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会話━misumi━



 休日の午後だというのに海辺には人がまばらで、さらさらとした砂の上を二人は無言で歩く。

 相変わらず良佳は少し後ろを遅れて歩き、これでは“会話”どころではない。


―こいつ、話す気あるのか?


 さすがに訝しく思いながらも、とりあえず彼女の歩幅を気にしながら歩いてやる。普段なら、こんな風に異性と歩くことなどない。そういう付き合い自体は何度かあったが、面倒くさいし、相手に合わせなければならない事が何より億劫に思えて仕方なかったのだ。


―どうせ、いずれはしなければならないんだ…。


 いずれは適齢期を迎え、結婚する。

 独身を貫く事も悪くはないが、世間的には少数派であり風当たりも強いだろう。まあ女性のソレとは比べ物にならないかも知れないが…。


―イメージ的にも、株は上がるしな。


 例え人間が冷たかろうが、会社での付き合いが悪かろうが、所帯を持ち家族を大事にしているのだと噂が上がれば、そんなイメージは一変する。単純に例え家庭内が壊れていても、外見さえ繕えばそれで問題はないのだ。


―俺と結婚する人は不幸だろうな…。


 不意にそんなことを思って自嘲する。

 多分…いや、確信に近い形で、俺は人を“愛せない”―。

 他人のことを信じる事の出来ない自分が、どうやって他人を好きになれるというのだろうか。


 時折キラキラと陽の光を反射して輝く水面へと視線を置く。

 寄せては返すその姿を見ていると、自分の考えている事のくだらなさを思い知らされ、またいやでも思考を現実に戻される。現実から逃げてはいけない、と。


―埒が明かない…か。


 潮風を髪に受け、長い前髪がそっと顔を撫でる。

 深澄は不意に足を止めると、彼女の方を振り返った。


「…っ?」


 立ち止まった事に気づき、彼女はすぐに顔を上げると眼を瞬かせた。その顔に思わず苦笑いになってしまう…。


「…並んで歩こう」


 その言葉は彼女にとって意外なものだったのか、眼を大きく見開くと再度聞き返してくる。普段使わないようなその一言は深澄にとってもあまり心地いいものではない。出来る事なら聞き返して欲しくなどなかった。


「えっ…?」

「隣においで」


 仕方がなく深澄は手を差し出してやる。

 これでも応える気が無いのなら、これ以上こちらが付き合う道理はない。


―さて、どうくるか…。


 内心、少しだけその反応を楽しみだしている自分がいることなど彼は気にも留めない。

 明らかに困惑して視線を彷徨わせる良佳の眉根はわずかに寄せられていた。予想通りの反応に自嘲にも似た溜息が零れる。勿論気付かれない程、微かな溜息のつもりだった――。


「良佳」

「はいっ」


 もう一度、その名前を呼ぶ。

 名字ではなく名前を先に知ったせいか、呼ぶ事に抵抗のわかなかった“良佳”という名前を―。

 彼女はその瞬間にも、再び変わった空気に緊張を隠せず、小さく震える。まるで“小動物”を相手にしているような気分だ。


―小動物…ね。


 自分で当てはめたその“小動物(こたえ)”に、我ながら納得すると深澄が纏っていた雰囲気が優しいものへと変わる。相手は怯えやすい“小動物”なのだ。そう思えば少しは腹もたたない。


「僕は君と話がしたい」


 真っ直ぐにその眼を見つめ、言葉をぶつける。

 きつく閉じられた彼女の眼が、その瞬間開かれた。驚きと、不安を宿して。


 見つめ返してくるその瞳に映るのは“不安”と、そして一握りの“安堵”―。

 彼女の瞳が揺れ、暫く黙りこむ。深澄はその間も彼女の言葉を待った。

 怯えやすい“小動物”のような良佳の言葉を…。


「私も――貴方と話が…したい」


 今度ははっきりと、そう告げる。

 迷いのない眼が深澄の事を見つめていた。


―面白い…。


 好戦的に光るその瞳に深澄は自分でも気付かない程自然に眼を細めていた――。


深澄サイドでした^^;

良佳が一考える間に彼は十を考えている気がします。

口には出ないけど、色んな事で頭を使ってる…そういう人です。


それにしても”小動物”扱いって…(汗)orz

両極端(?)な二人の関係を、もう暫く見守って下さい^^;

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