再会━yoshika━
あの時と同じ場所に立っていた。
砂浜と寄せては返す波の見える橋の上には、潮騒と海風が頬を掠めて髪を撫でて行く。
あの日と同じ景色なのに、吹く風だけがどこか違う――優しく柔らかい初夏の香りを纏い、それが更に良佳の心を落ち着かなくさせる。
この日が待ち遠しかった。それは嘘じゃない。
それなのに時折聞こえてくる人の声に肩を震わせて、その声が過ぎ去れば思わず困ったように息が零れた。緊張しているのは、自分の“気持ち”に気づいてしまったからだろうか…。
――こんなの…変だよ。
気持ちを伝えてはいけない。この気持ちは彼にとって“障害”にしかならない。だから――この気持ちを隠しとおさなければいけない。そう自分に言い聞かせた。でも。
――“逢いたい”気持ちに嘘はつけない。
どれだけ心を諫めてみても、どれだけ冷静になろうとしてみても、この手の震えは止まらない。この心の高鳴りを抑える事も出来ない。息も吐けないくらいに――ただ深澄が現れるのを待ち焦がれた。
――想いを告げる言の葉を、
告げることのない、この気持ちを、
貴方は気付いてくれますか。
書いては消し行く紙の上、
貴方の名前を辿る指。
その響きは微かに甘く
けれども仄かに宿る この痛み。
胸に点りし 灯は
嘘もつけずに揺れ動く ――
“逢いたい”なんて言えるわけもない。
深澄からのメールにさえ一喜一憂してしまう自分が、彼の前で上手に振る舞える自身もない。彼への気持ちを自覚してしまったから尚更に逢えないと思っていた。それでも――。
彼かれの“誘い”を断れるほど、この心は強くない。
断る為の理由も見当たらず、それ以上に良佳自身が“逢いたい”と願ってしまった。
――自分から言う“勇気”もないくせに…。
瞳を閉じれば聞こえるのは潮騒と、遠く笑い合う人の声…それと。
――足音…。
微かに近づいて来る靴の音がコンクリート造りの橋を渡ってくる。一歩、また一歩、ゆっくりとした足取りで良佳の方へと近づく。予感がした――。
「――良佳」
その声に振り向けば見慣れない、けれどもずっと心の奥に残っていた人の顔がある。真っ直ぐに向けられた瞳には、あの時とは違う色が映っている気がした。
そしてまた、私は“深澄”と出会う――“深澄”の事を知る為に…。