6 勇者の証
「着いたけども……まあ、そりゃバリケード作ってるわよね〜」
「ばりけーど?」
「アサガネ様ー?せっかく鎖国を解かれたのですから、せめて海外の言葉勉強してくださいよ〜。いちいち説明するのめんどくさいんですからね〜」
「す、すまない。……その、ばりけーどとは?」
「障 害 物 デ⭐︎ス」
傾奇者は手をかざすと、即座に障害物である机や椅子などを破壊した。
基本的に魔術というものは詠唱を唱えることで理を整え、行使ができる。
「(……無詠唱、詠唱なしで魔術を操るなど、一握りの者しか出来ぬ芸当だ――――)」
無詠唱の魔術は初めから理が整えられている人間だけが詠唱を唱えずに行使することが可能である。
アサガネは魔術というものはよく知らない。が、無詠唱がどれほどの凄さかはアサガネにも理解ができた。
「うわっ、殺気凄まじすぎ!
アサガネ様ー?どうしますー?」
傾奇者は笑いながら体育館の中を指差す。
アサガネにも体育館の中から強烈な殺意と恐怖、混乱を感じ取ることができた。
「行くぞ、傾奇者。」
「はいはーい、お供しますよー。」
アサガネと傾奇者はゆっくりと体育館の方へ歩みを進める。
「ああああああああああああ!!!」
「!」
体育館へ踏み込んだ瞬間に一斉に奇妙な武器を持った年端もいかない少年達がアサガネと傾奇者に向かって襲い掛かる。
「(木刀にしては、妙に均一だな。……なるほど、彼らの世界の職人は木すら統一できるのか。だが、間合いが甘い。
――焦って踏み込みすぎている。……まだ若いからか。)」
アサガネは容易く避け、傾奇者は無詠唱で防衛魔術を張りながら「うわっ、懐かしいなあ」と楽しそうに呟くと、傾奇者の瞳がわずかに光を帯び、データを走査するように周囲を見渡す。
「えーっと、剣道、弓道、野球、柔道、サッカー、バレーボール、フェンシング、ボクシングに……テニスか。――ありゃ、ハンドボールはないのか……まあ、いいや。いや〜、この学校の部活がよりどりみどりだね〜!」
「!?」
「なん、で知って……!」
少年少女達の顔は驚愕に包まれていた。が、アサガネは意味がわからないと言った顔をしていた。
「待て傾奇者。色々と意味わからないのだが……ぶかつとは何なんだ?」
「また質問ー?異世界の学校には部活っていう…………なんだっけな、学校教育の一環として、運動、文化、学問などに興味を持つ生徒が、教職員の指導の下で放課後などに自発的に行う活動……みたいなのがあるの!」
「長いわ、短くしろ。」
「だー!!異世界の学校では放課後に運動や文化の活動をするんだよー!」
「最初からそう言え」
アサガネはそんな傾奇者の様子にため息をつく。
そして、少年少女達の方へと顔を向く。
「(……恐怖が入り混じった顔だな。)」
神を殺し世界を救うはずの自分が、罪なき者を恐怖に陥れてしまった――アサガネの胸が締め付けられる。
「……傾奇者よ。彼らを決して殺すな。良いな?」
「えー?それボクに言うのかい?ま、別にいいけど。」
次の瞬間、傾奇者は眠りの魔術を発動させる。少年少女たちは次々と倒れ、静寂が訪れる。
ただ一人、眠りの魔術を逃れた少女がいた。
「んー? あれー?なんで君眠らないのー?」
「い、一体、何を……!?」
「えー?ただ、眠らせただけだよ。」
「……その言葉を信じろと言うの?」
「別に信じなくてもいいよ。キミ、真面目だね〜」
少女は竹刀を振り上げる。アサガネはその腕を掴み、首元に触れる――淡い紋のような凹み。光る輪郭。
「待て、小娘よ……その首の……」
「な、何……?」
――――それは、勇者の証だった。
アサガネの顔が凍る。
すると、倒れていた二人がゆっくりと起き上がり、立ち上がる。
「っ、駄目だ、香織……!何されるか分からないぞ!!」
「そうですよ、雪代先輩……!」
二人は彼女を必死で引き止める。
「え、うそだー!これ、ゾウさん相手で一晩ぐっすり眠っちゃう魔術なのにー!」と、傾奇者が慌てた様子だったが、アサガネの目には少女しか写っていなかった。
「ゆうしゃ……?」
香織の声は、震えた。
「お前が協力してくれるなら、ここにいる者全ての安全は我が名の下に保障しよう」
香織の中には恐怖と怒りと、仲間を救いたい気持ちが交錯する。
やがて香織は小さく、はっきりと頷いた。
「分かった。でも、ここにいる皆の安全と攫われた生徒と先生を助けることを約束して。……それを約束してくれたら、あたしは貴方たちに従う。」
アサガネはゆっくりと、己の名を胸に掲げた。
「我、アサガネが約束しよう。」




