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対面━misumi━

 確認するように名前を呼ぶと、彼女は「はい…」と短く返事を返した。

 とても驚いた表情で俺を見つめたかと思うと、急にふらふらと視線を泳がせ始める。明らかに動揺しているその様は、滑稽を通り越して哀れにさえ思えた。自然と眼を細める…パニックに陥っている眼の前の彼女に助け船を出そうか躊躇していると、不意に彼女の手が震えているのが分かった…。


―緊張?

 そういえば、“怖い”とか言ってたな…。


 仕方なく助け船を出す事に決める。

 パニックに陥っている人を落ち着かせるには…頭の中で一瞬考えを巡らせて、すぐに小さく息を吐き出すと、俯く彼女に再び声をかけた。


「落ち着いて……深呼吸(・・・)しなよ」


 なるべく嫌味にならない様に言葉には注意を払って、その上で少しだけ微笑んで見せると彼女は安心したように二度深呼吸をする。深澄はその様子に内心溜息をつきたくなったが、表情に出すことはせずただ見守っていた。


―なんか、メンドクサそう…。


 心の奥に本音を隠しつつ、深澄は極めて紳士に務める。

 初対面の、しかも彼女のように対人関係が苦手とも言える人間が相手の場合、不快感を抱かせない事が先決だと思う。だからこそ冷静に、彼女の望む“崎本 深澄”を演じてみる事にした。今日のこの時間だけ…。


「落ち着いた?」

「……はい」

「そう、良かった」

「……」


 愛想良く微笑んで見せても彼女は笑みの一つも返さない。

 それどころか眼を合わせる事もせずに訝し気な視線で俺を見る。まるで品定めでもされている気分だ。


―不躾だな…。


 時間よりも早くついていた事には好印象を抱けたが、これはあまり褒められたものではないだろう。その視線を拒むでもなく少しだけ困ったような表情を浮かべると、深澄は改めて自己紹介をした。


「改めて、崎本です」

「あ…七瀬 良佳…です」


 自己紹介もまともに出来ないのか…そう皮肉を言ってやりたい心を何とか押し留めて、深澄は黙る。今日の目的は“会いたい”という彼女の要望にお応えしたものだったから、特にこの後の予定を考えていたわけでもない。無論彼女にも何か考えがあるようには見えないのだから、自然二人は黙り込む形になってしまった。


―なんなんだか…。


 二人の間に寄せては返す波の音だけが響いていた。

 引き寄せられるように、深澄は青く広がる海に視線を向ける。

 “逢う事に意味を…”

 そう言ったのは彼女。その言葉を信じているわけではないが、色々と聞きたい事はあった。だから…。


「良佳…」

「はいっ」


 気が付いた時には自分から声をかけていた。

 驚いた彼女の声が少し裏返る。不意に視線を彼女に戻してその眼を見つめた。


「少し歩こうか…」

「……」


 その言葉は彼女の為に言ったわけではないと思う。

 多分、自分の為に…ただの好奇心だと言っていいのに、彼女は少し驚いてから複雑な表情を浮かべる。そのまま何かを言い出せずに、彼女は静かに頷いていた……。


深澄サイドでした(-_-;)

うん…良佳サイドだけ読むと、深澄が凄く優しくて良い感じなのに…深澄サイド書くと”うわっ…”って残念な感じに思うのは作者だけですか^^;??

でも…多分、ホントの処はこんな感じ。

これが深澄だし、この方が人間らしいでしょ…(゜-゜)??


こんな感じで続きます!

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