4 シロという少女
女子供を攫って売り飛ばす――その言葉を聞いて、俺は背筋が凍った。
「(こんな、こんな近くで……人が人を売るなんて、)」
何度か見た海外のニュースが頭をよぎる。人身売買の映像に対して「酷い」と他人事のように思っていた俺がいる。――違う世界の話で済ませてきたんだ、という自己嫌悪も一瞬胸を刺した。
「ここだけの話だ。今日の朝、そいつらが大量の女子供を連れて西の山の洞窟へ向かったって聞いたんだ」
「そう、ありがとう。はい、お金」
「!いいのかい?」
「そのために話したんでしょう。」
「あちゃー、バレてたか……毎度!」
瑠璃は商人に小銭を渡すと、俺の耳元に身を寄せて囁いた。
「朔夜、西にある洞窟に向かいましょう。そこに貴方が知っている人が攫われているかもしれない。」
「!」
「……行く?」
「あ、嗚呼」
ずっと黙っていた、白髪で赤い瞳の少女が、急に決意を固めたように口を開く。
「あ!あの!私も連れて行ってください!」
「は、」
最初、何を言っているのか分からず、困惑してしまう。瑠璃が鋭い目つきで少女を静止する。
「駄目よ。危険すぎる。」
「お願いします!邪魔はしません!」
「あのねえ……」
瑠璃は困り果てた様子だった。
「父の形見なんです!懐中時計は!」
――その一言に、瑠璃は少しだけ目を見開き、「形見には、弱いんだけど。」と、ため息をついた。
「怪我しても、死んでも自己責任だから。着いて来たければ着いて来なさい。」
「!ありがとうございます!」
少女は飛び上がるほどに喜んだ。俺はその様子を見て、これから戦いに巻き込まれていくことに胸の奥が少しだけ重くなるのを感じた。
「そういえば、君の名前は?」
気持ちを振り切るように、少女の名を尋ねた。
白髪に赤い瞳の少女をよく見ると、淡麗な容姿に上品な着物を着ているが、右手には皮で作られたであろう鞄が握られている。
すると、少女はくすりと笑う。
「名を尋ねる前に、そちらが先に名を名乗るのが礼儀ではなくて?」
「あ、」
名乗るのをすっかり忘れてしまっていた。
「私は瑠璃、旅人よ。こっちは――」
「俺は奥田朔夜……一応、旅人。」
「なるほど、お二方は旅人なのですね。あたしはシロって言います。」
「シロ……そのままね。」
「あー、よく言われます。」
少女は苦笑しつつも、「この名前気に入っているんです!」と答えた。
―――――
俺たちはその後、西の山へ向かった。崖の上から見下ろすと、アジトらしき洞窟を見つけた。
「意外と……大きい」
シロがそう呟くのも無理はなかった。
岩肌に埋め込まれるようにして造られたその拠点は、まるで要塞のようだ。
「行きましょう」
「っ……」
どくっ、どくっ。心臓の音がうるさいほど響く。
刀を振れるのか――そう思った瞬間、俺はようやく致命的なことに気づいた。
「待ってくれ! 俺、武器ない!?」
なぜ今まで忘れていたんだ、俺は。瑠璃も「あっ」と声を上げる。
「待ってて。あそこから武器、持ってくるから!」
「ちょ、待っ――!」
言うが早いか、瑠璃は敵のアジトへと突っ込んでいった。
「瑠璃! 待てって!」
叫んでも無駄だった。洞窟の中に彼女の気配が吸い込まれていく。
なんなんだ、まるで猪じゃないか……!
「っ、シロさん! ここで待っててくれ! 瑠璃を連れてくる!」
「は、はい!」
俺は息を潜め、敵に見つからぬようアジトの影へと駆け出した。




