出会い━yoshika━
私達は会う約束を交わす―。
互いに互いの事を知らずに生きてきて、確かな偶然に引き寄せられた二人。例えすれ違い傷つけ合うだけなのだとしても、私は彼を求めずにはいられなかった―――。
海風の吹く橋の上に良佳は佇んでいた。
初めてメールを送ってから四カ月…その短さに今更ながらに驚く。彼―深澄―のことを知ってから、まだ幾らも経っていない。そうしてようやく彼女の希望は叶い、今日この場所で彼と会う事になっていた。
―落ち着かない…。
凪いだ潮風とは裏腹に良佳の心はざわざわと乱れ、痛いほどに鼓動は鳴り響いていく。待ち合わせまではあと15分ほどあったがそれまでにこの心は落ち着くのだろうか…。
―怖い…でも、期待の方が大きい。
そっと目を閉じると、良佳は手に持った携帯電話をギュッと握る。こんな風に顔も見た事がない他人と待ち合わせる事は生れて初めてで、その怖さと不安に胸が締め付けられるのに、心の奥に湧きあがる“期待”を止める事が出来ない。不思議な感覚。怖いのに、待ち遠しいとさえ思う。
「…はぁ…」
溜息が零れる。
期待と不安とが入り混じった溜息。深澄はどういう人だろうか。自分の事を受け入れてくれるだろうか。拒絶…されないだろうか。
考えても仕方のない事が頭の中を廻り余計に憂鬱になった。
『寄せては返すあの波のように、
遠く広がるこの海は、
全てを受け入れ許してくれるのでしょうか。
その大きな蒼に包まれて
この心の躊躇いを、
静かに波が打ち消せば
貴方を失望させずに済むのでしょうか。
一人佇む、この時に
不安と期待は溢れていきます。
待ち望んでいたはずなのに、
今は“怖い”と胸が震えています――。 』
言葉にならない気持ちを、メールに載せる。
でも、これは誰にも送らない送れないもの。そうして次第に時は満ちて、約束の時間が迫る。
「……」
顔を上げる事も出来ずに良佳はただ俯いていた。
足音が近づくたびに息が止まりそうになる…高鳴る胸を抑え、足音が通り過ぎるとガクッと思わず肩を落とす。そんなことが続き、諦めかけたその刹那―――不意に足音が良佳のすぐ傍で立ち止まった。
「七瀬――良佳…さん?」
想像していたよりも低く落ち着いた声が自分の名前を呼ぶ。
緊張で小刻みに震える手を握り、その声に彼女は顔を上げた―――。
そこには端正な顔立ちに、綺麗な黒髪の男―崎本 深澄―彼が立っていた。
お待たせしました。
活動再開です^^
ようやく二人が出会いますよ!