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2 折れた剣士の瞳

「やはり、ね。」


建物一帯を崖から見下ろした私はため息をつく。

 

勇者召喚は、成功――してしまった。けれど、完全ではなかったらしい。


「(多分、召喚される場所は不規則なのね。)」


この辺り一帯はアサガネ将軍に惨敗した落武者たちの巣窟。

召喚が不規則でなければ、あの建物の人間たちは落武者の襲撃など受けずに済んだはずだ。

 

「……勇者だけを呼ぶなんて、今の技術では無理だった。」


そして、確信した。

儀式の不完全さゆえに、異世界から無関係の人々を巻き込んだ――それは、アサガネ自身の過失だったのだと。


「(あの様子じゃ、真の勇者は既に殺されているんじゃない?

……そうすればアサガネの苦労は水の泡、いや、血の海に消えるのか。)」


アサガネ将軍――東の地方を支配する男にして、この国を実質支配している王。

そんな彼は、紅蓮山一帯にいる"山神"を殺そうとしている。

 

「……噂通りだったということね。」

 

私が住む西の地方にも彼の目論見は噂として流れていた。が、噂は噂だ。

直接確かめる必要があったからこそ、私はこの東の地方まで来たのだ。


このまま召喚された勇者が死んでいれば、彼の目論見は、"神殺し"は失敗に終わる。


「逃すんじゃねぇぞ……!!」

「あったりまえだろ!あのクソガキ……!!」


聞こえてきた声に、私は息を潜める。

落武者たちが、誰かを追っている。血の匂いが、風に混じっていた。

静かに足音ひとつ立てずに落武者たちを追う。

落武者たちの間を縫うように、奇妙な服を着た男が逃げていた。

 

男は全力で駆けていたが――その先は、断崖(だんがい)だった。


「っ、」

「ようやく追い詰めたぞ……さあ、死に晒せ!!」


男の瞳を、私は捉えた。


捉えて、しまった。

一人の、心が打ち砕かれた剣士の瞳を。

そして、この目で捉えてしまった。


 

「俺は、生きる……!!」


 

一人の人間が、立ちあがろうとする姿を。


「(…………目が、離せない。)」


目が離せなかった、何故かはわからない。


刀が抜かれる音が風を裂いた瞬間、私は無意識に動いていた。刃と刃がぶつかり、火花が散る。


「(間に、入ってしまったな……)」


何故この男を助けようとするのか、自分でもよく分からなかった。だが、身体が勝手に動いてしまったのだ。


 

「……この男の命、私が貰い受ける。

 ――――邪魔立てするなら容赦は、しない。」


火花が散る中、私の声は辺りに冷たく響いた気がした。言い放つと同時に、私は閃光のように振り抜いて落武者の間合いに入り、刃を振り下ろした







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