターの奥で、一人の男が顔を上げた。

 使い込まれたエプロンを身につけ、眼鏡の奥で鋭くも穏やかな瞳が光る。店内には客が一人もおらず、棚に置かれたオルゴールが、最期の音を響かせて止まった。


「……お邪魔だったかしら?」

「いや、歓迎するよ。聖夜に一人で店を開けている寂しい店主には、美しい客人は最高のプレゼントだ」


 店主は冗談めかして微笑み、窓際の席を指差した。

エレーナはコートを脱ぎ、言われるままに椅子に腰を下ろす。


「何をお出ししようか? 今夜の特別メニューは、焦がし糖のラテと、シナモンをたっぷり効かせた林檎のタルトだが」

「それをいただくわ。あと、少し強めの酒を……いえ、やっぱりいいわ。今夜は味をちゃんと覚えておきたいから」


 エレーナの言葉に、店主は少し意外そうに眉を上げた。


「まるで、これが最後の晩餐みたいな口ぶりだね」

「……似たようなものよ。明日になれば、もう今の私ではいられないもの」


 王子の婚約者としての地位を捨て、実家からも絶縁される覚悟はできている。


 明日には国中が、『エレーナ・フォン・ヴァルデンが聖夜の晩餐会を無断欠席した』という醜聞が広まるだろう。そうなれば、貴族としての人生は終わる。

 だが、不思議と後悔はなかった。


 提供された林檎のタルトは、驚くほど美味しかった。

 スパイスの香りがふわりと鼻を抜けて、甘酸っぱい果肉が舌の上でほどける。温かいラテを飲むと、凍えていた心が少しずつ解けていく。


「……美味しい。こんなに穏やかな気持ちで食事をしたのは何年ぶりかしら……」


 エレーナが自嘲気味に微笑んだその時、再びドアベルが鳴った。

 吹き込んできた刺すような寒気と共に、一人の男が店に入ってくる。その姿を見た瞬間、エレーナは手に持ったフォークを落としそうになった。

 深い紺色のマントを羽織り、雪を払う仕草すら絵画のように美しい青年。

 王宮の晩餐会で、誰よりも中心にいるべきはずの人物。


「レオナール様……」


 思わず漏れた名前に、この国の第一王子であり、エレーナの婚約者であるレオナールは驚いたように目を見開いた。


「エレーナ……。なぜ、君がこんなところにいるのだ?」


 二人の間に重苦しい沈黙が流れる。

 店主は面白そうに顎をさすりながら、新しいカップを取り出した。


「どうやら、今夜は『独りぼっち』の集いではなくなったらしい。……さて、王子様も焦がし糖のラテでもいかがですかな?」


 店主は当然のように、カップをレオナールの前に置いた。

 だが、返事を待たずに、エレーナが口を開く。


「殿下こそ、なぜここに? 今宵は王宮で、あの男爵令嬢と聖星祭を祝っていらっしゃるはずでは?」


 エレーナは努めて冷淡な声を出し、背筋を伸ばした。それは彼女が長年自分を守るために纏ってきた鎧だった。

 しかし、レオナールは彼女を叱責するでもなく、力なく笑い、エレーナの向かいの席に腰を下ろした。


「あの会場に私の居場所はないよ。皆が私に望むのは王子の顔をした人形であって、私自身ではない。それは、君も同じだろう?」


 レオナールの瞳には、いつも彼女に向けられていた拒絶の色はなく、ただ深い疲労と意外なほどの親愛が混じっている。


「正気ですか、殿下?」

「正気かと問われれば、今夜の私は正気ではないのだろうな」


 レオナールは自嘲気味に微笑み、店主が差し出した『焦がし糖のラテ』を手に取る。

 湯気が彼の眼鏡を曇らせる。彼はそれを外し、テーブルに置いた。露わになったその瞳は、いつも公務で見せる理知的な光を失い、一人の青年としての酷い疲れを滲ませていた。


「晩餐会はどうされたのですか? 今頃、貴方を探して王宮は大騒ぎになっているはずですよ」

「構わないさ。代役なら他にいくらでもいる。父上も、重臣たちも、私という人格を求めているわけではないからな。ただ、玉座に座るための『装置』が、そこにいればいいだけだ」


