良佳━色づき始めた世界…━
長らくお待たせしました。
ようやく試験も終わり、久しぶりの更新です。
また、宜しくお願いします。
想いが叶うことはないと思っていた。
いつだって願いは届かなくて、叶わなくて、そうして全てを“無駄”だと決めつけて、いつの間にか“望む”ことすらも諦めてしまった。
口にしても叶わないモノなんて、無意味だと思えたから――。
――想いを通じ合える誰かが居てくれることが、こんなに幸せなことなんて知らなかった。
全てに優しくしたくなるような朝。
心に残る傷は消えないけれど、昨日の痛みも消せないけれど、それでも世界が違う色に染まるのを感じる。心に灯りが点っていく。
いつもより少し早く目覚めて静けさの残る階下に降りれば、そこに両親の姿はない。
安堵と共に芽生える僅かな“淋しさ”は自分の感情を誤魔化すように吐いた小さな溜息。その溜息を打ち消すように良佳は大袈裟に足音を立てて洗面所に向かった。
鏡には自分の顔が映る。いつだって泣きそうで、いつだって不幸に酔った顔をした自分。でも…。
嫌いな筈の自分の顔も今日だけは苦い笑いで見つめる。
曖昧に微笑んで見せれば、美人でも可愛くもない仏頂面も少しはマシに見えるだろうか。
そんなバカみたいなことを考える自分に嫌気がさしていたのに、今日はどこかそんな苛立ちも起きなかった。
いつか、こんな自分も許せるようになるのだろうか…。
――キミと約束した。
自分を許すって…。
もう、自分を卑下したりしない。否定も、傷つける事も…。
その代わり、もしも自分の事が嫌になってどうしようもなくなった時にはキミを思い出す。そうすることできっと、自分を振り返ってあげられるから…。
――キミが“好き”だと教えてくれたから…。
冷たい水で顔を洗って、背筋をしゃんと伸ばす。
キミからの“答え合わせ”はまだ届いていない。それでも――。
きっと“心”は、“想い”は同じなのだと深澄を信じる事が出来た。
「今日は暖かいな…」
玄関の扉を開けて差し込む光の眩さに眼を細める。掌で影を作り見上げた空はどこまでもただ青くて、こんな風にその青さを“綺麗”だと思える自分が居る。そのことがただ嬉しい。
「…行ってきます」
呟いた声に応える人はいないけれど、きっとこの声はキミには届かないけれど…。
キミのことを思うよ。キミのことを考える。いつだってキミと向き合える自分になれるように――。
キミのことを“好き”になれた自分を、もっと愛してあげられるように。
静かに微笑んで歩きだす。
その表情は今までで一番、穏やかで優しいものだった――。