第一章 「涙を乗り越えて」
―――――瑠璃、瑠璃よ。
お前の心には、剣鬼を宿している。
それも、タチの悪い悪鬼がな。
かつての師が、自分に向かって放った言葉だった。
否定はしない。
私にとって、戦うことこそが全てだったから。
――――君みたいな野蛮なヤツは嫌いだ。失せな。
山神の眷属、狐の男が扇をひと振りした瞬間、
爛々たる炎が辺り一面を焼き尽くした。
その強さに、私は惹かれてしまったのだ。
彼らのような強者が、アサガネという男に消されるなど――
あってはならない。
あっては、ならない。
――瑠璃ちゃんか。いい名前だね。
僕、君みたいな可愛い子は好きだよ〜。
――――瑠璃、君は何の為に剣を取る?
山神の眷属たる彼に、私は――――――――。
「…………朝か。」
夢の残滓が胸に刺さったまま、私は身を起こす。
おそらく今は六時か七時頃だろう。
昨日は地べたに落ち葉を敷いて眠った。
横を見ると、朔夜という男がまだ寝息を立てていた。
本当なら毛皮の敷物もあったが、彼に譲った。さくやは勇者召喚に巻き込まれた人間の一人で、どうにも泣き虫な男だ。
「……取り敢えず、朝飯でも作るか。」
米はとても貴重なもの。
私は農民であるからか、その重要性をよく理解している。
荷物の中から小型鍋とそれを支える柱を取り出すと組み立て、薪と乾いた落ち葉を混ぜ、火をつける。ぱち、ぱち、と音を立てて炎が育っていく。
その橙の明かりが、さくやの頬をかすかに照らした。
その鍋に一昨日、市場で買った米と川から汲み上げた新鮮な水を中に入れていく。
「えーと、塩塩……」
この朔夜という男はかなり精神的にも肉体的にも衰弱していると、温かいものでも食べさせてやろうと思い、米を柔らかく煮ることにした。
けれど、味がなければ余計に心が沈むだろうと、塩を一つまみ落とし、しばらく煮込む。
「お、良いな。」
味見をすると、物足りなさはある。が、中々良い出来だと感じた。
「ん……」
ちょうど、朔夜が目覚めたようだった。
「おい、朔夜。……出来たぞ。」
そう言って、おかゆが入った碗を朔夜に差し出した。
火の揺らめきが、夜明けの光と混じり合う。
今日もまた、戦うための一日が始まる。




