朝━yoshika━
「想い。
私の想い、思い、
気持ち、ココロ。
人は時として残酷で
人は人だから愛しい。
想いは伝わる。
貴方と「私」が、他人だから
分かりあえなくても、
いつか笑いあえる。
貴方が他人だから、
私は、貴方を想える。
貴方がいるから、
私は━・・・・・」
良佳の綴る今の詩は、とても明るいモノだった。
昨日送ったメールは、まだ良佳の手元を揺らしてはいない。センターに問い合わせてはいないが、これほど時間が経っていれば、戻っては来ないだろう。誰かに届いた。その事実が良佳の今日一日を明るく照らす。そう思っていた。母親に会うまでは・・・。
コンコンッ ノック音。
「学校に行きなさい」
「・・・・」
いつものお決まりの言葉。朝の挨拶よりも馴染みがあるかもしれない。良佳は応えない。応える術を持たない。
「・・・・はあ」
小さく溜息が耳を掠め、母親はその場を立ち去る。良佳は母親がいなくなるのを確認して、重い腰を上げた。時刻は8時半を回ったところ。始業までにはもう少しある。
最も、一時限目から教室に居る事は少ない。大抵が二時限目か三時限目の間で、帰りもふら~っと気の向いたときに帰る。いてもいなくても変わらない。誰も気づかない。気づかれれば「暇つぶし」に付き合わされるし、嫌なことも増える。
「・・・・メール・・来ないな」
月のストラップを指でなぞり、携帯電話の待ち受け画面を見つめ呟く。待ち受けにも月が表示されていた。
「月」は好きだった。太陽より控え目で、地球の唯一の衛星としてある「月」。不条理の詰まった「月」。
月を見ていると落ち着くのに、月を見ていると叫びたくなる。どこか懐かしいモノだった。
「・・・・はぁ・・」
溜息が出る。携帯電話を閉じると、良佳は仕方なくボタンに手をかけ服をぬぐ。カーテンの閉められた暗い室内に、衣擦れの音が響き、ふと目の前の鏡に映る自分の姿が目に付いた。
「・・・あんたは・・・誰?」
自分自身に問いかける。自分であるはずのモノが口を開き、声を発し、自分と同じ動作をしていく。ただそれだけのことが酷く気持ち悪い事のように思えた。
「女」である「自分」は嫌い。大嫌い。
女に生れなければ、もう少しましな人生を送れていたのかも知れない。
腕に残る「タバコの痕」を爪で強く引っ掻く・・・微かな痛みはあるものの、それが自分だと感じられずに自嘲の笑みが漏れた。
「なんで・・・生きてんのかな・・・」
「死にたい」と思ったことがないと言えば嘘になる。でも「自殺」を考えた事はない。自分が死んだって何も変わらない。誰も悲しまないし、誰も思い出さない。もしかしたら「死んだ」ことさえ気づかれずに過ぎていくかもしれないと思った。そんなんじゃ、余りにも報われない。
「・・・・」
誰にでも訪れる「死」。それは平等で、絶対で、美しいのかも知れない。でも、行動を起こす気にはならない。まだ誰にも必要とされてない・・・せめて誰かに必要とされてから生を終えたかった。
「・・・くだらな・・・」
そんな事を思う自分にも嫌気がさす。「誰かって、誰だ」と自問自答しながら良佳はワイシャツに袖を通した。ネクタイを巻き、長めのカーデで体を覆う。携帯をポケットに突っ込み、殆ど何も入っていないカバンを手に取ると母親と顔も合わせずに玄関を出る。
「行ってきます」は言わない。その答えが返ってこない事を知っているから。
母は、今まで一度も「行ってらっしゃい」と出掛ける良佳を見送ることはなかった・・・。
今まで、ずっと・・・。
深澄の過去の話を後回しにして、良佳の話を進めました(^_^;)
深澄の過去はまた今度、更新したいと思います。
中々、思うように進まない「月さえ~」です(/_;)