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手━yoshika━


 一瞬揺らいだ彼の瞳の中に“寂しさ”が見えた気がして、良佳は戸惑う。自分が尋ねた一言が、たった一つの言葉が彼の表情を曇らせてしまった事に僅かに胸が痛んだ。


―どうして…。


 確かに、彼なら寂しさを知っていると思った。

 でも、それは彼が幸せを知るからこその“寂しさ”で、こんな風に黙りこみ表情を曇らせるとは考えてもいなかった…だが、目の前の彼は今確かにそう(・・)なっている。その事実は良佳にとって哀しい出来事だった。


―貴方なら…幸せを教えてくれるのかも知れないと…。


 勝手な思い込みだと言われればそれまでだろう。

 でも彼が良佳にとっての“答え”だった。暗い世界を、息苦しいこの世界を明るく照らす光のような存在。深澄が良佳の言葉(メール)に応えた時から…ずっと。

 それほどに良佳の心の中には暗い闇と不安と、それ以上の“孤独”が巣くっていた。

 

―そんな顔をしないで…。


 困らせたかったわけではない。

 苦しめたかったわけでも、哀しい顔をさせたかったわけでもない。それなのに…。


「深澄…」


 自然に言葉が口を吐いて出る。

 何が彼の瞳を曇らせるのか…その訳を知りたい。そう思った。

 彼には…“シアワセ”でいて欲しい。初めて出会ったのに、良佳の心にはいつの間にかその願いが浮かんでいた。


 俯く彼に告げる言葉は、届くのだろうか。

 何も映さないその瞳に、自分の姿は映っているのだろうか。そんなことを考えて、自嘲気味に微笑む。今はそんなことどうでもいい。ただ彼が自分を救ってくれたように、この言葉が彼に届けば良い。他でもない深澄(カレ)に――。


「私はこんな風に思う」


 良佳の声に深澄の肩が僅かに震える。まるでその続きを怖がるように、視線は俯いたままで…。


「“シアワセ”の本質なんて、きっと誰も知らない。でも、世界にはソレを感じて、喜び、泣く人がいる。ソレを感じられずに嘆き、哀しむ人も…。どうしてなのかなんて考えた事はないけれど、価値観は違うから。ささやかな事をシアワセだと言う人もいれば、全てに満たされているのに“不幸”だと笑う人もいる。今日一日を生きられた事に喜び、生きている事を嘆く。身勝手で、とても難しいけど」


 不意に彼の視線が良佳の眼を捕える。

 その瞳の中に、確かに良佳はいた。不思議そうに、けれども怪訝に顰められる眉に良佳は困った様に笑みを浮かべる。


―私には“シアワセ”が何か(・・)なんて分からないけれど…。


 それでも、彼に出会えたことは奇跡だと、貴いと思えるから…。

 もしもこの心を言葉に代えるのなら、きっとこう表現するだろうと気づいたから。


「私は、深澄に会えて嬉しかったから。きっと、この温かい気持ちを“シアワセ”と呼ぶんだと思う…」


 自信なんてない。

 ただの自己満足で、こじつけのような言葉が宙を風に乗って舞っただけ。ただ思った事を彼に投げかけて、明確な結論なんて出ない。それでも彼の眼は驚きに見開かれて、静かに細められる。


「…そう」


 短い一言が、彼の浮かべた苦笑いにも似た笑いが、彼の心を告げた。

 初めて向けられる本物の彼の笑顔に、良佳は黙り視線を逸らす。優しいとか、そんなんじゃなくて、そこにはただ“深澄”がいた。


「ありがとう…」


 波の音に消え入りそうな程小さな声で彼は呟くと、スッと急に立ち上がる。気が付けば陽は少し傾きかけ、風も先程より冷たくなっている。そして、それは突然に良佳の目の前へと差し出された。


「立てる?」


 細く綺麗な指が差し出され彼は曖昧な表情で笑う。

 その手に自分の手を重ねると、深澄が笑ったのが分かった。


「……」

「なに…?」

「手」

「て?」


 彼の言葉に良佳は重ねられた自分の手を見つめる。


「震えてる」

「…っ」


 そう静かに耳打ちされ、良佳の頬はたちまち紅く色づいていく…ほんの少しだけ彼に触れた春の日の出来事だった――。


もう秋なのに、話の中では未だに季節は春(^_^;)

ちょっと違和感です…。


本当はもう少し書く予定だった二人の第一次接触(笑)はとりあえずココまでです。

果たして第二次はあるのでしょうか??←おいっ!!

次回の深澄サイドを書いた後は、また暫くメールでのやり取りになりそうです^^;



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