キミへ━yoshika━
ただぼんやりと空を見ていた。
成す術もなく流れゆく雲を眺め“ああ、自分みたいだ”なんて頭の隅で考えて泣き笑いのような曖昧な表情になる。今までの自分はただ周りに流され、雰囲気にのまれ、なす術もなく時間が通り過ぎて行くのを待っていた。そうすれば傷付かなくて済むと思った。哀しい事も、辛い事も、じっと蹲って眼を瞑っていればいつだって知らず時間は通り過ぎて良佳の周りから煩わしい事全てを攫って行く。同じだけ“大切なもの”を奪われていた事にも気付かずに…。
――何を考えれば良いのかさえ…分からないよ。
感傷に浸りたいわけじゃない。
過去なんて今更どうする事も出来ないし、過去が変わった処で今の自分が変わらないのならそんなものは全て無意味だと思った。
大事なことはこれからで、今自分がどうしたいのか。何を望んでいるのか。そして…応えをくれた“深澄”をどう思っているのか…。
――私に“生きろ”と言った。
初めて、自分――良佳自身――を必要だと言ってくれた人間。
初めて…良佳の心に触れようとしてくれた。寂しさも、哀しさも、憂いも、怒りも、本当には流せなかった――涙も。彼は気付いてくれた。
偶然辿りついたメールを訝しく思うのは当たり前で、本来ならば「気味が悪い」と切り捨ててしまう筈の“言葉”たちを、彼は拾い上げてくれた。それが本当に嬉しかった…。
――“奇跡”とか“運命”なんて信じない。
そんな在り来りな言葉を並べて片づけて欲しくない。
“奇跡”とか“運命”じゃなくて、そこにあるのは事実――臆病な自分と、本当は誰よりも優しくて、誰よりも“寂しさ”を知っている「崎本 深澄」という人が居た――だけ。
一つ深呼吸をする。
眼を閉じて、ただそこにある大気を感じる。
優しさと、寂しさと、苛立ち、困難が詰まったこの場所に――他人の為に微笑んでくれる人が居る。他人の為にその温もりを分けてくれる人が居る。
――なんとなくだけど…解った気がする。
自分が望むこと。自分がしたいこと。そして彼に返したい言葉も。
太陽を隠した雲が流れれば、そこには誰にでも平等に降り注ぐ陽――希望の光――が微笑む。
人知れず“大丈夫だよ”と背中を押された気がした。
そして――。
――深澄。
ようやく解ったんだ。
自分のしたい事。望むこと。
漠然としていて、それを言葉に出来るのかは分からないけど。
でも、多分…ううん。きっと。
これが自分の“未来”だって、
そう“確信”を持って言えるよ。
こんな感情論みたいなこと、
夢みたいだって思う。
でも、これだけは知っていて。
深澄――
キミが居たから、私はここまで来れた。
あの日の私を救ってくれたのはキミで。
キミがくれた“約束”が、生きる“意味”が、
今も私を支えてくれる。
それだけで…
私がココに生き続ける理由には充分だよ。
良佳――
ねえ、深澄。
キミに伝えたい言葉がある。
キミに上げたい温もりも、
キミから教えられた“寂しさ”や、“哀しみ”や、そしてこの“気持ち”の意味も――。
言葉だけじゃ足りなくて、こんな風にキミに送る言葉さえもどかしい事をキミは知っているのかな…。
感謝と、それから――。
勢いのままに送ったメールに偽りなんてない。
目まぐるしく動きだした感情に、その昂りに携帯電話を強く握りしめ良佳は一人天を仰いだ。
この陽光が、誰の上にも優しく降り注ぐように――そう願わずにはいられなかった。
伝えたかった言葉。
ようやく気付いた自らの思いに良佳は一人、空を見上げた――。
こんにちわ。
温かい毎日が続いたと思ったら、ここ何日かは凄く寒くて驚いています。
今週末から講習に参加予定なので風邪などひかないように、自己管理に気をつけたいと思います。
皆様も風邪など召されませんように^^