 レオナールは熱いラテを一口飲み、ふう、と静かに息を吐いた。


「君も同じだろう? ヴァルデン公爵家の誇り、完璧なる次期王妃としての仮面。君が今夜、その煤けた色のコートを選んでここへ来た理由が、私には痛いほど分かる」


 エレーナは言葉を失った。

 自分を嫌い、あの『無邪気で優しい』男爵令嬢に心を移したのだと思っていた男が、今、自分と同じ孤独を口にしている。


「私は殿下にとって、疎ましい存在だと思っておりました。私の厳格さが貴方の自由を奪っているのだと」

「確かに、君の正論に息が詰まることもあった。だがそれは、君が誰よりも真剣にこの国の未来と、私との約束を背負おうとしていたからだと、今なら分かる」


 レオナールは窓の外に降り積もる雪を見つめた。


「あの男爵令嬢……リリアン嬢は、私に『公務を忘れて笑ってください』と言った。それは甘い誘惑だったよ。だが、彼女と笑っている間、私は自分が空になっていくのを感じた。責任も、苦悩も、見ないふりをし、ただ『殿下は素敵です』と褒めるだけの言葉に、なんの意味があるというのか」


 店主が手持ち無沙汰を装い、古びたハンドルを回して、再びオルゴールの静かな旋律が流れる。

 沈黙が二人の間に落ちた。だがそれは、これまでの社交界での刺々しい沈黙とは違う。


 エレーナは林檎のタルトを少しだけ切り分け、レオナールの前に差し出す。


「……毒など入っていませんわ」

「分かっているさ。君が私に毒を盛るなら、もっと洗練された方法を選ぶだろう?」


 レオナールは小さく笑い、フォークを取った。

 一口食べた瞬間、彼の目が見開かれる。


「……驚いたな。これほど旨いものは王宮の厨房でも食べたことがない」

「ええ、私も一口食べて驚きました。……私たちが食べてきたのは『豪華な料理』であって、きっと『温かな食事』ではなかったのですね」


 エレーナは幼い頃の記憶を辿っていた。

 公爵令嬢として、一分の隙も許されぬ教育を受けてきた日々。父からは「王家を支える盾となれ」と言われ、母からは「情を捨てて法を説け」と教えられた。


 彼女が『悪役』のような冷徹さを身につけたのは、そうしなければ自分を保てなかったからだ。

 柔らかい心を持っていては、苛烈な貴族社会という荒波を渡っていけない――そう信じていた。


「エレーナ、君は今夜の晩餐会で、私が婚約破棄を言い出すとでも思ってたの?」

「……世間では、そう噂されておりましたわ。殿下も、私のような可愛げのない女より、彼女のような花を好まれるのだと」


 レオナールはフォークを置き、まっすぐにエレーナの瞳を見つめた。


「私は君を探しに来たわけではない。ただ、逃げ出した先が偶然ここだっただけだ。……だが確信した。私が守りたいのは甘い夢を見せてくれる少女ではない。共に泥をかぶり、共に雪の中を歩いてくれる……君だ」


 その言葉は、エレーナの胸の奥に焦がし糖のようなほろ苦い甘さをもたらした。


「今さらそんなこと……。明日には、私たちは逃亡者として糾弾されるのですよ?」

「ああ、公爵令嬢と第一王子が、聖夜に下町の喫茶店で同じ卓を囲んでいたとなれば、前代未聞のスキャンダルだな。……だが、それも悪くない」


 レオナールは、テーブル越しにエレーナの手に触れた。

 その手は熱く、かすかに震えている。


「一度すべてを壊してしまえば、私たちは自分たちの足で歩き出せる。エレーナ、君がもし完璧な令嬢という役を降りるのなら……私は、君の隣にいる一人の男として、もう一度君に選ばれたい」


