深澄━キミに伝える為に…━
☆100話目を目前にして、素敵なファンアートを頂いちゃいました><☆
なろう、みてみんで仲良くして頂いているハチさんこと、藤藤キハチ様からです^^
このイラストを貰って、胸がキュンキュンしました(笑)
本編でもこうなる日が早く来るといいな…☆
100話目upまで待てなかったので、フライングで載せちゃいます!
ハチさん、ありがとうございました~><
ずっと分かっていた。
孤独を望む自分と、それでも孤独になりたくない自分が居ること。“子供”でいた時間が極端に短いから――早くに“大人”になる事を求められたあの瞬間から――寂しいなんて言葉にした事もなくて、孤独を寂しいと感じることにも罪悪感があって、いつも満たされない心を誤魔化してきた。
――本当は聞きたくなかった。
あの日、初老の男の人に言われた言葉。
その言葉の意味に気が付いていない訳じゃない。ただ、誰かに言われることを恐れていた。認めたくなかった。
――寂しいと言ったら、キミは信じてくれる?
不意に自分よりも少し低い彼女の頭を窺い見て、自嘲気味な笑みを頬杖をついていた手で覆い隠す。今更だとか――そんなのは言い訳にしかならないのかも知れない。だって。
――キミに返すコタエを、今もまだ言えずにいる。
キミからの言葉を受け取ったのに、それに答える事も出来ずに勝手に連れだした。キミの気持ちを考えもせずに、繋いだ手を離す事も出来ずに――我ながら身勝手だと思う。
電車の窓の外は次第に緑を多く映し出し景色を碧く染めて行く。目的の場所なんてない。ただ考える時間が欲しかった。キミに伝える為の言葉を考えるふりがしたかった。
最初からコタエなんて決まっているのに…。
「良佳」
「…」
「次で降りよう」
「……うん」
深澄の言葉を待っていたように、彼女が何も聞き返さずに頷く。本当なら聞きたいことなど山ほどあるだろうに、それでも深澄からの言葉を待ってくれる良佳に心の底から“ありがとう”と言いたかった。お互いに違う場所を向いたままの会話なのに、心は確かに通じ合えていた。
ほどなくして電車が駅のホームへと滑り込む。
人もまばらな車内なら降りる人など片手で足りるほど。降りたホームに人の動きはほとんど見られず、二人は手を繋いだまま――振り向く事もせずに――遠くなる電車の音を聞いていた。
辿りついた先は無人の小さな駅。二人は超過分の料金を精算すると無言のまま改札を通る。お互いに知らない場所。初めて降りた駅に生まれた感情は“戸惑い”でも“不安”でもなく、誰も自分たちのことを知らないという“安心感”だった。
静かな雰囲気に吹く風が心地よい。火照っていた頬に、繋いでいた手にさらさらと流れてはその熱を静かに奪っていく。ここでなら素直になれる気がした。
「不思議だね」
吐息のように微かに漏れた彼女の呟きに不意に隣を見る。まっすぐに良佳の瞳とぶつかり、そうして彼女は少し微笑んで見せる。今にも壊れそうな儚い笑顔なのに、それでも綺麗だと思った。だから、思わず言葉が口を出る。
「ごめん」
「…うん」
「勝手だね…俺」
「……うん」
困ったように眉を八の字に寄せて、文句の一つも言わずに視線を落とす。決して栄えてるとは言えない駅前の商店街は、もう店をたたんだのであろう寂びれたシャッターに覆われている軒先が目立ち、静かな町の景色の中に不釣り合いな若い男女が手を繋ぎ歩いている。声をかけてくる者などいない。
時刻はいつのまにか午前九時をまわり、授業もとうに始まっているだろう…。
補導されないかと暫く辺りを観察してみたが、それらしい人の姿もない。知らない街の中を歩き、二人は垣根に隠れた児童公園に足を踏み入れる。こじんまりとした居心地の良い“秘密基地”のような場所だった――。
「良佳」
「…」
木陰の下、所々ペンキの剥げた木のベンチに並んで腰掛けて彼女の名を呼ぶ。その声に応える者はいない。でも、彼女が“コタエ”を待ってくれている事だけは分かった。だから。
――俺は、キミを愛してもいい?
まだ心の奥底で燻る“崎本 深澄”が、言い訳を探そうとする。往生際悪く迷うふりをして、躊躇うふりをして、またキミを“不安”にさせる。怖いのは他人を愛する自信がない自分自身。
――キミを傷つけるだけかも知れないのに…。
それでも、キミに――。
「ごめん。でも…キミが好きだ」
「えっ――」
「……良佳……キミを想ってもいい?」
何処かで何かが崩れ落ちる音がする。
ソレが作り上げた“崎本 深澄”なのか、それとも閉じ込めてきた“寂しさ”が解放される音なのか。今の深澄には気づく余裕もなかった――。