再会━misumi━
待ち合わせの時間よりも少し早く駅に着く。
常より人と待ち合わせた時に“遅れる”ということが嫌いな彼は、何事も早め早めの生き方をしてきた。要するに何か行動を起こす際にはそれなりの“準備”が無いと動けない――突発的な出来事に弱いタイプと言える。だから予想できない人との関わりは余り好きではなかった。
――かわすことは出来る。でも…
突然の出来事も、予想外の人の行動も、それとなく上手くかわしてきたと思う。好きではないが、だからと言って避けて通る事も出来ない。“優等生”を演じるには幾重にも重ねられた仮面が必要だった。それを剥がす事も出来ずに生きてきた。だから。
――俺は本当の深澄を知らないのかも知れない。
自分に嘘をつき続けてきた。それを“哀しい”なんて思った事もない。それが悪いことだとも思わない。でも…時々、酷く虚しくなることがあるのはどうしてだろうか…。
――キミがあまりにも真っ直ぐだから。
だから、どうしていいのか分からなくなる。
彼女の声を聞いて、彼女の感情を知りたいと思うほどに、自分の事が見えなくなる。これは意図的に造られた自分なのか、それともまだ自分さえも知らない“深澄”なのか。そんな風に考える事に意味なんてないのに。
行き交う人を見送りながら深澄は一人立ち尽くす。
“逢いたい”
そう願ったのは確かに“自分”なのに、今もまだ往生際悪く迷ったふりをしている。幾度目かの信号機の青を見送って、ようやく顔を上げる。目的地はもう眼と鼻の先だ。
――“良佳”、キミに逢いに…。
照りつける太陽と微かに運ばれてくる潮風に僅かに早くなる鼓動。緊張と、躊躇いと…そして。
「――っ」
不意に息を飲む。
あの日と同じ場所に、あの日のように佇むキミ――あの日の残像が重なった。不安気に手を握り、少し俯いた顔にかかる髪。閉じられた瞳の睫毛の影が微かに揺れている。何を思っているのだろうか――。
「――良佳」
考えるよりも先に名前が自然と口をつく。
その声に彼女の肩が小さく震えると閉じられていた瞳を瞠り、彼女が振り向く。その瞳に“深澄”の姿を映して――。
――やっと…キミに逢えた。
躊躇いに揺れ動く瞳を見つめ、そこに自分がいることに安堵する。
その瞬間確かに、迷いや躊躇いは彼の心から消えていた――。