 店内に落ちた熱を、店主は見て見ぬふりができなかったのだろう。

 カウンターの奥から、わざとらしく足音を立てて近づいてくる。


「お熱いことで」


 店主が呆れたように言いながら、二人のカップに温かいラテを注いだ。


「さて、お二人さん。夜はまだ長いですが、いつまでもこちらに居座られますと、私の『静かな一人飲み』の予定が台無しでしてね。お腹が満ちましたら、外の空気でも吸ってきてはいかがです? 下町の聖夜は、王宮よりもずっと自由で活気に満ちておりますよ」


 レオナールとエレーナは顔を見合わせ、同時に小さく吹き出した。

 王族と公爵令嬢。そんな肩書きを脱ぎ捨てて笑い合うのは、出会ってから十数年の中で、これが初めてのことだった。


 エレーナは立ち上がり、地味なウールのコートを羽織った。

 レオナールもまた、フードを深く被る。


「行きましょうか、レオナール様。あの吹雪のような冷たい王宮ではなく、本物の雪に包まれた街へ」

「ああ、君が行く場所なら、どこへでも」


 店を出ると、雪はさらに降り注いでいた。

 だが、エレーナの心は先ほどまでの寒さを微塵も感じていなかった。

 隣を歩くレオナールが、自然に彼女の手を握る。

 その手の温かさが、エレーナにとって、何よりのクリスマスプレゼントだった。


 ◇


 王都の広場では大きなモミの木の下で、平民たちが手を取り合って踊っている。

 そこには、家柄も、義務も、悪評も、何一つ関係のない世界があった。


「エレーナ、あそこで売っている焼き栗を食べたことはあるか?」

「いいえ……ですが、殿下と一緒に食べれば、きっとあのタルトより美味しい気がしますわ」


 明日、陽が昇れば、二人は厳しい現実に直面するだろう。

 糾弾、廃嫡、あるいは追放。

 だが、エレーナは確信していた。この聖夜に手に入れた『自由』と『真実』がある限り、どんな未来も、悲劇ではないということを。


 ◇

 

 聖星祭の翌朝。

 王都は昨日までの静寂が嘘のような喧騒に包まれていた。

 『第一王子レオナールと公爵令嬢エレーナが、晩餐会を無断欠席し、夜の街を歩いていた』


 その報せは、瞬く間に社交界を駆け巡った。

 エレーナが公爵邸に戻ると、そこには凍りついたような怒りを纏った父、ヴァルデン公爵が待ち構えていた。


「エレーナ、釈明を聞こう! お前がどれほど我が家の泥を塗ったか、理解しているのか!」


 父の怒声が広間に響く。これまでのエレーナなら、ただ深く頭を下げ、その叱責に耐えていただろう。しかし、今朝の彼女は違った。


「泥を塗ったのではありませんわ、お父様。私は、ヴァルデン家の人間として、そしてレオナール殿下の婚約者として『真実』を選び取ったのです」

「何だと……?」

「形ばかりの晩餐会で操り人形のように微笑むことが、私の義務でしたか? いいえ、私の義務はこの国を導く殿下の隣で、彼が道を見失わぬように支えること。昨夜、私はその役割をようやく果たしたのです」


 エレーナの瞳には一切の迷いがない。その凛とした姿に、公爵は一瞬言葉を失う。

 そこへ王宮からの使者が駆け込んできた。

 国王からの急の呼び出し。

 それは、レオナールとエレーナ。そして、あの男爵令嬢リリアンを交えた、最後の大広間での対決を意味していた。


 ◇


 王宮の大広間には、重臣たちと、事の顛末を見届けようとする貴族たちが詰めかけていた。

 玉座の横には不安げにレオナールの袖を掴もうとする、リリアン。そして中央には誇り高く立つレオナールの姿があった。

 国王が重々しく口を開く。


「レオナール、そしてエレーナ。昨夜の不始末をどう説明する。レオナール、お前はエレーナとの婚約を解消し、このリリアン嬢を望むのではないのか?」


 周囲が固唾を飲んで見守る中、リリアンが涙を浮かべて声を上げる。


「レオナール様! 私は、貴方があのような冷酷なエレーナ様に縛られるのを見ていられなかったのです! エレーナ様は貴方を監視し、責め立てるばかり。私なら、貴方を自由にしてあげられます!」

