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思い━misumi━



 “喫茶店”にでも入った方が良いかと彼女に声をかけてはみたものの、彼女はそれをあっさりと否定した。もっとも休日の人で賑わう華やかな喫茶店など好まないし、また女性が好きそうな店など把握していないのだから断ってくれたのは救いかも知れないが…。

 だから仕方なく砂浜に続く階段に並んで腰かけたのは不可抗力だと思う。こんな風に肩が触れ合う距離に座るなんて、普段の自分からは想像もつかない出来事だった…。


「寒くない?」


 不意に言葉が口をつく。

 四月とはいえまだ冷えるし、海から吹く風はやはりどこか冷たかった。

 彼女は女性特有と言えるほどの“薄着”で、見ている方が肌寒さを感じて気遣いたくなる姿だった。スキニのジーンズに襟首の大きく開いたロングセーター。七分袖のコートに首には春物のマフラーを巻いている。

 今時(・・)の女子高校生にしては地味だと言えるその格好は、彼女によく似合っていた。

 良佳がそっと首を横に振る。


「平気」


 言葉が返ってきた事に、少しだけ驚く。それはとても短い一言だったが、返事が返ってくるのと、こないのとでは天と地ほどの差があるだろう…。


―ふ~ん。


 少しだけ眼を細め、深澄は面白そうに微笑んだ。


「…そう。良かった」


 もう一度短い言葉を返してしまえば、すぐに会話が途切れる。

 “知りあい”とも呼べない程の些細な関係に深澄は心の中で自嘲した。


―こういうの、なんて言うんだろう。


 妙な繋がりで、一方的な言葉で、それ以上でもそれ以下でもない。今の処、深澄の中の彼女の位置は不透明なままである。


―そういえば…初めの頃のメールは“詩”になってたな…。


 “詩”と表現するにはあまりにも稚拙かも知れないが、本人が詩のつもりで書いているのならば、それはやはり―詩―なのだと思う。例え誰が何と言おうと。

 少なくとも深澄自身には書けないものだし、これからも書こうとは思わない代物だ。だからこそ余計に気になっていた。


「良佳は、どうして詩を打つの?」

「…えっ?」


 唐突な問いかけに彼女は間の抜けた返事をする。

 その視線が辺りを彷徨うのにそう時間はかからなかった。


「初めてのメールは、不思議な言葉だった。あれは“詩”でしょ?」


 もう一度確かめるように言葉を紡げば、彼女の眉間には少しだけ皺が刻まれ黙り込んでしまう…。その答えを求めて、彼女は考え込む。


―自分で考えた事はないのか。


 考え込む横顔を眺めながら深澄も黙る。答えを急かすつもりはない…。

 急かした処で出るような答えなら急かすが、これは彼女自身の問題だ。誰かが口を挟んでいい様なものではないと深澄は思った。そして。


「声にはならないから…」

 自信無下げに良佳が呟く。消え入るようなその声に深澄は思わず聞き返した。


「声?」

「上手く言葉に出せないから、それを詩にしてた…」


 自分を納得させるようなその言葉の数々に深澄は相槌だけを返す。多分、良佳が自分自身に問いかけているであろう言葉だから、あえて途中で口を挟もうとは思わなかった。

 言い終えて彼女がもう一度黙る。


―自分でどう表現すれば良いのか分からないのか。


 何となくその間を考えて、不意に深澄は口を開いた。彼女の求める答を持って…。


「じゃあ、あの詩は良佳の“心”なんだね」

「心…?」

「言えなかった“感情(キモチ)なんでしょう」

「…うん」


 我ながら恥ずかしい事を言ったと思う。

 “心”とか“感情(キモチ)”とか、そんな風に相手を思いやる事も出来ない癖に、こんな時にだけ分かった風に述べるなんて、どうかしてる。

 

―それでも、彼女の望む答えは見つかったはずだ。


 言葉もなく彼女が真っ直ぐに自分を見つめる。その表情は複雑で何を考えているのかを読み取ることは出来なかった。


「…ありがとう」


 不意に齎されたその言葉と、良佳の表情に思わず目を見張る。彼女はそっと微笑んでいた。


―なんだ…笑えるんじゃん。


 蝋燭に点った小さな灯りの様なその笑顔に、深澄の頬も知らずに緩む。


「良かった。ちゃんと笑えるんだね」


 気が付けば無意識のうちに言葉が出ていた。その言葉に反応するように良佳の頬は赤くなり、耳までも染めていく。その全てが何処にでもいる少女たちと大差なく、まるで普通(・・)の女の子なのだと深澄に教える。


―…つまらない…。ただの女子高生か。


 微かに興味を持ち始めていた“七瀬 良佳”という人物に対する熱が、急激にその温度を失っていくのが分かる。曖昧に笑っては見たものの、彼の心は冷めていた…。


「笑えるなら笑った方がいい…」


 呟いた眼は虚ろで、遠く、遥か向こうの海を見つめる。

 その心の中には“黒い”ものが漂っていた。誰にも触れられない感情(もの)が。


「みすみっ」


 不意に名前を呼ばれても、振り返る事もしない。もう彼女に関わろうとは思わなかった。

 

「…崎本…さ」

「“深澄”でいいよ」


 もう一度、今度は名字で呼び直され深澄はその声を遮る。何処か機嫌を窺うようなそのやり取りは彼の好む処ではない。知らずに眼は細められていく。


―こいつも、所詮他の奴らと同じだ。


 誰の事も信じない。誰にも心を開かない。

 誰にも―“自分”を侵させない―。振り回されるのは御免だ。


 二人の間にあった空気が、冷たいものへと変わった瞬間だった――。


こんばんわ。

深澄サイドです。

相変わらずの残念なみっちゃんです…orz

どうしろっちゅうねん!!\(゜ロ\)(/ロ゜)/

作者泣かせがここにいます;;


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