表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/113

朝陽━misumi━


 差し込む日差しに閉じた瞼越しにでも感じる陽の明るさ。今日も晴れだ。

 ココの処曇る気持ちとは裏腹に天気は曇る事を知らずに空を蒼に染める。もっとも、気分同様天気にまで沈まれた日には鬱陶しくて仕方ないが…。


――もう朝か…。


 睡眠時間は多くない。

 やらなければならないことは山ほどあるし、何より一応“大学進学”を控えた“高校三年生(受験生)”だ。勉強にも手を抜けない。

 軽く溜息をついて延びた前髪を掻き上げれば、見える世界はただの白い天井――それもとても狭い狭い世界の。

 今日もまた変わり映えの無い一日の始まり。

 昨日と同じ日なんて、これから先に訪れることはない。今日だって明日だって何かは変わるし、変わらないモノを望むことは出来ない。変わらないということは、その場で生きる(・・・)事を止めるのと同じだと思う。進む事を諦めれば、後に残るのは後悔と退化のみ。だから人間は進む事を止めてはいけないのだ。


――進む先に何があるかなんて、誰にもわからない。


 条件は皆同じ。

 進退(それ)を決めるのは己自身。背中を押される事を待っていたら出遅れる。それが世の決まりで、当たり前で、だから自分も刷り込み記憶のように前に進むことしか出来ない。それでも…。


――不意に立ち止まりたくなるだろう?


 歩き続けて時には走り走らされ、疲れる事もある。疲れれば誰だって休みたいし、怠けたいし、出来るなら“楽”を手に入れたい筈だ。後ろを振り返り経た時間に物思いに老けたくなる事も…。

 前を見続ければ将来(さき)に広がる不安に打ちひしがれ、だけど不意に立ち止まり振り返った過去(もの)に癒される。そこに積み上げたものは幻でも偽りでもない――真実だ――から。

 

――俺は“彼女”の言葉に救われたんだ。きっと。


 幸せ(・・)の意味を見いだせなかった俺に、彼女は意外な言葉を口にした。例えばそれが口から出た軽い慰めの言葉だったとしても…深澄にとって、それはとても意味のある言葉だったから。


――違う…あいつは、お世辞とかそういうものが言えるタイプじゃない。


 いつまでも煮え切らない良佳(・・)との関係に、一緒に過ごした僅かな時間に生まれたのは一握りの確信。でも、それだけでいいと思えた――。


 きっと来るだろうと待ちわびた返信は、期待通りに手元にある。

 どうしてだろうか。いつもなら絶対に迷わない。自分がすることに対して不安を抱いたり緊張(・・)することなどないと言うのに…今日は僅かに震える手に苦笑いが浮かぶ。きっと、そこには何の“準備”もされていないからだろうか――。


――過ぎるほどの“準備”があれば、こんな風に震えたりしない。


 直前に緊張したり、不安を感じるのは、そこに至るまでの準備が不十分(・・・)だからだと誰かに言われた事がある。

 なら、これは? この手の震えは何のために起こる? その先に“答え”があるとは限らないのに。


――結局、“知識”なんて何の役にも立たない事がある…。


 可笑しい気持ちと、少しの寂しさを胸に灯し彼はメールを打ち始める。内容は、彼女にあげる――深澄なりの答え――。



――良佳。


 キミに“約束”をあげる。

 これがキミにとっての“答え”になるかどうか、

 それは僕にも分からないんだ。

 

 だけど、これを“理由”にして欲しい。

 キミがくれた言葉が僕を救ったように、

 キミに与えるこの約束が、

 少しでもキミの糧になればいいと、

 そう願わずにはいられないから――。


 良佳――僕はキミに生きていて欲しい。

 キミがこの世界の何処かに居てくれることを望むよ。

 同じように笑い、悲しみ、時には涙しても、

 それでもキミが僕を救ってくれたように、

 僕はキミの事が必要だと思うよ。


 だから良佳、

 キミのシアワセを願うよ。

 身勝手な言葉かも知れないけれど―

 またキミを悩ませてしまうかも知れないけれど。


 キミの生きる為の“意味”が、僕じゃダメですか――?


                            深澄――



 打ち終われば、その指先の震えはより一層酷くなり鼓動もいつもより早く打つ。歯の浮くような台詞を並べたつもりはない。けれども読み返せばきっと送れなくなる事も間違いなかった。自然耳まで熱くなるような感覚に舌打ちをして、彼は“送信”ボタンを押す。

いつもよりも乱暴なキー操作になってしまったのは言うまでもない。でも…。


――誰かに必要とされる以上の“意味”なんてないだろ…。


 それは自分自身を誤魔化すように告げた言い訳めいた言葉に他ならない。本当は分かっていた。この言葉が齎す意味と、関係の変化を――。

 窓越しに映る果てしなく蒼い空を見上げ、深澄の心は揺れていた――。


差し込む朝陽に、緊張で震える指先――。

この言葉に、キミに贈る”答え”に準備なんてない。

揺れる気持ちに言の葉を載せれば、それだけで始めての想いを知る――。


☆こんばんわ^^

 最近更新ペースが遅くてすみません><;

 そして、今回もたらたら長い”深澄”編です。

 この理屈っぽい処、みっちゃんの悪い癖ですね、はい(゜-゜)

 しかも、最後になんかこっぱずかしいこと言ったってますよ!!!←

 打った自分さえも読み返したくなくなるようなメール文でした(笑)

 さて、良佳はなんて返すんでしょう?

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