「リリアン様、貴方の仰る『自由』とは、王子の義務を放り出し、甘い言葉で現実から目を背けさせることですか?」

「な、何を……」

「殿下が背負っているのは、この国の数百万人の民の生活です。それを『忘れて笑ってください』などと言うのは、慈愛ではなく、ただの無責任。殿下が必要としているのは、共に重荷を背負う覚悟のある伴侶であって、重荷を隠して見えなくする目隠しではありません」


 エレーナは一歩、リリアンの前へ踏み出した。


「それに、私は殿下を監視していたのではありません。彼が王太子の孤独に潰されぬように、隣で厳しくあろうとしただけです。……その手法が拙く、彼を追い詰めてしまったことは、私の未熟さゆえ。ですが、貴方に殿下の隣に立つ資格があるとは到底思えません。貴方は殿下を愛しているのではなく、殿下が持つ『輝き』を享受したいだけなのでしょう?」


 リリアンは顔を真っ青にして絶句した。

 エレーナの言葉は、ただの嫉妬ではなく、この国の統治者としての覚悟に根ざした正論だったからだ。


 レオナールがゆっくりと前に出る。

 彼は国王を見上げ、そしてエレーナの手を取った。


「父上、私はかつて、エレーナの正論が嫌いでした。彼女の瞳に映る自分が、未熟で逃げ腰に見えたからです。ですが、昨夜二人で街を歩き、彼女の真の優しさに触れて気付きました。私を王として完成させようとしていたのは、甘い夢を見せるリリアン嬢ではなく、私と共に泥を被る覚悟を持った、エレーナだったのだと」


 レオナールは公衆の面前で、エレーナの手の甲に深く口づけをした。


「私はエレーナ・フォン・ヴァルデンとの婚約を継続します。いえ、改めて、私から彼女に乞いたい。……エレーナ、どうか私の隣でこれからも私を叱咤し、支えてくれないか。君のいない玉座など、私には冷たい石の塊にすぎない」


 広間が静まり返る。

 リリアンは崩れ落ち、国王は長く深い溜息をついた後、わずかに口角を上げた。


「……ふん、情けない息子だ。婚約者にそこまで言わせて、ようやく目が覚めたか」


 国王は立ち上がり、宣言する。


「聖星祭の不始末は両名の謹慎をもって免じる。だが、それは『新しい治世』の準備期間だ。エレーナ・フォン・ヴァルデン。その厳格さ、今後は王妃として存分に振るうが良い」


 ◇


 そして一年後、王都は再び雪に包まれていた。

 だが、昨年の冷たさはもうどこにもない。

 エレーナは王太子妃としての公務を終え、王宮のテラスにいた。

 彼女の横には、以前よりもずっと精悍な顔立ちになったレオナールがいる。


「エレーナ、また、あの店に行かないか?」


 レオナールが悪戯っぽく微笑んで差し出したのは、あの日と同じ、地味なウールコートだった。


「ふふ、殿下も、あの味を忘れられませんのね」

「ああ、だが、今夜は一人ではない。……そして、もう逃げる必要もないからな」


 二人はお忍びで、再びあの裏路地の喫茶店を訪れた。

 カラン、というドアベルの音と共に、暖かなランプの光が二人を迎える。


「いらっしゃい。……おや、また賑やかな客だ」


 店主は変わらぬ様子で、棚にある手回しオルゴールを流した。

 昨年よりもずっと穏やかで、幸福に満ちた賛美歌の調べ。

 二人は肩を並べ、焦がし糖のラテを啜る。


 「悪役」と呼ばれた日々も、孤独に震えた夜も、すべてはこの一杯の温かさに辿り着くための道程だったのだと、今は思える。


「レオナール様、メリークリスマス」

「メリークリスマス、私の気高き王妃」


 窓の外では、雪が街を白く染め上げている。

 だか、二人の心には、決して消えることのない聖夜の灯火が、いつまでも温かく灯り続けていた。

お読みいただきありがとうございます。

私からの少しばかりの贈り物でしたm(__)m

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