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過去・Ⅱ━misumi━


━子供であることを忘れてしまったんだね━


そんなことを他人から言われたのは初めてで、今でも心に残っている。俺の事を「子供扱い」した、唯一の人たちだった。



(この人は何を言ってるんだろう)

深澄は老人の言った一言が理解できずにいた。少年の手当ては終わり、今は老婦人の煎れてくれたお茶を飲みここに来るまでの経緯を説明している。

隣では傷を手当てしてもらった事に気を良くした少年が、老婦人に愛想良く説明し、老婦人もそれをにこにこと聞いていた。

深澄はただ、目の前に座る老人の顔を眺める。

彼は皺の刻まれた目を閉じ、静かに話を聞いている様子で、時折頷いて返事を返す。

まるで、ここにいる自分以外が家族のように見えた。老夫婦と、少年。少年が彼らの孫の様に見える。

自分には不釣り合いな光景で、深澄は何となく目を逸らしてしまう。深澄には、こんな風に誰かとお喋りしながらお茶を飲んだり、暖かな時間を過ごした思い出はない。

両親は忙しく、広いダイニングで一人静かに食事をする。そこに色や温度はなく、機械的に日常生活を送ってきた。それが当たり前だった。

『・・・君、崎本君?』

不意に名前を呼ばれ、深澄は我に返る。そこには少年の顔があった。

『あ・・・何?』

『どうかした?一人黙ったままで、暗い顔してた』

『・・・暗い顔?』

『うん』

深澄は、首を傾げる。何故、自分が暗い顔をしなければならないのだろうか。勿論、本人にそんな気はなく普通に振る舞っていたつもりだった。深澄の中にまた分からない事が増える。

『そろそろ、帰らなきゃね』

『・・・うん』

少年に促され、時計に目をやると午後5時を回っていた。いくらなんでも「散策」にしては時間がかかり過ぎている。帰らなければ、と二人は腰をあげた。

『また、いらっしゃい』

老婦人がにこやかに言った。深澄はそれを「社交辞令」だと受け止め、にこやかに微笑むと『ありがとうございました』と礼を告げる。少年も同様に挨拶を済ませ、二人は老夫婦の家を後にした。


『ねえ、崎本君』

帰り道、少年がふと声をかけてきた。

『何?』

『うん・・・あのね』

自分から声をかけておいて、中々話を進めない少年の態度に深澄は内心、憤る。勿論、そんな仕草は見せないが。

『どうかしたの?』

『うん・・・お祖父さんが言ってたんだ』

少年の言う「お祖父さん」とは、先程の老人の事だろう。彼が、何を言っていたと言うのか・・・深澄は自然に『何を?』と、聞き返す。

『・・・』

『・・どうしたの?』

またもや少年は黙りこむ。煮え切らないその態度に、深澄は溜息をついた。

『何を、言ってたの?』

『・・・・』

少年は、今更言おうかどうかを迷っている様子で、深澄の顔色を覗く。深澄はその視線に気づいてニコッと微笑んで見せる。少年は少し躊躇ってから、恐々と口を開いた。

『・・・君が、可哀想だ・・・って』

『?・・・可哀想?』

『うん』

『僕が、可哀想だって?』

深澄が何度も問い返すから、少年は困ったように頷いて見せる。深澄の頭の中は困惑していた。何故、自分が、可哀想だと思われたのか。どうして、そんな事を彼は言うのか。分からなかった。

『君が独りに見えるって・・・』

少年は言葉を続ける。深澄の頭の中の疑問の答えを、彼は静かに告げて行く。

『君が、子供を知らずに大人になってしまった様に見える・・・って』

『・・・・』

深澄は黙る。その言葉の真意が分からない。分かりたくない。

『気に障ったのなら、ごめん』

黙り込む深澄を見て、少年は慌てて頭を下げる。だが、その言葉は深澄に届いていない。彼はただ、茫然と俯き目を見開いていた。

『・・・ごめん』

少年が申し訳なさそうに、もう一度呟く。

『・・・帰ろう』

深澄はそう呟くと顔を上げ、少年を真っ直ぐと見ていた。少年も頷く。

それから二人は無言で教えられた道を歩いた。何も話すことなく・・・。

深澄の心は、老人の言葉に揺れていた。





深澄編、まだ続きそうです・・・。

いい加減、良佳を書きたいのですが(^_^;)


何分、何の予定も、細かい設定もない「月さえ~」なので

こんなペースで進みます(;一_一)

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