そして━misumi━
いつもと同じ通学路を、いつもよりも落ち着かない気持ちで歩いて行く。誰かとすれ違うたびに頬を掠めて行くそよ風はあの頃よりもどこか夏に近づき、陽の匂いと青々とした緑の匂いを運んでいる。不意に見上げた空は高くて、照りつける陽光は遮るように翳した手の平をすり抜け真っ直ぐに深澄の視界を染めた。
――同じ空を見上げているんだろうか…。
溜息一つ胸元に落として、彼は眼を伏せる。
ここのところ浮かぶ自分らしくもない考えに、出るのは自嘲の笑みばかりだ。こんな風に誰かの事ばかり考えているなど初めてで、打ち消したくてもどうすれば打ち消す事が出来るのかさえ分からない。我ながら重症だと思う。
――愛や…恋なんかじゃない…。
そう。きっと。そんな感情に置き換えてしまうのは簡単で、でも、そんな簡単な言葉で言い表せられるほど気持ちは割りきれていない。そんなことを言って本当はただ自分に言い訳をしているだけなのかも知れない。馬鹿にしていた恋愛感情に浮かされる自分自身を見たくなくて、自分はそんなモノに支配されないと思いたくて、今もまだ見苦しく足掻いているのかも知れない…。
――きっと、きっかけなんて些細なモノなんだ。
誰にでも訪れる、些細なきっかけ。
それを受け入れるか否かは本人にしか決められないから。
――だからいつだって“恋”は真実になる。
自分に嘘つくことなく受け入れた感情に、人々は焦がれただ真っ直ぐに生きようとするのだろう。たとえその思いが叶わなくても、それでも良いとさえ思えるほどの気持ちを抱いて――。
上の空で電車に揺られ、耳元に流れる曲が何だったのかさえ思い出せない時間を深澄はただ過ごした。通り過ぎる景色を窓の外に映しながら、その手前に映る自分の顔のその瞳の奥にあの日の景色を見ていた――あの少し肌寒い春の日を。
揺れる事の無い携帯画面を覗いて、自分の行動に眉を顰める。誤魔化しのように何度目かになる時刻の確認を済ませれば電車はいつもよりも早く最寄りの駅へと滑り込む。乗り込む人たちの波に逆らい独りホームに足を踏み入れるとやたら軽快な発車のベルに押し出されるように駅の階段へと歩みを進めた。
本当は分かってる。
頭で考えるんじゃなくて、理性が止めようとすればするほどに強くなる想い。
考えるよりも先に浮かぶ顔はいつだって不安気で、風に掻き消えてしまいそうなほどに脆かった。だから―――。
――これを“恋”と呼ぶのだろうか…。
何処かで始まりの音がする。
耳をつくその音に唇を少し噛んで彼は空をもう一度見上げた。
同じ空の下に居るはずの――キミを思って…。
お久しぶりです。
一月以上のお休みを頂き、少し創作意欲も湧いて来た処で活動を再開したいと思います。
拙作を読んで下さっている皆様、お気に入りに入れて下さっている皆様には長らくお待たせ致しました。
今後も不定期にですが更新していきますので、今後も二人を見守ってやって下さい。
彩人。