深澄━ただ…笑って欲しかった━
振り返る事も出来ずに彼女と別れた後、暫く海岸沿いを一人歩いていた。
ぼんやりと波間に映る灯りを見れば、星一つ見えなかった空にも厚い雲の間から三日月が顔を出す。冷たくなった夜風が頬を叩いて、頭がスッと冷めて行くのを感じる。違うんだ。本当はあんな顔をさせたかったんじゃない。言葉を詰まらせ眼を瞠った少女の顔が今も頭から離れない。
――くそっ。
自分に一つ舌打ちをする。
どうして彼女のことになるとこうも上手く振る舞えないのだろうか。もっと慎重に、もっと優しく――そう思うたびに心は空回りする。彼女を見ていると――もどかしさで苛々する。ただ、もっと。
――ただ…笑って欲しかったんだ。
心から笑った表情を見てみたかった。
いつも時折曇ってしまう瞳が、曇ることなく笑う顔を――。
何かを抱えて生きてきたことくらい分かっている。言わなくたってちゃんと気づいてる。それが簡単に話せない事なのも。心に傷がある事も。もう、とうに分かっているのに…。
――彼女の事を知りたい。
その気持ちだけじゃ、彼女を理解出来ないのか…。
知りたい。知って欲しくない。違う。本当は知って欲しいのに、知られるのが“怖い”――。信じたい。そう心は願うのに頭と身体が全てを晒す事を否定する。心は矛盾する。
「俺だって、怖いよ…」
変わって行く自分がいることを否定できない。
今までの自分と、変わりかけている深澄が矛盾する。それでも、それを悪くないと思えたから、どちらにしても“崎本深澄”に変わりはないのだと分かっているから受け入れていける。少なくとも受け入れようとしている。でも良佳は…。
夜空に響くのは波の音。
ただ静かに引いては寄せる潮騒が聞こえる。
歩み寄っては離れる二人の距離の様に、波は一定間隔で砂浜を色濃く染めた。どうすれば、お互いに歩み寄る事が出来るのか。どうすれば彼女の心の一欠けらの不安を、恐怖を取り除くことが出来るのか。
一人考えた、そんな夜だった――。
こんにちわ!
月末の休止までに精一杯頑張っています(゜-゜)♪
でも、ちゃんと楽しんで書かせて頂いてるので無理はしていませんとも。
ちょっとこぼれ話。
前回のみっちゃんの終わり。
ちょっとヘタレ度とヒトデナシ度が微妙に漂っていたので、今回は補足的に!
帰ったんじゃないんだよ! ちょっと一人になって考えたかったんだよ!!
…という悪あがきorz
最近の深澄は人間臭くて個人的に好き。
最初に書いちゃったエピソードがようやく使えそうな感じで、一安心しながら書いてます^^;
さて、あと一週間くらい。
何話まで更新出来るかな(゜-゜)?