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疑問━misumi━

 月が天高く昇る頃、彼は一人自室の椅子に腰かけ四角く切り取られた窓から空を見上げる。濡れた髪は軽く拭われることしかなかった水滴が時折彼の首筋をつたい、冷えた頭と身体は彼の頭をより一層クリアなものにした。そうして手に握られているのは、新しい言葉を彼に届けた携帯電話だ。


――価値…ね。


 彼女から向けられた言葉に深澄は自嘲気味に溜息を漏らす。彼女の“答え”になれば良いと自分が選んだ“言葉たち”は結局の処、彼女を悩ませるモノとなってしまったようだ…。故意ではないにしろ、自分が告げた言葉に頭を悩ませたり、心を痛めるような結果になってしまった事に些か腹が立った。少しの後悔と苛立とを抱え、彼は机に頬杖をついては手にした携帯電話の冷たいボディを親指の腹で撫ぜる。意味はないが、何か考え事をする時に手にしたものを弄るのは彼の昔からの癖だ――。


――そんなものに“意味”なんかあるのか。


 他人に与えられる“価値”にどれほどの意味があるのだろうか。過小評価、過大評価、ある人に取って“善”だったものが、また違うある人にとっては“悪”になる…そんな世界だ。例えばこんな話を聞いた事がある。

 正義を翳して悪である怪獣―もしくは怪人―と戦う強いヒーローが居たとする。そのヒーローはやられそうになりながらも、必ず最後は一撃必殺技で人々を救うだろう。それを遠巻きに見ていた民衆は、その名の通り彼を“英雄(ヒーロー)”だと口々に湛え喜ぶが、そこに暮らしていた民にとってはそうもいかない。家は壊され、田畑も荒れ、しまいには現場となったその場所では死傷者も出ているかもしれない……それなのに、誰が彼を“英雄(ヒーロー)”と呼ぼうか。

 大勢の人を救うために、多少の犠牲は仕方ないと考えるか、それとも彼らの死を悼むか…良かれと思いした事も、一概に“正義”だとは言えないのがこの世界の理だ。

 

――こんな世界に“意味”なんか求めるな…。


 そんなもの誰も“応え”られるはずがない。

 深澄自身にも、生きる事の価値や意味など分からないのだ。それでも…。


――……意味…。


 もしも彼女が求めているモノが“意味”であり、“理由”なのだとしたら…。


「……」


 知らず溜息がまた一つ零れる。

 この感情をなんと伝えれば良いのか、表現の仕方が見つからない。曖昧で、儚くて、まるで泡沫のように一瞬で色あせてしまいそうな――そんな想い。けれども、それを言葉にする術をこの心はきっと知っている。


――“好き”なんかじゃない。


 まるで言い訳のように心の奥で呟く。

嫌いでもないが、ただの一度、それも数時間話しただけの相手に心を傾けられるほど単純には出来ていないと自分で思う。愛だとか、恋だとか、そういうモノとは無縁で、ただ決められた生活の中で決められた時間が過ぎるのを待つだけだ。ずっとそうやって生きてきた。


――今でも、孤独こそが“安らぎ”だと思ってる。


 人の中に生きるのは億劫で、何かと障害は多いし期待とか不安とか感情に左右されるのは好きじゃなかった。それでも――。


――なんで…矛盾してんだよ。俺。


 浮かび上がるモノは自分への疑問ばかりで、それ以上でも以下でもない。だけど、そんな自分も悪くない(・・・・)と思い始めている。だから余計に可笑しい…。


――良佳。


キミはこの歪んだ世界に“価値”や“意味”を

求めているの――?

それはとても虚しくて、

儚いものだと、僕は思うよ。

それこそ、求めたその答えに

どれほどの価値があるんだろうね…。


正直な処、

僕に、キミの言葉に返す答えはない。


僕にも

自分が生きる事の“価値”や“意味”なんて

分からないんだ。それでも、


もしも、キミが求めているモノが

“生きる為の理由”なのだとしたら。


僕はその答えを上げられるかも知れない。

キミがもしも望むのなら――        

                     深澄――


 らしくない中途半端な言葉に深澄は苦い笑いを漏らす。

 いつのまにか時刻は日を跨ぎ、誰もが寝静まるような時間だ。


――きっと、キミがメール(これ)を見る頃には明るい陽が差してるだろう…。


 そうしてキミの心にも陽が差し込んでくれればいい。この心に、“孤独”以外の色を付けた良佳―キミ―に。

 次第に重くなる瞼に彼は身を任せて、静かな眠りにつく…そこにあるのは“孤独”か、それとも――。

 今はただ彼の安らかな寝顔を月だけが照らしていた。


変わる心に、浮かぶ自分への疑問。

それに答える術を彼は知っていた――。

彼女への新しい答えを用意して、彼は自嘲気味に笑う。

次に返ってくるその言葉で、自分の何かが崩れるとしても…それでもいいと感じていた。


☆こんばんわ^^

予定より早い更新となりました!

……が、前回の後書きで”記念&お礼”で何か描くとか言ったくせに全然出来ていないのが現状です;;

本当に申し訳ありません><;

考えに考えて、考え過ぎて身動きが取れない…みたいな^^;

月さえに関しては割とシリアスな感じに動いているモノで、やたらなものが描けないんです…。

なので、もう暫くお待ちください^^

必ず何らかの形でupしますので!!!

話の方は次回で大分二人の関係が動くと思われます!要チェックですよ><(笑)


それでは、ここまで読んで下さってありがとうございました^^

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