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3 城下町にいた少女

「……これから、どうすればいい?」


朔夜の目は疲れ切っていた。


「……元の世界に戻れるという確証は、ない。

だが、アサガネがその元の世界に戻れる方法を知っている可能性はある。」


私が考えたのは、この勇者召喚が一方通行であるということだ。

そもそも、建物ごと召喚されたのは儀式が不安定だ。だからこそ、この世界に来られても、出る術がないのではないか――片道切符なのではないかと思ったが、アサガネが方法を知っている可能性を捨てきれない。


「……それに、校舎内にまだ生き残りがいるかもしれない。……あの落武者たちは女たちを攫っていたはずだ。」

「!」

「貴方は彼女達を助けたいか?」

「ああ、助けたい……だけど、」

「勿論、私も戦わせてもらう。」


落武者たちは斬りがいはないだろうが、私自身、まだ戦い足りないのもある。それでいいだろうと考えていた。


「………待ってくれ、」

「?どうした。」


朔夜の顔が、急に真っ青になった。


「“も”って、何なんだ? 私“も”って……」

「? 貴方も戦うからよ」

「は?」

「だから、貴方“も”戦うの。何言ってるの?」

「いや、君のほうこそ何言ってるんだ……!?」


この男、さっきから顔を赤くしたり青くしたり忙しい。

……これが“情緒不安定”というやつか。


「戦えるわけないだろ!? 俺は剣道部だけど、弱いし、真剣なんて持ったことないし――」

「弱いはずがないでしょう。貴方が」

「え?」


弱い? この男が?

何を言っているかさっぱりわからない。


この目を見てみなさい。

折れてもなお剣士であろうとする、まっすぐな瞳を。


「貴方がどうして心が折れたかなんて知ったことじゃない。

ただ、貴方は弱くなんてない。ただの――泣き虫よ」

「なっ……!」


何をそんなに目を見開いているのだろうか。

全部、事実だと思うのだけど。


「真剣だって私が稽古をつけば持てるようにも、戦えるようになる。

――ほら、さっそく今日は城下町へ情報収集と稽古をするよ。」

「いや、まってくれ……俺は弱いし、」

「だから弱くないって言ってる。行くよ。」



朔夜はまだ何か言いたげな顔をしていた。

だが私には、もう立ち止まる理由がなかった。



―――――



「……ここが、城下町。」

「凄いな、たくさんの人が……」

 

教えてもらった通りに道を進むと、やがて人で賑わう通りにたどり着いた。

行き交う声、香ばしい屋台の匂い、鍛冶屋の金槌の音。

すべてが活気に満ちていて、まるで別世界のようだった。


皆、生き生きとしている。

それが、私にはなぜかとても新鮮に見えた。


――このところ、私がいた西の地方は戦乱続きだった。

これほど豊かな場所を見るのは、久々だ。


「(……アサガネの政治の手腕が見て取れた。彼は優秀だな。民のために尽力していることが一目で伝わった。)」


朔夜はこの城下町の様子に複雑そうな顔をしている。

私は早速情報収集のために聞き込みを行おうとした、その時だった。


「ない、ない……!」


声がした方を見ると、一人の白髪赤目の少女が困った様子で何かを探していた。

放っておこうとしたが、少女は私と朔夜を見るや否やこちらに向かってきた。


「あ、あの、すみません!この辺りできらきらと光るもの見ませんでしたか?」

「は?」


光るもの?

なんだそれは。そんなものいくらでもある……謎解きか何か?


「それだけで分かるわけないでしょ。」

「いや、だって……この国の人に分かるものじゃないし……」

「言ってみないとわからないと思うけど。」


少女は「うーん」と悩みながらも、再び口を開き、ある単語を口にした。


「時計……って知ってます?」

「とけい?」


さっぱりわからない。

先ほどの「この国の人に分かるものじゃない」と彼女は言っていた。もしや、異国の旅人……なのだろうか?


「とけいって……時間をはかる"あの時計"のことですか?」

「……!そう!」


朔夜は知っていたのか。近未来の異世界から来た人間だからか。


「懐中時計って言ってね!なくなってて……」

「朔夜、貴方……かいちゅうどけいってやつ知ってるの?」

「見たことあるけど……この道中では見てないかな。」

「そんな……」


しょぼんとする少女に、申し訳ない顔をする朔夜。

こっちが悪いことをしたみたいになってない?

 

まあ、物をなくすのには2つの場合がある。一つは普通に落としたか、――もう一つは誰かに盗まれたか。


「貴方、私達と会う前に誰かとぶつかった?」

「……あ」

「心当たりがあるみたいね。」


少女の赤い瞳が揺れた。その瞬間、城下町の喧騒が、ふっと遠のいた気がする。


「さっき、派手な服っガラの悪い人が急にぶつかってきて……その時に盗られたかも……」

「……ガラの悪い人ね。」

「あちゃー、それはやられたねえ」

 

突然、脇の露店から商人が口を挟んできた。


「白いお嬢ちゃんの言う派手なガラの悪いそいつらはスリ常習犯の奴らさ。最近この城下町で有名なんだよ。」

「……有名、なの?」

「多分、あんたが裕福そうで抵抗しなさそうだから狙われたんだろう。運が悪かったな――いや、運が良かったとも言える。奴らはな、女子供を攫っては闇に売り飛ばすんだ。

……落武者どもの成れの果てさ。攫われなくてよかったな。」

 


確かに白髪に赤い瞳の彼女をよく見ると、淡麗な容姿に上品な着物……奴らからしてみれば絶好の餌。

そして、女子供を攫って売り飛ばす、その言葉を聞いた朔夜は青ざめた顔をしていた。彼はお花畑のような世界にいた存在だ。

彼は、悲惨な現実を知らずに育ってきたのだから。



 


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