迷い━yoshika━
前触れの無いそのメールは唐突に、けれども良佳の心を揺らす。重く沈もうとしていた気持ちが浮上しかけた事に気づいて自嘲したが、それでも僅かに緩む頬は止められない。彼から送られるメールは始めてで、それが尚更に嬉しかった。
―どうしたんだろう…。
訝しむ思いとは裏腹に良佳は急いてその画面を開く。
こんなふうに気持ちが逸る事などない。それどころか普段なら唐突に齎される何かを嫌い億劫にさえ思うのに、今日はそれを嬉しいと思った。
「……っ?」
メールを開き、書かれていたのはたった三行にも満たない短い文。
彼にしては珍しい端的なその言い回しに良佳は眼を見張り、その短い文の中に隠された彼の気持ちを汲み取ろうと見つめる。だが、温度を持たないその短い文からは気持ちはおろかその“意図”でさえ汲み取ることは難しかった。
―何が言いたいの…深澄?
彼の言い回しは何とも妙で、そして分かりづらい。
今まで自分も同じようなメールを送っていた事に気づいて罪悪感を覚えるも、頭のよくない自分にメールを返すのは難しいと早々に白旗を上げてしまいたくなった。
―分からないよ…。
分からない。
彼が何を言いたいのか。そして何を求めているのかが。
頭が悪いとは言わない―成績で言えば中の上―が、それ以上に人の言葉の意図を探る事は苦手だった。
―人の思いを知ることは学校の成績には当てはまらないから。
頭が良ければ人づきあい等も上手くなるのだろうかと思った。仮にも相手を傷つけるような事にはならないだろうと。言葉を知り、その意図を汲み、そして築ける関係もあるのだと。
でも、どれだけ勉強しても成績を上げても結局“他人”の事は分からなくなるばかりで、他人の心もまた離れていく。そうして徐々に積み重なった思いは、知らず他人を遠ざけるようになっていた。
―だって、怖いから。
傷つくかも知れないと思えばその手は触れるのを躊躇う。
引っこめた手を握るモノはいない。手を差し伸べる者も。
それでも。
―深澄は、強いね。
携帯を見つめ眼を細める。
彼は例え傷付くのが分かっていても、きっとその手を伸ばすだろう。伸ばした先にある躊躇われ引かれた手を探しだし、そっと引き寄せる。
頭が良いとか、成績がどうとか、そんなのは結局言い訳にすぎないのだ。
確かに彼は頭が良いのかも知れない。けれども、それ以上に彼は良佳の事を“理解”しようとしてくれた。ただ、それだけの違い。
―小さいけれど、とても大きな違い。
良佳の拙い言葉を拾って繋げて、そうして意味を汲み取ってくれる。欲しい言葉をくれたのは、それだけ彼が良佳の言葉の意味を考えてくれた結果なのかもしれない。
本人に自覚はなく無意識な事だとしても、それは良佳を救うには十分だった。だから。
―今度は私が深澄に応える番。
例え望む答えを返せなかったとしても、それでも言葉を交わす事に意味はあるから。
良佳は決心したように一つ息を吐いてボタンを押す。
それが、今の自分に出来る精一杯の応えだから――。
こんにちわ。
最近じゃあ、本文よりも副題考えるのに苦労しています^^;
”なら付けるなよ…”とかいう突っ込みはなしですよ!?
回数を増すごとに内容を忘れていく…そんな作者ですからorz
副題でもないと、開きたい内容が分からないんです。ホントに。
それでも、月さえ~は続いていきます(゜-゜)♪